説明

線状体貯線装置

【課題】巻取機による線状体の巻取速度の変化に応じて線状体貯線装置の出側における線状体の張力、ひいては線状体貯線装置の出側及び入側における線状体の張力をそれぞれ一定に保つことができる線状体貯線装置を提供すること。
【解決手段】線状体貯線装置10は、回転駆動される固定シーブ支持軸13に軸受を介して回転自在に支持された固定シーブ14と、固定軸18に軸受を介して回転自在に支持されるとともに、前記固定シーブ14に対して近接・離隔自在に設けられた移動シーブ19と、前記移動シーブ19を前記固定シーブ14に対して離隔する方向に牽引する牽引ユニット21と、巻取機6による線状体2の巻取速度の変化に応じて前記固定シーブ14と前記巻取機6間の線状体2の張力を一定に保つように、前記巻取機6による線状体の巻取速度Vに基づいて前記固定シーブ支持軸13の回転数を制御する制御手段25〜27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば被覆電線製造ラインにおける引取機と巻取機との間に設置され、引取機から送られてきて巻取機へ送り込まれる線状体(被覆電線)を一時的に貯線するための線状体貯線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
線状体貯線装置(線状体用アキュームレータ)は、例えば被覆電線製造ライン(被覆電線製造装置)おける引取機と巻取機との間に設置され、満巻きとなった巻取ボビンを空の巻取ボビンに切換中に前記巻取機に引き続き送り込まれる電線を一時的に貯線するようにして、被覆電線製造ラインを停止させることなく連続運転することを目的として使用されるものである。
【0003】
従来、この種の装置として、特開昭58−212566号公報(特許文献1)に提案されたアキュームレータの張力調整装置が知られている。この張力調整装置は、アキュームレータの固定ホイール(固定シーブ)及び移動ホイール(移動シーブ)に巻き掛けられた電線に張力を与えるためのトルクモータと、このトルクモータの出力変化を検出する移動検出器と、この移動検出器の指令により電線の張力を一定とする側に前記トルクモータの駆動電圧を切り換える電圧調整器とを備えている。
【0004】
そして、この張力調整装置では、固定ホイールと移動ホイール間の電線の張力が一定になるようにしたものであり、アキュームレータに送り込まれる電線の速度をV、アキュームレータから引き出される電線の速度をVとすると、V=Vのときには、前記両ホイール間の電線にトルクモータによって予め設定された張力が与えられて、この張力が維持される。次いで、満巻きとなった巻取ボビンを空の巻取ボビンに切り換えるときのように、V>Vのときには、アキュームレータが貯線運転に切り換えられて、移動ホイールが固定ホイールから離間する方向へ移動し、このとき、トルクモータの出力トルクを減少させて、前記両ホイール間の電線の張力が増加することを防ぐようにしている。また、V<Vのときには、アキュームレータが放線運転(除線運転)に切り換えられて、移動ホイールが固定ホイールへ近づく方向へ移動し、このとき、トルクモータの出力トルクを増加させて、前記両ホイール間の電線の張力が減少することを防ぐようにしている。
【0005】
ここで、線状体貯線装置においては、線状体貯線装置に送り込まれる線状体の速度をV、該線状体の張力(線状体貯線装置の入側における線状体の張力)をT、線状体貯線装置から引き出される線状体の速度をV、該線状体の張力(線状体貯線装置の出側における線状体の張力)をTとすると、V=Vのとき(平衡時)には、TとTとはそれぞれ一定である(T≠T)。一方、貯線のため巻取速度Vを減速させてV>Vのときには、張力制御を行なわなければ、Tは平衡時より増加し、逆にTは平衡時より減少する。また、放線のため巻取速度Vを増速させてV<Vのときには、張力制御を行なわなければ、Tは平衡時より減少し、逆にTは平衡時より増加する。
【0006】
したがって、線状体貯線装置においては、平衡時、貯線時及び放線時という線状体の入出線状態にかかわらず、線状体貯線装置の入側における線状体の張力と出側における線状体の張力とを、それぞれ、張力変動を抑えて一定に保つようにすることが重要である。そして、この場合、線状体貯線装置においては、一般に、放線時(巻き戻し時)に、線状体貯線装置の出側での張力が大きくなることで、細い線状体、また、生産速度が速い線状体において線状体の線伸びが発生し易く、また、線状体貯線装置の入側での張力が小さくなることで、線状体貯線装置へ線状体を送る装置(線状体貯線装置の上流側の引取機)での線状体のスリップが発生し易い。
【0007】
さて、前述した特許文献1に提案されたアキュームレータの張力調整装置では、トルクモータの出力トルクを変化させて、アキュームレータの固定ホイールと移動ホイール間の電線の張力が一定になるようにしたものであるから、巻取機による線状体の巻取速度の変化に応じて(巻取速度の変化にかかわらず)アキュームレータの入側における電線の張力と出側における電線の張力とをそれぞれ一定に保つことが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−212566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、巻取機による線状体の巻取速度の変化に応じて線状体貯線装置の出側における線状体の張力、ひいては線状体貯線装置の出側及び入側における線状体の張力をそれぞれ一定に保つことができ、これにより、細く、また、生産速度が速い線状体でも線状体貯線装置の出側での該線状体の線伸びを防止するとともに、線状体貯線装置へ線状体を送る装置での線状体のスリップの発生を防止して、線状体製造ラインの安定運転が行えるようにした、線状体貯線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0011】
請求項1の発明は、巻取機の上流側に設置され、この設置位置の上流側から送られてきて前記巻取機へ送り込まれる線状体を一時的に貯線するための線状体貯線装置において、回転駆動される固定シーブ支持軸に軸受を介して回転自在に支持され、線状体を入出線するようにガイドする固定シーブと、固定軸に軸受を介して回転自在に支持されるとともに、前記固定シーブに対して近接・離隔自在に設けられ、線状体を貯線するようにガイドする移動シーブと、前記移動シーブを前記固定シーブに対して離隔する方向に牽引する牽引ユニットと、前記巻取機による線状体の巻取速度の変化に応じて前記固定シーブと前記巻取機間の線状体の張力を一定に保つように、前記巻取機による線状体の巻取速度に基づいて前記固定シーブ支持軸の回転数を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする線状体貯線装置である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の線状体貯線装置において、前記制御手段は、前記移動シーブの位置情報から前記巻取機による線状体の巻取速度について一定状態、減速状態、増速状態の各状態を判断し、線状体の巻取速度が一定状態のときには、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度と同一速度、あるいは当該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度となるように前記固定シーブ支持軸の回転数を制御し、線状体の巻取速度が減速状態のときには、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度から、あるいは当該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度から、前記移動シーブの移動加速度に応じた速度成分を減じた速度となるように、前記固定シーブ支持軸の回転数を制御し、線状体の巻取速度が増速状態のときには、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度に、あるいは当該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度に、前記移動シーブの移動加速度に応じた速度成分を加算した速度となるように、前記固定シーブ支持軸の回転数を制御することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1記載の線状体貯線装置において、前記制御手段は、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度と同一速度、あるいは該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度となるように前記固定シーブ支持軸の回転数を制御することを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の線状体貯線装置において、前記固定シーブが、複数個のシーブ片から構成されており、これらのシーブ片のうち、線状体出口と線状体入口間における線状体出口側から2/3の領域に位置する各シーブ片の軸受が、残りの領域に位置する各シーブ片の軸受よりも回転抵抗が大きいものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の線状体貯線装置は、線状体を入出線するようにガイドする固定シーブとして、固定軸に軸受を介して回転自在に支持されるものでなく、回転駆動される固定シーブ支持軸に軸受を介して回転自在に支持される固定シーブを備え、制御手段により、巻取機による線状体の巻取速度の変化に応じて前記固定シーブと前記巻取機間の線状体の張力を一定に保つように、巻取機による線状体の巻取速度に基づいて前記固定シーブ支持軸の回転数を制御するようにしている。
【0016】
したがって、固定シーブ支持軸の回転によって固定シーブにその軸受の回転抵抗を介して当該固定シーブと巻取機間の被覆電線の張力変動を抑制するように力を伝達することができ、その結果、巻取機による被覆電線の巻取速度の変化に応じて固定シーブと巻取機間の被覆電線の張力、ひいては線状体貯線装置へ線状体を送る装置と固定シーブ間の被覆電線の張力をそれぞれ一定に保つことができる。これにより、細く、また、生産速度が速い被覆電線でも固定シーブと巻取機間での線伸びを防止することができるとともに、固定シーブへ被覆電線を送る装置での被覆電線のスリップの発生を防止できて、被覆電線製造ラインの安定運転を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の線状体貯線装置を備えた被覆電線製造ライン(被覆電線製造)の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1における線状体貯線装置の構成を概略的に示す平面図である。
【図3】図2における固定シーブの要部を示す断面図である。
【図4】図2の線状体貯線装置における固定シーブ支持軸の回転制御を説明するための図である。
【図5】本発明の別の実施形態による線状体貯線装置の構成を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の線状体貯線装置を備えた被覆電線製造ライン(被覆電線製造)の構成を概略的に示す図である。
【0019】
図1に示すように、引取機5で引っ張られながら繰出機(図示せず)から繰出された電線1は、押出機3のクロスヘッドで絶縁用の樹脂が被覆されて被覆電線2となり、この被覆電線(線状体)2は、冷却水槽4で冷却されて、引取機5へ導かれる。そして、引取機5からの被覆電線2は、引取速度Vにて固定シーブ14及び移動シーブ19などを備えた後述する線状体貯線装置10へ送られてきて、この線状体貯線装置10を経て、巻取速度Vにて巻取機6へ送り込まれるようになっている。なお、巻取機6の巻取ドラム駆動軸には、当該巻取ドラムについて巻取開始からのドラム回転数を計測するエンコーダ25が取り付けられている。
【0020】
図2は図1における線状体貯線装置の構成を概略的に示す平面図、図3は図2における固定シーブの要部を示す断面図である。
【0021】
図2において、11は基台であり、この基台11の水平に細長く延びる上面にブラケットを介して電動モータ12が固定されている。この電動モータ12のモータ軸にカップリングを介して固定シーブ支持軸13が連結されている。
【0022】
14は、被覆電線2を入出線するようにガイドする固定シーブである。固定シーブ14は、軸受15aを有するシーブ片15を複数個有し、これら複数個のシーブ片15を互いに微小間隔で接近させて並べてなり、前記電動モータ12で回転駆動される前記固定シーブ支持軸13に前記軸受15aを介して回転自在に支持されている(図3参照)。前記の各シーブ片15は、転動ボールを有する軸受15aが装着された円環状ボス15bに円環状のシーブ片本体15cを固定してなり(図3参照)、シーブ片本体15cの外周部には、被覆電線2を案内するための図示しないV字状溝形成部(図2参照)が設けられている。
【0023】
また、前記基台11の上面には台車走行レール16が固定されており、この台車走行レール16に、駆動源なしの走行輪を有し、前記固定シーブ14に対して近接・離隔自在な移動台車17が装着されている。
【0024】
19は、軸受(図示せず)を有するシーブ片20を前記固定シーブ14と同数有し、これら複数個のシーブ片20を互いに微小間隔で接近させて並べてなり、被覆電線2を貯線するようにガイドする移動シーブである。移動シーブ19は、前記移動台車17に固定された固定軸18に回転自在に支持されており、これにより、前記固定シーブ14に対して近接・離隔自在となされている。
【0025】
21は、前記移動シーブ19を前記固定シーブ14に対して離隔する方向に定められた一定の力で牽引する牽引ユニットである。牽引ユニット21は、前記移動シーブ19を支持する前記移動台車17に一端側が接続されたワイヤロープ22と、ワイヤロープ22を巻き取るドラム23と、ドラム23を回転駆動させる牽引用電動モータ24とを備えている。なお、ドラム23のドラム駆動軸には、前記移動シーブ19の位置情報を得るためのエンコーダ26が取り付けられている。
【0026】
このように、前記の固定シーブ14、移動シーブ19、及び牽引ユニット21を備え、引取機5からの被覆電線2は、固定シーブ14及び移動シーブ19に交互に掛けられ、固定シーブ14の入口側シーブ片から入線して固定シーブ14と移動シーブ19間をその軸方向に沿って順々に移動しながら所定回数往復し、固定シーブ14の出口側シーブ片から出線して巻取機6へ導かれる。この場合、移動シーブ19は、牽引ユニット21によって一定の力で固定シーブ14に対して離隔する方向へ引っ張られている。したがって、被覆電線2の入出線が平衡している通常時(引取速度V=巻取速度V)には、移動シーブ19は所定の通常位置に静止しており、巻取機6での巻取ボビン交換のため、巻取速度を減速して引取速度V>巻取速度V(V=0を含む)となると、移動シーブ19が固定シーブ14に対して離隔する方向に移動して被覆電線2が貯線される。そして、巻取ボビン交換が終了し放線のため巻取速度を増速して引取速度V<巻取速度Vとなると、移動シーブ19が固定シーブ14に対して近接する方向に移動して前記一時的に貯線されていた被覆電線2が放線される。そして、放線が終了して通常の引取速度V=巻取速度Vとなると、移動シーブ19は通常位置に戻り静止する。
【0027】
27は、巻取機6による被覆電線2の巻取速度Vについて一定状態、減速状態、増速状態の各状態を判断し、これらの各状態にかかわらず固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線の張力Tが一定になるように、下記の(1)式で定められる回転数Nにて固定シーブ支持軸13を回転させるためのコントローラである。(1)式において、Dは固定シーブ14の直径、Aは0以上の定数、αは移動シーブ19の移動加速度、Kは正の定数である。なお、移動シーブ19の移動加速度αは、移動シーブ19が固定シーブ14に対して離隔する方向へ移動するとき正とし、固定シーブ14に対して近接する方向へ移動するとき負と設定されている。
【0028】
N=((V+A)/(D×π))×(1−α×K) …(1)
【0029】
このコントローラ27は、巻取機6の巻取ドラム駆動軸に取り付けられた前記エンコーダ25から、当該巻取ドラムについての巻取開始からのドラム回転数を所定の短い時間間隔で読込み、その都度、巻取機6による被覆電線2の巻取速度Vを算出する。また、コントローラ27は、牽引ユニット21のドラム23のドラム駆動軸に取り付けられた前記エンコーダ26から、移動シーブ19の位置情報を所定の短い時間間隔で読込み、その都度、その位置情報を微分処理して移動シーブ19の移動速度Sを算出し、この移動速度Sから被覆電線2の巻取速度Vについて一定状態(V=0を含む)、減速状態、増速状態の各状態を判断し、さらに、この移動速度Sを微分処理して移動シーブ19の移動加速度αを算出する。
【0030】
そして、コントローラ27は、算出された巻取速度V及び移動シーブ19の移動加速度α(被覆電線2の巻取速度Vが一定状態のときはα=0)を用いて前記(1)式で定められる固定シーブ支持軸13の回転数Nを算出し、この回転数Nにて固定シーブ支持軸13を回転させるものである。このコントローラ27及び前記エンコーダ25,27は、巻取機6による被覆電線2の巻取速度Vの変化に応じて固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線の張力Tが一定になるように、巻取機による被覆電線2の巻取速度Vに基づいて固定シーブ支持軸13の回転数Nを制御する制御手段を構成している。
【0031】
以下、このように構成される線状体貯線装置10の動作について、図2,図4を参照して説明する。図4は図2の線状体貯線装置における固定シーブ支持軸の回転制御を説明するための図である。
【0032】
被覆電線製造ラインの運転に際し、図4の(a)に示すように、被覆電線2の巻取速度Vは、引取速度Vに対して変化し、巻取速度V=引取速度Vである通常状態から、巻取速度V<引取速度Vとなる貯線状態(巻取速度V=0を含む)となり、次いで、巻取速度V>引取速度Vとなる放線状態となり、その後、巻取速度V=引取速度Vである通常状態に戻ることとなる。
【0033】
そして、このように引取速度Vに対して巻取速度Vが変化することに伴い、前述したように移動シーブ19が移動して、移動シーブ19の位置は、図4の(d)に示すように変化する。また、移動シーブ19の移動速度Sは、図4の(c)に示すように変化し、移動シーブ19の移動加速度αは、図4の(b)に示すように変化することとなる。
【0034】
そして、コントローラ27は、被覆電線2の巻取速度Vが一定状態のとき(α=0)には、固定シーブ14の周速(N×D×π)が、被覆電線2の巻取速度Vと同一速度(V)、あるいは当該巻取速度Vより予め定められた一定値だけ大きい速度(V+A)となるように固定シーブ支持軸13の回転数Nを算出し、この回転数Nにて固定シーブ支持軸13を回転させる。
【0035】
これにより、被覆電線2の巻取速度Vが一定状態のときには、固定シーブ14がその巻取速度Vに同調して回転されることで、固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2に張力変動が生じることが抑制される。同時に、この結果、引取機5と固定シーブ14間の被覆電線2に張力変動が生じることが抑制される。
【0036】
また、コントローラ27は、被覆電線2の巻取速度Vが減速状態のときには、固定シーブ14の周速(N×D×π)が、被覆電線2の巻取速度Vから、あるいは当該巻取速度Vより予め定められた一定値だけ大きい速度(V+A)から、移動シーブ19の移動加速度αに応じた速度成分を減じた速度(V−V×α×K、あるいは、(V+A)−(V+A)×α×K)となるように固定シーブ支持軸13の回転数Nを算出し、この回転数Nにて固定シーブ支持軸13を回転させる。
【0037】
これにより、被覆電線2の巻取速度Vが減速状態のときには、被覆電線2が通ることで回転している固定シーブ14にその軸受15aの回転抵抗を介して制動力が伝達されることで、固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2の張力Tが減少することが抑制されて、固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2の張力Tが一定に保持される。同時に、この結果、引取機5と固定シーブ14間の被覆電線2の張力Tが増加することが抑制されて、引取機5と固定シーブ14間の被覆電線2の張力Tが一定に保持される。
【0038】
また、コントローラ27は、被覆電線2の巻取速度Vが増速状態のときには、固定シーブ14の周速(N×D×π)が、被覆電線2の巻取速度Vに、あるいは当該巻取速度Vより予め定められた一定値Aだけ大きい速度に、移動シーブ19の移動加速度αに応じた速度成分を加算した速度(V+V×α×K、あるいは、(V+A)+(V+A)×α×K)となるように固定シーブ支持軸13の回転数Nを算出し、この回転数Nにて固定シーブ支持軸13を回転させる。
【0039】
これにより、被覆電線2の巻取速度Vが増速状態のときには、被覆電線2が通ることで回転している固定シーブ14にその軸受15aの回転抵抗を介して付勢力が伝達されることで、固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2の張力Tが増加することが抑制されて、固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2の張力Tが一定に保持される。同時に、この結果、引取機5と固定シーブ14間の被覆電線2の張力Tが減少することが抑制されて、引取機5と固定シーブ14間の被覆電線2の張力Tが一定に保持される。
【0040】
このように、この実施形態による線状体貯線装置10は、固定シーブとして、固定軸に軸受を介して回転自在に支持されるものでなく、電動モータ12で回転駆動される固定シーブ支持軸13に軸受15aを介して回転自在に支持される固定シーブ14を備え、制御手段25,26,27により、移動シーブの移動加速度αを加味しての巻取機6による被覆電線2の巻取速度Vに基づいて固定シーブ支持軸13の回転数を制御するようにしている。
【0041】
したがって、固定シーブ支持軸13の回転によって固定シーブ14にその軸受15aの回転抵抗を介して当該固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2の張力変動を抑制するように力を伝達することができ、その結果、巻取機6による被覆電線2の巻取速度Vの変化に応じて固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2の張力T、ひいては引取機5と固定シーブ14間の被覆電線2の張力Tをそれぞれ一定に保つことができる。これにより、細く、また、生産速度が速い被覆電線2でも固定シーブ14と巻取機6間での線伸びを防止することができるとともに、固定シーブ14へ被覆電線2を送る引取機5での該被覆電線2のスリップの発生を防止できて、被覆電線製造ラインの安定運転を行なうことができる。
【0042】
図5は本発明の別の実施形態による線状体貯線装置の構成を概略的に示す平面図である。この実施形態による線状体貯線装置10’は、前記コントローラ27とは機能が異なるコントローラ28を備える一方、前記エンコーダ26を備えていないこと以外は、前記第1実施形態による線状体貯線装置10と同一構成なので、両者の共通する部分に同一の符合を付して説明を省略し、異なる点について説明する。
【0043】
図5において、28は、下記の(2)式で定められる回転数Nにて固定シーブ支持軸13を回転させるためのコントローラである。
【0044】
N=(V+A)/(D×π) …(2)
【0045】
すなわち、コントローラ28は、被覆電線2の巻取速度Vが一定状態、減速状態、増速状態にかかわらず、固定シーブ14の周速(N×D×π)が、被覆電線2の巻取速度Vと同一速度(V)、あるいは当該巻取速度Vより予め定められた一定値だけ大きい速度(V+A)となるように固定シーブ支持軸13の回転数Nを算出し、この回転数Nにて固定シーブ支持軸13を回転させるようにしている。
【0046】
このように、固定シーブ支持軸13を巻取速度Vに同調して回転させることで、被覆電線2の線伸びが多発しやすい放線時において巻取速度Vが増加するときに、固定シーブ14と巻取機6間の被覆電線2の張力Tが増加することを抑制することができ、被覆電線2の線伸びを防止することができる。
【0047】
なお、前記(2)式において、巻取速度V<引取速度Vのときには、N=(V+A)/(D×π)とし、巻取速度V≧引取速度Vのときには、N=(V+A)/(D×π)として、固定シーブ支持軸13を回転させるようにしてもよい。
【0048】
次に、前記の線状体貯線装置10,10’においては、前記固定シーブ14が、当該固定シーブを構成する複数個のシーブ片のうち、被覆電線出口と被覆電線入口間における被覆電線出口側から2/3の領域に位置する各シーブ片の軸受が、残りの領域に位置する各シーブ片の軸受よりも回転抵抗が大きいものであることがよい。例えば、12個のシーブ片のうち、被覆電線出口と被覆電線入口間における被覆電線出口側から2/3の領域に位置する8個のシーブ片の軸受が、硬いグリースを用いるなどして、残りの領域に位置する4個のシーブ片の軸受よりも回転抵抗が大きいものとされている。
【0049】
一般に、固定シーブでは、被覆電線出口の近くに位置するシーブ片ほどその回転速度の加減速が激しく、被覆電線入口に位置するシーブ片は回転速度の加減速がない。したがって、前記のような固定シーブによると、固定シーブ支持軸の回転によって当該固定シーブにその軸受の回転抵抗を介して当該固定シーブと巻取機間の被覆電線2の張力変動を抑制するための力をより効果的に伝達することができる。
【符号の説明】
【0050】
2…被覆電線 3…押出機 4…冷却水槽 5…引取機 6…巻取機
10,10’…線状体貯線装置
11…基台
12…電動モータ 13…固定シーブ支持軸 14…固定シーブ
15…シーブ片 15a…軸受 15b…円環状ボス 15c…シーブ片本体
16…台車走行レール
17…移動台車 18…固定軸 19…移動シーブ 20…シーブ片
21…牽引ユニット
22…牽引用電動モータ 23…ドラム 24…ワイヤロープ
25,26…エンコーダ
27,28…コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取機の上流側に設置され、この設置位置の上流側から送られてきて前記巻取機へ送り込まれる線状体を一時的に貯線するための線状体貯線装置において、
回転駆動される固定シーブ支持軸に軸受を介して回転自在に支持され、線状体を入出線するようにガイドする固定シーブと、固定軸に軸受を介して回転自在に支持されるとともに、前記固定シーブに対して近接・離隔自在に設けられ、線状体を貯線するようにガイドする移動シーブと、前記移動シーブを前記固定シーブに対して離隔する方向に牽引する牽引ユニットと、前記巻取機による線状体の巻取速度の変化に応じて前記固定シーブと前記巻取機間の線状体の張力を一定に保つように、前記巻取機による線状体の巻取速度に基づいて前記固定シーブ支持軸の回転数を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする線状体貯線装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記移動シーブの位置情報から前記巻取機による線状体の巻取速度について一定状態、減速状態、増速状態の各状態を判断し、線状体の巻取速度が一定状態のときには、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度と同一速度、あるいは当該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度となるように前記固定シーブ支持軸の回転数を制御し、線状体の巻取速度が減速状態のときには、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度から、あるいは当該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度から、前記移動シーブの移動加速度に応じた速度成分を減じた速度となるように、前記固定シーブ支持軸の回転数を制御し、線状体の巻取速度が増速状態のときには、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度に、あるいは当該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度に、前記移動シーブの移動加速度に応じた速度成分を加算した速度となるように、前記固定シーブ支持軸の回転数を制御することを特徴とする請求項1記載の線状体貯線装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記固定シーブの周速が、線状体の巻取速度と同一速度、あるいは該巻取速度より予め定められた一定値だけ大きい速度となるように前記固定シーブ支持軸の回転数を制御することを特徴とする請求項1記載の線状体貯線装置。
【請求項4】
前記固定シーブが、複数個のシーブ片から構成されており、これらのシーブ片のうち、線状体出口と線状体入口間における線状体出口側から2/3の領域に位置する各シーブ片の軸受が、残りの領域に位置する各シーブ片の軸受よりも回転抵抗が大きいものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の線状体貯線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131605(P2012−131605A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284760(P2010−284760)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】