説明

締付装置及び回転角法による締付方法

【課題】締め付け作業毎にスナグ点を求めることで締め付け作業を最適になし得る、締付装置及び回転角法による締付方法を提供する。
【解決手段】締付部品2を回転して締め付る駆動部11と、締付部品2に加わるトルク及び締付部品2の回転角度を検出する検出部12と、検出部12で検出した値からスナグ点を判定する判定部14と、を設ける。判定部14は、締付部品2の一定の回転角度毎におけるトルクの変化量を算出し、その変化量が一定とみなされる範囲となったときをスナグ点と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじやボルトなどの締付部品の締付装置及び回転角法による締付方法に関し、詳細には、締付部品の回転角度−トルク線図におけるスナグ点(「着座点」とも言う。)を締付作業毎に求めることができる、締付装置及び回転角法による締付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のなどの組立製品を製造する作業工程においては、ボルトやナットにより締結される組立作業又は組付作業が行われている。ボルトやネットなどの締結具では弛みが生じると、締結機能そのものを失ってしまう。弛みの一番の原因は締め付け不足であり、弛みを防止するためには、締め付け精度を向上させることで弛みを防止している。
【0003】
特許文献1には、ボルトの軸力管理に際し、最小の軸力ばらつきで目標とする軸力が得られるボルト、ナットの回転角法締付の最適条件を求める方法が開示されている。
【0004】
ボルトの回転角度とそれに応じて変化する軸力とには一定の関係があると言われており、ボルトを回転させると、軸力は緩やかに増加し、次に回転角度と軸力との間に比例関係が認められ、その後、ボルトの材質が降伏点に到達して軸力が回転角度に応じて増加しなくなる。この回転角度−軸力線図はボルトによっても締付け物の製造上のばらつきによって異なるため、ボルトの軸力管理の手法として、締め付け角度を管理して目的の締め付け軸力を得る方法がある。この方法は、或る基準値からスタートしてボルトで決められた角度だけ回転させ、目的の締め付け軸力を得ている。この基準値としては締め付け角度の開始点としており、このときのトルクをスナグトルクと呼んでいる。
【0005】
従来、多数のボルトを準備して、適当なスナグトルクと回転角度との組み合わせのデータを計測し、目的の締め付け軸力を得るのに最適なスナグトルクと回転角度の組を設定してボルトの軸力管理を行っていた。特許文献1では、複数本のボルトについてそれぞれ仮定のスナグトルク及び角度だけ締め付けを行い、各仮定のスナグトルク締め付け角度に対する軸力のばらつきを求め、軸力のばらつきが極小となるときのトルク値をスナグトルクとして決めている。これにより、スナグトルクと回転角度の組み合わせを適切なものとし、そのスナグトルクと回転角度の組によってボルト締めを行った場合に軸力のばらつきを最小現に抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−158355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法、すなわちボルト、ナットの回転角法締付けの最適条件を求める方法では、事前に複数本のボルトを準備して実験を行い、その結果からスナグトルクを求める必要がある。
【0008】
また、実験のときと実際の締結のときとで、摩擦係数が異なると、適切なスナグトルクが求められていることにはならず、ボルトやナットなどの締付作業が行われていない結果を招いてしまう。
【0009】
そこで、本発明では、締付作業毎にスナグ点を求めることで締付作業を最適になし得る、締付装置及び回転角法による締付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明による締付装置は、締付部品を回転して締め付る駆動部と、締付部品に加えるトルク及び締付部品の回転角度を検出する検出部と、検出部で検出した値からスナグ点を判定する判定部とを備え、判定部が、締付部品の一定の回転角度毎におけるトルクの変化量を算出し、その変化量が一定とみなされる範囲となったときをスナグ点と判定することを特徴とする。
【0011】
本発明の回転角法による締付方法は、締付部品の微小回転角度に対するトルク値の変化を求め、その変化量が一定とみなされる範囲内となったとき、スナグ点を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予めスナグ点を求めるための多数の実験を行う必要がなく、さらには、摩擦係数が締め付け毎に異なるという影響を排除して締付作業を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る締付装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る回転角法による締付方法を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転角法による締付方法におけるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された範囲及びそれと均等な範囲にも及ぶことは説明するまでもない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る締付装置の構成図である。本発明の実施形態に係る締付装置1は、ねじやナットなどの締付部品2に回転力を付与して締め付けを行う駆動部11と、締付部品2の回転角度及びトルクを計測する検出部12と、検出部12からのデータを取り込む収集部13と、収集部13で取り込まれたデータからスナグ点を判定する判定部14とを備える。
【0016】
駆動部11は、締付部品2に当接したり冠着して締付部品2に回転力を与えるものである。締付部品2が頭部2aとねじ本体部2bとを有するボルトである場合には、駆動部11はボルト2の頭部2aを掴んで頭部2aを回転するものである。駆動部11には、図示しないスイッチなどが取り付けられ、スイッチがONになると駆動部11が締付部品2を回転し、判定部14から停止信号の入力があるとその回転を停止する。スイッチの代わりに回転を開始する信号の入力が駆動部11にあると回転を開始するようにしてもよい。
【0017】
検出部12はトルクセンサーと回転センサーとを備え、締付部品2に加わるトルク及び締付部品2の回転角度を計測する。センサーによる計測は例えば時間単位で行われる。
【0018】
収集部13は検出部12で計測したトルク及び回転角度のデータを任意の間隔でサンプリングして判定部14に出力するものである。
【0019】
判定部14は収集部13から出力されたトルク及び回転角度のサンプリングデータからスナグ点を判定する。判定部14は、サンプリングして入力されたトルクT、回転角度θのデータから一定の回転角度Δθに対するトルクTを順次求める。つまり、入力された回転角度θの変化を見ながら一定の回転角度Δθに対するトルクTの値の変化を求める。そのトルクTの値の変化が一定になったとき、スナグ点を判定する。詳細については後述する。判定部14はロジック回路で実現してもよいし、コンピュータで判定プログラムを実行することで実現してもよい。
【0020】
次に、本発明の実施形態に係る回転角法による締付方法について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る回転角法による締付方法を説明するための図である。図2において、横軸が回転角度、縦軸がトルクである。図2に示すグラフは、検出部12で測定した回転角度及びトルクの値をプロットして得られるものでもある。検出部12及び収集部13により回転角度とトルクの各値をサンプリングし、判定部14において一定の微小角度Δθに対するトルク値の変化ΔTの変化量を求める。スナグ点に近づくと微小トルク量ΔTの増加量が一定値になる。そこで、本発明に係る回転角法による締付方法では、微小トルク量ΔT、即ちトルクの変化量ΔTが一定になったときをスナグ点とし、そのときのトルクTの値をスナグトルクとする。
【0021】
以下、図1に示す締付装置1による締付方法を具体的に説明する。図3は、本発明の実施形態に係る回転角法による締付方法において、特に判定部14におけるフローを示す図である。
【0022】
図1に例示するように部材5a,5b同士を締付部品2で締め付けることを想定して具体的に説明すると、部材5a,5b同士を重ねて締付部品2を挿入する。この図では部材5bの下側にナット5cが固定されており、締付部品2が螺合することで締め付けされる。駆動部11のスイッチがONになると、駆動部11が駆動開始の信号の入力を受けると共に判定部14に対して判定開始の信号が入力される(STEP1)。すると、駆動部11が締付部品2を回転し始める。
【0023】
検出部12は、締付部品2の回転角度θと、駆動部11から締付部品2に加わるトルクTとを所定の時間間隔で計測する。収集部13はその計測データの入力を受ける。検出部12から回転角度θの最初の入力があると(STEP2でYes)、収集部13は、微小な一定の角度毎に対するトルクTを算出して判定部14に出力する(STEP3)。即ち、収集部13は、回転角度θ,θ(=θ+Δθ),・・・毎にトルク値T,T,・・・の入力があるので、その入力毎にトルク値の変化量ΔT(=T−T)、ΔT(=T−T)、・・・を求める。
【0024】
このトルク値の変化量が一定になったとき(STEP5でYes。なお、図3のSTEP5の誤差εはゼロとする。)スナグ点を通過したと判定し(STEP6)、そのときのトルク値Tをスナグトルクとする。判定部14は、スナグ点を通過したことを判定すると、そのときから締付部品2が所定の角度だけさらに回転するか否か判定し、所定の角度だけさらに回転したと判定すると、締付部品2に対して停止信号を出力する。なお、トルク値Tが入力される毎にSTEP4及びSTEP5がなされ、STEP5でNoの場合にはSTEP6でiを一つ繰り上げることになる。
【0025】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、締付け毎にスナグ点を判定するので、予備実験が不要となる。実際の締付部品2での締付作業毎にスナグ点を求めるので、確実に締め付け作業がなされたかの品質保持にも寄与する。締付作業毎に締付部品2の摩擦係数に違いがあってもその違いを加味してスナグ点を求めることができる。
【0026】
上述の説明では、微小な一定の回転角度Δθ毎に対するトルクの変化量ΔTが一定となる場合、つまり、ΔTとΔTi+1とが同じになったときのi番目をスナグ点としているが、測定誤差などを加味して、微小な一定の回転角度Δθ毎におけるトルク値の変化量が所定の範囲内にあれば(図3においてSTEP5のεがゼロでない場合)トルク値の増加量を一定とみなして、所定の範囲内となったときをスナグ点としてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1:締付装置
2:締付部品(ボルト)
2a:頭部
2b:ねじ本体部
5a,5b:部材
5c:ナット
11:駆動部
12:測定部
13:収集部
14:判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付部品を回転して締め付る駆動部と、上記締付部品に加えるトルク及び上記締付部品の回転角度を検出する検出部と、該検出部で検出した値からスナグ点を判定する判定部とを備え、
上記判定部が、上記締付部品の一定の回転角度毎におけるトルクの変化量を算出し、その変化量が一定とみなされる範囲となったときをスナグ点と判定する、締付装置。
【請求項2】
前記判定部は、スナグ点における回転角度から所定の角度だけ締付部品が回転したと判定すると、前記駆動部に対して前記締付部品の回転を停止する信号を出力する、請求項1に記載の締付装置。
【請求項3】
締付部品の微小回転角度に対するトルク値の変化を求め、その変化量が一定とみなされる範囲内となったとき、スナグ点を判定する、回転角法による締付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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