説明

締結具

【課題】首下長さを統一したボルトによって、間隔の異なる2部材間を確実に締結することができる締結具を提供する。
【解決手段】第1部材40に固定されたスリーブ20と、ボルト1と、ボルト1の雄ねじ部4と所定伝達トルクを超えたときに離脱可能に係合しており、ボルト1からの回転トルクを受けてスリーブ20の逆ねじ部22と螺合しつつ回転することにより第1部材40から離間した第2部材50に当たる位置まで移動する可動スペーサ10とからなる締結具である。可動スペーサ10の内周面には、ボルト1の雄ねじ部4と係合した際にトルク伝達機能とピッチずれ吸収機能とを発揮する弾性体層15を、ボルト1の雄ねじ部4との係合領域の全長にわたり形成されている。弾性体層15は樹脂または合成ゴム等よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離間した2部材を相互の間隔を維持しながら固定するための締結具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の技術分野において2部材を相互の間隔を維持しながら固定するための締結具が提案されている。例えば下記の特許文献1、2、3には、離間した2部材の一方である第1部材に溶接固定されたスリーブと、このスリーブと逆ねじによって螺合した可動スペーサと、可動スペーサに形成された雌ねじ部に螺合可能な雄ねじ部を軸部の先端に備えたボルトとから構成された締結具が開示されている。ボルトの雄ねじ部と可動スペーサとは、所定伝達トルクを超えたときに離脱可能に係合されている。
【0003】
これらの締結具は、第2部材側から可動スペーサ内に挿入されたボルトを回転させて可動スペーサを第2部材側に移動させ、可動スペーサが第2部材に当たった後はボルトの雄ねじ部を可動スペーサから離脱させ、第1部材側に形成された雌ねじ部に螺合させることによって、第1部材と第2部材とを相互の間隔を維持しながら固定する機能を有するものである。
【0004】
しかしこれらの従来の締結具においては必ず、ボルトの雄ねじ部を短くして可動スペーサの雌ねじ部から離脱させたうえ、第1部材側の雌ねじ部に螺合させる構造としなければならなかった。これはボルトの雄ねじ部を長くして可動スペーサの雌ねじ部と第1部材側の雌ねじ部とに同時に螺合させると、双方の雌ねじ部間でピッチずれを起こし、ねじ山を破壊したり、締付け不能となる可能性が高いためである。従ってボルトの雄ねじ部は短くしておく必要があった。
【0005】
しかし、ボルトの雄ねじ部の長さを短くすると適応可能な板厚範囲が狭くなり、例えば自動車の車種ごとに首下長さの異なるボルトを用いる必要がある。その結果、首下長さ違いのボルトの種類が増加し、コストダウンを図るうえで障害となっていた。
【特許文献1】特開2002−347656号公報
【特許文献2】特表2004−505218号公報
【特許文献3】特開2005−61613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の課題を解決するためになされたものであり、ボルトの雄ねじ部を長くしてもピッチずれによるトラブルが発生せず、首下長さと雄ねじ部の長さを統一したボルトによって間隔の異なる2部材間を確実に締結することができる締結具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の締結具は、内周面に逆ねじ部が形成され、第1部材に固定されたスリーブと、軸部の先端側に雄ねじ部が形成されたボルトと、このボルトの雄ねじ部と所定伝達トルクを超えたときに離脱可能に係合しており、ボルトからの回転トルクを受けて前記スリーブの逆ねじ部と螺合しつつ回転することにより第1部材から離間した第2部材に当たる位置まで移動する可動スペーサとからなる締結具において、可動スペーサの内周面に、ボルトの雄ねじ部と係合した際にトルク伝達機能とピッチずれ吸収機能とを発揮する弾性体層を形成したことを特徴とするものである。
【0008】
なお、可動スペーサの内周面の弾性体層は、エラストマー、ポリアミド(商標名ナイロン)、ポリプロピレン(PP)等の弾性を有するうえに雄ねじ部が螺合でき、且つトルクの伝達ができる樹脂または合成ゴムよりなることが好ましい。また、可動スペーサの内周面の弾性体層が、ボルトの雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を備えたものとしたり、可動スペーサの内周面の弾性体層にボルトを通すことで雌ねじ部を形成するものとしたり、可動スペーサの内周面の弾性体層を、周方向に複数に分割されたものとしたり、スリーブの上面に、可動スペーサの回り止めストッパを突設するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の締結具は、離間した第1部材と第2部材とを相互の間隔を維持しながら固定するために用いられるものであり、使用に際しては可動スペーサの内周面にボルトの雄ねじ部を螺合させて可動スペーサにトルクを伝達して回転させ、スリーブの逆ねじにより可動スペーサを第2部材に当たる位置まで移動させる。この状態となると可動スペーサはそれ以上回転できなくなるため、ボルトの雄ねじ部は可動スペーサから離脱して前進し、第1部材側に螺合されて第1部材と第2部材とを固定することは従来と同様である。
【0010】
しかし本発明に係る締結具は、可動スペーサの内周面に、ボルトの雄ねじ部と螺合した際にトルク伝達機能とピッチずれ吸収機能とを発揮する弾性体層を形成してあるため、ボルトの雄ねじ部を可動スペーサの弾性体層と第1部材側とに同時に螺合させてもピッチずれを起こすことがない。このためボルトの雄ねじ部の長さを従来のように短くしておく必要がなくなる。従って、ボルトの雄ねじ部を長めに設定しておけば、第1部材と第2部材との間隔が広い場合は勿論、狭い場合でも同じ長さの雄ねじ部を有するボルトで締め付けができるので、首下長さの異なる多種類のボルトを製造しなくてすみ、コストダウンを図ることができる。
【0011】
また請求項2のように、可動スペーサの内周面の弾性体層を、エラストマー、ポリアミド(商標名ナイロン)、ポリプロピレン(PP)等の弾性を有するうえに雄ねじ部が螺合でき、且つトルクの伝達ができる樹脂または合成ゴムよりなるものとすることにより、トルク伝達機能とピッチずれ吸収機能を簡単に付与することができる。
【0012】
また請求項5のように可動スペーサの内周面の弾性体層を、周方向に複数に分割されたものとすることにより、トルク伝達力やピッチずれ吸収力をより細かく微調整することができる。さらに、請求項6のようにスリーブの上面に可動スペーサの回り止めストッパを突設しておけば、輸送中の振動回転による脱落を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施形態)
図1から図10は本発明の第1の実施形態を示すもので、この実施形態の締結具は、金属製のボルト1と金属製の可動スペーサ10と樹脂製のスリーブ20と第1部材40の裏面に溶接される金属製のナット31とから構成されている。ボルト1は、頭部2と円柱状軸部3とその先端側に形成された正ねじの雄ねじ部4とからなる。なお、雄ねじ部4の先端側には雄ねじ部4の谷径よりも細い棒先部5を形成して可動スペーサ10やナット31の雌ねじ部への螺挿が容易となるようにしてある。
【0014】
また、20aはスリーブ20の上面に形成される可動スペーサ10の角型頭部に弾性係止する回り止めストッパであり、該回り止めストッパ20aは可動スペーサ10をスリーブ20に螺挿して輸送する際、輸送中の振動等により可動スペーサ10が回動して弛みスリーブ20から離脱することを防止するためのものである。
【0015】
可動スペーサ10の内周面には、ボルト1の雄ねじ部4と係合した際にトルク伝達機能とピッチずれ吸収機能とを発揮する弾性体層15を、可動スペーサ10の全長にわたり形成してある。この弾性体層15は可動スペーサ10の本体とは別の材質よりなるエラストマー、ポリアミド(商標名ナイロン)、ポリプロピレン(PP)樹脂等の弾性を有するうえに雄ねじ部4が螺挿でき、且つボルト1のトルクの伝達ができる樹脂または合成ゴムよりなるものとし、トルク伝達機能とピッチずれ吸収機能とを備えている。トルク伝達機能は、ボルト1の回転トルクを弾性体層15の摩擦力を利用して可動スペーサ10に伝達する機能である。またピッチずれ吸収機能は、ボルト1の雄ねじ部4が可動スペーサ10の弾性体層15の内周面と金属製のナット31とに同時に螺合された際に生じるピッチずれを、弾性体層15を変形させることにより吸収する機能である。なお、弾性体層15の内周面はボルト1の雄ねじ部4がねじ込まれることにより雌ねじ部が形成されるものとしているが、弾性体層15の内周面に予め雄ねじ部4が螺挿される雌ねじ部を形成しておいてもよいことはいうまでもない。
【0016】
この実施形態の可動スペーサ10は、円筒部11とその一方の端部の外周側縁から外方へ延びた略六角形の板状部13とからなり、円筒部11の外周面には、逆ねじ部12が形成されている。この実施形態では、可動スペーサ10の内周面は図1、図3に示されるように、軸線方向の切欠15aを介して周方向に複数に分割された断面半円柱状のものである。このようにすることにより材質特有の弾性や摩擦力をさらに細かく設定することができるものとなる。
【0017】
樹脂成形されたスリーブ20は六角柱形であり、その内部には金属製のナット14が入っている。ナット14の内周面には、可動スペーサ10の円筒部11外周面に形成された雄ねじ部12と螺合可能な逆ねじ部22が形成されている。また、スリーブ20の六角柱の120°間隔の各側面の下端には、略三角形をした板状部23が設けられている。この板状部23に第1部材40の孔にスリーブ20を係止させるクリップ30が取り付けられている。
【0018】
次に図6〜10を参照しながら、上記の締結具を使用して第1部材40と第2部材50とを、相互の間隔を維持しながら固定する方法を説明する。第1部材40は例えば自動車のサイドプレートであり、第2部材50は例えば自動車のフロントピラーである。また、ボルト1の雄ねじ部4の長さは第1部材40に溶接されたナット31と第2部材50に当接した可動スペーサ10間の距離より長くなっている。
【0019】
図6に示されるように、まずスリーブ20を第1部材40にクリップ30を介して取り付ける。具体的には、第1部材40に穿設された貫通孔41にスリーブ20のクリップ30を嵌挿係止して両部材を固定する。初期状態では、スリーブ20の上端に可動スペーサ10の板状部13が当接するまで、可動スペーサ10をスリーブ20のナット14に完全に螺合させておく。
【0020】
次いで、第2部材50に穿設された貫通孔51に、第1部材40の反対側からボルト1を挿入する。そして、図7に示されるように、ボルト1の雄ねじ部4を可動スペーサ10の内周面に挿し込み、ボルト1を正ねじ込み方向(時計回り方向)にねじ込めば、可動スペーサ10のトルク伝達機能とピッチずれ吸収機能を有する弾性体層15とボルト1の雄ねじ部4間には摩擦力が働き、ボルト1の回転トルクは可動スペーサ10に伝達されるので、ボルト1と可動スペーサ10とが一体となって正方向に回転することになる。
【0021】
この可動スペーサ10の回転により、スリーブ20のナット14に逆ねじを介して螺合されている可動スペーサ10は、図8に示されるようにその板状部13が第2部材50に当接するまで移動する。図8の位置に至ると、可動スペーサ10はそれ以上回転できなくなるので、ボルト1に更にトルクを加えるとボルト1のみが回転しつつ前進し、図9に示されるようにボルト1の雄ねじ部4は第1部材40に溶接されたナット31に螺合されることとなる。このときボルト1の雄ねじ部4は弾性体層15の内周面に形成された雌ねじ部と螺合しているが、弾性体層15のピッチずれ吸収機能、すなわち弾性体層15の弾性変形によりピッチずれが吸収されるため、支障なく螺合させることができる。
【0022】
すなわち、ボルト1の雄ねじ部4の先端ピッチが金属製のナット31の雌ねじ部のピッチに少しでも螺挿すれば、弾性体層15は弾性変形してボルト1の雄ねじ部4とナット31のピッチに自動的に合わせられることとなり、図10に示されるようにボルト1の雄ねじ部4はさらに前進して第1部材40に溶接されたナット31のみに螺着され、第2部材50に対して一定の間隔を保持しつつ第1部材40を強固に取り付けることができる。
【0023】
以上に説明したように、本発明の締結具は可動スペーサ10の内周面に、ボルト1の雄ねじ部4と係合した際にトルク伝達機能とピッチずれ吸収機能とを発揮する弾性体層15を形成したので、可動スペーサ10の内周面とナット31の雌ねじ部とのピッチずれの有無に拘わらず、ボルト1をナット31の雌ねじ部に的確に螺着できる。このため、第1部材50と第2部材40との間隔が小さく、ボルト1の雄ねじ部4の長さが可動スペーサ10の下端とナット31の上端間の距離より長くても支障はない。もちろん、第1部材50と第2部材40との間隔が大きい場合にも、同じ首下長さのボルト1で固定することができる。
【0024】
(第2の実施形態)
上記した第1の実施形態では、スリーブ20内に可動スペーサ10が収容された状態で両者が螺合するようにしたが、図11に示す第2の実施形態では、可動スペーサ10の径をスリーブ20の径よりも大きくし、可動スペーサ10内にスリーブ20が収容された状態で両者が螺合するようにしたものである。
【0025】
可動スペーサ10は円筒部11とその一方の開口部を塞ぐように設けられた板状部13とから構成されており、円筒部11の内周面には雌ねじ部16が形成されている。板状部13の中心孔の内周面には弾性体層15が形成されている。弾性体層15は第1の実施形態と同じくエラストマー、ポリアミド(商標名ナイロン)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂または合成ゴムよりなるものとし、トルク伝達機能とピッチずれ吸収機能を有するものである。
【0026】
またスリーブ20は可動スペーサ10の円筒部11の内径と略等しい外径を有し、該円筒部11よりも僅かに長い円筒部21を備えている。そして、該円筒部21の外周面には、可動スペーサ10の円筒部11内周面に形成された雌ねじ部16と螺合可能な雄ねじ部26が形成され、円筒部21の中心部には円筒部21の内径よりもさらに小径のねじ孔24が穿設されている。そして、該ねじ孔24にはボルト1の雄ねじ部4に螺合可能な雌ねじ部25が形成されている。この雌ねじ部25はボルト1の雄ねじ部4に対応する通常のねじ山形状を持つ。
【0027】
この第2の実施形態の締結具は、スリーブ20を図示しない第1部材に固定し、このスリーブ20に逆ねじによって螺合している可動スペーサ10の弾性体層15にボルト1を螺合させ、可動スペーサ10にボルト1の回転トルクを与えて回転させる。この回転にともなって、前記第1の実施形態と同様ボルト1と可動スペーサ10とは一体となって後退移動し、可動スペーサ10が第2部材に当接して停止すると、摩擦力を超える回転トルクによりボルト1は正方向の回転に従って前進移動し、ボルト1の雄ねじ部4はスリーブ20の雌ねじ部25に螺合される。この結果、第2部材に対して一定の間隔を保持しつつ第1部材を強固に取り付けられることとなる。このように、第1部材側の雌ねじ部はスリーブ20に形成しておくこともできる。
【0028】
以上に説明したように、本発明によればボルトの雄ねじ部を長くしてもピッチずれによるトラブルが発生せず、首下長さと雄ねじ部の長さを統一したボルトによって間隔の異なる2部材間を確実に締結することができ、コストダウンを図ることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施形態の締結具を分解して示す斜視図である。
【図2】可動スペーサとスリーブとを螺合させた搬送状態を示す断面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】可動スペーサの平面図である。
【図5】同じく一部切欠正面図である。
【図6】第1の実施形態の締結具による締結の初期段階を示す断面図である。
【図7】ボルトの回転により、可動スペーサが移動する状態を示す断面図である。
【図8】可動スペーサが第2部材に当接した状態を示す断面図である。
【図9】ボルトの雄ねじ部が可動スペーサの雌ねじ部とナットの雌ねじ部に螺合した状態を示す断面図である。
【図10】締結の完了状態を示す断面図である。
【図11】第2の実施形態の締結具を分解して示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ボルト
2 頭部
3 円柱状軸部
4 雄ねじ部
5 棒先部
10 可動スペーサ
11 円筒部
12 雄ねじ部
13 板状部
14 ナット
15 弾性体層
16 雌ねじ部
20 スリーブ
21 円筒部
22 逆ねじ部
23 板状部
24 ねじ孔
25 雌ねじ部
30 クリップ
31 ナット
40 第1部材
41 貫通孔
50 第2部材
51 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に逆ねじ部が形成され、第1部材に固定されたスリーブと、軸部の先端側に雄ねじ部が形成されたボルトと、このボルトの雄ねじ部と所定伝達トルクを超えたときに離脱可能に係合しており、ボルトからの回転トルクを受けて前記スリーブの逆ねじ部と螺合しつつ回転することにより第1部材から離間した第2部材に当たる位置まで移動する可動スペーサとからなる締結具において、可動スペーサの内周面に、ボルトの雄ねじ部と係合した際にトルク伝達機能とピッチずれ吸収機能とを発揮する弾性体層を形成したことを特徴とする締結具。
【請求項2】
可動スペーサの内周面の弾性体層が樹脂または合成ゴムよりなることを特徴とする請求項1に記載の締結具。
【請求項3】
可動スペーサの内周面の弾性体層が、ボルトの雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を備えたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の締結具。
【請求項4】
可動スペーサの内周面の弾性体層にボルトを通すことで雌ねじ部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の締結具。
【請求項5】
可動スペーサの内周面の弾性体層が、周方向に複数に分割されたものであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の締結具。
【請求項6】
スリーブの上面に、可動スペーサの回り止めストッパを突設したことを特徴とする請求項1記載の締結具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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