線維芽細胞からの誘導多能性幹細胞および前駆細胞の作製法
本開示は、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現するか、またはPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞を提供する工程、および多能性状態を経ることなく前駆細胞の作出を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程を含む、造血または神経前駆細胞などの前駆細胞を、皮膚線維芽細胞などの線維芽細胞から作製する方法を提供する。Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞を提供する工程、および前記レポーターに関して陽性である細胞を単離する工程を含む、再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法も提供する。さらに、再プログラミングされた線維芽細胞由来誘導多能性幹細胞を作製する方法を提供する。本開示の方法によって作出される細胞の使用およびアッセイも提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年10月29日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第61/256,170号の優先権の恩典を主張し、その内容は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【0002】
開示の分野
本開示は線維芽細胞の再プログラミングに関する。特に本開示は、線維芽細胞に由来する前駆細胞および誘導多能性幹細胞を作製する方法、およびその方法によって作出された細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
いくつかのグループが、Oct-4を他の因子と共に形質導入した後に、ヒト線維芽細胞を誘導多能性幹細胞(iPSC)に再プログラミングすることができることを実証している(Takahashi et al.,2007;Takahashi and Yamanaka,2006;Yu et al.,2007)。例えば皮膚線維芽細胞は、Oct-4(POU5F1)、Sox-2、Klf-4、c-Myc、Nanog、およびLin28を含む多能性因子のカクテルの異所性発現によって、多能性状態に再プログラミングすることができる(Takahashi et al.,2007;Yu et al.,2007)。さらなる研究により、Oct4を別にすれば、これらの因子の大部分は、ユニークな幹/前駆細胞の使用によって(Heng et al.;Aasen et al.2008;Eminli et al.2008;Eminli et al.2009;Kim et al.2009)、あるいは皮膚線維芽細胞源のエピゲノムを標的とする化学薬品の添加によって(Shi et al.2008;Lyssiotis et al.2009)、排除できることが示された。これらの研究は、iPSCを作製するためのアプローチおよび方法がいくつかあることを実証しているが、多能性状態への再プログラミングの基礎をなす細胞機序および分子機序は、まだ大部分が不明なままである(Jaenisch and Young,2008)。iPSCは血液細胞運命へと分化することができるが、その結果生じる造血細胞は、胚性プログラムを利用する原始血液細胞を優先的に生成する。その上、これらの方法は今なお非効率的であり、そのことが、移植または血液病のモデル化を意図することを困難にしている(Lengerke and Daley, 2010)。これらのプロセスの特徴づけは、おそらくは完全な多能性誘導にとって理想的な再プログラミング因子の正しい組合せ、化学量論、または発現レベルを達成できないせいで安定な多能性状態を樹立することができない細胞中間体により、さらに複雑になる(Chan et al.,2009;Kanawaty and Henderson,2009;Lin et al.,2009;Mikkelsen et al.,2008)。この考えと合致して、線維芽細胞に由来する中間体細胞は、いくつかの分化した系譜(ニューロン、表皮、および中胚葉)に関連する遺伝子を共発現することが示されているが(Kanawaty and Henderson,2009;Mikkelsen et al.,2008)、それでもなお、これらの細胞の正確な実体と分化能は不明なままである。このことから、線維芽細胞をニューロン、心筋細胞、およびマクロファージ様細胞などの特殊な細胞タイプへと転換することによって最近実証されたように(Feng et al.,2008;Ieda et al.,2010;Vierbuchen et al.,2010)、転写因子の小さなサブセットを発現する線維芽細胞は、ユニークな条件下で、多能性を獲得することなく、指定された系譜に分化するように誘導されうるという可能性が生まれる。これらの研究はマウスモデルにおいて線維芽細胞転換を調べたものであるが、この概念をヒトに応用するために外挿することは、まだなされていない。
【0004】
以前の研究により、POUドメインを含有するタンパク質、例えばOct-4は、Oct-2(POU2F2)およびOct-1(POU2F1)と共に、類似するDNAターゲットモチーフと結合することが示されている(Kang et al.,2009)。Oct-2とOct-1はどちらも造血発生において役割を果たすが(Brunner et al.,2003;Emslie et al.,2008;Pfisterer et al.,1996)、Oct-4はまだこのプロセスに関係づけられていない。それでも、最近の研究により、Oct-4は造血遺伝子Runx1およびCD45のプロモーターに結合する能力を有することが予想されているので、おそらくそれらの発現を調節するのだろう(Kwon et al.,2006;Sridharan et al.,2009)。結合および調節の類似性にもかかわらず、Octファミリーの個々のファミリーメンバーの正確な機能的役割は、細胞コンテクスト特異的であると思われる(Kang et al.,2009;Pardo et al.,2010)。
【0005】
ヒト皮膚線維芽細胞から多能性幹細胞を作製することができれば、複雑な遺伝子疾患モデルの作製が可能になり、免疫拒絶の懸念がない自家移植のための従来にない供給源が提供される(Takahashi and Yamanaka 2006;Hanna et al.2007;Yu et al.2007;Okita et al.2008;Park et al.2008;Park et al.2008b;Soldner et al.2009)。
【0006】
さまざまな体細胞タイプを再プログラミングすることができるが、再プログラミングプロセスを支配する機序を特徴づけようとする研究の大部分は、線維芽細胞を利用している(Takahashi and Yamanaka 2006;Takahashi et al.2007;Wernig et al.2007;Yu et al.2007;Aoi et al.2008;Brambrink et al.2008;Eminli et al.2008;Hanna et al.2008;Huangfu et al.2008;Lowry et al.2008;Stadtfeld et al.2008;Zhou et al.2008;Carey et al.2009;Feng et al.2009;Gonzalez et al.2009;Guo et al.2009;Kaji et al.2009;Utikal et al.2009;Woltjen et al.2009;Yusa et al.2009;Zhou et al.2009)。したがって、再プログラミングの分子機序と細胞的性質に関する現在の理解は、ほとんどもっぱら線維芽細胞に基づく再プログラミングに由来している。線維芽細胞は真皮(dermal skin)を含む複数の組織部位から作製することができるが、実験に使用された線維芽細胞の起源および組成については、ほとんど知られていない。
【0007】
多能性状態への細胞の再プログラミングは、最初は、インビトロ培養哺乳動物線維芽細胞を使って実証された(Takahashi and Yamanaka 2006)。現在までに、肝臓、膵臓、腸、胃、脂肪、メラノサイト、および造血供給源を含むいくつかの他の組織由来細胞から(Aoi et al.2008;Hanna et al.2008;Zhou et al.2008;Eminli et al.2009;Sun et al.2009;Utikal et al.2009)、がん遺伝子c-mycおよびklf4を含むさまざまな転写因子を使って(Takahashi and Yamanaka 2006;Takahashi et al.2007;Aasen et al.2008;Hanna et al.2008;Park et al.2008;Eminli et al.2009;Hanna et al.2009;Woltjen et al.2009;Zhao et al.2009)、iPSCが導出されている。現在のところ、再プログラミングプロセスは今なお非効率的であるが、幹/前駆細胞増殖能力を既に持っている初期細胞タイプを利用することによって(Kim et al.2009;Eminli et al.2008;Eminli et al.2009)、またはp53/p21などの細胞周期進行の阻害因子をノックダウンすることで細胞周期状態を増進することによって(Kawamura et al.2009;Li et al.2009;Utikal et al.2009)、増進することができる。しかし、細胞周期調節因子の改変やがん遺伝子導入は、制御されない成長および腫瘍形成のリスクを増加させるので、将来のヒトへの治療的応用に潜在的な安全性の懸念を生じる(Lebofsky and Walter 2007;Okita et al.2007;Nakagawa et al.2008;Markoulaki et al.2009)
【発明の概要】
【0008】
開示の概要
本発明者らはヒト皮膚線維芽細胞を使って、線維芽細胞の造血細胞(CD45+細胞)への直接転換を研究すると共に、線維芽細胞の誘導多能性幹細胞への再プログラミングを研究した。
【0009】
したがって、ある態様において、本開示は、
a)POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現するか、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞を提供する工程;および
b)多能性状態を経ることなく前駆細胞の作出を可能にする条件下で、工程(a)の細胞を培養する工程
を含む、線維芽細胞から前駆細胞を作製する方法を提供する。
【0010】
ある態様では、POUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、POUドメインを含有する内在性の遺伝子またはタンパク質の過剰発現、またはPOUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質の異所性発現を含む。ある態様では、線維芽細胞が、追加的に、NanogまたはSox-2を過剰発現または異所性発現しないか、NanogまたはSox-2で処理されない。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、POUドメインを含むベクターを線維芽細胞にトランスフェクトまたは形質導入することによって作出される。ある態様では、POUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される。ある態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質が、Oct-1、-2、-4または-11である。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質がOct-4である。POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質には、機能的変異体およびそのフラグメント、ならびに小分子ミメティックが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0011】
前駆細胞の作出を可能にする条件は当技術分野において公知であり、培養期間が15〜25日間、任意で21日間のコロニー形成アッセイが含まれるが、それに限定されるわけではない。もう一つの態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。さらにもう一つの態様では、前駆細胞が造血前駆細胞であり、条件は造血条件である。さらなる一態様では、前駆細胞が神経前駆細胞であり、条件は神経条件である。
【0012】
もう一つの態様では、上記の方法が、工程(b)において作出された細胞を、分化細胞の作出を可能にする条件下で分化培地において培養する工程を、さらに含む。そのような条件には、細胞を培地中で10〜21日、任意で16日の培養期間、培養することを含む。ある態様では、分化培地が、Flt3リガンド、SCFおよび/またはEPOなどの造血サイトカインを含む造血培地である。ある態様では、分化造血細胞が、単球または顆粒球などの骨髄芽球系譜の細胞である。もう一つの態様では、分化造血細胞が、赤血球系譜または巨核球系譜の細胞である。もう一つの態様では、分化培地が、線維芽細胞成長因子および上皮成長因子が補なわれた神経基礎培地を含む神経培地である。ある態様では、分化神経細胞がニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはアストロサイトを含むグリア細胞である。
【0013】
本明細書では、本明細書に記載する方法によって作製される単離された前駆細胞および分化細胞、ならびに生着および移植のための前記細胞の使用も提供される。造血前駆細胞は、血液、細胞性および非細胞性血液構成要素、血液製剤および造血細胞の供給源としても有用である。
【0014】
本明細書では、
a)本明細書に記載する方法によって前駆細胞またはそれに由来する細胞の培養物を調製する工程;
b)a)の細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された前駆細胞またはそれに由来する細胞を分析に供する工程
を含むスクリーニングアッセイが、さらに提供される。
【0015】
ある態様では、前駆細胞が、試験剤で処理する前に分化している。
【0016】
もう一つの局面では、
a)Oct-4レポーターを過剰発現する線維芽細胞を提供する工程;および
b)前記レポーターに関して陽性である細胞を単離する工程
を含む、増加した再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法が提供される。
【0017】
ある態様では、レポーター遺伝子が蛍光タンパク質(例えばGFP)を含み、工程(b)では、細胞がその蛍光の検出によって単離される。もう一つの態様では、レポーター遺伝子が、例えばピューロマイシンなどに対する抗生物質耐性を付与する遺伝子をコードし、細胞が抗生物質の存在下における生残によって単離される。ある態様では、Oct-4レポーター遺伝子を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。もう一つの態様では、線維芽細胞が包皮線維芽細胞である。
【0018】
本開示はさらに、
a)(i)Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団および(ii)線維芽細胞の混合集団またはOct-4陰性線維芽細胞の集団を提供する工程;
b)a)の細胞をOct-4、Nanog、Sox2およびLin28で処理する工程;および
c)b)の処理細胞を、iPS細胞の作出を可能にする条件下で培養する工程
を含む、再プログラミングされた線維芽細胞由来の誘導多能性幹(iPS)細胞を、より高い効率で作製する方法を提供する。
【0019】
上記の方法は、任意で、未分化幹細胞のマーカー、例えばTRA-1-60、SSEA-3、Sox2、Nanog、SSEA4、TRA-1-81、IGF1受容体、コネキシン43、E-カドヘリン、アルカリホスファターゼ、REX1、CRIPTO、CD24、CD90、CD29、CD9およびCD49fなどを発現する細胞を分析し、選択する工程を、さらに含む。ある特定態様では、TRA-1-60および/またはSSEA-3の発現について、細胞が選択される。
【0020】
ある態様では、Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団が、本明細書において述べるように、再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法によって作出される。ある態様では、(a)におけるi)の細胞とii)の細胞の比が、50:50、25:75または10:90である。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。
【0021】
本明細書では、本明細書に記載する方法によって作製された、単離された誘導多能性幹細胞およびそこから分化した細胞、ならびに生着、移植のための、および誘導多能性幹細胞の供給源としての、前記細胞の使用も提供される。
【0022】
さらに本明細書では、
a)本明細書に記載する方法によって誘導多能性幹細胞の培養物またはそこから分化した細胞を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理細胞を分析に供する工程
を含む、スクリーニングアッセイが提供される。
【0023】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明白になるであろう。ただし、詳細な説明および具体的例は、本開示の好ましい態様を示すものではあるが、単なる例示にすぎない。なぜなら、この詳細な説明から、本開示の要旨および範囲に包含されるさまざまな改変および変更が、当業者には明白になるだろうからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下、図面に関連して、本開示を説明する。
【図1】Oct-4形質導入ヒト成体皮膚線維芽細胞および胎児線維芽細胞が、CD45+veコロニーを生じさせることを示す図。a.形質導入後21日目(D21)における非形質導入(Fibs)およびOct-4形質導入(FibsOct-4)、Sox-2形質導入(FibsSox-2)またはNanog形質導入(FibsNanog)Fibs、非形質導入胎児線維芽細胞(胎児Fibs)およびOct-4形質導入胎児Fibs(胎児FibsOct-4)の代表的明視野像(コロニー-破線および矢印)(n=6)。b.Fibs、胎児Fibs、FibsOct-4、FibsSox-2およびFibsNanog、胎児FibsOct-4におけるSox-2、NanogおよびOct-4の相対的遺伝子発現量を、樹立されたiPSCにおけるこれらの遺伝子の発現量と比較したもの(n=3、*p<0.001)。c.FibsOct-4および胎児FibsOct-4におけるCD45レベルの代表的FACSプロットを、非形質導入Fibsまたは非形質導入胎児Fibs、FibsSox-2またはFibsNanog(n=6)と比較したもの。
【図2】a.FibsおよびソートしたCD45+FibsOct-4におけるCD45+ve細胞出現の過程に沿った線維芽細胞特異的マーカー発現に基づく網羅的遺伝子解析、b.21日目(D21)におけるFibs、胎児Fibs、およびFibsOct-4または胎児FibsOct-4+/-Flt3およびSCFの代表的明視野像(n=6)、c.21日目(D21)におけるFibs、胎児Fibs、およびFibsOct-4または胎児FibsOct-4+/-SCFおよびFlt-3におけるコロニーの数え上げ(コロニー-白い矢印;n=6;*p<0.001)、d.FibsおよびソートしたCD45+FibsOct-4の多能性遺伝子シグネチャーを示す図。
【図3】Oct-4形質導入ヒト皮膚線維芽細胞が多能性をバイパスすることを示す図。FibsおよびFibsOct-4+/-SCFおよびFlt-3ならびにOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28を形質導入したFibsにおける、hiPSC派生の31日間の時系列に沿った、a.SSEA3レベルおよびb.Tra-1-60レベルの定量的分析(n=3)。c.中胚葉、内胚葉および外胚葉を示すhiPSCに由来する奇形腫、ならびにFibsおよびFibsOct-4+/-Flt3およびSCFからの奇形腫の欠如を表す精巣切片(対照-食塩水注入)。
【図4】造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性Fibsによる骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。a.Oct-4形質導入CD45+ve Fibs(CD45+FibsOct-4)の単離と、その後の造血サイトカイン処理、続いて行われるインビトロおよびインビボ分析を表す図解。インビトロ分析はコロニー形成単位(CFU)アッセイおよびFACS分析を含み、インビボ分析は、NOD/SCID IL2Rγcヌル(NSG)マウスを用いる造血再構成アッセイである。b.CD45+FibsOct-4に由来する骨髄系細胞(CD45+CD13+およびCD13+CD33+細胞)のFACS分析(n=6)。c.単球(CD45+CD14+細胞)の代表的FACSプロット、およびd.CD45+FibsOct-4に由来する特色のある核形態(白い矢印)を有する単球の対応するGiemsa-Wright像(n=6)。e.Fibs(ビーズなし)との比較でCD45+FibsOct-4集団におけるマクロファージの存在を示すFITC標識ラテックスビーズ取り込みの代表的FACSプロット。上側のグラフは、CD45+FibsOct-4およびFibsによるFITC標識ラテックスビーズ取り込みの定量的分析を示す(n=3)。f.マクロファージの代表的Giemsa-Wright染色像およびマクロファージが取り込んだFITCビーズ(白い矢印)の免疫蛍光像。g.CD45+FibsOct-4(n=6)に由来する顆粒球(CD45+CD15+細胞)の代表的FACSプロット。h.好中球、好酸球および好塩基球(特徴的な核形態-白い矢印)を含むGiemsa-Wright染色CD45+CD15+顆粒球(n=6)。i.CD45+FibsOct-4造血サイトカイン処理細胞は造血前駆細胞(CD45+CD34+細胞)を生じさせる(n=9)。j.成体皮膚または胎児包皮CD45+ve細胞に由来する顆粒球(CFU-G)、単球(CFU-M)コロニー形成単位(CFU)の代表的な像(20×)。k.成体皮膚Fibs、胎児包皮Fibsおよび臍帯血(UCB)に由来する1000個のソートCD45+CD34+細胞からの顆粒球(CFU-G)、単球(CFU-M)ならびに混合顆粒球および単球(CFU-GM)CFU形成の定量(n=3)。l.成体および胎児CD45+FibsOct-4細胞ならびにUCB由来造血前駆細胞におけるCFU形成頻度(n=3;*p<0.001)。
【図5】CD45+FibsOct-4細胞のインビボ再構成能力を示す図。a.成体NOD/SCID IL2RγcヌルマウスへのCD45+ve細胞の一次および二次注入ならびにそれらに続く生着細胞の分析に使用した、異種移植モデルの概略図。b.サイトカインで処理したCD45+FibsOct-4細胞の大腿骨内注入後10週目におけるヒトキメラ化を表すグラフ(n=12)。c.食塩水注入マウスとの比較で生着マウスにおけるCD45+veおよびCD14+ve集団の存在を示す生着CD45+FibsOct-4細胞(HLA A/B/C+ve細胞)の代表的FACSヒストグラム(n=12)。d.臍帯血(UCB)由来前駆細胞および動員末梢血(M-PB)細胞の大腿骨内注入後10週目におけるヒトキメラ化を表すグラフ(n=4)。e.CD45+veおよびCD14+ve集団(n=4)の存在を示す生着UCBおよびM-PB細胞の代表的FACSヒストグラム。f.UCBとの比較で生着CD45+FibsOct-4細胞に由来するマウス細胞枯渇CD45+ve細胞1000個あたりのコロニー形成能力(n=3)。
【図6】CD45+FibsOct-4細胞が、EPO処理後に赤血球系譜および巨核球系譜を再構成できることを示す図。a.Fibs、CD45+FibsOct-4細胞、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞における赤芽球マーカーCD71レベルの代表的FACSヒストグラム(n=3)。b.Fibs、CD45+FibsOct-4、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞におけるグリコホリンA(赤血球マーカー)レベルの代表的FACSヒストグラム(n=3)。c.Fibs、CD45+FibsOct-4、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞における成体型グロビン、ベータ-グロビンレベルの代表的FACSヒストグラム(上側の図は分化したヒト多能性幹細胞(hPSC)のFACS分析である)(n=3)。d.Fibs、CD45+FibsOct-4細胞、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞における胚型グロビン(ゼータ)、胎児型グロビン(イプシロン)および成体型グロビン(ベータ)の相対的mRNA発現量(n=3;*p<0.001)。e.原始(黒い矢印)および成熟(白い矢印)赤血球形態を示すGiemsa-Wright染色EPO処理CD45+FibsOct-4細胞。f.EPO処理した成体および胎児線維芽細胞由来CD45+FibsOct-4細胞の代表的CFU像(20×;n=3)。(赤芽球バースト形成単位(Erythroid blast forming unit)-BFU-E;顆粒球コロニー形成単位-CFU-G;単球コロニー形成単位-CFU-M;全ての系譜を含有するコロニー形成単位-CFU-Mix)。g.UCBと比較した、成体および胎児Fibs、CD45+FibsOct-4、ならびにEPOで処理したまたはEPOで処理していないCD45+FibsOct-4細胞における、CFU形成の定量的分析(n=3)。h.Fibs(左側)、またはEPOで処理した(右側)もしくはEPOで処理していない(左側)CD45+FibsOct-4細胞に由来する、代表的な巨核球CFU(CFU-Mk)像(CD41+ve細胞)(20×)(n=3)。i.巨核球CFU形成の定量的表現(右側、n=3;*p<0.001)。
【図7】Oct-4形質導入がヒト皮膚線維芽細胞における造血プログラムの活性化をもたらすことを示す図。a.ヒトiPSCからの造血分化と比較した、CD45+ve細胞出現の時間経過(0日目(D0)、4日目(D4)、21日目(D21)および37日目(D37))に沿った、FibsにOct-4のみを形質導入した後の造血細胞運命転換に関する提唱モデル。CD45+ve細胞出現の経過に沿った、すなわち、Fibs(D0)、ピューロマイシン選択4日目FibsOct-4(D4)、およびソートしたCD45+FibsOct-4(D21)における、線維芽細胞特異的マーカー発現(b)、多能性シグネチャー(c)、造血サイトカイン(d)および造血転写因子(e)に基づく網羅的遺伝子培養(global gene culturing)。f.D21におけるソートCD45+FibsOct-4細胞およびD37における造血サイトカイン処理ソートCD45+FibsOct-4細胞と比較した、Fibs(D0)における中胚葉遺伝子(GATA2、ブラキュリ(Brachyury))、造血特異的遺伝子(SCL、MixL1、Runx1、GATA1、PU.1およびC/EBPα)および多能性遺伝子(Oct-4、Sox-2およびNanog)の相対的mRNA発現解析(n=4、*p<0.001)。g.CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った、すなわち、Fibs(D0)、ピューロマイシン選択4日目FibsOct-4(D4)、ソートしたCD45+FibsOct-4細胞(D21)および造血サイトカイン処理ソートCD45+FibsOct-4細胞(D37)における、POU遺伝子ファミリー(Oct-4-POU5F1を含む)の遺伝子発現プロファイル。h.Oct-4、Oct-1およびOct-2が占有することのできる公知のネイティブ(SEQ ID NO:1)および予想オクタマー(SEQ ID NO:2)(POUドメイン)結合配列の概略図(Nは任意のヌクレオチド(A、T、CまたはG)であることができる;星印と下線を付した領域は、コア保存オクタマー結合領域を表す)。i.右側-hFib対照と比較した、CD45+ve細胞出現の経過に沿った、造血特異的遺伝子SCL、Runx1、CD45、GATA1、PU.1、Oct-2およびC/EBPαプロモーターまたはエンハンサー領域の相対的Oct-4占有(n=3;*p<0.001)。j.右側-hFib対照と比較した、CD45+ve細胞出現の経過に沿った、非造血遺伝子Gadd45a、Pol2ra、Myf5およびNkx2.5の相対的Oct-4占有(n=3;*p<0.001)。k.右側-hFib対照と比較した、CD45+ve細胞出現の経過に沿った、多能性遺伝子Oct-4、Sox-2、Tbx3およびc-Mycプロモーター領域の相対的Oct-4占有(n=3;*p<0.001)。i〜k.左側-ネイティブまたは予想オクタマー結合領域(黒い箱)に対する解像度500〜1000bpでの設計されたプライマー(矢印)の近接。多能性幹細胞-hPSC;線維芽細胞-Fibs(D0);ピューロマイシン選択4日目Oct-4形質導入hFibs-4日目FibsOct-4(D4)、およびOct-4形質導入CD45+ve細胞-CD45+FibsOct-4(D21)。
【図8】Oct-4、Nanog、Sox-2およびLin-28を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞(Fibs)に由来するiPSCの特徴づけを示す図。a.Oct-4、Nanog、Sox-2およびLin-28を形質導入したヒトFibsに由来するiPSCコロニー(破線および矢印)の代表的な像(20×)。b.iPSCにおける多能性マーカーSSEA-3、Tra1-60、Oct-4およびSSEA-4の代表的FACSプロット(n=4)。c.免疫不全マウス(NOD/SCID)へのiPSCの精巣内注入は、3つ全ての胚葉、すなわち外胚葉(皮膚)、内胚葉(杯細胞を伴う管腔)および中胚葉(軟骨)を含有する奇形腫形成をもたらした(20×;n=6)。
【図9】iPSC派生中に派生する中間体コロニーが造血表現型を有することを示す図。a.造血細胞の形態(丸い細胞)を持つ中間体コロニー(矢印)が、4つの異なるiPSC株(1〜4)に存在した。b.CD45が中間体コロニーに限られ、一方、Tra-1-60はiPSCにのみ存在することを示す、CD45陽性造血細胞(緑色)およびTra-1-60陽性iPSコロニー(赤色)の生細胞染色(20×;n=4)。c.4つの独立したiPSC株におけるCD45レベルの代表的FACSヒストグラム(n=4)。d.1)4つの異なるiPSC株に由来するソートCD45+ve細胞、2)手作業で単離したiPSコロニー、および3)Fibsにおける、相対的Oct-4、Sox-2およびNanog mRNA発現量(n=4;*p<0.001)。ヒト胚性幹細胞(hESC)に対してレベルを規格化した。e.Fibs(非形質導入)、iPSC、およびソートしたCD45+ve iPSCにおけるOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28のレンチウイルス組込み(n=4)。
【図10】ヒト皮膚線維芽細胞(Fibs)からのCD45陽性細胞派生の概略図。a.ヒト皮膚Fibsに、マトリゲル上で、Oct-4レンチウイルスを形質導入した。形質導入後3日目に、細胞を、1)IGFIIおよびbFGFが補われたF12培地、または2)IGFII、bFGF、Flt3およびSCFが補われたF12培地、のどちらかが入っているマトリゲル・コート・ディッシュに移した。造血CD45陽性コロニーをOct-4形質導入後14日目および21日目に数え上げた。b.Oct-4(FibsOct-4)、Sox-2(FibsSox-2)およびNanog(FibsNanog)-レンチベクターの組込みを示す代表的ブロット。Oct-4、Sox-2、Lin-28およびNanogを形質導入した皮膚Fibsに由来するヒトiPSCを陽性対照として使用し(レーン1)、非形質導入Fibsまたは胎児Fibsを陰性対照として使用した(レーン2および6)(n=6)。c.FibsからのCD45+ve細胞出現の経過に沿った、Oct-4形質導入後の網羅的Oct-4遺伝子発現(POU5F1プローブセット)(0日目-D0、および21日目(D21)-CD45+FibsOct-4)。POU5F1(Oct-4)特異的プローブセットは、Oct-4形質導入時に、検出に使用したプローブセットとは無関係に、hFlbsからのCD45+ve細胞出現の時系列に沿って増加する。
【図11】形質導入後14日目〜21日目の間にOct-4形質導入細胞から出現したCD45陽性コロニーを示す図。a.コロニー出現(白い矢印)の時系列に沿った、ヒトFibsならびにhFibsOct-4+/-SCFおよびFlt3の代表的明視野像(0〜21日目)(n=6)。拡大図は21日目における生細胞CD45染色コロニーを表す。
【図12】Oct-4形質導入CD45陽性コロニーが多能性表現型を獲得しないことを示す図。a.差次的に調節されるOct(POU)ファミリーメンバーの遺伝子発現プロファイル。Oct-4(POU5F1)は、CD45+ve細胞出現の時間経過に沿って、すなわちFibs (D0)、4日目FibsOct-4(D4)およびCD45+FibsOct-4(D21)において、差次的に調節される唯一のPOUファミリーメンバーであった。b.CD45+ve細胞出現の時間経過に沿って、すなわちFibs (D0)、4日目FibsOct-4(D4)およびCD45+FibsOct-4(D21)において、差次的に調節されない(Oct-4を除く)POU遺伝子ファミリーの遺伝子発現プロファイル。c.非形質導入Fibs、ならびにFibsOct-4+/-SCFおよびFlt3、ならびにiPSCにおける、SSEA3陽性集団頻度の代表的FACSヒストグラム(n=6)。d.非形質導入Fibs、FibsOct-4+/-SCFおよびFlt3、ならびにiPSCにおける、Tra-1-60陽性集団頻度の代表的FACSヒストグラム(n=6)。e.非形質導入Fibs、FibsOct-4+SCFおよびFlt3、ならびにiPSCにおける、Tra-1-60陽性コロニー(矢印および破線)の生細胞染色。
【図13】CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った成長ダイナミクスおよびc-Myc発現。a.7継代にわたるFibs、CD45+FibsOct-4細胞およびヒトiPSC(hiPSC)の成長/増大(expansion)ダイナミクス(n=9)。b.CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った、すなわちFibsとCD45+FibsOct-4(21日目-D21)とを比較した、c-Mycの遺伝子発現プロファイル。
【図14】網羅的遺伝子シグネチャーは、単核球をOct4陽性CD45+ve細胞と、また臍帯血由来前駆細胞を4日目Oct-4形質導入Fibsとクラスター化することを示す図。a.単核球(MNC)、臍帯血由来造血前駆細胞(UCB)、Fibs、骨芽細胞、4日目FibsOct-4およびCD45+FibsOct-4の網羅的遺伝子クラスター分析。b.MNC、UCB細胞、Fibs、骨芽細胞、4日目FibsOct-4およびCD45+FibsOct-4の造血遺伝子解析。c.さらに16日間にわたって造血サイトカインで処理したCD45+FibsOct-4(37日目-D37)は、サイトカイン処理前のCD45+FibsOct-4(21日目-D21)および37日目の無処理CD45+FibsOct-4(D37)と比較して、増進した増殖能力を有していた(n=6;*p<0.001)。d.37日目(D37)における、造血サイトカイン処理を行った、および行わなかった、CD45+FibsOct-4細胞、ならびに21日目(D21)におけるCD45+FibsOct-4細胞の細胞生存率(n=6)。
【図15】37日目における造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性胎児包皮由来Fibsによる骨髄系細胞のインビトロ再構成を示す図。37日目(D37)における胎児CD45+FibsOct-4に由来する骨髄系細胞(CD45+CD13+細胞およびCD13+CD33+細胞)のFACS分析(n=3)。
【図16】37日目における造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性胎児および成体Fibsによる単球系譜のインビトロ再構成を示す図。a.37日目(D37)における単球(CD45+CD14+細胞;n=3)の代表的FACSプロット。b.非形質導入Fibsと比較した、CD45+FibsOct-4由来マクロファージによるFITC標識ビーズ取り込み(40×)(白い矢印-ビーズを含有する細胞)。
【図17】37日目における造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性Fibsによる骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。a.37日目(D37)におけるCD14の欠如とCD15共発現を示す、CD45、CD14およびCD15で三重染色したCD45+FibsOct-4細胞の代表的FACS分析(n=3)。b.37日目(D37)における、胎児CD45+FibsOct-4に由来する顆粒球(CD45+CD15+細胞)の代表的FACSプロット(n=3)。c.37日目(D37)におけるサイトカインで処理したGiemsa-Wright染色CD45+FibsOct-4細胞の代表的バルク像(20×および40×;n=6)(矢印-造血細胞)。
【図18】37日目のOct-4形質導入CD45陽性Fibsにおける、造血サイトカイン処理非存在下での、骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。a.37日目(D37)のCD45+FibsOct-4における造血サイトカイン非存在下での骨髄系細胞(CD45+CD13+細胞およびCD13+CD33+細胞)のFACS分析(n=6)。b.37日目(D37)のCD45+FibsOct-4における造血サイトカイン非存在下での単球(CD45+CD14+細胞)および顆粒球(CD45+CD15+細胞)の代表的FACSプロット(n=6)。
【図19】造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性胎児包皮由来Fibsによる骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。造血サイトカイン処理胎児CD45+FibsOct-4細胞は、37日目(D37)に造血前駆細胞(CD45+CD34+細胞)を生じさせる(n=3)。
【図20】免疫不全マウス生着CD45+FibsOct-4細胞に由来するコロニー形成単位がCD45発現を維持したことを示す図。a.生着CD45+FibsOct-4細胞に由来するCFUの明視野像(n=3)。b.生着CD45+FibsOct-4に由来するCFUにおけるCD45発現を示す代表的FACSヒストグラム(n=3)。c.生着CD45+FibsOct-4に由来するCFUにおけるCD45発現とCD14発現とを対比して示す代表的FACSプロット(n=3)。d.生着CD45+FibsOct-4に由来するCFUにおけるCD45発現とCD15発現とを対比して示す代表的FACSプロット(n=3)。
【図21】Oct-4形質導入CD45陽性細胞由来Fibsのインビボ再構成を示す図。a.食塩水を注入した対応物との比較で、注入を受けた免疫不全(NSG)マウスの対側骨におけるCD45+FibsOct-4(D37)細胞の生着を示す代表的FACSプロット(n=8;p<0.01)。b.生着CD45+FibsOct-4細胞の一次および二次再構成能力。レシピエントNSGマウスの骨および脾臓におけるヒトキメラ化をヒト17番染色体の存在によって分析した。陽性対照-動員末梢血(M-PB);陰性対照-食塩水注入マウスからの脾臓および骨;対照-ゲノムDNAなし-gDNAなし。
【図22】EPO処理が赤芽球コロニー形成単位の形成をもたらしたことを示す図。a.Fibs、EPO処理を行ったまたは行わなかったCD45+FibsOct-4に由来するコロニー形成単位の定量(n=3;*p<0.001)。b.プレーティングした細胞5,000個あたりのコロニー(CFU)形成の頻度を表す棒グラフ(n=3;*p<0.001)。(単球-CFU-M;顆粒球-CFU-G;赤芽球-BFU-E;赤芽球、顆粒球、単球を含有する混合コロニー-CFU-Mix)。
【図23】CD45+ve細胞出現の時間経過に沿って、Oct-4が誘導する変化を示す図。a.成体皮膚FibsとOct-4形質導入後4日目のFibsとを比較した分子/機能パスウェイのFatigo解析(閾値を2倍に設定;p<0.001)。CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った、すなわちFibs(0日目-D0)、ピューロマイシン選択4日目FibsOct-4(4日目-D4)、およびソートしたCD45+FibsOct-4(21日目-D21)における、b.有意な転写調節(p<0.001)を示す、およびc.転写調節が存在しないことを示す、造血遺伝子の遺伝子発現プロファイル。
【図24】Oct4形質導入CD45+ve細胞の成熟中の造血遺伝子発現を示す図。a.造血特異化(Runx1、SCL)および成熟(PU.1、Runx1、C/EBPαおよびGATA1)に関与することが示された造血遺伝子の概略図。b.37日目(D37)の、造血サイトカインカクテル処理(Flt-3、G-CSF、SCF、IL6、IL3、BMP-4)を行った、または行わなかった、CD45+FibsOct-4細胞における、中胚葉遺伝子(GATA2、ブラキュリ)、造血特異的遺伝子(SCL、MixL1、Runx1、GATA1、PU.1およびC/EBPα)および多能性遺伝子(Oct-4、Sox-2およびNanog)の相対的mRNA発現解析(n=3、*p<0.001)。c.CD45+FibsOct-4細胞における、Oct-4形質導入後、21日目(D21)および37日目(D37)での、成体ヘモグロビン(ベータ、アルファおよびデルタ)発現。(HBB-β-ヘモグロビン;HBA-α-ヘモグロビン;HBD-δ-ヘモグロビン)。
【図25】線維芽細胞培養物に由来するユニークな細胞サブセットにおける、Octエンハンサーが駆動するGFP発現を示す図。(a)PGK-EGFP(陽性対照)、プロモーターレスEGFP(陰性対照)ベクター、C3+EOS EGFP IRES Puroベクターの概略図。(b)PGK-EGFP、陰性対照およびC3+EOS GFP IRES Puroベクターを形質導入したhESCおよびヒト皮膚成体線維芽細胞(hFibs)の代表的な位相顕微鏡像および蛍光顕微鏡像。C3+EOSベクターからのGFP陽性(GFP+ve)を矢印で示す。(c)胸部由来hFibsおよび陽性対照hESCにおけるC3+EOS形質導入時のGFP+ve細胞頻度の代表的FACSプロット。(d)C3+EOS GFPベクターを形質導入した包皮および肺由来の線維芽細胞(hFibs)の代表的な位相顕微鏡像および蛍光顕微鏡像。C3+EOSベクターからのGFP陽性(GFP+ve)を矢印で示す。(e)C3+EOS形質導入時の、胸部(n=5)、包皮(n=3)および肺(n=3)由来の線維芽細胞におけるGFP+ve細胞の頻度を、フローサイトメトリーを使って調べた。(f)C3+EOSレンチウイルスを形質導入した全hFibsからGFP+veおよびGFP-ve hFibsをソートするために使用した戦略の概略図と、続いて行った、ソートされたサブフラクションの分析。(g)代表的なプロウイルス組込みおよびGFP発現プロファイルを、ソートした細胞で調べた。(h)pSIN Oct4レンチウイルスを形質導入したGFP-ve線維芽細胞フラクションの位相顕微鏡像および蛍光顕微鏡像。矢印はOct4過剰発現後に観察されるGFP細胞を示す。
【図26】EOS+ve線維芽細胞が多能性遺伝子を発現することを示す図。(a)Oct4座およびそれらの座の上のさまざまなエクソンをまたぐプライマーの概略図。(bおよびc)半定量および定量PCR分析におけるOct4アイソフォームの発現。(d)線維芽細胞のさまざまなサブフラクションにおけるキー多能性遺伝子Nanog、Sox2およびブラキュリ(BrachT)の相対的発現。(e)GFP+ve hFibsからのOct4、Nanog、およびSox2の発現を、定量RT-PCR分析によって、hESCと比較した。(f)全hFibs、NOS+exp線維芽細胞、NOS-exp線維芽細胞、hESC、iPSC NOS+exp、公開データセットからの線維芽細胞およびiPS(Fib-BJ1、iPS BJ1およびiPS BJ2)の階層的クラスタリング。発現プロファイルは、マウスESCにおいて濃縮される遺伝子(Takahashi et al.2007)、ヒトESCおよび成体線維芽細胞マーカー(Yu et al.2007)に基づいている。(g)特異的抗体を使った対照hESCおよびGFP+ve細胞におけるOct4の免疫染色の代表的な像(10×)および拡大像。(h)ウェスタンブロッティングによる、全hFibs、GFP+ve hFibs、293、Oct4を過剰発現する293、および対照hESCにおける、Oct4、Nanog、およびSox2の発現。(l)C3+EOS GFP IRES PuroベクターのOct4エンハンサー(CR4)におけるOct4、Nanog、およびSox2の占有をChIPアッセイを使って調べた。(j)ChIPを使って、対照hESC、NOS+exp、NOS-expおよび全hFib細胞におけるOct4、Nanog、およびSox2座のエピジェネティック状態を分析することで、H3K4Me3マーク(黒い棒)とH3K27Me3マーク(白い棒)を同定した。
【図27】全線維芽細胞培養物から分離されたNOS+exp細胞が、低下した再プログラミング効率を呈することを示す図。(a)マトリゲル上でヒトFibsおよびそのサブフラクションNOS+expを再プログラミングするために使用したプロトコールの概略図。(b)マトリゲル上での10,000個の全線維芽細胞またはNOS+exp細胞からのiPSC派生。3つの異なるウイルス価を使って、全線維芽細胞の再プログラミングを9回行い、NOS+expはn=6とした。(c)全線維芽細胞に由来するiPSCおよび非iPSC様コロニーの代表的位相像。蛍光顕微鏡像は両コロニーにおけるTra1-60の生細胞染色を示す。(d)多能性マーカーSSEA3、Tra1-60およびOct4染色の発現を、iPSCおよび非iPSC様コロニーにおいて、フローサイトメトリーで検証した。(e)全hFibsに由来するTra 1-60+veコロニーの平均数。(f)全hFib再プログラミングから得られたiPSCおよび非iPSCコロニーにおけるキーES特異的マーカーの発現を示す半定量PCR。(g)中胚葉、内胚葉、および外胚葉分化を示す、iPS細胞に由来する奇形腫のヘマトキシリンおよびエオシン染色。(h)NOS+exp hFibsを全hFibsと表示した比で混合し、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28をコードするレンチウイルスをプレーティングの24時間後に形質導入した。グラフは、形質導入の3週間後のコロニー数の定量を表している。表示のデータは、3つの異なるウイルス価を使って二つ組にして実施した3つの生物学的レプリケートからのデータである。(i)1K+9K混合物(1:9)の代表的な位相像および蛍光像。GFP+veコロニーはNOS+exp(EOS+ve)細胞によるものであり、これはEOSプロウイルス組込みによってさらに確認された。EOS-veコロニーは全hFibによるものだった。完全に再プログラミングされたコロニーと部分的に再プログラミングされたコロニーとを区別するために、Tra 1-60生細胞染色を行った。(j)混合物実験からの再プログラミングされたコロニーにおけるES特異的遺伝子の再活性化を調べるための多能性遺伝子の半定量PCR。(星印は、さらなるフローサイトメトリー分析のためにこれらのコロニーを選択したことを示す)。(k)混合物実験における、NOS+expおよび全hFibsに由来する再プログラミングされたコロニーのフローサイトメトリー分析。(i)奇形腫形成のためにNOS+exp hFib由来iPSC細胞をマウス精巣に注入した。3つ全ての胚葉(中胚葉、内胚葉、および外胚葉)の分化を示す奇形腫のヘマトキシリンおよびエオシン染色。
【図28】NOS+exp細胞は再プロラミングを起こしやすいことを示す図。(a)hFibsにC3+EOS GFPベクターを形質導入し、NOS+exp細胞をマトリゲル上でソートし、全線維芽細胞と1:9の比(1000個のNOS+exp細胞+9000個の全hFibs)で混合するか、または10000個の全線維芽細胞を、マトリゲル上にプレーティングした。プレーティングの24時間後に、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28をコードするレンチウイルスを形質導入した。右側の図は、1K対9K混合物実験に由来するコロニー数の定量を表す。左側の図はEOS-ve細胞およびEOS+ve細胞からのコロニー寄与を表す。(b)混合物実験において、NOS+exp(1Kに由来するEOS+ve)または全hFibs(9Kに由来するEOS-ve)に由来するコロニーにおける完全な再プログラミングを調べるために、Tra 1-60生細胞染色を行った。(c)混合物実験において、完全な再プログラミング(Tra 1-60+veコロニー)の頻度を、各区画からのTra 1-60+veコロニーの数を、投入細胞数で割ることによって調べた[Tra 1-60+ve(EOS-ve)の数/9000またはTra 1-60+ve(EOS+ve)の数/1000]。
【図29】細胞再プログラミング適格性に関してNOS+expの分子状態が微小環境によって調節されうることを示す図。(a)表示の密度のNOS+expを含有する10,000個の細胞を、マトリゲル・コート・プレートに播種した。Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28をコードするレンチウイルスをプレーティングの24時間後に形質導入した。形質導入の3週間後にコロニーの数を計数した。コロニーの平均数を表す。(b〜c)全hFibsおよび新規に単離されたNOS+exp hFibsをChIPアッセイで分析することで、内在性クロマチン状態を評価し、続いてキー多能性遺伝子の遺伝子解析を行った。(d)左から右に向かってそれぞれ、単独で培養された、または全hFibsおよびMEFと共培養された、NOS+exp hFibsの代表的な位相像および蛍光像。(e)培養NOS+exp hFibsで行ったChIPアッセイは、Oct4座における二価性を示し、一方、NanogおよびSox2プロモーター座は抑制されていた。定量PCR分析は、新規に単離された細胞と比較して、培養NOS+expではOct4発現が減少していることを示した。(f)NOS+exp hFibsを全hFibsまたはマウス胚性線維芽細胞と50-50の比で共培養した。共培養したNOS+exp(GFP+ve)を共培養物から直接単離し、精製した集団をヒストン修飾および遺伝子発現について分析した。全hFibs上の共培養NOS+expからのChIPアッセイは、内在性多能性遺伝子上に活性型マークを示した。共培養NOS+expの定量PCR分析は、Nanog、Oct4およびSox2の発現が、培養NOS+expと比較して回復したことを示した。(g)NOS+expおよびNOS-exp細胞の再プログラミング能をMEF上で試験した。左図-MEF上の、またはMEFなし(マトリゲル)の、NOS+exp/-exp細胞の位相像および蛍光像。右図-再プログラミングの3〜5週間後の位相像および蛍光像。誘導多能性コロニーは、NOS+exp細胞をMEF上で再プログラミングした場合にのみ観察された。観察されたコロニーはGFP+veおよびTra 1-60+veだった。
【図30】hFibs中に同定されたユニークなNOS+exp集団が、独特の分子状態および細胞周期特性を呈することを示す図。(a)線維芽細胞の遺伝子発現シグネチャーおよび個々の皮膚幹/前駆細胞に特異的な分子マーカーに基づく全hFibs、NOS+exp hFibs、NOS-exp hFibs、皮膚由来プレカーサー(SKP)、ケラチノサイトおよびバルジ幹細胞(BSC)の階層的クラスタリング。(b)成体幹/前駆細胞の網羅的クラスター分析。(c)全集団と比較してNOS+expにおいて差次的にアップレギュレートされる遺伝子に関する円グラフ。遺伝子は、3倍カットオフに基づいてフィルタリングされ、NOS+expレプリケート試料全体に100%存在した。(d)対照hESC、全hFibs、NOS+exp、NOS-exp、iPS NOS+exp細胞ならびに公開データセットFib BJ1、iPS BJ1,2における細胞周期パスウェイ(http://www.genome.jp/kegg/)発現に基づく遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリング。全hFibsと比較してNOS+exp線維芽細胞/iPS細胞においてアップレギュレート/ダウンレギュレートされる特徴的(featured)細胞周期遺伝子を示す。(e)EOSベクターを形質導入したhFibsで、HMMR(CD168)染色を行った。分裂NOS+exp hFibsの核内にHMMRの局在が観察された。(f)hFibsにEOSベクターを形質導入し、NOS+expおよび全線維芽細胞の成長を、継代ごとにフローサイトメトリーで測定した。
【図31】多能性再プログラミングを起こしやすいNOS+exp hFibsの役割に関する提唱モデルを示す図。
【図32】GFP+ve細胞が全hFib培養物においてユニークであることを示す図。(a)全hFibsにpGK-EGFPを形質導入し、GFP+ve細胞の数をフローサイトメトリー分析で見積もった。(b)対照hESCにおけるC3+EOSレンチウイルスの形質導入と、それに続くフローサイトメトリーは、GFP+ve細胞の一貫した増加を示した。(c)EOSベクターを形質導入したhFibsの代表的な位相像および免疫蛍光像および3D Zスタック像。矢印は全hFibsとは異なる平面にあるEOS形質導入GFP+ve細胞を示す。(d〜f)全hFibsにC3+EOSレンチウイルスを形質導入した。フローサイトメトリー分析によって算出したGFP+ve細胞のパーセンテージおよび平均蛍光強度は、EOS C3+形質導入時に、ウイルス希釈度とは無関係に、一定した3〜4%のGFP+ve細胞を示したことから、これらの細胞が高コピー数ウイルス組込みによる人工産物ではないことが示唆される。(g)GFP+ve細胞が高コピー数ウイルス組込みの人工産物でないことを実証するために、GFP-ve細胞を全hFibsからソートし、二次EOS C3+形質導入を行った。二次感染からのGFP-ve細胞をさらにソートして三次感染を行った。三次感染および四次感染でウイルスコピー数の増加によるGFP+ve細胞の増加は観察されなかった。(h)四次感染細胞におけるPGK-EGFP形質導入時の緑色細胞の出現により、EOS C3+形質導入時のGFP+ve細胞の欠如はウイルス取り込みに関連する問題によるものではないことが示唆された。
【図33】線維芽細胞培養物中のユニークな細胞が多能性遺伝子Oct4を発現することを示す図。(a)全hFib培養物、293細胞、およびOct4導入遺伝子を過剰発現する293細胞におけるOct4の免疫染色。矢印は、核内にDAPIと共局在化しているOct4染色を示す。(b)MeDIP ChIPを全hFib培養物、293細胞、hESC、NOS+exp(GFP+ve)細胞で行った。グラフは、hESCおよびNOS+exp(GFP+ve)細胞との比較で、293および全線維芽細胞におけるOct4プロモーターメチル化の特異的濃縮を示している。
【図34】全線維芽細胞から再プログラミングされたコロニーについて、アイソタイプ染色を示す図。(a)全hFibsに由来するiPS様コロニーにおける表面アイソタイプ染色(SSEA3表面染色の対照)および内部アイソタイプ染色(Oct4染色の対照)に関するフローサイトメトリー分析。(b)全hFibsに由来する非iPSCコロニーにおける表面アイソタイプ染色(SSEA3表面染色の対照)および内部アイソタイプ染色(Oct4染色の対照)に関するフローサイトメトリー分析。
【図35】NOS+exp細胞から作製した誘導多能性細胞がさまざまな系譜に分化できることを示す図。(a)ヒトESおよびNOS+exp Fibsに由来するiPS細胞の、CD45汎造血因子染色によって示される造血系譜へのインビトロEB分化。(b)ヒトES細胞およびNOS+exp hFibsに由来するiPSC細胞は、A2B5染色によって示されるニューロン系譜に分化する。
【図36】NOS-exp hFibsは成長が遅く、再プログラミングには寄与しないことを示す図。(a)精製NOS-exp hFibsに、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を含有するレンチウイルスを形質導入した。培養物を6週間監視したが、NOS-exp hFibsはiPSCコロニーを生成しなかった。(b)NOS-expを不均質なhFibsと表示した比で混合し、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を含有するレンチウイルスを形質導入した。2〜6週の間に、どの実験でも、一つのコロニーしか検出されなかった。(c)5万個のNOS-expを播種し、表示した連続継代数にわたって、細胞計数によって成長速度を監視した。
【図37】hFibsにC3+EOSレンチウイルスを形質導入し、NOS+exp hFibsをソートし、表示の継代数にわたって維持したことを示す図。各継代時にGFP発現をフローサイトメトリーによって測定した。
【図38】Oct-4形質導入ヒト線維芽細胞が、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびニューロンを生じさせることを示す図。a.Oct-4形質導入時の神経系譜特異化の時系列を表す図解。b.非形質導入線維芽細胞、ならびにアストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびニューロンを生じるOct-4形質導入線維芽細胞の代表的明視野像(n=3)。c.GFAPで染色したアストロサイトの代表的免疫蛍光像(n=3)。d.線維芽細胞(Fibs)およびOct-4形質導入線維芽細胞(FibsOct-4)におけるGFAPレベルの代表的FACSプロット(n=3;p<0.01)。e.ベータ-チューブリンIIIで染色したニューロンの代表的免疫蛍光像(n=3)。f.線維芽細胞(Fibs)およびOct-4形質導入線維芽細胞(FibsOct-4)におけるベータ-チューブリンIIIレベルの代表的FACSプロット(n=3;p<0.01)。g.Olig-4で染色したオリゴデンドロサイトの代表的免疫蛍光像(n=3)。h.線維芽細胞(Fibs)およびOct-4形質導入線維芽細胞(FibsOct-4)におけるOlig-4レベルの代表的FACSプロット(n=3;p<0.01)。i.Oct-4形質導入線維芽細胞におけるGFAP、Olig-4およびベータ-チューブリンIIIレベルの頻度(n=3)。
【図39】Oct-4形質導入ヒト線維芽細胞が、ドーパミン作動性表現型を有する成熟ニューロンを生じさせることを示す図。ドーパミン作動性ニューロン派生の時系列を表す図解(右側)ならびにベータ-チューブリンIIIおよびチロシンヒドロキシラーゼのドーパミン作動性神経免疫蛍光染色。
【図40】Oct4による線維芽細胞の形質導入が、神経前駆細胞発生と関連する遺伝子の発現を誘導することを示す図。線維芽細胞および4日後にOct4を形質導入した線維芽細胞に由来する試料のaffymetrixアレイハイブリダイゼーションによって得られた遺伝子発現パターン。遺伝子発現パターンをインシリコで比較し、違いを線維芽細胞+OCT4/線維芽細胞の倍率変化として表した。統計的有意差検定はスチューデントのt検定を使って行った。
【発明を実施するための形態】
【0025】
開示の詳細な説明
A.前駆細胞および分化細胞への線維芽細胞の直接転換
本発明者らは、Oct-4形質導入皮膚線維芽細胞が、造血前駆細胞および神経前駆細胞を生じさせることを示した。本発明者らはさらに、造血前駆細胞が骨髄系譜を完全に再構成する能力を有することを示した。
【0026】
したがって、本開示は、
a)POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現するか、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞を提供する工程;および
b)多能性状態を経ることなく前駆細胞の作出を可能にする条件下で、工程(a)の細胞を培養する工程
を含む、線維芽細胞から前駆細胞を作製する方法を提供する。
【0027】
本明細書において使用する用語「POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質」は、図7またはSEQ ID NO:1もしくは2に示すオクタマー(Octamer)DNA結合配列に結合するPOUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質を指す。ある態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質が、Oct遺伝子またはタンパク質、例えば限定するわけではないが、Oct-1、-2、-4、または-11である。ある特定態様では、Oct遺伝子またはタンパク質がOct-4である。
【0028】
本明細書において使用する用語「前駆細胞」は、より特殊化した細胞に分化する能力を有する、特殊化の度合が低い細胞を指す。前駆細胞のタイプには、神経系譜および造血系譜を生じさせる細胞が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ある態様では、前駆細胞が造血前駆細胞である。もう一つの態様では、前駆細胞が神経前駆細胞である。
【0029】
本明細書において使用する「多能性状態を経ることなく」という表現は、前駆細胞への線維芽細胞の直接的転換を示し、例えば、作出される細胞は、多能性幹細胞の性質、例えばTra-1-60またはSSEA3を欠く。
【0030】
本明細書において使用する用語「造血前駆細胞」は、血液細胞を生じさせる細胞を指し、CD45+細胞を含むが、それに限定されるわけではない。したがって、ある態様では、CD34またはCD45陽性細胞を精製するために、(b)の細胞がソートされる。
【0031】
本明細書において使用する用語「神経前駆細胞」は、神経系譜の細胞(ニューロンおよびグリア細胞、例えばアストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを含むが、それらに限定されるわけではない)を生じさせる細胞を指す。神経前駆細胞マーカーには、A2B5、ネスチン、GFAP、ベータ-チューブリンIII、オリゴ(oligo)-4およびチロシンヒドロキシラーゼが含まれるが、それらに限定されるわけではない。随意の一態様では、神経細胞が、これらのマーカーを使ってソートされる。
【0032】
本明細書において使用する用語「線維芽細胞」は、結合組織を含む身体の多くの組織に見いだされ、かつ標準的な細胞培養法を使って得ることができる、細胞のタイプを指す。例えば線維芽細胞は、血液、骨髄、臍帯血および胎盤を含む成体組織および胎児組織から作製することができる。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。本明細書において使用する用語「皮膚線維芽細胞」は、任意の動物(例えばヒト)の皮膚から単離される線維芽細胞を指す。ある態様では、動物が成体である。もう一つの態様では、線維芽細胞が冷凍保存されている。これに代わる一態様では、POUドメイン含有遺伝子を発現する線維芽細胞以外の細胞を、工程(a)において使用することができる。
【0033】
本明細書において使用する用語「Oct-4」は、Oct-4遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-4を包含し、増進活性を保っているOct-4のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-4タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-4に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_002701が挙げられるが、それに限定されるわけではない。OCT-4は、POU5-F1またはMGC22487またはOCT3またはOCT4またはOTF3またはOTF4とも呼ばれる。
【0034】
本明細書において使用する用語「Oct-1」は、Oct-1遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-1を包含し、増進活性を保っているOct-1のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-1タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-1に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_002697.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Oct-1はPOU2-F1またはOCT1またはOTF1とも呼ばれる。
【0035】
本明細書において使用する用語「Oct-2」は、Oct-2遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-2を包含し、増進活性を保っているOct-2のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-2タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-2に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_002698.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Oct-2はPOU2-F2またはOTF2とも呼ばれる。
【0036】
本明細書において使用する用語「Oct-11」は、Oct-11遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-11を包含し、増進活性を保っているOct-11のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-11タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-11に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_014352.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Oct-11はPOU2F3とも呼ばれる。
【0037】
ある態様では、Oct-1、-2、-4または-11などのPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、内在性POUドメイン含有する遺伝子の過剰発現、またはPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質の異所性発現を含む。ある態様では、線維芽細胞が、追加的に、NanogまたはSox-2を過剰発現または異所性発現しないか、NanogまたはSox-2で処理されない。
【0038】
Oct-1、-2、-4または-11などのPOUドメイン含有タンパク質または遺伝子を発現する線維芽細胞は、当技術分野において公知のさまざまな方法によって、例えば内在性POUドメイン含有遺伝子を過剰発現させることや、POUドメイン含有タンパク質または遺伝子を細胞中に導入して、形質転換細胞またはトランスフェクト細胞または形質導入細胞を作出することなど(ただしそれらに限定されるわけではない)によって、得ることができる。「形質転換」、「トランスフェクト」または「形質導入」という用語は、当技術分野において公知である数多くの考えうる技法の一つによる細胞中への核酸(例えばベクター)の導入を包含するものとする。例えば核酸は、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈法、DEAE-デキストランによるトランスフェクション、リポフェクトアミン、エレクトロポレーションもしくはマイクロインジェクション、またはウイルス形質導入またはトランスフェクションによる方法などといった従来の技法によって、哺乳動物細胞中に導入することができる。細胞の形質転換、形質導入およびトランスフェクションを行うための好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001)および他の実験書に見いだすことができる。哺乳動物細胞における発現を指示するのに好適な発現ベクターは、一般に、プロモーター(例えばポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40などのウイルス物質に由来するプロモーター)ならびに他の転写および翻訳制御配列を含む。哺乳動物細胞発現ベクターの例には、pCDM8(Seed,B.,Nature 329:840(1987))およびpMT2PC(Kaufman et al.,EMBO J.6:187-195(1987))が含まれる。
【0039】
ある態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞が、外因性POUドメイン含有タンパク質またはその機能的変異体もしくはフラグメントまたはそのペプチドミメティックの添加を含む。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞が、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質の発現を誘導する、使用可能な化学的代用品の添加を含む。
【0040】
POUドメイン含有タンパク質は「ペプチドミメティック」を含有してもよいし、「ペプチドミメティック」を得るためまたは設計するために使用してもよい。例えば、POUドメイン含有タンパク質の機能を模倣するために、ペプチドミメティックを作ることができる。「ペプチドミメティック」は、分子間の相互作用においてペプチドの代替物として働く構造である(概観するにはMorganら(1989),Ann.Reports Med.Chem.24:243-252を参照されたい)。ペプチドミメティックには、アミノ酸および/またはペプチド結合を含有しても含有しなくてもよいが、構造的および機能的特徴は保っている合成構造が含まれる。ペプチドミメティックには(例えば国際公開公報第99/25044号に記載されているような)他の機能的要素と共により大きな分子にペプチドを組み込んだ分子も含まれる。ペプチドミメティックには、POUドメイン含有ペプチドに対応する考えうる全てのアミノ酸配列を表す設計された長さのペプチドを含有するペプチド、オリゴペプトイド(Simonら(1972) Proc.Natl.Acad,Sci USA 89:9367)およびペプチドライブラリーも含まれる。
【0041】
ペプチドミメティックは、D-アミノ酸によるL-アミノ酸の体系的置き換え、異なる電子的性質を有する基による側鎖の置き換え、およびアミド結合代用物によるペプチド結合の体系的置き換えによって得られる情報に基づいて設計することができる。候補ペプチドミメティックの活性にとってのコンフォメーション的要件を決定するために、局所的なコンフォメーション束縛も導入することができる。ミメティックは、リバース・ターン・コンフォメーションを安定化または促進するために、そして分子の安定化に役立つように、等電子アミド結合またはD-アミノ酸を含みうる。アミノ酸残基を特定のコンフォメーション状態に束縛するために、環状アミノ酸類似体を使用してもよい。ミメティックは、本明細書に記載するタンパク質の二次構造のミメティックも含むことができる。これらの構造は、タンパク質の公知二次コンフォメーションへのアミノ酸残基の三次元配向を模ることができる。N置換アミノ酸のオリゴマーであって、化学的に多様な新規分子のライブラリーを作製するためのモチーフとして使用することができるペプトイドも、使用することができる。
【0042】
本明細書において使用する用語「変異体」は、実質的に同じ方法で実質的に同じ機能を果たすPOUドメイン含有タンパク質の修飾体、置換体、付加体、誘導体、類似体、フラグメントまたは化学的均等物を含む。例えばPOUドメイン含有タンパク質の変異体は、図7に示すオクタマー配列との結合に役立つという同じ機能を有するだろう。
【0043】
前駆細胞の作出を可能にする条件は、当技術分野ではよく知られている。例えば、コロニー形成は、前駆細胞を培養するための当技術分野において公知の標準的方法である。細胞培養培地は、細胞の成長を支持することができる任意の培地であることができ、半固形培地を含むが、それに限定されるわけではない。ある態様では、条件が、14〜31日、任意で21日の培養期間を含む。
【0044】
もう一つの態様では、細胞の成長を支持することができる任意の培地中で細胞を培養し、次に、例えば少なくとも3日後に、その細胞を、造血細胞および神経細胞などの分化細胞の作出を可能にするための条件下で、造血培地または神経培地などの分化培地に入れる。
【0045】
本明細書において使用する用語「分化」および「分化した」は、特殊化の程度が低い細胞、例えば幹細胞が、特定の系譜に拘束されるように、より特殊化した細胞タイプになるプロセスを指す。
【0046】
本明細書において使用する用語「造血培地」は、造血細胞の成長および/または分化を支持する細胞培養培地を指す。ある態様では、造血培地が、少なくとも一つの造血サイトカイン、例えばFlt3、SCFまたはEPOを含む。ある態様では、サイトカインがFlt3またはSCFである。ある態様では、分化造血細胞が骨髄芽球系譜の細胞、例えば単球または顆粒球である。もう一つの態様では、造血サイトカインがEPOであり、分化造血細胞が赤血球系譜または巨核球系譜である。
【0047】
本明細書において使用する用語「神経培地」は、神経細胞の成長および/または分化を支持する細胞培養培地を指す。ある態様において、神経培地は、線維芽細胞成長因子、上皮成長因子または骨形成因子4(BMP-4)、bFGF(10ng/ml)、ヒトSHHのN末端活性フラグメント(200ng/ml)、FGF8(100ng/ml;R&D)、GDNF(20ng/ml)、BDNF(20ng/ml)および/またはウシ胎児血清が補われた神経基礎培地を含む。ある態様では、分化神経細胞がニューロンまたはグリア細胞、例えばアストロサイトおよび/またはオリゴデンドロサイトである。
【0048】
もう一つの局面において、本開示は、本明細書に記載する方法によって作製された、単離された前駆細胞または分化細胞を提供する。そのような細胞は、TRA-1-60またはSSEA-3などといった、いくつかの多能性マーカーを発現しない。また、そのような細胞は、発生中にOct-4多能性マーカーの発現を失うので、前駆細胞の安全な代替物の新しい供給源になる。
【0049】
さらにもう一つの局面において、本開示は、生着または細胞置換のための、本明細書に記載する細胞の使用を提供する。もう一つの態様において、本発明は、生着または細胞置換に使用するための、本明細書に記載する細胞を提供する。さらに本明細書では、生着または細胞置換のための医薬の製造における、本明細書に記載する細胞の使用も提供する。本明細書にいう「生着」は、本明細書に記載する方法によって作出される造血細胞を、それを必要とする対象に移すことを指す。移植片は、同種異系(この場合は、ある対象からの細胞が、別の対象に移される)、異種(この場合は、異なる種からの細胞が対象に移される)、同系(この場合は、細胞が遺伝的に同一なドナーからのものである)、または自家移植片(この場合は、細胞が、同じ対象上のある部位から異なる部位に移される)であることができる。したがって本明細書では、本明細書に記載する細胞を、それを必要とする対象に移す工程を含む、生着または細胞置換の方法も提供される。本明細書において使用する用語「細胞置換」は、対象の細胞、例えば赤血球もしくは血小板、またはニューロンもしくはグリア細胞、または造血前駆細胞を置き換えることを指す。さらにもう一つの態様では、生着または細胞置換のための細胞が、疾患を矯正するために、遺伝子的にまたは他の形で修飾されていてもよい。POUドメイン含有遺伝子によるトランスフェクションまたは形質導入の前または後の線維芽細胞を、異常な表現型を矯正する能力を有する関心対象の遺伝子を過剰発現するように、遺伝子的に修飾することができ、次に細胞が選択され、対象中に移植されるであろう。もう一つの局面では、一定の疾患に特有の遺伝子を過剰発現するか、その完全な発現を欠く、線維芽細胞またはPOUドメイン含有遺伝子発現線維芽細胞が、疾患モデル化、例えば薬物スクリーニングのための、前駆細胞または分化細胞を産生するだろう。
【0050】
「対象」という用語は、ヒトを含む動物界のあらゆるメンバーを包含する。ある態様では、対象が動物である。もう一つの態様では、対象がヒトである。
【0051】
ある態様では、本明細書に記載する生着または細胞置換が、自家移植または非自家移植のための生着または細胞置換である。本明細書において使用する用語「自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によって前駆細胞または分化細胞を作製し、作製された前駆細胞または分化細胞を同じ対象に移し戻すことを指す。用語「非自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によって前駆細胞または分化細胞を作製し、作製された前駆細胞または分化細胞を異なる対象に移し戻すことを指す。
【0052】
さらにもう一つの局面において、本開示は、血液、細胞性または非細胞性血液構成要素、血液製剤、造血幹細胞および神経細胞の供給源としての、本明細書に記載する細胞の使用を提供する。そのような供給源は、置換、研究および/または創薬に使用することができる。
【0053】
本明細書に記載する方法および細胞は、前駆細胞発生の細胞生物学および分子生物学の研究、分化に際して役割を果たす遺伝子、成長因子および分化因子の発見、ならびに創薬に使用することができる。したがって、もう一つの局面において、本開示は、
a)本明細書に記載する方法によって前駆細胞または分化細胞の培養物を調製する工程;
b)前記前駆細胞または分化細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された前駆細胞または分化細胞を分析に供する工程
を含む、前駆細胞または分化細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【0054】
ある態様では、試験剤が、特定細胞タイプへの細胞の分化に対するその効果について試験される化学薬品または他の物質、例えば薬物である。そのような態様では、分析が、分化細胞タイプのマーカーを検出することを含みうる。例えば、CD45、CD13、CD33、CD14、CD15、CD71、CD235a(グリコホリンA)、CD133、CD38、CD127、CD41a、ベータ-グロビン、HLA-DR、HLA-A,B,C、CD34、A2B5、ネスチン、GFAP、ベータ-チューブリンIII、オリゴ-4およびチロシンヒドロキシラーゼ。もう一つの態様では、試験剤が化学薬品または薬物であり、スクリーニングが、その薬剤の効力および安全性を評価するための一次スクリーニングまたは二次スクリーニングとして使用される。そのような分析は、細胞増殖もしくは細胞死、または細胞特異的な特徴、例えば肥満細胞脱顆粒、食作用、酸素交換、神経シグナリング、活動電位の存在、一定のタンパク質の分泌、特異的遺伝子もしくはタンパク質の活性化、一定のシグナリングカスケードの活性化もしくは阻害を測定する工程を含むことができる。
【0055】
B.誘導多能性幹細胞への線維芽細胞の再プログラミング
ヒトiPSCへの細胞再プログラミングの基礎をなすヒト線維芽細胞の起源がわかっていないことを考え、本発明者らは、細胞再プログラミングプロセスとの関連で成体皮膚線維芽細胞を特徴づけようと試みた。本発明者らは、再プログラミングされた細胞の作製を担う成体ヒト皮膚線維芽細胞の亜集団を同定し、特徴づけた。
【0056】
したがって本開示は、
a)Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞を提供する工程;および
b)前記レポーターに関して陽性である細胞を単離する工程
を含む、増加した再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法を提供する。
【0057】
この項に関連するA部分での定義は、この項にも同様に適用される。
【0058】
Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞は、当技術分野において公知のさまざまな方法、例えば本明細書において定義する形質転換、トランスフェクションまたは形質導入による核酸コンストラクトまたは核酸ベクターの導入など(ただしそれらに限定されるわけではない)によって、作出することができる。ある態様では、Oct-4レポーター遺伝子がレンチウイルス形質導入によって導入される。
【0059】
本明細書において使用する用語「再プログラミング能」は、前駆細胞もしくは幹細胞の能力または多能性状態を回復する細胞の潜在能を指す。本明細書において使用する用語「増加した再プログラミング能」は、その再プログラミング能が、選択または単離されていない線維芽細胞の混合集団の潜在能よりも高いことを意味する。
【0060】
本明細書において使用する用語「Oct-4レポーター」は、レポーターの上流がOct-4によって結合され、レポーターの下流配列の転写を可能にしまたは増進する、DNA配列を指す。Oct-4レポーターは当技術分野において公知である。例えばOct-4レポーターは、参照により本明細書にそのまま組み入れられるHotta et al.2009およびOkumura-Nakanishi et al.2005に記載されている。
【0061】
本明細書において使用する用語「レポーター遺伝子」および「レポーター」は、同定可能なタンパク質をコードする任意の遺伝子を指す。当業者はレポーター遺伝子およびレポーター産物を容易に同定することができる。ある態様では、複数のレポーター遺伝子/レポーターが使用される。ある態様では、レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質、GFP)を含み、工程(b)では、蛍光を発している蛍光タンパク質の検出によって細胞が単離される。もう一つの態様では、レポーター遺伝子が、ピューロマイシンなどに対する抗生物質耐性を付与する遺伝子をコードし、細胞は抗生物質の存在下における生残によって単離される。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。レポーター遺伝子はタグをコードしてもよく、細胞は免疫分離に基づいて単離することができる(http://www.miltenyibiotec.com/en/PG_167_501_MACSelect_Vectors_and_Tag_Vector_Sets.aspx)。
【0062】
本開示は、
a)(i)Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団および(ii)線維芽細胞の混合集団またはOct-4陰性線維芽細胞の集団を提供する工程;
b)a)の線維芽細胞をOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28で処理する工程;および
c)(b)の細胞を、iPS細胞の作出を可能にする条件下で培養する工程
を含む、再プログラミングされた線維芽細胞由来の誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する方法も提供する。
【0063】
ある態様では、b)における線維芽細胞が、Oct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28で、それぞれの遺伝子をレンチウイルス形質導入などのウイルス形質導入によって導入することによって処理される。
【0064】
本明細書において使用する用語「幹細胞」は、自己複製の能力を有する細胞を指す。ある態様では、幹細胞が多能性幹細胞である。本明細書において使用する用語「多能性」は、さまざまな細胞タイプに分化することを可能にする能力を維持している未分化細胞を指す。「誘導多能性幹細胞」という用語は、非多能性幹細胞から人工的に導出した多能性幹細胞を指す。
【0065】
本明細書において使用する用語「Sox-2」は、Sox-2遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのSox-2を包含し、活性を保っているSox-2の変異体、類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。Sox-2タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるSox-2に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_003106が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0066】
本明細書において使用する用語「Nanog」は、Nanog遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのNanogを包含し、活性を保っているNanogの変異体、類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。Nanogタンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるNanogに関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_024865が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0067】
本明細書において使用する用語「Lin-28」は、Lin-28遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのLin-28を包含し、活性を保っているLin-28の変異体、類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。Lin-28タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるLin 28に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてBC028566.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Lin-28は、CSDD1またはZCCHC1またはLin28Aとも呼ばれる。
【0068】
本明細書において使用する用語「混合集団」は、選択された亜集団ではなく、ある動物に由来する線維芽細胞の混合集団を指す。この開示では、バルク集団という用語を互換的に使用することもできる。混合集団は、さまざまなレベルのOct-4、Sox-2および/またはNanogを発現する細胞を含有する。
【0069】
もう一つの態様では、上記の方法が、未分化幹細胞のマーカー、例えばTRA-1-60、SSEA-3、Sox2、Nanog、SSEA4、TRA-1-81、IGF1受容体、コネキシン43、E-カドヘリン、アルカリホスファターゼ、REX1、CRIPTO、CD24、CD90、CD29、CD9およびCD49fなどを発現する細胞を分析し、選択する工程を、さらに含む。ある態様では、細胞が、TRA-1-60および/またはSSEA-3の発現について選択される。
【0070】
本明細書において使用する用語「TRA-1-60」は、TRA-1-60遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのTRA-1-60を包含し、活性を保っているTRA-1-60の類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。TRA-1-60タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるTRA-1-60に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の例にはNM_001018111およびNM_005397などがあるが、それらに限定されるわけではない。
【0071】
本明細書において使用する用語「SSEA-3」は、SSEA-3遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのSSEA-3を包含し、活性を保っているSSEA-3の類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。SSEA-3タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるSSEA-3に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の例にはNM_001122993があるが、それに限定されるわけではない。
【0072】
ある態様では、Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団が、再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離するための本明細書に記載の方法によって作出される。ある態様では、Oct-4を発現する線維芽細胞の集団が、Oct-4またはそのアイソフォームB1の発現を含むが、その細胞質アイソフォームOct4Bの発現は含まない。
【0073】
ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。皮膚線維芽細胞は例えば動物の皮膚から導出することができる。
【0074】
ある態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が、50:50〜10:90である。ある態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が50:50である。もう一つの態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が10:90である。さらにもう一つの態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が25:75である。
【0075】
iPS細胞の作出を可能にする条件は、当技術分野においてよく知られており、培養期間が2〜3週間のコロニー形成アッセイが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0076】
本開示はさらに、本明細書に記載する方法によって作製された、単離された誘導多能性幹(iPS)細胞およびそこから分化した細胞を提供する。
【0077】
さらにもう一つの局面において、本開示は、生着のための、本明細書に記載するiPS細胞またはそこから分化した細胞の使用を提供する。本開示は、生着に使用するための、本明細書に記載するiPS細胞またはそこから分化した細胞も提供する。さらに、生着のための医薬の製造における、本明細書に記載するiPS細胞の使用も提供される。本明細書にいう「生着」は、本明細書に記載する方法によって作出される細胞を、それを必要とする対象に移すことを指す。移植片は、同種異系(この場合は、ある対象からの細胞が、別の対象に移される)、異種(この場合は、異なる種からの細胞が対象に移される)、同系(この場合は、細胞が遺伝的に同一なドナーからのものである)、または自家移植片(この場合は、細胞が、同じ対象上のある部位から異なる部位に移される)であることができる。したがって本明細書では、本明細書に記載するiPS細胞またはそこから分化した細胞を、それを必要とする対象に移す工程を含む、生着の方法も提供される。
【0078】
「対象」という用語は、ヒトを含む動物界のあらゆるメンバーを包含する。ある態様では、対象が動物である。もう一つの態様では、対象がヒトである。
【0079】
ある態様では、本明細書に記載する生着が、自家移植または非自家移植のための生着である。本明細書において使用する用語「自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によってiPS細胞を作製し、作製されたiPS細胞またはそこから分化した細胞を同じ対象に移し戻すことを指す。用語「非自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によってiPS細胞を作製し、作製されたiPS細胞またはそこから分化した細胞を異なる対象に移し戻すことを指す。iPS細胞から分化した細胞の場合は、iPS細胞をまずインビトロで分化させてから、対象に移す。
【0080】
さらにもう一つの局面において、本開示は、iPS細胞またはそこからの分化細胞の供給源としての、本明細書に記載する細胞の使用を提供する。
【0081】
本明細書に記載する方法および細胞は、幹細胞発生の細胞生物学および分子生物学の研究、幹細胞分化に際して役割を果たす遺伝子、成長因子および分化因子の発見、ならびに創薬に使用することができる。したがって、もう一つの局面において、本開示は、
a)本明細書に記載する方法によるiPS細胞またはそこから分化した細胞の培養物を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された細胞を分析に供する工程
を含む、iPS細胞またはそこから分化した細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【0082】
ある態様では、試験剤が、特定細胞タイプへのiPS細胞の分化に対するその効果について試験される化学薬品または他の物質、例えば薬物である。そのような態様では、分析が、分化細胞タイプのマーカーを検出することを含みうる。例えば、CD45、CD13、CD33、CD14、CD15、CD71、CD235a(グリコホリンA)、CD133、CD38、CD127、CD41a、ベータ-グロビン、HLA-DR、HLA-A,B,C、およびCD34、A2B5、ネスチン、GFAP、ベータ-チューブリンIII、オリゴ-4およびチロシンヒドロキシラーゼ。もう一つの態様では、試験剤が化学薬品または薬物であり、スクリーニングが、その薬剤の効力および安全性を評価するための一次スクリーニングまたは二次スクリーニングとして使用される。ある態様では、分析が、細胞増殖もしくは細胞死もしくは細胞分化、または関心対象の前駆細胞もしくは分化細胞の生成を分析することを含む。
【0083】
上記の開示は本開示を大まかに説明している。より完全な理解は、以下の具体的実施例を参照することによって得ることができる。これらの実施例は単に例示を目的として記載するのであって、本開示の範囲を限定しようとするものではない。形態の改変および均等物の代用も、状況に応じて適宜、考えられる。本明細書では具体的な用語を使用したが、そのような用語は説明することを意図しているのであって、限定を目的としているのではない。
【0084】
以下に非限定的な実施例を挙げて本開示を例証する。
【実施例】
【0085】
実施例1:皮膚線維芽細胞から血液への直接的転換
結果
Oct-4を形質導入したhFibsからのCD45+ve集団の出現
多能性に向かう再プログラミングには、奇形腫形成能を有する安定な誘導多能性幹細胞(iPSC)の希少なサブセット中にさまざまな中間体細胞の生成を包含する事象のカスケードが必要である(Takahashi et al.,2007;Takahashi and Yamanaka,2006)(図8a〜c)。これらの中間体の一部は、造血細胞に似た丸い細胞形態を有するコロニーを形成し(図9a)、ヒト汎造血マーカーCD45を発現するが(CD45+ve)、iPSCを示す多能性マーカーTra-1-60(Chan et al.,2009)の共発現を欠く(図9b〜c)。これらのヒト線維芽細胞(hFib)由来CD45+ve細胞はFACSによって単離することができ、異所性Oct-4を優先的に発現する一方、低レベルのSox-2およびNanogを示すことがわかった(図9d〜e)。これらの知見は、完全に再プログラミングされたiPSCとは異なり、hFib由来中間体が、ヒト造血マーカーCD45の獲得によって例証されるように、独特な系譜特異的表現型を獲得できたことを示している。
【0086】
CD45の獲得と、NanogまたはSox-2と比較してOct-4のレベルの方が高いこととに基づいて、成体皮膚hFibsおよび胎児(包皮)hFibsという2つの独立した供給源からコロニーが出現する時のOct-4の役割を、NanogまたはSox-2単独の役割と比較した(図1a)。形質導入および非形質導入hFibsを、形質導入後14〜21日の間、コロニー形成について調べた(図10に図解)。非形質導入体またはSox-2(hFibsSox-2)もしくはNanog(hFibsNanog)を形質導入したhFibsとは異なり、Oct-4を発現するhFibs(hFibOct-4)はコロニーを生じさせ(図1aおよび図10b)、樹立されたiPSCに検出されるレベルと同様のOct-4発現を呈した(図1b)。hFibsOct-4だけが造血様CD45+ve細胞を生じた(図1c;成体hFibs約38%;胎児hFibs約24%)。さらにまた、CD45+ve細胞(CD45+hFibsOct-4(21日目))は、複数のプローブセットでOct-4発現の増加を示し(図9c)、それに伴って線維芽細胞特異的遺伝子発現(Yu et al.,2007)が減少したことから(図2a)、独特な遺伝子シグネチャーの獲得が実証された。形質導入後4日目までに、約1000個の遺伝子がダウンレギュレートされ、同じ数の遺伝子がアップレギュレートされて、線維芽細胞表現型からCD45+ve 表現型への観察されたシフトをもたらした(表3)。総合すると、これらのデータは、Oct-4が、ヒト皮膚線維芽細胞の複数の供給源からのCD45+ve細胞出現を惹起するのに、ユニークに充分であることを示している。
【0087】
出現するCD45+ve hFibsをより良く特徴づけるために、初期造血に不可欠な誘導性成長因子に相当するFlt3(FMS様チロシンキナーゼ3)リガンドおよびSCF(幹細胞因子)を使って(Gabbianelli et al.,1995;Hassan and Zander,1996;Lyman et al.,1993)、CD45+veコロニー形成を増進しようと考えた。Flt3LおよびSCFによる処理は、無処理のhFibOct-4対応物と比較して、胎児および成体hFibsOct-4のどちらからのCD45+veコロニー出現頻度も、それぞれ4倍および6倍増加させたが(図2b〜c)、対照hFibsでは検出可能な効果がなかった(図2b〜cおよび図11)。これらの結果から、Oct-4形質導入hFibsに由来するCD45+ve細胞は、初期造血成長因子に応答することが示された。
【0088】
hFibsからのCD45+ve細胞派生は多能性状態を経ない
Oct-4のみの異所性発現が、Sox-2を内在的に発現する神経前駆細胞の多能性再プログラミングをもたらすことが示されている(Kim et al.,2009)。そこで、CD45+ve hFibsのOct-4誘導出現中に、多能性の誘導および維持に不可欠であることが知られている一群の遺伝子(Takahashi and Yamanaka,2006)の発現を調べた。Oct-4(POU5F1)のアップレギュレーション(図12a)を除けば、Oct-4形質導入はhFibsの多能性遺伝子発現プロファイルを変化させなかった(図2d)。さらに、関連POUファミリーメンバーOct-2(POU2F2)およびOct-1(POU2F1)も、影響を受けていなかった(図12b)。また、完全に再プログラミングされたiPSCの確立されたマーカー、例えばSSEA3およびTra-1-60レベルも、Oct-4誘導CD45+veコロニー出現中に、再プログラミング因子の完全なセット(Oct-4、Sox-2、Nanog、およびLin-28)を形質導入したhFibsからのiPSC派生(Yu et al.,2007)と比較して調べた。Oct-4のみを異所性発現させた場合、hFibsOct-4では、0日目から31日目までの間、SSEA3もTra-1-60も検出できなかったのに対し、多能性iPSCの樹立中はSSEA3およびTra-1-60レベルが徐々に増加した(図3a〜b、図12c〜e)。内胚葉、中胚葉、および外胚葉を生じさせることができる完全に再プログラミングされたiPSCとは異なり、同じ数のOct-4形質導入hFibsを免疫不全マウスに注入しても、奇形腫を生じさせることはできなかった(図2cおよび表1)。iPSCとは異なり、hFibsもCD45+vehFibsOct-4も不死化されなかったが、およそ7継代にわたって維持することができ(図13a)、腫瘍形成性トランスフォーミング因子c-Myc(Lebofsky and Walter,2007)の上昇を伴わなかった(図13b)。したがって、これらの結果は、hFibOct-4細胞が、検出可能な形質転換細胞または多能性細胞の表現型または機能的性質を伴うことなく、造血細胞運命選択に資する細胞運命決定を明示することを示している。
【0089】
CD45+vehFibsOct-4はインビトロおよびインビボ造血前駆細胞能力を有する
網羅的遺伝子発現解析は、CD45+vehFibsOct-4が、動員末梢血(M-PB)由来および臍帯血(UCB)由来の造血前駆細胞(CD34+ve細胞)に由来する単核球(MNC)とクラスター化することを示した(図14a〜b)。これは、CD45+vehFibsOct-4が、複数の血液細胞タイプの機能的造血能を有しうることを示唆している。機能的ヒト造血能力を明確にするために、成体および胎児CD45+vehFibsOct-4の両方を物理的に単離した後、ヒト成体造血前駆細胞発生を支持することが知られているサイトカインカクテル(Wang et al.,2005)と共に培養し(図4a)、続いてCD45+vehFibsOct-4を増大させた(図14c〜d)。その結果生じた子孫はCD45発現を保ち、骨髄特異的マーカーCD33およびCD13を獲得した(図4bおよび図15)。CD45+vehFibsOct-4子孫のサブフラクションは、CD14を発現する単球を含み(図4c〜dおよび図16a)、これは、M-CSFおよびIL-4に対する応答性により、食作用能を有するマクロファージへと機能的に成熟するように、さらに刺激することができる(Silverstein et al.,1977)。CD45+vehFibsOct-4由来単球は、FACS(図4e)および免疫蛍光分析(図4fおよび図16b)によって示されるとおり、FITC標識ラテックスビーズを貪食することができたが、非形質導入サイトカイン処理hFibsはこのユニークな性質を欠いていた(図4e)。複数のhFibs供給源(成体および胎児)に由来する造血サイトカイン処理CD45+vehFibsOct-4は、顆粒球マーカーCD15の発現(図4gおよび図17b)ならびに好中球、好酸球、および好塩基球を含む顆粒球サブタイプに関連する特徴的な細胞形態および多核形態(図4hおよび図17c)によって示されるように、単球細胞とは異なる顆粒球細胞も生じさせることができた(図17a)。サイトカインがない場合、CD45+vehFibsOct-4細胞はCD45発現を保ったが、骨髄特異的マーカーは有意に減少し、単球系譜および顆粒球系譜は存在しなかった(図18a〜b)。これらの結果は、CD45+vehFibsOct-4からの造血性増大と成熟にはサイトカイン刺激が必要であることを示している。
【0090】
成体または胎児皮膚供給源からのサイトカイン刺激CD45+vehFibsOct-4の約1/4が、造血前駆細胞能力を示唆するCD34およびCD45を共発現した(図4iおよび図19)。クローン増殖能ならびに顆粒球造血系譜および単球造血系譜への発生能を、標準的なコロニー形成単位(CFU)アッセイによって測定した(図4j〜k)。体細胞UCB由来造血前駆細胞と同様に、CD45+vehFibsOct-4は、比較的等しい能力でCFUを生じさせることができた(図4k〜l)。総合すると、このデータは、CD45+vehFibsOct-4が、インビトロでヒト骨髄系譜に成熟することができる機能的な造血前駆細胞様細胞を生じさせる能力を有することを示している。
【0091】
インビトロで検出された原始骨髄能に基づき、インビボ再構成能力を特徴づけるために、CD45+vehFibsOct-4子孫(形質導入後37日目)を、免疫不全NOD/SCID IL2Rγcヌル(NSG)マウスに、大腿骨内注入によって移植した(図5a)。CD45+vehFibsOct-4由来細胞は、ヒト細胞(HLA-A/B/C+ve)の存在によって示されるとおり、移植を受けた全てのNSGレシピエントに20%のレベルまで生着し(図5b)、一方、成体hFibsまたは食塩水の注入は、NSGマウスにおいて移植片を生じさせなかった(図5c)。CD45+vehFibsOct-4の生着のレベルは、生着したUCB由来前駆細胞およびM-PBに観察されるものに匹敵した(図5d)。NSGレシピエントにおいて一次再構成された細胞は、UCB由来およびM-PB由来生着細胞(図5e)と比較して、主として骨髄表現型を呈した(約41%-CD45+CD14+)(図5c)。インビボ造血生着の10週間後に(図5a)、ヒト細胞をレシピエントから単離し、持続的前駆細胞能力の尺度として、インビトロでCFUを形成する能力について分析した。生着細胞の一部は、ヒトUCBに由来する造血生着細胞と同様に、CFU開始能を保っており(図5f)、これはフローサイトメトリー分析によって立証された(図20a〜d)。生着の10週間後にヒト造血前駆細胞を生成する能力、および一次NSGレシピエントの対側骨における(低レベルではあるが)生着の存在(図21a)は、CD45+vehFibsOct-4由来細胞のインビボでの機能的能力を、さらに裏付けている。生着CD45+ve細胞は、レシピエントNSGマウスにおいて、限定的な二次移植片を有し(図21b)、それらが形質転換白血病幹細胞性(Hope et al.,2004)を有さず、したがって、腫瘍能を保つhPSC由来細胞(Amariglio et al.,2009;Roy et al.,2006)と比較すると、造血移植製剤として、より安全な代替物に相当することを示している。
【0092】
EPOはCD45+ve hFibsから赤血球能力および巨核球能力を誘導する
CD45+vehFibsOct-4から全ての骨髄系譜を導出することができるにもかかわらず、赤血球系細胞は検出されなかった。エリスロポエチン(EPO)は初期赤血球分化を誘導することが示されているので(Fried,2009)、CD45+vehFibsOct-4からの赤血球系細胞派生を誘導するためにこれを選択した。Oct-4を形質導入すると、hFibsは、赤芽球マーカーCD71を40%近い頻度で発現し(図6a)、EPO誘導後は、それが2倍増加した。また、EPOで処理すると、グリコホリンA(赤血球機能に必要な決定的膜タンパク質)の発現(図6b)およびヒト成体β-グロビンタンパク質(赤血球による酸素輸送にユニークに必要)の発現(図6c)も誘導された。非形質導入hFibs(図6c)およびhPSCに由来する造血細胞(図6c挿入図)はβ-グロビンタンパク質レベルを欠いていた。EPOの非存在下では、CD45+vehFibsOct-4においてβ-グロビン転写産物だけが発現され(図5d)、β-グロビンタンパク質は検出できなかった(図6c)。対照的に、そしてまた、hPSCに由来する造血細胞とは異なり(Cerdan et al.,2004;Perlingeiro et al.,2001)、CD45+vehFibsOct-4に由来する造血細胞は、胚型(ゼータ)グロビン発現を欠き、あまり高レベルでない胎児型(イプシロン)グロビンを発現するにすぎなかった(図6d)。EPO処理CD45+vehFibsOct-4は、原始赤血球と成熟赤血球(脱核)の形態をどちらも呈し(図6e)、単球または顆粒球前駆細胞能力の低下を伴わずに、UCBで観察されるものに似たコロニー形成(BFU-E)およびCFU-混合コロニー(CFU-Mix;二重骨髄および赤血球能力)によって検出される赤血球前駆細胞出現を可能にした(図6f〜g、図22a〜b)。BFU-E能および成体型β-グロビンタンパク質と脱核赤血球の両方の存在とに基づけば、EPO処理CD45+vehFibsOct-4は、造血細胞運命へのhFibsの転換中に、二次的(成体型)であって一次的(胚性)でない造血プログラムを利用するのだろう(Orkin and Zon,2002)。
【0093】
赤血球系譜および巨核球系譜拘束は一緒に起こり、潜在的に、共通のプレカーサー集団から発生することが、研究によって示されている(Debili et al.,1996;Klimchenko et al.,2009)。そこで、CD45+vehFibsOct-4のEPO刺激に続く巨核球系譜の出現を、患者における巨核球回復を予測するための代用尺度として役立つ巨核球(Mk)-CFUの検出に利用することができるインビトロアッセイ(Strodtbeck et al.,2005)を使って調べた。EPOによるCD45+vehFibsOct-4の処理は、Mk特異的抗原GPIIb/IIIa(CD41)陽性コロニーの存在によって示されるとおり、巨核球(CFU-Mk)の出現をもたらしたが(図6h-右図および図6i)、EPOによる刺激を受けていないCD45+vehFibsOct-4(図6h-中図、図6i)または対照hFibs(図6h-左図、および図6i)では、この造血前駆細胞タイプが存在しなかった(GPIIb/IIIaを欠く非CFU-Mk)。これらのデータは、CD45+vehFibsOct-4が赤血球能および巨核球能をどちらも有することを示している。EPOによって追加の造血系譜能力を明らかにすることができたことから、CD45+vehFibsOct-4は、生理学的適格性と、ヒト成体骨髄区画に由来する造血前駆細胞に似た成長因子に対する応答性を有しうる(Wojchowski et al.,2006)。
【0094】
hFibsにおける造血プログラム活性化中のOct-4の役割
hFibsの造血転換中のPOUドメイン含有タンパク質Oct-4の役割をより広く理解するために、遺伝子発現プロファイルならびに造血因子、非造血因子および多能性因子のOct-4プロモーター占有を、CD45+ve細胞の出現および成熟の時間経過に沿って調べた(図7a)。網羅的遺伝子発現解析は、転写活性化および転写抑制の両方にいくつかの変化を示した。Oct-4形質導入後4日目には早くも、代謝プロセスおよび発生プロセスを含む数多くの分子パスウェイに有意な変化が起こる(図23a)。さらにまた、CD45+ve細胞出現の経過に沿った3つの時点(hFibs(0日目)、CD45+vehFibsOct-4(4日目)およびCD45+vehFibsOct-4(21日目))で調べたhFibsの網羅的遺伝子発現は、線維芽細胞特異的遺伝子発現(Yu et al.,2007)の減少を示したが(図7b)、予想できるOct-4の増加(POU5F1特異的プローブセット)を除けば、多能性遺伝子の誘導は起こらなかった(図7c)。Oct-4形質導入hFibsは、直ちに、サイトカインに対する応答性に必要ないくつかの造血サイトカイン受容体(それぞれFLT3LおよびSCFのFlt3受容体およびc-kit受容体を含む)のアップレギュレーションを示した(図7d)。また、初期ヒト造血発生に関連する転写因子もアップレギュレートされた(図7eおよび図23b〜c)。これらのデータは、Oct-4が、hFibsにおいて、造血細胞運命転換を編成する分子変換のカスケードを誘導することを示している。
【0095】
基底状態にあるhFibsのバルク集団は、ほとんど検出不可能なレベルの、多能性に関連する遺伝子、例えばNanogおよびSox-2、または造血特異化に関連する遺伝子、例えばSCL/Tal-1(T細胞急性リンパ球性白血病タンパク質1)、Runx1(Runt関連転写因子1)、C/EBPα(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質アルファ)、GATA1(GATA結合因子1)またはPU.1/Spi-1(Feng et al.,2008;Friedman,2007;Ichikawa et al.,2004;Shivdasani et al.,1995)を有する(図7fおよび図24a)。しかし、Oct-4による形質導入は、SCL、C/EBPα、GATA1、およびRunx1を含む特異的造血遺伝子の実質的な増加を伴った(図7f)。興味深いことに、原始血液発生を調節することが先に示されている造血関連遺伝子PU.1およびMixL1(Feng et al.,2008;Koschmieder et al.,2005;Ng et al.,2005)は差次的に調節されなかったことから(図7e〜fおよび図23および24b〜c)、これらの遺伝子はhFibsからの血液細胞運命への転換に必須ではないらしいことが示唆された。多能性状態からの中胚葉遷移に関係する遺伝子、例えばブラキュリおよびGATA2などの発現は、非形質導入hFibsにもCD45+vehFibsOct-4にも存在しなかったことから(図7f)、hFibsからの造血特異化は、hPSCからの中胚葉特異化(Tsai et al.,1994;Vijayaragavan et al.,2009)に似た胚性プログラムを伴わないことが示された。造血成熟をもたらすサイトカイン処理後のCD45+vehFibsOct-4の分子解析(D37)では、Oct-4レベルも低下したが、Runx1、SCL、およびC/EBPα(図24b)のレベルは維持され、一方、成体型グロビンの発現は、ヘモグロビン-アルファ、ベータ、およびデルタを含めて全て、誘導された(図24cおよび図6d)。
【0096】
Oct-4と同様に、POUドメイン含有タンパク質Oct-1および-2も、血液細胞の特異化および成熟に関連付けられる造血特異的遺伝子を調節することができる(表2)(Boyer et al.,2005;Ghozi et al.,1996;Kistler et al.,1995;Rodda et al.,2005;Sridharan et al.,2009)。そこで、CD45+ve hFibsが出現する際のPOUドメイン含有タンパク質の遺伝子発現プロファイルを評価した。CD45+ve細胞出現中にOct-4(POU5F1)の発現は増加し、続いてサイトカイン処理すると有意に減少したが、Oct-2(POU2F2)およびOct-1(POU2F1)の発現レベルには変化がなかったことから(図7g)、Oct-4は他のOctファミリーメンバーをターゲットにしないことが示唆された。しかしそれでも、Oct-1、-2および-4は、細胞コンテクスト特異的に同じオクタマー(POU)結合配列と結合する潜在能を有することから、Oct-4は、Oct-1および-2と類似する遺伝子ターゲット(Boyer et al.,2005;Kistler et al.,1995;Rodda et al.,2005;Sridharan et al.,2009)と結合し、それらを潜在的に調節する能力を有する可能性が生じる(図7hおよび表2)。そこで、Oct-4が造血転換を誘導する際の考えうる機序について、より多くの洞察を得るために、共通するOct1、2または4結合配列をその推定プロモーター/エンハンサー中に含有する造血遺伝子、非造血遺伝子、および多能性遺伝子のOct-4占有を調べた(図7h、表2)。 遺伝子発現の変化(図7f)と合致して、Runx1、SCL、およびGATA1は、かなりのOct-4占有を示した(図7i)。これは、部分的に再プログラミングされたマウスiPSCや、Oct-4だけを発現するマウス線維芽細胞において、以前に報告された現象である(Sridharan et al.,2009)。また、CD45+vehFibsOct-4は、CD45プロモーターにおけるOct-4占有の増加も示した(図7i)。CD45+ve細胞出現中の造血ターゲットのOct-4占有の特異性を評価するために、Oct-1または-2と結合することが以前に示された(したがってOct-4と結合する能力を有する)非造血関連プロモーターも調べた。網羅的遺伝子発現データ(図14a)と合致して、ハウスキーピング遺伝子Gadd45aおよびPol2raは各々のプロモーターにおけるOct-4占有の増加を呈し、一方、中胚葉発生と関連する非造血遺伝子Myf5およびNkx2.5は、Oct-4形質導入hFibsでもCD45+ve細胞でも有意なOct-4占有を示さなかった(図7j)。しかし、ヒト多能性幹細胞(hPSC)では、CD45+vehFibsOct-4ではOct-4によって結合されないNanog、c-Myc、およびTbx3などのプロモーターのネットワークを、Oct-4がユニークに占有したことから(図7k)、Oct-4 DNA占有は細胞コンテクスト依存的であるという考えがさらに裏付けられた。Oct-4は自分自身のプロモーターと結合するが(図7k)、Oct-2の遺伝子発現プロファイルと合致して(図12a〜b)、Oct-2プロモーターとは結合しない(図7i)。これらの分析にもかかわらず、Oct-1、-2および-4の間でオクタマー結合配列は保存されているので(表2)、Oct-4の異所性発現が、このプロセス中にOct-1または-2の代用物として作用しうる可能性は、依然として残る。総合すると、時間的遺伝子発現分析は、ここに示したOct-4占有研究と共に、異所性Oct-4発現が、血液細胞運命転換を支持するhFibsにおける造血プログラムの誘導をもたらすことを、実証している。
【0097】
考察
本実施例は、ヒト成体皮膚および胎児包皮線維芽細胞が、Oct-4依存的細胞プログラミングにより、多能性状態を経ることなくまたは中胚葉経路の活性化を伴うことなく(Tsai et al.,1994;Vijayaragavan et al.,2009)、骨髄、赤血球および巨核球血液細胞運命の多能性造血細胞に直接転換されうることを実証している。さらにまた、一次造血から二次造血への遷移が、胚型ヘモグロビン発現から成体型ヘモグロビン発現へのシフトによって叙述されることを考えると(Orkin and Zon,2002)、CD45+ve線維芽細胞は、hPSC由来の造血細胞とは異なり(Chang et al.,2006)、もっぱら成体型のグロビンタンパク質および造血遺伝子プロファイルを獲得することが実証され、それは、この転換プロセス中に、二次造血プログラムが動員されていることを示している。
【0098】
マウス線維芽細胞から神経細胞、心臓細胞およびマクロファージ様細胞へのマウス線維芽細胞の転換は最近の報告によって実証されているが(Feng et al.,2008;Ieda et al.,2010;Vierbuchen et al.,2010)、本実施例は、ヒト線維芽細胞から、単能性細胞タイプに対して多能性細胞タイプを作製できることをユニークに実証し、それゆえに、これらの多能性血液細胞のさらなる臨床応用を立証する。臨床的移植研究では、骨髄破壊治療後の好中球、赤血球、および巨核球の回復のために平均的な60kgの患者において迅速な生着を達成するには、最低1.5×108個のCD34+ve血液細胞(造血前駆細胞が濃縮されたもの)が必要であると見積もられている(Bender et al.,1992;Feugier et al.,2003)。造血細胞運命へのこの直接転換アプローチを使った収率、増大能力および臨床的実行可能性を考慮すると(表4)、本方法は、自家細胞置換治療の合理的基礎になりうる。
【0099】
本実施例は、造血特異的サイトカイン受容体および転写因子のアップレギュレーションによって、線維芽細胞が造血表現型を獲得することを可能にするという、今まで知られていなかったOct-4の役割を明らかにする。この表現型の獲得は、造血特異的遺伝子(すなわちSCL、Runx1、CD45、およびGATA1)の調節座へのOct-4の直接的結合と関連付けられる(Boyer et al.,2005;Ghozi et al.,1996;Kwon et al.,2006;Sridharan et al.,2009)。Oct-1およびOct-2は成体リンパ球新生において役割を果たすことが示されているが(Brunner et al.,2003;Emslie et al.,2008;Pfisterer et al.,1996)、Oct-4が血液発生と関連付けられたことは今までなかった。Oct-1、-2および-4の間でネイティブまたは予想オクタマー結合配列が高度に保存されていることを考えると、Octタンパク質間で共有されているPOUドメインは、造血細胞運命へのヒト線維芽細胞転換に重複した役割を有すると予想される。ただし、Oct-4は線維芽細胞を骨髄および赤血球前駆細胞に転換するが、リンパ系造血細胞運命は存在しなかった。それでもなお、Oct-4、-1および-2の異所性発現は、B細胞およびT細胞発生を支持する特殊な培養条件と組み合わせれば、線維芽細胞からのリンパ系転換を支持するだろう。
【0100】
このように、本発明者らは、成体ヒト皮膚線維芽細胞は、Oct-4だけを形質導入することにより、造血再構成能力を有するCD45+造血細胞に直接転換できることを実証した。適正な刺激を受けたCD45+Oct-4形質導入細胞は、多能性状態または中胚葉前駆細胞状態を経ることなく、造血前駆細胞ならびに成熟血液細胞、例えばマクロファージ、好塩基球、好中球、好酸球、巨核球および赤血球系細胞を生じさせることができる。さらにまた、EPO処理したCD45+Oct-4形質導入細胞におけるベータ-グロビンの存在は、その細胞が、iPSCおよびhESCで観察される一次造血ではなく二次造血を利用しているという証しになる。本研究は、造血細胞を派生させるための新規方法を明らかにしている。そのような細胞は、インビトロ適格性もインビボ適格性も有することから、例えば自家移植などのための、迅速、安価および安全な代替物になることができる。
【0101】
方法
細胞培養-
初代ヒト皮膚成体線維芽細胞は胸部皮膚組織に由来し、胎児線維芽細胞は包皮組織に由来し、まず、Oct-4レンチウイルスベクターによる形質導入前は、線維芽細胞培地(10% v/v FBS(ウシ胎児血清、HyClone)、1mM L-グルタミン(Gibco)、1% v/v 非必須アミノ酸(NEAA;Gibco)が補われたDMEM(Gibco))中で維持した。Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、16ng/ml bFGF(BD Biosciences)および30ng/ml IGFII(Millipore)を含有する10%ノックアウト(knockout)血清代替物(Gibco)、1%非必須アミノ酸(Gibco)、1mM L-グルタミン(Gibco)、および0.1mMβ-メルカプトエタノールが補われた完全F12培地(F12 DMEM;Gibco)中、または16ng/ml bFGFおよび30ng/ml IGFIIを含有し、300ng/ml Flt-3(R&D Systems)および300ng/ml幹細胞因子(SCF;R&D Systems)が補われた完全F12培地中、マトリゲル・コート・ディッシュ上で、21日間、維持した。生成するCD45+ve Oct形質導入細胞を、低接着24ウェルプレート上に移し、80%ノックアウトDMEM(KO-DMEM)(Gibco)、20% v/v非熱不活化ウシ胎児血清(FCS)(HyClone)、1% v/v非必須アミノ酸、1mM L-グルタミン、および0.1mMβ-メルカプトエタノール(Sigma)からなる造血培地中で、16日間培養した。培養物を、サイトカイン(SCF、G-CSF、Flt3、IL-3、IL-6およびBMP-4;R&D Systems)を含む造血分化培地で置き換えるか、赤血球/巨核球分化の場合は、培地に造血サイトカイン+3U/ml EPOを補い、4日ごとに交換した後、分子分析および機能分析のために収集した。
【0102】
レンチウイルス作成-
Oct-4、Nanog、Sox-2およびLin-28のcDNAを含有するレンチウイルスベクター(pSIN)をAddgeneから入手した。これらのベクターを293-FTパッケージ細胞株にビラパワー(virapower)と共にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後にウイルス上清を収集し、超遠心分離してウイルスを濃縮した。線維芽細胞形質導入には8μg/mlポリブレンの存在下で等量の各ウイルスを使った。
【0103】
レンチウイルス形質導入-
単一の転写因子を含有する細胞を作製するために、ヒト成体皮膚線維芽細胞(Fibs)(胸部皮膚に由来するもの;年齢30〜40歳)または胎児包皮Fibsを、10,000細胞/ウェルの密度で、マトリゲルコート12ウェルプレートに播種した。播種の24時間後に、Fibsを、Oct-4またはNanogまたはSox-2を発現するレンチウイルスに感染させた(NanogおよびSox-2形質導入は成体皮膚Fibsについてのみ行った)。次に、形質導入された線維芽細胞を、300ng/ml Flt-3および300ng/ml SCFが補われた16ng/ml bFGFおよび30ng/ml IGFIIを含有する完全F12培地中、または16ng/ml bFGFおよび30ng/ml IGFIIのみを含有する完全F12培地中で、最長21日まで成長させた。出現するCD45+veコロニーを感染の14〜21日後に計数した。コロニーを手作業で拾い、マトリゲル・コート・ウェル上で維持した。分子分析を、精製非形質導入Fibs(D0)、4日目(D4)のOct-4形質導入Fibs、21日目(D21)のCD45+ve Fibs、および37日目(D37)の造血サイトカイン処理したまたは無処理のCD45+ve Fibsについて行った。Oct-4形質導入後4日目は、次に挙げるいくつかの基準に基づき、初期事象時点として選択した:a,形質導入後の回復のための最適な時間;b,培養内での目に見える形態変化;およびc,正常な細胞周期動態の再開。4日目のOct-4形質導入Fibs(D4)を、終夜のピューロマイシン選択によって単離し(Oct-4ベクターはピューロマイシン耐性カセットを含有する)、試料の純度をOct-4に関する染色と、それに続くフローサイトメトリーを使ったOct-4発現解析によって検証したところ、分子分析に使用した試料は99%のOct-4レベルを呈した。21日目(D21)および37日目(D37)のCD45+veFibsOct-4は、それらのCD45発現に基づいて単離した。D21およびD37細胞をCD45-APC抗体(BD Biosciences)で染色し、FACSAria II(Becton-Dickinson)を使ってソートしたところ、分子分析に使用した試料は99%のCD45レベルを呈した。
【0104】
再プログラミングの誘導-
線維芽細胞から再プログラミングされた細胞を作製するために、細胞を、10,000細胞/ウェルの密度で、マトリゲルコート12ウェルプレート上に播種した。播種の24時間後に、線維芽細胞に、Oct-4/Nanog/Sox-2/Lin-28を発現するレンチウイルス(Yu et al.2007)を形質導入した。次に、形質導入された線維芽細胞を、30ng/ml IGFIIおよび16ng/ml bFGFが補われたF12培地で成長させた。再プログラミングされたiPSCコロニーを、感染の4週間後に計数した。コロニーを手作業で拾い、マトリゲル・コート・ウェル上で維持した。
【0105】
生細胞染色-
生細胞染色のために、滅菌Tra-1-60抗体(Millipore)を滅菌Alexa Fluor-647と室温でプレコンジュゲートした。再プログラミングされたコロニーをF12培地で1回洗浄し、Tra-1-60-Alexa 647抗体と共に、室温で30分間インキュベートした。次に培養物を2回洗浄して未結合の抗体を除去した。細胞をオリンパスIX81蛍光顕微鏡で可視化した。
【0106】
フローサイトメトリー-
多能性マーカー発現については、細胞をコラゲナーゼIVで処理してから、細胞解離バッファー中に37℃で10分間入れた(Gibco)。その細胞懸濁液を、SSEA3抗体(1:100)(Developmental Studies Hybridoma Bank、mABクローンMC-631、University of Iowa、アイオワ州アイオワシティ)またはTra-1-60-PE(1:100)抗体(BD Biosciences)で染色した。SSEA3染色にはAlexa Fluor-647ヤギ抗ラットIgM(1:1000)(Molecular Probes、Invitrogen)を二次抗体として使用した。生細胞を7-アミノアクチノマイシン(7AAD)排除によって同定してから、FACSCalibur(Becton-Dickinson)を使って細胞表面マーカーについて分析した。収集した事象をFlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。
【0107】
造血分化培地からの細胞を16日目にTrypLE(Gibco)で解離し、造血前駆細胞および成熟造血マーカーの発現について分析した。単一細胞を、以下の蛍光色素コンジュゲートモノクローナル抗体(mAb)で染色することによって造血細胞を同定した:CD34-FITCおよびAPC標識またはFITC標識抗ヒトCD45(BD Biosciences)、FITC-抗CD33(BD Pharmingen)、PE-抗CD13(BD Pharmingen)、PE-またはFITC-抗CD71(BD Pharmingen)、FITC-抗HLA-A/B/C(BD Pharmingen)、PE-抗CD15(BD Pharmingen)、PE-抗CD15(BD Pharmingen);PE抗CD14(BD Pharmingen)、FITC-またはPE-抗GlyA(BD Pharmingen)、およびAPC-またはPE-抗ベータ-グロビン(SantaCruz Biotech)。mAbおよびそれらの対応するアイソタイプを1〜2mg/mlで使用し、個々の抗体について最適な作業希釈液を決定した。血液細胞生成(hemogenic)表現型および造血表現型を有する細胞の頻度を、7AAD(Immunotech)排除による生細胞で、FACSCalibur(Beckman Coulter)を使って決定し、FlowJo 8.8.6ソフトウェアを使って解析を行った。
【0108】
RT-PCRおよびq-PCR-
Norgen RNA単離キットを使って全RNAを単離した。次に、RNAを、スーパースクリプト(superscript)III(Invitrogen)を用いるcDNA合成に供した。定量PCR(qPCR)は、Platinum SYBR Green-UDPミックス(Invitrogen)を使って行った。試料を分析するために、閾値をGus-B(ベータ-グルクロニダーゼ)(Oschima et al.1987)の検出に設定し、次に内部対照GAPDHに対して規格化した。この実験のベースラインは、線維芽細胞において観察される遺伝子発現レベルに設定した。この線維芽細胞の出発集団内での遺伝子の一部の発現を考慮して、これらの細胞の遺伝子発現パターンを含めた。したがってデータは、デルタサイクル閾値(ΔC(t))対デルタΔC(t)(ΔΔC(t))として表す。(qPCRプライマー配列は表5に記載する)。
【0109】
ALL IN ONE単離キット(Norgen)を使ってゲノムDNAを単離した。組込み研究については、1回のPCR反応に150ngのゲノムDNAを使用した。PCR反応は2×PCRマスターミックス(Fermentas)を使って行った。
【0110】
Affymetrix解析-
ヒト皮膚線維芽細胞(2レプリケート)、ピューロマイシン選択4日目Oct-4形質導入線維芽細胞(2レプリケート)およびソートしたCD45+ve細胞(2レプリケート)から、全RNA精製キット(Norgen)を使って全RNAを抽出した。Bioanalyzer(Agilent Technologies、米国カリフォルニア州サンタクララ)を使ってRNAの完全性を評価した。試料の標識とHuman Gene 1.0STアレイ(Affymetrix)へのハイブリダイゼーションは、Ottawa Health Research Institute Microarray Core Facilit(OHRI;カナダ・オタワ州)によって行われた。Affymetrixデータは、Affymetrix Expression Consoleに実装されているロバスト・マルチ-アベレージ(robust multi-average:RMA)法で抽出し、規格化し、要約した。データの規格化、シグナル強度の抽出およびプローブレベル解析のために、CELファイルをdChIPソフトウェア(Li and Wong 2001)にインポートした。
【0111】
クロマチン免疫沈降-
ChIPは先に記述されているように行った(Rampalli et al.2007)。簡単に述べると、ヒト多能性細胞(H9およびiPSC1.2)、ヒト皮膚線維芽細胞、ピューロマイシン選択4日目Oct-4形質導入細胞、ソートした21日目CD45+ve細胞を、1%ホルムアルデヒドを使って架橋した。0.1%SDSを含有するバッファー中でクロマチンを消化して、およそ1000bp長のフラグメントを得た。超音波処理したDNAを、抗Oct4(ChIP用抗体;Cell Signaling Technology)および抗ウサギIgG抗体(Santacruz Biotechnology)を用いる免疫沈降に供した。免疫沈降したDNAをさらに脱架橋(reverse cross-link)し、精製し、UDG-Platinium Syber Greenミックス(Invitrogen)を用いるqPCR解析に供した。プロモーター特異的ChIPプライマーを表6に列挙する。相対的濃縮度を計算するために、対照抗体に観察されるシグナルを、特異的抗体から検出されるシグナルから差し引き、得られた差を、50分の1のChIP投入材料から観察されたシグナルで割った。
【0112】
巨核球アッセイ-
ヒト巨核球を検出するために、MegaCult(商標)-C Complete Kit with Cytokines(Stem Cell Technologies)を使用した。巨核球の派生は、キットに同梱されている説明書に従って行った。キットには、巨核球CFUの最適な成長のために前もって選択されたトロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)、IL-6、IL-11およびSCFなどの構成要素、成長用のチャンバースライド、およびその後の免疫細胞化学染色のための抗体が含まれている。手短に言えば、10,000個のCD45+ve EPO処理細胞を、上述した成長因子のカクテルを含有するMegaCult培地にプレーティングした。ヒトCFU-Mkは10〜15日目までに検出可能になり、続いてそれらをプロトコールに従って固定し、染色した。二次ビオチン化抗体に連結されたMk特異的抗原GPIIb/IIIa(CD41)-アルカリ・ホスファターゼ・アビジン・コンジュゲート検出系を使用した。この場合、Mk-CFUは赤/ピンク色であった。
【0113】
Cytospin-
1000個のCD45+ve Oct-4形質導入細胞を冷2%FBS/PBSで2回洗浄し、500μlの冷1%FBS/PBSに希釈した。試料をCytospinの適当なウェルにローディングした。試料を500rpmで5分間遠心して、スライドに付着させた。スライドをメタノールで1分間固定し、30分間乾燥させた。次に、スライドをGiemsa-Wright染色液で3分間染色した後、PBS中に10分間置き、蒸留水中で手早く洗浄した。スライドを終夜乾燥させ、封入材(Dako)で封入した。スライドをオリンパスIX81顕微鏡で見た。
【0114】
マクロファージ食作用アッセイ-
フルオレセイン(FITC)コンジュゲート・ラテックス・ビーズ(Sigma)を、IL-4およびM-CSFで処理したCD45+FibsOct-4細胞に由来する単球による食作用を分析するための粒子トレーサーとして使用した。食作用を測定するために、3%FBS/PBSに懸濁した10μlのパックトビーズ(packed beads)を、テフロンチューブ中の106個の細胞に加えた。37℃で90分間のインキュベーション後に、遊離のビーズを除去するために、3%FBSおよび0.1%EDTAを含有する冷PBSで、細胞を3回洗浄した。次に、FITCビーズの取り込みを伴うCD45の発現を検出するために細胞を標識し(APCコンジュゲートCD45 mAb)、FACSCalibur(BD)を用いるフローサイトメトリーで分析するか、組織培養用スライド(VWR)上に1000個の細胞をサイトスピンすることによって視覚化し、オリンパスIX81蛍光顕微鏡で見た。
【0115】
メチルセルロースコロニー形成アッセイ-
細胞を、FACSAria IIでソートした(Becton-Dickinson)CD45+CD34+細胞1,000個または全細胞(EPO処理)5000個の密度で、1mlのMethocult GF H4434(Stem Cell Technologies、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)にプレーティングした。14日間の培養後に、標準的形態基準を使ってコロニーをスコア化し、FACSCalibur(Becton-Dickinson)を使って造血表面マーカーについて分析した。収集した事象はFlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。異種移植由来生着細胞からのコロニー派生については、細胞を、まず最初にHLA-A/B/C(BD Biosciences)に基づいてソートし、次に、ヒト特異的抗CD45(BD Biosciences)を使って、CD45発現についてソートした。次に、HLA-A/B/CおよびCD45二重陽性細胞を、Methocult GF H4434に、1000細胞/mlの密度でプレーティングした。さらに、生着細胞に由来するコロニーを、FACSAria II(Becton-Dickinson)を使って、造血表面マーカーについて分析した。収集した事象は、FlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。
【0116】
異種移植アッセイ-
移植の24時間前に、NOD/SCID IL2Rγcヌル成体マウス(NSG)に、325ラドを亜致死的に照射した。5.0×105個のCD45+ve Oct形質導入(D37)またはヒト皮膚線維芽細胞またはヒト動員末梢血またはヒト臍帯血系譜枯渇(lineage depleted)細胞を大腿骨内注入によって移植した。10週間後に、動物を選別し、注入を受けた大腿骨、対側骨および脾臓からの骨髄(BM)を、フローサイトメトリー(FACSCalibur、Becton-Dickinson)と、それに続くFlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使ったデータ解析により、ヒト細胞の存在について分析した。HLA-A/B/CおよびCD45について陽性な細胞を、CD14などの造血系譜特異的マーカーの発現について分析した。二次移植については、全生着骨髄細胞を、一次移植について説明した成体照射NSGマウスに、静脈内移植(IV注入)した。次に、生着細胞からのゲノムDNAを、次に挙げるヒト17番染色体のα-サテライトに特異的なプライマー:
により、従来のPCRを使って分析した。
【0117】
奇形腫アッセイ-
全ての手法とプロトコールはMcMaster University Animal Care Councilによって承認された。成体皮膚線維芽細胞、胎児皮膚(包皮)線維芽細胞、CD45+ve Oct-4形質導入成体皮膚線維芽細胞、CD45+ve Oct-4形質導入胎児線維芽細胞およびiPSC1.1〜1.4を、コラゲナーゼIVで5〜10分間処理した後、収集し、食塩水で2回洗浄し、食塩水に再懸濁した。1試料あたり500,000個の細胞を、雄NOD-SCIDマウスに精巣内注入した。最初の注入の10〜12週間後にマウスを屠殺した。奇形腫を摘出し、パラフィンに包埋し、5μm間隔で薄切した後、キシレン中で脱パラフィン化し、段階的な一連のアルコール濃度で処理した。試料を、ヘマトキシリンおよびエオシンまたはOct4で染色してから、脱水およびキシレン処理を行った。Permountを使ってスライドを封入し、Aperio Scan Scopeを使ってスライドをスキャンすることによって撮像し、Image Scope v9.0.19.1516.ソフトウェアを使って、画像をキャプチャした。転移細胞の存在を調べるために、肺、脾臓、肝臓、脳および腎臓を含むさまざまな臓器からも組織を集めた。各胚葉サブタイプに特異的な、厳格な組織学的および形態学的基準に基づいて、組織タイピングを行った。骨などの中胚葉系譜は、骨細胞および骨片(bone spicule)の存在を使って同定し;軟骨は軟骨細胞の存在および細胞外マトリックスの特異的染色によって同定した。腸管腔などの内胚葉系譜は、管腔上皮における杯細胞の存在によって同定した。皮膚などの外胚葉系譜は、特色のある細胞層形態(すなわち層状)に基づいて同定し;脳または神経管は、特異的な組織学的基準に基づいて同定した。胚葉の存在および組織タイピングはMcMaster Pathologyによって確認された。
【0118】
統計解析-
全ての検定はInStat Version 3.0a統計ソフトウェア(GraphPad Software)を使って行った。平均およびs.e.mを含む記述統計を、一元配置ANOVA、独立サンプル両側t検定と共に使用して、有意差を決定した。p<0.01を有意と見なした。
【0119】
実施例2:誘導多能性幹細胞への皮膚線維芽細胞の再プログラミング
結果
ヒト皮膚線維芽細胞は希少な亜集団を含有する
転写因子Oct4およびSox2は共通するDNA結合モチーフを持っており、多能性ネットワークに関連付けられる遺伝子のエンハンサーおよびプロモーター領域を調節する(Loh et al.2006;Kim et al.2008)。ヒト胚性幹細胞(hESC)およびヒト線維芽細胞(hFibs)に、三量体化(C3+)Oct4エンハンサーエレメントを含有する最近報告されたEOSレンチウイルスベクター(図25a)を形質導入した(Hotta et al.2009)。GFP発現がpGKプロモーターによって制御される陽性対照ベクターを使うと、GFP発現(GFP+ve)細胞は顕微鏡で容易に検出することができ(図25b)、フローサイトメトリーで定量されるhFibsまたはhESCへの総レンチウイルス形質導入効率は50〜60%だった(図25cおよび図32a)。プロモーターエレメントを欠く陰性対照ベクターを使用した場合、hFibsでも、hESCでも、顕微鏡(図25b)またはフローサイトメトリー分析(図25c)を使ってGFP発現を検出することはできなかった。予想どおり、C3+EOSベクターが形質導入されたGFP+ve hESCは高頻度に観察された(図25b、cおよび図32b)。しかし、成体胸部由来hFibsへのC3+EOS形質導入は、GFPを発現する皮膚線維外細胞の希少な集団を明らかにした(図25b、c)。希少なGFP+ve hFibsを示すC3+EOSを形質導入したhFib培養物の共焦点Zスタックイメージングは、培養物中に存在する他のhFibsとは形態的にも空間的にも異なっている(図32c)。hFibsのこの亜集団の検出は、個々の細胞における高コピー数組込みによるものではなかった。というのも、異なる濃度のEOSレンチウイルスを使ってhFibsの形質導入を行ってもGFP+ve hFibsの頻度は変化せず、一方、個々のGFP+ve hFibsは、細胞単位では、ウイルス濃度とは無関係に、識別することが不可能なGFPレベルを発現したからである(図32d〜f)。インビトロ培養線維芽細胞の組成はそれが由来する組織に依存して変動することを考え、ヒト新生児包皮由来および成体肺由来の線維芽細胞というユニークな供給源(どちらも組織特異的な皮膚幹細胞集団を含有する毛包を欠くもの)を調べた(Terunuma et al.2008)。成体胸部由来皮膚hFibsと同様に、C3+EOSベクターを形質導入した包皮および肺線維芽細胞は、GFP+veサブセットを0.5〜4%の頻度で含有したことから、GFP+veサブセットの存在はヒト線維芽細胞供給源に依存しないことが示された(図25d、e)。
【0120】
hFibs間でのウイルス取り込みの潜在的バイアスを除外するために、hFibsを、一次GFP-ve hFibサブフラクションから開始して、C3+EOSレンチウイルスで連続的に感染させた(図32g)。一次GFP-ve hFibsの二次EOSレンチウイルス形質導入の結果として、1.34%のGFP+ve出現が観察されたことから(図32g)、低頻度のこれらのユニークな細胞は、50%の総形質導入効率という初期限界ゆえに検出されないことが示された(図25c)。二次GFP-ve hFibsのFACS単離と、それに続く、それ以降のC3+EOSレンチウイルスの形質導入は<0.1%のGFP+ve細胞頻度を示したのに対し、C3+EOSレンチウイルスによる三次および四次形質導入がGFP Octレポーター発現の増加を示すことはできなかったことから(図32g)、C3+EOS発現に関してコンピテントな全てのhFibsが既に飽和していたことが示された。逐次的に形質導入されたGFP-ve hFibsが単にレンチウイルス感染に対して抵抗性であっただけではないことを保証するために、四次GFP-ve hFibsに陽性対照ベクターpGK-EGFPを形質導入したところロバストなGFP+ve hFibsが生じたことから、これらの細胞はレンチウイルス感染に関してコンピテントであることが確認された(図32h)。これらの研究は、観察されたhFibsのGFP+ve亜集団が、個々の細胞における高コピー数組込みによるものでも、亜集団間の感染率の相違によるものでもないことを実証している。
【0121】
C3+EOSレポーター発現および組み込まれたプロウイルスの存在を分子的に検証するために、EOSベクターを形質導入したGFP+veおよびGFP-ve hFibsを、前もって99.99%の純度で単離した(図25f)。単離された集団を使って、プロウイルスはどちらのフラクションにも存在することが示されたが、GFP転写産物発現はGFP+ve hFibsだけに存在し、GFP-ve hFibsには存在しなかった(図25g)。組み込まれたC3+EOSベクターを含有するGFP-ve hFibsがサイレンシングを受けているわけではないことを保証するために、これらのhFibsに、Oct4発現レンチウイルスを形質導入した。Oct4の異所性発現は、GFPを発現するようにGFP-ve細胞を誘導することができたことから(図25h)、組み込まれたプロウイルスベクターはこれらの細胞内で機能的であることが実証された。
【0122】
総合すると、これらの結果は、インビトロで培養されたヒト線維芽細胞は、hFibsが由来する個体発生源または解剖学的位置とは無関係に、Oct4レポーターEOSベクターの発現を可能にするユニークなサブセットを示すことから、不均質であることを示唆する。
【0123】
hFibsの希少なサブセットは多能性細胞の分子特徴を有する
多能性幹細胞(PSC)の他に、Oct4発現は、真皮、多能性幹細胞、およびがん細胞を含む複数の体細胞組織でも報告されているが(Li et al.;Jiang et al.2002;Goolsby et al.2003;Dyce et al.2004;Johnson et al.2005;Moriscot et al.2005;Zhang et al.2005;D'lppolito et al.2006;Dyce et al.2006;Izadpanah et al.2006;Nayernia et al.2006;Ren et al.2006;Yu et al.2006;Izadpanah et al.2008)、非PSCにおけるOct4の代用性(surrogacy)および機能はまだ不明である(Lengner et al.2007;Lengner et al.2008)。C3+EOSベクターの活性化がOct4の存在に基づくことから、Oct4の発現を、全hFibsにおいて、また、GFP+ve hFibサブセットとGFP-ve hFibサブセットとを対比して、注意深く調べた。いくつかのOct4アイソフォームおよび偽遺伝子は配列類似性を有し(Atlasi et al.2008)、転写産物検出の解釈を複雑にし、潜在的に偽陽性をもたらす。そこで、1)Oct4;2)Oct4B1胚特異的Oct4アイソフォーム;および3)Oct4B細胞質変異体を正確に認識する最近特徴づけられた(Atlasi et al.2008)複数のプライマーセットを使って、hFibs中のOct4転写産物を同定した(図26a)。GFP+ve hFibsでは、hESC対照と同様に、Oct4およびそのアイソフォームB1の発現が濃縮されたが、細胞質アイソフォームOct4Bの発現はなかったのに対し(図26b、c)、全hFibsおよびGFP-ve hFibsは、どの形態のOct転写産物も発現しなかった(図26b、c)。系譜特異的遺伝子発現の対照として使用した中胚葉遺伝子ブラキュリは差次的に発現しなかった(図26c)。次に、GFP+ve hFibsが、Oct4および多能性に関連する他の遺伝子を発現する可能性を調べた。定量的遺伝子発現解析により、hESCと比較すると低レベルではあるものの(図25e)、Oct4(図26b、c)に加えて、GFP+ve hFibsにおけるNanogおよびSox2の発現も示された(図26d)。全hFibsとGFP+veおよびGFP-ve hFibsからの全ゲノム発現プロファイルをhESC、iPSC株と、3'オリゴヌクレオチドアレイを使って比較し、ヒトおよびマウスESCに特異的な遺伝子の発現と、不均質な線維芽細胞培養物に関連する遺伝子の発現とを対比して評価した(Takahashi et al.2007;Yu et al.2007)。GFP-ve hFibsが不均質なヒト皮膚線維芽細胞の複数の供給源と強くクラスター化したのに対し、GFP+ve hFibsは、それらが由来する全hFibsとクラスター化せず、その代わりに多能性hESCおよびiPSC株とクラスター化した(図26f)。
【0124】
転写産物発現はタンパク質の決定要因ではないので、Oct4特異的抗体を使ってOct4のタンパク質発現を調べた。免疫蛍光染色分析を使ってOct4の細胞内局在を調べた。GFP+ve hFibsでは、陽性対照としたhESC(図26g)およびOct4導入遺伝子を形質導入した293細胞(図33a)において観察されたのと同様に、Oct4がDAPI染色核と共局在した。陰性対照とした非形質導入293細胞ではOct4染色が検出されず、一方、EOSベクターによって検出されるGFP+ve細胞の頻度と合致して(0.5〜4%)、全hFib培養物には希少なOct4陽性細胞が見られた(図33a)。hESCならびにOct4形質導入293細胞および非形質導入293細胞を陽性および陰性対照として(図26h)、ウェスタン分析を使用したところ、Oct4だけでなく、NanogとSox2のどちらのタンパク質レベルも、GFP+ve hFibsでは差次的に発現されていた(図26h、i)。これらの分析に基づいて、hFibsのこれらのサブセットを、GFP-ve hFibsであるhFibsの大半との対比で、Nanog、Oct4およびSox2発現hFibs、すなわちNOS+exp hFibsと名付けた(同様にしてNOS-exp hFibsも名付けた)。
【0125】
希少なNOS+exp hFibsの分子的性質をより良く理解するために、hESC、全hFibs、NOS+expおよびNOS-exp hFibサブセットにおいて、Oct4、Nanog、Sox2、およびブラキュリタンパク質に対する特異的抗体を使って、EOSベクター内のCR4エンハンサーモチーフへの結合に関して、クロマチン沈降(ChIP)を行った。これらの多能性因子によるCR4モチーフの占有は、NOS+exp hFibsでは高度に濃縮されたのに対し、陰性対照ブラキュリは結合しなかった(図26j)。内在性プロモーター座での活性型(H3K4Me3)および抑制型(H3K27Me3)ヒストン修飾マークの比較により、NOS+exp hFibsが、hESC陽性対照と同様に、Oct4、Nanog、およびSox2について活性型マークを有したのに対し、無選択の全hFibsおよびNOS-exp座は抑制されていることが明らかになった(図26k)。遺伝子活性化に関連するOct4座の脱メチル化はPSCにおいて詳細に研究されているので(Simonsson and Gurdon 2004)、MeDIP ChiPアッセイを行った。293細胞およびNOS-exp hFibsとは対照的に、hESCおよびNOS+exp hFibsでは、Oct4プロモーターのメチル化の減少が同様に検出された(図33b)。これらの結果は、NOS+exp hFibsではOct4座が活性化されていることを、さらに裏付けている。
【0126】
体細胞区画におけるOct4および他の多能性関連因子の役割は、転写産物およびタンパク質発現検出に関する対照が不適切であり、これらの細胞または発現した因子の役割について何らかの機能的証拠がないために、懐疑の念をもって受け止められてきた(Lengner et al.2007)。上記の結果は、そのような細胞の特徴づけを、Oct4などの単一の遺伝子の単なるPCR転写物検出にとどまることなく拡張し、Oct4、Nanog、およびSox2に関して、各因子についての陽性対照(hESC)および陰性対照(293細胞)と共に、クロマチン、タンパク質、細胞内局在を分析し、網羅的遺伝子発現クラスター分析も行ったものである。総合すると、これらのデータは、ヒトPSCと共通する分子特徴を有するヒト線維芽細胞内のユニークで希少なサブセットであるNOS+exp hFibsの存在に関する基礎を提供する。NOS+exp hFibsとNOS-exp hFibsのサブセットを単離できたことにより、PSCと共通しているこれらの特性について機能分析を行いかつ生物学的特徴を定義するという、これまでなかった機会が与えられる。
【0127】
不均質な全hFibsは、精製NOS+expサブセットとは対照的に、フィーダーフリー条件下で再プログラミングすることができる
NOS+exp hFibsは、遺伝子発現の際立った特徴を、完全に再プログラミングされたiPSCと共有しているので、それらの機能的再プログラミング能力を、全hFibsと比較して調べた。iPSC株の大半は不均質なhFibsを使って導出され、iPSC作製を支持するためにマウス胚性線維芽細胞(MEF)を使用する(Park et al.2008)。しかし、iPSCの臨床的応用には、ゼノフリー(xeno-free)条件と、MEFなどの支持細胞からのヒトiPSCの迅速かつ簡便な単離および分離を可能にする方法とが必要になるであろう。この用途に基づく制限に具体的に対処するために、図27aに模式的に図解するように、フィーダーフリー条件を使ってマトリゲル上でヒトiPSCを導出した。全hFibsおよびNOS+exp hFibsに、先に規定された再プログラミング因子(Hotta et al.2009)を形質導入し、培養物を位相差顕微鏡と生細胞蛍光顕微鏡の両方で調べることにより、形態変化を特徴づけ、コロニー形成を同定し、Tra1-60を発現するコロニーのサブフラクションを同定した。ヒトiPSC作製に関して以前に報告された頻度と合致して(Utikal et al.2009;Aasen et al.2008;Meissner et al.2007)、全hFibsが(投入細胞10,000個につき)約0.9%のコロニー形成効率を呈したのに対し、同じ数の高度に精製されたNOS+exp hFibs単離物は、コロニーを形成することができなかった(図27b)。この結果は、6つの独立した実験レプリケートにおいて一貫して観察されたことから、分析した60,000個(10,000個×6)を越えるNOS+exp hFibsからは、iPSC生成に向かう増殖性コロニーの形成を、この精製サブセットを使って導き出すことはできなかったことが示された。
【0128】
コロニー形成はiPSC作製にとって最初の要件であるが、コロニー形成だけでは、完全に再プログラミングされた細胞を意味しない。そこで、フィーダーの非存在下でコロニーを生成した全hFibs(図27b)を使用し、再プログラミングされたiPSCを非iPSC様コロニーから正確に同定する最近確立された生細胞染色法(Chan et al.2009)を使って、Tra1-60発現コロニーを定量的に同定した(図27c)。また、これらのコロニーを、SSEA3およびOct4の発現についても、フローサイトメトリーで評価し、Tra1-60獲得と比較した。Tra1-60+veコロニーとTra1-60-veコロニーはどちらも高レベルのOct4を発現したが、多能性マーカーSSEA3を発現したのはTra1-60+veコロニーだけで、Tra1-60-veコロニーはSSEA3発現を欠いていた(図27d)。総合すると、Tra1-60+veコロニーは、生成したコロニーの総数の50%を占めた(図27e)。これら2タイプのコロニー(Tra1-60+veおよびTra1-60-ve)を、多能性に強く関連する遺伝子のサブセット(Rex1、Tbx3、TcF3、およびDppa4)を使ってさらに調べたところ、Tra1-60+veコロニーだけが多能性遺伝子発現シグネチャーを獲得することを示した(図27f)。最後に、Tra1-60+veコロニーのインビボ分化能を、奇形腫形成アッセイで試験したところ、これらのコロニーは3つ全ての胚葉を生じさせる潜在能を有することが実証された(図27g)。これらの集合的基準を使用することにより、すなわち、コロニー形成から出発して、それに続くTra1-60、Oct4およびSSEA3発現解析と多能性遺伝子発現解析、ならびに多能性奇形腫を形成する能力を使用することにより、iPSC生成を明確にし、それによって、不均質な全hFibsが、精製NOS+ex hFibsとは対照的に、フィーダーフリー条件下で再プログラミングされうることを立証するための、独立した尺度が得られる。
【0129】
NOS+exp hFibsは多能性再プログラミングに対する主要寄与要因である
精製NOS+exp hFibsは、不均質な全hFibsの培養物から単離すると、再プログラミングされたコロニーを生成することができなかった(図27b)。ニッチが幹細胞の性質の調節に及ぼす十分に確立された効果を考慮して(Bendall et al.2007)、NOS+exp亜集団の再プログラミング能は、高度に精製されたNOS+exp hFibsからのiPSC出現を妨げる複雑な微小環境キューに依存するのかもしれないという仮説を立てた。NOS+exp hFibsにはEOSベクターが形質導入されているので、GFPおよびプロウイルス組込みが、NOS+exp細胞の蛍光マーカーおよび分子マーカーとなり、それらを使って、不均質な線維芽細胞と共に共培養した時のNOS+exp hFibsの寄与を識別することができる。確立された基準(図27b〜g)を使って再プログラミング能およびiPSC生成への寄与を測定するために、競合アッセイにおいて、NOS+exp hFibsを、全hFibsと1:9の比で混合した。
【0130】
以前の観察結果と合致して(Yamanaka 2009)、全hFibs(投入細胞10,000個)は、予想された低頻度のコロニー形成を呈し、一方、NOS+exp hFibの共培養(1,000個のNOS+exp hFibsを9,000個の全hFibsと共に含む総投入細胞数10,000個=1:9の比)は、コロニー形成を14倍と著しく増加させた(図27h)。再プログラミングに対するNOS+expの寄与を全hFibsと比較して定量的に評価するために、位相差によってそのiPSC様の形態ゆえに同定されたコロニーを数え上げ、それらを、Tra1-60発現に関する生細胞蛍光顕微鏡検査、GFP発現およびEOSプロウイルス組込みの有無によって、さらに精査した。このアプローチを使った代表的な一実験を図27iに示す。この図は同定された個々のコロニーに関する詳細な分析を表している。6つの独立した混合物実験からの結果を組み合わせると、Tra1-60+veコロニーの90%がGFPおよびEOSプロウイルスについて陽性であり、残りの10%は全hFibsによるものであることが実証された(図27i)。NOS+exp hFibsおよび全hFibsに由来するTra1-60+veおよびTra1-60-veコロニーを単離し、多能性因子の活性化およびSSEA3発現について調べることで、完全に再プログラミングされたiPSCを確かめ、その数を定量した。NOS+exp hFibsだけに由来しうるEOS+veコロニー(C2およびC9)であって、Tra1-60発現について陽性であるもの(C2)および陰性であるもの(C9)からの代表的な分析を、Tra1-60発現について陽性(C11)および陰性(C12)であるEOS-veコロニー(C11およびC12)と比較して示す(図27j、k)。Tra1-60は、NOS+exp起源であるか全hFib起源であるかとは無関係に、多能性遺伝子活性化能力(図27j)およびSSEA3発現能力(図27k)を有するコロニーに関する強い代用マーカーになった。NOS+exp hFibsに由来する完全に再プログラミングされたコロニーは、3つ全ての胚葉を含む奇形腫を形成する能力を有し(図27i)、系譜発生に関する陽性対照として示した多能性hESC(図35a〜b)と同様に、中胚葉(造血、図35a)系譜および外胚葉(ニューロン、図35b)系譜へのインビトロ分化能を持っていた。NOS+exp hFibsは、共培養時に、再プログラミング能力とiPSC生成能力を有していたので、不均質なhFib培養に由来する残りのNOS-exp hFibsの再プログラミング能も、同じように調べた。再プログラミング力の直接分析により、フィーダーフリー条件で培養された高度に精製されたNOS-exp hFibsがコロニー生成を完全に欠くこと(図29a)、およびNOS-exp hFibsと全hFibsとの共培養が生物学的に有意でない<0.01%のコロニー頻度をもたらすことが実証された(図36a〜b)。これは、3つの独立した実験(図36b)における投入細胞10,000個につき1個のコロニー(これは、C3+EOS形質導入によってマークされていないNOS+exp hFibsを含有する全hFibsに由来する可能性が高い)に相当する。
【0131】
全hFibsとの共培養物におけるiPSCの生成に対するNOS+exp hFibsの正確な寄与を定量的に決定するために、6つの独立した混合物実験からのデータセット全体を分析した。まず最初に、顕微鏡検査によって数え上げたiPSC様コロニー形成の同定により、9K個の全hFibsと1K個のNOS+exp hFibsとを含む10,000個の細胞の投入から、平均12個のコロニーが生じうることが示された(図28a)。全hFib投入細胞(GFP-ve、EOS-ve)の比率は9倍大きいにもかかわらず、NOS+exp hFibs (GFP+ve、EOS+ve)コロニー形成の寄与は、GFP発現およびEOSプロウイルス組込みの存在という決定的基準によれば、4倍高かった(図28a)。EOS-veコロニー(9,000個の全hFibsに由来するもの)内でのTra1-60発現を、EOS+veコロニー(1,000個のNOS+exp hFibsに由来するもの)との対比で、定量的に分析したところ、全hFibsからは等しい比率のTra+veコロニーとTra-veコロニーとが生じるのに対し、NOS+exp hFibsに由来するコロニーでは、Tra1-60+veの完全に再プログラミングされたコロニーが濃縮されることが示された(図28b)。細胞の投入10,000個あたりに換算して、無選別の全hFibsの総再プログラミング効率が0.18個であるのに対し、NOS+exp hFibsからは平均7.6個生じることが、直接比較分析によって示される(図28c)。投入細胞数の9倍の差を考慮すると、これらの結果は、NOS+exp hFibの単離および濃縮を使った再プログラミング効率の42倍の増加を実証している(n=6、図28c)。
【0132】
NOS+exp hFibsは精製培養物における細胞自律的再プログラミング能力を持たないものの、これらの結果は、hFibsのこのユニークだが希少なサブセットが、再プログラミングされたiPSCに対する主要な細胞寄与要因であること、ただし不均質なhFibsとの共培養を必要とすることを明らかにしている。これらの機能研究は、NOS+exp hFibsが、誘導再プログラミングを受ける前に既に多能性細胞に似たユニークな分子状態およびエピジェネティック状態を有するために(図26)、細胞再プログラミング誘導を起こしやすいことを示唆している。
【0133】
NOS+exp hFibsの分子状態は多能性再プログラミング適格性に関して微小環境によって調整されうる
10%のNOS+exp hFibsと90%の全hFibsとを含有する共培養物において、精製NOS+exp hFibsは、不均質な全hFibsが提供する微小環境の存在下で、iPSCコロニーを生成した(図28)。そこで、微小環境組成が、NOS+exp hFibの相対的細胞密度の産物として、有素因集団の再プログラミング頻度に影響を及ぼしうるかどうかを探究した。全hFibsに対するNOS+exp hFibsの相対的濃縮密度をある範囲にわたって使用し、再プログラミング能力をコロニー形成によって調べ、NOS+exp hFibの寄与をGFP発現によって識別した。50%に向かうNOS+exp hFibsの密度の増加は、再プログラミング効率に関して、プラトーを示した(図29a)。このプラトーを越えると、NOS+exp hFibs再プログラミング能力は、支持性全hFibの比率が低下するにつれて低下し、最終的には、支持性全hFibsがなくなるとコロニー形成が完全になくなった(図29a)。混合物中のNOS+exp hFibsの密度を<2.5%まで低下させると、全hFibsに由来する低頻度のiPSC生成(図27a〜g)を思わせるコロニー生成の減少が起こった(図30a)。これらの結果から、NOS+exp hFibsの再プログラミング能力は、微小環境または支持性ニッチ細胞に対する相対的な比密度に依存することが示唆された。
【0134】
NOS+exp hFibs再プログラミングにとって支持性不均質hFibsが必要であることの分子的基礎をより良く理解するために、全hFibsおよび精製NOS+exp hFibsの遺伝子発現およびエピジェネティック状態を、共培養の前(新規に単離されたもの)および後で、評価した。全hFibs(図29b)とは対照的に、新規に前もって単離されたNOS+exp hFibsは、多能性因子の検出可能な発現と、遺伝子座上の活性型マークとを示した(図29c)。新規に単離されたNOS+exp hFibsを数代にわたって培養したものは、安定したGFP発現を保っていた(図37)。次に、Oct4、Nanog、およびSox2の内在性座でのクロマチン状態と、これらの遺伝子の転写産物発現とを、単独で培養したNOS+exp hFibs、次いでhFibsの存在下で培養したNOS+exp hFibs、またはMEFと共培養したNOS+exp hFibsにおいて比較した(図29d)。単独での培養NOS+exp hFibsは、Oct4座における二価状態と、NanogおよびSox2座については活性型ヒストンマークの喪失とを誘導し(図30f)、それらは、Oct4に関する遺伝子発現の低下と、NanogおよびSox2転写産物の完全な不在とによって、裏付けられた(図30e)。これらの分子変化は、フィーダーフリー条件下で単独で培養されたNOS+exp hFibsを再プログラミングできないこと(図27b)と相関した。しかし、次いで全hFibsまたはMEFと共培養されたNOS+exp hFibsは、Oct4、Nanog、およびSox2座上の活性型クロマチンマーク(図30g)と、全hFibsまたはMEFとの共培養時の遺伝子発現(図30g)とを、再び獲得することができた。
【0135】
多能性幹細胞の派生および維持における微小環境の役割は既に報告されており(Schnerch et al.;Bendall et al.2007;Stewart et al.2008)、iPSC派生プロトコールにはMEFフィーダーの使用が含まれるので、推定されているMEFの必要性と合致する(Takahashi and Yamanaka 2006;Takahashi et al.2007;Wernig et al.2007;Yu et al.2007;Aasen et al.2008;Hanna et al.2008;Lowry et al.2008;Park et al.2008;Woltjen et al.2009)。共培養が誘導するNOS+exp hFibsのエピジェネティック状態の修飾が再プログラミング適格性に影響を及ぼすかどうかを決定するために、NOS+exp hFibsおよびNOS-exp hFibsをMEFの存在下または非存在下で培養し、再プログラミング因子を発現するレンチウイルスに、hFibフラクションをばく露した。合計10,000個のNOS+expまたはNOS-exp hFibsに再プログラミング因子を形質導入し、感染の3週間後および6週間後に、培養物を、コロニー形成、GFP発現、およびTra1-60を発現するコロニーについて調べた。先の結果と合致して(図27bおよび図36a〜b)、NOS+expまたはNOS-exp hFibsは、共培養細胞の非存在下では、3週間培養時にも、延長した6週間培養時にも、コロニーを生成させなかった(図29h)。同様に、NOS-exp hFibからのiPSC生成は、MEFと共培養した場合でさえ、検出できなかった(図29h)。しかし、MEF上で共培養したNOS+exp hFibsは、形質導入の3週間後に検出可能なコロニーを産生し、6週間のMEF共培養時においても、完全に再プログラミングされたiPSCを示し続けた(図29h)。生成したコロニーはGFPと、完全な再プログラミングを示す多能性マーカーTra1-60とを発現した(Chan et al.2009)(図29h)。
【0136】
総合すると、新規に単離されたNOS+exp hFibsを、共培養された不均質なhFibsまたはMEFの非存在下または存在下と対比する比較分子分析により、NOS+exp hFibsは応答して、そのエピジェニック状態および遺伝子発現を、微小環境キューによって与えられる現時点では未知のシグナリング機序によって調整することが明らかになった。共培養微小環境によって誘導される分子変化は、NOS+exp hFibサブフラクションに制約されており、多能性再プログラミングに関する有素因状態および適格性を維持するために必要とされる。
【0137】
NOS+exp hFibsは他のヒト幹/前駆細胞とは分子的に相容れず、ユニークな細胞周期特性を有する
以前の研究により、毛包のバルジ領域(バルジ幹細胞)、毛包間表皮(IFE幹細胞)、真皮乳頭(SKP)を含む皮膚のさまざまな領域からの多能性幹細胞の単離が実証されている(Manabu Ohyama 2006;Biernaskie et al.2009;Jensen et al.2009)。NOS+exp hFibsと、皮膚から単離された、以前に記載された多能性幹/前駆細胞との、潜在的類似性を評価するために、hFibsのこのユニークな集団を、網羅的ゲノム発現プロファイルに基づいて、さらに調べた。線維芽細胞遺伝子シグネチャーおよび個々の皮膚幹/前駆細胞に特異的な分子マーカーを使って、バルジ幹細胞、ケラチノサイト、およびSKP(Toma et al.2005;Manabu Ohyama 2006;Jensen et al.2009)と比較した全hFibs、NOS+exp hFibs、およびNOS-exp hFibsの階層的クラスタリング(図30a)により、NOS+exp hFibsは既存の皮膚幹/前駆細胞とは異なること、そして、Nanog、Oct4、およびSox2を含む多能性転写ネットワークをそれらが発現する点で、さらに識別されることが明らかになった(図30a)。皮膚由来の幹/前駆細胞に加えて、神経、造血、およびケラチノサイト前駆細胞も、増進した再プログラミング能を有することが示されている(Aasen et al.2008;Eminli et al.2009)。そこで、NOS+exp hFibsの網羅的分子表現型を、これらの系譜特異的成体幹細胞と比較したところ、NOS+exp hFibsはこれらの幹細胞タイプとクラスター化しないことが示された(図29b)。総合すると、これらの分析は、NOS+exp hFibsが、増進した再プログラミングを起こすとされている真皮派生物または組織特異的前駆細胞と以前に関連付けられた幹/前駆細胞とは、異なることを示している(図29b)。
【0138】
次に、NOS+exp hFibsとバルク全hFibsとを識別しうるさらなる特徴であって、ヒトPSCと共通しているもの以外の特徴を同定するために、NOS+exp hFibsと全hFibsとの間で、網羅的遺伝子発現の相違を評価した。差次的発現遺伝子のリストの遺伝子オントロジー分析により、不均質な全hFib培養物との対比でNOS+exp hFibs培養物において濃縮されるいくつかのカテゴリーが明らかになった。これらには、主として、発生、細胞周期、および細胞分裂に関与する遺伝子産物が含まれた(図30c)。これらのオントロジーのうち、細胞周期進行に関与する遺伝子が最も広く差次的に発現した(17.48%、p<0.000003)。細胞周期関連遺伝子のさらに綿密な分析により、NOS+exp hFibsにおける複製および有糸分裂プロセシングに関連する遺伝子(これらはhESCおよび線維芽細胞由来のiPSCにおいてもユニークに共発現する)の発現上昇が明らかになった(図30d)。これらの遺伝子のうち、核内に見いだされ、発生中のヒト胚における細胞と関連する、非膜内在性細胞表面受容体CD168[ヒアルロナン媒介運動性受容体(hyaluronan-mediated motility receptor;HMMR)とも呼ばれる](Choudhary et al.2007;Manning and Compton 2008)は、EOSベクターを形質導入した不均質なhFibsの中でGFP発現NOS+exp hFibsと共発現した(図30e)。NOS+exp hFibsのユニークな細胞周期調節と合致して、NOS+exp hFibsと全hFibsの成長速度の直接比較は、NOS+exp hFibsの方が速い速度で増殖することを示し(図30f)、それにより、NOS+exp hFibsのユニークな増殖特性が機能的に確認された。
【0139】
全体としてこれらのデータは、多能性および増殖に関連する遺伝子の前例のない発現によって最もうまく定義される、細胞の再プログラミングに対する素因を有する、今までに同定されたことのない、NOS+exp hFibsのさらなる比較特徴づけをもたらす。
【0140】
考察
多能性再プログラミングを理解し増進するための臨床的に妥当なモデル系として、ヒト皮膚線維芽細胞を使用することにより、多能性細胞との分子的類似性と多能性再プログラミングの助けになる固有の細胞周期状態とを有する有素因細胞集団の存在に関する証拠が得られ、理論に束縛されることは望まないが、再プログラミングプロセスにおけるこれらの細胞の役割に関するモデルが提唱される(図31)。これらの有素因ヒト皮膚線維芽細胞は、細胞周期活性化因子(例えばCCNB1/2、PCNA、MCM2-7、およびANAPC1)の増進した発現を含むユニークな細胞周期特性を有し、Nanog、Oct4、およびSox2の発現によって同定され、識別されるので、NOS+exp hFibsと呼ばれる(図31)。NOS+exp hFibsのユニークな分子的およびエピジェネティック的基底状態は、線維芽細胞の不均質な培養物または増進した再プログラミング能力を有する以前報告された幹/前駆細胞集団とは異なり、ヒトiPSCおよびESCに似ている。残りのhFibs(NOS-exp)は、支持性ニッチとの共培養または長期にわたる培養期間にも関わらず、iPSCへの再プログラミングには参加しない(図31)。それでもなお、例えばがん遺伝子の導入または細胞周期調節因子の撹乱など何らかのユニークな条件によって多能性が誘導されうる可能性は排除されない(図31)。幹/前駆細胞および増進した増殖状態はどちらもiPSC生成に正の影響を与えるので、固有の細胞周期特性を持つここで同定されたNOS+exp hFibsに似た細胞タイプは、効率の良い増進された再プログラミングを受けやすい。この考えと合致して、Smithらが公表した最近の研究(Smith et al.2010)は、MEFの急速に分裂する小サブフラクションがiPSCコロニー形成に寄与することの証拠を提出しているが、それ以上の特徴づけは行われていない。それはおそらく、MEF中のそれらユニークな細胞タイプを特定し単離することが現時点ではできないからであろう。再プログラミングは、新しい多能性状態を樹立するために必要な、ターゲット細胞の既存のエピジェネティック状態または細胞「記憶」の除去であると考えられるので、hPSCと類似するNOS+exp hFibsの分子表現型およびエピジェネティック状態を考慮すると、再プログラミングが最終分化した線維芽細胞を転換する程度と、多能性の達成に不可欠な限定的拘束ステップの克服との対比については、さらなる概念的および実験的検討が必要である。これらの結果は、多能性状態を樹立するのに必要な誘導性の分子変化に応答する能力を有素因細胞のエリートサブセットがユニークに有するという、細胞レベルでの再プログラミング誘導を説明するためのエリート・ストカスティック・モデル(elite stochastic model)を支持している。
【0141】
これらの結果から、不均質なhFibsまたはMEFによって供給されうるニッチ依存的な形で、再プログラミングに独占的に寄与する有素因細胞集が同定される(図31)。こうして、ヒト皮膚線維芽細胞からのiPSC派生における、今まで認識されていなかった微小環境の役割が、明らかになった。これらの結果は、線維芽細胞が再プログラミングに関して等効力でないことを示しているが、不均質なヒト線維芽細胞中の他のサブフラクションが、ユニークに設計された条件下で再プログラミングするように誘導されうる可能性を軽視するわけではない。これは、期間を延長して再プログラミング因子を持続的かつ長期間発現させることでほとんど全てのドナー細胞が多能性状態へと再プログラミングされうることを実証することによって、マウスB細胞の再プログラミングがストカスティック事象であるかもしれないことを示唆している最近の報告に似ている(Hanna et al.2009)。興味深いことに、3〜5%のコロニーは、再プログラミングのわずか2週間後に出現し、それらは、ここで同定されたNOS+exp hFibsに似た有素因細胞タイプに相当するのかもしれない。一方、その後、再プログラミング因子のドキシサイクリン誘導を継続した状態で4〜5ヶ月にわたって出現する残りのiPSCコロニーは、がん遺伝子c-mycが関わる薬物誘導遺伝子発現の使用を含む、利用した具体的選択条件の結果であるのだろう。ヒトhFibs(NOS-exp細胞)の非有素因フラクションにおけるそのような実験は、多能性再プログラミングにとっての腫瘍形成性プロセスの前提条件に関する洞察を深めることになるだろう。
【0142】
多能性再プログラミングに関して現在なされている全ての報告と同様に、有素因NOS+exp hFibsは、体細胞再プログラミングのインビトロプロセスと、ひとたびインビトロで再プログラミングされた派生細胞の使用とに関連する。今までのところ、細胞がインビボで多能性状態に再プログラミングされうることを示した報告はない。無脊椎動物における線維芽細胞の可塑性は最近記述されているが(Kragl et al.2009)、そのような可塑性は哺乳動物では十分には探究されていないので(Sanchez Alvarado 2009)、有素因hFibsの存在とそのインビボ機能は興味深いが、正常インビボ生理におけるその役割は、現時点では単なる推測にすぎず、インビトロの現象に限定される可能性が高い。それでもなお、NOS+exp hFibsは、さまざまなヒト組織から容易に得ることができ、ヒトiPSC生成に対する寄与要因としては、現在までに報告された中では最も迅速かつロバストである。これらの性質は、患者からの完全に再プログラミングされたiPSCの即時的な単離および特徴づけが迅速な薬物および遺伝子スクリーニングまたは分化誘導後の細胞移植のために要求される場合における、NOS+exp hFibsの臨床的有用性を明示している。
【0143】
方法
細胞培養-
成体ヒト皮膚線維芽細胞は胸部皮膚に由来し(第1継代で入手;推奨増大量-細胞集団倍加数15)、新生児皮膚線維芽細胞は包皮に由来し(第1継代で入手;推奨増大量-細胞集団倍加数15)、肺線維芽細胞は肺組織に由来し(第10継代で入手;推奨増大量-細胞集団倍加数24)[Sciencell]、線維芽細胞培地(10%FBS(HyClone)、L-グルタミン(Gibco)、非必須アミノ酸(NEAA;Gibco)が補われたDMEM(Gibco))中で維持した。実験は全て、別段の言及がない限り、胸部由来皮膚線維芽細胞を使って行った。ヒトiPS細胞は、16ng/ml bFGF(BD Biosciences)が補われたiPS培地(20%ノックアウト血清代替物(Gibco)、L-グルタミン(Gibco)、NEAA、ベータ-メルカプトエタノールが補われたF12 DMEM(Gibco))中、マトリゲル・コート・ディッシュ上で維持した。hESCは、8ng/ml bFGFが補われたMEF条件培地中、マトリゲル・コート・ディッシュ上で維持した。多能性細胞に、さまざまな濃度のEOS C3+レンチウイルスを、継代後2日目に形質導入した。293細胞は、10%ウシ胎児血清、必須アミノ酸およびL-グルタミンを含有するDMEM中で培養した。トランスフェクションに先だって、293細胞をチャンバースライドに播種した。1μgのpSIN-Oct4ベクターをリポフェクトアミン2000試薬(Invitrogen)を使ってトランスフェクトした。実験はトランスフェクションの36時間後に行った。培養NOS+exp hFibsを作製するために、成体皮膚線維芽細胞にEOS C3+Oct4レンチウイルスベクターを形質導入し、NOS+exp細胞をソートし、線維芽細胞培地中で少なくとも5継代は培養した。
【0144】
レンチウイルス作成-
レンチウイルスpSIN-EGFP、pSIN-PGK-EGFPおよびpSIN-C3+EOSベクターは、Hottaら2008によって合成され、記述された。Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28のcDNAを含有するレンチウイルスベクター(pSIN)はAddgeneから入手した。これらのベクターを、293-FTパッケージ細胞株にビラパワーと共にコトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後にウイルス上清を収集し、超遠心分離してウイルスを濃縮した。陽性対照の形質導入効率を確認するために、pGK EGFPレンチウイルスを、表示の希釈度で線維芽細胞に形質導入した。線維芽細胞形質導入には8ng/mlポリブレンの存在下で等量の各ウイルスを使った。
【0145】
ヒト成体線維芽細胞ソーティング-
線維芽細胞に、第3継代において、C3+EOSベクターを形質導入し、3継代にわたって維持した。細胞をトリプシン処理し、7AAD排除を使って生細胞を同定した。線維芽細胞を、GFP発現に基づいて、FACS Ariall(BD)でソートした。qRT-PCRアッセイおよびクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイのために、PBS中の0.5%FBS(v/v)が入っているチューブに、50,000個のGFP+ve(NOS+exp)細胞とGFP-ve(NOS-exp)細胞をソートした。細胞を、RNA抽出用に遠心分離によって集めるか、ChIP研究用に1%ホルムアルデヒドを使って架橋した。
【0146】
再プログラミングの誘導-
マトリゲル上で:全hFibs、GFP+ve細胞(10,000個のNOS+exp細胞という)および10,000個のGFP-ve細胞(10,000個のNOS-exp細胞という)から再プログラミングされた細胞を作製するために、細胞を、10,000細胞/ウェルの密度で、マトリゲルコート12ウェルプレート上に播種した。混合物実験の場合は、NOS+exp培養細胞を、1:9の比(1000個の培養NOS+exp+9000個の全hFibs)または1:1の比(5000個の培養NOS+exp+5000個の全hFibs)で混合した。素因の証明に関する実験の場合は、1000個のNOS+exp細胞を全hFib培養物からソートし、マトリゲル・コート・ディッシュ上で9000個の全hFibsと混合した。播種の24時間後に、線維芽細胞に、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を発現するレンチウイルスを形質導入した。次に、形質導入された線維芽細胞をiPSC培地中で成長させた。再プログラミングされたコロニーを感染の3〜6週間後に計数した。コロニーを手作業で拾い、マトリゲル・コート・ウェル上で維持した。MEF上で:10,000個のNOS+expまたはNOS-exp細胞を三つ組にして12ウェルディッシュに播種した。播種の24時間後に、hFibsに、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を発現するレンチウイルスを形質導入した。形質導入の36時間後に、トリプシン処理によってhFibsを集め、照射MEFが入っているプレート上に移した。再プログラミングされたコロニーを感染の3〜6週間後に計数した。コロニーを手作業で拾い、MEF上で維持した。
【0147】
造血分化およびニューロン分化アッセイ-
マトリゲル上で派生したヒトES細胞またはiPSC細胞を80%コンフルエントまで成長させ、以前に記述されているように(Chadwick et al.2003)、EBを形成させた。細胞を、80%ノックアウトDMEM(KO-DMEM)(Gibco)、20%非熱不活化ウシ胎児血清(FBS)(HyClone)、1%非必須アミノ酸、1mML-グルタミン、および0.1mMベータ-メルカプトエタノールからなる分化培地中、低接着6ウェルプレートに移した。培養物を、新鮮な分化培地、または50ng/ml BMP-4(R&D Systems)、300ng/ml幹細胞因子(SCF)(Amgen)、および300ng/ml Flt-3リガンド(R&D Systems)が補われた培地で置き換えた。EBを15日間維持し、培地を4日ごとに交換した。神経プレカーサー分化のために、EBをEB培地のみの中で4日間培養した。最初の4日間の後、ポリ-L-リジン/フィブロネクチンでコートした12ウェルプレートにEBを移し、B27およびN2サプリメント(Gibco)、10ng/ml bFGF、10ng/mlヒト上皮成長因子(hEGF)、1ng/mlヒト血小板由来成長因子AA(PDGF-AA)(R&D Systems)、および1ng/mlヒトインスリン様成長因子1(hIGF-1)(R&D Systems)を含むDMEM/F12からなる神経増殖培地中で維持した。培養物をプレートに付着させ、単層として4日間増大させた。
【0148】
RT-PCRおよびPCR-
Norgen全RNA単離キットを使って全RNAを単離した。次に、RNAを、スーパースクリプトIII(Invitrogen)を用いるcDNA合成に供した。定量PCRは、Platinium SYBR Green-UDPミックス(Invitrogen)を使って行った。ゲノムDNAは、ALL IN ONE単離キット(Norgen)を使って単離した。EOSプロウイルス組込み研究には、150ngのゲノムDNAをPCR反応におけるGFPの増幅に使用した。PCR反応は、2×PCRマスターミックス(Fermentas)を使って行った。生成物を1.2%アガロースゲルで分割した。プライマー配列を表7に記載する。
【0149】
ウェスタンブロッティング-
hESC、全線維芽細胞、293、Oct4を過剰発現する293、GFP+ve(NOS+exp)および全hFibsから、溶解バッファー[50mMトリス(pH8.0)、150mM NaCl、1%(v/v)Nonidet P-40、0.1%(w/v)SDS、0.5%(v/v)デオキシコール酸ナトリウムおよびコンプリート(Complete)プロテアーゼ・インヒビター(GE Healthcare)]中に、細胞抽出物を調製した。表示した抗体によるウェスタンブロッティングのために、約60μgのタンパク質をローディングした。
【0150】
クロマチン免疫沈降-
クロマチンIPは先に記述されているように行った(Rampalli et al.2007)。簡単に述べると、1%ホルムアルデヒドを使って細胞を架橋し、0.1%SDSを含有するバッファー中でクロマチンを消化して、約400bp長のフラグメントを得た。超音波処理したDNAを、ChIP用の抗体(抗トリメチルH3K4(Abcam)、抗トリメチルH3K27(Abcam)、抗Oct4(Cell Signaling)、抗Nanog(Cell Signaling)、抗Sox2(Cell Signaling)、抗ブラキュリT(Abcam)、抗ウサギIgGおよび抗マウスIgG抗体)を用いる免疫沈降に供した。免疫沈降したDNAをさらに脱架橋し、精製し、Platinium Syber Green-UDPミックスを用いるqPCR解析に供した。相対的濃縮度を計算するために、対照IPシグナルを、特異的なシグナルから差し引き、得られた差を、50分の1の投入材料から観察されたシグナルで割った。
【0151】
MeDIP ChiPアッセイは以前に記述されたとおりに行った。簡単に述べると、293、hESC、全hFibsおよびNOS+exp(GFP+ve)細胞から、終夜プロテイナーゼK処理、フェノール-クロロホルム抽出、エタノール沈殿およびRNase消化によってゲノムDNAを抽出した。MeDIPを行う前に、ゲノムDNAを超音波処理して、サイズが300〜1,000bpの範囲にわたるランダムフラグメントを作成した。免疫精製DNAをPlatinium Sybr Green-UDPミックスを用いるqPCR解析に供した。相対的濃縮度を計算するために、対照IPシグナルを、特異的なシグナルから差し引き、得られた差を、投入材料のシグナルで割った。定量PCR解析用のプライマーを表7に記載する。
【0152】
生細胞染色-
生細胞染色のために、滅菌Tra-1-60抗体(Millipore)を滅菌Alexa Fluor 647ヤギ抗マウスIgM(Molecular Probes、Invitrogen)と、室温でプレコンジュゲートした。再プログラミングされたコロニーをiPSC培地で1回洗浄し、Tra-1-60-Alexa 647抗体と共に、室温で30分間インキュベートした。次に培養物を2回洗浄して未結合の抗体を除去した。細胞をオリンパス蛍光顕微鏡を使って可視化した。
【0153】
フローサイトメトリー-
誘導多能性細胞をコラゲナーゼIV(Gibco)で処理してから、細胞解離バッファー(Gibco)中に37℃で10分間入れた。細胞懸濁液をSSEA-3(Developmental Studies Hybridoma Bank、mABクローンMC-631、University of Iowa、アイオワ州アイオワシティ)で染色した。細胞をAlexa Fluor 647ヤギ抗ラットIgM(Molecular Probes、Invitrogen)で可視化した。適当な陰性対照を利用した。生細胞を7-アミノアクチノマイシン(7AAD)排除によって同定してから、FACS Calibur(BDIS)を使って、細胞表面マーカー発現について分析した。収集した事象をFlowJo 6.4.1ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。iPSC細胞から生成したEBを、15日目に、0.4U/mlコラゲナーゼB(Roche Diagnostics、カナダ・ケベック州ラバル)で解離し、血液細胞生成マーカーおよび造血マーカーの発現について分析した。造血細胞(CD45+)は、単一細胞(2〜5×105細胞/ml)を蛍光色素コンジュゲートモノクローナル抗体(mAb)汎白血球マーカーCD45-APC(Milteny Biotech、ドイツ)で染色することによって同定した。mAbおよびそれらの対応するアイソタイプを1〜2mg/mlで使用した。造血表現型を有する細胞の頻度を、7AAD(Immunotech)排除による生細胞で、FACS Caliburを使って決定し、FlowJoソフトウェア(Tree Star)を使って解析を行った。神経増殖培地中のEBは、4日間の培養後にトリプシン処理し、細胞表面マーカーA2B5(R&D Systems)で染色した。細胞をAlexa Fluor 647ヤギ抗マウスIgM(Molecular Probes、Invitrogen)で可視化した。A2B5を発現する細胞の頻度を、7AAD(Immunotech)排除による生細胞で、FACS Caliburを使って決定し、FlowJoソフトウェア(Tree Star)を使って解析を行った。
【0154】
免疫細胞化学-
全線維芽細胞、293、pSIN-Oct4ベクターをトランスフェクトした293、およびソートしたNOS+exp細胞をチャンバースライドに播種した。EOS C3+を形質導入したhESCを、マトリゲルコート12ウェルディッシュで成長させた。細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、Triton X-100中で透過処理してから、ヒトOct4について染色した(ラット抗ヒトOct3/4モノクローナル抗体クローン240408)(R&D Systems)。次に細胞を二次抗体Alexa Fluor 647抗ラットIgG(Molecular Probes)で染色した。DAPIを含有するVectashield封入剤(Vector Labs)でチャンバースライドを封入し、対比染色した。HMMR染色のために、成体皮膚線維芽細胞にEOS C3+レンチウイルスを形質導入し、CD168(HMMR)(ab67003)染色を上述のように行った。オリンパスIX81蛍光顕微鏡を使って細胞を可視化した。
【0155】
奇形腫アッセイ-
全ての手法とプロトコールはMcMaster University Animal Care Councilによって承認された。誘導多能性幹細胞培養物をコラゲナーゼIVで5〜10分間処理した後、収集し、食塩水で2回洗浄し、食塩水に再懸濁した。1試料あたり500,000個の細胞を、雄NOD-SCIDマウスに精巣内注入した。最初の注入の10〜12週間後にマウスを屠殺した。奇形腫を摘出し、パラフィンに包埋し、5μm間隔で薄切した後、キシレン中で脱パラフィン化し、段階的な一連のアルコール濃度で処理した。試料を、ヘマトキシリンおよびエオシンまたはOct4で染色してから、脱水およびキシレン処理を行った。Permountを使ってスライドを封入し、Aperio Scan Scopeを使ってスライドをスキャンすることによって撮像し、Image Scope v9.0.19.1516.ソフトウェアを使って、画像をキャプチャした。各胚葉サブタイプに特異的な、厳格な組織学的および形態学的基準に基づいて、組織タイピングを行った。骨などの中胚葉系譜は、骨細胞および骨片の存在を使って同定し;軟骨は軟骨細胞の存在および細胞外マトリックスの特異的染色によって同定した。腸管腔などの内胚葉系譜は、管腔上皮における杯細胞の存在によって同定した。皮膚などの外胚葉系譜は、特色のある細胞層形態(すなわち層状)に基づいて同定し;脳または神経管は、特異的な組織学的基準に基づいて同定した。胚葉の存在および組織タイピングはMcMaster Pathologyによって確認された。
【0156】
3D再構成/Zスタッキング-
EOSベクターを形質導入した成体皮膚線維芽細胞をチャンバースライドに播種した。細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド/PBSで10分間固定した後、Triton X-100中で透過処理した。DAPIを含むVECTASHIELD HardSet封入剤(Vector Labs)を使って、スライドを封入し、対比染色した。オリンパスIX81蛍光顕微鏡を使って細胞を可視化し、Photometrix Cool Snap HQ2カメラで、In Vivoバージョン3.1.2(Photometrix)ソフトウェアを使って、z-スタック(1視野あたり30切片)をキャプチャした。ImageJソフトウェアを使ってZ-切片/像スタックを擬似カラー化し、3Dマッピングした。
【0157】
マイクロアレイ解析-
全RNA精製キット(Norgen)を製造者の説明書に従って使用することで、成体皮膚線維芽細胞(全)、NOS+exp(GFP+ve)、NOS-exp(GFP-ve)細胞、iPS NOS+veおよびhESCから、全RNAを単離した。RNA増幅、GeneChip 3'オリゴヌクレオチド・マイクロアレイ・ハイブリダイゼーションおよび処理は、Ottawa Health Research Institute(オンタリオ州オタワ)のOGICにより、製造者のプロトコール(Affymetrix)に従って行われた。各試料について、200ngの一本鎖DNAを標識し、Affymetrix HG-U133 Plus 2.0チップにハイブリダイズさせた。発現シグナルはAffymetrix GeneChipスキャナーでスキャンし、データ抽出はAffymetrix AGCCソフトウェアを使って行った。データの規格化と解析は、Dchipソフトウェア(Li and Wong 2001 PNAS)を使って行った。ピアソン相関係数を使った階層的クラスタリングを規格化したデータに対して行った。差次的にアップレギュレートされる遺伝子をD-ChIPを使って分析した。遺伝子オントロジー(GO)分析はFATIGO(http://babelomics.bioinfo.cipf.es)を使って行った。
【0158】
実施例3:ヒト皮膚線維芽細胞からの直接的神経転換
結果と考察
ヒト皮膚線維芽細胞からのニューロン転換を促進するために、Oct-4(POU5F1)を神経サイトカイン(bFGF、EGF)と共に使用した。Vierbuchenとその共同研究者ら(Vierbuchen et al.,2010)は、単一のニューロン細胞タイプ、すなわちニューロンへのマウス線維芽細胞の転換を示しているが、本実施例では、多能性状態を迂回しつつ、オリゴデンドロサイト、アストロサイトおよびニューロンへのヒト線維芽細胞の転換を実証する(図38)。POUドメイン結合タンパク質Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞を、当分野において使用されている標準的な神経、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト分化アッセイのために、ヒト・ラミニン・コート・ディッシュを使ってプレーティングし、bFGF、EGFおよびBMP-4が補われた神経/オリゴデンドロサイトまたはアストロサイト分化培地中で培養した(図38a)。非形質導入/対照線維芽細胞とは異なり、Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、神経系譜特異的な形態の獲得(図38b)によって実証されるとおり、3つ全ての神経系譜(ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)を生じさせた。Oct-4形質導入線維芽細胞を、神経系譜特異的マーカー発現、例えばアストロサイト特異的マーカーGFAP(グリア線維性酸性タンパク質)、オリゴデンドロサイト特異的マーカーOlig-4(リゴデンドログリア細胞転写因子4)およびニューロン特異的マーカー(TUBB3)ベータ-チューブリンIIIなどの発現について、さらに分析した。Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、アストロサイト、ニューロンおよびオリゴデンドロサイト出現を示す免疫蛍光イメージング(図38c、e、g)およびFACS分析(図38d、f、h、i)によって実証されるとおり、GFAP、TUBB3およびOlig-4を発現した。
【0159】
ニューロンが成熟した機能的ドーパミン作動性ニューロンを生じさせうることを実証するために、ヒト皮膚線維芽細胞を、Royとその共同研究者ら(2006)が記述しているように、さらに分化させた。Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、TUBB3とチロシンヒドロキシラーゼ(ドーパミン作動性ニューロンのマーカー)の共発現によって示されるとおり、ドーパミン作動性ニューロンを生じさせた(図39)。総合すると、これらの結果は、Oct-4を異所性に発現するヒト皮膚線維芽細胞は、神経系譜誘導条件と組み合わせると、アストロサイト、ニューロンおよびオリゴデンドロサイト、ならびにドーパミン作動性表現型を有する機能的な成熟ニューロンを生じさせることができることを示している。
【0160】
処理後4日目における非形質導入線維芽細胞とOct4形質導入線維芽細胞の間のさらなる遺伝子発現比較により、神経発生に関連する一定の遺伝子、例えばBMI1、POU3F2、およびNEFLなどの発現が、1.6〜1.8倍、有意に増加することが立証された(p<0.009;図40)。これらのデータは、Oct-4を形質導入した皮膚神経芽細胞に由来する前駆細胞における神経分化プログラムの活性化を裏付けている。
【0161】
方法
神経プレカーサー分化-
(Pollard et al.,2009;Reubinoff et al.,2001;Roy et al.,2006)を応用。成体皮膚線維芽細胞および胎児皮膚線維芽細胞を、20%FBS、IGFIIおよびbFGFが補われたF12-DMEM培地中で培養した。線維芽細胞にOct-4レンチウイルスを形質導入し、上述の培地で培養した。さらなるニューロン分化は、B27およびN2サプリメント(Gibco)、20ng/ml bFGFおよび20ng/mlヒト上皮成長因子(hEGF)(R&D Systems)を含むDMEM/F12からなる神経プレカーサー培地で行った(Carpenter et al.,2001)。細胞をプレートに付着させ、単層として14日間増大させた。培地を3日ごとに置き換え、細胞を7日目に、Accutase(Sigma)を5分間使って単一細胞懸濁液に解離することによって継代した。
【0162】
ドーパミン作動性前駆細胞誘導:
ドーパミン作動性前駆細胞分化培養物は、先に記述されたように調製した(Roy et al.,2006)。簡単に述べると、神経プレカーサー培養物をAccutaseで5分間解離した後、N2(Gibco)、bFGF(10ng/ml)、ヒトSHHのN末端活性フラグメント(200ng/ml)、およびFGF8(100ng/ml;R&D)が補われたDMEM/F12からなる中脳ニューロン培地中、新しいラミニン・コート・プレート(BD Biosciences)に移した。培地を3日ごとに置き換えた。7日後に、SHHおよびFGFを取り除き、N2、GDNF(20ng/ml)、BDNF(20ng/ml)および0.5%FBSが補われたDMEM/F12培地で置き換えることにより、ドーパミン作動性ニューロン分化を誘導した。培養物をこれらの条件下で14日間維持した後、染色(すなわち、ドーパミン作動性ニューロンの場合は、チロシンヒドロキシラーゼ、βIIIチューブリン)のために固定した。
【0163】
現時点で好ましい実施例であると見なされるものに関して本開示を説明したが、本開示が開示された実施例に限定されないことを理解すべきである。そうではなく、本開示は、本願請求項の要旨および範囲に含まれるさまざまな変更形態および等価なアレンジメントをカバーするものとする。
【0164】
全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願について参照によりそのまま本明細書に組み入れられることを個別に明示した場合と同じ程度に、参照により、そのまま本明細書に組み入れられる。
【0165】
(表1)
【0166】
(表2)
【0167】
(表3)hFibsと4日目のOct-4形質導入hFibsとを対比した網羅的遺伝子発現プロファイル
【0168】
(表4)
*値の計算:(総細胞数×CD45+細胞の頻度)
**値の計算:(総細胞数×CD34+CD45+細胞の頻度)
完全な造血再構築を達成するのに必要な皮膚パッチサイズの計算:
-60kgの個体は1.5×108個のCD34+ve細胞を必要とするであろう。
-直径6mmの皮膚穿刺物は1.0×107個の細胞を含む。
-最初にプレーティングした10,000個の線維芽細胞につき、CD34+CD45+細胞は約21,000個になる。
-したがって、1.5×108個のCD34+ve細胞を得るのに必要なFibsの数
=(10,000×1.5×108)/(21,000)
=7.14×107個の線維芽細胞。
-したがって、直径42.83mm(7.14×6mm)の皮膚パッチに相当する7.1個の皮膚穿刺物が必要である。
【0169】
(表5)
【0170】
(表6)
【0171】
(表7)
【0172】
参考文献:
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年10月29日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第61/256,170号の優先権の恩典を主張し、その内容は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【0002】
開示の分野
本開示は線維芽細胞の再プログラミングに関する。特に本開示は、線維芽細胞に由来する前駆細胞および誘導多能性幹細胞を作製する方法、およびその方法によって作出された細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
いくつかのグループが、Oct-4を他の因子と共に形質導入した後に、ヒト線維芽細胞を誘導多能性幹細胞(iPSC)に再プログラミングすることができることを実証している(Takahashi et al.,2007;Takahashi and Yamanaka,2006;Yu et al.,2007)。例えば皮膚線維芽細胞は、Oct-4(POU5F1)、Sox-2、Klf-4、c-Myc、Nanog、およびLin28を含む多能性因子のカクテルの異所性発現によって、多能性状態に再プログラミングすることができる(Takahashi et al.,2007;Yu et al.,2007)。さらなる研究により、Oct4を別にすれば、これらの因子の大部分は、ユニークな幹/前駆細胞の使用によって(Heng et al.;Aasen et al.2008;Eminli et al.2008;Eminli et al.2009;Kim et al.2009)、あるいは皮膚線維芽細胞源のエピゲノムを標的とする化学薬品の添加によって(Shi et al.2008;Lyssiotis et al.2009)、排除できることが示された。これらの研究は、iPSCを作製するためのアプローチおよび方法がいくつかあることを実証しているが、多能性状態への再プログラミングの基礎をなす細胞機序および分子機序は、まだ大部分が不明なままである(Jaenisch and Young,2008)。iPSCは血液細胞運命へと分化することができるが、その結果生じる造血細胞は、胚性プログラムを利用する原始血液細胞を優先的に生成する。その上、これらの方法は今なお非効率的であり、そのことが、移植または血液病のモデル化を意図することを困難にしている(Lengerke and Daley, 2010)。これらのプロセスの特徴づけは、おそらくは完全な多能性誘導にとって理想的な再プログラミング因子の正しい組合せ、化学量論、または発現レベルを達成できないせいで安定な多能性状態を樹立することができない細胞中間体により、さらに複雑になる(Chan et al.,2009;Kanawaty and Henderson,2009;Lin et al.,2009;Mikkelsen et al.,2008)。この考えと合致して、線維芽細胞に由来する中間体細胞は、いくつかの分化した系譜(ニューロン、表皮、および中胚葉)に関連する遺伝子を共発現することが示されているが(Kanawaty and Henderson,2009;Mikkelsen et al.,2008)、それでもなお、これらの細胞の正確な実体と分化能は不明なままである。このことから、線維芽細胞をニューロン、心筋細胞、およびマクロファージ様細胞などの特殊な細胞タイプへと転換することによって最近実証されたように(Feng et al.,2008;Ieda et al.,2010;Vierbuchen et al.,2010)、転写因子の小さなサブセットを発現する線維芽細胞は、ユニークな条件下で、多能性を獲得することなく、指定された系譜に分化するように誘導されうるという可能性が生まれる。これらの研究はマウスモデルにおいて線維芽細胞転換を調べたものであるが、この概念をヒトに応用するために外挿することは、まだなされていない。
【0004】
以前の研究により、POUドメインを含有するタンパク質、例えばOct-4は、Oct-2(POU2F2)およびOct-1(POU2F1)と共に、類似するDNAターゲットモチーフと結合することが示されている(Kang et al.,2009)。Oct-2とOct-1はどちらも造血発生において役割を果たすが(Brunner et al.,2003;Emslie et al.,2008;Pfisterer et al.,1996)、Oct-4はまだこのプロセスに関係づけられていない。それでも、最近の研究により、Oct-4は造血遺伝子Runx1およびCD45のプロモーターに結合する能力を有することが予想されているので、おそらくそれらの発現を調節するのだろう(Kwon et al.,2006;Sridharan et al.,2009)。結合および調節の類似性にもかかわらず、Octファミリーの個々のファミリーメンバーの正確な機能的役割は、細胞コンテクスト特異的であると思われる(Kang et al.,2009;Pardo et al.,2010)。
【0005】
ヒト皮膚線維芽細胞から多能性幹細胞を作製することができれば、複雑な遺伝子疾患モデルの作製が可能になり、免疫拒絶の懸念がない自家移植のための従来にない供給源が提供される(Takahashi and Yamanaka 2006;Hanna et al.2007;Yu et al.2007;Okita et al.2008;Park et al.2008;Park et al.2008b;Soldner et al.2009)。
【0006】
さまざまな体細胞タイプを再プログラミングすることができるが、再プログラミングプロセスを支配する機序を特徴づけようとする研究の大部分は、線維芽細胞を利用している(Takahashi and Yamanaka 2006;Takahashi et al.2007;Wernig et al.2007;Yu et al.2007;Aoi et al.2008;Brambrink et al.2008;Eminli et al.2008;Hanna et al.2008;Huangfu et al.2008;Lowry et al.2008;Stadtfeld et al.2008;Zhou et al.2008;Carey et al.2009;Feng et al.2009;Gonzalez et al.2009;Guo et al.2009;Kaji et al.2009;Utikal et al.2009;Woltjen et al.2009;Yusa et al.2009;Zhou et al.2009)。したがって、再プログラミングの分子機序と細胞的性質に関する現在の理解は、ほとんどもっぱら線維芽細胞に基づく再プログラミングに由来している。線維芽細胞は真皮(dermal skin)を含む複数の組織部位から作製することができるが、実験に使用された線維芽細胞の起源および組成については、ほとんど知られていない。
【0007】
多能性状態への細胞の再プログラミングは、最初は、インビトロ培養哺乳動物線維芽細胞を使って実証された(Takahashi and Yamanaka 2006)。現在までに、肝臓、膵臓、腸、胃、脂肪、メラノサイト、および造血供給源を含むいくつかの他の組織由来細胞から(Aoi et al.2008;Hanna et al.2008;Zhou et al.2008;Eminli et al.2009;Sun et al.2009;Utikal et al.2009)、がん遺伝子c-mycおよびklf4を含むさまざまな転写因子を使って(Takahashi and Yamanaka 2006;Takahashi et al.2007;Aasen et al.2008;Hanna et al.2008;Park et al.2008;Eminli et al.2009;Hanna et al.2009;Woltjen et al.2009;Zhao et al.2009)、iPSCが導出されている。現在のところ、再プログラミングプロセスは今なお非効率的であるが、幹/前駆細胞増殖能力を既に持っている初期細胞タイプを利用することによって(Kim et al.2009;Eminli et al.2008;Eminli et al.2009)、またはp53/p21などの細胞周期進行の阻害因子をノックダウンすることで細胞周期状態を増進することによって(Kawamura et al.2009;Li et al.2009;Utikal et al.2009)、増進することができる。しかし、細胞周期調節因子の改変やがん遺伝子導入は、制御されない成長および腫瘍形成のリスクを増加させるので、将来のヒトへの治療的応用に潜在的な安全性の懸念を生じる(Lebofsky and Walter 2007;Okita et al.2007;Nakagawa et al.2008;Markoulaki et al.2009)
【発明の概要】
【0008】
開示の概要
本発明者らはヒト皮膚線維芽細胞を使って、線維芽細胞の造血細胞(CD45+細胞)への直接転換を研究すると共に、線維芽細胞の誘導多能性幹細胞への再プログラミングを研究した。
【0009】
したがって、ある態様において、本開示は、
a)POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現するか、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞を提供する工程;および
b)多能性状態を経ることなく前駆細胞の作出を可能にする条件下で、工程(a)の細胞を培養する工程
を含む、線維芽細胞から前駆細胞を作製する方法を提供する。
【0010】
ある態様では、POUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、POUドメインを含有する内在性の遺伝子またはタンパク質の過剰発現、またはPOUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質の異所性発現を含む。ある態様では、線維芽細胞が、追加的に、NanogまたはSox-2を過剰発現または異所性発現しないか、NanogまたはSox-2で処理されない。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、POUドメインを含むベクターを線維芽細胞にトランスフェクトまたは形質導入することによって作出される。ある態様では、POUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される。ある態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質が、Oct-1、-2、-4または-11である。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質がOct-4である。POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質には、機能的変異体およびそのフラグメント、ならびに小分子ミメティックが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0011】
前駆細胞の作出を可能にする条件は当技術分野において公知であり、培養期間が15〜25日間、任意で21日間のコロニー形成アッセイが含まれるが、それに限定されるわけではない。もう一つの態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。さらにもう一つの態様では、前駆細胞が造血前駆細胞であり、条件は造血条件である。さらなる一態様では、前駆細胞が神経前駆細胞であり、条件は神経条件である。
【0012】
もう一つの態様では、上記の方法が、工程(b)において作出された細胞を、分化細胞の作出を可能にする条件下で分化培地において培養する工程を、さらに含む。そのような条件には、細胞を培地中で10〜21日、任意で16日の培養期間、培養することを含む。ある態様では、分化培地が、Flt3リガンド、SCFおよび/またはEPOなどの造血サイトカインを含む造血培地である。ある態様では、分化造血細胞が、単球または顆粒球などの骨髄芽球系譜の細胞である。もう一つの態様では、分化造血細胞が、赤血球系譜または巨核球系譜の細胞である。もう一つの態様では、分化培地が、線維芽細胞成長因子および上皮成長因子が補なわれた神経基礎培地を含む神経培地である。ある態様では、分化神経細胞がニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはアストロサイトを含むグリア細胞である。
【0013】
本明細書では、本明細書に記載する方法によって作製される単離された前駆細胞および分化細胞、ならびに生着および移植のための前記細胞の使用も提供される。造血前駆細胞は、血液、細胞性および非細胞性血液構成要素、血液製剤および造血細胞の供給源としても有用である。
【0014】
本明細書では、
a)本明細書に記載する方法によって前駆細胞またはそれに由来する細胞の培養物を調製する工程;
b)a)の細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された前駆細胞またはそれに由来する細胞を分析に供する工程
を含むスクリーニングアッセイが、さらに提供される。
【0015】
ある態様では、前駆細胞が、試験剤で処理する前に分化している。
【0016】
もう一つの局面では、
a)Oct-4レポーターを過剰発現する線維芽細胞を提供する工程;および
b)前記レポーターに関して陽性である細胞を単離する工程
を含む、増加した再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法が提供される。
【0017】
ある態様では、レポーター遺伝子が蛍光タンパク質(例えばGFP)を含み、工程(b)では、細胞がその蛍光の検出によって単離される。もう一つの態様では、レポーター遺伝子が、例えばピューロマイシンなどに対する抗生物質耐性を付与する遺伝子をコードし、細胞が抗生物質の存在下における生残によって単離される。ある態様では、Oct-4レポーター遺伝子を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。もう一つの態様では、線維芽細胞が包皮線維芽細胞である。
【0018】
本開示はさらに、
a)(i)Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団および(ii)線維芽細胞の混合集団またはOct-4陰性線維芽細胞の集団を提供する工程;
b)a)の細胞をOct-4、Nanog、Sox2およびLin28で処理する工程;および
c)b)の処理細胞を、iPS細胞の作出を可能にする条件下で培養する工程
を含む、再プログラミングされた線維芽細胞由来の誘導多能性幹(iPS)細胞を、より高い効率で作製する方法を提供する。
【0019】
上記の方法は、任意で、未分化幹細胞のマーカー、例えばTRA-1-60、SSEA-3、Sox2、Nanog、SSEA4、TRA-1-81、IGF1受容体、コネキシン43、E-カドヘリン、アルカリホスファターゼ、REX1、CRIPTO、CD24、CD90、CD29、CD9およびCD49fなどを発現する細胞を分析し、選択する工程を、さらに含む。ある特定態様では、TRA-1-60および/またはSSEA-3の発現について、細胞が選択される。
【0020】
ある態様では、Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団が、本明細書において述べるように、再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法によって作出される。ある態様では、(a)におけるi)の細胞とii)の細胞の比が、50:50、25:75または10:90である。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。
【0021】
本明細書では、本明細書に記載する方法によって作製された、単離された誘導多能性幹細胞およびそこから分化した細胞、ならびに生着、移植のための、および誘導多能性幹細胞の供給源としての、前記細胞の使用も提供される。
【0022】
さらに本明細書では、
a)本明細書に記載する方法によって誘導多能性幹細胞の培養物またはそこから分化した細胞を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理細胞を分析に供する工程
を含む、スクリーニングアッセイが提供される。
【0023】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明白になるであろう。ただし、詳細な説明および具体的例は、本開示の好ましい態様を示すものではあるが、単なる例示にすぎない。なぜなら、この詳細な説明から、本開示の要旨および範囲に包含されるさまざまな改変および変更が、当業者には明白になるだろうからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下、図面に関連して、本開示を説明する。
【図1】Oct-4形質導入ヒト成体皮膚線維芽細胞および胎児線維芽細胞が、CD45+veコロニーを生じさせることを示す図。a.形質導入後21日目(D21)における非形質導入(Fibs)およびOct-4形質導入(FibsOct-4)、Sox-2形質導入(FibsSox-2)またはNanog形質導入(FibsNanog)Fibs、非形質導入胎児線維芽細胞(胎児Fibs)およびOct-4形質導入胎児Fibs(胎児FibsOct-4)の代表的明視野像(コロニー-破線および矢印)(n=6)。b.Fibs、胎児Fibs、FibsOct-4、FibsSox-2およびFibsNanog、胎児FibsOct-4におけるSox-2、NanogおよびOct-4の相対的遺伝子発現量を、樹立されたiPSCにおけるこれらの遺伝子の発現量と比較したもの(n=3、*p<0.001)。c.FibsOct-4および胎児FibsOct-4におけるCD45レベルの代表的FACSプロットを、非形質導入Fibsまたは非形質導入胎児Fibs、FibsSox-2またはFibsNanog(n=6)と比較したもの。
【図2】a.FibsおよびソートしたCD45+FibsOct-4におけるCD45+ve細胞出現の過程に沿った線維芽細胞特異的マーカー発現に基づく網羅的遺伝子解析、b.21日目(D21)におけるFibs、胎児Fibs、およびFibsOct-4または胎児FibsOct-4+/-Flt3およびSCFの代表的明視野像(n=6)、c.21日目(D21)におけるFibs、胎児Fibs、およびFibsOct-4または胎児FibsOct-4+/-SCFおよびFlt-3におけるコロニーの数え上げ(コロニー-白い矢印;n=6;*p<0.001)、d.FibsおよびソートしたCD45+FibsOct-4の多能性遺伝子シグネチャーを示す図。
【図3】Oct-4形質導入ヒト皮膚線維芽細胞が多能性をバイパスすることを示す図。FibsおよびFibsOct-4+/-SCFおよびFlt-3ならびにOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28を形質導入したFibsにおける、hiPSC派生の31日間の時系列に沿った、a.SSEA3レベルおよびb.Tra-1-60レベルの定量的分析(n=3)。c.中胚葉、内胚葉および外胚葉を示すhiPSCに由来する奇形腫、ならびにFibsおよびFibsOct-4+/-Flt3およびSCFからの奇形腫の欠如を表す精巣切片(対照-食塩水注入)。
【図4】造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性Fibsによる骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。a.Oct-4形質導入CD45+ve Fibs(CD45+FibsOct-4)の単離と、その後の造血サイトカイン処理、続いて行われるインビトロおよびインビボ分析を表す図解。インビトロ分析はコロニー形成単位(CFU)アッセイおよびFACS分析を含み、インビボ分析は、NOD/SCID IL2Rγcヌル(NSG)マウスを用いる造血再構成アッセイである。b.CD45+FibsOct-4に由来する骨髄系細胞(CD45+CD13+およびCD13+CD33+細胞)のFACS分析(n=6)。c.単球(CD45+CD14+細胞)の代表的FACSプロット、およびd.CD45+FibsOct-4に由来する特色のある核形態(白い矢印)を有する単球の対応するGiemsa-Wright像(n=6)。e.Fibs(ビーズなし)との比較でCD45+FibsOct-4集団におけるマクロファージの存在を示すFITC標識ラテックスビーズ取り込みの代表的FACSプロット。上側のグラフは、CD45+FibsOct-4およびFibsによるFITC標識ラテックスビーズ取り込みの定量的分析を示す(n=3)。f.マクロファージの代表的Giemsa-Wright染色像およびマクロファージが取り込んだFITCビーズ(白い矢印)の免疫蛍光像。g.CD45+FibsOct-4(n=6)に由来する顆粒球(CD45+CD15+細胞)の代表的FACSプロット。h.好中球、好酸球および好塩基球(特徴的な核形態-白い矢印)を含むGiemsa-Wright染色CD45+CD15+顆粒球(n=6)。i.CD45+FibsOct-4造血サイトカイン処理細胞は造血前駆細胞(CD45+CD34+細胞)を生じさせる(n=9)。j.成体皮膚または胎児包皮CD45+ve細胞に由来する顆粒球(CFU-G)、単球(CFU-M)コロニー形成単位(CFU)の代表的な像(20×)。k.成体皮膚Fibs、胎児包皮Fibsおよび臍帯血(UCB)に由来する1000個のソートCD45+CD34+細胞からの顆粒球(CFU-G)、単球(CFU-M)ならびに混合顆粒球および単球(CFU-GM)CFU形成の定量(n=3)。l.成体および胎児CD45+FibsOct-4細胞ならびにUCB由来造血前駆細胞におけるCFU形成頻度(n=3;*p<0.001)。
【図5】CD45+FibsOct-4細胞のインビボ再構成能力を示す図。a.成体NOD/SCID IL2RγcヌルマウスへのCD45+ve細胞の一次および二次注入ならびにそれらに続く生着細胞の分析に使用した、異種移植モデルの概略図。b.サイトカインで処理したCD45+FibsOct-4細胞の大腿骨内注入後10週目におけるヒトキメラ化を表すグラフ(n=12)。c.食塩水注入マウスとの比較で生着マウスにおけるCD45+veおよびCD14+ve集団の存在を示す生着CD45+FibsOct-4細胞(HLA A/B/C+ve細胞)の代表的FACSヒストグラム(n=12)。d.臍帯血(UCB)由来前駆細胞および動員末梢血(M-PB)細胞の大腿骨内注入後10週目におけるヒトキメラ化を表すグラフ(n=4)。e.CD45+veおよびCD14+ve集団(n=4)の存在を示す生着UCBおよびM-PB細胞の代表的FACSヒストグラム。f.UCBとの比較で生着CD45+FibsOct-4細胞に由来するマウス細胞枯渇CD45+ve細胞1000個あたりのコロニー形成能力(n=3)。
【図6】CD45+FibsOct-4細胞が、EPO処理後に赤血球系譜および巨核球系譜を再構成できることを示す図。a.Fibs、CD45+FibsOct-4細胞、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞における赤芽球マーカーCD71レベルの代表的FACSヒストグラム(n=3)。b.Fibs、CD45+FibsOct-4、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞におけるグリコホリンA(赤血球マーカー)レベルの代表的FACSヒストグラム(n=3)。c.Fibs、CD45+FibsOct-4、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞における成体型グロビン、ベータ-グロビンレベルの代表的FACSヒストグラム(上側の図は分化したヒト多能性幹細胞(hPSC)のFACS分析である)(n=3)。d.Fibs、CD45+FibsOct-4細胞、およびEPOで処理したCD45+FibsOct-4細胞における胚型グロビン(ゼータ)、胎児型グロビン(イプシロン)および成体型グロビン(ベータ)の相対的mRNA発現量(n=3;*p<0.001)。e.原始(黒い矢印)および成熟(白い矢印)赤血球形態を示すGiemsa-Wright染色EPO処理CD45+FibsOct-4細胞。f.EPO処理した成体および胎児線維芽細胞由来CD45+FibsOct-4細胞の代表的CFU像(20×;n=3)。(赤芽球バースト形成単位(Erythroid blast forming unit)-BFU-E;顆粒球コロニー形成単位-CFU-G;単球コロニー形成単位-CFU-M;全ての系譜を含有するコロニー形成単位-CFU-Mix)。g.UCBと比較した、成体および胎児Fibs、CD45+FibsOct-4、ならびにEPOで処理したまたはEPOで処理していないCD45+FibsOct-4細胞における、CFU形成の定量的分析(n=3)。h.Fibs(左側)、またはEPOで処理した(右側)もしくはEPOで処理していない(左側)CD45+FibsOct-4細胞に由来する、代表的な巨核球CFU(CFU-Mk)像(CD41+ve細胞)(20×)(n=3)。i.巨核球CFU形成の定量的表現(右側、n=3;*p<0.001)。
【図7】Oct-4形質導入がヒト皮膚線維芽細胞における造血プログラムの活性化をもたらすことを示す図。a.ヒトiPSCからの造血分化と比較した、CD45+ve細胞出現の時間経過(0日目(D0)、4日目(D4)、21日目(D21)および37日目(D37))に沿った、FibsにOct-4のみを形質導入した後の造血細胞運命転換に関する提唱モデル。CD45+ve細胞出現の経過に沿った、すなわち、Fibs(D0)、ピューロマイシン選択4日目FibsOct-4(D4)、およびソートしたCD45+FibsOct-4(D21)における、線維芽細胞特異的マーカー発現(b)、多能性シグネチャー(c)、造血サイトカイン(d)および造血転写因子(e)に基づく網羅的遺伝子培養(global gene culturing)。f.D21におけるソートCD45+FibsOct-4細胞およびD37における造血サイトカイン処理ソートCD45+FibsOct-4細胞と比較した、Fibs(D0)における中胚葉遺伝子(GATA2、ブラキュリ(Brachyury))、造血特異的遺伝子(SCL、MixL1、Runx1、GATA1、PU.1およびC/EBPα)および多能性遺伝子(Oct-4、Sox-2およびNanog)の相対的mRNA発現解析(n=4、*p<0.001)。g.CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った、すなわち、Fibs(D0)、ピューロマイシン選択4日目FibsOct-4(D4)、ソートしたCD45+FibsOct-4細胞(D21)および造血サイトカイン処理ソートCD45+FibsOct-4細胞(D37)における、POU遺伝子ファミリー(Oct-4-POU5F1を含む)の遺伝子発現プロファイル。h.Oct-4、Oct-1およびOct-2が占有することのできる公知のネイティブ(SEQ ID NO:1)および予想オクタマー(SEQ ID NO:2)(POUドメイン)結合配列の概略図(Nは任意のヌクレオチド(A、T、CまたはG)であることができる;星印と下線を付した領域は、コア保存オクタマー結合領域を表す)。i.右側-hFib対照と比較した、CD45+ve細胞出現の経過に沿った、造血特異的遺伝子SCL、Runx1、CD45、GATA1、PU.1、Oct-2およびC/EBPαプロモーターまたはエンハンサー領域の相対的Oct-4占有(n=3;*p<0.001)。j.右側-hFib対照と比較した、CD45+ve細胞出現の経過に沿った、非造血遺伝子Gadd45a、Pol2ra、Myf5およびNkx2.5の相対的Oct-4占有(n=3;*p<0.001)。k.右側-hFib対照と比較した、CD45+ve細胞出現の経過に沿った、多能性遺伝子Oct-4、Sox-2、Tbx3およびc-Mycプロモーター領域の相対的Oct-4占有(n=3;*p<0.001)。i〜k.左側-ネイティブまたは予想オクタマー結合領域(黒い箱)に対する解像度500〜1000bpでの設計されたプライマー(矢印)の近接。多能性幹細胞-hPSC;線維芽細胞-Fibs(D0);ピューロマイシン選択4日目Oct-4形質導入hFibs-4日目FibsOct-4(D4)、およびOct-4形質導入CD45+ve細胞-CD45+FibsOct-4(D21)。
【図8】Oct-4、Nanog、Sox-2およびLin-28を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞(Fibs)に由来するiPSCの特徴づけを示す図。a.Oct-4、Nanog、Sox-2およびLin-28を形質導入したヒトFibsに由来するiPSCコロニー(破線および矢印)の代表的な像(20×)。b.iPSCにおける多能性マーカーSSEA-3、Tra1-60、Oct-4およびSSEA-4の代表的FACSプロット(n=4)。c.免疫不全マウス(NOD/SCID)へのiPSCの精巣内注入は、3つ全ての胚葉、すなわち外胚葉(皮膚)、内胚葉(杯細胞を伴う管腔)および中胚葉(軟骨)を含有する奇形腫形成をもたらした(20×;n=6)。
【図9】iPSC派生中に派生する中間体コロニーが造血表現型を有することを示す図。a.造血細胞の形態(丸い細胞)を持つ中間体コロニー(矢印)が、4つの異なるiPSC株(1〜4)に存在した。b.CD45が中間体コロニーに限られ、一方、Tra-1-60はiPSCにのみ存在することを示す、CD45陽性造血細胞(緑色)およびTra-1-60陽性iPSコロニー(赤色)の生細胞染色(20×;n=4)。c.4つの独立したiPSC株におけるCD45レベルの代表的FACSヒストグラム(n=4)。d.1)4つの異なるiPSC株に由来するソートCD45+ve細胞、2)手作業で単離したiPSコロニー、および3)Fibsにおける、相対的Oct-4、Sox-2およびNanog mRNA発現量(n=4;*p<0.001)。ヒト胚性幹細胞(hESC)に対してレベルを規格化した。e.Fibs(非形質導入)、iPSC、およびソートしたCD45+ve iPSCにおけるOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28のレンチウイルス組込み(n=4)。
【図10】ヒト皮膚線維芽細胞(Fibs)からのCD45陽性細胞派生の概略図。a.ヒト皮膚Fibsに、マトリゲル上で、Oct-4レンチウイルスを形質導入した。形質導入後3日目に、細胞を、1)IGFIIおよびbFGFが補われたF12培地、または2)IGFII、bFGF、Flt3およびSCFが補われたF12培地、のどちらかが入っているマトリゲル・コート・ディッシュに移した。造血CD45陽性コロニーをOct-4形質導入後14日目および21日目に数え上げた。b.Oct-4(FibsOct-4)、Sox-2(FibsSox-2)およびNanog(FibsNanog)-レンチベクターの組込みを示す代表的ブロット。Oct-4、Sox-2、Lin-28およびNanogを形質導入した皮膚Fibsに由来するヒトiPSCを陽性対照として使用し(レーン1)、非形質導入Fibsまたは胎児Fibsを陰性対照として使用した(レーン2および6)(n=6)。c.FibsからのCD45+ve細胞出現の経過に沿った、Oct-4形質導入後の網羅的Oct-4遺伝子発現(POU5F1プローブセット)(0日目-D0、および21日目(D21)-CD45+FibsOct-4)。POU5F1(Oct-4)特異的プローブセットは、Oct-4形質導入時に、検出に使用したプローブセットとは無関係に、hFlbsからのCD45+ve細胞出現の時系列に沿って増加する。
【図11】形質導入後14日目〜21日目の間にOct-4形質導入細胞から出現したCD45陽性コロニーを示す図。a.コロニー出現(白い矢印)の時系列に沿った、ヒトFibsならびにhFibsOct-4+/-SCFおよびFlt3の代表的明視野像(0〜21日目)(n=6)。拡大図は21日目における生細胞CD45染色コロニーを表す。
【図12】Oct-4形質導入CD45陽性コロニーが多能性表現型を獲得しないことを示す図。a.差次的に調節されるOct(POU)ファミリーメンバーの遺伝子発現プロファイル。Oct-4(POU5F1)は、CD45+ve細胞出現の時間経過に沿って、すなわちFibs (D0)、4日目FibsOct-4(D4)およびCD45+FibsOct-4(D21)において、差次的に調節される唯一のPOUファミリーメンバーであった。b.CD45+ve細胞出現の時間経過に沿って、すなわちFibs (D0)、4日目FibsOct-4(D4)およびCD45+FibsOct-4(D21)において、差次的に調節されない(Oct-4を除く)POU遺伝子ファミリーの遺伝子発現プロファイル。c.非形質導入Fibs、ならびにFibsOct-4+/-SCFおよびFlt3、ならびにiPSCにおける、SSEA3陽性集団頻度の代表的FACSヒストグラム(n=6)。d.非形質導入Fibs、FibsOct-4+/-SCFおよびFlt3、ならびにiPSCにおける、Tra-1-60陽性集団頻度の代表的FACSヒストグラム(n=6)。e.非形質導入Fibs、FibsOct-4+SCFおよびFlt3、ならびにiPSCにおける、Tra-1-60陽性コロニー(矢印および破線)の生細胞染色。
【図13】CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った成長ダイナミクスおよびc-Myc発現。a.7継代にわたるFibs、CD45+FibsOct-4細胞およびヒトiPSC(hiPSC)の成長/増大(expansion)ダイナミクス(n=9)。b.CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った、すなわちFibsとCD45+FibsOct-4(21日目-D21)とを比較した、c-Mycの遺伝子発現プロファイル。
【図14】網羅的遺伝子シグネチャーは、単核球をOct4陽性CD45+ve細胞と、また臍帯血由来前駆細胞を4日目Oct-4形質導入Fibsとクラスター化することを示す図。a.単核球(MNC)、臍帯血由来造血前駆細胞(UCB)、Fibs、骨芽細胞、4日目FibsOct-4およびCD45+FibsOct-4の網羅的遺伝子クラスター分析。b.MNC、UCB細胞、Fibs、骨芽細胞、4日目FibsOct-4およびCD45+FibsOct-4の造血遺伝子解析。c.さらに16日間にわたって造血サイトカインで処理したCD45+FibsOct-4(37日目-D37)は、サイトカイン処理前のCD45+FibsOct-4(21日目-D21)および37日目の無処理CD45+FibsOct-4(D37)と比較して、増進した増殖能力を有していた(n=6;*p<0.001)。d.37日目(D37)における、造血サイトカイン処理を行った、および行わなかった、CD45+FibsOct-4細胞、ならびに21日目(D21)におけるCD45+FibsOct-4細胞の細胞生存率(n=6)。
【図15】37日目における造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性胎児包皮由来Fibsによる骨髄系細胞のインビトロ再構成を示す図。37日目(D37)における胎児CD45+FibsOct-4に由来する骨髄系細胞(CD45+CD13+細胞およびCD13+CD33+細胞)のFACS分析(n=3)。
【図16】37日目における造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性胎児および成体Fibsによる単球系譜のインビトロ再構成を示す図。a.37日目(D37)における単球(CD45+CD14+細胞;n=3)の代表的FACSプロット。b.非形質導入Fibsと比較した、CD45+FibsOct-4由来マクロファージによるFITC標識ビーズ取り込み(40×)(白い矢印-ビーズを含有する細胞)。
【図17】37日目における造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性Fibsによる骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。a.37日目(D37)におけるCD14の欠如とCD15共発現を示す、CD45、CD14およびCD15で三重染色したCD45+FibsOct-4細胞の代表的FACS分析(n=3)。b.37日目(D37)における、胎児CD45+FibsOct-4に由来する顆粒球(CD45+CD15+細胞)の代表的FACSプロット(n=3)。c.37日目(D37)におけるサイトカインで処理したGiemsa-Wright染色CD45+FibsOct-4細胞の代表的バルク像(20×および40×;n=6)(矢印-造血細胞)。
【図18】37日目のOct-4形質導入CD45陽性Fibsにおける、造血サイトカイン処理非存在下での、骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。a.37日目(D37)のCD45+FibsOct-4における造血サイトカイン非存在下での骨髄系細胞(CD45+CD13+細胞およびCD13+CD33+細胞)のFACS分析(n=6)。b.37日目(D37)のCD45+FibsOct-4における造血サイトカイン非存在下での単球(CD45+CD14+細胞)および顆粒球(CD45+CD15+細胞)の代表的FACSプロット(n=6)。
【図19】造血サイトカイン処理Oct-4形質導入CD45陽性胎児包皮由来Fibsによる骨髄系譜のインビトロ再構成を示す図。造血サイトカイン処理胎児CD45+FibsOct-4細胞は、37日目(D37)に造血前駆細胞(CD45+CD34+細胞)を生じさせる(n=3)。
【図20】免疫不全マウス生着CD45+FibsOct-4細胞に由来するコロニー形成単位がCD45発現を維持したことを示す図。a.生着CD45+FibsOct-4細胞に由来するCFUの明視野像(n=3)。b.生着CD45+FibsOct-4に由来するCFUにおけるCD45発現を示す代表的FACSヒストグラム(n=3)。c.生着CD45+FibsOct-4に由来するCFUにおけるCD45発現とCD14発現とを対比して示す代表的FACSプロット(n=3)。d.生着CD45+FibsOct-4に由来するCFUにおけるCD45発現とCD15発現とを対比して示す代表的FACSプロット(n=3)。
【図21】Oct-4形質導入CD45陽性細胞由来Fibsのインビボ再構成を示す図。a.食塩水を注入した対応物との比較で、注入を受けた免疫不全(NSG)マウスの対側骨におけるCD45+FibsOct-4(D37)細胞の生着を示す代表的FACSプロット(n=8;p<0.01)。b.生着CD45+FibsOct-4細胞の一次および二次再構成能力。レシピエントNSGマウスの骨および脾臓におけるヒトキメラ化をヒト17番染色体の存在によって分析した。陽性対照-動員末梢血(M-PB);陰性対照-食塩水注入マウスからの脾臓および骨;対照-ゲノムDNAなし-gDNAなし。
【図22】EPO処理が赤芽球コロニー形成単位の形成をもたらしたことを示す図。a.Fibs、EPO処理を行ったまたは行わなかったCD45+FibsOct-4に由来するコロニー形成単位の定量(n=3;*p<0.001)。b.プレーティングした細胞5,000個あたりのコロニー(CFU)形成の頻度を表す棒グラフ(n=3;*p<0.001)。(単球-CFU-M;顆粒球-CFU-G;赤芽球-BFU-E;赤芽球、顆粒球、単球を含有する混合コロニー-CFU-Mix)。
【図23】CD45+ve細胞出現の時間経過に沿って、Oct-4が誘導する変化を示す図。a.成体皮膚FibsとOct-4形質導入後4日目のFibsとを比較した分子/機能パスウェイのFatigo解析(閾値を2倍に設定;p<0.001)。CD45+ve細胞出現の時間経過に沿った、すなわちFibs(0日目-D0)、ピューロマイシン選択4日目FibsOct-4(4日目-D4)、およびソートしたCD45+FibsOct-4(21日目-D21)における、b.有意な転写調節(p<0.001)を示す、およびc.転写調節が存在しないことを示す、造血遺伝子の遺伝子発現プロファイル。
【図24】Oct4形質導入CD45+ve細胞の成熟中の造血遺伝子発現を示す図。a.造血特異化(Runx1、SCL)および成熟(PU.1、Runx1、C/EBPαおよびGATA1)に関与することが示された造血遺伝子の概略図。b.37日目(D37)の、造血サイトカインカクテル処理(Flt-3、G-CSF、SCF、IL6、IL3、BMP-4)を行った、または行わなかった、CD45+FibsOct-4細胞における、中胚葉遺伝子(GATA2、ブラキュリ)、造血特異的遺伝子(SCL、MixL1、Runx1、GATA1、PU.1およびC/EBPα)および多能性遺伝子(Oct-4、Sox-2およびNanog)の相対的mRNA発現解析(n=3、*p<0.001)。c.CD45+FibsOct-4細胞における、Oct-4形質導入後、21日目(D21)および37日目(D37)での、成体ヘモグロビン(ベータ、アルファおよびデルタ)発現。(HBB-β-ヘモグロビン;HBA-α-ヘモグロビン;HBD-δ-ヘモグロビン)。
【図25】線維芽細胞培養物に由来するユニークな細胞サブセットにおける、Octエンハンサーが駆動するGFP発現を示す図。(a)PGK-EGFP(陽性対照)、プロモーターレスEGFP(陰性対照)ベクター、C3+EOS EGFP IRES Puroベクターの概略図。(b)PGK-EGFP、陰性対照およびC3+EOS GFP IRES Puroベクターを形質導入したhESCおよびヒト皮膚成体線維芽細胞(hFibs)の代表的な位相顕微鏡像および蛍光顕微鏡像。C3+EOSベクターからのGFP陽性(GFP+ve)を矢印で示す。(c)胸部由来hFibsおよび陽性対照hESCにおけるC3+EOS形質導入時のGFP+ve細胞頻度の代表的FACSプロット。(d)C3+EOS GFPベクターを形質導入した包皮および肺由来の線維芽細胞(hFibs)の代表的な位相顕微鏡像および蛍光顕微鏡像。C3+EOSベクターからのGFP陽性(GFP+ve)を矢印で示す。(e)C3+EOS形質導入時の、胸部(n=5)、包皮(n=3)および肺(n=3)由来の線維芽細胞におけるGFP+ve細胞の頻度を、フローサイトメトリーを使って調べた。(f)C3+EOSレンチウイルスを形質導入した全hFibsからGFP+veおよびGFP-ve hFibsをソートするために使用した戦略の概略図と、続いて行った、ソートされたサブフラクションの分析。(g)代表的なプロウイルス組込みおよびGFP発現プロファイルを、ソートした細胞で調べた。(h)pSIN Oct4レンチウイルスを形質導入したGFP-ve線維芽細胞フラクションの位相顕微鏡像および蛍光顕微鏡像。矢印はOct4過剰発現後に観察されるGFP細胞を示す。
【図26】EOS+ve線維芽細胞が多能性遺伝子を発現することを示す図。(a)Oct4座およびそれらの座の上のさまざまなエクソンをまたぐプライマーの概略図。(bおよびc)半定量および定量PCR分析におけるOct4アイソフォームの発現。(d)線維芽細胞のさまざまなサブフラクションにおけるキー多能性遺伝子Nanog、Sox2およびブラキュリ(BrachT)の相対的発現。(e)GFP+ve hFibsからのOct4、Nanog、およびSox2の発現を、定量RT-PCR分析によって、hESCと比較した。(f)全hFibs、NOS+exp線維芽細胞、NOS-exp線維芽細胞、hESC、iPSC NOS+exp、公開データセットからの線維芽細胞およびiPS(Fib-BJ1、iPS BJ1およびiPS BJ2)の階層的クラスタリング。発現プロファイルは、マウスESCにおいて濃縮される遺伝子(Takahashi et al.2007)、ヒトESCおよび成体線維芽細胞マーカー(Yu et al.2007)に基づいている。(g)特異的抗体を使った対照hESCおよびGFP+ve細胞におけるOct4の免疫染色の代表的な像(10×)および拡大像。(h)ウェスタンブロッティングによる、全hFibs、GFP+ve hFibs、293、Oct4を過剰発現する293、および対照hESCにおける、Oct4、Nanog、およびSox2の発現。(l)C3+EOS GFP IRES PuroベクターのOct4エンハンサー(CR4)におけるOct4、Nanog、およびSox2の占有をChIPアッセイを使って調べた。(j)ChIPを使って、対照hESC、NOS+exp、NOS-expおよび全hFib細胞におけるOct4、Nanog、およびSox2座のエピジェネティック状態を分析することで、H3K4Me3マーク(黒い棒)とH3K27Me3マーク(白い棒)を同定した。
【図27】全線維芽細胞培養物から分離されたNOS+exp細胞が、低下した再プログラミング効率を呈することを示す図。(a)マトリゲル上でヒトFibsおよびそのサブフラクションNOS+expを再プログラミングするために使用したプロトコールの概略図。(b)マトリゲル上での10,000個の全線維芽細胞またはNOS+exp細胞からのiPSC派生。3つの異なるウイルス価を使って、全線維芽細胞の再プログラミングを9回行い、NOS+expはn=6とした。(c)全線維芽細胞に由来するiPSCおよび非iPSC様コロニーの代表的位相像。蛍光顕微鏡像は両コロニーにおけるTra1-60の生細胞染色を示す。(d)多能性マーカーSSEA3、Tra1-60およびOct4染色の発現を、iPSCおよび非iPSC様コロニーにおいて、フローサイトメトリーで検証した。(e)全hFibsに由来するTra 1-60+veコロニーの平均数。(f)全hFib再プログラミングから得られたiPSCおよび非iPSCコロニーにおけるキーES特異的マーカーの発現を示す半定量PCR。(g)中胚葉、内胚葉、および外胚葉分化を示す、iPS細胞に由来する奇形腫のヘマトキシリンおよびエオシン染色。(h)NOS+exp hFibsを全hFibsと表示した比で混合し、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28をコードするレンチウイルスをプレーティングの24時間後に形質導入した。グラフは、形質導入の3週間後のコロニー数の定量を表している。表示のデータは、3つの異なるウイルス価を使って二つ組にして実施した3つの生物学的レプリケートからのデータである。(i)1K+9K混合物(1:9)の代表的な位相像および蛍光像。GFP+veコロニーはNOS+exp(EOS+ve)細胞によるものであり、これはEOSプロウイルス組込みによってさらに確認された。EOS-veコロニーは全hFibによるものだった。完全に再プログラミングされたコロニーと部分的に再プログラミングされたコロニーとを区別するために、Tra 1-60生細胞染色を行った。(j)混合物実験からの再プログラミングされたコロニーにおけるES特異的遺伝子の再活性化を調べるための多能性遺伝子の半定量PCR。(星印は、さらなるフローサイトメトリー分析のためにこれらのコロニーを選択したことを示す)。(k)混合物実験における、NOS+expおよび全hFibsに由来する再プログラミングされたコロニーのフローサイトメトリー分析。(i)奇形腫形成のためにNOS+exp hFib由来iPSC細胞をマウス精巣に注入した。3つ全ての胚葉(中胚葉、内胚葉、および外胚葉)の分化を示す奇形腫のヘマトキシリンおよびエオシン染色。
【図28】NOS+exp細胞は再プロラミングを起こしやすいことを示す図。(a)hFibsにC3+EOS GFPベクターを形質導入し、NOS+exp細胞をマトリゲル上でソートし、全線維芽細胞と1:9の比(1000個のNOS+exp細胞+9000個の全hFibs)で混合するか、または10000個の全線維芽細胞を、マトリゲル上にプレーティングした。プレーティングの24時間後に、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28をコードするレンチウイルスを形質導入した。右側の図は、1K対9K混合物実験に由来するコロニー数の定量を表す。左側の図はEOS-ve細胞およびEOS+ve細胞からのコロニー寄与を表す。(b)混合物実験において、NOS+exp(1Kに由来するEOS+ve)または全hFibs(9Kに由来するEOS-ve)に由来するコロニーにおける完全な再プログラミングを調べるために、Tra 1-60生細胞染色を行った。(c)混合物実験において、完全な再プログラミング(Tra 1-60+veコロニー)の頻度を、各区画からのTra 1-60+veコロニーの数を、投入細胞数で割ることによって調べた[Tra 1-60+ve(EOS-ve)の数/9000またはTra 1-60+ve(EOS+ve)の数/1000]。
【図29】細胞再プログラミング適格性に関してNOS+expの分子状態が微小環境によって調節されうることを示す図。(a)表示の密度のNOS+expを含有する10,000個の細胞を、マトリゲル・コート・プレートに播種した。Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28をコードするレンチウイルスをプレーティングの24時間後に形質導入した。形質導入の3週間後にコロニーの数を計数した。コロニーの平均数を表す。(b〜c)全hFibsおよび新規に単離されたNOS+exp hFibsをChIPアッセイで分析することで、内在性クロマチン状態を評価し、続いてキー多能性遺伝子の遺伝子解析を行った。(d)左から右に向かってそれぞれ、単独で培養された、または全hFibsおよびMEFと共培養された、NOS+exp hFibsの代表的な位相像および蛍光像。(e)培養NOS+exp hFibsで行ったChIPアッセイは、Oct4座における二価性を示し、一方、NanogおよびSox2プロモーター座は抑制されていた。定量PCR分析は、新規に単離された細胞と比較して、培養NOS+expではOct4発現が減少していることを示した。(f)NOS+exp hFibsを全hFibsまたはマウス胚性線維芽細胞と50-50の比で共培養した。共培養したNOS+exp(GFP+ve)を共培養物から直接単離し、精製した集団をヒストン修飾および遺伝子発現について分析した。全hFibs上の共培養NOS+expからのChIPアッセイは、内在性多能性遺伝子上に活性型マークを示した。共培養NOS+expの定量PCR分析は、Nanog、Oct4およびSox2の発現が、培養NOS+expと比較して回復したことを示した。(g)NOS+expおよびNOS-exp細胞の再プログラミング能をMEF上で試験した。左図-MEF上の、またはMEFなし(マトリゲル)の、NOS+exp/-exp細胞の位相像および蛍光像。右図-再プログラミングの3〜5週間後の位相像および蛍光像。誘導多能性コロニーは、NOS+exp細胞をMEF上で再プログラミングした場合にのみ観察された。観察されたコロニーはGFP+veおよびTra 1-60+veだった。
【図30】hFibs中に同定されたユニークなNOS+exp集団が、独特の分子状態および細胞周期特性を呈することを示す図。(a)線維芽細胞の遺伝子発現シグネチャーおよび個々の皮膚幹/前駆細胞に特異的な分子マーカーに基づく全hFibs、NOS+exp hFibs、NOS-exp hFibs、皮膚由来プレカーサー(SKP)、ケラチノサイトおよびバルジ幹細胞(BSC)の階層的クラスタリング。(b)成体幹/前駆細胞の網羅的クラスター分析。(c)全集団と比較してNOS+expにおいて差次的にアップレギュレートされる遺伝子に関する円グラフ。遺伝子は、3倍カットオフに基づいてフィルタリングされ、NOS+expレプリケート試料全体に100%存在した。(d)対照hESC、全hFibs、NOS+exp、NOS-exp、iPS NOS+exp細胞ならびに公開データセットFib BJ1、iPS BJ1,2における細胞周期パスウェイ(http://www.genome.jp/kegg/)発現に基づく遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリング。全hFibsと比較してNOS+exp線維芽細胞/iPS細胞においてアップレギュレート/ダウンレギュレートされる特徴的(featured)細胞周期遺伝子を示す。(e)EOSベクターを形質導入したhFibsで、HMMR(CD168)染色を行った。分裂NOS+exp hFibsの核内にHMMRの局在が観察された。(f)hFibsにEOSベクターを形質導入し、NOS+expおよび全線維芽細胞の成長を、継代ごとにフローサイトメトリーで測定した。
【図31】多能性再プログラミングを起こしやすいNOS+exp hFibsの役割に関する提唱モデルを示す図。
【図32】GFP+ve細胞が全hFib培養物においてユニークであることを示す図。(a)全hFibsにpGK-EGFPを形質導入し、GFP+ve細胞の数をフローサイトメトリー分析で見積もった。(b)対照hESCにおけるC3+EOSレンチウイルスの形質導入と、それに続くフローサイトメトリーは、GFP+ve細胞の一貫した増加を示した。(c)EOSベクターを形質導入したhFibsの代表的な位相像および免疫蛍光像および3D Zスタック像。矢印は全hFibsとは異なる平面にあるEOS形質導入GFP+ve細胞を示す。(d〜f)全hFibsにC3+EOSレンチウイルスを形質導入した。フローサイトメトリー分析によって算出したGFP+ve細胞のパーセンテージおよび平均蛍光強度は、EOS C3+形質導入時に、ウイルス希釈度とは無関係に、一定した3〜4%のGFP+ve細胞を示したことから、これらの細胞が高コピー数ウイルス組込みによる人工産物ではないことが示唆される。(g)GFP+ve細胞が高コピー数ウイルス組込みの人工産物でないことを実証するために、GFP-ve細胞を全hFibsからソートし、二次EOS C3+形質導入を行った。二次感染からのGFP-ve細胞をさらにソートして三次感染を行った。三次感染および四次感染でウイルスコピー数の増加によるGFP+ve細胞の増加は観察されなかった。(h)四次感染細胞におけるPGK-EGFP形質導入時の緑色細胞の出現により、EOS C3+形質導入時のGFP+ve細胞の欠如はウイルス取り込みに関連する問題によるものではないことが示唆された。
【図33】線維芽細胞培養物中のユニークな細胞が多能性遺伝子Oct4を発現することを示す図。(a)全hFib培養物、293細胞、およびOct4導入遺伝子を過剰発現する293細胞におけるOct4の免疫染色。矢印は、核内にDAPIと共局在化しているOct4染色を示す。(b)MeDIP ChIPを全hFib培養物、293細胞、hESC、NOS+exp(GFP+ve)細胞で行った。グラフは、hESCおよびNOS+exp(GFP+ve)細胞との比較で、293および全線維芽細胞におけるOct4プロモーターメチル化の特異的濃縮を示している。
【図34】全線維芽細胞から再プログラミングされたコロニーについて、アイソタイプ染色を示す図。(a)全hFibsに由来するiPS様コロニーにおける表面アイソタイプ染色(SSEA3表面染色の対照)および内部アイソタイプ染色(Oct4染色の対照)に関するフローサイトメトリー分析。(b)全hFibsに由来する非iPSCコロニーにおける表面アイソタイプ染色(SSEA3表面染色の対照)および内部アイソタイプ染色(Oct4染色の対照)に関するフローサイトメトリー分析。
【図35】NOS+exp細胞から作製した誘導多能性細胞がさまざまな系譜に分化できることを示す図。(a)ヒトESおよびNOS+exp Fibsに由来するiPS細胞の、CD45汎造血因子染色によって示される造血系譜へのインビトロEB分化。(b)ヒトES細胞およびNOS+exp hFibsに由来するiPSC細胞は、A2B5染色によって示されるニューロン系譜に分化する。
【図36】NOS-exp hFibsは成長が遅く、再プログラミングには寄与しないことを示す図。(a)精製NOS-exp hFibsに、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を含有するレンチウイルスを形質導入した。培養物を6週間監視したが、NOS-exp hFibsはiPSCコロニーを生成しなかった。(b)NOS-expを不均質なhFibsと表示した比で混合し、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を含有するレンチウイルスを形質導入した。2〜6週の間に、どの実験でも、一つのコロニーしか検出されなかった。(c)5万個のNOS-expを播種し、表示した連続継代数にわたって、細胞計数によって成長速度を監視した。
【図37】hFibsにC3+EOSレンチウイルスを形質導入し、NOS+exp hFibsをソートし、表示の継代数にわたって維持したことを示す図。各継代時にGFP発現をフローサイトメトリーによって測定した。
【図38】Oct-4形質導入ヒト線維芽細胞が、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびニューロンを生じさせることを示す図。a.Oct-4形質導入時の神経系譜特異化の時系列を表す図解。b.非形質導入線維芽細胞、ならびにアストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびニューロンを生じるOct-4形質導入線維芽細胞の代表的明視野像(n=3)。c.GFAPで染色したアストロサイトの代表的免疫蛍光像(n=3)。d.線維芽細胞(Fibs)およびOct-4形質導入線維芽細胞(FibsOct-4)におけるGFAPレベルの代表的FACSプロット(n=3;p<0.01)。e.ベータ-チューブリンIIIで染色したニューロンの代表的免疫蛍光像(n=3)。f.線維芽細胞(Fibs)およびOct-4形質導入線維芽細胞(FibsOct-4)におけるベータ-チューブリンIIIレベルの代表的FACSプロット(n=3;p<0.01)。g.Olig-4で染色したオリゴデンドロサイトの代表的免疫蛍光像(n=3)。h.線維芽細胞(Fibs)およびOct-4形質導入線維芽細胞(FibsOct-4)におけるOlig-4レベルの代表的FACSプロット(n=3;p<0.01)。i.Oct-4形質導入線維芽細胞におけるGFAP、Olig-4およびベータ-チューブリンIIIレベルの頻度(n=3)。
【図39】Oct-4形質導入ヒト線維芽細胞が、ドーパミン作動性表現型を有する成熟ニューロンを生じさせることを示す図。ドーパミン作動性ニューロン派生の時系列を表す図解(右側)ならびにベータ-チューブリンIIIおよびチロシンヒドロキシラーゼのドーパミン作動性神経免疫蛍光染色。
【図40】Oct4による線維芽細胞の形質導入が、神経前駆細胞発生と関連する遺伝子の発現を誘導することを示す図。線維芽細胞および4日後にOct4を形質導入した線維芽細胞に由来する試料のaffymetrixアレイハイブリダイゼーションによって得られた遺伝子発現パターン。遺伝子発現パターンをインシリコで比較し、違いを線維芽細胞+OCT4/線維芽細胞の倍率変化として表した。統計的有意差検定はスチューデントのt検定を使って行った。
【発明を実施するための形態】
【0025】
開示の詳細な説明
A.前駆細胞および分化細胞への線維芽細胞の直接転換
本発明者らは、Oct-4形質導入皮膚線維芽細胞が、造血前駆細胞および神経前駆細胞を生じさせることを示した。本発明者らはさらに、造血前駆細胞が骨髄系譜を完全に再構成する能力を有することを示した。
【0026】
したがって、本開示は、
a)POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現するか、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞を提供する工程;および
b)多能性状態を経ることなく前駆細胞の作出を可能にする条件下で、工程(a)の細胞を培養する工程
を含む、線維芽細胞から前駆細胞を作製する方法を提供する。
【0027】
本明細書において使用する用語「POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質」は、図7またはSEQ ID NO:1もしくは2に示すオクタマー(Octamer)DNA結合配列に結合するPOUドメインを含有する遺伝子またはタンパク質を指す。ある態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質が、Oct遺伝子またはタンパク質、例えば限定するわけではないが、Oct-1、-2、-4、または-11である。ある特定態様では、Oct遺伝子またはタンパク質がOct-4である。
【0028】
本明細書において使用する用語「前駆細胞」は、より特殊化した細胞に分化する能力を有する、特殊化の度合が低い細胞を指す。前駆細胞のタイプには、神経系譜および造血系譜を生じさせる細胞が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ある態様では、前駆細胞が造血前駆細胞である。もう一つの態様では、前駆細胞が神経前駆細胞である。
【0029】
本明細書において使用する「多能性状態を経ることなく」という表現は、前駆細胞への線維芽細胞の直接的転換を示し、例えば、作出される細胞は、多能性幹細胞の性質、例えばTra-1-60またはSSEA3を欠く。
【0030】
本明細書において使用する用語「造血前駆細胞」は、血液細胞を生じさせる細胞を指し、CD45+細胞を含むが、それに限定されるわけではない。したがって、ある態様では、CD34またはCD45陽性細胞を精製するために、(b)の細胞がソートされる。
【0031】
本明細書において使用する用語「神経前駆細胞」は、神経系譜の細胞(ニューロンおよびグリア細胞、例えばアストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを含むが、それらに限定されるわけではない)を生じさせる細胞を指す。神経前駆細胞マーカーには、A2B5、ネスチン、GFAP、ベータ-チューブリンIII、オリゴ(oligo)-4およびチロシンヒドロキシラーゼが含まれるが、それらに限定されるわけではない。随意の一態様では、神経細胞が、これらのマーカーを使ってソートされる。
【0032】
本明細書において使用する用語「線維芽細胞」は、結合組織を含む身体の多くの組織に見いだされ、かつ標準的な細胞培養法を使って得ることができる、細胞のタイプを指す。例えば線維芽細胞は、血液、骨髄、臍帯血および胎盤を含む成体組織および胎児組織から作製することができる。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。本明細書において使用する用語「皮膚線維芽細胞」は、任意の動物(例えばヒト)の皮膚から単離される線維芽細胞を指す。ある態様では、動物が成体である。もう一つの態様では、線維芽細胞が冷凍保存されている。これに代わる一態様では、POUドメイン含有遺伝子を発現する線維芽細胞以外の細胞を、工程(a)において使用することができる。
【0033】
本明細書において使用する用語「Oct-4」は、Oct-4遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-4を包含し、増進活性を保っているOct-4のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-4タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-4に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_002701が挙げられるが、それに限定されるわけではない。OCT-4は、POU5-F1またはMGC22487またはOCT3またはOCT4またはOTF3またはOTF4とも呼ばれる。
【0034】
本明細書において使用する用語「Oct-1」は、Oct-1遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-1を包含し、増進活性を保っているOct-1のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-1タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-1に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_002697.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Oct-1はPOU2-F1またはOCT1またはOTF1とも呼ばれる。
【0035】
本明細書において使用する用語「Oct-2」は、Oct-2遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-2を包含し、増進活性を保っているOct-2のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-2タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-2に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_002698.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Oct-2はPOU2-F2またはOTF2とも呼ばれる。
【0036】
本明細書において使用する用語「Oct-11」は、Oct-11遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのOct-11を包含し、増進活性を保っているOct-11のアナログおよびフラグメントもしくは部分を包含する。Oct-11タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるOct-11に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_014352.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Oct-11はPOU2F3とも呼ばれる。
【0037】
ある態様では、Oct-1、-2、-4または-11などのPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、内在性POUドメイン含有する遺伝子の過剰発現、またはPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質の異所性発現を含む。ある態様では、線維芽細胞が、追加的に、NanogまたはSox-2を過剰発現または異所性発現しないか、NanogまたはSox-2で処理されない。
【0038】
Oct-1、-2、-4または-11などのPOUドメイン含有タンパク質または遺伝子を発現する線維芽細胞は、当技術分野において公知のさまざまな方法によって、例えば内在性POUドメイン含有遺伝子を過剰発現させることや、POUドメイン含有タンパク質または遺伝子を細胞中に導入して、形質転換細胞またはトランスフェクト細胞または形質導入細胞を作出することなど(ただしそれらに限定されるわけではない)によって、得ることができる。「形質転換」、「トランスフェクト」または「形質導入」という用語は、当技術分野において公知である数多くの考えうる技法の一つによる細胞中への核酸(例えばベクター)の導入を包含するものとする。例えば核酸は、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈法、DEAE-デキストランによるトランスフェクション、リポフェクトアミン、エレクトロポレーションもしくはマイクロインジェクション、またはウイルス形質導入またはトランスフェクションによる方法などといった従来の技法によって、哺乳動物細胞中に導入することができる。細胞の形質転換、形質導入およびトランスフェクションを行うための好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001)および他の実験書に見いだすことができる。哺乳動物細胞における発現を指示するのに好適な発現ベクターは、一般に、プロモーター(例えばポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40などのウイルス物質に由来するプロモーター)ならびに他の転写および翻訳制御配列を含む。哺乳動物細胞発現ベクターの例には、pCDM8(Seed,B.,Nature 329:840(1987))およびpMT2PC(Kaufman et al.,EMBO J.6:187-195(1987))が含まれる。
【0039】
ある態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞が、外因性POUドメイン含有タンパク質またはその機能的変異体もしくはフラグメントまたはそのペプチドミメティックの添加を含む。もう一つの態様では、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞が、POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質の発現を誘導する、使用可能な化学的代用品の添加を含む。
【0040】
POUドメイン含有タンパク質は「ペプチドミメティック」を含有してもよいし、「ペプチドミメティック」を得るためまたは設計するために使用してもよい。例えば、POUドメイン含有タンパク質の機能を模倣するために、ペプチドミメティックを作ることができる。「ペプチドミメティック」は、分子間の相互作用においてペプチドの代替物として働く構造である(概観するにはMorganら(1989),Ann.Reports Med.Chem.24:243-252を参照されたい)。ペプチドミメティックには、アミノ酸および/またはペプチド結合を含有しても含有しなくてもよいが、構造的および機能的特徴は保っている合成構造が含まれる。ペプチドミメティックには(例えば国際公開公報第99/25044号に記載されているような)他の機能的要素と共により大きな分子にペプチドを組み込んだ分子も含まれる。ペプチドミメティックには、POUドメイン含有ペプチドに対応する考えうる全てのアミノ酸配列を表す設計された長さのペプチドを含有するペプチド、オリゴペプトイド(Simonら(1972) Proc.Natl.Acad,Sci USA 89:9367)およびペプチドライブラリーも含まれる。
【0041】
ペプチドミメティックは、D-アミノ酸によるL-アミノ酸の体系的置き換え、異なる電子的性質を有する基による側鎖の置き換え、およびアミド結合代用物によるペプチド結合の体系的置き換えによって得られる情報に基づいて設計することができる。候補ペプチドミメティックの活性にとってのコンフォメーション的要件を決定するために、局所的なコンフォメーション束縛も導入することができる。ミメティックは、リバース・ターン・コンフォメーションを安定化または促進するために、そして分子の安定化に役立つように、等電子アミド結合またはD-アミノ酸を含みうる。アミノ酸残基を特定のコンフォメーション状態に束縛するために、環状アミノ酸類似体を使用してもよい。ミメティックは、本明細書に記載するタンパク質の二次構造のミメティックも含むことができる。これらの構造は、タンパク質の公知二次コンフォメーションへのアミノ酸残基の三次元配向を模ることができる。N置換アミノ酸のオリゴマーであって、化学的に多様な新規分子のライブラリーを作製するためのモチーフとして使用することができるペプトイドも、使用することができる。
【0042】
本明細書において使用する用語「変異体」は、実質的に同じ方法で実質的に同じ機能を果たすPOUドメイン含有タンパク質の修飾体、置換体、付加体、誘導体、類似体、フラグメントまたは化学的均等物を含む。例えばPOUドメイン含有タンパク質の変異体は、図7に示すオクタマー配列との結合に役立つという同じ機能を有するだろう。
【0043】
前駆細胞の作出を可能にする条件は、当技術分野ではよく知られている。例えば、コロニー形成は、前駆細胞を培養するための当技術分野において公知の標準的方法である。細胞培養培地は、細胞の成長を支持することができる任意の培地であることができ、半固形培地を含むが、それに限定されるわけではない。ある態様では、条件が、14〜31日、任意で21日の培養期間を含む。
【0044】
もう一つの態様では、細胞の成長を支持することができる任意の培地中で細胞を培養し、次に、例えば少なくとも3日後に、その細胞を、造血細胞および神経細胞などの分化細胞の作出を可能にするための条件下で、造血培地または神経培地などの分化培地に入れる。
【0045】
本明細書において使用する用語「分化」および「分化した」は、特殊化の程度が低い細胞、例えば幹細胞が、特定の系譜に拘束されるように、より特殊化した細胞タイプになるプロセスを指す。
【0046】
本明細書において使用する用語「造血培地」は、造血細胞の成長および/または分化を支持する細胞培養培地を指す。ある態様では、造血培地が、少なくとも一つの造血サイトカイン、例えばFlt3、SCFまたはEPOを含む。ある態様では、サイトカインがFlt3またはSCFである。ある態様では、分化造血細胞が骨髄芽球系譜の細胞、例えば単球または顆粒球である。もう一つの態様では、造血サイトカインがEPOであり、分化造血細胞が赤血球系譜または巨核球系譜である。
【0047】
本明細書において使用する用語「神経培地」は、神経細胞の成長および/または分化を支持する細胞培養培地を指す。ある態様において、神経培地は、線維芽細胞成長因子、上皮成長因子または骨形成因子4(BMP-4)、bFGF(10ng/ml)、ヒトSHHのN末端活性フラグメント(200ng/ml)、FGF8(100ng/ml;R&D)、GDNF(20ng/ml)、BDNF(20ng/ml)および/またはウシ胎児血清が補われた神経基礎培地を含む。ある態様では、分化神経細胞がニューロンまたはグリア細胞、例えばアストロサイトおよび/またはオリゴデンドロサイトである。
【0048】
もう一つの局面において、本開示は、本明細書に記載する方法によって作製された、単離された前駆細胞または分化細胞を提供する。そのような細胞は、TRA-1-60またはSSEA-3などといった、いくつかの多能性マーカーを発現しない。また、そのような細胞は、発生中にOct-4多能性マーカーの発現を失うので、前駆細胞の安全な代替物の新しい供給源になる。
【0049】
さらにもう一つの局面において、本開示は、生着または細胞置換のための、本明細書に記載する細胞の使用を提供する。もう一つの態様において、本発明は、生着または細胞置換に使用するための、本明細書に記載する細胞を提供する。さらに本明細書では、生着または細胞置換のための医薬の製造における、本明細書に記載する細胞の使用も提供する。本明細書にいう「生着」は、本明細書に記載する方法によって作出される造血細胞を、それを必要とする対象に移すことを指す。移植片は、同種異系(この場合は、ある対象からの細胞が、別の対象に移される)、異種(この場合は、異なる種からの細胞が対象に移される)、同系(この場合は、細胞が遺伝的に同一なドナーからのものである)、または自家移植片(この場合は、細胞が、同じ対象上のある部位から異なる部位に移される)であることができる。したがって本明細書では、本明細書に記載する細胞を、それを必要とする対象に移す工程を含む、生着または細胞置換の方法も提供される。本明細書において使用する用語「細胞置換」は、対象の細胞、例えば赤血球もしくは血小板、またはニューロンもしくはグリア細胞、または造血前駆細胞を置き換えることを指す。さらにもう一つの態様では、生着または細胞置換のための細胞が、疾患を矯正するために、遺伝子的にまたは他の形で修飾されていてもよい。POUドメイン含有遺伝子によるトランスフェクションまたは形質導入の前または後の線維芽細胞を、異常な表現型を矯正する能力を有する関心対象の遺伝子を過剰発現するように、遺伝子的に修飾することができ、次に細胞が選択され、対象中に移植されるであろう。もう一つの局面では、一定の疾患に特有の遺伝子を過剰発現するか、その完全な発現を欠く、線維芽細胞またはPOUドメイン含有遺伝子発現線維芽細胞が、疾患モデル化、例えば薬物スクリーニングのための、前駆細胞または分化細胞を産生するだろう。
【0050】
「対象」という用語は、ヒトを含む動物界のあらゆるメンバーを包含する。ある態様では、対象が動物である。もう一つの態様では、対象がヒトである。
【0051】
ある態様では、本明細書に記載する生着または細胞置換が、自家移植または非自家移植のための生着または細胞置換である。本明細書において使用する用語「自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によって前駆細胞または分化細胞を作製し、作製された前駆細胞または分化細胞を同じ対象に移し戻すことを指す。用語「非自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によって前駆細胞または分化細胞を作製し、作製された前駆細胞または分化細胞を異なる対象に移し戻すことを指す。
【0052】
さらにもう一つの局面において、本開示は、血液、細胞性または非細胞性血液構成要素、血液製剤、造血幹細胞および神経細胞の供給源としての、本明細書に記載する細胞の使用を提供する。そのような供給源は、置換、研究および/または創薬に使用することができる。
【0053】
本明細書に記載する方法および細胞は、前駆細胞発生の細胞生物学および分子生物学の研究、分化に際して役割を果たす遺伝子、成長因子および分化因子の発見、ならびに創薬に使用することができる。したがって、もう一つの局面において、本開示は、
a)本明細書に記載する方法によって前駆細胞または分化細胞の培養物を調製する工程;
b)前記前駆細胞または分化細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された前駆細胞または分化細胞を分析に供する工程
を含む、前駆細胞または分化細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【0054】
ある態様では、試験剤が、特定細胞タイプへの細胞の分化に対するその効果について試験される化学薬品または他の物質、例えば薬物である。そのような態様では、分析が、分化細胞タイプのマーカーを検出することを含みうる。例えば、CD45、CD13、CD33、CD14、CD15、CD71、CD235a(グリコホリンA)、CD133、CD38、CD127、CD41a、ベータ-グロビン、HLA-DR、HLA-A,B,C、CD34、A2B5、ネスチン、GFAP、ベータ-チューブリンIII、オリゴ-4およびチロシンヒドロキシラーゼ。もう一つの態様では、試験剤が化学薬品または薬物であり、スクリーニングが、その薬剤の効力および安全性を評価するための一次スクリーニングまたは二次スクリーニングとして使用される。そのような分析は、細胞増殖もしくは細胞死、または細胞特異的な特徴、例えば肥満細胞脱顆粒、食作用、酸素交換、神経シグナリング、活動電位の存在、一定のタンパク質の分泌、特異的遺伝子もしくはタンパク質の活性化、一定のシグナリングカスケードの活性化もしくは阻害を測定する工程を含むことができる。
【0055】
B.誘導多能性幹細胞への線維芽細胞の再プログラミング
ヒトiPSCへの細胞再プログラミングの基礎をなすヒト線維芽細胞の起源がわかっていないことを考え、本発明者らは、細胞再プログラミングプロセスとの関連で成体皮膚線維芽細胞を特徴づけようと試みた。本発明者らは、再プログラミングされた細胞の作製を担う成体ヒト皮膚線維芽細胞の亜集団を同定し、特徴づけた。
【0056】
したがって本開示は、
a)Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞を提供する工程;および
b)前記レポーターに関して陽性である細胞を単離する工程
を含む、増加した再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法を提供する。
【0057】
この項に関連するA部分での定義は、この項にも同様に適用される。
【0058】
Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞は、当技術分野において公知のさまざまな方法、例えば本明細書において定義する形質転換、トランスフェクションまたは形質導入による核酸コンストラクトまたは核酸ベクターの導入など(ただしそれらに限定されるわけではない)によって、作出することができる。ある態様では、Oct-4レポーター遺伝子がレンチウイルス形質導入によって導入される。
【0059】
本明細書において使用する用語「再プログラミング能」は、前駆細胞もしくは幹細胞の能力または多能性状態を回復する細胞の潜在能を指す。本明細書において使用する用語「増加した再プログラミング能」は、その再プログラミング能が、選択または単離されていない線維芽細胞の混合集団の潜在能よりも高いことを意味する。
【0060】
本明細書において使用する用語「Oct-4レポーター」は、レポーターの上流がOct-4によって結合され、レポーターの下流配列の転写を可能にしまたは増進する、DNA配列を指す。Oct-4レポーターは当技術分野において公知である。例えばOct-4レポーターは、参照により本明細書にそのまま組み入れられるHotta et al.2009およびOkumura-Nakanishi et al.2005に記載されている。
【0061】
本明細書において使用する用語「レポーター遺伝子」および「レポーター」は、同定可能なタンパク質をコードする任意の遺伝子を指す。当業者はレポーター遺伝子およびレポーター産物を容易に同定することができる。ある態様では、複数のレポーター遺伝子/レポーターが使用される。ある態様では、レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質、GFP)を含み、工程(b)では、蛍光を発している蛍光タンパク質の検出によって細胞が単離される。もう一つの態様では、レポーター遺伝子が、ピューロマイシンなどに対する抗生物質耐性を付与する遺伝子をコードし、細胞は抗生物質の存在下における生残によって単離される。ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。レポーター遺伝子はタグをコードしてもよく、細胞は免疫分離に基づいて単離することができる(http://www.miltenyibiotec.com/en/PG_167_501_MACSelect_Vectors_and_Tag_Vector_Sets.aspx)。
【0062】
本開示は、
a)(i)Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団および(ii)線維芽細胞の混合集団またはOct-4陰性線維芽細胞の集団を提供する工程;
b)a)の線維芽細胞をOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28で処理する工程;および
c)(b)の細胞を、iPS細胞の作出を可能にする条件下で培養する工程
を含む、再プログラミングされた線維芽細胞由来の誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する方法も提供する。
【0063】
ある態様では、b)における線維芽細胞が、Oct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28で、それぞれの遺伝子をレンチウイルス形質導入などのウイルス形質導入によって導入することによって処理される。
【0064】
本明細書において使用する用語「幹細胞」は、自己複製の能力を有する細胞を指す。ある態様では、幹細胞が多能性幹細胞である。本明細書において使用する用語「多能性」は、さまざまな細胞タイプに分化することを可能にする能力を維持している未分化細胞を指す。「誘導多能性幹細胞」という用語は、非多能性幹細胞から人工的に導出した多能性幹細胞を指す。
【0065】
本明細書において使用する用語「Sox-2」は、Sox-2遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのSox-2を包含し、活性を保っているSox-2の変異体、類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。Sox-2タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるSox-2に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_003106が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0066】
本明細書において使用する用語「Nanog」は、Nanog遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのNanogを包含し、活性を保っているNanogの変異体、類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。Nanogタンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるNanogに関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてNM_024865が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0067】
本明細書において使用する用語「Lin-28」は、Lin-28遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのLin-28を包含し、活性を保っているLin-28の変異体、類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。Lin-28タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるLin 28に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の一例としてBC028566.2が挙げられるが、それに限定されるわけではない。Lin-28は、CSDD1またはZCCHC1またはLin28Aとも呼ばれる。
【0068】
本明細書において使用する用語「混合集団」は、選択された亜集団ではなく、ある動物に由来する線維芽細胞の混合集団を指す。この開示では、バルク集団という用語を互換的に使用することもできる。混合集団は、さまざまなレベルのOct-4、Sox-2および/またはNanogを発現する細胞を含有する。
【0069】
もう一つの態様では、上記の方法が、未分化幹細胞のマーカー、例えばTRA-1-60、SSEA-3、Sox2、Nanog、SSEA4、TRA-1-81、IGF1受容体、コネキシン43、E-カドヘリン、アルカリホスファターゼ、REX1、CRIPTO、CD24、CD90、CD29、CD9およびCD49fなどを発現する細胞を分析し、選択する工程を、さらに含む。ある態様では、細胞が、TRA-1-60および/またはSSEA-3の発現について選択される。
【0070】
本明細書において使用する用語「TRA-1-60」は、TRA-1-60遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのTRA-1-60を包含し、活性を保っているTRA-1-60の類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。TRA-1-60タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるTRA-1-60に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の例にはNM_001018111およびNM_005397などがあるが、それらに限定されるわけではない。
【0071】
本明細書において使用する用語「SSEA-3」は、SSEA-3遺伝子の遺伝子産物を指し、任意の種または供給源からのSSEA-3を包含し、活性を保っているSSEA-3の類似体およびフラグメントまたは部分を包含する。SSEA-3タンパク質は、Genbankなどの公的情報源から入手することができるSSEA-3に関する公知の公表された配列のどれを有してもよい。そのような配列の例にはNM_001122993があるが、それに限定されるわけではない。
【0072】
ある態様では、Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団が、再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離するための本明細書に記載の方法によって作出される。ある態様では、Oct-4を発現する線維芽細胞の集団が、Oct-4またはそのアイソフォームB1の発現を含むが、その細胞質アイソフォームOct4Bの発現は含まない。
【0073】
ある態様では、線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である。皮膚線維芽細胞は例えば動物の皮膚から導出することができる。
【0074】
ある態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が、50:50〜10:90である。ある態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が50:50である。もう一つの態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が10:90である。さらにもう一つの態様では、工程(a)(i)の細胞と工程(a)(ii)の細胞との比が25:75である。
【0075】
iPS細胞の作出を可能にする条件は、当技術分野においてよく知られており、培養期間が2〜3週間のコロニー形成アッセイが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0076】
本開示はさらに、本明細書に記載する方法によって作製された、単離された誘導多能性幹(iPS)細胞およびそこから分化した細胞を提供する。
【0077】
さらにもう一つの局面において、本開示は、生着のための、本明細書に記載するiPS細胞またはそこから分化した細胞の使用を提供する。本開示は、生着に使用するための、本明細書に記載するiPS細胞またはそこから分化した細胞も提供する。さらに、生着のための医薬の製造における、本明細書に記載するiPS細胞の使用も提供される。本明細書にいう「生着」は、本明細書に記載する方法によって作出される細胞を、それを必要とする対象に移すことを指す。移植片は、同種異系(この場合は、ある対象からの細胞が、別の対象に移される)、異種(この場合は、異なる種からの細胞が対象に移される)、同系(この場合は、細胞が遺伝的に同一なドナーからのものである)、または自家移植片(この場合は、細胞が、同じ対象上のある部位から異なる部位に移される)であることができる。したがって本明細書では、本明細書に記載するiPS細胞またはそこから分化した細胞を、それを必要とする対象に移す工程を含む、生着の方法も提供される。
【0078】
「対象」という用語は、ヒトを含む動物界のあらゆるメンバーを包含する。ある態様では、対象が動物である。もう一つの態様では、対象がヒトである。
【0079】
ある態様では、本明細書に記載する生着が、自家移植または非自家移植のための生着である。本明細書において使用する用語「自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によってiPS細胞を作製し、作製されたiPS細胞またはそこから分化した細胞を同じ対象に移し戻すことを指す。用語「非自家移植」は、対象からの線維芽細胞を提供し、単離された線維芽細胞から本明細書に記載する方法によってiPS細胞を作製し、作製されたiPS細胞またはそこから分化した細胞を異なる対象に移し戻すことを指す。iPS細胞から分化した細胞の場合は、iPS細胞をまずインビトロで分化させてから、対象に移す。
【0080】
さらにもう一つの局面において、本開示は、iPS細胞またはそこからの分化細胞の供給源としての、本明細書に記載する細胞の使用を提供する。
【0081】
本明細書に記載する方法および細胞は、幹細胞発生の細胞生物学および分子生物学の研究、幹細胞分化に際して役割を果たす遺伝子、成長因子および分化因子の発見、ならびに創薬に使用することができる。したがって、もう一つの局面において、本開示は、
a)本明細書に記載する方法によるiPS細胞またはそこから分化した細胞の培養物を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された細胞を分析に供する工程
を含む、iPS細胞またはそこから分化した細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【0082】
ある態様では、試験剤が、特定細胞タイプへのiPS細胞の分化に対するその効果について試験される化学薬品または他の物質、例えば薬物である。そのような態様では、分析が、分化細胞タイプのマーカーを検出することを含みうる。例えば、CD45、CD13、CD33、CD14、CD15、CD71、CD235a(グリコホリンA)、CD133、CD38、CD127、CD41a、ベータ-グロビン、HLA-DR、HLA-A,B,C、およびCD34、A2B5、ネスチン、GFAP、ベータ-チューブリンIII、オリゴ-4およびチロシンヒドロキシラーゼ。もう一つの態様では、試験剤が化学薬品または薬物であり、スクリーニングが、その薬剤の効力および安全性を評価するための一次スクリーニングまたは二次スクリーニングとして使用される。ある態様では、分析が、細胞増殖もしくは細胞死もしくは細胞分化、または関心対象の前駆細胞もしくは分化細胞の生成を分析することを含む。
【0083】
上記の開示は本開示を大まかに説明している。より完全な理解は、以下の具体的実施例を参照することによって得ることができる。これらの実施例は単に例示を目的として記載するのであって、本開示の範囲を限定しようとするものではない。形態の改変および均等物の代用も、状況に応じて適宜、考えられる。本明細書では具体的な用語を使用したが、そのような用語は説明することを意図しているのであって、限定を目的としているのではない。
【0084】
以下に非限定的な実施例を挙げて本開示を例証する。
【実施例】
【0085】
実施例1:皮膚線維芽細胞から血液への直接的転換
結果
Oct-4を形質導入したhFibsからのCD45+ve集団の出現
多能性に向かう再プログラミングには、奇形腫形成能を有する安定な誘導多能性幹細胞(iPSC)の希少なサブセット中にさまざまな中間体細胞の生成を包含する事象のカスケードが必要である(Takahashi et al.,2007;Takahashi and Yamanaka,2006)(図8a〜c)。これらの中間体の一部は、造血細胞に似た丸い細胞形態を有するコロニーを形成し(図9a)、ヒト汎造血マーカーCD45を発現するが(CD45+ve)、iPSCを示す多能性マーカーTra-1-60(Chan et al.,2009)の共発現を欠く(図9b〜c)。これらのヒト線維芽細胞(hFib)由来CD45+ve細胞はFACSによって単離することができ、異所性Oct-4を優先的に発現する一方、低レベルのSox-2およびNanogを示すことがわかった(図9d〜e)。これらの知見は、完全に再プログラミングされたiPSCとは異なり、hFib由来中間体が、ヒト造血マーカーCD45の獲得によって例証されるように、独特な系譜特異的表現型を獲得できたことを示している。
【0086】
CD45の獲得と、NanogまたはSox-2と比較してOct-4のレベルの方が高いこととに基づいて、成体皮膚hFibsおよび胎児(包皮)hFibsという2つの独立した供給源からコロニーが出現する時のOct-4の役割を、NanogまたはSox-2単独の役割と比較した(図1a)。形質導入および非形質導入hFibsを、形質導入後14〜21日の間、コロニー形成について調べた(図10に図解)。非形質導入体またはSox-2(hFibsSox-2)もしくはNanog(hFibsNanog)を形質導入したhFibsとは異なり、Oct-4を発現するhFibs(hFibOct-4)はコロニーを生じさせ(図1aおよび図10b)、樹立されたiPSCに検出されるレベルと同様のOct-4発現を呈した(図1b)。hFibsOct-4だけが造血様CD45+ve細胞を生じた(図1c;成体hFibs約38%;胎児hFibs約24%)。さらにまた、CD45+ve細胞(CD45+hFibsOct-4(21日目))は、複数のプローブセットでOct-4発現の増加を示し(図9c)、それに伴って線維芽細胞特異的遺伝子発現(Yu et al.,2007)が減少したことから(図2a)、独特な遺伝子シグネチャーの獲得が実証された。形質導入後4日目までに、約1000個の遺伝子がダウンレギュレートされ、同じ数の遺伝子がアップレギュレートされて、線維芽細胞表現型からCD45+ve 表現型への観察されたシフトをもたらした(表3)。総合すると、これらのデータは、Oct-4が、ヒト皮膚線維芽細胞の複数の供給源からのCD45+ve細胞出現を惹起するのに、ユニークに充分であることを示している。
【0087】
出現するCD45+ve hFibsをより良く特徴づけるために、初期造血に不可欠な誘導性成長因子に相当するFlt3(FMS様チロシンキナーゼ3)リガンドおよびSCF(幹細胞因子)を使って(Gabbianelli et al.,1995;Hassan and Zander,1996;Lyman et al.,1993)、CD45+veコロニー形成を増進しようと考えた。Flt3LおよびSCFによる処理は、無処理のhFibOct-4対応物と比較して、胎児および成体hFibsOct-4のどちらからのCD45+veコロニー出現頻度も、それぞれ4倍および6倍増加させたが(図2b〜c)、対照hFibsでは検出可能な効果がなかった(図2b〜cおよび図11)。これらの結果から、Oct-4形質導入hFibsに由来するCD45+ve細胞は、初期造血成長因子に応答することが示された。
【0088】
hFibsからのCD45+ve細胞派生は多能性状態を経ない
Oct-4のみの異所性発現が、Sox-2を内在的に発現する神経前駆細胞の多能性再プログラミングをもたらすことが示されている(Kim et al.,2009)。そこで、CD45+ve hFibsのOct-4誘導出現中に、多能性の誘導および維持に不可欠であることが知られている一群の遺伝子(Takahashi and Yamanaka,2006)の発現を調べた。Oct-4(POU5F1)のアップレギュレーション(図12a)を除けば、Oct-4形質導入はhFibsの多能性遺伝子発現プロファイルを変化させなかった(図2d)。さらに、関連POUファミリーメンバーOct-2(POU2F2)およびOct-1(POU2F1)も、影響を受けていなかった(図12b)。また、完全に再プログラミングされたiPSCの確立されたマーカー、例えばSSEA3およびTra-1-60レベルも、Oct-4誘導CD45+veコロニー出現中に、再プログラミング因子の完全なセット(Oct-4、Sox-2、Nanog、およびLin-28)を形質導入したhFibsからのiPSC派生(Yu et al.,2007)と比較して調べた。Oct-4のみを異所性発現させた場合、hFibsOct-4では、0日目から31日目までの間、SSEA3もTra-1-60も検出できなかったのに対し、多能性iPSCの樹立中はSSEA3およびTra-1-60レベルが徐々に増加した(図3a〜b、図12c〜e)。内胚葉、中胚葉、および外胚葉を生じさせることができる完全に再プログラミングされたiPSCとは異なり、同じ数のOct-4形質導入hFibsを免疫不全マウスに注入しても、奇形腫を生じさせることはできなかった(図2cおよび表1)。iPSCとは異なり、hFibsもCD45+vehFibsOct-4も不死化されなかったが、およそ7継代にわたって維持することができ(図13a)、腫瘍形成性トランスフォーミング因子c-Myc(Lebofsky and Walter,2007)の上昇を伴わなかった(図13b)。したがって、これらの結果は、hFibOct-4細胞が、検出可能な形質転換細胞または多能性細胞の表現型または機能的性質を伴うことなく、造血細胞運命選択に資する細胞運命決定を明示することを示している。
【0089】
CD45+vehFibsOct-4はインビトロおよびインビボ造血前駆細胞能力を有する
網羅的遺伝子発現解析は、CD45+vehFibsOct-4が、動員末梢血(M-PB)由来および臍帯血(UCB)由来の造血前駆細胞(CD34+ve細胞)に由来する単核球(MNC)とクラスター化することを示した(図14a〜b)。これは、CD45+vehFibsOct-4が、複数の血液細胞タイプの機能的造血能を有しうることを示唆している。機能的ヒト造血能力を明確にするために、成体および胎児CD45+vehFibsOct-4の両方を物理的に単離した後、ヒト成体造血前駆細胞発生を支持することが知られているサイトカインカクテル(Wang et al.,2005)と共に培養し(図4a)、続いてCD45+vehFibsOct-4を増大させた(図14c〜d)。その結果生じた子孫はCD45発現を保ち、骨髄特異的マーカーCD33およびCD13を獲得した(図4bおよび図15)。CD45+vehFibsOct-4子孫のサブフラクションは、CD14を発現する単球を含み(図4c〜dおよび図16a)、これは、M-CSFおよびIL-4に対する応答性により、食作用能を有するマクロファージへと機能的に成熟するように、さらに刺激することができる(Silverstein et al.,1977)。CD45+vehFibsOct-4由来単球は、FACS(図4e)および免疫蛍光分析(図4fおよび図16b)によって示されるとおり、FITC標識ラテックスビーズを貪食することができたが、非形質導入サイトカイン処理hFibsはこのユニークな性質を欠いていた(図4e)。複数のhFibs供給源(成体および胎児)に由来する造血サイトカイン処理CD45+vehFibsOct-4は、顆粒球マーカーCD15の発現(図4gおよび図17b)ならびに好中球、好酸球、および好塩基球を含む顆粒球サブタイプに関連する特徴的な細胞形態および多核形態(図4hおよび図17c)によって示されるように、単球細胞とは異なる顆粒球細胞も生じさせることができた(図17a)。サイトカインがない場合、CD45+vehFibsOct-4細胞はCD45発現を保ったが、骨髄特異的マーカーは有意に減少し、単球系譜および顆粒球系譜は存在しなかった(図18a〜b)。これらの結果は、CD45+vehFibsOct-4からの造血性増大と成熟にはサイトカイン刺激が必要であることを示している。
【0090】
成体または胎児皮膚供給源からのサイトカイン刺激CD45+vehFibsOct-4の約1/4が、造血前駆細胞能力を示唆するCD34およびCD45を共発現した(図4iおよび図19)。クローン増殖能ならびに顆粒球造血系譜および単球造血系譜への発生能を、標準的なコロニー形成単位(CFU)アッセイによって測定した(図4j〜k)。体細胞UCB由来造血前駆細胞と同様に、CD45+vehFibsOct-4は、比較的等しい能力でCFUを生じさせることができた(図4k〜l)。総合すると、このデータは、CD45+vehFibsOct-4が、インビトロでヒト骨髄系譜に成熟することができる機能的な造血前駆細胞様細胞を生じさせる能力を有することを示している。
【0091】
インビトロで検出された原始骨髄能に基づき、インビボ再構成能力を特徴づけるために、CD45+vehFibsOct-4子孫(形質導入後37日目)を、免疫不全NOD/SCID IL2Rγcヌル(NSG)マウスに、大腿骨内注入によって移植した(図5a)。CD45+vehFibsOct-4由来細胞は、ヒト細胞(HLA-A/B/C+ve)の存在によって示されるとおり、移植を受けた全てのNSGレシピエントに20%のレベルまで生着し(図5b)、一方、成体hFibsまたは食塩水の注入は、NSGマウスにおいて移植片を生じさせなかった(図5c)。CD45+vehFibsOct-4の生着のレベルは、生着したUCB由来前駆細胞およびM-PBに観察されるものに匹敵した(図5d)。NSGレシピエントにおいて一次再構成された細胞は、UCB由来およびM-PB由来生着細胞(図5e)と比較して、主として骨髄表現型を呈した(約41%-CD45+CD14+)(図5c)。インビボ造血生着の10週間後に(図5a)、ヒト細胞をレシピエントから単離し、持続的前駆細胞能力の尺度として、インビトロでCFUを形成する能力について分析した。生着細胞の一部は、ヒトUCBに由来する造血生着細胞と同様に、CFU開始能を保っており(図5f)、これはフローサイトメトリー分析によって立証された(図20a〜d)。生着の10週間後にヒト造血前駆細胞を生成する能力、および一次NSGレシピエントの対側骨における(低レベルではあるが)生着の存在(図21a)は、CD45+vehFibsOct-4由来細胞のインビボでの機能的能力を、さらに裏付けている。生着CD45+ve細胞は、レシピエントNSGマウスにおいて、限定的な二次移植片を有し(図21b)、それらが形質転換白血病幹細胞性(Hope et al.,2004)を有さず、したがって、腫瘍能を保つhPSC由来細胞(Amariglio et al.,2009;Roy et al.,2006)と比較すると、造血移植製剤として、より安全な代替物に相当することを示している。
【0092】
EPOはCD45+ve hFibsから赤血球能力および巨核球能力を誘導する
CD45+vehFibsOct-4から全ての骨髄系譜を導出することができるにもかかわらず、赤血球系細胞は検出されなかった。エリスロポエチン(EPO)は初期赤血球分化を誘導することが示されているので(Fried,2009)、CD45+vehFibsOct-4からの赤血球系細胞派生を誘導するためにこれを選択した。Oct-4を形質導入すると、hFibsは、赤芽球マーカーCD71を40%近い頻度で発現し(図6a)、EPO誘導後は、それが2倍増加した。また、EPOで処理すると、グリコホリンA(赤血球機能に必要な決定的膜タンパク質)の発現(図6b)およびヒト成体β-グロビンタンパク質(赤血球による酸素輸送にユニークに必要)の発現(図6c)も誘導された。非形質導入hFibs(図6c)およびhPSCに由来する造血細胞(図6c挿入図)はβ-グロビンタンパク質レベルを欠いていた。EPOの非存在下では、CD45+vehFibsOct-4においてβ-グロビン転写産物だけが発現され(図5d)、β-グロビンタンパク質は検出できなかった(図6c)。対照的に、そしてまた、hPSCに由来する造血細胞とは異なり(Cerdan et al.,2004;Perlingeiro et al.,2001)、CD45+vehFibsOct-4に由来する造血細胞は、胚型(ゼータ)グロビン発現を欠き、あまり高レベルでない胎児型(イプシロン)グロビンを発現するにすぎなかった(図6d)。EPO処理CD45+vehFibsOct-4は、原始赤血球と成熟赤血球(脱核)の形態をどちらも呈し(図6e)、単球または顆粒球前駆細胞能力の低下を伴わずに、UCBで観察されるものに似たコロニー形成(BFU-E)およびCFU-混合コロニー(CFU-Mix;二重骨髄および赤血球能力)によって検出される赤血球前駆細胞出現を可能にした(図6f〜g、図22a〜b)。BFU-E能および成体型β-グロビンタンパク質と脱核赤血球の両方の存在とに基づけば、EPO処理CD45+vehFibsOct-4は、造血細胞運命へのhFibsの転換中に、二次的(成体型)であって一次的(胚性)でない造血プログラムを利用するのだろう(Orkin and Zon,2002)。
【0093】
赤血球系譜および巨核球系譜拘束は一緒に起こり、潜在的に、共通のプレカーサー集団から発生することが、研究によって示されている(Debili et al.,1996;Klimchenko et al.,2009)。そこで、CD45+vehFibsOct-4のEPO刺激に続く巨核球系譜の出現を、患者における巨核球回復を予測するための代用尺度として役立つ巨核球(Mk)-CFUの検出に利用することができるインビトロアッセイ(Strodtbeck et al.,2005)を使って調べた。EPOによるCD45+vehFibsOct-4の処理は、Mk特異的抗原GPIIb/IIIa(CD41)陽性コロニーの存在によって示されるとおり、巨核球(CFU-Mk)の出現をもたらしたが(図6h-右図および図6i)、EPOによる刺激を受けていないCD45+vehFibsOct-4(図6h-中図、図6i)または対照hFibs(図6h-左図、および図6i)では、この造血前駆細胞タイプが存在しなかった(GPIIb/IIIaを欠く非CFU-Mk)。これらのデータは、CD45+vehFibsOct-4が赤血球能および巨核球能をどちらも有することを示している。EPOによって追加の造血系譜能力を明らかにすることができたことから、CD45+vehFibsOct-4は、生理学的適格性と、ヒト成体骨髄区画に由来する造血前駆細胞に似た成長因子に対する応答性を有しうる(Wojchowski et al.,2006)。
【0094】
hFibsにおける造血プログラム活性化中のOct-4の役割
hFibsの造血転換中のPOUドメイン含有タンパク質Oct-4の役割をより広く理解するために、遺伝子発現プロファイルならびに造血因子、非造血因子および多能性因子のOct-4プロモーター占有を、CD45+ve細胞の出現および成熟の時間経過に沿って調べた(図7a)。網羅的遺伝子発現解析は、転写活性化および転写抑制の両方にいくつかの変化を示した。Oct-4形質導入後4日目には早くも、代謝プロセスおよび発生プロセスを含む数多くの分子パスウェイに有意な変化が起こる(図23a)。さらにまた、CD45+ve細胞出現の経過に沿った3つの時点(hFibs(0日目)、CD45+vehFibsOct-4(4日目)およびCD45+vehFibsOct-4(21日目))で調べたhFibsの網羅的遺伝子発現は、線維芽細胞特異的遺伝子発現(Yu et al.,2007)の減少を示したが(図7b)、予想できるOct-4の増加(POU5F1特異的プローブセット)を除けば、多能性遺伝子の誘導は起こらなかった(図7c)。Oct-4形質導入hFibsは、直ちに、サイトカインに対する応答性に必要ないくつかの造血サイトカイン受容体(それぞれFLT3LおよびSCFのFlt3受容体およびc-kit受容体を含む)のアップレギュレーションを示した(図7d)。また、初期ヒト造血発生に関連する転写因子もアップレギュレートされた(図7eおよび図23b〜c)。これらのデータは、Oct-4が、hFibsにおいて、造血細胞運命転換を編成する分子変換のカスケードを誘導することを示している。
【0095】
基底状態にあるhFibsのバルク集団は、ほとんど検出不可能なレベルの、多能性に関連する遺伝子、例えばNanogおよびSox-2、または造血特異化に関連する遺伝子、例えばSCL/Tal-1(T細胞急性リンパ球性白血病タンパク質1)、Runx1(Runt関連転写因子1)、C/EBPα(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質アルファ)、GATA1(GATA結合因子1)またはPU.1/Spi-1(Feng et al.,2008;Friedman,2007;Ichikawa et al.,2004;Shivdasani et al.,1995)を有する(図7fおよび図24a)。しかし、Oct-4による形質導入は、SCL、C/EBPα、GATA1、およびRunx1を含む特異的造血遺伝子の実質的な増加を伴った(図7f)。興味深いことに、原始血液発生を調節することが先に示されている造血関連遺伝子PU.1およびMixL1(Feng et al.,2008;Koschmieder et al.,2005;Ng et al.,2005)は差次的に調節されなかったことから(図7e〜fおよび図23および24b〜c)、これらの遺伝子はhFibsからの血液細胞運命への転換に必須ではないらしいことが示唆された。多能性状態からの中胚葉遷移に関係する遺伝子、例えばブラキュリおよびGATA2などの発現は、非形質導入hFibsにもCD45+vehFibsOct-4にも存在しなかったことから(図7f)、hFibsからの造血特異化は、hPSCからの中胚葉特異化(Tsai et al.,1994;Vijayaragavan et al.,2009)に似た胚性プログラムを伴わないことが示された。造血成熟をもたらすサイトカイン処理後のCD45+vehFibsOct-4の分子解析(D37)では、Oct-4レベルも低下したが、Runx1、SCL、およびC/EBPα(図24b)のレベルは維持され、一方、成体型グロビンの発現は、ヘモグロビン-アルファ、ベータ、およびデルタを含めて全て、誘導された(図24cおよび図6d)。
【0096】
Oct-4と同様に、POUドメイン含有タンパク質Oct-1および-2も、血液細胞の特異化および成熟に関連付けられる造血特異的遺伝子を調節することができる(表2)(Boyer et al.,2005;Ghozi et al.,1996;Kistler et al.,1995;Rodda et al.,2005;Sridharan et al.,2009)。そこで、CD45+ve hFibsが出現する際のPOUドメイン含有タンパク質の遺伝子発現プロファイルを評価した。CD45+ve細胞出現中にOct-4(POU5F1)の発現は増加し、続いてサイトカイン処理すると有意に減少したが、Oct-2(POU2F2)およびOct-1(POU2F1)の発現レベルには変化がなかったことから(図7g)、Oct-4は他のOctファミリーメンバーをターゲットにしないことが示唆された。しかしそれでも、Oct-1、-2および-4は、細胞コンテクスト特異的に同じオクタマー(POU)結合配列と結合する潜在能を有することから、Oct-4は、Oct-1および-2と類似する遺伝子ターゲット(Boyer et al.,2005;Kistler et al.,1995;Rodda et al.,2005;Sridharan et al.,2009)と結合し、それらを潜在的に調節する能力を有する可能性が生じる(図7hおよび表2)。そこで、Oct-4が造血転換を誘導する際の考えうる機序について、より多くの洞察を得るために、共通するOct1、2または4結合配列をその推定プロモーター/エンハンサー中に含有する造血遺伝子、非造血遺伝子、および多能性遺伝子のOct-4占有を調べた(図7h、表2)。 遺伝子発現の変化(図7f)と合致して、Runx1、SCL、およびGATA1は、かなりのOct-4占有を示した(図7i)。これは、部分的に再プログラミングされたマウスiPSCや、Oct-4だけを発現するマウス線維芽細胞において、以前に報告された現象である(Sridharan et al.,2009)。また、CD45+vehFibsOct-4は、CD45プロモーターにおけるOct-4占有の増加も示した(図7i)。CD45+ve細胞出現中の造血ターゲットのOct-4占有の特異性を評価するために、Oct-1または-2と結合することが以前に示された(したがってOct-4と結合する能力を有する)非造血関連プロモーターも調べた。網羅的遺伝子発現データ(図14a)と合致して、ハウスキーピング遺伝子Gadd45aおよびPol2raは各々のプロモーターにおけるOct-4占有の増加を呈し、一方、中胚葉発生と関連する非造血遺伝子Myf5およびNkx2.5は、Oct-4形質導入hFibsでもCD45+ve細胞でも有意なOct-4占有を示さなかった(図7j)。しかし、ヒト多能性幹細胞(hPSC)では、CD45+vehFibsOct-4ではOct-4によって結合されないNanog、c-Myc、およびTbx3などのプロモーターのネットワークを、Oct-4がユニークに占有したことから(図7k)、Oct-4 DNA占有は細胞コンテクスト依存的であるという考えがさらに裏付けられた。Oct-4は自分自身のプロモーターと結合するが(図7k)、Oct-2の遺伝子発現プロファイルと合致して(図12a〜b)、Oct-2プロモーターとは結合しない(図7i)。これらの分析にもかかわらず、Oct-1、-2および-4の間でオクタマー結合配列は保存されているので(表2)、Oct-4の異所性発現が、このプロセス中にOct-1または-2の代用物として作用しうる可能性は、依然として残る。総合すると、時間的遺伝子発現分析は、ここに示したOct-4占有研究と共に、異所性Oct-4発現が、血液細胞運命転換を支持するhFibsにおける造血プログラムの誘導をもたらすことを、実証している。
【0097】
考察
本実施例は、ヒト成体皮膚および胎児包皮線維芽細胞が、Oct-4依存的細胞プログラミングにより、多能性状態を経ることなくまたは中胚葉経路の活性化を伴うことなく(Tsai et al.,1994;Vijayaragavan et al.,2009)、骨髄、赤血球および巨核球血液細胞運命の多能性造血細胞に直接転換されうることを実証している。さらにまた、一次造血から二次造血への遷移が、胚型ヘモグロビン発現から成体型ヘモグロビン発現へのシフトによって叙述されることを考えると(Orkin and Zon,2002)、CD45+ve線維芽細胞は、hPSC由来の造血細胞とは異なり(Chang et al.,2006)、もっぱら成体型のグロビンタンパク質および造血遺伝子プロファイルを獲得することが実証され、それは、この転換プロセス中に、二次造血プログラムが動員されていることを示している。
【0098】
マウス線維芽細胞から神経細胞、心臓細胞およびマクロファージ様細胞へのマウス線維芽細胞の転換は最近の報告によって実証されているが(Feng et al.,2008;Ieda et al.,2010;Vierbuchen et al.,2010)、本実施例は、ヒト線維芽細胞から、単能性細胞タイプに対して多能性細胞タイプを作製できることをユニークに実証し、それゆえに、これらの多能性血液細胞のさらなる臨床応用を立証する。臨床的移植研究では、骨髄破壊治療後の好中球、赤血球、および巨核球の回復のために平均的な60kgの患者において迅速な生着を達成するには、最低1.5×108個のCD34+ve血液細胞(造血前駆細胞が濃縮されたもの)が必要であると見積もられている(Bender et al.,1992;Feugier et al.,2003)。造血細胞運命へのこの直接転換アプローチを使った収率、増大能力および臨床的実行可能性を考慮すると(表4)、本方法は、自家細胞置換治療の合理的基礎になりうる。
【0099】
本実施例は、造血特異的サイトカイン受容体および転写因子のアップレギュレーションによって、線維芽細胞が造血表現型を獲得することを可能にするという、今まで知られていなかったOct-4の役割を明らかにする。この表現型の獲得は、造血特異的遺伝子(すなわちSCL、Runx1、CD45、およびGATA1)の調節座へのOct-4の直接的結合と関連付けられる(Boyer et al.,2005;Ghozi et al.,1996;Kwon et al.,2006;Sridharan et al.,2009)。Oct-1およびOct-2は成体リンパ球新生において役割を果たすことが示されているが(Brunner et al.,2003;Emslie et al.,2008;Pfisterer et al.,1996)、Oct-4が血液発生と関連付けられたことは今までなかった。Oct-1、-2および-4の間でネイティブまたは予想オクタマー結合配列が高度に保存されていることを考えると、Octタンパク質間で共有されているPOUドメインは、造血細胞運命へのヒト線維芽細胞転換に重複した役割を有すると予想される。ただし、Oct-4は線維芽細胞を骨髄および赤血球前駆細胞に転換するが、リンパ系造血細胞運命は存在しなかった。それでもなお、Oct-4、-1および-2の異所性発現は、B細胞およびT細胞発生を支持する特殊な培養条件と組み合わせれば、線維芽細胞からのリンパ系転換を支持するだろう。
【0100】
このように、本発明者らは、成体ヒト皮膚線維芽細胞は、Oct-4だけを形質導入することにより、造血再構成能力を有するCD45+造血細胞に直接転換できることを実証した。適正な刺激を受けたCD45+Oct-4形質導入細胞は、多能性状態または中胚葉前駆細胞状態を経ることなく、造血前駆細胞ならびに成熟血液細胞、例えばマクロファージ、好塩基球、好中球、好酸球、巨核球および赤血球系細胞を生じさせることができる。さらにまた、EPO処理したCD45+Oct-4形質導入細胞におけるベータ-グロビンの存在は、その細胞が、iPSCおよびhESCで観察される一次造血ではなく二次造血を利用しているという証しになる。本研究は、造血細胞を派生させるための新規方法を明らかにしている。そのような細胞は、インビトロ適格性もインビボ適格性も有することから、例えば自家移植などのための、迅速、安価および安全な代替物になることができる。
【0101】
方法
細胞培養-
初代ヒト皮膚成体線維芽細胞は胸部皮膚組織に由来し、胎児線維芽細胞は包皮組織に由来し、まず、Oct-4レンチウイルスベクターによる形質導入前は、線維芽細胞培地(10% v/v FBS(ウシ胎児血清、HyClone)、1mM L-グルタミン(Gibco)、1% v/v 非必須アミノ酸(NEAA;Gibco)が補われたDMEM(Gibco))中で維持した。Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、16ng/ml bFGF(BD Biosciences)および30ng/ml IGFII(Millipore)を含有する10%ノックアウト(knockout)血清代替物(Gibco)、1%非必須アミノ酸(Gibco)、1mM L-グルタミン(Gibco)、および0.1mMβ-メルカプトエタノールが補われた完全F12培地(F12 DMEM;Gibco)中、または16ng/ml bFGFおよび30ng/ml IGFIIを含有し、300ng/ml Flt-3(R&D Systems)および300ng/ml幹細胞因子(SCF;R&D Systems)が補われた完全F12培地中、マトリゲル・コート・ディッシュ上で、21日間、維持した。生成するCD45+ve Oct形質導入細胞を、低接着24ウェルプレート上に移し、80%ノックアウトDMEM(KO-DMEM)(Gibco)、20% v/v非熱不活化ウシ胎児血清(FCS)(HyClone)、1% v/v非必須アミノ酸、1mM L-グルタミン、および0.1mMβ-メルカプトエタノール(Sigma)からなる造血培地中で、16日間培養した。培養物を、サイトカイン(SCF、G-CSF、Flt3、IL-3、IL-6およびBMP-4;R&D Systems)を含む造血分化培地で置き換えるか、赤血球/巨核球分化の場合は、培地に造血サイトカイン+3U/ml EPOを補い、4日ごとに交換した後、分子分析および機能分析のために収集した。
【0102】
レンチウイルス作成-
Oct-4、Nanog、Sox-2およびLin-28のcDNAを含有するレンチウイルスベクター(pSIN)をAddgeneから入手した。これらのベクターを293-FTパッケージ細胞株にビラパワー(virapower)と共にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後にウイルス上清を収集し、超遠心分離してウイルスを濃縮した。線維芽細胞形質導入には8μg/mlポリブレンの存在下で等量の各ウイルスを使った。
【0103】
レンチウイルス形質導入-
単一の転写因子を含有する細胞を作製するために、ヒト成体皮膚線維芽細胞(Fibs)(胸部皮膚に由来するもの;年齢30〜40歳)または胎児包皮Fibsを、10,000細胞/ウェルの密度で、マトリゲルコート12ウェルプレートに播種した。播種の24時間後に、Fibsを、Oct-4またはNanogまたはSox-2を発現するレンチウイルスに感染させた(NanogおよびSox-2形質導入は成体皮膚Fibsについてのみ行った)。次に、形質導入された線維芽細胞を、300ng/ml Flt-3および300ng/ml SCFが補われた16ng/ml bFGFおよび30ng/ml IGFIIを含有する完全F12培地中、または16ng/ml bFGFおよび30ng/ml IGFIIのみを含有する完全F12培地中で、最長21日まで成長させた。出現するCD45+veコロニーを感染の14〜21日後に計数した。コロニーを手作業で拾い、マトリゲル・コート・ウェル上で維持した。分子分析を、精製非形質導入Fibs(D0)、4日目(D4)のOct-4形質導入Fibs、21日目(D21)のCD45+ve Fibs、および37日目(D37)の造血サイトカイン処理したまたは無処理のCD45+ve Fibsについて行った。Oct-4形質導入後4日目は、次に挙げるいくつかの基準に基づき、初期事象時点として選択した:a,形質導入後の回復のための最適な時間;b,培養内での目に見える形態変化;およびc,正常な細胞周期動態の再開。4日目のOct-4形質導入Fibs(D4)を、終夜のピューロマイシン選択によって単離し(Oct-4ベクターはピューロマイシン耐性カセットを含有する)、試料の純度をOct-4に関する染色と、それに続くフローサイトメトリーを使ったOct-4発現解析によって検証したところ、分子分析に使用した試料は99%のOct-4レベルを呈した。21日目(D21)および37日目(D37)のCD45+veFibsOct-4は、それらのCD45発現に基づいて単離した。D21およびD37細胞をCD45-APC抗体(BD Biosciences)で染色し、FACSAria II(Becton-Dickinson)を使ってソートしたところ、分子分析に使用した試料は99%のCD45レベルを呈した。
【0104】
再プログラミングの誘導-
線維芽細胞から再プログラミングされた細胞を作製するために、細胞を、10,000細胞/ウェルの密度で、マトリゲルコート12ウェルプレート上に播種した。播種の24時間後に、線維芽細胞に、Oct-4/Nanog/Sox-2/Lin-28を発現するレンチウイルス(Yu et al.2007)を形質導入した。次に、形質導入された線維芽細胞を、30ng/ml IGFIIおよび16ng/ml bFGFが補われたF12培地で成長させた。再プログラミングされたiPSCコロニーを、感染の4週間後に計数した。コロニーを手作業で拾い、マトリゲル・コート・ウェル上で維持した。
【0105】
生細胞染色-
生細胞染色のために、滅菌Tra-1-60抗体(Millipore)を滅菌Alexa Fluor-647と室温でプレコンジュゲートした。再プログラミングされたコロニーをF12培地で1回洗浄し、Tra-1-60-Alexa 647抗体と共に、室温で30分間インキュベートした。次に培養物を2回洗浄して未結合の抗体を除去した。細胞をオリンパスIX81蛍光顕微鏡で可視化した。
【0106】
フローサイトメトリー-
多能性マーカー発現については、細胞をコラゲナーゼIVで処理してから、細胞解離バッファー中に37℃で10分間入れた(Gibco)。その細胞懸濁液を、SSEA3抗体(1:100)(Developmental Studies Hybridoma Bank、mABクローンMC-631、University of Iowa、アイオワ州アイオワシティ)またはTra-1-60-PE(1:100)抗体(BD Biosciences)で染色した。SSEA3染色にはAlexa Fluor-647ヤギ抗ラットIgM(1:1000)(Molecular Probes、Invitrogen)を二次抗体として使用した。生細胞を7-アミノアクチノマイシン(7AAD)排除によって同定してから、FACSCalibur(Becton-Dickinson)を使って細胞表面マーカーについて分析した。収集した事象をFlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。
【0107】
造血分化培地からの細胞を16日目にTrypLE(Gibco)で解離し、造血前駆細胞および成熟造血マーカーの発現について分析した。単一細胞を、以下の蛍光色素コンジュゲートモノクローナル抗体(mAb)で染色することによって造血細胞を同定した:CD34-FITCおよびAPC標識またはFITC標識抗ヒトCD45(BD Biosciences)、FITC-抗CD33(BD Pharmingen)、PE-抗CD13(BD Pharmingen)、PE-またはFITC-抗CD71(BD Pharmingen)、FITC-抗HLA-A/B/C(BD Pharmingen)、PE-抗CD15(BD Pharmingen)、PE-抗CD15(BD Pharmingen);PE抗CD14(BD Pharmingen)、FITC-またはPE-抗GlyA(BD Pharmingen)、およびAPC-またはPE-抗ベータ-グロビン(SantaCruz Biotech)。mAbおよびそれらの対応するアイソタイプを1〜2mg/mlで使用し、個々の抗体について最適な作業希釈液を決定した。血液細胞生成(hemogenic)表現型および造血表現型を有する細胞の頻度を、7AAD(Immunotech)排除による生細胞で、FACSCalibur(Beckman Coulter)を使って決定し、FlowJo 8.8.6ソフトウェアを使って解析を行った。
【0108】
RT-PCRおよびq-PCR-
Norgen RNA単離キットを使って全RNAを単離した。次に、RNAを、スーパースクリプト(superscript)III(Invitrogen)を用いるcDNA合成に供した。定量PCR(qPCR)は、Platinum SYBR Green-UDPミックス(Invitrogen)を使って行った。試料を分析するために、閾値をGus-B(ベータ-グルクロニダーゼ)(Oschima et al.1987)の検出に設定し、次に内部対照GAPDHに対して規格化した。この実験のベースラインは、線維芽細胞において観察される遺伝子発現レベルに設定した。この線維芽細胞の出発集団内での遺伝子の一部の発現を考慮して、これらの細胞の遺伝子発現パターンを含めた。したがってデータは、デルタサイクル閾値(ΔC(t))対デルタΔC(t)(ΔΔC(t))として表す。(qPCRプライマー配列は表5に記載する)。
【0109】
ALL IN ONE単離キット(Norgen)を使ってゲノムDNAを単離した。組込み研究については、1回のPCR反応に150ngのゲノムDNAを使用した。PCR反応は2×PCRマスターミックス(Fermentas)を使って行った。
【0110】
Affymetrix解析-
ヒト皮膚線維芽細胞(2レプリケート)、ピューロマイシン選択4日目Oct-4形質導入線維芽細胞(2レプリケート)およびソートしたCD45+ve細胞(2レプリケート)から、全RNA精製キット(Norgen)を使って全RNAを抽出した。Bioanalyzer(Agilent Technologies、米国カリフォルニア州サンタクララ)を使ってRNAの完全性を評価した。試料の標識とHuman Gene 1.0STアレイ(Affymetrix)へのハイブリダイゼーションは、Ottawa Health Research Institute Microarray Core Facilit(OHRI;カナダ・オタワ州)によって行われた。Affymetrixデータは、Affymetrix Expression Consoleに実装されているロバスト・マルチ-アベレージ(robust multi-average:RMA)法で抽出し、規格化し、要約した。データの規格化、シグナル強度の抽出およびプローブレベル解析のために、CELファイルをdChIPソフトウェア(Li and Wong 2001)にインポートした。
【0111】
クロマチン免疫沈降-
ChIPは先に記述されているように行った(Rampalli et al.2007)。簡単に述べると、ヒト多能性細胞(H9およびiPSC1.2)、ヒト皮膚線維芽細胞、ピューロマイシン選択4日目Oct-4形質導入細胞、ソートした21日目CD45+ve細胞を、1%ホルムアルデヒドを使って架橋した。0.1%SDSを含有するバッファー中でクロマチンを消化して、およそ1000bp長のフラグメントを得た。超音波処理したDNAを、抗Oct4(ChIP用抗体;Cell Signaling Technology)および抗ウサギIgG抗体(Santacruz Biotechnology)を用いる免疫沈降に供した。免疫沈降したDNAをさらに脱架橋(reverse cross-link)し、精製し、UDG-Platinium Syber Greenミックス(Invitrogen)を用いるqPCR解析に供した。プロモーター特異的ChIPプライマーを表6に列挙する。相対的濃縮度を計算するために、対照抗体に観察されるシグナルを、特異的抗体から検出されるシグナルから差し引き、得られた差を、50分の1のChIP投入材料から観察されたシグナルで割った。
【0112】
巨核球アッセイ-
ヒト巨核球を検出するために、MegaCult(商標)-C Complete Kit with Cytokines(Stem Cell Technologies)を使用した。巨核球の派生は、キットに同梱されている説明書に従って行った。キットには、巨核球CFUの最適な成長のために前もって選択されたトロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)、IL-6、IL-11およびSCFなどの構成要素、成長用のチャンバースライド、およびその後の免疫細胞化学染色のための抗体が含まれている。手短に言えば、10,000個のCD45+ve EPO処理細胞を、上述した成長因子のカクテルを含有するMegaCult培地にプレーティングした。ヒトCFU-Mkは10〜15日目までに検出可能になり、続いてそれらをプロトコールに従って固定し、染色した。二次ビオチン化抗体に連結されたMk特異的抗原GPIIb/IIIa(CD41)-アルカリ・ホスファターゼ・アビジン・コンジュゲート検出系を使用した。この場合、Mk-CFUは赤/ピンク色であった。
【0113】
Cytospin-
1000個のCD45+ve Oct-4形質導入細胞を冷2%FBS/PBSで2回洗浄し、500μlの冷1%FBS/PBSに希釈した。試料をCytospinの適当なウェルにローディングした。試料を500rpmで5分間遠心して、スライドに付着させた。スライドをメタノールで1分間固定し、30分間乾燥させた。次に、スライドをGiemsa-Wright染色液で3分間染色した後、PBS中に10分間置き、蒸留水中で手早く洗浄した。スライドを終夜乾燥させ、封入材(Dako)で封入した。スライドをオリンパスIX81顕微鏡で見た。
【0114】
マクロファージ食作用アッセイ-
フルオレセイン(FITC)コンジュゲート・ラテックス・ビーズ(Sigma)を、IL-4およびM-CSFで処理したCD45+FibsOct-4細胞に由来する単球による食作用を分析するための粒子トレーサーとして使用した。食作用を測定するために、3%FBS/PBSに懸濁した10μlのパックトビーズ(packed beads)を、テフロンチューブ中の106個の細胞に加えた。37℃で90分間のインキュベーション後に、遊離のビーズを除去するために、3%FBSおよび0.1%EDTAを含有する冷PBSで、細胞を3回洗浄した。次に、FITCビーズの取り込みを伴うCD45の発現を検出するために細胞を標識し(APCコンジュゲートCD45 mAb)、FACSCalibur(BD)を用いるフローサイトメトリーで分析するか、組織培養用スライド(VWR)上に1000個の細胞をサイトスピンすることによって視覚化し、オリンパスIX81蛍光顕微鏡で見た。
【0115】
メチルセルロースコロニー形成アッセイ-
細胞を、FACSAria IIでソートした(Becton-Dickinson)CD45+CD34+細胞1,000個または全細胞(EPO処理)5000個の密度で、1mlのMethocult GF H4434(Stem Cell Technologies、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)にプレーティングした。14日間の培養後に、標準的形態基準を使ってコロニーをスコア化し、FACSCalibur(Becton-Dickinson)を使って造血表面マーカーについて分析した。収集した事象はFlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。異種移植由来生着細胞からのコロニー派生については、細胞を、まず最初にHLA-A/B/C(BD Biosciences)に基づいてソートし、次に、ヒト特異的抗CD45(BD Biosciences)を使って、CD45発現についてソートした。次に、HLA-A/B/CおよびCD45二重陽性細胞を、Methocult GF H4434に、1000細胞/mlの密度でプレーティングした。さらに、生着細胞に由来するコロニーを、FACSAria II(Becton-Dickinson)を使って、造血表面マーカーについて分析した。収集した事象は、FlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。
【0116】
異種移植アッセイ-
移植の24時間前に、NOD/SCID IL2Rγcヌル成体マウス(NSG)に、325ラドを亜致死的に照射した。5.0×105個のCD45+ve Oct形質導入(D37)またはヒト皮膚線維芽細胞またはヒト動員末梢血またはヒト臍帯血系譜枯渇(lineage depleted)細胞を大腿骨内注入によって移植した。10週間後に、動物を選別し、注入を受けた大腿骨、対側骨および脾臓からの骨髄(BM)を、フローサイトメトリー(FACSCalibur、Becton-Dickinson)と、それに続くFlowJo 8.8.6ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使ったデータ解析により、ヒト細胞の存在について分析した。HLA-A/B/CおよびCD45について陽性な細胞を、CD14などの造血系譜特異的マーカーの発現について分析した。二次移植については、全生着骨髄細胞を、一次移植について説明した成体照射NSGマウスに、静脈内移植(IV注入)した。次に、生着細胞からのゲノムDNAを、次に挙げるヒト17番染色体のα-サテライトに特異的なプライマー:
により、従来のPCRを使って分析した。
【0117】
奇形腫アッセイ-
全ての手法とプロトコールはMcMaster University Animal Care Councilによって承認された。成体皮膚線維芽細胞、胎児皮膚(包皮)線維芽細胞、CD45+ve Oct-4形質導入成体皮膚線維芽細胞、CD45+ve Oct-4形質導入胎児線維芽細胞およびiPSC1.1〜1.4を、コラゲナーゼIVで5〜10分間処理した後、収集し、食塩水で2回洗浄し、食塩水に再懸濁した。1試料あたり500,000個の細胞を、雄NOD-SCIDマウスに精巣内注入した。最初の注入の10〜12週間後にマウスを屠殺した。奇形腫を摘出し、パラフィンに包埋し、5μm間隔で薄切した後、キシレン中で脱パラフィン化し、段階的な一連のアルコール濃度で処理した。試料を、ヘマトキシリンおよびエオシンまたはOct4で染色してから、脱水およびキシレン処理を行った。Permountを使ってスライドを封入し、Aperio Scan Scopeを使ってスライドをスキャンすることによって撮像し、Image Scope v9.0.19.1516.ソフトウェアを使って、画像をキャプチャした。転移細胞の存在を調べるために、肺、脾臓、肝臓、脳および腎臓を含むさまざまな臓器からも組織を集めた。各胚葉サブタイプに特異的な、厳格な組織学的および形態学的基準に基づいて、組織タイピングを行った。骨などの中胚葉系譜は、骨細胞および骨片(bone spicule)の存在を使って同定し;軟骨は軟骨細胞の存在および細胞外マトリックスの特異的染色によって同定した。腸管腔などの内胚葉系譜は、管腔上皮における杯細胞の存在によって同定した。皮膚などの外胚葉系譜は、特色のある細胞層形態(すなわち層状)に基づいて同定し;脳または神経管は、特異的な組織学的基準に基づいて同定した。胚葉の存在および組織タイピングはMcMaster Pathologyによって確認された。
【0118】
統計解析-
全ての検定はInStat Version 3.0a統計ソフトウェア(GraphPad Software)を使って行った。平均およびs.e.mを含む記述統計を、一元配置ANOVA、独立サンプル両側t検定と共に使用して、有意差を決定した。p<0.01を有意と見なした。
【0119】
実施例2:誘導多能性幹細胞への皮膚線維芽細胞の再プログラミング
結果
ヒト皮膚線維芽細胞は希少な亜集団を含有する
転写因子Oct4およびSox2は共通するDNA結合モチーフを持っており、多能性ネットワークに関連付けられる遺伝子のエンハンサーおよびプロモーター領域を調節する(Loh et al.2006;Kim et al.2008)。ヒト胚性幹細胞(hESC)およびヒト線維芽細胞(hFibs)に、三量体化(C3+)Oct4エンハンサーエレメントを含有する最近報告されたEOSレンチウイルスベクター(図25a)を形質導入した(Hotta et al.2009)。GFP発現がpGKプロモーターによって制御される陽性対照ベクターを使うと、GFP発現(GFP+ve)細胞は顕微鏡で容易に検出することができ(図25b)、フローサイトメトリーで定量されるhFibsまたはhESCへの総レンチウイルス形質導入効率は50〜60%だった(図25cおよび図32a)。プロモーターエレメントを欠く陰性対照ベクターを使用した場合、hFibsでも、hESCでも、顕微鏡(図25b)またはフローサイトメトリー分析(図25c)を使ってGFP発現を検出することはできなかった。予想どおり、C3+EOSベクターが形質導入されたGFP+ve hESCは高頻度に観察された(図25b、cおよび図32b)。しかし、成体胸部由来hFibsへのC3+EOS形質導入は、GFPを発現する皮膚線維外細胞の希少な集団を明らかにした(図25b、c)。希少なGFP+ve hFibsを示すC3+EOSを形質導入したhFib培養物の共焦点Zスタックイメージングは、培養物中に存在する他のhFibsとは形態的にも空間的にも異なっている(図32c)。hFibsのこの亜集団の検出は、個々の細胞における高コピー数組込みによるものではなかった。というのも、異なる濃度のEOSレンチウイルスを使ってhFibsの形質導入を行ってもGFP+ve hFibsの頻度は変化せず、一方、個々のGFP+ve hFibsは、細胞単位では、ウイルス濃度とは無関係に、識別することが不可能なGFPレベルを発現したからである(図32d〜f)。インビトロ培養線維芽細胞の組成はそれが由来する組織に依存して変動することを考え、ヒト新生児包皮由来および成体肺由来の線維芽細胞というユニークな供給源(どちらも組織特異的な皮膚幹細胞集団を含有する毛包を欠くもの)を調べた(Terunuma et al.2008)。成体胸部由来皮膚hFibsと同様に、C3+EOSベクターを形質導入した包皮および肺線維芽細胞は、GFP+veサブセットを0.5〜4%の頻度で含有したことから、GFP+veサブセットの存在はヒト線維芽細胞供給源に依存しないことが示された(図25d、e)。
【0120】
hFibs間でのウイルス取り込みの潜在的バイアスを除外するために、hFibsを、一次GFP-ve hFibサブフラクションから開始して、C3+EOSレンチウイルスで連続的に感染させた(図32g)。一次GFP-ve hFibsの二次EOSレンチウイルス形質導入の結果として、1.34%のGFP+ve出現が観察されたことから(図32g)、低頻度のこれらのユニークな細胞は、50%の総形質導入効率という初期限界ゆえに検出されないことが示された(図25c)。二次GFP-ve hFibsのFACS単離と、それに続く、それ以降のC3+EOSレンチウイルスの形質導入は<0.1%のGFP+ve細胞頻度を示したのに対し、C3+EOSレンチウイルスによる三次および四次形質導入がGFP Octレポーター発現の増加を示すことはできなかったことから(図32g)、C3+EOS発現に関してコンピテントな全てのhFibsが既に飽和していたことが示された。逐次的に形質導入されたGFP-ve hFibsが単にレンチウイルス感染に対して抵抗性であっただけではないことを保証するために、四次GFP-ve hFibsに陽性対照ベクターpGK-EGFPを形質導入したところロバストなGFP+ve hFibsが生じたことから、これらの細胞はレンチウイルス感染に関してコンピテントであることが確認された(図32h)。これらの研究は、観察されたhFibsのGFP+ve亜集団が、個々の細胞における高コピー数組込みによるものでも、亜集団間の感染率の相違によるものでもないことを実証している。
【0121】
C3+EOSレポーター発現および組み込まれたプロウイルスの存在を分子的に検証するために、EOSベクターを形質導入したGFP+veおよびGFP-ve hFibsを、前もって99.99%の純度で単離した(図25f)。単離された集団を使って、プロウイルスはどちらのフラクションにも存在することが示されたが、GFP転写産物発現はGFP+ve hFibsだけに存在し、GFP-ve hFibsには存在しなかった(図25g)。組み込まれたC3+EOSベクターを含有するGFP-ve hFibsがサイレンシングを受けているわけではないことを保証するために、これらのhFibsに、Oct4発現レンチウイルスを形質導入した。Oct4の異所性発現は、GFPを発現するようにGFP-ve細胞を誘導することができたことから(図25h)、組み込まれたプロウイルスベクターはこれらの細胞内で機能的であることが実証された。
【0122】
総合すると、これらの結果は、インビトロで培養されたヒト線維芽細胞は、hFibsが由来する個体発生源または解剖学的位置とは無関係に、Oct4レポーターEOSベクターの発現を可能にするユニークなサブセットを示すことから、不均質であることを示唆する。
【0123】
hFibsの希少なサブセットは多能性細胞の分子特徴を有する
多能性幹細胞(PSC)の他に、Oct4発現は、真皮、多能性幹細胞、およびがん細胞を含む複数の体細胞組織でも報告されているが(Li et al.;Jiang et al.2002;Goolsby et al.2003;Dyce et al.2004;Johnson et al.2005;Moriscot et al.2005;Zhang et al.2005;D'lppolito et al.2006;Dyce et al.2006;Izadpanah et al.2006;Nayernia et al.2006;Ren et al.2006;Yu et al.2006;Izadpanah et al.2008)、非PSCにおけるOct4の代用性(surrogacy)および機能はまだ不明である(Lengner et al.2007;Lengner et al.2008)。C3+EOSベクターの活性化がOct4の存在に基づくことから、Oct4の発現を、全hFibsにおいて、また、GFP+ve hFibサブセットとGFP-ve hFibサブセットとを対比して、注意深く調べた。いくつかのOct4アイソフォームおよび偽遺伝子は配列類似性を有し(Atlasi et al.2008)、転写産物検出の解釈を複雑にし、潜在的に偽陽性をもたらす。そこで、1)Oct4;2)Oct4B1胚特異的Oct4アイソフォーム;および3)Oct4B細胞質変異体を正確に認識する最近特徴づけられた(Atlasi et al.2008)複数のプライマーセットを使って、hFibs中のOct4転写産物を同定した(図26a)。GFP+ve hFibsでは、hESC対照と同様に、Oct4およびそのアイソフォームB1の発現が濃縮されたが、細胞質アイソフォームOct4Bの発現はなかったのに対し(図26b、c)、全hFibsおよびGFP-ve hFibsは、どの形態のOct転写産物も発現しなかった(図26b、c)。系譜特異的遺伝子発現の対照として使用した中胚葉遺伝子ブラキュリは差次的に発現しなかった(図26c)。次に、GFP+ve hFibsが、Oct4および多能性に関連する他の遺伝子を発現する可能性を調べた。定量的遺伝子発現解析により、hESCと比較すると低レベルではあるものの(図25e)、Oct4(図26b、c)に加えて、GFP+ve hFibsにおけるNanogおよびSox2の発現も示された(図26d)。全hFibsとGFP+veおよびGFP-ve hFibsからの全ゲノム発現プロファイルをhESC、iPSC株と、3'オリゴヌクレオチドアレイを使って比較し、ヒトおよびマウスESCに特異的な遺伝子の発現と、不均質な線維芽細胞培養物に関連する遺伝子の発現とを対比して評価した(Takahashi et al.2007;Yu et al.2007)。GFP-ve hFibsが不均質なヒト皮膚線維芽細胞の複数の供給源と強くクラスター化したのに対し、GFP+ve hFibsは、それらが由来する全hFibsとクラスター化せず、その代わりに多能性hESCおよびiPSC株とクラスター化した(図26f)。
【0124】
転写産物発現はタンパク質の決定要因ではないので、Oct4特異的抗体を使ってOct4のタンパク質発現を調べた。免疫蛍光染色分析を使ってOct4の細胞内局在を調べた。GFP+ve hFibsでは、陽性対照としたhESC(図26g)およびOct4導入遺伝子を形質導入した293細胞(図33a)において観察されたのと同様に、Oct4がDAPI染色核と共局在した。陰性対照とした非形質導入293細胞ではOct4染色が検出されず、一方、EOSベクターによって検出されるGFP+ve細胞の頻度と合致して(0.5〜4%)、全hFib培養物には希少なOct4陽性細胞が見られた(図33a)。hESCならびにOct4形質導入293細胞および非形質導入293細胞を陽性および陰性対照として(図26h)、ウェスタン分析を使用したところ、Oct4だけでなく、NanogとSox2のどちらのタンパク質レベルも、GFP+ve hFibsでは差次的に発現されていた(図26h、i)。これらの分析に基づいて、hFibsのこれらのサブセットを、GFP-ve hFibsであるhFibsの大半との対比で、Nanog、Oct4およびSox2発現hFibs、すなわちNOS+exp hFibsと名付けた(同様にしてNOS-exp hFibsも名付けた)。
【0125】
希少なNOS+exp hFibsの分子的性質をより良く理解するために、hESC、全hFibs、NOS+expおよびNOS-exp hFibサブセットにおいて、Oct4、Nanog、Sox2、およびブラキュリタンパク質に対する特異的抗体を使って、EOSベクター内のCR4エンハンサーモチーフへの結合に関して、クロマチン沈降(ChIP)を行った。これらの多能性因子によるCR4モチーフの占有は、NOS+exp hFibsでは高度に濃縮されたのに対し、陰性対照ブラキュリは結合しなかった(図26j)。内在性プロモーター座での活性型(H3K4Me3)および抑制型(H3K27Me3)ヒストン修飾マークの比較により、NOS+exp hFibsが、hESC陽性対照と同様に、Oct4、Nanog、およびSox2について活性型マークを有したのに対し、無選択の全hFibsおよびNOS-exp座は抑制されていることが明らかになった(図26k)。遺伝子活性化に関連するOct4座の脱メチル化はPSCにおいて詳細に研究されているので(Simonsson and Gurdon 2004)、MeDIP ChiPアッセイを行った。293細胞およびNOS-exp hFibsとは対照的に、hESCおよびNOS+exp hFibsでは、Oct4プロモーターのメチル化の減少が同様に検出された(図33b)。これらの結果は、NOS+exp hFibsではOct4座が活性化されていることを、さらに裏付けている。
【0126】
体細胞区画におけるOct4および他の多能性関連因子の役割は、転写産物およびタンパク質発現検出に関する対照が不適切であり、これらの細胞または発現した因子の役割について何らかの機能的証拠がないために、懐疑の念をもって受け止められてきた(Lengner et al.2007)。上記の結果は、そのような細胞の特徴づけを、Oct4などの単一の遺伝子の単なるPCR転写物検出にとどまることなく拡張し、Oct4、Nanog、およびSox2に関して、各因子についての陽性対照(hESC)および陰性対照(293細胞)と共に、クロマチン、タンパク質、細胞内局在を分析し、網羅的遺伝子発現クラスター分析も行ったものである。総合すると、これらのデータは、ヒトPSCと共通する分子特徴を有するヒト線維芽細胞内のユニークで希少なサブセットであるNOS+exp hFibsの存在に関する基礎を提供する。NOS+exp hFibsとNOS-exp hFibsのサブセットを単離できたことにより、PSCと共通しているこれらの特性について機能分析を行いかつ生物学的特徴を定義するという、これまでなかった機会が与えられる。
【0127】
不均質な全hFibsは、精製NOS+expサブセットとは対照的に、フィーダーフリー条件下で再プログラミングすることができる
NOS+exp hFibsは、遺伝子発現の際立った特徴を、完全に再プログラミングされたiPSCと共有しているので、それらの機能的再プログラミング能力を、全hFibsと比較して調べた。iPSC株の大半は不均質なhFibsを使って導出され、iPSC作製を支持するためにマウス胚性線維芽細胞(MEF)を使用する(Park et al.2008)。しかし、iPSCの臨床的応用には、ゼノフリー(xeno-free)条件と、MEFなどの支持細胞からのヒトiPSCの迅速かつ簡便な単離および分離を可能にする方法とが必要になるであろう。この用途に基づく制限に具体的に対処するために、図27aに模式的に図解するように、フィーダーフリー条件を使ってマトリゲル上でヒトiPSCを導出した。全hFibsおよびNOS+exp hFibsに、先に規定された再プログラミング因子(Hotta et al.2009)を形質導入し、培養物を位相差顕微鏡と生細胞蛍光顕微鏡の両方で調べることにより、形態変化を特徴づけ、コロニー形成を同定し、Tra1-60を発現するコロニーのサブフラクションを同定した。ヒトiPSC作製に関して以前に報告された頻度と合致して(Utikal et al.2009;Aasen et al.2008;Meissner et al.2007)、全hFibsが(投入細胞10,000個につき)約0.9%のコロニー形成効率を呈したのに対し、同じ数の高度に精製されたNOS+exp hFibs単離物は、コロニーを形成することができなかった(図27b)。この結果は、6つの独立した実験レプリケートにおいて一貫して観察されたことから、分析した60,000個(10,000個×6)を越えるNOS+exp hFibsからは、iPSC生成に向かう増殖性コロニーの形成を、この精製サブセットを使って導き出すことはできなかったことが示された。
【0128】
コロニー形成はiPSC作製にとって最初の要件であるが、コロニー形成だけでは、完全に再プログラミングされた細胞を意味しない。そこで、フィーダーの非存在下でコロニーを生成した全hFibs(図27b)を使用し、再プログラミングされたiPSCを非iPSC様コロニーから正確に同定する最近確立された生細胞染色法(Chan et al.2009)を使って、Tra1-60発現コロニーを定量的に同定した(図27c)。また、これらのコロニーを、SSEA3およびOct4の発現についても、フローサイトメトリーで評価し、Tra1-60獲得と比較した。Tra1-60+veコロニーとTra1-60-veコロニーはどちらも高レベルのOct4を発現したが、多能性マーカーSSEA3を発現したのはTra1-60+veコロニーだけで、Tra1-60-veコロニーはSSEA3発現を欠いていた(図27d)。総合すると、Tra1-60+veコロニーは、生成したコロニーの総数の50%を占めた(図27e)。これら2タイプのコロニー(Tra1-60+veおよびTra1-60-ve)を、多能性に強く関連する遺伝子のサブセット(Rex1、Tbx3、TcF3、およびDppa4)を使ってさらに調べたところ、Tra1-60+veコロニーだけが多能性遺伝子発現シグネチャーを獲得することを示した(図27f)。最後に、Tra1-60+veコロニーのインビボ分化能を、奇形腫形成アッセイで試験したところ、これらのコロニーは3つ全ての胚葉を生じさせる潜在能を有することが実証された(図27g)。これらの集合的基準を使用することにより、すなわち、コロニー形成から出発して、それに続くTra1-60、Oct4およびSSEA3発現解析と多能性遺伝子発現解析、ならびに多能性奇形腫を形成する能力を使用することにより、iPSC生成を明確にし、それによって、不均質な全hFibsが、精製NOS+ex hFibsとは対照的に、フィーダーフリー条件下で再プログラミングされうることを立証するための、独立した尺度が得られる。
【0129】
NOS+exp hFibsは多能性再プログラミングに対する主要寄与要因である
精製NOS+exp hFibsは、不均質な全hFibsの培養物から単離すると、再プログラミングされたコロニーを生成することができなかった(図27b)。ニッチが幹細胞の性質の調節に及ぼす十分に確立された効果を考慮して(Bendall et al.2007)、NOS+exp亜集団の再プログラミング能は、高度に精製されたNOS+exp hFibsからのiPSC出現を妨げる複雑な微小環境キューに依存するのかもしれないという仮説を立てた。NOS+exp hFibsにはEOSベクターが形質導入されているので、GFPおよびプロウイルス組込みが、NOS+exp細胞の蛍光マーカーおよび分子マーカーとなり、それらを使って、不均質な線維芽細胞と共に共培養した時のNOS+exp hFibsの寄与を識別することができる。確立された基準(図27b〜g)を使って再プログラミング能およびiPSC生成への寄与を測定するために、競合アッセイにおいて、NOS+exp hFibsを、全hFibsと1:9の比で混合した。
【0130】
以前の観察結果と合致して(Yamanaka 2009)、全hFibs(投入細胞10,000個)は、予想された低頻度のコロニー形成を呈し、一方、NOS+exp hFibの共培養(1,000個のNOS+exp hFibsを9,000個の全hFibsと共に含む総投入細胞数10,000個=1:9の比)は、コロニー形成を14倍と著しく増加させた(図27h)。再プログラミングに対するNOS+expの寄与を全hFibsと比較して定量的に評価するために、位相差によってそのiPSC様の形態ゆえに同定されたコロニーを数え上げ、それらを、Tra1-60発現に関する生細胞蛍光顕微鏡検査、GFP発現およびEOSプロウイルス組込みの有無によって、さらに精査した。このアプローチを使った代表的な一実験を図27iに示す。この図は同定された個々のコロニーに関する詳細な分析を表している。6つの独立した混合物実験からの結果を組み合わせると、Tra1-60+veコロニーの90%がGFPおよびEOSプロウイルスについて陽性であり、残りの10%は全hFibsによるものであることが実証された(図27i)。NOS+exp hFibsおよび全hFibsに由来するTra1-60+veおよびTra1-60-veコロニーを単離し、多能性因子の活性化およびSSEA3発現について調べることで、完全に再プログラミングされたiPSCを確かめ、その数を定量した。NOS+exp hFibsだけに由来しうるEOS+veコロニー(C2およびC9)であって、Tra1-60発現について陽性であるもの(C2)および陰性であるもの(C9)からの代表的な分析を、Tra1-60発現について陽性(C11)および陰性(C12)であるEOS-veコロニー(C11およびC12)と比較して示す(図27j、k)。Tra1-60は、NOS+exp起源であるか全hFib起源であるかとは無関係に、多能性遺伝子活性化能力(図27j)およびSSEA3発現能力(図27k)を有するコロニーに関する強い代用マーカーになった。NOS+exp hFibsに由来する完全に再プログラミングされたコロニーは、3つ全ての胚葉を含む奇形腫を形成する能力を有し(図27i)、系譜発生に関する陽性対照として示した多能性hESC(図35a〜b)と同様に、中胚葉(造血、図35a)系譜および外胚葉(ニューロン、図35b)系譜へのインビトロ分化能を持っていた。NOS+exp hFibsは、共培養時に、再プログラミング能力とiPSC生成能力を有していたので、不均質なhFib培養に由来する残りのNOS-exp hFibsの再プログラミング能も、同じように調べた。再プログラミング力の直接分析により、フィーダーフリー条件で培養された高度に精製されたNOS-exp hFibsがコロニー生成を完全に欠くこと(図29a)、およびNOS-exp hFibsと全hFibsとの共培養が生物学的に有意でない<0.01%のコロニー頻度をもたらすことが実証された(図36a〜b)。これは、3つの独立した実験(図36b)における投入細胞10,000個につき1個のコロニー(これは、C3+EOS形質導入によってマークされていないNOS+exp hFibsを含有する全hFibsに由来する可能性が高い)に相当する。
【0131】
全hFibsとの共培養物におけるiPSCの生成に対するNOS+exp hFibsの正確な寄与を定量的に決定するために、6つの独立した混合物実験からのデータセット全体を分析した。まず最初に、顕微鏡検査によって数え上げたiPSC様コロニー形成の同定により、9K個の全hFibsと1K個のNOS+exp hFibsとを含む10,000個の細胞の投入から、平均12個のコロニーが生じうることが示された(図28a)。全hFib投入細胞(GFP-ve、EOS-ve)の比率は9倍大きいにもかかわらず、NOS+exp hFibs (GFP+ve、EOS+ve)コロニー形成の寄与は、GFP発現およびEOSプロウイルス組込みの存在という決定的基準によれば、4倍高かった(図28a)。EOS-veコロニー(9,000個の全hFibsに由来するもの)内でのTra1-60発現を、EOS+veコロニー(1,000個のNOS+exp hFibsに由来するもの)との対比で、定量的に分析したところ、全hFibsからは等しい比率のTra+veコロニーとTra-veコロニーとが生じるのに対し、NOS+exp hFibsに由来するコロニーでは、Tra1-60+veの完全に再プログラミングされたコロニーが濃縮されることが示された(図28b)。細胞の投入10,000個あたりに換算して、無選別の全hFibsの総再プログラミング効率が0.18個であるのに対し、NOS+exp hFibsからは平均7.6個生じることが、直接比較分析によって示される(図28c)。投入細胞数の9倍の差を考慮すると、これらの結果は、NOS+exp hFibの単離および濃縮を使った再プログラミング効率の42倍の増加を実証している(n=6、図28c)。
【0132】
NOS+exp hFibsは精製培養物における細胞自律的再プログラミング能力を持たないものの、これらの結果は、hFibsのこのユニークだが希少なサブセットが、再プログラミングされたiPSCに対する主要な細胞寄与要因であること、ただし不均質なhFibsとの共培養を必要とすることを明らかにしている。これらの機能研究は、NOS+exp hFibsが、誘導再プログラミングを受ける前に既に多能性細胞に似たユニークな分子状態およびエピジェネティック状態を有するために(図26)、細胞再プログラミング誘導を起こしやすいことを示唆している。
【0133】
NOS+exp hFibsの分子状態は多能性再プログラミング適格性に関して微小環境によって調整されうる
10%のNOS+exp hFibsと90%の全hFibsとを含有する共培養物において、精製NOS+exp hFibsは、不均質な全hFibsが提供する微小環境の存在下で、iPSCコロニーを生成した(図28)。そこで、微小環境組成が、NOS+exp hFibの相対的細胞密度の産物として、有素因集団の再プログラミング頻度に影響を及ぼしうるかどうかを探究した。全hFibsに対するNOS+exp hFibsの相対的濃縮密度をある範囲にわたって使用し、再プログラミング能力をコロニー形成によって調べ、NOS+exp hFibの寄与をGFP発現によって識別した。50%に向かうNOS+exp hFibsの密度の増加は、再プログラミング効率に関して、プラトーを示した(図29a)。このプラトーを越えると、NOS+exp hFibs再プログラミング能力は、支持性全hFibの比率が低下するにつれて低下し、最終的には、支持性全hFibsがなくなるとコロニー形成が完全になくなった(図29a)。混合物中のNOS+exp hFibsの密度を<2.5%まで低下させると、全hFibsに由来する低頻度のiPSC生成(図27a〜g)を思わせるコロニー生成の減少が起こった(図30a)。これらの結果から、NOS+exp hFibsの再プログラミング能力は、微小環境または支持性ニッチ細胞に対する相対的な比密度に依存することが示唆された。
【0134】
NOS+exp hFibs再プログラミングにとって支持性不均質hFibsが必要であることの分子的基礎をより良く理解するために、全hFibsおよび精製NOS+exp hFibsの遺伝子発現およびエピジェネティック状態を、共培養の前(新規に単離されたもの)および後で、評価した。全hFibs(図29b)とは対照的に、新規に前もって単離されたNOS+exp hFibsは、多能性因子の検出可能な発現と、遺伝子座上の活性型マークとを示した(図29c)。新規に単離されたNOS+exp hFibsを数代にわたって培養したものは、安定したGFP発現を保っていた(図37)。次に、Oct4、Nanog、およびSox2の内在性座でのクロマチン状態と、これらの遺伝子の転写産物発現とを、単独で培養したNOS+exp hFibs、次いでhFibsの存在下で培養したNOS+exp hFibs、またはMEFと共培養したNOS+exp hFibsにおいて比較した(図29d)。単独での培養NOS+exp hFibsは、Oct4座における二価状態と、NanogおよびSox2座については活性型ヒストンマークの喪失とを誘導し(図30f)、それらは、Oct4に関する遺伝子発現の低下と、NanogおよびSox2転写産物の完全な不在とによって、裏付けられた(図30e)。これらの分子変化は、フィーダーフリー条件下で単独で培養されたNOS+exp hFibsを再プログラミングできないこと(図27b)と相関した。しかし、次いで全hFibsまたはMEFと共培養されたNOS+exp hFibsは、Oct4、Nanog、およびSox2座上の活性型クロマチンマーク(図30g)と、全hFibsまたはMEFとの共培養時の遺伝子発現(図30g)とを、再び獲得することができた。
【0135】
多能性幹細胞の派生および維持における微小環境の役割は既に報告されており(Schnerch et al.;Bendall et al.2007;Stewart et al.2008)、iPSC派生プロトコールにはMEFフィーダーの使用が含まれるので、推定されているMEFの必要性と合致する(Takahashi and Yamanaka 2006;Takahashi et al.2007;Wernig et al.2007;Yu et al.2007;Aasen et al.2008;Hanna et al.2008;Lowry et al.2008;Park et al.2008;Woltjen et al.2009)。共培養が誘導するNOS+exp hFibsのエピジェネティック状態の修飾が再プログラミング適格性に影響を及ぼすかどうかを決定するために、NOS+exp hFibsおよびNOS-exp hFibsをMEFの存在下または非存在下で培養し、再プログラミング因子を発現するレンチウイルスに、hFibフラクションをばく露した。合計10,000個のNOS+expまたはNOS-exp hFibsに再プログラミング因子を形質導入し、感染の3週間後および6週間後に、培養物を、コロニー形成、GFP発現、およびTra1-60を発現するコロニーについて調べた。先の結果と合致して(図27bおよび図36a〜b)、NOS+expまたはNOS-exp hFibsは、共培養細胞の非存在下では、3週間培養時にも、延長した6週間培養時にも、コロニーを生成させなかった(図29h)。同様に、NOS-exp hFibからのiPSC生成は、MEFと共培養した場合でさえ、検出できなかった(図29h)。しかし、MEF上で共培養したNOS+exp hFibsは、形質導入の3週間後に検出可能なコロニーを産生し、6週間のMEF共培養時においても、完全に再プログラミングされたiPSCを示し続けた(図29h)。生成したコロニーはGFPと、完全な再プログラミングを示す多能性マーカーTra1-60とを発現した(Chan et al.2009)(図29h)。
【0136】
総合すると、新規に単離されたNOS+exp hFibsを、共培養された不均質なhFibsまたはMEFの非存在下または存在下と対比する比較分子分析により、NOS+exp hFibsは応答して、そのエピジェニック状態および遺伝子発現を、微小環境キューによって与えられる現時点では未知のシグナリング機序によって調整することが明らかになった。共培養微小環境によって誘導される分子変化は、NOS+exp hFibサブフラクションに制約されており、多能性再プログラミングに関する有素因状態および適格性を維持するために必要とされる。
【0137】
NOS+exp hFibsは他のヒト幹/前駆細胞とは分子的に相容れず、ユニークな細胞周期特性を有する
以前の研究により、毛包のバルジ領域(バルジ幹細胞)、毛包間表皮(IFE幹細胞)、真皮乳頭(SKP)を含む皮膚のさまざまな領域からの多能性幹細胞の単離が実証されている(Manabu Ohyama 2006;Biernaskie et al.2009;Jensen et al.2009)。NOS+exp hFibsと、皮膚から単離された、以前に記載された多能性幹/前駆細胞との、潜在的類似性を評価するために、hFibsのこのユニークな集団を、網羅的ゲノム発現プロファイルに基づいて、さらに調べた。線維芽細胞遺伝子シグネチャーおよび個々の皮膚幹/前駆細胞に特異的な分子マーカーを使って、バルジ幹細胞、ケラチノサイト、およびSKP(Toma et al.2005;Manabu Ohyama 2006;Jensen et al.2009)と比較した全hFibs、NOS+exp hFibs、およびNOS-exp hFibsの階層的クラスタリング(図30a)により、NOS+exp hFibsは既存の皮膚幹/前駆細胞とは異なること、そして、Nanog、Oct4、およびSox2を含む多能性転写ネットワークをそれらが発現する点で、さらに識別されることが明らかになった(図30a)。皮膚由来の幹/前駆細胞に加えて、神経、造血、およびケラチノサイト前駆細胞も、増進した再プログラミング能を有することが示されている(Aasen et al.2008;Eminli et al.2009)。そこで、NOS+exp hFibsの網羅的分子表現型を、これらの系譜特異的成体幹細胞と比較したところ、NOS+exp hFibsはこれらの幹細胞タイプとクラスター化しないことが示された(図29b)。総合すると、これらの分析は、NOS+exp hFibsが、増進した再プログラミングを起こすとされている真皮派生物または組織特異的前駆細胞と以前に関連付けられた幹/前駆細胞とは、異なることを示している(図29b)。
【0138】
次に、NOS+exp hFibsとバルク全hFibsとを識別しうるさらなる特徴であって、ヒトPSCと共通しているもの以外の特徴を同定するために、NOS+exp hFibsと全hFibsとの間で、網羅的遺伝子発現の相違を評価した。差次的発現遺伝子のリストの遺伝子オントロジー分析により、不均質な全hFib培養物との対比でNOS+exp hFibs培養物において濃縮されるいくつかのカテゴリーが明らかになった。これらには、主として、発生、細胞周期、および細胞分裂に関与する遺伝子産物が含まれた(図30c)。これらのオントロジーのうち、細胞周期進行に関与する遺伝子が最も広く差次的に発現した(17.48%、p<0.000003)。細胞周期関連遺伝子のさらに綿密な分析により、NOS+exp hFibsにおける複製および有糸分裂プロセシングに関連する遺伝子(これらはhESCおよび線維芽細胞由来のiPSCにおいてもユニークに共発現する)の発現上昇が明らかになった(図30d)。これらの遺伝子のうち、核内に見いだされ、発生中のヒト胚における細胞と関連する、非膜内在性細胞表面受容体CD168[ヒアルロナン媒介運動性受容体(hyaluronan-mediated motility receptor;HMMR)とも呼ばれる](Choudhary et al.2007;Manning and Compton 2008)は、EOSベクターを形質導入した不均質なhFibsの中でGFP発現NOS+exp hFibsと共発現した(図30e)。NOS+exp hFibsのユニークな細胞周期調節と合致して、NOS+exp hFibsと全hFibsの成長速度の直接比較は、NOS+exp hFibsの方が速い速度で増殖することを示し(図30f)、それにより、NOS+exp hFibsのユニークな増殖特性が機能的に確認された。
【0139】
全体としてこれらのデータは、多能性および増殖に関連する遺伝子の前例のない発現によって最もうまく定義される、細胞の再プログラミングに対する素因を有する、今までに同定されたことのない、NOS+exp hFibsのさらなる比較特徴づけをもたらす。
【0140】
考察
多能性再プログラミングを理解し増進するための臨床的に妥当なモデル系として、ヒト皮膚線維芽細胞を使用することにより、多能性細胞との分子的類似性と多能性再プログラミングの助けになる固有の細胞周期状態とを有する有素因細胞集団の存在に関する証拠が得られ、理論に束縛されることは望まないが、再プログラミングプロセスにおけるこれらの細胞の役割に関するモデルが提唱される(図31)。これらの有素因ヒト皮膚線維芽細胞は、細胞周期活性化因子(例えばCCNB1/2、PCNA、MCM2-7、およびANAPC1)の増進した発現を含むユニークな細胞周期特性を有し、Nanog、Oct4、およびSox2の発現によって同定され、識別されるので、NOS+exp hFibsと呼ばれる(図31)。NOS+exp hFibsのユニークな分子的およびエピジェネティック的基底状態は、線維芽細胞の不均質な培養物または増進した再プログラミング能力を有する以前報告された幹/前駆細胞集団とは異なり、ヒトiPSCおよびESCに似ている。残りのhFibs(NOS-exp)は、支持性ニッチとの共培養または長期にわたる培養期間にも関わらず、iPSCへの再プログラミングには参加しない(図31)。それでもなお、例えばがん遺伝子の導入または細胞周期調節因子の撹乱など何らかのユニークな条件によって多能性が誘導されうる可能性は排除されない(図31)。幹/前駆細胞および増進した増殖状態はどちらもiPSC生成に正の影響を与えるので、固有の細胞周期特性を持つここで同定されたNOS+exp hFibsに似た細胞タイプは、効率の良い増進された再プログラミングを受けやすい。この考えと合致して、Smithらが公表した最近の研究(Smith et al.2010)は、MEFの急速に分裂する小サブフラクションがiPSCコロニー形成に寄与することの証拠を提出しているが、それ以上の特徴づけは行われていない。それはおそらく、MEF中のそれらユニークな細胞タイプを特定し単離することが現時点ではできないからであろう。再プログラミングは、新しい多能性状態を樹立するために必要な、ターゲット細胞の既存のエピジェネティック状態または細胞「記憶」の除去であると考えられるので、hPSCと類似するNOS+exp hFibsの分子表現型およびエピジェネティック状態を考慮すると、再プログラミングが最終分化した線維芽細胞を転換する程度と、多能性の達成に不可欠な限定的拘束ステップの克服との対比については、さらなる概念的および実験的検討が必要である。これらの結果は、多能性状態を樹立するのに必要な誘導性の分子変化に応答する能力を有素因細胞のエリートサブセットがユニークに有するという、細胞レベルでの再プログラミング誘導を説明するためのエリート・ストカスティック・モデル(elite stochastic model)を支持している。
【0141】
これらの結果から、不均質なhFibsまたはMEFによって供給されうるニッチ依存的な形で、再プログラミングに独占的に寄与する有素因細胞集が同定される(図31)。こうして、ヒト皮膚線維芽細胞からのiPSC派生における、今まで認識されていなかった微小環境の役割が、明らかになった。これらの結果は、線維芽細胞が再プログラミングに関して等効力でないことを示しているが、不均質なヒト線維芽細胞中の他のサブフラクションが、ユニークに設計された条件下で再プログラミングするように誘導されうる可能性を軽視するわけではない。これは、期間を延長して再プログラミング因子を持続的かつ長期間発現させることでほとんど全てのドナー細胞が多能性状態へと再プログラミングされうることを実証することによって、マウスB細胞の再プログラミングがストカスティック事象であるかもしれないことを示唆している最近の報告に似ている(Hanna et al.2009)。興味深いことに、3〜5%のコロニーは、再プログラミングのわずか2週間後に出現し、それらは、ここで同定されたNOS+exp hFibsに似た有素因細胞タイプに相当するのかもしれない。一方、その後、再プログラミング因子のドキシサイクリン誘導を継続した状態で4〜5ヶ月にわたって出現する残りのiPSCコロニーは、がん遺伝子c-mycが関わる薬物誘導遺伝子発現の使用を含む、利用した具体的選択条件の結果であるのだろう。ヒトhFibs(NOS-exp細胞)の非有素因フラクションにおけるそのような実験は、多能性再プログラミングにとっての腫瘍形成性プロセスの前提条件に関する洞察を深めることになるだろう。
【0142】
多能性再プログラミングに関して現在なされている全ての報告と同様に、有素因NOS+exp hFibsは、体細胞再プログラミングのインビトロプロセスと、ひとたびインビトロで再プログラミングされた派生細胞の使用とに関連する。今までのところ、細胞がインビボで多能性状態に再プログラミングされうることを示した報告はない。無脊椎動物における線維芽細胞の可塑性は最近記述されているが(Kragl et al.2009)、そのような可塑性は哺乳動物では十分には探究されていないので(Sanchez Alvarado 2009)、有素因hFibsの存在とそのインビボ機能は興味深いが、正常インビボ生理におけるその役割は、現時点では単なる推測にすぎず、インビトロの現象に限定される可能性が高い。それでもなお、NOS+exp hFibsは、さまざまなヒト組織から容易に得ることができ、ヒトiPSC生成に対する寄与要因としては、現在までに報告された中では最も迅速かつロバストである。これらの性質は、患者からの完全に再プログラミングされたiPSCの即時的な単離および特徴づけが迅速な薬物および遺伝子スクリーニングまたは分化誘導後の細胞移植のために要求される場合における、NOS+exp hFibsの臨床的有用性を明示している。
【0143】
方法
細胞培養-
成体ヒト皮膚線維芽細胞は胸部皮膚に由来し(第1継代で入手;推奨増大量-細胞集団倍加数15)、新生児皮膚線維芽細胞は包皮に由来し(第1継代で入手;推奨増大量-細胞集団倍加数15)、肺線維芽細胞は肺組織に由来し(第10継代で入手;推奨増大量-細胞集団倍加数24)[Sciencell]、線維芽細胞培地(10%FBS(HyClone)、L-グルタミン(Gibco)、非必須アミノ酸(NEAA;Gibco)が補われたDMEM(Gibco))中で維持した。実験は全て、別段の言及がない限り、胸部由来皮膚線維芽細胞を使って行った。ヒトiPS細胞は、16ng/ml bFGF(BD Biosciences)が補われたiPS培地(20%ノックアウト血清代替物(Gibco)、L-グルタミン(Gibco)、NEAA、ベータ-メルカプトエタノールが補われたF12 DMEM(Gibco))中、マトリゲル・コート・ディッシュ上で維持した。hESCは、8ng/ml bFGFが補われたMEF条件培地中、マトリゲル・コート・ディッシュ上で維持した。多能性細胞に、さまざまな濃度のEOS C3+レンチウイルスを、継代後2日目に形質導入した。293細胞は、10%ウシ胎児血清、必須アミノ酸およびL-グルタミンを含有するDMEM中で培養した。トランスフェクションに先だって、293細胞をチャンバースライドに播種した。1μgのpSIN-Oct4ベクターをリポフェクトアミン2000試薬(Invitrogen)を使ってトランスフェクトした。実験はトランスフェクションの36時間後に行った。培養NOS+exp hFibsを作製するために、成体皮膚線維芽細胞にEOS C3+Oct4レンチウイルスベクターを形質導入し、NOS+exp細胞をソートし、線維芽細胞培地中で少なくとも5継代は培養した。
【0144】
レンチウイルス作成-
レンチウイルスpSIN-EGFP、pSIN-PGK-EGFPおよびpSIN-C3+EOSベクターは、Hottaら2008によって合成され、記述された。Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28のcDNAを含有するレンチウイルスベクター(pSIN)はAddgeneから入手した。これらのベクターを、293-FTパッケージ細胞株にビラパワーと共にコトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後にウイルス上清を収集し、超遠心分離してウイルスを濃縮した。陽性対照の形質導入効率を確認するために、pGK EGFPレンチウイルスを、表示の希釈度で線維芽細胞に形質導入した。線維芽細胞形質導入には8ng/mlポリブレンの存在下で等量の各ウイルスを使った。
【0145】
ヒト成体線維芽細胞ソーティング-
線維芽細胞に、第3継代において、C3+EOSベクターを形質導入し、3継代にわたって維持した。細胞をトリプシン処理し、7AAD排除を使って生細胞を同定した。線維芽細胞を、GFP発現に基づいて、FACS Ariall(BD)でソートした。qRT-PCRアッセイおよびクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイのために、PBS中の0.5%FBS(v/v)が入っているチューブに、50,000個のGFP+ve(NOS+exp)細胞とGFP-ve(NOS-exp)細胞をソートした。細胞を、RNA抽出用に遠心分離によって集めるか、ChIP研究用に1%ホルムアルデヒドを使って架橋した。
【0146】
再プログラミングの誘導-
マトリゲル上で:全hFibs、GFP+ve細胞(10,000個のNOS+exp細胞という)および10,000個のGFP-ve細胞(10,000個のNOS-exp細胞という)から再プログラミングされた細胞を作製するために、細胞を、10,000細胞/ウェルの密度で、マトリゲルコート12ウェルプレート上に播種した。混合物実験の場合は、NOS+exp培養細胞を、1:9の比(1000個の培養NOS+exp+9000個の全hFibs)または1:1の比(5000個の培養NOS+exp+5000個の全hFibs)で混合した。素因の証明に関する実験の場合は、1000個のNOS+exp細胞を全hFib培養物からソートし、マトリゲル・コート・ディッシュ上で9000個の全hFibsと混合した。播種の24時間後に、線維芽細胞に、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を発現するレンチウイルスを形質導入した。次に、形質導入された線維芽細胞をiPSC培地中で成長させた。再プログラミングされたコロニーを感染の3〜6週間後に計数した。コロニーを手作業で拾い、マトリゲル・コート・ウェル上で維持した。MEF上で:10,000個のNOS+expまたはNOS-exp細胞を三つ組にして12ウェルディッシュに播種した。播種の24時間後に、hFibsに、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28を発現するレンチウイルスを形質導入した。形質導入の36時間後に、トリプシン処理によってhFibsを集め、照射MEFが入っているプレート上に移した。再プログラミングされたコロニーを感染の3〜6週間後に計数した。コロニーを手作業で拾い、MEF上で維持した。
【0147】
造血分化およびニューロン分化アッセイ-
マトリゲル上で派生したヒトES細胞またはiPSC細胞を80%コンフルエントまで成長させ、以前に記述されているように(Chadwick et al.2003)、EBを形成させた。細胞を、80%ノックアウトDMEM(KO-DMEM)(Gibco)、20%非熱不活化ウシ胎児血清(FBS)(HyClone)、1%非必須アミノ酸、1mML-グルタミン、および0.1mMベータ-メルカプトエタノールからなる分化培地中、低接着6ウェルプレートに移した。培養物を、新鮮な分化培地、または50ng/ml BMP-4(R&D Systems)、300ng/ml幹細胞因子(SCF)(Amgen)、および300ng/ml Flt-3リガンド(R&D Systems)が補われた培地で置き換えた。EBを15日間維持し、培地を4日ごとに交換した。神経プレカーサー分化のために、EBをEB培地のみの中で4日間培養した。最初の4日間の後、ポリ-L-リジン/フィブロネクチンでコートした12ウェルプレートにEBを移し、B27およびN2サプリメント(Gibco)、10ng/ml bFGF、10ng/mlヒト上皮成長因子(hEGF)、1ng/mlヒト血小板由来成長因子AA(PDGF-AA)(R&D Systems)、および1ng/mlヒトインスリン様成長因子1(hIGF-1)(R&D Systems)を含むDMEM/F12からなる神経増殖培地中で維持した。培養物をプレートに付着させ、単層として4日間増大させた。
【0148】
RT-PCRおよびPCR-
Norgen全RNA単離キットを使って全RNAを単離した。次に、RNAを、スーパースクリプトIII(Invitrogen)を用いるcDNA合成に供した。定量PCRは、Platinium SYBR Green-UDPミックス(Invitrogen)を使って行った。ゲノムDNAは、ALL IN ONE単離キット(Norgen)を使って単離した。EOSプロウイルス組込み研究には、150ngのゲノムDNAをPCR反応におけるGFPの増幅に使用した。PCR反応は、2×PCRマスターミックス(Fermentas)を使って行った。生成物を1.2%アガロースゲルで分割した。プライマー配列を表7に記載する。
【0149】
ウェスタンブロッティング-
hESC、全線維芽細胞、293、Oct4を過剰発現する293、GFP+ve(NOS+exp)および全hFibsから、溶解バッファー[50mMトリス(pH8.0)、150mM NaCl、1%(v/v)Nonidet P-40、0.1%(w/v)SDS、0.5%(v/v)デオキシコール酸ナトリウムおよびコンプリート(Complete)プロテアーゼ・インヒビター(GE Healthcare)]中に、細胞抽出物を調製した。表示した抗体によるウェスタンブロッティングのために、約60μgのタンパク質をローディングした。
【0150】
クロマチン免疫沈降-
クロマチンIPは先に記述されているように行った(Rampalli et al.2007)。簡単に述べると、1%ホルムアルデヒドを使って細胞を架橋し、0.1%SDSを含有するバッファー中でクロマチンを消化して、約400bp長のフラグメントを得た。超音波処理したDNAを、ChIP用の抗体(抗トリメチルH3K4(Abcam)、抗トリメチルH3K27(Abcam)、抗Oct4(Cell Signaling)、抗Nanog(Cell Signaling)、抗Sox2(Cell Signaling)、抗ブラキュリT(Abcam)、抗ウサギIgGおよび抗マウスIgG抗体)を用いる免疫沈降に供した。免疫沈降したDNAをさらに脱架橋し、精製し、Platinium Syber Green-UDPミックスを用いるqPCR解析に供した。相対的濃縮度を計算するために、対照IPシグナルを、特異的なシグナルから差し引き、得られた差を、50分の1の投入材料から観察されたシグナルで割った。
【0151】
MeDIP ChiPアッセイは以前に記述されたとおりに行った。簡単に述べると、293、hESC、全hFibsおよびNOS+exp(GFP+ve)細胞から、終夜プロテイナーゼK処理、フェノール-クロロホルム抽出、エタノール沈殿およびRNase消化によってゲノムDNAを抽出した。MeDIPを行う前に、ゲノムDNAを超音波処理して、サイズが300〜1,000bpの範囲にわたるランダムフラグメントを作成した。免疫精製DNAをPlatinium Sybr Green-UDPミックスを用いるqPCR解析に供した。相対的濃縮度を計算するために、対照IPシグナルを、特異的なシグナルから差し引き、得られた差を、投入材料のシグナルで割った。定量PCR解析用のプライマーを表7に記載する。
【0152】
生細胞染色-
生細胞染色のために、滅菌Tra-1-60抗体(Millipore)を滅菌Alexa Fluor 647ヤギ抗マウスIgM(Molecular Probes、Invitrogen)と、室温でプレコンジュゲートした。再プログラミングされたコロニーをiPSC培地で1回洗浄し、Tra-1-60-Alexa 647抗体と共に、室温で30分間インキュベートした。次に培養物を2回洗浄して未結合の抗体を除去した。細胞をオリンパス蛍光顕微鏡を使って可視化した。
【0153】
フローサイトメトリー-
誘導多能性細胞をコラゲナーゼIV(Gibco)で処理してから、細胞解離バッファー(Gibco)中に37℃で10分間入れた。細胞懸濁液をSSEA-3(Developmental Studies Hybridoma Bank、mABクローンMC-631、University of Iowa、アイオワ州アイオワシティ)で染色した。細胞をAlexa Fluor 647ヤギ抗ラットIgM(Molecular Probes、Invitrogen)で可視化した。適当な陰性対照を利用した。生細胞を7-アミノアクチノマイシン(7AAD)排除によって同定してから、FACS Calibur(BDIS)を使って、細胞表面マーカー発現について分析した。収集した事象をFlowJo 6.4.1ソフトウェア(Tree Star Inc.)を使って分析した。iPSC細胞から生成したEBを、15日目に、0.4U/mlコラゲナーゼB(Roche Diagnostics、カナダ・ケベック州ラバル)で解離し、血液細胞生成マーカーおよび造血マーカーの発現について分析した。造血細胞(CD45+)は、単一細胞(2〜5×105細胞/ml)を蛍光色素コンジュゲートモノクローナル抗体(mAb)汎白血球マーカーCD45-APC(Milteny Biotech、ドイツ)で染色することによって同定した。mAbおよびそれらの対応するアイソタイプを1〜2mg/mlで使用した。造血表現型を有する細胞の頻度を、7AAD(Immunotech)排除による生細胞で、FACS Caliburを使って決定し、FlowJoソフトウェア(Tree Star)を使って解析を行った。神経増殖培地中のEBは、4日間の培養後にトリプシン処理し、細胞表面マーカーA2B5(R&D Systems)で染色した。細胞をAlexa Fluor 647ヤギ抗マウスIgM(Molecular Probes、Invitrogen)で可視化した。A2B5を発現する細胞の頻度を、7AAD(Immunotech)排除による生細胞で、FACS Caliburを使って決定し、FlowJoソフトウェア(Tree Star)を使って解析を行った。
【0154】
免疫細胞化学-
全線維芽細胞、293、pSIN-Oct4ベクターをトランスフェクトした293、およびソートしたNOS+exp細胞をチャンバースライドに播種した。EOS C3+を形質導入したhESCを、マトリゲルコート12ウェルディッシュで成長させた。細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、Triton X-100中で透過処理してから、ヒトOct4について染色した(ラット抗ヒトOct3/4モノクローナル抗体クローン240408)(R&D Systems)。次に細胞を二次抗体Alexa Fluor 647抗ラットIgG(Molecular Probes)で染色した。DAPIを含有するVectashield封入剤(Vector Labs)でチャンバースライドを封入し、対比染色した。HMMR染色のために、成体皮膚線維芽細胞にEOS C3+レンチウイルスを形質導入し、CD168(HMMR)(ab67003)染色を上述のように行った。オリンパスIX81蛍光顕微鏡を使って細胞を可視化した。
【0155】
奇形腫アッセイ-
全ての手法とプロトコールはMcMaster University Animal Care Councilによって承認された。誘導多能性幹細胞培養物をコラゲナーゼIVで5〜10分間処理した後、収集し、食塩水で2回洗浄し、食塩水に再懸濁した。1試料あたり500,000個の細胞を、雄NOD-SCIDマウスに精巣内注入した。最初の注入の10〜12週間後にマウスを屠殺した。奇形腫を摘出し、パラフィンに包埋し、5μm間隔で薄切した後、キシレン中で脱パラフィン化し、段階的な一連のアルコール濃度で処理した。試料を、ヘマトキシリンおよびエオシンまたはOct4で染色してから、脱水およびキシレン処理を行った。Permountを使ってスライドを封入し、Aperio Scan Scopeを使ってスライドをスキャンすることによって撮像し、Image Scope v9.0.19.1516.ソフトウェアを使って、画像をキャプチャした。各胚葉サブタイプに特異的な、厳格な組織学的および形態学的基準に基づいて、組織タイピングを行った。骨などの中胚葉系譜は、骨細胞および骨片の存在を使って同定し;軟骨は軟骨細胞の存在および細胞外マトリックスの特異的染色によって同定した。腸管腔などの内胚葉系譜は、管腔上皮における杯細胞の存在によって同定した。皮膚などの外胚葉系譜は、特色のある細胞層形態(すなわち層状)に基づいて同定し;脳または神経管は、特異的な組織学的基準に基づいて同定した。胚葉の存在および組織タイピングはMcMaster Pathologyによって確認された。
【0156】
3D再構成/Zスタッキング-
EOSベクターを形質導入した成体皮膚線維芽細胞をチャンバースライドに播種した。細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド/PBSで10分間固定した後、Triton X-100中で透過処理した。DAPIを含むVECTASHIELD HardSet封入剤(Vector Labs)を使って、スライドを封入し、対比染色した。オリンパスIX81蛍光顕微鏡を使って細胞を可視化し、Photometrix Cool Snap HQ2カメラで、In Vivoバージョン3.1.2(Photometrix)ソフトウェアを使って、z-スタック(1視野あたり30切片)をキャプチャした。ImageJソフトウェアを使ってZ-切片/像スタックを擬似カラー化し、3Dマッピングした。
【0157】
マイクロアレイ解析-
全RNA精製キット(Norgen)を製造者の説明書に従って使用することで、成体皮膚線維芽細胞(全)、NOS+exp(GFP+ve)、NOS-exp(GFP-ve)細胞、iPS NOS+veおよびhESCから、全RNAを単離した。RNA増幅、GeneChip 3'オリゴヌクレオチド・マイクロアレイ・ハイブリダイゼーションおよび処理は、Ottawa Health Research Institute(オンタリオ州オタワ)のOGICにより、製造者のプロトコール(Affymetrix)に従って行われた。各試料について、200ngの一本鎖DNAを標識し、Affymetrix HG-U133 Plus 2.0チップにハイブリダイズさせた。発現シグナルはAffymetrix GeneChipスキャナーでスキャンし、データ抽出はAffymetrix AGCCソフトウェアを使って行った。データの規格化と解析は、Dchipソフトウェア(Li and Wong 2001 PNAS)を使って行った。ピアソン相関係数を使った階層的クラスタリングを規格化したデータに対して行った。差次的にアップレギュレートされる遺伝子をD-ChIPを使って分析した。遺伝子オントロジー(GO)分析はFATIGO(http://babelomics.bioinfo.cipf.es)を使って行った。
【0158】
実施例3:ヒト皮膚線維芽細胞からの直接的神経転換
結果と考察
ヒト皮膚線維芽細胞からのニューロン転換を促進するために、Oct-4(POU5F1)を神経サイトカイン(bFGF、EGF)と共に使用した。Vierbuchenとその共同研究者ら(Vierbuchen et al.,2010)は、単一のニューロン細胞タイプ、すなわちニューロンへのマウス線維芽細胞の転換を示しているが、本実施例では、多能性状態を迂回しつつ、オリゴデンドロサイト、アストロサイトおよびニューロンへのヒト線維芽細胞の転換を実証する(図38)。POUドメイン結合タンパク質Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞を、当分野において使用されている標準的な神経、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト分化アッセイのために、ヒト・ラミニン・コート・ディッシュを使ってプレーティングし、bFGF、EGFおよびBMP-4が補われた神経/オリゴデンドロサイトまたはアストロサイト分化培地中で培養した(図38a)。非形質導入/対照線維芽細胞とは異なり、Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、神経系譜特異的な形態の獲得(図38b)によって実証されるとおり、3つ全ての神経系譜(ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)を生じさせた。Oct-4形質導入線維芽細胞を、神経系譜特異的マーカー発現、例えばアストロサイト特異的マーカーGFAP(グリア線維性酸性タンパク質)、オリゴデンドロサイト特異的マーカーOlig-4(リゴデンドログリア細胞転写因子4)およびニューロン特異的マーカー(TUBB3)ベータ-チューブリンIIIなどの発現について、さらに分析した。Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、アストロサイト、ニューロンおよびオリゴデンドロサイト出現を示す免疫蛍光イメージング(図38c、e、g)およびFACS分析(図38d、f、h、i)によって実証されるとおり、GFAP、TUBB3およびOlig-4を発現した。
【0159】
ニューロンが成熟した機能的ドーパミン作動性ニューロンを生じさせうることを実証するために、ヒト皮膚線維芽細胞を、Royとその共同研究者ら(2006)が記述しているように、さらに分化させた。Oct-4を形質導入したヒト皮膚線維芽細胞は、TUBB3とチロシンヒドロキシラーゼ(ドーパミン作動性ニューロンのマーカー)の共発現によって示されるとおり、ドーパミン作動性ニューロンを生じさせた(図39)。総合すると、これらの結果は、Oct-4を異所性に発現するヒト皮膚線維芽細胞は、神経系譜誘導条件と組み合わせると、アストロサイト、ニューロンおよびオリゴデンドロサイト、ならびにドーパミン作動性表現型を有する機能的な成熟ニューロンを生じさせることができることを示している。
【0160】
処理後4日目における非形質導入線維芽細胞とOct4形質導入線維芽細胞の間のさらなる遺伝子発現比較により、神経発生に関連する一定の遺伝子、例えばBMI1、POU3F2、およびNEFLなどの発現が、1.6〜1.8倍、有意に増加することが立証された(p<0.009;図40)。これらのデータは、Oct-4を形質導入した皮膚神経芽細胞に由来する前駆細胞における神経分化プログラムの活性化を裏付けている。
【0161】
方法
神経プレカーサー分化-
(Pollard et al.,2009;Reubinoff et al.,2001;Roy et al.,2006)を応用。成体皮膚線維芽細胞および胎児皮膚線維芽細胞を、20%FBS、IGFIIおよびbFGFが補われたF12-DMEM培地中で培養した。線維芽細胞にOct-4レンチウイルスを形質導入し、上述の培地で培養した。さらなるニューロン分化は、B27およびN2サプリメント(Gibco)、20ng/ml bFGFおよび20ng/mlヒト上皮成長因子(hEGF)(R&D Systems)を含むDMEM/F12からなる神経プレカーサー培地で行った(Carpenter et al.,2001)。細胞をプレートに付着させ、単層として14日間増大させた。培地を3日ごとに置き換え、細胞を7日目に、Accutase(Sigma)を5分間使って単一細胞懸濁液に解離することによって継代した。
【0162】
ドーパミン作動性前駆細胞誘導:
ドーパミン作動性前駆細胞分化培養物は、先に記述されたように調製した(Roy et al.,2006)。簡単に述べると、神経プレカーサー培養物をAccutaseで5分間解離した後、N2(Gibco)、bFGF(10ng/ml)、ヒトSHHのN末端活性フラグメント(200ng/ml)、およびFGF8(100ng/ml;R&D)が補われたDMEM/F12からなる中脳ニューロン培地中、新しいラミニン・コート・プレート(BD Biosciences)に移した。培地を3日ごとに置き換えた。7日後に、SHHおよびFGFを取り除き、N2、GDNF(20ng/ml)、BDNF(20ng/ml)および0.5%FBSが補われたDMEM/F12培地で置き換えることにより、ドーパミン作動性ニューロン分化を誘導した。培養物をこれらの条件下で14日間維持した後、染色(すなわち、ドーパミン作動性ニューロンの場合は、チロシンヒドロキシラーゼ、βIIIチューブリン)のために固定した。
【0163】
現時点で好ましい実施例であると見なされるものに関して本開示を説明したが、本開示が開示された実施例に限定されないことを理解すべきである。そうではなく、本開示は、本願請求項の要旨および範囲に含まれるさまざまな変更形態および等価なアレンジメントをカバーするものとする。
【0164】
全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願について参照によりそのまま本明細書に組み入れられることを個別に明示した場合と同じ程度に、参照により、そのまま本明細書に組み入れられる。
【0165】
(表1)
【0166】
(表2)
【0167】
(表3)hFibsと4日目のOct-4形質導入hFibsとを対比した網羅的遺伝子発現プロファイル
【0168】
(表4)
*値の計算:(総細胞数×CD45+細胞の頻度)
**値の計算:(総細胞数×CD34+CD45+細胞の頻度)
完全な造血再構築を達成するのに必要な皮膚パッチサイズの計算:
-60kgの個体は1.5×108個のCD34+ve細胞を必要とするであろう。
-直径6mmの皮膚穿刺物は1.0×107個の細胞を含む。
-最初にプレーティングした10,000個の線維芽細胞につき、CD34+CD45+細胞は約21,000個になる。
-したがって、1.5×108個のCD34+ve細胞を得るのに必要なFibsの数
=(10,000×1.5×108)/(21,000)
=7.14×107個の線維芽細胞。
-したがって、直径42.83mm(7.14×6mm)の皮膚パッチに相当する7.1個の皮膚穿刺物が必要である。
【0169】
(表5)
【0170】
(表6)
【0171】
(表7)
【0172】
参考文献:
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現するか、またはPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞を提供する工程;および
b)多能性状態を経ることなく前駆細胞の作出を可能にする条件下で、工程(a)の細胞を培養する工程
を含む、線維芽細胞から前駆細胞を作製する方法。
【請求項2】
工程(a)におけるPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞が、外因性POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を提供することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質がOct遺伝子またはタンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
Oct遺伝子またはタンパク質がOct-1、Oct-2、Oct-4またはOct-11である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Oct遺伝子またはタンパク質がOct-4である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前駆細胞の作出を可能にする条件が、培養期間が25日までのコロニー形成アッセイを含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
工程(b)で作出された細胞を分化細胞の作出を可能にする条件下で分化培地において培養する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
分化培地が、少なくとも一つの造血サイトカインを含む造血培地を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
少なくとも一つの造血サイトカインがFlt3リガンドおよび/またはSCFである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
分化造血細胞が骨髄芽球系譜の細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
骨髄芽球系譜細胞が単球または顆粒球である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの造血サイトカインがEPOである、請求項10または11記載の方法。
【請求項14】
分化造血細胞が赤血球系譜または巨核球系譜の細胞である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
分化培地が、線維芽細胞成長因子、上皮成長因子、インスリン成長因子II、骨形成因子4、bFGF、ヒトSHHのN末端活性フラグメント、FGF8、GDNF、BDNFおよび/または胎児ウシ血清を含む神経培地を含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
分化神経細胞がニューロンまたはグリア細胞である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ニューロンがドーパミン作動性ニューロンである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
グリア細胞がアストロサイトまたはオリゴデンドロサイトである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である、請求項1〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項記載の方法によって作製された、単離された前駆細胞または分化細胞。
【請求項21】
生着または細胞置換を必要とする対象における生着または細胞置換のための、請求項20記載の細胞の使用。
【請求項22】
自家移植または非自家移植を必要とする対象における自家移植または非自家移植のための、請求項21記載の使用。
【請求項23】
対象がヒトである、請求項21または22記載の使用。
【請求項24】
血液、細胞性および非細胞性の血液構成要素、血液製剤または造血幹細胞の供給源としての、請求項20記載の造血細胞の使用。
【請求項25】
a)請求項1〜19のいずれか一項記載の方法によって前駆細胞または分化細胞の培養物を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)前記細胞を分析に供する工程
を含む、前駆細胞またはそれに由来する細胞をスクリーニングする方法。
【請求項26】
a)Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞を提供する工程;および
b)前記レポーターに関して陽性である細胞を単離する工程
を含む、増加した再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法。
【請求項27】
Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞がレンチウイルス形質導入によって作出される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質を含み、かつ工程(b)では、蛍光にもとづく該タンパク質の検出によって細胞が単離される、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
レポーター遺伝子が抗生物質耐性を付与する遺伝子をコードし、かつ細胞は抗生物質の存在下における生残によって単離される、請求項26または27記載の方法。
【請求項30】
線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である、請求項26〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
a)(i)Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団および(ii)線維芽細胞の混合集団またはOct-4陰性集団を提供する工程;
b)a)の線維芽細胞をOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28で処理する工程;
c)b)の線維芽細胞を、iPS細胞の作出を可能にする条件下で培養する工程
を含む、再プログラミングされた線維芽細胞由来の誘導多能性幹細胞を作製する方法。
【請求項32】
b)の線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入でOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28遺伝子を導入することによって処理される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
TRA-1-60および/またはSSEA-3および/または他の任意の多能性マーカーを発現する細胞を分析および選択する工程をさらに含む、請求項31または32記載の方法。
【請求項34】
a)i)のOct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団が、請求項26〜30のいずれか一項記載の方法によって作出される、請求項31〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
a)i)とa)ii)の細胞の比が50:50である、請求項31〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
a)i)とa)ii)の細胞の比が10:90である、請求項31〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である、請求項31〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
請求項31〜37のいずれか一項記載の方法によって作製された、単離された誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞。
【請求項39】
生着を必要とする対象における生着のための、請求項38記載の細胞の使用。
【請求項40】
自家移植または非自家移植を必要とする対象における自家移植または非自家移植のための、請求項39記載の使用。
【請求項41】
対象がヒトである、請求項39または40記載の使用。
【請求項42】
誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞の供給源としての、請求項38記載の細胞の使用。
【請求項43】
a)請求項31〜37のいずれか一項記載の方法によって誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞の培養物を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された細胞を分析に供する工程
を含む、誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞をスクリーニングする方法。
【請求項1】
a)POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現するか、またはPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞を提供する工程;および
b)多能性状態を経ることなく前駆細胞の作出を可能にする条件下で、工程(a)の細胞を培養する工程
を含む、線維芽細胞から前駆細胞を作製する方法。
【請求項2】
工程(a)におけるPOUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を発現する線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入によって作出される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質で処理された線維芽細胞が、外因性POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質を提供することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
POUドメイン含有遺伝子またはタンパク質がOct遺伝子またはタンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
Oct遺伝子またはタンパク質がOct-1、Oct-2、Oct-4またはOct-11である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Oct遺伝子またはタンパク質がOct-4である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前駆細胞の作出を可能にする条件が、培養期間が25日までのコロニー形成アッセイを含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
工程(b)で作出された細胞を分化細胞の作出を可能にする条件下で分化培地において培養する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
分化培地が、少なくとも一つの造血サイトカインを含む造血培地を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
少なくとも一つの造血サイトカインがFlt3リガンドおよび/またはSCFである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
分化造血細胞が骨髄芽球系譜の細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
骨髄芽球系譜細胞が単球または顆粒球である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの造血サイトカインがEPOである、請求項10または11記載の方法。
【請求項14】
分化造血細胞が赤血球系譜または巨核球系譜の細胞である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
分化培地が、線維芽細胞成長因子、上皮成長因子、インスリン成長因子II、骨形成因子4、bFGF、ヒトSHHのN末端活性フラグメント、FGF8、GDNF、BDNFおよび/または胎児ウシ血清を含む神経培地を含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
分化神経細胞がニューロンまたはグリア細胞である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ニューロンがドーパミン作動性ニューロンである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
グリア細胞がアストロサイトまたはオリゴデンドロサイトである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である、請求項1〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項記載の方法によって作製された、単離された前駆細胞または分化細胞。
【請求項21】
生着または細胞置換を必要とする対象における生着または細胞置換のための、請求項20記載の細胞の使用。
【請求項22】
自家移植または非自家移植を必要とする対象における自家移植または非自家移植のための、請求項21記載の使用。
【請求項23】
対象がヒトである、請求項21または22記載の使用。
【請求項24】
血液、細胞性および非細胞性の血液構成要素、血液製剤または造血幹細胞の供給源としての、請求項20記載の造血細胞の使用。
【請求項25】
a)請求項1〜19のいずれか一項記載の方法によって前駆細胞または分化細胞の培養物を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)前記細胞を分析に供する工程
を含む、前駆細胞またはそれに由来する細胞をスクリーニングする方法。
【請求項26】
a)Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞を提供する工程;および
b)前記レポーターに関して陽性である細胞を単離する工程
を含む、増加した再プログラミング能を有する線維芽細胞の亜集団を単離する方法。
【請求項27】
Oct-4レポーターを発現する線維芽細胞がレンチウイルス形質導入によって作出される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質を含み、かつ工程(b)では、蛍光にもとづく該タンパク質の検出によって細胞が単離される、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
レポーター遺伝子が抗生物質耐性を付与する遺伝子をコードし、かつ細胞は抗生物質の存在下における生残によって単離される、請求項26または27記載の方法。
【請求項30】
線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である、請求項26〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
a)(i)Oct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団および(ii)線維芽細胞の混合集団またはOct-4陰性集団を提供する工程;
b)a)の線維芽細胞をOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28で処理する工程;
c)b)の線維芽細胞を、iPS細胞の作出を可能にする条件下で培養する工程
を含む、再プログラミングされた線維芽細胞由来の誘導多能性幹細胞を作製する方法。
【請求項32】
b)の線維芽細胞が、レンチウイルス形質導入でOct-4、Sox-2、NanogおよびLin-28遺伝子を導入することによって処理される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
TRA-1-60および/またはSSEA-3および/または他の任意の多能性マーカーを発現する細胞を分析および選択する工程をさらに含む、請求項31または32記載の方法。
【請求項34】
a)i)のOct-4の発現が増加している線維芽細胞の集団が、請求項26〜30のいずれか一項記載の方法によって作出される、請求項31〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
a)i)とa)ii)の細胞の比が50:50である、請求項31〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
a)i)とa)ii)の細胞の比が10:90である、請求項31〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
線維芽細胞が皮膚線維芽細胞である、請求項31〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
請求項31〜37のいずれか一項記載の方法によって作製された、単離された誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞。
【請求項39】
生着を必要とする対象における生着のための、請求項38記載の細胞の使用。
【請求項40】
自家移植または非自家移植を必要とする対象における自家移植または非自家移植のための、請求項39記載の使用。
【請求項41】
対象がヒトである、請求項39または40記載の使用。
【請求項42】
誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞の供給源としての、請求項38記載の細胞の使用。
【請求項43】
a)請求項31〜37のいずれか一項記載の方法によって誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞の培養物を調製する工程;
b)前記細胞を試験剤で処理する工程;および
c)処理された細胞を分析に供する工程
を含む、誘導多能性幹細胞またはそれから分化した細胞をスクリーニングする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4−1】
【図4−2】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図7−1】
【図7−2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26−1】
【図26−2】
【図27−1】
【図27−2】
【図28】
【図29−1】
【図29−2】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図2】
【図3】
【図4−1】
【図4−2】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図7−1】
【図7−2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26−1】
【図26−2】
【図27−1】
【図27−2】
【図28】
【図29−1】
【図29−2】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【公表番号】特表2013−507974(P2013−507974A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535563(P2012−535563)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001708
【国際公開番号】WO2011/050470
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(512112529)マックマスター ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001708
【国際公開番号】WO2011/050470
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(512112529)マックマスター ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】
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