説明

縦型洗濯機

【課題】ドラムが共振回転数を超える前の低速回転時にある状態で、ドラムの回転軸に対して周方向に移動可能に設けられたバランス用転動体の位置を略正確に把握でき、ドラムが共振回転速度を超える際に生じる振動を大幅に低減できる縦型洗濯機を提供する。
【解決手段】垂直軸周りに回転可能に支持されており、内部に収容される洗濯物Wが偏ることによる偏心荷重が作用するドラム1と、前記ドラム1を回転駆動する電動機3と、前記ドラム1に周方向に転動可能に取り付けられて前記偏心荷重によるアンバランスを打ち消す方向に移動する1又は複数のバランス用転動体21と、前記電動機を駆動して前記ドラムの回転速度を制御する回転制御部4とを具備した縦型洗濯機であって、前記回転制御部4が、前記ドラム1の共振回転速度よりも若干低い回転速度である第1回転速度を一定時間保った後に、前記共振回転速度よりも高い回転速度に上昇させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム内のアンバランスを軽減し、前記ドラムの振動を軽減するためのボールバランサを備えた縦型洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、洗濯機の脱水プロセスにおいて、個々の洗濯物はドラムの内周に沿って不均一な状態、すなわちアンバランスな状態にしばしば置かれる。その結果、脱水中に回転軸には偏った力が加わり、振動が発生する。振動の振幅は回転ドラムの回転速度の2乗に比例して増大し、その振動のために洗濯機自身が動いたり、ある回転速度以上では運転することができなくなってしまったりするなどの問題が発生する。
【0003】
そこで、特許文献1に示される縦型洗濯機においては、ドラムの上部円周端にボールバランサを設けることにより、回転時におけるドラム内の洗濯物のアンバランスを軽減するように構成されている。より具体的には、前記ボールバランサは、ドラムの内周に取り付けた管状のレース部に回転方向(周方向)に自由度をもつ複数のボールを配置するとともに、共振回転速度よりも高い速度で回転させることにより、偏心荷重を生じさせるアンバランス体(ここでは洗濯物(布))に対して自動的にボールが反相位置に移動する力学現象を利用したバランス装置である。
【0004】
ところで、脱水プロセス等において前記ドラムの回転速度を低回転速度から共振回転速度を超えて高回転速度へと移行させる場合、前記洗濯物によりドラム内でアンバランスが生じていると、前記共振回転速度を超える際にアンバランスが生じていない時に比べて非常に大きな振幅の振動が発生し、その騒音等が問題となる。仮にドラム内の洗濯物と前記ボールバランサを構成する各ボールが同じ側にある同相位置にあるとすると、ドラムのアンバランス量が最も大きくなるので、前記共振回転速度を超える際に生じる振幅も最大となってしまう。
【0005】
しかしながら、従来の縦型洗濯機に設けられているボールバランサにおいては、共振回転速度における振動を軽減するためにドラムが共振回転速度を超える前に予めドラム内の洗濯物の位置とボールバランサのボールの位置を反相位置にすることは行われていなかった。これは、縦型洗濯機に用いられる、水平面内で移動可能に構成されたボールバランサには以下に説明するような特性があると考えられていたためである。
【0006】
まず、斜めドラムや横型ドラムに取り付けられたボールバランサであれば、図6に示すようにドラムが停止している時には、各ボールは重力により下方に集まることになる。従って、各ボールの初期位置が明らかであるため、共振回転速度を超えない低速域でも洗濯物等のアンバランスに対する各ボールの位置を正確に把握することができる。
【0007】
一方、縦型洗濯機にボールバランサが用いられている場合、図6に示すように各ボールは水平面内にあるため、ドラムが停止している時には、各ボールがどの位置にあるかは一意に決まらず不定である。つまり、各ボールの初期位置が分からない以上、仮に各ボールの位置を変更する方法があったとしても、ドラムが共振回転速度を超える前に、各ボールをどれだけ移動させれば、洗濯物のアンバランスと反相位置になるかが分からない。
【0008】
さらに、斜めドラムや横型ドラムに設けられているボールバランサの場合は、共振回転速度よりも低い一定速度でドラムを回転させていると、図7のグラフに示すように各ボールと洗濯物の周方向の回転速度に対して重力の影響が生じ、それぞれの回転速度が微妙に異なる。つまり、ドラムを共振回転速度よりも低い一定速度で動かしているだけで洗濯物と各ボールとの間で相対運動が生じているので、共振回転速度を超える前に予め各ボールを洗濯物に対して反相位置まで移動させることができる。
【0009】
これに対して、縦型洗濯機に用いられるボールバランサでは、周方向の運動に対して重力の影響は生じないので、斜めドラム等の場合と異なり、ドラムの回転速度を一定に保っても各ボールと、洗濯物との間に周方向の相対速度が生じず略同期してしまうため、各ボールを洗濯物に対して反相位置まで移動させることができない。すなわち、従来の縦型洗濯機においては、ドラムの回転速度が共振回転速度を超える際の振動を十分に低減することができてない。
【0010】
ところで、縦型洗濯機に用いられているボールバランサの初期位置が不定であるという問題を解決するための1つの方法としては、図8のグラフのようにドラムの共振回転速度よりも十分に低い回転速度を維持しつづけて、洗濯物と各ボールを同相位置に集める方法がある。従来から用いられているこの方法であれば、ドラムが共振回転速度を超える前において、各ボールの初期位置を特定することができるものの、反相位置とは最も遠い場所に各ボールが固定されてしまい、各ボールを移動させる手段があったとしても移動量が大きくなり、例えば、各ボールが反相位置に到達するまでにかかる時間も長くなってしまう。さらに、特許文献2に示されているように縦型洗濯機に用いられているボールバランサの場合、共振回転速度よりも低い速度であればどのような速度であっても各ボールと洗濯物の位置が同相になると考えられていたため、共振回転速度を大きく超えてしまう前に、各ボールの位置を反相位置に近づけた上で、しかも、その位置を正確に把握するということは不可能であると考えられていた。
【0011】
このように従来の縦型洗濯機に用いられるボールバランサにおいては、ドラムが低速回転している間において、センサ等を用いずに各ボールの位置を把握する事は出来ないと考えられていた上に、共振回転速度を超える前に各ボールを移動させ、予め洗濯物と各ボールが反相位置となるような有効な移動方法についても見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−21505号公報
【特許文献2】特開2010−125083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、ドラムが共振回転数を超える前の低速回転時にある状態で、ドラムの回転軸に対して周方向に移動可能に設けられたバランス用転動体の位置を略正確に把握することを第1の課題とするものである。さらに本発明は、バランス用転動体の把握された位置に基づいて、洗濯物とボールとを反相位置に移動させ、ドラムが共振回転速度を超える際に生じる振動を大幅に低減することを第2の課題とする。そして、これらの課題を解決することのできる縦型洗濯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、垂直軸周りに回転可能に支持されており、内部に収容される洗濯物が偏ることによる偏心荷重が作用するドラムと、前記ドラムを回転駆動する電動機と、前記ドラムに周方向に転動可能に取り付けられて前記偏心荷重によるアンバランスを打ち消す方向に移動する1又は複数のバランス用転動体と、前記電動機を駆動して前記ドラムの回転速度を制御する回転制御部とを具備した縦型洗濯機であって、前記回転制御部が、前記ドラムの共振回転速度よりも若干低い回転速度である第1回転速度を一定時間保った後に、前記共振回転速度よりも高い回転速度に上昇させるように構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の構成は、本願発明者の鋭意研究の結果、縦型洗濯機に用いられるバランス用転動体の場合、ドラムの回転速度が共振回転速度から十分に離れた低速回転で一定に保たれた場合には、洗濯物の位置と前記バランス用転動体の位置が同相位置になる一方、共振回転速度よりも低速回転であっても、共振回転速度の近傍の回転速度で一定に保った場合、バランス用転動体の位置が同相位置から反相位置側へずれた位置に集まることを見出した事により初めてなされたものである。言い換えると、従来の固定観念であれば、縦型洗濯機に用いられるような水平面内で回転運動をするバランス用転動体の場合、共振回転速度よりも低い如何なる回転速度で一定に保ったとしても洗濯物と同相位置にしか集めることができないと考えられていた。このため、共振回転速度の近傍で洗濯物とバランス用転動体が同相位置に集まることにより振動が最大になるのを防ぐためにも、バランス用転動体を集めるためには共振回転速度から十分に離れた低速回転で集めるしかないと従来考えられていた。本発明者は、上述したような新たな知見に基づく事により初めて、従来の構成とは逆の構成を想到することができたのである。
【0016】
さらに、本願発明者は、一定速度に保つドラムの回転速度を共振回転速度に近づけるほど、バランス用転動体の集まる位置が反相位置側へリニアに変化することも併せて見出している。従って、前記回転制御部が、前記ドラムを共振回転速度よりも若干低い回転速度である第1回転速度で一定時間保つように構成されているので、反相位置に近づけた位置でバランス用転動体を集めるとともに、その位置もリニアに変化する特性から容易に正確な位置を把握する事が可能なる。つまり、本願発明であれば、従来縦型洗濯機においては難しかったバランス用転動体の初期位置を正確に把握することができ、しかもその初期位置を反相位置に近い場所にすることができるので、バランス用転動体を短時間で精度よく反相位置に移動させることも可能となる。従って、最も振動の振幅等が小さくなる状態で共振回転速度を超える事が可能となり、大幅に振動を低減する事が可能となる。
【0017】
ドラムに大きな振動を生じさせることなく、初期位置に集められたバランス転動体を短時間で反相位置まで移動させるには、前記回転制御部が、前記ドラムの回転速度を前記第1回転速度で一定時間保った後において、前記ドラムの回転速度を前記共振回転速度よりも低い回転速度である第2回転速度と、前記共振回転速度の近傍又は前記共振回転速度よりも高い回転速度である第3回転速度と、に交互に変化させるように構成されており、前記ドラムの回転速度を前記第3回転速度にする回数が、前記ドラムの回転速度が前記第1回転速度に一定時間保たれた後における、前記洗濯物に対する前記バランス用転動体の位置である初期位置に基づいて設定されていればよい。
【0018】
このようなものであれば、ドラムを共振回転速度よりも低い速度で回転させていても、初期位置から反相位置へと移動させることは難しいところを、第2回転速度と第3回転速度に交互に変更し、回転速度が変更される際の慣性力により前記バランス用転動体の位置を少しずつ反相位置側へとずらしていくことができる。さらに、前記第3回転速度を前記共振回転速度の近傍又は前記共振回転速度よりも高い回転速度に設定してあるので、バランス用転動体の移動量を大きくすることができ、短時間で反相位置まで移動させることができる。また、前記バランス用転動体の初期位置を正確に把握しているので、反相位置まで前記バランス用転動体を移動させるのに必要な回数も正確に算出でき、精度よく反相位置に前記バランス用転動体を移動させることができる。
【0019】
前記バランス用転動体をできる限り反相位置に近い位置で集めるとともに、機械の製造誤差等による共振回転速度の違いを吸収し、第1回転速度にした場合に共振が発生しないようにするには、前記第1回転速度が、前記ドラムの共振回転速度の65%以上、95%以下に設定されていればよい。
【0020】
上述したような効果を得ることができるさらにより具体的な前記第1回転速度の一例としては、前記第1回転速度が、28rpm以上41rpm以下に設定されているものが挙げられる。
【0021】
最も少ない速度変更回数にするとともに、最短時間で前記バランス用転動体を反相位置まで移動させるには、前記ドラムの回転速度を前記第3回転速度にした場合の前記バランス用転動体の周方向への移動距離と、前記第3回転速度にする回数の積が、前記初期位置における前記洗濯物と前記バランス用転動体の周方向の距離と略等しくなるように、前記回数が設定されているものであればよい。
【0022】
前記バランス用転動体を反相位置に移動させるために、前記第3回転速度に上昇させた際に前記ドラムに大きな振動が生じないようにするには、前記第3回転速度が、前記ドラムにおいて生じる振動が許容振幅以下となるように設定されていればよい。
【0023】
さらに前記ドラムに生じる振動を低減するには、前記第3回転速度を継続する時間が、前記ドラムにおいて生じる振動が許容振幅以下となるように設定されていればよい。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明の縦型洗濯機によれば、ドラムを高速回転させる前に共振回転速度より若干低い回転速度で一定に保つことにより、ドラムを共振回転速度よりも高い回転速度で回転させる前の状態において、バランス用転動体の位置を同相位置ではなく、同相位置から反相位置側へずれた位置に集めることができ、しかもその位置を略正確に把握することができる。従って、バランス用転動体を反相位置に近い位置から移動を開始させることができるとともに、バランス用転動体を反相位置まで移動させるのに必要な移動量も正確にわかるので、振動をあまり生じさせずに短時間でバランス用転動体の移動を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る縦型洗濯機を示す模式図。
【図2】同実施形態における回転制御部の速度指令プロファイル及び振動振幅の変化を示す模式図。
【図3】同実施形態における第1回転速度の大きさと、洗濯物とボールの位相差との関係を示すグラフ。
【図4】同実施形態における第3回転速度の速度指令と実速度の詳細を示すグラフ。
【図5】同実施形態と従来例における過渡振動の最大振幅の比較を示すグラフ。
【図6】斜めドラムに設けられたボールバランサと縦型ドラムに設けられたボールバランサにおける停止時の各ボールの集まる位置についての説明する模式図。
【図7】従来の斜めドラムを備えた洗濯機における一定回転速度でドラムを回転させた場合の各ボールの移動態様を示す模式図。
【図8】従来の縦型洗濯機におけるドラム回転速度指令のプロファイルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
本実施形態の洗濯機は、図1に示すように洗濯物Wの収容されるドラム1の回転軸が垂直に設定されている縦型洗濯機100である。本発明に関連する部材について列挙すると、前記ドラム1の下部には当該ドラム1を回転駆動させるための電動機であるモータが設けてあり、前記ドラム1の上端縁部の円周部分には、前記ドラム1内で洗濯物Wの偏りによるアンバランスが生じた場合に、アンバランスを打ち消す方向に移動するボール21を備えたボールバランサ2が設けてある。また、この洗濯機は各選択工程の切り替えや前記電動機の回転速度の制御を行うための制御機構を備えている。前記制御機構は、例えば、CPU、メモリ、入出力インターフェイス等を備えたいわゆるコンピュータやマイコンであり、少なくとも前記ドラム1の回転速度を制御するための回転制御部4としての機能を発揮するように構成してある。
【0028】
各部について詳述する。
【0029】
前記ドラム1は、上面が開口した概略中空円筒形状のものであり、その回転軸(中心軸)が、垂直となるように設定してある。このドラム1を回転させることで、洗濯や脱水を行っていると、当該ドラム1内に収容されている洗濯物Wに偏りが生じることがある。すると、前記ドラム1に対して偏心荷重が作用することになり、前記ドラム1に振れ回りが生じることになり振動が大きくなることがある。後述するボールバランサ2はドラム1にかかる偏心荷重をバランスすることで振れ回りを小さくし、振動を抑えるためのものである。
【0030】
前記ボールバランサ2は、前記ドラム1の上面側端部に形成された内部が中空の概略リング状のレールと、前記レール内に周方向に転動可能に収容された複数のボール21(バランス用転動体)とから構成してある。各ボール21はレールに沿って水平面内のみを移動するように構成されているため、ドラム1停止時には各ボール21の初期位置は定まらないことになる。これらのボール21は、例えば前記ドラム1の回転速度を変化させていくことにより、前記偏心荷重によるアンバランスを打ち消す方向に自然と移動していく。また、本実施形態では各ボール21は、洗濯物Wの反相位置に自然に移動するのを待つだけでなく、強制的に移動させることも行っている。
【0031】
前記回転制御部4は、例えば、洗濯工程や脱水工程における前記ドラム1の回転速度を制御するものである。特に本実施形態の回転制御部4は、ドラム1を低回転速度からドラム1の共振回転速度を超えて高回転速度へと移行する際の速度制御により、前記ドラム1の振動を低減できるように構成してある。より具体的には、前記回転制御部4は、前記電動機に入力する速度指令を適宜変更していくことにより速度制御を行うものであり、低回転速度から高回転速度へとドラム1の速度を変更していく場合に、図3に示すように低速域速度上昇モード、ボール位置推定モード、ボール反相位置移動モード、高速域速度上昇モードの4つモードで順番に速度変化をさせていくようにしてある。
【0032】
以下では各モードにおける前記回転制御部4の構成及び動作について詳述していく。
【0033】
前記低速域速度上昇モードでは、前記回転制御部4はドラム1の回転速度が0から前記ドラム1の共振回転速度より若干低い(所定値だけ低い)回転速度である第1回転速度となるまで、略リニアに回転速度を上昇させるように構成してある。このドラム1の始動時においては、図2に示すように各ボール21の位置は定まっていない。これは、各ボール21が水平面内を移動可能に取り付けられており、運動方向に対して重力による影響を受けていないため偏りが生じないからである。
【0034】
前記ボール位置推定モードでは、前記回転制御部4は、ドラム1の回転速度を前記第1回転速度で一定時間保つように構成してある。このように共振回転速度の近傍の速度である前記第1回転速度で一定時間保っていると、従来考えられていたように各ボール21は洗濯物Wと同相位置に集まるのではなく、同相位置から若干反相位置側へとずれた位置に集まることを本願発明者は見出した。さらに、鋭意検討を行ったところ、図3の洗濯物Wとボール21位置との位相差を表す振動位相のグラフに示すように、水平面内を移動可能に取り付けられた各ボール21の位置は、従来考えられていたように共振回転速度を境にして不連続にその位置が変化するのではなく、ある回転速度から少しずつ同相位置から反相位置側へと各ボール21が集まる位置が変化することを見出した。図3のグラフから分かるように、このボール21位置の変化は一定に保つ回転速度の大きさに対して所定速度域で略リニアに変化するので、このグラフや振動位相を表す式に基づいて設定している回転速度に対応するボール21の集合位置を1対1に算出することができる。洗濯物Wに対する各ボール21の集合位置の位置(位相差)は、例えば、回転速度ごとに予め算出しておき、その位置データを前記制御機構内のメモリ等に格納してある。なお、各ボール21の位置の推定は、実際にドラム1の回転している速度を測定し、その測定された速度に基づいて各ボール21位置の算出を逐次行っても構わない。
【0035】
本実施形態では、前記ボール位置推定モードにおける一定に保たれる第1回転速度は、洗濯物Wと各ボール21との位相差が生じ始める速度(図3のグラフでは20rpm)と、共振回転速度(図3のグラフでは43rpm)との間の速度に設定してある。より厳密には、洗濯物Wと各ボール21の位相差が所定量以上(図3のグラフでは20°以上)生じる速度(図3のグラフでは25rpm)と、共振回転速度との間に前記第1回転速度を設定している。前記第1回転速度は、洗濯物Wの重量の違いや、各縦型洗濯機100の製造誤差等により共振点のばらつきを許容し、前記共振回転速度を超えないようにするために、当該共振回転速度から所定速度だけ低い回転速度を設定してある。より具体的には、前記ドラム1や洗濯物Wの重量に関わりなく、好ましい第1回転速度を設定するには、前記第1回転速度が、共振回転速度の65%以上、95%以下に設定すればよい。本実施形態であれば、28rpm以上41rpm以下に第1回転速度を設定するのが好ましい。なお、前記第1回転速度を前記共振回転速度にできるだけ近づけた方が、各ボール21の集合位置が反相位置に近い場所に集まるため、後述するボール反相位置移動モードで各ボール21の移動を完了するのにかかる時間をより短縮することができる。
【0036】
各ボール21を所定の集合位置に集めた後の前記ボール反相位置移動モードでは、図2に示すように前記回転制御部4は、概略パルス状の速度変化を前記ドラム1に与えることで各ボール21の位置を反相位置へと少しずつ移動させるように構成してある。より具体的には、前記回転制御部4は、前記ドラム1の回転速度を前記共振回転速度よりも低い回転速度である第2回転速度と、前記共振回転速度の近傍又は前記共振回転速度よりも所定値だけ高い回転速度である第3回転速度と、に交互に変化させるように構成してある。ここで、第2回転速度は、前記第1回転速度よりも所定値だけ低い回転速度に設定してある。また、第3回転速度となるように、前記回転制御部4はパルス状の速度指令を前記電動機に入力するように構成してあり、前記ドラム1の回転速度が共振回転速度に近づくことで生じる振動が許容できる振幅となるように、速度指令のパルス数とパルス幅を設定してある。
【0037】
前記回転制御部4において前記第3回転速度に対応する速度指令を電動機に入力する際のパルス幅については、前記ボール位置推定モードで推定されている各ボール21の位置から反相位置までの距離を、前記速度指令の1パルス当たりにおける各ボール21の移動量で割った回数に設定してある。より具体的には、各ボール21の運動方程式は式数1のように記載されることから、パルス1回当たりの移動量については式数2のように表すことができる。
【0038】
【数1】

【0039】
【数2】

【0040】
ここで、C:粘度係数、τ:モータトルク、I:ボール21のイナーシャ、t:パルス幅、ω:初期回転速度である。
【0041】
また、前記第3回転速度に対応する速度指令のパルス高さ、パルス幅については、図4に示すようにドラム1の実速度が、ごく短時間だけ共振回転速度を超えるように設定してある。より具体的には前記第3回転速度に対応する速度指令のパルス高さは、前記ドラム1の実回転速度が、共振回転速度の±5%程度となるように設定してある。また、速度指令のパルス幅は、実速度が共振帯域内にいる時間が100〜1000msec程度となるように設定してある。このようにすれば、ドラム1の回転速度が瞬間的にわずかに共振回転速度を超えるように調節することができ、大きな振動が生じるのを防ぐことができる。
【0042】
さらに、第3回転速度に対応する速度指令の各パルスのパルス間隔は、ドラム1の実回転速度と、第2回転速度に対応する速度指令の差5%以内(本例では2rpm以内)となったところで次の第3回転速度に対応する速度指令のパルスを与えるようにしている。このようにパルスを入れるのは、間隔が短いと各ボール21が移動しきらず、先頭のボール21と後方のボール21に速度差が生まれ、ボール21がばらけてしまうからである。逆に言うと、第3回転速度に対応する速度指令のパルスを入力したあとに、共振回転速度よりも低い第2回転速度で一定に保つことにより、各ボール21が移動しきったあとに再び新たなパルスを入れて各ボール21を固めた状態で移動させることができる。つまり、各ボール21を固めた状態で反相位置まで揃えて移動させることができ、より短時間でアンバランスを解消することができる。
【0043】
このような前記回転制御部4によるボール反相位置移動モードでのドラム1の回転速度制御によって、図2に示すように前記ボール位置推定モードで、洗濯物Wと反相位置の間に集まっていた各ボール21は、反相位置に集めることができる。すなわち、共振周波数を定常的に超えている状態となる前に、前記ドラム1内のアンバランスが解消された状態にすることができる。
【0044】
最後に、高速域速度上昇モードにおいては、前記回転制御は図2に示すようにドラム1の回転速度を前記第2回転速度から目標の高速回転速度となるまで線形的に加速させるように構成してある。言い換えると、ドラム1の偏心荷重のアンバランスが解消された状態なった後は通常の加速によりドラム1の回転速度を上昇させている。
【0045】
このように構成された本実施形態の縦型洗濯機100における共振回転速度を超えて加速する際に生じる振動である過渡振動の低減効果について図5を参照しながら説明する。図5では本実施形態の過渡振動における最大振幅を実線で示し、比較例として本実施形態のような回転速度制御を行わない従来の洗濯機における過渡振動の最大振幅を点線で示している。なお、図5は横軸が収容されている洗濯物Wの重量を示す、縦軸が過渡振動における最大振幅を示す。
【0046】
図5から明らかなように本発明を用いた場合には、収容されている洗濯物Wの量によらず、過渡振動の最大振幅を略1/3倍程度に軽減することができている。これは前述したように、共振回転速度を超える前に、予め各ボール21を洗濯物Wに対して反相位置に配置しており、最もバランスが取れた状態になっているので、ドラム1の振れ回りを小さくすることができているからである。なお、洗濯物Wの量が0の時に違いが表れていないのは、対向する洗濯物Wが無い場合両方の洗濯機においてボールバランサ2自体がアンバランスとなっており、違いが無いためである。
【0047】
このように本実施形態の縦型洗濯機100によれば、共振回転速度を超える前の状態においてボールバランサ2を構成する各ボール21を洗濯物Wに対して同相位置と反相位置との間に集めることができる。しかも、集められた各ボール21の位置を前記第1回転速度に基づいて略正確に把握することができる。このため、前記ボール反相位置移動モードにおいて、各ボール21を移動させるべき移動量を正確に算出することができ、短時間で精度よく反相位置に各ボール21を集める事ができる。さらに、共振回転速度を超える前の状態で、各ボール21を洗濯物Wに対して反相位置に集めることができるので、最もドラム1がバランスのとれた状態で共振回転速度を超えることができ、ドラム1の振れ回りを劇的に低減することができる。従って、従来の縦型洗濯記と比較して、高速回転に移行する際の振動振幅や騒音を大幅に低減することができる。
【0048】
その他の実施形態について説明する。
【0049】
前記実施形態ではバランス用転動体はボールであったが、周方向に転動できるものであればどのような形状であっても構わない。また、前記回転制御はパルス状の速度指令を入力することで各ボールを反相位置まで移動させていたが、例えば三角波等様残な形状の入力指令により、急激な速度変化をドラムに生じさせるようにしても構わない。また、前記実施形態に加えて、各ボールの位置を検出するためのホールICや、振動の大きさを検出するMEMSセンサ等を備えても構わない。このようなセンサがある場合より厳密に振動を抑制するための制御を行ったり、各センサからの出力に応じて、例えば第1回転速度の大きさを適宜チューニングしたりするようにしても構わない。
【0050】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0051】
100・・・縦型洗濯機
1 ・・・ドラム
21 ・・・ボール(バランス用転動体)
3 ・・・電動機(モータ)
4 ・・・回転制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直軸周りに回転可能に支持されており、内部に収容される洗濯物が偏ることによる偏心荷重が作用するドラムと、前記ドラムを回転駆動する電動機と、前記ドラムに周方向に転動可能に取り付けられて前記偏心荷重によるアンバランスを打ち消す方向に移動する1又は複数のバランス用転動体と、前記電動機を駆動して前記ドラムの回転速度を制御する回転制御部とを具備した縦型洗濯機であって、
前記回転制御部が、前記ドラムの共振回転速度よりも若干低い回転速度である第1回転速度を一定時間保った後に、前記共振回転速度よりも高い回転速度に上昇させるように構成されていることを特徴とする縦型洗濯機。
【請求項2】
前記回転制御部が、前記ドラムの回転速度を前記第1回転速度で一定時間保った後において、前記ドラムの回転速度を前記共振回転速度よりも低い回転速度である第2回転速度と、前記共振回転速度の近傍又は前記共振回転速度よりも高い回転速度である第3回転速度と、に交互に変化させるように構成されており、
前記ドラムの回転速度を前記第3回転速度にする回数が、前記ドラムの回転速度が前記第1回転速度に一定時間保たれた後における、前記洗濯物に対する前記バランス用転動体の位置である初期位置に基づいて設定されている請求項1記載の縦型洗濯機。
【請求項3】
前記第1回転速度が、前記ドラムの共振回転速度の65%以上、95%以下に設定されている請求項1又は2記載の縦型洗濯機。
【請求項4】
前記第1回転速度が、28rpm以上41rpm以下に設定されている請求項1、2又は3記載の縦型洗濯機。
【請求項5】
前記ドラムの回転速度を前記第3回転速度にした場合の前記バランス用転動体の周方向への移動距離と、前記第3回転速度にする回数の積が、前記初期位置における前記洗濯物と前記バランス用転動体の周方向の距離と略等しくなるように、前記回数が設定されている請求項4記載の縦型洗濯機。
【請求項6】
前記第3回転速度が、前記ドラムにおいて生じる振動が許容振幅以下となるように設定されている請求項4又は5記載の縦型洗濯機。
【請求項7】
前記第3回転速度を継続する時間が、前記ドラムにおいて生じる振動が許容振幅以下となるように設定されている請求項4、5又は6記載の縦型洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−81543(P2013−81543A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222196(P2011−222196)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】