説明

締結構造

【課題】圧縮機の駆動軸の小径部位における応力集中を抑制する。
【解決手段】車両用空調装置用の圧縮機1の駆動軸8と、これが内嵌される電磁クラッチのアーマチュアボス151とを互いに締結する締結構造として、アーマチュアボスの他端部151bと駆動軸8の径方向膨出部8bとが圧入嵌合する圧入部32と、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の回転を規制するスプライン嵌合部31とを備える。径方向膨出部8bの外径は15mm以下である。圧入部32の圧入代aはa=(圧入嵌合前の径方向膨出部8bの外径)−(圧入嵌合前のアーマチュアボスの他端部151bの内径)で表される式で定義され、圧入部32の軸方向の長さが圧入長さbとして定義される。また0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように圧入部32の圧入条件が設定される。スプライン嵌合部31は軸回りに所定のガタ量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機の駆動軸と、外部駆動源により回転駆動される回転体と、を互いに締結する締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する空調用圧縮機の駆動軸と、この駆動軸が内嵌されるボス部(円筒部)を有して外部駆動源により回転駆動される電磁クラッチのアーマチュア(回転体)と、を互いに締結する締結構造を開示している。この締結構造では、アーマチュアのボス部の一端部と駆動軸の先端部とがスプライン嵌合している。また、アーマチュアのボス部の他端部と駆動軸のスプラインに隣接する部位とが圧入嵌合している。そして、外部駆動源から電磁クラッチに伝達された回転動力が、アーマチュアのボス部から上述のスプライン嵌合を介して駆動軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−90565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のようないわゆる開放型の圧縮機には、その駆動軸に軸封シールが用いられるのが一般的である。軸封シールは、圧縮機内部の冷媒を外気に漏らさないための部品であり、それゆえ、軸封シールと駆動軸とは接触して接触部(軸封シール部)を形成している。しかしながら、この軸封シール部では、駆動軸の回転の抵抗となる摺動抵抗が発生するため、これが圧縮機の効率低下要因の1つになっている。
【0005】
この軸封シール部での摺動抵抗を低減するためには、軸封シールと接触する駆動軸の速度(=角速度×外径/2)を低減することが有益であり、このためには、駆動軸の外径(シャフト径)を小径化することが有効である。図7は、空調用圧縮機の通常運転時における軸封シール部での摺動抵抗と駆動軸の外径との関係を示している。図7に示すように、駆動軸の外径が大きくなるほど、軸封シール部における摺動抵抗が増加する。従って、駆動軸を小径化することにより、軸封シール部における摺動抵抗を低減することが可能である。
【0006】
しかしながら、駆動軸の強度は駆動軸の外径に大きく依存しており、駆動軸の外径が小さくなるほど、駆動軸に発生する応力が増加する傾向がある。図8は、空調用圧縮機の市場使用条件における負荷を駆動軸にかけた際に駆動軸に発生するせん断応力と駆動軸の外径との関係を示している。ここで、図中の実線は試算値を示す一方、一点鎖線は、駆動軸の外径が15mm〜19mmである場合の試算値に対する近似直線を示す。図8に示すように、駆動軸の外径が小さくなるほど、駆動軸に発生するせん断応力が非線形に増加する。特に、駆動軸の外径が15mm以下になると、駆動軸にて発生するせん断応力が急激に増加する。
【0007】
また、特許文献1に記載のような圧縮機では、量産性の都合上、部品組付時に軸封シールを駆動軸の先端側から挿入することが望ましい。また、軸封シールの挿入時にそのシール面を傷付けないようにするために、駆動軸の外径については、そのスプラインの外径を、上述の圧入嵌合部(圧入部)及び軸封シール部での外径よりも小さく設計する必要がある。このため、駆動軸のスプラインの溝底では更に小径になるので、特に圧入部での駆動軸の外径が15mm以下となる場合には、スプラインの溝底にて過大な応力集中が発生するおそれがあった。
【0008】
従って、圧縮機の軸封シール部における摺動抵抗を低減するために駆動軸の小径化を行って、特許文献1に記載のような締結構造において、圧入部での駆動軸の外径が15mm以下になると、動力伝達を行う駆動軸のスプラインにて過大な応力集中が発生し得るので、駆動軸が強度不足となる可能性があった。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑み、圧縮機の駆動軸の小径化による駆動軸の強度低下を抑制しつつ、アーマチュア等の回転体からの回転動力を駆動軸に効率良く伝達することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため本発明では、吸入した作動流体を圧縮して吐出する圧縮機の駆動軸と、この駆動軸が内嵌される円筒部を有して外部駆動源により回転駆動される回転体と、を互いに締結する締結構造として、回転体の円筒部と駆動軸とが圧入嵌合する圧入部と、駆動軸に対する回転体の円筒部の回転を規制する回転止め部とを備える。また、駆動軸は、その外径が、圧入部にて15mm以下である。そして、圧入部における圧入代a[mm]が、a[mm]=(圧入嵌合前の駆動軸の外径[mm])−(圧入嵌合前の回転体の円筒部の内径[mm])で表される式により定義され、圧入部の軸方向の長さが圧入長さb[mm]として定義され、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように、圧入部における圧入条件が設定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動軸の外径は、圧入部にて15mm以下であり、圧入部における圧入条件が、圧入代a[mm]及び圧入長さb[mm]に関して、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように設定される。これにより、圧入部における駆動軸の外径が15mm以下であっても、回転体から駆動軸への動力伝達が主に圧入部を介して行われるので、回転止め部に発生する応力を低減することができ、ひいては、駆動軸の小径化による駆動軸の強度低下を抑制することができる。
【0012】
また本発明によれば、回転止め部が、駆動軸に対する回転体の円筒部の回転を規制する。これにより、駆動軸に対する回転体の円筒部の周方向での滑りが制限されるので、回転体から駆動軸への動力伝達を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における圧縮機の概略構成を示す図
【図2】図1の部分Aの拡大図
【図3】圧入代と圧入長さと設計許容領域との関係を示す図
【図4】圧入代と疲労強度との関係を示す図
【図5】回転体と駆動軸との締結部に関する疲労試験の結果を示す図
【図6】駆動軸に対する回転体の揺動の繰返し回数と滑り振幅との関係を示す図
【図7】軸封シール部での摺動抵抗と駆動軸の外径との関係を示す図
【図8】駆動軸に発生するせん断応力と駆動軸の外径との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態における圧縮機の概略構成を示す。
圧縮機1は、車両用空調装置に用いられる電磁クラッチ仕様の開放型可変容量圧縮機である。
【0015】
圧縮機1は、複数のシリンダボア2を備えたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の一端に設けられたフロントハウジング4と、シリンダブロック3に弁板装置5を介して設けられたリアハウジング6とを備えている。シリンダブロック3と、フロントハウジング4とによって区画形成されるクランク室7内を横断して、圧縮機1の駆動軸8が設けられている。駆動軸8の長手方向中央部の周囲には、円板状の斜板9が配置されている。斜板9は、駆動軸8に固着されたロータ10にリンク機構11を介して傾斜角可変に結合されている。
【0016】
駆動軸8の一端(先端)は、フロントハウジング4の外側に突出したボス部4a内を貫通して、外側まで延在している。ボス部4aの周囲にはアンギュラベアリング12を介して電磁クラッチ13が設けられている。
【0017】
電磁クラッチ13は、フロントハウジング4のボス部4aにアンギュラベアリング12を介して回転可能に支持された磁性材料製のロータ14と、このロータ14内に収容されて通電によりロータ14を磁化させる電磁石装置14aと、ロータ14に対向して配置され、磁化されたロータ14に吸着されるアーマチュア(回転体)15と、を備えている。また、アーマチュア15は、その中央に、駆動軸8の先端が内嵌されるアーマチュアボス151を有する。このアーマチュアボス151は、駆動軸8の先端が配置される側の端部が閉口した有底円筒状を有しており、本発明における回転体の円筒部に対応する。駆動軸8の先端は、ボルト16等の固定部材を介してアーマチュアボス151に締結固定されている。この締結固定の詳細については、図2を用いて後述する。
【0018】
電磁クラッチ13のロータ14と、図示しない外部駆動源(例えば車両用エンジン)の出力軸に予め設けられたプーリとには、図示しない無端ベルトが巻き掛けられている。従って、外部駆動源からの回転動力が、無端ベルトを介して、電磁クラッチ13のロータ14に伝達される。
【0019】
駆動軸8とボス部4aとの間には軸封シール17が挿入されており、この挿入箇所にて、軸封シール17が圧縮機の内部と外部とを遮断している。換言すれば、軸封シール17は、駆動軸8とボス部4aとの間に介装されて、駆動軸8の周囲を密封している。軸封シール17は、例えば、駆動軸8の外周面に接触するリップシール(図示せず)と、このリップシールをボス部4aに保持する保持金具(図示せず)とを備える。
【0020】
駆動軸8の他端(基端)は、シリンダブロック3内にあり、ベアリング18によって支持されている。また、駆動軸8とフロントハウジング4との間にはベアリング19が介装されており、このベアリング19によって駆動軸8のフロントハウジング4側部分が支持されている。また、ロータ10とフロントハウジング4との間にはスラストベアリング20が介装されている。
【0021】
シリンダボア2内には、ピストン21が配置され、ピストン21のブリッジ部21a内には、斜板9の外周部の周囲が収容され、シュー22を介して、ピストン21と斜板9とが互いに連動する構成となっている。
【0022】
リアハウジング6内には、吸入室23及び吐出室24が区画形成されている。吸入室23とシリンダボア2とは、弁板装置5に設けられた吸入弁(図示せず)と吸入孔(図示せず)を介して連通している。吐出室24とシリンダボア2とは、弁板装置5に設けられた吐出弁(図示せず)と吐出孔25を介して連通している。
【0023】
シリンダボア2内を往復運動するピストン21は、吸入室23から吸入した作動流体である冷媒(例えば冷媒ガス)を圧縮して吐出室24に吐出する。従って、車両用空調装置を構成する圧縮機1は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する機能を有する。
【0024】
フロントハウジング4とシリンダブロック3との接合部には、ガスケット26が介装されている。また、弁板装置5とシリンダブロック3及びリアハウジング6との接合部には、それぞれ、ガスケット27,28が介装されている。
【0025】
従って、圧縮機1では、回転駆動される駆動軸8に斜板9を結合し、往復動可能な各ピストン21のブリッジ部21a内にて2個一対で保持されたシュー22を斜板9の軸方向両面に摺接させ、これにより斜板9の回転運動をピストン21の往復運動に変換している。
【0026】
次に、駆動軸8の先端とアーマチュアボス151との締結固定について、図2を用いて説明する。
図2は、図1の部分Aの拡大図である。
【0027】
駆動軸8の先端部8aには、その外周面に軸回りに凹凸状のスプラインが形成されている。駆動軸8のうち先端部8aに隣接する部位には、径方向に膨出する径方向膨出部8bが形成されている。
【0028】
アーマチュアボス151の一端部151aは、その内周面に、駆動軸8の先端部8aのスプラインに噛合するようにスプラインが形成されている。また、アーマチュアボス151の他端部151bは一端部151aに隣接しており、一端部151aよりも大径の円筒空間を有する。ここで、組付前(圧入嵌合前)の駆動軸8の径方向膨出部8bの外径をD1とし、組付前(圧入嵌合前)のアーマチュアボス151の他端部151bの内径をD2とすると、D1とD2とは、D1>D2の関係を満たしている。
【0029】
駆動軸8の先端部8aとアーマチュアボス151の一端部151aとは、各々のスプラインにて噛合して、スプライン嵌合部31を形成する。ここにおいて、このスプライン嵌合部31が、本発明における回転止め部として機能して、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の回転を規制する。
【0030】
駆動軸8の径方向膨出部8bとアーマチュアボス151の他端部151bとは、上述のD1>D2の関係により圧入嵌合して圧入部32を形成する。
ここで、圧入部32における圧入代a[mm]は、以下の式により定義される。
a[mm]=D1[mm]−D2[mm]
【0031】
また、圧入部32の軸方向の長さが圧入長さb[mm]として定義される。なお、本実施形態では、スプライン嵌合部31の軸方向の長さcを圧入長さbよりも長くしているが、これらの長短の関係はこれに限らず、スプライン嵌合部31の回転止め機能が十分に確保される範囲で、スプライン嵌合部31の軸方向の長さcを変更することが可能である。
【0032】
駆動軸8の先端部8aには、ボルト16が螺合する雌ねじ部(図示せず)が形成されている。また、アーマチュアボス151の一端部151bの閉口部には、ボルト16の雄ねじ部が貫通可能な貫通孔(図示せず)が形成されている。そして、ボルト16が、アーマチュアボス151の貫通孔を介して駆動軸8の先端部8aに螺合することにより、駆動軸8とアーマチュアボス151とがボルト締結される。
【0033】
従って、本実施形態における駆動軸8とアーマチュアボス151との締結構造では、圧入部32における圧入嵌合と、スプライン嵌合部31におけるスプライン嵌合と、ボルト16によるボルト締結とによって、駆動軸8とアーマチュアボス151とが締結固定されている。
【0034】
従って、電磁クラッチ13のロータ14が磁化されてアーマチュア15がロータ14に吸着されている場合には、外部駆動源からの回転動力が、無端ベルト及び電磁クラッチ13のロータ14を介してアーマチュア15(アーマチュアボス151)に伝達され、この回転動力が、更に上述の締結構造を介して圧縮機1の駆動軸8に伝達される。
【0035】
ところで、本実施形態では、軸封シール17と駆動軸8とが接触する軸封シール部での摺動抵抗を低減するために、駆動軸8の小径化を行って、圧入部32での駆動軸8の外径(すなわち、径方向膨出部8bの外径)を15mm以下とする。この際、駆動軸8の先端部8aのスプラインでの過大な応力集中を抑制するために、圧入部32における圧入代a及び圧入長さbを以下のように設定することにより、アーマチュアボス151から駆動軸8への動力伝達を主に圧入部32を介して行うことで、スプライン嵌合部31にて発生する応力を低減する。
【0036】
図3は、上記締結構造の耐久性試験の結果を示しており、圧入部32における圧入代aと圧入長さbと設計許容領域との関係を示す。なお、この耐久性試験では、クロムモリブデン鋼製の駆動軸8と、機械構造用炭素鋼(S45C)製のアーマチュア15(アーマチュアボス151)と、を用いた。また、駆動軸8の径方向膨出部8bの外径は12.7mmであった。また、この耐久性試験では、±35N・mの負荷トルクの条件下で圧縮機1を所定時間運転して、上記締結構造の破壊の有無を調査した。
【0037】
図3に示すように、圧入代a=3[μm](0.003[mm])であり、かつ、圧入長さb=2[mm]である場合には上記締結構造が破壊した。この場合において、a×b[mm]=0.006[mm]である。
【0038】
これに対し、圧入代a=6[μm](0.006[mm])であり、かつ、圧入長さb=2[mm]である場合には上記締結構造が破壊しない。この場合において、a×b[mm]=0.012[mm]である。
【0039】
また、圧入代a=3[μm](0.003[mm])であり、かつ、圧入長さb=4[mm]である場合には上記締結構造が破壊しない。この場合において、a×b[mm]=0.012[mm]である。
【0040】
従って、a×b[mm]に関しては、0.006[mm]と0.012[mm]との間の0.01[mm]近傍に上記締結構造が破壊するか否かの閾値が存在することになる。換言すれば、a×b[mm]に関しては、0.006[mm]と0.012[mm]との間の0.01[mm]近傍に、締結機能の機能発現限界(下限値)が存在することがわかる。
【0041】
従って、本実施形態では、圧入部32における圧入条件が、以下の式(1)を満たすように設定される。
a×b[mm]≧0.01[mm] ・・・(1)
【0042】
図4は、上記締結構造の疲労強度試験の結果を示しており、圧入部32における圧入長さbを8[mm]としたときの圧入代aと上記締結構造の疲労強度との関係を示す。なお、この疲労強度試験において、駆動軸8及びアーマチュア15(アーマチュアボス151)の材料と、駆動軸8の径方向膨出部8bの外径とは、上述の図3における耐久性試験と同様であった。
【0043】
図4に示すように、圧入代aが0[μm]よりわずかに大きくなると(すなわち、少しでも圧入嵌合になると)、上記締結構造の疲労強度は圧入代a=0[μm]のときに比べて約5倍以上になる。そして、圧入代aが大きくなるほど、上記締結構造の疲労強度は向上し続けるが、圧入代a=10[μm]程度になると、その後は圧入代a=50[μm]程度まで、上記締結構造の疲労強度が圧入代a=0[μm]のときに比べて約8倍程度で頭打ちとなる。つまり、圧入代a=50[μm](0.050[mm])であり、かつ、圧入長さb=8[mm]である場合には、a×b[mm]は0.400[mm]であり、この状況より更にa×b[mm]を大きくしても、上記締結構造の疲労強度が向上する可能性は低い。
【0044】
また、圧入長さbが長くなるほど、アーマチュアボス151の長手方向の長さを延ばす必要があり、この結果、材料コストが増大する。また、圧入長さbが長くなるほど、圧入工程での作業性が低下し、ライン生産上での工数増加を引き起こす可能性がある。
【0045】
更に、圧入代aが過大に大きくなると、アーマチュアボス151や駆動軸8に作用する応力がこれらの材料強度を超えてしまうため、材料の引張り強度以下となる圧入代aを設定する必要がある。
【0046】
従って、a×b[mm]が0.40[mm]より大きくなるような圧入代aと圧入長さbとの組み合わせは、製品価値=機能/コストという観点からは、製品価値の低下につながってしまう。
【0047】
従って、本実施形態では、圧入部32における圧入条件が、以下の式(2)を満たすように設定される。
a×b[mm]≦0.40[mm] ・・・(2)
【0048】
上述の式(1)及び式(2)をまとめると、以下の式(3)になる。
0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]・・・(3)
従って、本実施形態では、圧入部32における圧入条件が、圧入代a[mm]及び圧入長さb[mm]に関して、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように設定される。なお、この圧入条件は、図3に示す設計許容領域に対応している。
【0049】
図5は、式(3)で表される圧入条件でのアーマチュアボス151と駆動軸8との締結部に関する疲労試験の結果(すなわち、上記締結構造のS−N曲線)を示す。詳しくは、圧入部32における圧入長さbを8[mm]としたときの圧入代aと応力振幅と上記締結構造が破壊に至るまでの繰返し回数との関係を示す。なお、この疲労試験において、駆動軸8及びアーマチュア15(アーマチュアボス151)の材料と、駆動軸8の径方向膨出部8bの外径とは、上述の図3における耐久性試験と同様であった。
【0050】
図5に示すように、上述の締結構造において、圧入部32における圧入条件が、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たしている場合には(すなわち、3[μm]≦a[μm]≦48[μm]、かつ、b=8[mm]を満たしている場合には)、アーマチュアボス151から駆動軸8への動力伝達が主に圧入部32を介して行われるので、スプラインの溝底での応力集中が比較的発生し難く、この結果、繰返し回数=10回における応力振幅が比較的大きくなる。
【0051】
これに対し、図5に示すように、上述の締結構造において、圧入部32が省略されて、スプライン嵌合部31のみが動力伝達を行う構成である場合には、アーマチュアボス151から駆動軸8への動力伝達がスプライン嵌合部31を介して行われるので、スプラインの溝底での応力集中が比較的発生し易く、この結果、繰返し回数=10回における応力振幅が比較的小さくなる。
【0052】
すなわち、圧入部32における圧入条件が、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように設定されることにより、アーマチュアボス151から駆動軸8への動力伝達が主に圧入部32を介して行われるので、スプライン嵌合部31で発生する応力を抑制することができ、ひいては、駆動軸8の疲労強度を向上させることができる。
【0053】
なお、図3〜図5に示した各試験では、駆動軸8の径方向膨出部8bの外径が15mm以下である場合の一例として、外径12.7mmのものを用いたが、外径12.7mm以外のものであっても、駆動軸8の径方向膨出部8bの外径が15mm以下である場合において、圧入部32における圧入条件が、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように設定されることにより、アーマチュアボス151から駆動軸8への動力伝達が主に圧入部32を介して行われるので、スプライン嵌合部31で発生する応力を抑制することができ、ひいては、駆動軸8の疲労強度を向上させることができる。
【0054】
図2に戻り、本実施形態では、スプライン嵌合部31において、軸回りに所定のガタ量(遊び量)を有している。ここで、所定のガタ量とは、後述する圧入部締結力の自己増加現象を得ることができる程度のガタ量であり、予め設定されたものである。
【0055】
圧入部締結力の自己増加現象について、図6を用いて説明する。
図6は、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の周方向での揺動の繰返し回数と滑り振幅との関係を示す。ここで、滑り振幅とは、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の周方向での移動振幅を意味する。
【0056】
図6に示すように、揺動の繰返し回数が増加するほど、滑り振幅は減少する。これは、圧入部32にて駆動軸8の外周面をアーマチュアボス151の内周面が接触しつつ摺動することにより互いに凝着し、この結果、圧入部32における摩擦係数が増大するからである。この摩擦係数の増大により滑り振幅が減少して(すなわち、滑りが抑制されて)圧入部32での締結力が増大する現象が、圧入部締結力の自己増加現象である。この圧入部締結力の自己増加現象を得ることができる程度のガタ量が、本発明における所定のガタ量として予め設定される。
【0057】
本実施形態によれば、吸入した冷媒を圧縮して吐出する圧縮機1の駆動軸8と、この駆動軸8が内嵌されるアーマチュアボス(円筒部)151を有して外部駆動源により回転駆動されるアーマチュア(回転体)15と、を互いに締結する締結構造として、アーマチュアボス151と駆動軸8とが圧入嵌合する圧入部32と、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の回転を規制するスプライン嵌合部(回転止め部)31とを備える。また、駆動軸8は、その外径が、圧入部32にて15mm以下である(換言すれば、駆動軸8の径方向膨出部8bは、その外径が15mm以下である)。そして、圧入部32における圧入代a[mm]が、a[mm]=(圧入嵌合前の駆動軸8の径方向膨出部8bの外径D1[mm])−(圧入嵌合前のアーマチュアボス151の他端部151bの内径D2[mm])で表される式により定義され、圧入部32の軸方向の長さが圧入長さb[mm]として定義され、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように、圧入部32における圧入条件が設定される。これにより、圧入部32における駆動軸8の径方向膨出部8bの外径が15mm以下であっても、アーマチュアボス151から駆動軸8への動力伝達が主に圧入部32を介して行われるので、スプライン嵌合部31に発生する応力を低減することができ、ひいては、駆動軸8の小径化による駆動軸8の強度低下を抑制することができる。
【0058】
また本実施形態によれば、0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm]を満たすように、圧入部32における圧入条件が設定される。これにより、圧入部32における圧入条件を「a×b」と2次元的に設定することができるので(図3参照)、圧入部32における設計自由度を向上させることができる。
【0059】
また本実施形態によれば、スプライン嵌合部31が、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の回転を規制することにより、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の周方向での過度の滑りが防止されるので、アーマチュアボス151から駆動軸8への動力伝達を効率良く行うことができる。
【0060】
また本実施形態によれば、スプライン嵌合部31は、軸回りに所定のガタ量を有するので、圧入部32における凝着により摩擦係数を増大させることができ、これにより、圧入部32での締結力を増大させることができる。
【0061】
なお、本実施形態では、駆動軸8に対するアーマチュアボス151の回転を規制する回転止めとしてスプライン嵌合を用いて説明したが、回転止めはこれに限らず、例えば、回転止めとして、セレーション嵌合を用いることが可能である。また、駆動軸8の先端部8aの外周面とアーマチュアボス151の一端部151aの内周面とのそれぞれに互いに対向するようにキー溝を設けてこれらキー溝にキーを装着することで、回転止めとして機能させることも可能である。
【0062】
また本実施形態では、外部駆動源として車両用エンジンを例示したが、外部駆動源はこれに限らず、例えば、外部駆動源として電動機を用いることが可能である。
また本実施形態では、可変容量圧縮機の駆動軸を例にとって駆動軸と回転体との締結構造について説明したが、圧縮機の形式はこれに限らず、例えば、固定容量圧縮機の駆動軸に上述の締結構造を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 圧縮機
2 シリンダボア
3 シリンダブロック
4 フロントハウジング
4a ボス部
5 弁板装置
6 リアハウジング
7 クランク室
8 駆動軸
8a 先端部
8b 径方向膨出部
9 斜板
10 ロータ
11 リンク機構
12 アンギュラベアリング
13 電磁クラッチ
14 ロータ
14a 電磁石装置
15 アーマチュア
16 ボルト
17 軸封シール
18,19 ベアリング
20 スラストベアリング
21 ピストン
21a ブリッジ部
22 シュー
23 吸入室
24 吐出室
25 吐出孔
26,27,28 ガスケット
31 スプライン嵌合部
32 圧入部
151 アーマチュアボス
151a 一端部
151b 他端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入した作動流体を圧縮して吐出する圧縮機の駆動軸と、この駆動軸が内嵌される円筒部を有して外部駆動源により回転駆動される回転体と、を互いに締結する締結構造であって、
前記回転体の円筒部と前記駆動軸とが圧入嵌合する圧入部と、
前記駆動軸に対する前記回転体の円筒部の回転を規制する回転止め部とを備え、
前記駆動軸は、その外径が、前記圧入部にて15mm以下であり、
前記圧入部における圧入代a[mm]が、
a[mm]=(圧入嵌合前の前記駆動軸の外径[mm])−(圧入嵌合前の前記回転体の円筒部の内径[mm])
で表される式により定義され、
前記圧入部の軸方向の長さが圧入長さb[mm]として定義され、
0.01[mm]≦a×b[mm]≦0.40[mm
を満たすように、前記圧入部における圧入条件が設定されたことを特徴とする締結構造。
【請求項2】
前記回転止め部は、軸回りに所定のガタ量を有して、前記駆動軸に対する前記回転体の円筒部の回転を規制することを特徴とする請求項1に記載の締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246986(P2012−246986A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118388(P2011−118388)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本機械学会(機械材料・材料加工部門)第18回機械材料・材料加工技術講演会 M&P2010(平成22年11月27日開催)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】