説明

繊維マットの製造方法、及び、繊維マット

【課題】極細繊維からなる繊維マットを優れた生産性で製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の繊維マットの製造方法は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物の端部にレーザー光を照射して上記シート状物の端部を線状に加熱溶融させるとともに、上記シート状物の加熱溶融した部分と金属コレクターとの間に電位差を設けることにより、繊維を上記金属コレクター方向に飛翔させて形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融型静電紡糸法を利用した繊維マットの製造方法、及び、繊維マットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブミクロン又はナノメータオーダの繊維径を有する繊維(ナノ繊維)は、大きい比表面積と繊維形態とを活用した新規な材料を開発可能な点から注目されている。
ナノ繊維を製造する方法としては、例えば、高分子溶液又は高分子融液に高電圧を作用させて繊維を形成する静電紡糸法が提案されている。
【0003】
このうち、高分子融液に高電圧を作用させて繊維を形成する静電紡糸法(以下、溶融型静電紡糸法という)は、溶媒を使用しないため、溶媒を回収する必要がなく、また、捕集した繊維から残存溶媒を除去する必要がないため、高分子溶液に高電圧を作用させて繊維を形成する静電紡糸法(溶媒型静電紡糸法)と比較して、環境に優しく、高い生産性で極細繊維を製造できる利点を有する。
また、溶融型静電紡糸法は、溶媒がいらないので原料樹脂の選択の自由度が高い利点も有する。
【0004】
溶融型静電紡糸法としては、例えば、レーザー光を照射して熱可塑性樹脂を加熱溶融させる加熱溶融工程と、熱可塑性樹脂の溶融部に電圧を作用させて、伸長する繊維をコレクターに捕集する静電紡糸工程とを経て繊維を製造する溶融型静電紡糸法が提案されている(特許文献1参照)。そして、この方法では、紡糸材料として線状体樹脂を使用し、その先端から繊維を吐出させることにより繊維を製造している。
【0005】
例えば、特許文献2、3には、(1)ポリマーを供給する供給工程、(2)上記供給したポリマーに対してレーザーを照射してポリマーが変形可能な状態にする照射工程、(3)上記変形可能なポリマーを電気的に或いは、力学的に牽引し、引き伸ばして細径化するとともに繊維化する繊維化工程、及び、(4)上記繊維を集積して繊維集合体を形成する繊維集合体形成工程を備える繊維集合体の製造方法が開示されている。しかしながら、この紡糸法もまた、紡糸材料として繊維又は棒状樹脂を使用し、ポリマーを溶融させることなく、変形させることによって細径化した繊維を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−239114号公報
【特許文献2】特許第4238119号
【特許文献3】特許第4238120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示された溶融型静電紡糸法では、紡糸材料として、線状又は棒状の樹脂や繊維を使用しているため、生産性が低く、特に、繊維マットの製造には不向きであった。さらに、特許文献2、3では、ポリマーの溶融を経ずに紡糸して細径化するため、極細化した繊維を生産できなかった。
【0008】
このような課題を本発明者らは、既に、熱可塑性樹脂からなるシート状物を出発材料に用いた繊維マットの製造方法を提案している(特願2009−129680)。
そして、本発明者らは、更に検討を重ね、構成繊維の繊維径が細く、生産性に優れた繊維マットの製造方法を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の繊維マットの製造方法は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物の端部にレーザー光を照射して上記シート状物の端部を線状に加熱溶融させるとともに、上記シート状物の加熱溶融した部分と金属コレクターとの間に電位差を設けることにより、繊維を上記金属コレクター方向に飛翔させて形成することを特徴とする。
【0010】
上記繊維マットの製造方法において、上記シート状物は、少なくとも2種類の熱可塑性繊維からなる繊維集合体から作製されたシート、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂から作製されたシート、又は、少なくとも1種類の熱可塑性繊維と少なくとも1種類の熱可塑性樹脂とから作製されたシートであることが望ましい。
なお、本明細書においては、熱可塑性樹脂からなる繊維を熱可塑性繊維と称する。
【0011】
上記繊維マットの製造方法においては、上記捕集部材上で繊維を捕集した後、上記繊維を構成する熱可塑性樹脂成分のうち少なくとも1種類を溶媒により除去することが望ましい。
【0012】
本発明の繊維マットの製造方法により製造された繊維マットもまた本発明の1つである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維マットの製造方法は、その出発材料として、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物を使用しているため、1種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物を使用する場合に比べて繊維径の小さい、極細繊維からなる繊維マットを製造することができる。
本発明の繊維マットの製造方法は、その出発材料として、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂材料からなるシート状物を使用しているため、紡糸と同時に繊維マットを製造することができ、棒状の出発材料を使用する場合に比べて格段に生産性に優れる。
また、溶媒を使用することなく、繊維マットを製造することも可能であるため、安全性にも優れる。
【0014】
また、本発明の繊維マットは、本発明の繊維マットの製造方法を用いて製造するため、上記繊維マットを構成する繊維は、溶媒等の不純物が残留していない材料樹脂のみからなり、耐溶剤性に優れる極細繊維であり、このような繊維マットは、電池用セパレータやキャパシター用セパレータ、気体・液体用各種高性能フィルター、細胞成長用の足場材料等に特に好適に使用することができる。
本発明の繊維マットでは、特に、汎用溶媒に不溶な熱可塑性樹脂をその材料として選択することにより、耐溶剤性に極めて優れた繊維マットとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の繊維マットの製造方法の一例を模式的に示す概略図である。
【図2】加熱溶融部に形成されたテーラーコーンの写真である。
【図3】本発明の繊維マットの製造方法を行う製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】比較例1で製造したPP繊維からなる繊維マットの観察画像(×2000)である。
【図5−1】実施例1で製造したPEGを除去する前の複合繊維マットの観察画像(×2000)である。
【図5−2】実施例1で製造したPEGを除去する前の複合繊維マットの観察画像(×5000)である。
【図6−1】実施例1で製造したPEGを除去した後の繊維マットの観察画像(×2000)である。
【図6−2】実施例1で製造したPEGを除去した後の繊維マットの観察画像(×5000)である。
【図7】実施例1〜3で製造した繊維マットの細孔径分布を示すグラフである。
【図8】比較例2で製造したPP繊維からなる繊維マットの観察画像(×2000)である。
【図9】実施例4で製造したPEGを除去する前の複合繊維マットの観察画像(×2000)である。
【図10−1】実施例4で製造したPEGを除去した後の繊維マットの観察画像(×2000)である。
【図10−2】実施例4で製造したPEGを除去した後の繊維マットの観察画像(×5000)である。
【図11】実施例5で製造した複合繊維マットの観察画像(×5000)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の繊維マットの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
本発明の繊維マットの製造方法では、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物の端部にレーザー光を照射して上記シート状物の端部を線状に加熱溶融させるとともに、上記シート状物の加熱溶融した部分と金属コレクターとの間に電位差を設けることにより、繊維を上記金属コレクター方向に飛翔させて形成する。
図1は、本発明の繊維マットの製造方法の一例を模式的に示す概略図である。
【0017】
本発明の繊維マットの製造方法では、図1に示すように、レーザー光源11から出射したレーザー光をレーザー光走査手段15を介して保持部材18に保持された熱可塑性樹脂からなるシート状物17の端部17aを走査するように照射するとともに、電源20により電圧を印加し、端部17aとシート状物17の下側に配設された金属コレクター29との間に電位差を生じさせる。
その結果、レーザー光の照射により、シート状物17の端部17aが加熱溶融されるとともに、この加熱溶融した部分に電荷が付与されることとなる。そして、電荷が付与された加熱溶融部には、その表面に電荷が集まり反発することによって、次第に複数の針状突出部(以下、テーラーコーンともいう)が形成され、電荷の反発力が表面張力を超えると、溶融した熱可塑性樹脂は、テーラーコーン先端から静電引力により金属コレクター29に向かって繊維として吐出され、即ち、針状突出部から繊維が形成され、金属コレクター29方向に飛翔する。その結果、伸長した繊維は金属コレクター29上に位置し、経時的に移動する捕集部材19で捕集される。
ここで、金属コレクター29と捕集部材19とは別の部材で構成されているが、両者は一体化された一つの部材で構成されていてもよく、例えば、金属コレクター29が移動可能に構成され、捕集部材としても機能するようになっていてもよい。
【0018】
金属コレクター29は、表面電気抵抗値が金属と同等程度を有するものである。
その形状は特に限定されないが、板状、ローラー状、ベルト状、ネット状、鋸状、波状、針状、線状などが挙げられる。
【0019】
ここで、レーザー光走査手段15は、シート状物17の端部17aを走査するようにレーザー光を照射するための光学部品の集合体であり、ミラー12A、12B、ビームエキスパンダー13、及び、ポリゴンミラー14で構成されている。レーザー光源11から出射したレーザー光は、ミラー12A、12Bを介してビームエキスパンダー13に導入することでレーザー光の径を絞り込み、その後、高速で回転するポリゴンミラー14に照射することにより、シート状物17の端部17aを走査するように均一にレーザー光を照射することができる。
【0020】
また、図1に示した例では、シート状物17を保持する保持部材18が電極としての機能を兼ねており、電源(高電圧発生装置)20により、保持部材18に電圧が印加されると、シート状物17の端部17aに電荷が付与されることとなる。
【0021】
また、保持部材18では、シート状物から繊維が吐出されるにしたがって、シート状物17を金属コレクター29側(捕集部材19側)に連続的に送り出す。
上記シート状物を連続的に送り出す場合、その供給速度は特に限定されないが、通常、0.01〜150.0mm/min程度であり、好ましくは0.05〜100.0mm/min、さらに好ましくは0.1〜60.0mm/minである。速度を速くすれば生産性が高まるが、速すぎると、レーザー光照射部近傍での熱可塑性樹脂が充分溶融しないので繊維が紡糸されにくい。一方、速度が遅いと、熱可塑性樹脂が分解したり、生産性が低くなることがある。
【0022】
本発明の繊維マットの製造方法では、捕集部材をシート状物の端部に対して相対的かつ経時的に移動させる必要があり、図1に示した例では、捕集部材19自身を移動させることでこれを達成している。
ただし、本発明の繊維マットの製造方法において、捕集部材はシート状物の端部に対して相対的に移動すれば良いため、必ずしも、捕集部材自身を移動させる必要はなく、例えば、シート状物の保持位置を移動させて良い。また、捕集部材がシート状物の端部に対して相対的する態様には、テーラーコーンから捕集部材に向かって飛翔中の繊維に、力学的、磁力的又は電気的な力を作用させることで捕集位置を移動させる態様、例えば、飛翔中の繊維にエアーを吹き付ける態様も含む。
もちろん、これらの捕集部材をシート状物の端部に対して相対的に移動させる態様は、組合せて使用してもよい。
【0023】
捕集部材をシート状物の端部に対して相対的かつ経時的に移動させる方法は、製造する繊維マットの形状(厚さや目付等)を制御しやすい点で、捕集部材自身を移動させる方法が望ましく、このような構成を備えた装置については、後述する。
また、捕集部材が移動させる場合、その移動速度は、一定であってもよいし、経時的に変化してもよく、さらには、移動と停止とを繰り返してもよい。
上記捕集部材の移動速度は特に限定されず、製造する繊維シートの目付等を考慮して適宜決定すればよい。
例えば、目付100g/mのシート状物の供給速度が0.5mm/minである場合、捕集部材の移動速度を100mm/min程度に設定することにより、目付0.5g/m程度の繊維マットを連続的に製造することができる。
【0024】
また、複数枚の上記シート状物を平行に並べ、それを上記捕集部材の移動方向に沿って設置し、各シート状物の端部から繊維を同時に飛翔させてもよい。この場合、繊維マットの製造速度を複数倍に向上させることができる。
【0025】
次に、電荷が付与されたシート状物の加熱溶融部にテーラーコーンが形成され、繊維が吐出される工程についてもう少し詳しく説明する。
図2は、加熱溶融部に形成されたテーラーコーンの写真である。
図2に示すように、電圧を印加した状態のシート状物31の端部を走査するようにレーザー光を照射すると、シート状物31の端部に線状の加熱溶融部32が形成され、さらに、加熱溶融部32の先端に波状の摂動(メニスカス不安定現象)が発生し、この摂動(メニスカス)が発達してテーラーコーン33が形成され、電荷の反発力が表面張力を超えると、テーラーコーンから金属コレクター側(図中、下側)に向かって繊維が吐出される。
図2に示した写真中の目盛りは、テーラーコーン間隔を測定するために取り付けたものである。
【0026】
また、本発明の製造方法では、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物を使用しているため、上記テーラーコーンが形成されやすい傾向にあり、そのため、1種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物を使用する場合に比べて、繊維径を細くするのに適している。なお、テーラーコーンが形成されやすい理由については、表面張力が均一化しにくいためではないかと推測している。
【0027】
また、図1に示した例では、ポリゴンミラー14を介してシート状物の端部全体にレーザー光を照射しているが、本発明の繊維マットの製造方法では、シート状物の端部全体にレーザー光を照射することができれば、他の方法でレーザー光をシート状物の端部に照射してもよく、例えば、ポリゴンミラー14に代えて、ガルバノミラーを使用してレーザー光を照射してもよい。
【0028】
本発明の繊維マットの製造方法において、上記シート状物の厚さは特に限定されないが、通常、0.01〜10mmであり、好ましくは、0.03〜5.0mmである。
そして、上記シート状物の厚さを適宜変更することにより、テーラーコーンの数(テーラーコーンの間隔)を調整することができるのである。具体的には、シート状物の厚さが厚いほど、テーラーコーンの数が少なく(テーラーコーンの間隔が大きく)なる傾向にある。
この理由は定かではないが、シート状物の厚さが厚くなると、シート状物の端部における溶融体の体積が増加することとなり、その結果、テーラーコーンがよく発達し、各テーラーコーン間の静電反発が大きくなるため、テーラーコーンの間隔が大きくなると考えられる。
なお、テーラーコーンが発達するとは、テーラーコーンの高さ(図2中、h)が大きくなることを意味する。
【0029】
少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物としては、例えば、(1)少なくとも2種類の熱可塑性繊維からなる繊維集合体から作製されたシート、(2)少なくとも2種類の熱可塑性樹脂から作製されたシート、(3)少なくとも1種類の熱可塑性繊維と、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂とから作製されたシート等が挙げられる。
【0030】
上記シート状物は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるものであれば良い。
また、その形状は、特に限定されず、例えば、フィルム、プレート、ボード等が挙げられる。
【0031】
上記(1)のシートは、材質の異なる2種類の繊維からなる繊維集合体(不織布、織物、編み物等)であり、上記繊維集合体としては不織布が望ましい。また、上記(1)のシートは従来公知の不織布の製造方法により作製することができる。
上記(1)のシートは、熱可塑性樹脂の組合せの選択の自由度が極めて高いとの利点を有す。即ち、各熱可塑性樹脂成分の融点が大きく異なり、混練によりフィルムとして成形することが困難である場合であっても、繊維集合体であれば、容易にシート状物を作製することができるからである。
【0032】
上記(2)のシートは、例えば、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂を予め混練した後、成形して作製したシートである。
上記(2)のシートは、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂が小粒子状でシート状物中に存在するので、より細い繊維マットを形成することができる、との利点を有する。
【0033】
上記(3)のシートは、例えば、少なくとも1種類の熱可塑性繊維からなる不織布を、少なくとも1種類の別の熱可塑性樹脂の溶融液や溶液に含浸させ、その後、必要に応じて、乾燥処理を施して作製したシートや、少なくとも1種類の熱可塑性繊維からなる不織布に、少なくとも1種類の別の熱可塑性樹脂からなる粉末を散布複合することにより作製したシート等である。
上記(3)のシートは、少なくとも1種類の別の熱可塑性樹脂が繊維化しにくい熱可塑性樹脂であっても容易に2種類の熱可塑性樹脂を複合でき、また融点の大きく異なる熱可塑性樹脂を容易に複合できる、との利点を有する。
【0034】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂等)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等)、ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル等の塩化ビニル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂等)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンナフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系、ポリトリメレチンテレフタレート系、ポリエチレンテレフタレート系等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアリレート等の全芳香族ポリエステル系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂等)、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン6/12、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド系樹脂、ナイロン9MT等の半芳香族ポリアミド系樹脂、MXD6等の芳香族ポリアミド系樹脂、液晶ポリアミド系樹脂等)、ポリイミド系樹脂(例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート等)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂(例えば、ポリフェニレンサルファイド等)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(例えば、ポリフェニレンエーテル等)、ポリアセタール樹脂(例えば、ポリオキシメチレン等)、ポリエーテルケトン系樹脂(ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等)、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等)、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0035】
上記熱可塑性樹脂のなかでは、ナノ繊維等の極細繊維を形成し易い点から、低粘度の熱可塑性樹脂が好ましい。また、電荷による電気的牽引力が発生しやすく、テーラーコーンを形成し易い点から、極性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0036】
ここでは、ポリエチレングリコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂、ポリアミド系樹脂と、他の熱可塑性樹脂との組合せが特に好ましい。
ポリエチレングリコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂、ポリアミド系樹脂と組合せることにより、テーラーコーンの形成しにくい樹脂、例えば、ポリプロピレン等であっても確実に繊維化することができるからである。
【0037】
また、本発明の繊維マットの製造方法では、上記熱可塑性樹脂は、生分解性プラスチックや、エンジニアリングプラスチックであってもよい。
生分解性プラスチックやエンジニアリングプラスチックは、これらを溶解させる溶媒の種類が少なく、また、そのような溶媒は、高価で、取り扱いに注意を要するものが多いため、溶媒を必要としていない本発明の繊維マットの製造方法に適している。
【0038】
上記脂肪族ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリネオペンチレンサクシネート等のポリアルキレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチレンアジペート等のポリアルキレンアジペート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸等のポリオキシカルボン酸、ポリプロピオラクトン、ポリカプロラクトン等のポリラクトン等が挙げられる。
【0039】
なお、熱可塑性樹脂は、繊維に用いられる各種の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、蓄熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤、可塑剤、増粘剤、分散剤、発泡剤、界面活性剤等を含有した熱可塑性樹脂組成物であってもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて含有することができる。
【0040】
これらの添加剤のなかで、例えば、界面活性剤を用いることは下記の理由で好ましい。
即ち、シート状物に高電圧を印加して電荷を注入する際、熱可塑性樹脂からなるシート状物は電気絶縁性が高く、電気抵抗の低くなる熱溶融部までに電荷を注入しにくい。しかし、熱可塑性樹脂の繊維からなる繊維集合体は、電気絶縁性の大きい繊維の表面に界面活性剤などを付与することでシート状物の電気抵抗が低下し、熱溶融部まで十分に電荷を注入できる。また、界面活性剤などの付与は、シート状物に高電圧を印加して電荷を注入する際、シートが複数成分で構成されている場合の相分離に有効である。
【0041】
これらの添加剤は、それぞれ、熱可塑性樹脂100質量部に対して、50質量部以下の割合で使用でき、例えば、0.01〜30質量部、好ましくは0.1〜5質量部程度の割合である。
【0042】
本発明のレーザー光源としては、例えば、YAGレーザー、炭酸ガス(CO)レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー、ヘリウム−カドミウムレーザー等が挙げられる。これらのなかでは、電源効率が高く、熱可塑性樹脂の溶融性が高い点から、炭酸ガスレーザーが好ましい。また、レーザー光の波長は、例えば、200nm〜20μm、好ましくは500nm〜18μm、さらに好ましくは5〜15μm程度である。
【0043】
また、上記レーザー光の出力は、加熱溶融部の温度が熱可塑性樹脂の融点以上であり、かつ、熱可塑性樹脂の発火点以下の温度となる範囲に制御すればよいが、吐出させる繊維の繊維径を小さくする観点からは高い方が好ましい。具体的なレーザー光の出力は、用いる熱可塑性樹脂の物性値(融点、LOI値(限界酸素指数))や形状、熱可塑性樹脂の供給速度等に応じて適宜選択できる。
また、加熱溶融部の温度は、熱可塑性樹脂の融点以上で、発火点以下の温度であれば特に限定されないが、通常100〜600℃程度であり、好ましくは200〜400℃である。
【0044】
また、レーザー光の走査速度は、30m/s以上が望ましい。
走査速度が30m/s未満では、シート状物の端部全体を同時に加熱溶融することができないことがあるからである。
【0045】
図1に示した本発明の繊維マットの製造方法では、レーザー光は一方向のみからシート状物の端部に照射しているが、例えば反射ミラーを介してレーザー光を2方向からシート状物の端部に照射してもよい。シート状物の厚さが厚くても、その端部をより均一に溶融させることができるからである。
【0046】
本発明の繊維マットの製造方法において、上記シート状物の端部と上記捕集部材との間に発生させる電位差は放電しない範囲で高電圧であるのが好ましく、要求される繊維径、電極と捕集部材との距離、レーザー光の照射量等に応じて適宜選択できるが、通常、0.1〜30kV/cm程度であり、好ましくは0.5〜20kV/cm、さらに好ましくは1〜10kV/cmである。
【0047】
熱可塑性樹脂の溶融部に電圧を印加する方法は、レーザー光の照射部(熱可塑性樹脂の加熱溶融部)と電荷を付与するための電極部とを一致させる直接印加方法であってもよいが、簡便に装置を作製できる点、レーザー光を有効に熱エネルギーに変換できる点、レーザー光の反射方向を容易に制御でき、安全性が高い点等から、レーザー光の照射部と電荷を付与するための電極部とを別個の位置に設ける間接印加方法(特に、熱可塑性樹脂の供給方向における下流側にレーザー光の照射部を設ける方法)が好ましい。特に、上記繊維マットの製造方法では、電極部よりも下流側で熱可塑性樹脂にレーザー光を照射するとともに、電極部とレーザー光照射部との距離を特定の範囲(例えば、10mm以下程度)に調整するのが好ましい。この距離は、熱可塑性樹脂の導電率、熱伝導率、ガラス転移点、レーザー光の照射量等に応じて選択でき、例えば、0.5〜10mm、好ましくは1〜8mm、さらに好ましくは1.5〜7mm、特に好ましくは2〜5mm程度である。両者の距離がこの範囲にあると、レーザー光照射部近傍での熱可塑性樹脂の分子運動性が高まり、溶融状態の熱可塑性樹脂に充分な電荷を付与できるため、生産性を向上できる。
【0048】
また、上記シート状物の端部(テーラーコーンの先端部)と上記捕集部材との距離は特に限定されず、通常、5mm以上であればよいが、効率よく極細繊維を製造するためには、好ましくは10〜300mm、より好ましくは15〜200mm、さらに好ましくは50〜150mm、特に好ましくは80〜120mm程度である。
【0049】
また、上記繊維マットの製造方法において、上記シート状物の端部と上記捕集部材との間の空間(紡糸空間)は、不活性ガス雰囲気であってもよい。紡糸空間を不活性ガス雰囲気とすることにより、繊維の発火を抑制できるため、レーザー光の出力を高めることができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、炭酸ガス等が挙げられる。これらのうち、通常、窒素ガスを使用する。
また、上記不活性ガスの使用により、加熱溶融部における酸化反応を抑制することができる。
【0050】
また、上記紡糸空間は加熱してもよい。これにより、飛翔させる繊維の繊維径を小さくすることができる。即ち、紡糸空間の空気又は不活性ガスを加熱することにより、形成されつつある繊維の急激な温度低下を抑制することができ、これにより、繊維の伸長又は延伸を促進し、より極細な繊維が得られるのである。
加熱方法としては、例えば、ヒーター(ハロゲンヒーター等)を用いた方法や、レーザー光を照射する方法等が挙げられる。加熱温度は、熱可塑性樹脂の融点に応じて、例えば、50℃以上の温度から熱可塑性樹脂の発火点未満までの温度範囲から選択できるが、紡糸性の点から、熱可塑性樹脂の融点未満の温度が好ましい。
【0051】
また、本発明の繊維マットの製造方法では、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂が複合してなる繊維を上記捕集部材で捕集した後、上記繊維を構成する熱可塑性樹脂成分のうち少なくとも1種類を溶媒により除去する工程を行っていてもよい。
このような工程を行うことにより、繊維マットを構成する各繊維の繊維径をより極細化することができる。
また、本工程を行うことにより、繊維マットを構成する各繊維の表面積を増大させることができるため、本工程を経て製造された繊維マットは、気体・液体用各種高性能フィルターとして特に好適に使用することができる。
【0052】
上記溶媒としては、繊維に含有される熱可塑性樹脂のうち、任意の成分を溶解させることができる、水(温水を含む)、酸、アルカリ、各種有機溶媒など適宜選択すればよい。
例えば、除去する熱可塑性樹脂成分が、ポリエチレングリコールではあれば温水を含む水やジメチルスルホキシドを選択すればよく、ナイロン6、ナイロン6/12、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド系樹脂であれば蟻酸を選択すればよい。
【0053】
本発明の繊維マットの製造方法では、一旦、繊維マットを製造した後、目的に応じて、例えば、エレクトレット加工による帯電処理、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合などによる親水化処理等の後加工処理を施してもよい。また、さらに二次加工を施してもよい。
【0054】
そして、本発明の繊維マットの製造方法では、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物を使用しており、この熱可塑性樹脂の種類や組合せ、シートの供給速度やレーザー強度、また、捕集部材の移動速度等を調節することにより、製造する繊維マットの繊維径、厚み、目付等の形状を制御することができる。
【0055】
本発明の繊維マットの製造方法は、例えば、下記のような製造装置を用いて行うことができる。
即ち、レーザー光源と、熱可塑性シート状物の端部を走査するようにレーザー光を照射できるレーザー光走査部材と、上記シート状物をレーザー照射部に供給する装置と、繊維を捕集する捕集部材と、レーザー光により溶融したシート状物と金属コレクター間に高電圧を印加できる一対の電極と、高電圧印加できる電源と、を備える装置を用いることができる。
【0056】
図3は、本発明の繊維マットの製造方法を行う製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、製造装置100は、レーザー光源111と、レーザー光走査部材115と、シート状物117を連続的に送り出せるシート状物供給装置108と、シート状物117を保持する保持部材118、シート状物117に電荷を付与する電極128、繊維を捕集するための捕集部材119、電極128とシート状物117の端部117a及び捕集部材119を介して対向配置された金属コレクター129、及び、加熱装置121が配設された筐体101と、電極128、金属コレクター129のそれぞれに電圧を印加する電源120a、120bと、捕集部材119を移動させるためのプーリー109とを備えている。
【0057】
ここで、レーザー光源111は、図1に示したレーザー光源11に相当し、レーザー光走査部材115は、図1に示したレーザー光走査手段15に相当する。そして、レーザー光源111から出射したレーザー光116は、レーザー光走査部材115を介して筐体101内に導入され、シート状物117の端部117aを走査するように照射される。
筐体101の上部には、モータとモータの回転運動を直線運動に変換する機構とを備えたシート状物供給装置108が取り付けられており、シート状物117は、このシート状物供給装置108に取り付けられ、連続的に筐体101内へ送り出されることとなる。
一方、シート状物117の他端近傍は、スリット部118aを備え、スリット部118aに電極128が取り付けられた保持部材118により保持されている。ここで、シート状物117は、スリット部118aに挿入されて保持されている。また、スリット部118aに挿入されたシート状物117と電極128とは常に接触しているため、電極128に電圧が印加されると、シート状物117に電荷が付与されることとなる。
【0058】
電極128と対になる金属コレクター129(電極128と対をなす電極として機能する)は、シート状物117の端部117a及び捕集部材119を介して対向する位置に配設されている。そのため、電極128及び金属コレクター129に電圧が印加された場合には、シート状物117の端部117aと捕集部材119との間には電位差が生じることとなる。電極128、金属コレクター129への電圧の印加は、それぞれに接続された電源120a、120bにより行われる。なお、製造装置100では、電極128が正電極であり、金属コレクター129が負電極であるが、逆の場合でも良い。
捕集部材119は、プーリー109とコンベアベルトとからなるベルトコンベアであり、コンベアベルト自体が、捕集部材119に相当する。そのため、プーリー109の駆動に伴って、捕集部材119(コンベアベルト)は所定の方向(例えば、図中、右方向)に移動する。
【0059】
製造装置100は、加熱装置121を備えており、シート状物117の端部117aから捕集部材119に向かって吐出され、伸長した繊維を加熱することができる。また、筐体101内には、レーザー光吸収板125及び熱吸収板131を備えている。
【0060】
このような製造装置100では、電極128及び金属コレクター129のそれぞれに電圧を印加した状態で、シート状物供給装置108及び保持部材118によりシート状物117を供給しつつ、シート状物117の端部117aを走査するようにレーザー光を照射することにより、既に説明したように、シート状物117の端部117aにテーラーコーンが形成され、このテーラーコーンより繊維が吐出され、金属コレクター129側に飛翔し、その結果、伸長した繊維が捕集部材119で捕集されることとなる。
そして、シート状物117を連続的に供給しつつ(連続的に繊維を吐出させつつ)、捕集部材119を移動させることにより、捕集部材119上に繊維マットを製造することができるのである。
【0061】
製造装置100において、捕集部材119はシート状の部材である。本発明の製造装置において、捕集部材119はシート状であれば特に限定されないが、紙、フィルム、各種織物、不織布、メッシュ等である。また、捕集部材が、金属あるいは表面電気抵抗値が金属と同等程度を有するシートあるいはベルトであっても良い。
【0062】
さらに、製造装置100において捕集部材119は、捕集する繊維の取り扱い性の点から接地(アース)してもよい。
【0063】
製造装置100において、電極128、金属コレクター129の材料は、導電性材料(通常、金属成分)であればよく、例えば、クロム等の6A族元素、白金等の8族金属元素、銅や銀等の1B族元素、亜鉛等の2B族元素、アルミニウム等の3B族元素等の金属単体や合金(アルミニウム合金やステンレス合金等)、又はこれらの金属を含む化合物(酸化銀、酸化アルミニウム等の金属酸化物等)等が挙げられる。これらの金属成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属成分のうち、銅、銀、アルミニウム、ステンレス合金等が特に好ましい。金属コレクター129の形状は特に限定されないが、板状、ローラー状、ベルト状、ネット状、鋸状、波状、針状、線状などが挙げられる。これらの形状のうち板状、ローラー状が特に好ましい。
【0064】
レーザー光吸収板125としては、例えば、黒体を塗装した金属や多孔質セラミック等が挙げられる。熱吸収板131としては、例えば、黒色のセラミック等が挙げられる。
【0065】
このような製造装置100を用いることにより、本発明の繊維マットの製造方法を好適に行うことができる。
そして、本発明の繊維マットの製造方法を行うことにより、繊維や繊維マットを高い生産性で作製することができる。
なお、本発明の繊維マットの製造方法で製造した繊維マットもまた、本発明の1つである。
【0066】
本発明の繊維マットは、本発明の製造方法で製造されるため、上記繊維マットを構成する繊維は、溶媒等の不純物が残留していない、材料樹脂のみからなる繊維とすることができる。
【0067】
上記繊維マットを構成する繊維は、繊維径の小さい極細繊維であることが望ましく、上記繊維の平均繊維径は、例えば、5μm以下であり、好ましくは50nm〜3μm程度である。また、このような平均繊維径を有する極細繊維には、例えば、50〜1000nm程度の繊維径を有する繊維が含まれていてもよい。さらに、上記繊維は、相対的に繊維径の大きい繊維と相対的に繊維径の小さい繊維とが混在していてもよい。
【0068】
上記繊維マットの厚さは、用途に応じて適宜選択すればよく、0.0001〜100mm程度の範囲から選択できるが、通常、0.001〜5mm、好ましくは0.01〜1mm、さらに好ましくは0.05〜0.1mm程度である。
さらに、上記繊維マットの目付も、用途に応じて選択でき、通常、0.001〜100g/m程度であり、好ましくは0.05〜50g/m、さらに好ましくは0.1〜10g/m程度である。
【0069】
上記細孔径分布は、用途に応じて適宜調整すればよく、通常、平均細孔径が50μm以下であり、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
【0070】
また、上記繊維マットは、他の不織布(例えば、スパンボンド不織布等)や織編物、フィルム、ボード、電極基盤等と積層一体化されたものであってもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について実施例を掲げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
(シート状物1及びシート状物2の作製)
下記PP(ポリプロピレン)繊維に下記PEG(ポリエチレングリコール)を複合したシート状物1、及び、下記PP繊維のみからなるシート状物2のそれぞれを下記の方法により作製した。
PP繊維:クラレ社製、メルトブローン不織布(目付40g/m
PEG:和光純薬工業社製、ポリエチレングリコール(Mw70000)
【0073】
具体的には、PP繊維を幅150mmに切り出し、PPとPEGの重量比が30:70となるようにPP繊維上にPEGを散布複合した。これを150℃、100kgf/cmで5分間メルトプレスし、厚さ0.2mm、幅150mm、目付100g/mのPPとPEGとからなるシート状物1を作製した。
また、PP繊維のみをシート状物1と同様の条件でメルトプレスし、厚さ0.2mm、幅150mm、目付40g/mのシート状物2を作製した。
【0074】
(実施例1)
図3に示した製造装置100のレーザー光源111として、COレーザー(Universal Laser Systems社製、UL−50、波長10.6μm、出力定格50W、空冷型、ビーム径5mm)を使用した。レーザー光走査部材115として、Auコートミラー12Aと、Cuコートミラー12Bと、倍率0.4倍のビームエキスパンダー(住友電工ハードメタル社製、BX38.1−25.4−2.0)と、ポリゴンミラー(レーザックス社製、15面体、外接円径40mm)とをこの順で所定の位置に配置したものを使用した。
【0075】
そして、このレーザー光走査部材115を介して、走査幅150mm、走査速度272m/sでビーム径2mmのレーザー光を保持部材118で保持したシート状物1の端部に照射した。
このとき、電極128の下端と捕集部材119の上面との距離は10cmとし、電極128及び金属コレクター129の間の電位差は40kVとした。また、シート状物1の供給速度は、20mm/min、捕集部材の移動速度は、120cm/sとした。
これにより、PP/PEG繊維からなる複合繊維マットを製造した。
なお、本発明で製造する繊維マットについて、繊維マットを構成する繊維が2種類以上の熱可塑性樹脂からなる場合、その繊維マットは、複合繊維マットとも称する。
【0076】
次に、下記の条件で、PP/PEG繊維からなる複合繊維マット中のPEGを除去し、PP繊維からなる、目付0.5g/mの繊維マットを製造した。
即ち、PP/PEG繊維からなる複合繊維マットを50℃の温水中で24時間攪拌し、その後、吸引ろ過による繊維マットとろ液の分離により、PEGを除去した。
【0077】
(比較例1)
シート状物1に代えてシート状物2を用いた以外は、実施例1と同様にしてPP繊維からなる繊維マットを製造した。
【0078】
(繊維マットの形状)
走査型電子顕微鏡(キーエンス社製、VE−9800)を用いて比較例1のPP繊維からなる繊維マット(×2000)、実施例1におけるPEGを除去する前の複合繊維マット(×2000)、及び、実施例1のPEGを除去した後の繊維マット(×2000、×5000)を観察した。なお、電子顕微鏡観察に先立ち、前処理として、イオンコータ(サンユー電子社製、SC−701)を用いて、繊維に金を蒸着した。
【0079】
図4は、比較例1で製造したPP繊維からなる繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×2000)である。
図5−1は、実施例1で製造したPEGを除去する前の複合繊維マットの観察画像(×2000)である。
図5−2は、実施例1で製造したPEGを除去する前の複合繊維マットの観察画像(×5000)である。
図6−1は、実施例1で製造したPEGを除去した後の繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×2000)である。
図6−2は、実施例1で製造したPEGを除去した後の繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×5000)である。
図4、図5−1及び図6−1の比較から、PP不織布にPEGを散布複合したシート状物(シート状物1)を用いることにより、PP繊維のみからなるシート状物(シート状物2)を用いる場合に比べて繊維マットを構成する繊維を極細化でき、また、PEGを除去することにより、繊維マットを構成する繊維を更に極細化できることが明らかとなった。
【0080】
(平均繊維径の測定)
実施例1で製造した繊維マット(PEGを除去した後の繊維マット)を上述した方法で撮影した複数枚のSEM画像から合計50本の繊維を選び、各繊維の繊維径をアドビシステムズ社製、Adobe Photoshop CS3 Extended を用いて測定し、その平均及び標準偏差を求めた。
その結果、平均繊維径が0.89μm、標準偏差が0.82μmであった。
また、実施例1におけるPEGを除去する前の複合繊維マット、及び、比較例1で製造したPP繊維からなる繊維マットについても、同様に、平均繊維径及び標準偏差を測定した。
その結果、実施例1におけるPEGを除去する前の複合繊維マットは、平均繊維径が2.12μm、標準偏差が0.67μmであり、比較例1で製造したPP繊維からなる繊維マットは、平均繊維径が5.09μm、標準偏差が2.11μmであった。
【0081】
(細孔径分布の測定)
PermPolometer(PMI社製)を用いて、完成した繊維マットの平均細孔径と細孔径の分布とを測定した。
平均細孔径は、14.8μmであった。また、細孔径分布の測定結果は、図7に示した。
【0082】
(実施例2)
捕集部材の移動速度を、60cm/sとした以外は、実施例1と同様にして、PP繊維からなる、目付1.0g/mの繊維マットを製造した。
この繊維マットについて、実施例1と同様にして平均細孔径と細孔径の分布とを測定したところ、平均細孔径は、12.7μmであった。また、細孔径分布の測定結果は、図7に示した。
【0083】
(実施例3)
捕集部材の移動速度を、330cm/sとした以外は、実施例1と同様にして、PP繊維からなる、目付2.0g/mの繊維マットを製造した。
この繊維マットについて、実施例1と同様にして平均細孔径と細孔径の分布とを測定したところ、平均細孔径は、10.2μmであった。また、細孔径分布の測定結果は、図7に示した。
【0084】
(シート状物3及びシート状物4の作製)
下記の方法でシート状物3及びシート状物4を作製した。
下記PP(ポリプロピレン)と下記PEG(ポリエチレングリコール)を混合したシート状物3、及び、下記PPのみからなるシート状物4のそれぞれを下記の方法により作製した。
PP:チッソ社製、ポリプロピレン(メルトフローレート1500dg/min)
PEG:アルドリッチ社製、ポリエチレングリコール(Mw100000)
【0085】
具体的には、1個の投入口を有する二軸混練機(Thermo ELECTRON CORPORATION製、HAAKE MiniLab)を用いて、PPとPEGが重量比50:50で構成された混合物を所定の投入口より投入し、シリンダー温度170℃、スクリュー回転数60rpmの条件で20分間溶融混練し、押出されたストランドを空気中で冷却した。このストランドを80℃、100kgf/cmで5分間メルトプレスし、幅30mm、厚さ0.4mm、目付200g/mのPPとPEGとからなるシート状物3を作製した。
また、PPのみをシート状物3と同様の条件で溶融混練及びメルトプレスし、厚さ0.4mm、目付200g/mのシート状物4を作製した。
【0086】
(実施例4)
シート状物3を使用し、電極128及び金属コレクター129の間の電位差は35kVとした以外は、実施例1と同様にして、PP/PEG繊維からなる目付1g/mの複合繊維マットを製造した。
【0087】
次に、下記の条件で、PP/PEG繊維からなる複合繊維マット中のPEGを除去し、PP繊維からなる、目付0.5g/mの繊維マットを製造した。
即ち、PP/PEG繊維からなる複合繊維マットを50℃のジメチルスルホキシド中で12時間攪拌し、その後、吸引ろ過による繊維マットとろ液の分離により、PEGを除去した。
【0088】
(比較例2)
シート状物3に代えてシート状物4を用いた以外は、実施例1と同様にしてPP繊維からなる目付1g/mの繊維マットを製造した。
【0089】
図8は、比較例2で製造したPP繊維からなる繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×2000)である。
図9は、実施例4で製造したPEGを除去する前の複合繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×2000)である。
図10−1は、実施例4で製造したPEGを除去した後の繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×2000)である。
図10−2は、実施例4で製造したPEGを除去した後の繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×5000)である。
図8、図9及び図10−1の比較から、PPとPEGとの溶融混練により作製したシート状(シート状3)を用いることにより、PPのみの溶融混練により作製したシート状(シート状4)を用いる場合に比べて繊維マットを構成する繊維を極細化でき、また、PEGを除去することにより、繊維マットを構成する繊維を更に極細化できることが明らかとなった。
【0090】
(平均繊維径の測定)
実施例4で製造した繊維マット(PEGを除去した後の繊維マット)について、実施例1と同様にして平均繊維径及び標準偏差を求めた。
その結果、平均繊維径が0.65μm、標準偏差が0.45μmであった。
また、実施例4におけるPEGを除去する前の繊維マット、及び、比較例2で製造したPP繊維からなる繊維マットについても、同様に、平均繊維径及び標準偏差を測定した。
その結果、実施例4におけるPEGを除去する前の複合繊維マットは、平均繊維径が2.18μm、標準偏差が1.76μmであり、比較例2で製造したPP繊維からなる繊維マットは、平均繊維径が14.37μm、標準偏差が6.92μmであった。
【0091】
(シート状物5の作製)
下記の方法でシート状物5を作製した。
下記PP(ポリプロピレン)繊維と下記Nylon(ナイロン)繊維を混合したシート状物を作製した。
PP繊維:ダイワボウ社製、ポリプロピレン(3D×76mm)
Nylon繊維:ユニチカ社製、ナイロン(3D×76mm)
【0092】
具体的には、PP繊維とNylon繊維が重量比50:50で構成された、幅30mm、厚さ4.6mm、目付620g/mの不織布を作製した。これを170℃、100kgf/cmで5分間メルトプレスし、幅45mm、厚さ0.8mm、目付400g/mのPPとNylonとからなるシート状物5を作製した。
【0093】
(実施例5)
シート状物5を使用し、シート状物の供給速度を1mm/minとした以外は、実施例1と同様にして、PP/Nylon繊維からなる、目付0.2g/mの複合繊維マットを製造した。
【0094】
図11は、実施例5で製造した複合繊維マットの異なる2箇所の観察画像(×5000)である。
【0095】
(平均繊維径の測定)
実施例5で製造した複合繊維マットについて、実施例1と同様にして平均繊維径及び標準偏差を求めた。
その結果、平均繊維径が0.53μm、標準偏差が0.10μmであった。
【0096】
以下、表1に実施例1、4、5及び比較例1、2で製造した各繊維マットの平均繊維径及び標準偏差をまとめた。
【表1】

【0097】
表1に示した結果より、本発明の製造方法のように、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物を出発材料とすることにより、極細繊維からなる繊維マットを製造することができることが明らかとなった。
また、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなる複合繊維マットから、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂成分を溶媒により除去することで、より極細な繊維(ナノメータオーダーの繊維径)からなる繊維マットを製造することができることも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、繊維マットの製造方法、及び、繊維マットに関する技術であり、セパレータや高性能フィルター、細胞成長用の足場材料をはじめ、産業用資材(油吸着材、皮革基布、セメント用配合材、ゴム用配合材、各種テープ基材等)、医療・衛生材(紙おむつ、ガーゼ、包帯、医療用ガウン、サージカルテープ等)、生活関連資材(ワイパー、印刷物基材、包装・袋物資材、収納材、エアーフィルター、液体フィルター等)、衣料用材、内装材用(断熱材、吸音材等)、建設資材、農業・園芸用資材、土木用資材(土壌安定材、濾過用資材、流砂防止材、補強材等)、鞄・靴材等の分野で利用できる。
【0099】
特に、繊維マットは、電池用セパレータ(ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池等のアルカリ二次電池等)やキャパシター用セパレータ、水系濾過フィルター等の高性能フィルター、組織医学工学材料(人工膜)、細胞増殖用足場材料等として好適である。
【符号の説明】
【0100】
11、111 レーザー光源
15 レーザー光走査手段
17、117 シート状物
18、118 保持部材
19、119 捕集部材
20、120a、120b 電源
29、129 金属コレクター
115 レーザー光走査部材
121 加熱装置
128 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなるシート状物の端部にレーザー光を照射して前記シート状物の端部を線状に加熱溶融させるとともに、前記シート状物の加熱溶融した部分と金属コレクターとの間に電位差を設けることにより、繊維を前記金属コレクター方向に飛翔させて形成することを特徴とする繊維マットの製造方法。
【請求項2】
前記シート状物は、少なくとも2種類の熱可塑性繊維からなる繊維集合体から作製されたシートである請求項1に記載の繊維マットの製造方法。
【請求項3】
前記シート状物は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂から作製されたシートである請求項1に記載の繊維マットの製造方法。
【請求項4】
前記シート状物は、少なくとも1種類の熱可塑性繊維と、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂とから作製されたシートである請求項1に記載の繊維マットの製造方法。
【請求項5】
前記捕集部材上で繊維を捕集した後、前記繊維を構成する熱可塑性樹脂成分のうち少なくとも1種類を溶媒により除去する請求項1〜4のいずれかに記載の繊維マットの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造された繊維マット。

【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−112067(P2012−112067A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261513(P2010−261513)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000229863)アンビック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】