説明

繊毛虫検出用プライマー及びそれを用いる繊毛虫の検出方法

【課題】 水域及び土壌などの環境中に存在する繊毛虫を特異的かつ網羅的に検出する方法及びそのためのプライマーを提供すること。
【解決手段】 18S rRNA遺伝子の塩基配列において繊毛虫に特異的に存在する保存性の高い領域の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、該オリゴヌクレオチドを特異的プライマーとして用いて繊毛虫を検出する方法、ならびに環境をモニタリングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水域及び土壌など広く環境中に生息する繊毛虫を特異的に検出することのできるプライマー、及び該プライマーを用いる繊毛虫の検出方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
繊毛虫は、土壌、海水、淡水、下水処理場などのあらゆる環境中に生息している原生動物である。繊毛虫は、微生物の摂食者として生態系内の物質循環に関与しており、また、活性汚泥法による下水・汚水処理において有機物の分解反応を担うため、汚泥の状態の良否を判定する生物指標となり、環境浄化微生物として有用である。従って、これらの環境中に存在する繊毛虫群集の種組成を簡便、迅速かつ確実に解析できる新たな技術が求められている。
【0003】
環境中に生息する繊毛虫の種の同定は、これまでその生細胞又は固定済み細胞を顕微鏡下で形態を観察することにより行われており(非特許文献1)、また細胞の染色には繊毛などの構造を観察するのに適したプロタゴール染色法が提案されているが(非特許文献2)、顕微鏡観察は、熟練が必要であり、必ずしも正確な同定ができるわけではなく、労力や時間もかかる。また、繊毛虫は環境の変化によってすぐに死亡してしまうなど取り扱い上の難点があり、また、種構成を変化させることなく現地の土壌試料などの環境試料を直接実験室などに輸送することも出来ない。そのため、環境試料を固定液と合わせて繊毛虫を固定し、顕微鏡下で検鏡調査を行うことも一部では試みられているが、全ての種が適切に固定できるとは限らず、また優れた固定技術も確立されていない。
【0004】
さらに、繊毛虫は個体サイズが数十ミクロンと微小であるため、顕微鏡観察とDNA抽出の両手法を同一の個体について行うことは不可能である。また、充分なDNA量を抽出するため環境中から複数の細胞を集めようとすると、複数種が含まれる可能性が非常に高い。
【0005】
近年、分子生物学的技術は、微生物の群集構造解析を短時間で網羅的に行う強力なツールとして使われている。Wooseら(Proc.Natl. Acad.Sci. 87:4576-4579, 1990)によって、small subunits rRNA(原核生物では16S rRNA、真核生物では18S rRNA)塩基配列を用いた全生物の系統分類法が提案されたことから、微生物の16S rRNA(18S rRNA)の塩基配列は、系統樹作成のほか、それらを基にして作成したプライマーを用いた微生物の検出・同定、任意の環境中における微生物の群集構造の把握などに利用されている(特許文献1、2など)。しかしながら、これまで繊毛虫については、環境試料における繊毛虫の全てを特異的かつ網羅的に検出・同定できる手法に関する報告はない。
【0006】
【非特許文献1】橋本知義, 2000. 土の原生動物のはたらき. In 服部勉(編).新・土の微生物(7).博品社, 東京. pp. 55-91
【非特許文献2】Montagnes DJS, Lynn DH (1987) A quantitative protargol stain (QPS) for ciliates: method description and test of its quantitative nature. Mar Microb Food Webs 2:83-93
【特許文献1】特開2001-178498号公報
【特許文献2】特開2004-2611245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、環境試料における繊毛虫を特異的かつ網羅的に検出できる迅速かつ簡便な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、18S rRNA遺伝子の塩基配列において繊毛虫にのみに存在する保存性の高い領域を見出し、該領域を含む塩基配列をプライマーとして用いることによって、繊毛虫を特異的かつ網羅的に検出することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1] 以下の(a)又は(b)のオリゴヌクレオチド。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は該オリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド
(b) 配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつ繊毛虫検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチド
【0010】
[2] [1]に記載のオリゴヌクレオチドと、真核生物用ユニバーサルプライマーとして設計されたオリゴヌクレオチドで構成される、繊毛虫検出用プライマーセット。
[3] 真核生物用ユニバーサルプライマーとして設計されたオリゴヌクレオチドが、配列番号2〜6のいずれかに示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、[2]に記載の繊毛虫検出用プライマーセット。
【0011】
[4] 以下の工程を含むことを特徴とする繊毛虫の検出方法。
(1) 環境試料より抽出したDNAを鋳型とし、[2]に記載のプライマーセットを用いてPCRを行う工程
(2) PCRにより得られた増幅産物を検出する工程
【0012】
[5] 以下の工程を含むことを特徴とする環境モニタリング方法。
(1) 環境試料より抽出したDNAを鋳型とし、[2]に記載のプライマーセットを用いてPCRを行う工程
(2) PCRにより得られた増幅産物を検出する工程
(3) 検出した増幅産物からDNAを単離し、その塩基配列を決定し、得られた塩基配列に基づいて環境試料中に存在する繊毛虫の群集構造を解析する工程
【0013】
[6] PCRにより得られた増幅産物を、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis(DGGE))により分離する工程を含む、[5]に記載の方法。
[7] [2]に記載のプライマーセットを含む、繊毛虫検出用キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境中に生息する繊毛虫を特異的かつ網羅的に検出することができるプライマーが提供される。本発明のプライマーを利用することにより、環境試料中における繊毛虫を迅速かつ簡便に検出・同定できる。また、検出・同定された繊毛虫の群集構造データは土壌や水質環境をモニタリングするための指標となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のオリゴヌクレオチドには、以下の(a)又は(b)のオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0016】
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は該オリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド
(b) 配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつ繊毛虫検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチド
【0017】
上記(a)のオリゴヌクレオチドは、18S rRNA遺伝子(以下、「18S rDNA」という)に見い出される繊毛虫特異的な保存領域の塩基配列からなり、繊毛虫特異的プライマーとしてその検出に用いることができるオリゴヌクレオチドである。
【0018】
上記のような繊毛虫特異的な保存領域は、繊毛虫及びその他の生物種の18S rDNAとして知られている複数の公知の塩基配列を比較することにより特定することができる。ここで、公知の塩基配列としては、生物の18S rDNAとして知られているものであればいずれのものを用いてもよく、このような塩基配列はGenBank等のDNAデータベースを用いて検索し、入手することができる。なお、繊毛虫は、登録されたSSUrDNA配列(スモールサブユニットリボゾーマル遺伝子配列が、他の生物種の18S rDNAに相当する。DNAデータベースから入手できる18S rDNAの塩基配列としては、例えば、後記表1に示す生物種由来のものが挙げられる。
【0019】
より詳細には、繊毛虫を含む種々の生物種由来の塩基配列(図1A、B)を比較して、繊毛虫由来のものの間でのみ保存性が高く、その他の生物種由来のものとは保存性が低い領域を、繊毛虫特異的な保存領域(以下、「特異的保存領域」という)として特定する。このような特異的保存領域の塩基数は特に制限されないが、好ましくは10塩基以上、より好ましくは15塩基以上、最も好ましくは17塩基以上である。
【0020】
例えば、表1に示される繊毛虫の全てを検出の対象とする場合には、特異的保存領域として、図1Aに示す第322〜339塩基(配列番号1)の領域を特定することができる。
【0021】
また、上記(b)のオリゴヌクレオチドは、(a)のオリゴヌクレオチドと実質的に同一の機能を有する範囲で、その配列に改変(欠失、置換、挿入、又は付加)を加えたオリゴヌクレオチドである。欠失等させるオリゴヌクレオチドの数は特に限定されないが、通常、5個以下、好ましくは3個以下、さらに好ましくは1個である。また、ヌクレオチドの付加は、3'側でも5'側でもよい。
【0022】
特定した特異的保存領域に基づき、プライマーを設計する。設計されるプライマーにより増幅される領域の塩基数は特に制限されないが、好ましくは3kbp以下、より好ましくは1kbp以下とする。また、プライマーそのものの塩基数も特に制限されないが、好ましくは10塩基以上、より好ましくは15塩基以上、最も好ましくは17塩基以上とする。プライマーのGC含量は50〜65%とすることが好ましく、Tm値は、好ましくは50℃〜65℃、より好ましくは約55℃とする。さらに、2つのプライマーがプライマーダイマーを形成しないように、プライマー同士に相補性がないように設計する必要がある。
【0023】
このようにして設計されたプライマーは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法により調製することができる。
【0024】
本発明におけるプライマーセットとして、具体的には、センスプライマーには上記のいずれかのオリゴヌレクチドを用いればよく、また、アンチセンスプライマーとしては、真核生物用ユニバーサルプライマーとして設計された公知のオリゴヌレクチドを用いればよい。真核生物用ユニバーサルプライマーとして設計されたオリゴヌレクチドとしては、限定はされないが、例えば、18S929R:5'‐TTGGCAAATGCTTTCGC-3'(配列番号2)、18S568R:5'-TGGAGCTGGAATTACCGCG-3'(配列番号3)、18S1176R:5'-CCGTGTTGAGTCAAATTAG(配列番号4)、18S1418R:5'-GGGCATCACAGACCTGTTAT-3'(配列番号5)、18S1613R:5'-GCGACGGGCGGTGTGTAC-3'(配列番号6)などが挙げられる。
【0025】
上記のプライマーセットはキット化することもできる。本発明のキットは、上記プライマーセットを少なくとも含むものであればよく、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬(プライマーを除く)、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
【0026】
本発明によればまた、上記のプライマーを用いる繊毛虫の検出方法が提供され、該方法は以下の工程を含む。
(1) 環境試料より抽出したDNAを鋳型とし、上記のプライマーセットを用いてPCRを行う工程
(2) PCRにより得られた増幅産物を検出する工程
【0027】
環境試料としては、繊毛虫を含む可能性のあるものであればよく、特に制限されないが、海水、河川水、湖水、地下水、温泉水、排水処理施設(下水・汚水・工場排水(廃水)・農業排水などの処理施設)から採取した水や活性汚泥、前記排水処理施設周辺の土壌、浅海・干潟域の土壌、河川・湖沼域の土壌、有機質資材を投入した農耕地などから採取した土壌などが挙げられる。
【0028】
環境試料からのDNAの抽出は、微生物の培養物からの核酸抽出法として当業者に公知のいかなる方法を用いてもよく、例えば、フェノール/クロロホルム法、界面活性剤による細胞溶解やプロテアーゼ酵素による細胞溶解などを用いることができる。試料の種類によっては、メンブランフィルターによる濾過やホモジナイズを行う。特に、土壌サンプルの場合は、夾雑物がPCR反応に与える影響が大きいことにより、界面活性剤存在下での加熱抽出法とビースによる物理的な菌体破砕法を併用することが好ましい。この方法を行うにあたって市販のキット(ISOIL Large for Beads)を利用することができる。
【0029】
PCRを行うには、プライマーとして上記のプライマーを用いる以外は特に制限はなく、他の試薬、条件(温度条件、サイクルの回数等)は、当業者であれば適切に選択及び設定することができる。PCRにより得られる増幅産物中に、目的の増幅断片が含まれるかどうかは、アガロースゲル電気泳動、DNAハイブリダイゼーション等の公知の方法を用いて確認することができる。目的の増幅断片のサイズは、検出しようとする繊毛虫の18S rDNA上において両プライマーに挟まれる領域の塩基数となる。例えば、上記の配列番号1に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーを用いた場合には、目的とする増幅断片のサイズは約600bpである。
【0030】
また、増幅断片の塩基配列によって、水域及び土壌、活性汚泥などの環境試料中に存在する繊毛虫の群集構造を解析することができる。ここで、繊毛虫の群集構造の解析とは、その群集を構成する繊毛虫を種レベルで同定することをいう。具体的には、上記のPCR増幅産物(断片)をアガロース電気泳動等により精製し、バンドを切り出してDNAを抽出し、適当なベクターに挿入後、大腸菌等にクローニングして培養し、得られたDNA断片の塩基配列を決定する。配列の決定は、サンガー法やマキサム−ギルバート法等の一般的な方法によって行うことができる。また、上記のPCR増幅産物を変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE)により分離し、そのバンドパターン(バンドの数、大きさ、太さ、ばらつき)を解析してもよい(PCR-DDGE法)。DDGE法は、同一鎖長のDNAをその配列の違いから分離できる方法であることから、DNAを種レベルでより確実に分離できる。DGGEの条件は、増幅核酸のGC含量に依るので、必要に応じて上記プライマーの末端に、適切な泳動距離を与えるためのGCクランプ配列を付加することが好ましい。
【0031】
繊毛虫の群集構造の解析結果は、例えば、有機肥料等が土壌に及ぼす影響とその安全性の評価、排水処理などにおける活性汚泥の状態把握、漁場生態系の良好環境の指標作出及び維持、バイオレメディエーションの効果確認など、広く環境モニタリングに利用することができる。
【0032】
本発明の方法によって検出・同定可能な繊毛虫は、例えば、
アキネタ属(Acineta)属、アスピディスカ(Aspidisca)属、ブレファリズマ(Blepharisma)属、ブルサリア(Bursaria)属、キロドネラ(Chilodonella)属、
クリマコストマム(Climacostomum)属、コルボダ(Colpoda)属、ディレプタス(Dileptus)属、エンゲルマンニエラ(Engelmanniella)属、エピスティリス(Epistylis)属、ユープロテス(Euplotes)属、フロントニア(Frontonia)属、ガストロスティラ(Gastrostyla)属、ハルテリア(Halteria)属、ホロスティカ(Holosticha)属、ロウレンティエラ属(Laurentiella)属、メトプス(Metopus)属、オフリオグレナ(Ophryoglena)属、オキシトリカ(Oxytricha)属、パラウロスティラ(Paraurostyla)属、パラメシウム(Paramecium)属、ファコディニウム属(Phacodinium)属、プルーロトリカ(Pleurotricha)属、プロロドン(Prorodon)属、スパチディウム(Spathidium)属、ステイニア(Steinia)属、ストロビリディウム(Strobilidium)属、スティロニキア(Stylonychia)属、テトラヒメナ(Tetrahymena)属、トラケロラフィス(Tracheloraphis)属、ウロレプタス(Uroleptus)属、ウロスティラ(Urostyla)属、ボルティセラ(Vorticella)属などに属する繊毛虫が挙げられ、具体的には、Aspidisca steiniBlepharisma americanumBlepharisma japonicumBursaria truncatellaChilodonella uncinetaColpoda inflataEngelmannia mobilisEpistylis hentschelEuplotes eurystomusGastrostyla steiniHalteria grandinellaHolosticha multistylataLaurentiella strenuaMetopus palaeformisOphryoglena catenulaOxytricha ferrugineaParaurostyla weisseiParamecium caudatumPhacodinium metchikoffiPleurotricha lanceolotaProrodon teresProrodon viridisSteinia sphagnicolaStrobilidium caudatumStylonychia lemnaeTetrahymena voraxUroleptus gallinaUrostyla grandisVorticella campanulaなどが例示できるが、これらに特に限定はされない。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)繊毛虫に特異的な保存領域の決定とプライマーの作成
(1) 18S rRNA遺伝子における繊毛虫に特異的な保存性を有するDNA配列の決定
下記表1に示す繊毛虫33種、他の原生動物31種、線虫5種、糸状菌6種、酵母4種、植物3種の計82の生物種について18S rRNAの遺伝子の塩基配列をEMBL/GenBank/NCBIで検索後、Clustal Wのソフトウェアを用いてマルチプルアライメントを行った。
【0035】
【表1】

【0036】
その結果、18S rRNAの遺伝子の塩基配列中、第322〜339塩基の領域(図1Aの太字部分)が、繊毛虫において保存性が高い領域で、それ以外の他の生物種では保存性が低い領域であることがわかった。
【0037】
(2) プライマーの設計及び調製
上記で特定した繊毛虫の高保存領域(図2)に基づいて、センスプライマーとして、18 merからなるCS322F:5'‐GATGGTAGTGTATTGGAC-3'(配列番号1)を設計した。また、アンチセンスプライマーとしては、真核生物用ユニバーサルプライマーとして一般に使用されている18S929R:5'‐TTGGCAAATGCTTTCGC-3'(配列番号2)を設計した。配列番号2に示す配列は18S rRNAの遺伝子の塩基配列中、第913〜929塩基の17 merに相当する。
これらのプライマー は、通常のオリゴヌクレオチド合成法に従って合成した。
【0038】
(実施例2) プライマーを用いた繊毛虫の検出
繊毛虫4種:ブレファリズマ ジャポニカム(Blepharisma japonicum)、コルポダ種(Colpoda sp.)、パラメシウム カウダツム(Paramecium caudatum)、テトラヒメナ(Tetrahymena sp.)、他の原生動物5種:キロモナス パラメシウム(Chilomonas paramecium)、クロロゴニウム種(Chlorogonium sp.)、オクロモナス種(Ochromonas sp.)、アメーバ プロテウス(Amoeba proteus)、マヨレラ レイディ(Mayorella leidyi)、線虫3種:アフェレンコイデス ビカウダタス(Aphelenchoides bicaudatus)、アクロベロイデス ナヌス(Acroberoides nanus)、プリスチオンカス種(Pristionchus sp.)、糸状菌3種:ビッソアスカス ストリアフォスポラス(Byssoascus striatosporus)、ロドトルラ ムシラギノザ(Rhodotorula mucilaginosa)、トリクラディウム スペレンデンス(Tricladium splendens)、酵母1種:サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からゲノムDNA試料を常法により調製した。
【0039】
上記DNA試料を鋳型として用い、実施例1で調製したプライマーを用いてPCRを行い、その間に挟まれるDNA領域を増幅させた。具体的には、2.5μLの10×PCRバッファー[100mM Tris-HCl(pH8.3)、500mM KCl、15mM MgCl2、0.01%ゲラチン(w/v) を含む]、0.25 μL のセンスプライマー(100 pmol)、0.25 μL のアンチセンスプライマー(100 pmol)、2.5 μL のdNTPs (2.5 mM)、1ユニットのTaq ポリメラーゼ、及び250ngの鋳型DNAを反応チューブに入れ、滅菌水を加え溶液の全体量を25μL にしてPCR溶液を調製し、これをPCR反応に供した。PCR反応は、94℃15秒、64℃15秒、72℃1分を1サイクルとして25サイクル行った。
【0040】
次に、PCR増幅産物をアガロースゲル電気泳動によって分離し、検出を行った。電気泳動写真を図3に示す。その結果、繊毛虫では目的の約600 bpのDNA断片が検出されたが、それ以外の生物種では該DNA断片が検出できなかった。
(実施例3) 環境試料からの繊毛虫検出
環境試料として、畑地土壌(宮崎県都城市農林水産省九州沖縄農協研究センター圃場)を用いた。
【0041】
上記環境試料からのDNA抽出は、“ISOIL for beads beating”(ニッポンジーン社)のキットを用いた。
【0042】
環境試料DNAからPCRにより18S rDNAを増幅させるために、一般的に行われているタッチダウン法を行った。94℃5分でプレインキュベーション後、80℃1分、65℃1分、72℃1分を1サイクル、続いて94℃1分、64℃1分(1サイクルごとに0.5℃ずつ温度を下げていく)、72℃1分を1サイクルとして19サイクルを行い、その後94℃1分、55℃1分、72℃1分を1サイクルとして9サイクル、最後に94℃1分、55℃1分、72℃5分を行った。
【0043】
PCR増幅産物をアガロースゲル電気泳動により分離し、検出を行った。電気泳動写真を図4に示す。その結果、繊毛虫の目的の約600 bpのDNA断片が増幅された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1A】繊毛虫及び他の生物種の18S rRNA遺伝子の塩基配列のアライメントを示す(太字部分は繊毛虫の高保存領域)。
【図1B】繊毛虫及び他の生物種の18S rRNA遺伝子の塩基配列のアライメント(続き)を示す。
【図2】繊毛虫の高保存領域(図中の太字部分)に基づいて設計した18 merのセンスプライマー(CS322F)の配列を示す。
【図3】繊毛虫及び他の生物種由来のDNA試料に対する本発明のプライマーを用いたPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真を示す。
【図4】環境DNA試料に対する本発明のプライマーを用いたPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のオリゴヌクレオチド。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は該オリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド
(b) 配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつ繊毛虫検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチド
【請求項2】
請求項1に記載のオリゴヌクレオチドと、真核生物用ユニバーサルプライマーとして設計されたオリゴヌクレオチドで構成される、繊毛虫検出用プライマーセット。
【請求項3】
真核生物用ユニバーサルプライマーとして設計されたオリゴヌクレオチドが、配列番号2〜6のいずれかに示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項2に記載の繊毛虫検出用プライマーセット。
【請求項4】
以下の工程を含むことを特徴とする繊毛虫の検出方法。
(1) 環境試料より抽出したDNAを鋳型とし、請求項2に記載のプライマーセットを用いてPCRを行う工程
(2) PCRにより得られた増幅産物を検出する工程
【請求項5】
以下の工程を含むことを特徴とする環境モニタリング方法。
(1) 環境試料より抽出したDNAを鋳型とし、請求項2に記載のプライマーセットを用いてPCRを行う工程
(2) PCRにより得られた増幅産物を検出する工程
(3) 検出した増幅産物からDNAを単離し、その塩基配列を決定し、得られた塩基配列に基づいて環境試料中に存在する繊毛虫の群集構造を解析する工程
【請求項6】
PCRにより得られた増幅産物を、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis(DGGE))により分離する工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項2に記載のプライマーセットを含む、繊毛虫検出用キット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−314244(P2006−314244A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139778(P2005−139778)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:日本微生物生態学会第20回大会委員会 刊行物名:第20回日本微生物生態学会講演要旨集 掲載頁:81頁 刊行物発行年月日:2004年11月21日
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】