説明

縦列多段式アンカー

【課題】 一括緊張においてもPC鋼より線の緊張荷重のアンバランスを防ぎ、緊張管理を容易に正確に行うことができる縦列多段式アンカーの提供
【解決手段】 2段目以降の耐荷体30は、圧着グリップ33を嵌着したPC鋼より線3先端を支持する支圧板31の地中側に、圧着グリップを挿通して管内の任意の位置に保持する差動分調整管32を備え、引張り作業時のPC鋼より線伸び量の差に相当する寸法の間隙を設けて保持し、アンカー孔内の定着完了後の地上からの緊張を一括して行う際に、差動分調整管32内に設けた間隙によりPC鋼より線伸び量の差を吸収させることにより均等な定着荷重とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦列多段式アンカーの耐荷体の構造に関し、詳しくは、先端部の耐荷体に対しPC鋼より線の長さが異なる後段の耐荷体との接続を調整し、緊張荷重のアンバランスを除去する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PC鋼より線などを緊張材として、複数の耐荷体が縦列状に配置された多段式グラウンドアンカーにおいて、アンカー体として機能をさせる際には、耐荷体に接続された複数のアンボンドPC鋼より線を緊張ジャッキにより緊張させて地上のアンカーヘッドに楔で定着させる。
【0003】
縦列多段式アンカーにおいては、各段の耐荷体毎にPC鋼より線の長さが異なるため、一括して緊張すると、鋼線の伸び量の差により各耐荷体に対する緊張荷重のアンバランスが発生していた。
【0004】
特許文献1は、緊張荷重のアンバランスを解決するため、ジャッキ装置に複数のプーリングヘッドブロックと差動用弾性体を設けて緊張する発明、特許文献2は、複数の駆動シリンダーを有するアンカー用ジャッキを用いて緊張する発明である。
【0005】
いずれの発明も、緊張ジャッキの構造が複雑で、操作も煩雑になること、差動用弾性体の弾性係数のばらつきによる定着荷重のアンバランスが生じる問題があった。
【0006】
特許文献3は、圧縮体を介装した特殊ヘッドブロックを有する耐荷体を用いて、緊張荷重のアンバランスを圧縮体に吸収させて均一な荷重を付与させる発明である。しかし、圧縮体の弾性係数のばらつきによる定着荷重のアンバランスの発生、固結グラウド内でのヘッドブロックの挙動による定着体損傷など、Uターン式除去アンカーにおいては実用性に課題が残されていた。
【0007】
図6は、アンカー緊張及び定着を行うアンカー頭部側の構成を示す。図においてGは地盤、9はアンカー孔、3はアンカー1を構成する複数のPC鋼より線を示す。アンカー頭部側は、地盤Gに打ち込まれた山留め杭11の外側にブラケット12を介して腹起し材13が架けられ、腹起し材13を台座14を介して支圧するアンカープレート15が取付けられ楔固定式のアンカーヘッド16にPC鋼より線3が定着される。
【0008】
緊張定着に際しては、アンカープレート15上にジャッキチェア17を介してアンカー用ジャッキ10を取り付け、PC鋼より線3の端部はプリングチャック20に固定されて緊張される。特許文献2においては、アンカー用ジャッキ10がセンターホール型の複数の駆動シリンダーからなり、各耐荷体ごとのPC鋼より線3をそれぞれの駆動シリンダーで所定の緊張力を与えて定着させている。
【0009】
しかし、この緊張方法では特殊なアンカー用ジャッキ10を用いなければならず、一般に用いられている単シリンダー式緊張ジャッキに比べ緊張管理に手間がかかる問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開平8−81954号公報(第2、3頁、第1図)
【特許文献2】特開平11−036299号公報(第2、3頁、第2図)
【特許文献3】特開平9−256360号公報(第2、3頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
縦列状に耐荷体が配設された多段式アンカーの一括緊張においてもPC鋼より線の緊張荷重のアンバランスを防ぎ、緊張管理を容易に正確に行うことができる縦列多段式アンカーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の縦列多段式アンカーは、複数N個の耐荷体が縦列状に配設された多段式アンカーにおいて、2段目以降の耐荷体は、圧着グリップを嵌着したPC鋼より線先端を支持する支圧板の地中側に、圧着グリップを挿通して管内の任意の位置に保持する差動分調整管を備え、
差動分調整管内に挿入された圧着グリップと支圧板との間に、第1段と第N段のPC鋼より線の長さの差異により生ずる引張り作業時のPC鋼より線伸び量の差に相当する寸法の間隙を設けて保持し、
アンカー孔内の定着完了後の地上からの緊張を一括して行う際に、差動分調整管内に設けた間隙によりPC鋼より線伸び量の差を吸収させることにより均等な定着荷重とすることを特徴とする。
【0013】
また、前記差動分調整管は、少なくとも前記圧着グリップ全長にPC鋼より線の伸び量の差分を加えた長さを有する金属管で、支圧板のPC鋼より線貫通孔の中心と同軸になるように溶接固定され、管壁に設けられた複数の螺子孔を備え、該螺子孔に装着した止めネジにより、挿入された前記圧着グリップを任意の位置で固定保持する構造に形成され、さらに、圧着グリップ前後の管内空隙に流動性を有する充填材が詰められていることを特徴とする。
【0014】
前記多段式アンカーの一部から選定されて、アンカー孔内の定着完了後に多サイクル確認試験(品質保証試験)を行なう多段式アンカーは、止めネジによる前記圧着グリップの固定保持を行なわず、差動分調整管内に挿入された圧着グリップと支圧板との間に、所定の前記間隙寸法分の作動距離を有するコイルバネを挿入し、多サイクル確認試験およびその後の定着緊張時にPC鋼より線伸び量の差を吸収させることにより均等な定着荷重とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アンカーの緊張定着に一般的な単シリンダー式油圧ジャッキで一括緊張しても、2段目以降の耐荷体ごとに組み込まれた差動分調整管で、伸び量の差が吸収され、各PC鋼より線の定着荷重はバランスされ、設置、緊張された縦列多段式アンカーを安定した定着状態とすることができる。
【0016】
また、各耐荷体のPC鋼より線の伸び量は、設計アンカー力から前もって容易に算定することができ、先端耐荷体との伸び量の差を差動分調整管への圧着グリップ保持位置としてセットするため、作業が容易にかつ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の縦列多段式アンカーにおける差動分調整管及び支圧板を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のx−x断面図である。
【0018】
図1(a)、(b)に示す支圧板31は、耐荷体30(図3参照)の先端に配設され、圧着グリップ33を嵌着してカシメられたアンカーの引張材であるPC鋼より線3を保持する部材である。31aはより先端の耐荷体30から延びるPC鋼より線を通す条溝である。
【0019】
縦列多段式アンカーの第1段目(先頭)の耐荷体30(図4に示す30A)では、支圧板31に先端に嵌着した圧着グリップ33によりPC鋼より線が保持されている。
【0020】
本発明の縦列多段式アンカーの第2段目以降の耐荷体30(図4に示す30B、30C)では、支圧板31のPC鋼より線貫通孔31bの外側に、差動分調整管32が溶接して取付けられる。
【0021】
差動分調整管32には、支圧板31のPC鋼より線貫通孔31bを通じて挿通されたPC鋼より線3に、圧着グリップ33を嵌着し、圧着グリップ33の端部と支圧板31との間が、伸び量差分設定量Sの間隔をあけた位置まで挿入して、差動分調整管32の外周に設けられた複数(この実施の形態では3個)の止めネジ35を均等に締めて圧着グリップ33を保持固定する。
【0022】
この止めネジ35による保持固定は、保持固定後の運搬中や、アンカー孔9へのアンカー設置中におけるPC鋼より線3の張りでは動かないが、所定の定着荷重での緊張時には止めネジ35の滑りにより圧着グリップ33が支圧板31の面まで動き、第1段目(先頭)の耐荷体のPC鋼より線3の伸び量との差を吸収する。
【0023】
図1(b)に示すように、止めネジ35で支圧板31との間に伸び量差分設定量Sの間隔をあけて保持された圧着グリップ33つきのPC鋼より線3がグラウトなどのアンカー固定材で固化されないように、差動分調整管32の管内に流動性を有する充填材36を充填する。
【0024】
充填材36は、シリコン樹脂、グリースなどを用いることとする。
【0025】
図2は、差動分調整管32を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【0026】
差動分調整管32の長さは、前記圧着グリップ33の全長に少なくともPC鋼より線の伸び量の差分Sを加えた長さを有する金属管で、管壁に等間隔で設けられた3つの螺子孔32aを備え、該螺子孔32aに装着した止めネジ35により、挿入された前記圧着グリップを任意の位置で固定保持する構造である。
【0027】
図3は、高周波加熱コイルを用いた除去式アンカーの耐荷体30の構造を示す図である。
【0028】
図3に示す耐荷体30は、先端の支圧板31と後端の支圧板31の間に、PC鋼より線3を囲むように配置された高周波加熱コイル39を備え、工事完了後に地上から高周波電流を印加することにより、PC鋼より線3を溶断して除去する除去式アンカーに本発明を適用した実施例である。
【0029】
先端の支圧板31には、本発明の差動分調整管32が取付けてあり、PC鋼より線3の先端に嵌着した圧着グリップ33と、支圧板31の間に、伸び量差分に相当する間隔をあけて止めネジ35により保持固定している。
【0030】
なお、図において、36はシリコン樹脂、グリースなどの流動性を有する充填材、37は高周波加熱コイルを装着するための間隔調整管、38は高周波加熱コイルの保護プレート、38aは保護プレート38の取付けボルト、40は耐荷体30をアンカー孔に定着させるための摩擦棒である。
【0031】
この実施の形態の耐荷体30も、縦列多段式アンカーの2段目以降の例である。
【0032】
図4は、本発明の縦列多段式アンカー1の構成の説明図である。図において説明の都合上、先端の第1の耐荷体30A、第2の耐荷体30B、第3の耐荷体30Cを並列に示しているが、実際は縦列となってアンカーヘッド16には合計9本のPC鋼より線3が緊張状態で定着される。
【0033】
図4において、第1の耐荷体30AのPC鋼より線の長さL1と、第2の耐荷体30BのPC鋼より線の長さL2、第3の耐荷体30CのPC鋼より線の長さL3の長さが違うため、これを同時に引張ると、PC鋼より線の伸びの差から耐荷体への緊張荷重がアンバランスになってしまう。
【0034】
このアンバランスをなくすため、本発明では、予めPC鋼より線の長さL1とL2に所定緊張荷重を与えたときの伸び量の差L4と,PC鋼より線の長さL1とL3に所定緊張荷重を与えたときの伸び量の差L5を計算により求める。
【0035】
なお、鋼線の伸び量の計算は、応力、ヤング率、断面積、載荷荷重から、公知の計算式により容易に求められる。例えば、載荷荷重を100kNとし、L1が12メートル、L2が9メートル、PC鋼より線断面積が98.71平方ミリの場合それぞれの伸び量の差は63.6mm−47.7mm=15.9mmとなる。
【0036】
前記差動分調整管32内の圧着グリップ33と、支圧板31との間隔L4を15.9mmとして、圧着グリップ33を止めネジ35で固定しておく。
【0037】
同様に、L1とL3との伸び量の差L5を求めてセットする。
【0038】
地上からの緊張時に、9本のPC鋼より線3を単一シリンダーのジャッキで緊張を開始すると、第2の耐荷体30Bと第3の耐荷体30Cでは、圧着グリップ33が差動分調整管32内を滑り、第1の耐荷体30CのPC鋼より線との伸び量の差分があたかも伸びたと同様に作用して、それぞれの耐荷体にかかる緊張荷重を同一にすることができる。
【0039】
図5は、多サイクル確認試験対応の縦列多段式アンカーの作動説明図で、(a)はコイルバネ挿入設定時、(b)は緊張試験および定着緊張時である。
【0040】
前記多段式アンカーの一部(施工数量の5%かつ3本以上)を、アンカー孔内の定着完了後に多サイクル確認試験(品質保証試験)を行なう。多サイクル確認試験を行なう多段式アンカーは、止めネジ35による前記圧着グリップ33の固定保持を行なわず、差動分調整管32内に挿入された圧着グリップ33と支圧板31との間に、所定の間隙S寸法分の作動距離を有するコイルバネ34を挿入し、多サイクル確認試験による載荷と除荷の繰り返しの後に前記間隙S戻る構造としておく。
【0041】
図5(a)は、コイルバネ34にPC鋼より線3を挿通しておき、圧着グリップ33と支圧板31の間にセットした状況を示し。PC鋼より線3に緊張荷重がかかっていない。なお、コイルバネは、圧縮時の寸法と解放時の寸法の差いわゆる作動距離が、第1段と第N段のPC鋼より線の長さの差異により生ずる引張り作業時のPC鋼より線伸び量の差に相当する寸法となる長さとする。
【0042】
図5(b)は、多サイクル確認試験の載荷または緊張定着時にコイルバネが圧縮された状態を示す。PC鋼より線3への緊張荷重が解除されると、図5(a)の状態に戻り、再度緊張させる際のPC鋼より線の伸びの差を吸収させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の縦列多段式アンカーにおける差動分調整管及び支圧板を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のx−x断面図である。
【図2】差動分調整管32を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図3】高周波加熱コイルを用いた除去式アンカーの耐荷体30の構造を示す図である。
【図4】本発明の縦列多段式アンカー1の構成の説明図である。
【図5】多サイクル確認試対応の縦列多段式アンカーの作動説明図で、(a)はコイルバネ挿入設定時、(b)は緊張試験および定着緊張時である。
【図6】従来のアンカー緊張及び定着を行うアンカー頭部側の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 アンカー
3 PC鋼より線
9 アンカー孔
10 アンカー用ジャッキ
11 山留め杭
12 ブラケット
13 腹起し材
14 台座
15 アンカープレート
16 アンカーヘッド
17 ジャッキチェア
20 プリングチャック
30 耐荷体
30A 第1の耐荷体
30B 第2の耐荷体
30C 第3の耐荷体
31 支圧板
31a 条溝
32 差動分調整管
32a 螺子孔
33 圧着グリップ
34 コイルバネ
35 止めネジ
36 充填材
37 間隔調整管
38 保護プレート
38a 取付けボルト
39 高周波加熱コイル
40 摩擦棒
G 地盤
L1、L2、L3 アンカー長
L4、L5 伸び量の差
S 伸び量差分設定量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数N個の耐荷体が縦列状に配設された多段式アンカーにおいて、2段目以降の耐荷体は、圧着グリップを嵌着したPC鋼より線先端を支持する支圧板の地中側に、圧着グリップを挿通して管内の任意の位置に保持する差動分調整管を備え、
差動分調整管内に挿入された圧着グリップと支圧板との間に、第1段と第N段のPC鋼より線の長さの差異により生ずる引張り作業時のPC鋼より線伸び量の差に相当する寸法の間隙を設けて保持し、
アンカー孔内の定着完了後の地上からの緊張を一括して行う際に、差動分調整管内に設けた間隙によりPC鋼より線伸び量の差を吸収させることにより均等な定着荷重とすることを特徴とする縦列多段式アンカー。
【請求項2】
前記差動分調整管は、少なくとも前記圧着グリップ全長にPC鋼より線の伸び量の差分を加えた長さを有する金属管で、支圧板のPC鋼より線貫通孔の中心と同軸になるように溶接固定され、管壁に設けられた複数の螺子孔を備え、該螺子孔に装着した止めネジにより、挿入された前記圧着グリップを任意の位置で固定保持する構造に形成され、さらに、圧着グリップ前後の管内空隙に流動性を有する充填材が詰められていることを特徴とする請求項1記載の縦列多段式アンカー。
【請求項3】
前記多段式アンカーの一部から選定されて、アンカー孔内の定着完了後に多サイクル確認試験(品質保証試験)を行なう多段式アンカーは、止めネジによる前記圧着グリップの固定保持を行なわず、差動分調整管内に挿入された圧着グリップと支圧板との間に、所定の前記間隙寸法分の作動距離を有するコイルバネを挿入し、多サイクル確認試験およびその後の定着緊張時にPC鋼より線伸び量の差を吸収させることにより均等な定着荷重とすることを特徴とする請求項1又は2記載の縦列多段式アンカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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