説明

緩衝器用油圧作動油組成物

【課題】 緩衝器におけるシール材とピストンロッド間の高摩擦化及びスティックスリップ抑制を両立して、車体のふらつきや乗り心地を改善できる緩衝器用油圧作動油組成物を提供する。
【解決手段】 潤滑油基油に、(A)炭素数3〜10の炭化水素基を有するハイドロゲンホスファイトと(B)炭素数6〜30の脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルを含有してなる緩衝器用油圧作動油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器用油圧作動油組成物に関し、詳しくは緩衝器におけるシール材とピストンロッド間の高摩擦化及びスティックスリップ抑制を両立した結果、車体のふらつきや乗り心地を改善できる緩衝器用油圧作動油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器にはさまざまな形式があるが、基本的に弁のついたピストンとシリンダー(外筒若しくはチューブともいう)からなる。ピストンはロッドに固定されており、ピストンはシリンダー内面を摺動し、ロッドはロッドガイド部のシールを摺動する。緩衝器は作動油と必要によりガスを封入し弁を通過する作動油の抵抗により緩衝作用を行う。
従来、緩衝器用油圧作動油は、緩衝器のシールとロッド間のスティックスリップ防止とシールの耐久性を確保するために、作動油のシール摩擦係数を下げることが行われてきた。この摩擦係数を低減するため、一般に作動油には摩擦を低減するリン酸エステル類や脂肪族アミン化合物等の添加剤が配合されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。また、近年、自動車の振動を緩和して、乗り心地や操縦安定性を改善する研究が進められた結果、ピストンロッド/シール間の摩擦力を高め、同時にピストンロッド/ブッシュ、ピストンバンド/シリンダーの摩擦力を低減させる機能を持つ、特定のアミン化合物等を含む新しい緩衝器用油圧作動油組成物が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
しかしながら、自動車用等の緩衝器は常に振動状態にあり、変位の少ない舗装道路においても微振幅を繰り返し、そのような状態における緩衝器のニュートラル位置では、油圧減衰は非常に小さいため、舗装路面の極小変位による微振幅を繰り返しやすくなる。その結果、車体(ばね上荷重)がふらつくとともに、運転者と乗員に不快感を与えることが判明し、従来にない新規な緩衝器用油圧作動油組成物の開発が必要となってきた。
【特許文献1】特開平5−255683号公報
【特許文献2】特開平7−224293号公報
【特許文献3】特開平7−258678号公報
【特許文献4】特開平6−128581号公報
【特許文献5】特開2000−192067号公報
【特許文献6】特開2002−194376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、以上のような事情に鑑み、路面の極小変位による微振幅を抑制し、車体(ばね上荷重)のふらつきを抑制するとともに、運転者と乗員の不快感を軽減できる緩衝器用油圧作動油組成物、特にニトリル系シール材とロッド間の高摩擦力と、スティックスリップ抑制を両立することができる緩衝器用油圧作動油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、微振幅領域のシールの摩擦係数を高いレベルでコントロールするとともに、スティックスリップを抑制した組成物が、緩衝器のニュートラル位置での減衰力を高め、微振幅時の車体(ばね上荷重)のふらつきを抑制するとともに、運転者と乗員の不快感を軽減できることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、シール材とピストンロッド間の高摩擦化及びスティックスリップの抑制を両立した緩衝器用油圧作動油組成物は、これまでに報告された例はない。
【0005】
すなわち、本発明は、潤滑油基油に、(A)炭素数3〜10の炭化水素基を有するハイドロゲンホスファイトと(B)炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂肪酸及び/又は該脂肪酸のエステルを含有してなることを特徴とする緩衝器用油圧作動油組成物にある。
また、本発明は、さらに(C)無灰分散剤を含有することを特徴とする前記記載の緩衝器用油圧作動油組成物にある。
また、本発明は、前記記載の緩衝器用油圧作動油組成物を用いて緩衝器のシール材とピストンロッド間の高摩擦化及びスティックスリップ抑制を両立する方法にある。
【0006】
以下、本発明について詳述する。
本発明の緩衝器用油圧作動油組成物における潤滑油基油としては、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油、合成系基油が使用できる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0007】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン及び芳香族エステル等の芳香族系合成油;これらの混合物等が例示できる。
【0008】
本発明における潤滑油基油としては、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0009】
本発明において用いる潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、一般の緩衝器に要求される減衰力に適合させる観点から、40℃における動粘度の下限値は、好ましくは3mm/s、より好ましくは6mm/sであり、一方、その上限値は、好ましくは60mm/s、より好ましくは40mm/s、さらに好ましくは20mm/sであり、より低摩擦の組成物を得ることができる点で、さらに好ましくは10mm/s以下、特に好ましくは9mm/s以下であることが望ましい。
【0010】
また、本発明において使用する潤滑油基油の粘度指数も特に限定されず任意であるが、緩衝器に要求される基本的性能である減衰作用が油圧作動油の粘度に依存し、温度による減衰力の変化をできるだけ小さくするという観点から、粘度指数は80以上が好ましく、より好ましくは95以上のものを用いるのが望ましい。
【0011】
本発明の緩衝器用油圧作動油組成物における(A)成分は、下記一般式(1)で示される炭素数3〜10の炭化水素基を有するハイドロゲンホスファイトである。
【化1】

【0012】
上記一般式(1)において、RおよびRは、それぞれ個別に、水素又は炭素数3〜10の炭化水素基を示し、少なくともRおよびRのいずれか一方は炭素数3〜10の炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基(アルキル基、アルケニル基は直鎖でも分枝状でもよく、またアルケニル基の二重結合の位置は任意である。)が挙げられ、アルキル基であることが特に好ましい。アルキル基としては、具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基を挙げることができる(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい。)。これらの中でも、炭素数4〜8のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい。)がより好ましく、イソブチル基、イソペンチル基、2,3−ジメチルブチル基、イソヘプチル基、2−エチルヘキシル基のような炭素数4〜8の分枝状アルキル基が特に好ましい。
【0013】
なお、上記一般式(1)において、R及びRが炭化水素基である酸性亜リン酸ジエステルや、R及びRの一方が水素原子である酸性亜リン酸モノエステルである場合、それぞれ、互変異性体である下記一般式(2)、(3)の形で表されることもあるが、これらは同じ化合物を示すものである。
【0014】
【化2】

【0015】
本発明において好ましく用いられるハイドロゲンホスファイトとしては、モノ又はジイソブチルハイドロゲンホスファイト、モノ又はジイソペンチルハイドロゲンホスファイト、モノ又はジ2,3−ジメチルブチルハイドロゲンホスファイト、モノ又はジイソヘプチルハイドロゲンホスファイト、モノ又はジ2−エチルヘキシルハイドロゲンホスファイト等が挙げられ、ジアルキルハイドロゲンホスファイトを主成分とすることがより好ましい。
【0016】
本発明における(A)成分の含有量は、特に制限はないが、ニトリルシール材などのシール材とロッド間のフリクションをより高め、摩耗防止効果も期待できる点で、組成物全量基準で、リン元素換算量で、好ましくは0.005〜0.2質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%、特に好ましくは0.015〜0.06質量%である。(A)成分の含有量が少なすぎると摩耗防止効果が小さく、また、0.2質量%を超えても含有量に見合うだけの効果を得にくく、腐食や劣化の原因となる傾向にある。
【0017】
本発明の緩衝器用油圧作動油組成物における(B)成分は、炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂肪酸及び/又は該脂肪酸のエステルである。
脂肪酸としては直鎖脂肪酸でも分枝脂肪酸でもよく、また飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、また、一塩基酸でも多塩基酸でもよい。この脂肪酸としては、具体的には、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸等の炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜18の飽和脂肪酸(これらは直鎖状でも分枝状でもよい。);ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸等の炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜18の不飽和脂肪酸(これらは直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である。);ドデシルコハク酸、トリデシルコハク酸、テトラデシルコハク酸、ペンタデシルコハク酸、ヘキサデシルコハク酸、ヘプタデシルコハク酸、オクタデシルコハク酸等の炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜18の飽和二塩基脂肪酸(これらは直鎖状でも分枝状でもよい。);ドデセニルコハク酸、トリデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸、ヘプタデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸等の炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜18の不飽和二塩基脂肪酸(これらは直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である。)等が挙げられる。これらの中でも、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の炭素数12〜18の飽和又は不飽和一塩基脂肪酸が特に好ましい。
【0018】
脂肪酸エステルとしては、上記した炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜18の脂肪酸(これらは直鎖状でも分枝状でも良い)と炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜18の1価アルコール又は多価アルコールとのエステル等が挙げられ、一塩基脂肪酸と多価アルコールとのエステルあるいは、二塩基脂肪酸と1価アルコールとのエステルが好ましく、特に一塩基脂肪酸と多価アルコールとのエステルであることが好ましい。
【0019】
1価アルコールとしては、炭素数1〜30の飽和又は不飽和脂肪族アルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、オレイルアルコール等を例示
することができる。
また多価アルコールとしては、2〜6価の多価アルコール(多量体も含む)等が挙げられる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコール等が挙げられる。
【0020】
一塩基脂肪酸と多価アルコールとのエステルとして好ましい化合物としては、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、グリセリントリオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ソルビタントリオレート等の炭素数12〜18の飽和又は不飽和一塩基脂肪酸と3価以上のアルコールとのエステルが例示できる。
二塩基脂肪酸と1価アルコールとのエステルとして好ましい化合物としては、具体的には、n−ドデシルコハク酸モノメチルエステル、n−ドデシルコハク酸ジメチルエステル、n−テトラデシルコハク酸モノメチルエステル、n−テトラデシルコハク酸ジメチルエステル、n−ヘキサデシルコハク酸モノメチルエステル、n−ヘキサデシルコハク酸ジメチルエステル、n−オクタデシルコハク酸モノメチルエステル、n−オクタデシルコハク酸ジメチルエステル等、炭素数12〜18の飽和又は不飽和二塩基酸と炭素数1〜18の1価アルコールとのエステルが例示できる。
【0021】
本発明の(B)成分の含有量は、ニトリルシール材などのシール材とピストンロッド間のフリクションを低下させることなく、スティックスリップ特性を改善することが期待できる点で、組成物全量基準で、好ましくは0.001〜2質量%、より好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.02〜0.1質量%である。
【0022】
本発明の緩衝器用油圧作動油組成物には、さらに(C)無灰分散剤を含有させることが好ましい。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができる。例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体が挙げられる。このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0023】
(C)成分の具体例としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。これらの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(C1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸(無水物)−ポリアミン反応生成物、あるいはその誘導体
(C2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体
(C3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体
【0024】
上記(C1)コハク酸(無水物)−ポリアミン反応生成物としては、例えば、モノイミド構造を有するアルキル又はアルケニルコハク酸イミド、ビスイミド構造を有するアルキル又はアルケニルコハク酸イミド、あるいはその他の構造を有する反応生成物及びこれらの混合物が挙げられる。ポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミドの場合、通常、ポリ(イソ)ブテン、塩素化ポリ(イソ)ブテン又はこれらの混合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得られるポリ(イソ)ブテニルコハク酸(無水物)と、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。また、アルキル又はアルケニルコハク酸(無水物)−ポリアミン反応生成物の誘導体としては、該反応生成物に、カルボン酸等の含酸素有機化合物等でアシル化した誘導体、あるいはホウ酸、リン酸、硫酸等の酸又はそれらの塩を作用させて得られた誘導体等が挙げられる。
【0025】
上記(C2)ベンジルアミンとしては、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得られるベンジルアミンを挙げることができる。また、ベンジルアミンの誘導体としては、上記のように得られたベンジルアミンに、カルボン酸等の含酸素有機化合物等でアシル化した誘導体、あるいはホウ酸、リン酸、硫酸等の酸又はそれらの塩を作用させて得られた誘導体等が挙げられる。
【0026】
上記(C3)ポリアミンとしては、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得られるポリアミンを挙げることができる。また、ポリアミンの誘導体としては、上記のように得られたポリアミンに、カルボン酸等の含酸素有機化合物等でアシル化した誘導体、あるいはホウ酸、リン酸、硫酸等の酸又はそれらの塩を作用させて得られた誘導体等が挙げられる。
【0027】
本発明における(C)無灰分散剤におけるアルキル基又はアルケニル基の数平均分子量は、通常700〜5000であるが、ニトリルシール材等のシールフリクションをより高く維持できる点で、好ましくは900〜1500であり、より好ましくは1400以下、さらに好ましくは1300以下、特に好ましくは1200以下とすることが望ましい。
【0028】
また、本発明の(C)成分は、そのイミノ基/アミノ基比率に特に限定はなく、例えば、エチレンジアミンモノ(アルケニル)コハク酸イミドのようなイミノ基を含まない化合物では0となり、ジエチレントリアミンビス(アルケニル)コハク酸イミドのようなアミノ基を含まない化合物では無限大となりうるが、製造コストの点で、0.1〜50とすることが好ましい。また、より高フリクションの組成物を得ることができる点で、イミノ基/アミノ基比率が15以下とすることが好ましく、安定性、製造コストの点で、好ましくは1以上である。
【0029】
本発明においては、イミノ基/アミノ基比率が15以下の(C1)コハク酸イミド(無水物)−ポリアミン反応生成物を用いることが特に好ましい。
なお、(C1)成分において、(C1−1)イミノ基/アミノ基比率が3〜15の場合には、ホウ素を本質的に含有しないものの方が、ニトリル系シール材等のシール材とピストンロッド間のフリクションを高く維持しやすくなるため好ましい。また、(C1−1)成分のイミノ基/アミノ基比率は、より高フリクションの組成物を得ることができる点で、好ましくは3.5〜12、さらに好ましくは4〜9、特に好ましくは4.5〜6である。
【0030】
また(C1)成分は、(C1−2)イミノ基/アミノ基比率が3未満の場合には、ホウ素を含有していても、含有していなくても良いが、ホウ素を含有するものが好ましい。ホウ素を含有するものであっても、イミノ基/アミノ基比率が3未満であればニトリルシール等のシール材とピストンロッド間のフリクションを高く維持しやすくなり、イミノ基/アミノ基比率が3以上のホウ素含有物に対し、特異的な挙動を示す。(C1−2)成分のイミノ基/アミノ基比率は0〜3未満であるが、安定性、製造コストの点で、好ましくは1以上、より好ましくは1〜2.5、特に好ましくは1.5〜2.5である。(C1−2)成分としてホウ素を含有するものを使用する場合、そのホウ素含有量/窒素含有量の質量比(B/N比)は、特に制限はないが、シール材とピストンロッド間のフリクションを高く維持しやすい点及び(A)成分と併用した場合の安定性の点で、好ましくは0.1〜1、より好ましくは0.5〜1、特に好ましくは0.7〜0.9である。
【0031】
なお、ここでいうイミノ基とは、−NH−で表される基を示し、アミノ基とは−NHで表される基を示し、イミノ基/アミノ比率は(C)成分中のアミノ基(−NH)を構成する窒素原子に対する(C)成分中のイミノ基(−NH−)を構成する窒素原子との比率を表している。例えば、エチレンジアミンモノ(アルケニル)コハク酸イミドのようなイミノ基を含まない化合物では0となり、ジエチレントリアミンビス(アルケニル)コハク酸イミドのようなアミノ基を含まない化合物では無限大となりうる。
イミノ基とアミノ基及びその比率は、具体的には、以下の方法により求めることができる。
【0032】
(C)成分のような、イミノ基及び/又はアミノ基を有する化合物を無水トリフルオロ酢酸と反応させて得られた反応物は、19F−NMRに供した際に、トリフルオロ酢酸を標準物質としてそのピーク位置を−76.8ppmとした場合に、(a)化学シフト−66ppm〜−72ppmの位置と(b)化学シフト−74ppm〜−79ppmの位置にそれぞれピークが得られる。この(a)のピークは、以下の(4)式のように(C)成分中のイミノ基(−NH−)と無水トリフルオロ酢酸が反応して得られる、(ア)で表される基のピークを示すと推定され、また(b)のピークは、以下の(5)式のように(C)成分中のアミノ基(−NH)と無水トリフルオロ酢酸が反応して得られる、(イ)で表される基のピークを示すと推定される。
【0033】
【化3】

【化4】

【0034】
なお、(C)成分を無水トリフルオロ酢酸と反応させる手順、19F−NMRによる測定手順は以下のとおりである。
まず、(C)成分0.5gをヘキサン20mlに溶解させた後、これに無水トリフルオロ酢酸1.0gを添加し、系を撹拌しながら20℃で20分間反応させる。その後、反応生成物にメタノール10mlと濃塩酸0.5mlを加え、20℃で20分間攪拌を続け、未反応の無水トリフルオロ酢酸及び反応副成物であるトリフルオロ酢酸をメタノール層に除去する。次いで油層を取り出し、ヘキサンを蒸留により留去し、(C)成分とトリフルオロ酢酸との反応生成物を得る。こうして得られる反応生成物100mgを試料として、共鳴周波数564.4MHzの19F−NMRで分析する。
【0035】
すなわち、本発明で規定する(C)成分中のイミノ基/アミノ基比率は、この方法により得られた、上記(a)のピーク面積/上記(b)のピーク面積の比率によって特定される値、すなわち、(C)成分中のアミノ基(−NH)を構成する窒素原子に対する(C)成分中のイミノ基(−NH−)を構成する窒素原子との比率を意味している。ただし、同様の結果が得られるのであれば、同様の理論等を用いた別の測定方法を用いても良い。
【0036】
本発明の緩衝器用油圧作動油組成物において、(C)成分の含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%であり、(C)成分の窒素量としての含有量は、好ましくは、0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、特に好ましくは0.005質量%以上であり、また含有量に見合うだけの効果が得られず、また低温特性が悪化する傾向にあることから、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。また、ホウ素を含む(C)成分、例えば、ホウ素を含む(C1−2)成分を含有させる場合の含有量は、組成物全量基準で、ホウ素量として通常0.001〜0.2質量%、好ましくは0.002〜0.05質量%であり、(A)成分共存下での安定性の点でより好ましくは0.01質量%以下、特に好ましくは0.008質量%以下とすることが望ましい。
【0037】
本発明の緩衝器用油圧作動油組成物は、上記(A)成分及び(B)成分を含有させ、あるいはさらに(C)成分を含有させることで微振幅領域におけるピストンロッドとシール材間、特にニトリル系のシール材を使用した場合に摩擦係数を高いレベルで維持するとともに、スティックスリップ特性を改善することができ、緩衝器のニュートラル位置での減衰力を高め、微振幅時の車体(ばね上荷重)のふらつきを抑制するとともに運転者と乗員の不快感を軽減しうる効果を有するものであるが、さらに必要に応じて、その性能をさらに向上させるために、又は、その他の目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、(A)成分および(B)成分以外の摩擦調整剤、粘度指数向上剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、流動性向上剤、金属不活性化剤、消泡剤の他、金属系清浄剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、及び着色剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【0038】
(A)成分および(B)成分以外の摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、モリブデンジチオカーバメートモリブデンジチオホスフェート等のモリブデン系摩擦調整剤、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸アミド、脂肪族アミン、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤等が挙げられ、通常、組成物全量基準で0.001〜5質量%の範囲で含有させることが可能である。
【0039】
粘度指数向上剤としては、潤滑油の粘度指数向上剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば、分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常、組成物全量基準で0.1〜20質量%である。
【0040】
摩耗防止剤としては、潤滑油の摩耗防止剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、リン及び/又は硫黄含有摩耗防止剤等が挙げられ、例えば、チオリン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、炭素数11〜30の炭化水素基を有するハイドロゲンホスファイト、これらの誘導体、これら金属塩、これらのアミン塩、及びジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、ジチオカーバメート、ジチオカルバミン酸亜鉛等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらの摩耗防止剤は、組成物全量基準で、通常0.001〜5質量%の範囲で本発明の組成物に含有させることが可能である。
【0041】
酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%の範囲で本発明の組成物に含有させることが可能である。
【0042】
流動性向上剤としては、潤滑油の流動性向上剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ポリメタクリレート系流動性向上剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0043】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フィネート、サリシレート及びホスホネート等が挙げられる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
これらの添加剤を本発明の緩衝器用油圧作動油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、流動性向上剤、金属系清浄剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の緩衝器用油圧作動油組成物は、緩衝器におけるニトリル系シール剤等のシール材とピストンロッド間の高摩擦化及びスティックスリップ抑制を両立して、車体のふらつきや乗り心地を改善でき、運転者と乗員の不快感を軽減することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0047】
[実施例1〜2、比較例1〜3、参考例1]
潤滑油基油に、表1に示す組成の本発明に係る潤滑油組成物(実施例1〜2)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜3)及び参考用の潤滑油組成物(参考例1)をそれぞれ調製した。これらの組成物に対して、以下に示す摩擦試験を実施し、その結果を表1に示した。
【0048】
(摩擦試験)
バウデン試験機を用い、厚さ約2mmのニトリル系シール材を直径10mmの穴の開いたホルダーに敷き、その上から 1/2インチの鋼球を押し付けた状態で固定(潤滑部は半球状となる)し、試験油を数滴滴下したクロムメッキ鋼板の上に設置した。これに9.8Nの荷重をかけ、室温、滑り速度4mm/s、10mmのストロークで往復動させ、滑り始めの摩擦係数μi、ストローク中間の摩擦係数μdをそれぞれ測定した。なお、μdが高いほどシール材−鋼材間の摩擦係数を高くコントロールしやすく、スティックスリップ特性の指標であるμi/μd値が1.00を超える場合、スティックスリップが発生しやすい傾向にあり、小さいほどスティックスリップが発生しにくい。
【0049】
表1から明らかな通り、本発明にかかる組成物(実施例1、2)は、ニトリル系シール材−鋼材間の摩擦係数を高くコントロールでき、スティックスリップ特性にも優れている。一方、(A)成分及び(B)成分を併用しない場合(比較例1〜3)では、摩擦係数、スティックスリップ特性のいずれかが劣ることがわかる。なお、(A)成分と(C)成分を含有する参考例1の組成物では、摩擦係数を高く維持できるものの、スティックスリップ特性に劣ることがわかる。なお、実施例1の(B)成分に代え、炭素数12〜18のアルキルを有するコハク酸モノエステルを0.05質量%使用した以外は実施例2と同じ組成物を同様に評価した結果、同様の効果が確認された。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(A)炭素数3〜10の炭化水素基を有するハイドロゲンホスファイトと(B)炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂肪酸及び/又は該脂肪酸のエステルを含有してなることを特徴とする緩衝器用油圧作動油組成物。
【請求項2】
さらに(C)無灰分散剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の緩衝器用油圧作動油組成物。
【請求項3】
請求項1又は2の緩衝器用油圧作動油組成物を用いて緩衝器のシール材とピストンロッド間の高摩擦化及びスティックスリップ抑制を両立する方法。

【公開番号】特開2006−335964(P2006−335964A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164735(P2005−164735)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】