説明

繊維導電体の製造方法、及びその用途

【課題】穏やかな生産環境の下、従来よりもコストを抑えて形成できる、繊維導電体の製造方法を提供する。
【解決手段】溶剤に分散された繊維に無電解めっきを行う工程を有する繊維導電体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維導電体の製造方法、繊維導電体分散液、ペースト、導電体の製造方法、導電体及び積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子工業品の多様化と需要の拡大に伴い、様々な材料や部材が組み合わされ複雑な工程を経て1つの電子工業品が完成される。従来の電子工業品の製造工程では、無機材料が多用されているが、工業的な観点から求められるコストが引き金となり、たゆまない技術革新によって、使用される材料が無機材料から有機材料へと変遷する技術史が繰り返されている。
【0003】
例えば、受像装置を取り上げると、古くはブラウン管と称されるガラス部材と金属部材と無機蛍光体とを備えた電子工業品が開発された。昨今では、液晶パネルと呼ばれる2枚のガラスの間に液晶や工業用樹脂が充填され、ガラスの外側には幾重ものプラスチックフィルムが積層された電子工業品が開発され、大量生産されている。現在、液晶パネルに主に採用されているガラスや駆動用シリコンTFTは無機物質であるものの、これらも、プラスチックや有機TFTなどの有機物質への変換が検討されている。
【0004】
一方、電子工業品に必須である導電材料のうち透明な材料としては、現在のところ金属や酸化物系の透明導電材料が主に採用されているが、有機物質への変換に関する検討は進んでいると言い難い。その原因は、軽薄短小を要求される電子工業品材料には、薄く延伸しても十分な電気的特性を備える金属や光透過性に優れる酸化物が用いられるため、これに整合した工程として物理的真空成膜技術が確立されていることにあると考えられる。
【0005】
ところが、電子部品の製造工程で真空の環境を形成して加工を行う物理的真空成膜技術を採用すると、生産コストが著しく高くなる。そこで、生産コスト及び環境の観点から、従来よりも低コストかつ穏やかな環境で導電材料を加工する技術が求められている。
【0006】
従来、導電体を得る方法としては、繊維を含んだシート上に導電膜を形成する方法や、あらかじめ導電性材料をフィルム形成性の成分に含有させてフィルムを形成する方法がある。例えば、特許文献1には、繊維とマトリクス材料とを含有する樹脂複合シートに、導電性材料のスパッタリング又は導電性粒子を分散した塗布液の塗布により透明導電膜を製膜する方法が開示されている。また、特許文献2では、金属又は金属酸化物の一次粒子を含むナノ結晶性材料の水性ディスパージョンにフィルム形成剤を加えた後、塗布、加熱乾燥して導電性フィルムを形成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−35647号公報
【特許文献2】特表2003−527454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載のようにスパッタリング等の物理的真空成膜技術を採用すると、上述のとおり生産コストが著しく高くなる。また、スパッタリングの基材が高温による変質やダメージを受けやすくなる。さらに、特許文献1記載の塗布液の塗布、特許文献2記載の塗布による導電膜の形成方法を採用すると、十分な導電性を確保するために高価な導電性粒子等の導電性材料を相当量用いる必要がある。また、特許文献2で提案されたようにフィルム形成剤と導電性粒子とを均一に分散すると凝集が生じて、塗布性が低下しやすくなる。
【0008】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、特に、穏やかな生産環境の下、従来よりもコストを抑えて形成できる、繊維導電体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下に関する。
1. 溶剤に分散された繊維に無電解めっきを行う工程を有する繊維導電体の製造方法。
2. 繊維の直径が、0.005μm〜5μmであり、繊維の長さが、0.1μm〜10000μmである、項1記載の繊維導電体の製造方法。
3. 無電解めっきが、金、銀、銅、ニッケルのいずれか一種類以上である、項1又は2記載の繊維導電体の製造方法。
4. 項1〜3のいずれかに記載の繊維導電体の製造方法により製造されてなる繊維導電体を溶媒に分散した、繊維導電体分散液。
5. 項1〜3のいずれかに記載の繊維導電体の製造方法により製造されてなる繊維導電体を溶媒に分散した、ペースト。
6. 項4記載の繊維導電体分散液又は項5記載のペーストを被着体上に塗布する工程と、前記繊維導電体分散液又は前記ペーストが塗布された被着体を乾燥する工程と、を有する導電体の製造方法。
7. さらに、100℃〜600℃で焼成する工程を有する、項6記載の導電体の製造方法。
8. 項6または7に記載の導電体の製造方法により製造されてなる導電体であって、シート抵抗が10Ω/cm以下である導電体。
9. 400nm〜800nmの波長を有する光線の透過率が90%以上である、項8に記載の導電体。
10. 導電体上に、1.48〜1.60の屈折率を有する樹脂からなる層を形成する工程を有する積層体の製造方法であって、前記導電体が、項6または7に記載の導電体の製造方法により製造されてなる導電体、または項8または9に記載の導電体である、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特に、穏やかな生産環境の下、従来よりもコストを抑えて形成できる繊維導電体の製造方法、及びその繊維導電体を備える導電体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、溶剤に分散された繊維に無電解めっきする工程を有する繊維導電体の製造方法である。また得られた繊維導電体は溶媒に分散し、繊維導電体分散液又はペーストとして被着体上に塗布する工程と、前記繊維導電体分散液が塗布された被着体を乾燥する工程と、を有する導電体の製造方法である。このようにして被塗布体上に形成された導電体は、互いに網目状に絡まった複数の繊維導電体を備えるものである。本発明によると、真空成膜技術を必要とせず、真空の生産環境を整えなくてよい。さらに、導電体形成時の温度条件を従来よりも低下させることができる。また、用いられる繊維や無電解めっき液は安価に入手可能であり、高価な導電性粒子等の導電性材料を用いる必要が無い。これらの結果、本発明では、穏やかな生産環境の下、従来よりもコストを抑えて導電体を形成できる。
また、本発明では、繊維を選択したり、繊維導電体分散液又はペーストの塗布量を選択したりすることにより、光透過性の導電体を得ることもできる。
【0012】
本発明において、繊維の直径は0.005μm〜5μmであると好ましい。これにより、一層良好な導電性とより優れた外観とを両立することができる。また、繊維の長さは0.1μm〜10000μmであると好適である。繊維の長さがこの範囲内にあることで、更に高い導電性、より優れた外観及び一層良好な塗布性を示すことができる。
【0013】
本発明の塗布する工程において、導電性材料が被塗布体に付着する量は、被着体の上記層が形成された表面1cm当たり0.1mg〜100mgであると好ましい。この量が上記数値範囲内にあることにより、導電体の導電性がより良好になると共に、導電性材料の過剰な使用が更に抑制されて導電体の製造コストを一層低減することができる。
【0014】
本発明において、金、銀、銅、ニッケルの無電解めっきを一種類以上組み合わせてめっきすることによって良好な導電性を付与することができる。導電効率が良い金属の無電解めっきを用いることによって簡便な設備を用いて短時間で繊維に導電性を付与することができる。
【0015】
本発明において、繊維導電体を溶媒に分散し、繊維導電体分散液又はペーストとすることができる。被着体に塗布された繊維導電体分散液又はペーストは、絡まった繊維導電体の接触により導電経路が確保されるため、繊維導電体分散液又はペーストにおける繊維導電の含有割合が低くても高い導電性を示すことができる。また、本発明によると、真空成膜技術を必要とせず、真空の生産環境を整えなくてよい。さらに、導電体形成時の温度条件を従来よりも低下させることができる。また、用いられる繊維や導電性材料は安価に入手可能であり、高価な導電性粒子等の導電性材料を用いる必要が無い。これらの結果、本発明では、穏やかな生産環境の下、従来よりもコストを抑えて導電体を形成できる。
【0016】
本発明は、上述の導電体を100℃〜600℃で焼成する工程を有する導電体の製造方法を提供する。これにより粒子状のめっきが結合したり、めっきされなかった繊維が焼き飛ばされたりすることによって導電効率を向上させることができる。
【0017】
本発明は、上述の導電体の製造方法により形成される導電体であって、そのシート抵抗が10Ω/cm以下である。この導電体は、上述の製造方法により作製されるものであり、穏やかな生産環境の下、従来よりもコストを抑えて形成できる。
また、本発明によると400nm〜800nmの波長を有する光線の透過率が90%以上である導電体も作製することができる。
【0018】
本発明は、上述の導電体の製造方法により被着体の表面上に形成された導電体上に、1.48〜1.60の屈折率を有する樹脂からなる層を形成する工程を有する積層体の製造方法を提供する。こうして得られる積層体は、被着体、繊維導電体及び樹脂からなる層が順に積層された構造を有するが、繊維導電体に上記樹脂の一部が含浸されていてもよい。かかる積層体は、導電性を十分に確保すると同時に、その製造コストは十分安価に抑えられる。また、樹脂の屈折率が上記数値範囲内にあることにより、めっきがされなかった繊維による光の散乱が抑制されるため、導電体及び樹脂からなる層の積層部は十分に透明性を確保することができる。
【0019】
本発明の繊維導電体の製造方法は、溶剤に分散された繊維に無電解めっきする工程を有するものである。
また、本発明の導電体の製造方法は、被着体に、繊維導電体を溶媒に分散した繊維導電体分散液又はペースト(以下、単に「繊維導電体含有液」という。)を塗布する工程と、上述の繊維導電体含有液を塗布した被着体を乾燥する工程とを有するものである。
【0020】
まず、繊維、並びに無電解めっき液を準備する。
繊維としては、絶縁性の化学繊維及び天然繊維などの絶縁性の繊維が挙げられる。絶縁性の化学繊維としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維が挙げられる。また、絶縁性の天然繊維としては、羊毛、アンゴラ、カシミア、モヘアなどの動物繊維、絹、植物やバクテリアから得られるセルロース繊維が挙げられる。これらの中では、環境負荷及び生産コストを低減する観点から、工業的にはセルロース繊維が好ましく、セルロースミクロフィブリルが更に好ましい。
【0021】
なお、セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリルを束にしてなるものである。また、セルロースミクロフィブリルは、セルロース分子鎖が数十本束となって構成されるより微細な繊維である。セルロース繊維の直径が数十μmであるのに対し、セルロースミクロフィブリルの直径は数nmから0.1μm程度である。セルロースミクロフィブリル、あるいは後述するセルロース誘導体の分子鎖が数十本束となって構成される繊維は、通常のセルロース繊維と比較して、溶媒等に対する分散性、他物質との親和性、及び微粒子の捕捉・吸着性に優れる。
かかる絶縁性の繊維としては、例えばダイセル化学工業社製、商品名「セリッシュ」シリーズなどの市販品を入手可能である。
【0022】
繊維の直径は0.005μm〜5μmであると好ましく、0.01μm〜3μmであるとより好ましく、0.1μm〜1.5μmであると更に好ましい。この直径が0.005μmを下回ると繊維に導電性材料が付着し難くなり、導電体の導電性が低下する傾向にある。この直径が5μmを超えると導電体外観の均一性が低下する傾向にある。また、繊維の長さは0.1μm〜10000μmであると好ましく、1μm〜5000μmであるとより好ましく、3μm〜1000μmであると更に好ましい。この長さが0.1μm未満であると、導電繊維を網目状に十分絡め難くなる傾向にあるため、導電体の導電性が低下する傾向にある。また、この長さが10000μmを超えると、導電性材料が分散又は溶解した溶液又はペーストの被着体への塗布性が低くなる傾向にあると共に、導電体外観の均一性が低下する傾向にある。なお、繊維の直径は、SEM表面観察により測定される。また、繊維の長さは、光学顕微鏡で観察することにより測定される。
【0023】
上述の繊維を好適な直径及び長さに調整するには、繊維に物理的又は化学的な処理を施せばよい。物理的な処理としては、例えばグラインダー、ホモジナイザー、遊星ボールミルを用いた研削処理、切断処理が挙げられる。また、化学的な処理としては、例えばアルカリ溶液や酸溶液にセルロース繊維等の繊維を接触させて繊維(セルロース)を細分化する処理が挙げられる。
【0024】
なお、セルロース繊維及びセルロースミクロフィブリルは、公知の化学的処理を施してセルロース誘導体に変性し、それを繊維として用いてもよい。そのようなセルロース誘導体としては、例えば、アセチルセルロース類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースキサントゲン酸ナトリウム、セルロースメチレート、セルロースエチレート、アセチルブチルセルロース、ベンジルセルロース、セルロースグリコール酸ナトリウムが挙げられる。セルロースに新たな置換基を導入したセルロース誘導体を採用することで、繊維が溶媒に分散しやすくなったり、繊維を含む層を形成した際に、繊維同士の絡まりを少なく制御して薄層成形を容易にしたり、導電性材料が繊維表面に捕捉・吸着しやすくなったりする効果が得られる。
以上説明した繊維は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
無電解めっきの方法としては、「最新無電解めっき技術/株式会社総合技術センター」にもあるように、(1)置換めっき、(2)熱分解めっき、(3)化学還元めっきなどが挙げられる。具体的なめっきの種類には導電効率の観点から、無電解金めっき、無電解銀めっき、無電解銅めっき、無電解ニッケルめっき、などが挙げられる。
必要に応じて、繊維には触媒処理をすることができる。触媒には、パラジウムコロイドやパラジウムイオンを付与できる。また、必要に応じて加熱や還元剤を用いて触媒を還元することができる。
【0026】
これらの繊維は、溶媒に分散した状態でめっきする。この溶媒としては、繊維が十分に分散でき、めっき液に影響が少ないものとしてpHが6〜7.5の溶媒を選択できれば良い。これらの溶媒には、例えば水が好適である。
繊維の分散量は0.1g/L〜10g/Lが好ましく、より好ましくは0.5g/L〜7.5g/Lであり、さらに好ましくは0.5g/L〜5g/Lである。繊維の分散量は1.5mg/Lより少ないとめっき反応の開始が遅くなり、生産性に乏しくなる。また、70mg/Lより多いと、触媒処理やめっき処理において繊維の分散性が低下し、凝集しやすくなる。
【0027】
上述の繊維を分散した溶媒に、めっき液をめっき反応が開始するまで投入してめっきをする。めっき反応が開始すると液中に微小な泡が発生するのを目視で確認する。めっき液は、1ml/分〜0.01ml/分で滴下する。滴加速度が1ml/分より早いと、比較的太い繊維のめっきが急激に開始し、全体的に繊維が凝集しやすくなる。また、滴加速度が0.01ml/分より遅いとめっき開始までの時間が遅くなり生産性が乏しい。めっき液を滴下する間、均一にめっきするために攪拌や超音波を用いることが好ましい。
【0028】
めっきが開始した後は、めっきが進むまで数分放置してもよい。この間、均一にめっきするために攪拌や超音波などで攪拌しても良い。このようにして得られた繊維は、濾過や遠心分離などで取り出し、繊維導電体とすることができる。
【0029】
このような繊維と無電解めっきによって得られる繊維導電体は、溶剤に再分散して繊維導電体分散液又はペーストとし、塗布によって導電体を得ることができる。これにより、穏やかな生産環境の下、従来よりもコストを抑えて導電体を形成できる。
【0030】
導電体は、例えば、繊維導電体分散液又はペースト、または溶媒と、繊維導電体分散液又はペーストを含有する溶液を被着体の表面に塗布した後、溶媒を除去することで得られる。溶媒としては、水、並びにエーテル系、炭化水素系、エステル系、アルコ−ル系及びケトン系等の有機溶媒が挙げられる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、塗布後の除去性が良好である点から、蒸気圧の高い溶媒が好ましく、具体的には、水、エタノールが好適である。
【0031】
エーテル系有機溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどアルキレングリコールエーテル化合物が挙げられる、より具体的には、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールイソプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール−t−ブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールイソプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコール−t−ブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコ−ルジメチルエーテル、ジプロピレングリコーモノブチルエーテル等が例示される。
【0032】
炭化水素系有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、イソペンタン、イソヘキサン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びシクロペンタン等の非極性の炭化水素系有機溶媒が挙げられる。また、市販品として入手可能な、Exxon Mobil chemical社製の商品名「ISOPAR H」、「ISOPAR H Fluid」、「ISOPAR G」、「ISOPAR L」、「ISOPAR L Fluid」等を使用することもできる。
【0033】
エステル系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、及びケトン系有機溶媒としては、例えば、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸i−プロピル、酢酸n−プロピル、酢酸i−ブチル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のエステル系有機溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、セカンダリブタノール、ターシャリブタノール等のアルコ−ル系有機溶媒、並びに、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒が挙げられる。
【0034】
繊維導電体分散液又はペーストは、上述の繊維導電体及び溶媒以外のその他の成分を必要に応じて添加してもよい。例えば、繊維導電体の分散性を高めるために分散剤や、繊維導電体分散液又はペーストの膜を強化するためのバインダー樹脂や熱硬化性、光硬化性の樹脂などを含有してもよい。繊維導電体分散液又はペースト中の上記その他の成分の含有割合は、導電体の導電性を著しく阻害しない程度であればよい。
【0035】
上記溶液中の繊維固形分(繊維の含有割合)は0.1〜30質量%であると好ましく、0.3〜20質量%であるとより好ましく、0.5〜10質量%であると更に好ましい。固形分が0.1質量%未満であると、繊維の絡み合いが少なくなり、その結果、導電体の導電性が低下する傾向にある。また、固形分が30質量%を上回る場合、導電体が脆くなり安定性に乏しい。
【0036】
このような繊維導電体分散液又はペーストは、例えば塗布により被着体に膜として形成し導電体とすることができる。被着体は、表面の平滑性が比較的高いものを用いればよい。その具体例としては、素材の観点からガラス基板、樹脂基板、セルロース基板等が挙げられ、形状の観点から、フィルム基板、シート基板が挙げられる。塗布する工程よりも前に、この被着体表面に水洗、アルカリ洗浄、UV処理、プラズマ処理等を施してもよい。これにより、後の工程で被着体表面に繊維導電体を含む層を形成しやすくなる。
【0037】
上記溶液を被着体の表面に塗布する場合、塗布する被着体表面の全体を、繊維を含む層が被覆するように塗布してもよく、あるいは繊維を含む層を薄く形成して被着体表面の一部が露出するように塗布してもよい。塗布方法としては、ロールコータ塗布法、スピンコータ塗布法、スプレー塗布法、ディップコータ塗布法、カーテンフロアコータ塗布法、ワイヤバーコータ塗布法、グラビアコータ塗布法、エアナイフコータ塗布法、アプリケータ塗布法などが挙げられる。
次いで、繊維導電体分散液又はペーストが塗布された被着体は必要に応じて加熱して溶剤を除去することができる。こうすることで繊維導電体が被着体に付着することができる。
【0038】
得られた導電体は、必要に応じて加熱処理を施してもよい。加熱することによって、繊維に付着している粒子状のめっき金属が焼結により連結するため、シート抵抗を更に低減することが期待できる。加熱温度は、100℃〜600℃が好ましく、200℃〜500℃がより好ましく、200℃〜400℃がさらに好ましい。100℃以上で焼成することによって繊維が昇華し、繊維が除かれるため導電効率が向上する。加熱温度が100℃未満の場合、焼結によるシート抵抗の低減効果が小さくなる傾向にある。また、加熱温度が600℃を超える場合、被着体にダメージを与える。
【0039】
こうして得られる導電体の一例を図1の模式断面図に、そのSEM像の一例を図2及び図3に示す。図1は、繊維2及びその表面に付着した導電性材料(導電粒子)1を備える導電体が被着体3上に形成された態様を示している。上述のとおり、このような導電体は、被着体3及び繊維2を備える被塗布体に繊維導電体含有液を塗布することで得られる。
【0040】
導電体はその電気抵抗を十分に低くすることもでき、例えば、シート抵抗を10Ω/cm以下に調整することもできる。導電体のシート抵抗を10Ω/cm以下にするには、細い繊維にも均一にめっきが付くように、めっき液の滴加速度を遅くして、細い繊維にも十分にめっきが付くようにすれば良い。また導電体を加熱すればよい。
【0041】
本発明の導電体は、物理的真空成膜技術を必要としないため、電子部品等の製造工程で真空環境を作り加工する必要がなく、常圧低温で安価に形成でき、大型化を図ることができる。また、導電性材料が繊維の表面上に付着することで、繊維の絡みを利用して少ない導電性材料の量で優れた導電性を発現できる。さらに、洗浄によって余分な導電性材料を除去することで、より少ない導電性材料で良好な導電性が得られる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
例えば、上記繊維を含む層は微細な凹凸によって光が散乱し、磨りガラスのように半透明となりやすい。そこで、繊維と同一かそれに近い屈折率の樹脂からなる層を導電体に積層することによって透明性の高い積層体が得られる。前述の層に用いられる樹脂は、屈折率が1.48〜1.60の樹脂であればよく、繊維と同等の屈折率の樹脂を用いることが好ましい。これにより、400nm〜800nmの波長を有する光線の透過率が90%以上である導電体及び積層体を得ることが可能となる。
【0043】
そのような樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、又はそれらの混合物であってもよいが、好ましくは導電体に熱による影響を与え難い光硬化性樹脂が好ましい。そのような樹脂としては、例えばアクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン樹脂、ポリウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シトラコンイミド樹脂、ナジイミド樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。樹脂は、その光硬化性を高めるために光重合開始剤を更に含んでもよい。これらの樹脂は1種を単独で用いられてもよく、あるいは、所望の屈折率が得られるように、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0044】
これらの樹脂をスピンコータ、ダイコーター、アプリケータ、バーコーターなどで上記導電体上に塗布することにより、樹脂からなる層が形成される。塗布厚さは1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましく、10〜150μmがさらに好ましい。塗布厚さが1μm未満であると、樹脂からなる層が繊維の凹凸に追従しやすくなり、平滑で透明性の高い導電体や積層体が得られ難くなる傾向にある。また、塗布厚さが300μmを超す場合、樹脂や光重合開始剤自体が有する色のため導電体や積層体の透過率が低下しやすくなる傾向にある。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
フラスコ内で34質量%クロロ酢酸水溶液100gと57.6質量%水酸化ナトリウム水溶液50gとを混合して、カルボキシメチルセルロース試薬を調製した。その試薬に繊維としてセリッシュKY−100G(ダイセル化学工業社製、固形分10重量%)20gを添加して65℃のウォーターバス中で2時間攪拌した。得られた反応液を遠心分離して生成した沈殿物を水洗する工程を4回繰り返し、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(以下「CMC」と表記する。)を得た。このCMC0.1gを純水30mLに分散しCMC分散液を得た。
【0046】
このCMC分散液に、パラジウムイオン触媒アクチベーターネオガント834(アトテック社製)を30mL添加しよく攪拌した後、減圧濾過して触媒が担持された繊維を取り出した。この繊維は純水30mLに再分散し、60℃に温浴した後、次亜燐酸ナトリウム0.3gを添加しパラジウムイオンを還元し、再度減圧濾過し、触媒担持繊維を純水50mLに再分散した。この触媒担持繊維分散液に無電解銅めっき液CUST―201C(日立化成工業株式会社製)を1mL添加した後に無電解銅めっき液CUST―201A及びCUST―201B(日立化成工業株式会社製)を同時に、滴加速度0.15ml/分で、めっき反応が開始するまで滴下した。めっき反応が開始してから1分30秒後に減圧濾過し、銅めっき繊維を得た。
次に、硝酸銀0.75g、28%アンモニア水26ml及び硫酸ナトリウム五水和物10.5gを混合し、置換銀めっき液を調整した。そこへ、前記の銅めっき繊維を分散し、直ちに減圧濾過を行い、置換銀めっきされた繊維導電体を得た。
【0047】
前記繊維導電体は水に分散し、被着体として厚さ0.5mmのコーニング1737ガラス基板に0.1mg/cm塗布し、90℃で3分間加熱して導電体を得た。この導電体の主面のSEM像を図3に示す。加熱後の導電体を1cm×10cm角の大きさに切断し、9cmの間隔を設けてHIOKI社製の3216テスタで抵抗を測定しシート抵抗値を求めた結果、シート抵抗は100kΩ/cmであった。
【0048】
(実施例2)
さらに、この導電体をクリーンオーブン(タバイエスペック社製、商品名「FTHC−200S」)内に、ガラス基板上に形成された導電体を収容し、200℃で、30分間オーブンで加熱した。ガラス基板上に形成された加熱後の繊維導電体のSEM像を図2に示す。この像は図3と同様の方向から観察されたものである。加熱後の導電体を1cm×10cm角の大きさに切断し、9cmの間隔を設けてHIOKI社製の3216テスタで抵抗を測定しシート抵抗値を求めた結果、シート抵抗は80kΩ/cmであった。
【0049】
(実施例3)
ウレタンオリゴマーとノナンジオールジアクレレートとを1:1の割合で配合した樹脂(屈折率n=1.5)を準備した。次に、実施例1で得られた加熱後の導電体にこの樹脂を80μmギャップでアプリケータ塗布し、50μmのTACフィルムを介して露光機(日立電子エンジニアリング株式会社製)を用いて2000mJの光量で露光して硬化し、もって透明な積層体を得た。この積層体の分光透過率を、上記分光光度計を用いて測定したところ、波長400nm〜800nmで95%以上であった。なお、分光透過率を測定する際には、厚さ0.5mmのコーニング1737ガラス基板をリファレンスとした。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で触媒担持繊維分散液を得た後、無電解銅めっき液CUST―201C(日立化成工業株式会社製)を1mL添加した後に無電解銅めっき液CUST―201A及びCUST―201B(日立化成工業株式会社製)を同時に、滴加速度5ml/分で滴下したところ、1分後にめっき反応が急激に開始してほとんどの繊維が凝集した銅めっき繊維を得た。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】被着体上に形成された本発明の実施形態に係る繊維導電体を示す模式断面図である。
【図2】本発明の実施例2に係る導電体のSEM像である。
【図3】本発明の実施例1に係る導電体のSEM像である。
【符号の説明】
【0052】
1…繊維導電体(導電性材料)、2…繊維、3…被着体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤に分散された繊維に無電解めっきを行う工程を有する繊維導電体の製造方法。
【請求項2】
繊維の直径が、0.005μm〜5μmであり、繊維の長さが、0.1μm〜10000μmである、請求項1記載の繊維導電体の製造方法。
【請求項3】
無電解めっきが、金、銀、銅、ニッケルのいずれか一種類以上である、請求項1又は2記載の繊維導電体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の繊維導電体の製造方法により製造されてなる繊維導電体を溶媒に分散した、繊維導電体分散液。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の繊維導電体の製造方法により製造されてなる繊維導電体を溶媒に分散した、ペースト。
【請求項6】
請求項4記載の繊維導電体分散液又は請求項5記載のペーストを被着体上に塗布する工程と、前記繊維導電体分散液又は前記ペーストが塗布された被着体を乾燥する工程と、を有する導電体の製造方法。
【請求項7】
さらに、100℃〜600℃で焼成する工程を有する、請求項6記載の導電体の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の導電体の製造方法により製造されてなる導電体であって、シート抵抗が10Ω/cm以下である導電体。
【請求項9】
400nm〜800nmの波長を有する光線の透過率が90%以上である、請求項8に記載の導電体。
【請求項10】
導電体上に、1.48〜1.60の屈折率を有する樹脂からなる層を形成する工程を有する積層体の製造方法であって、前記導電体が、請求項6または7に記載の導電体の製造方法により製造されてなる導電体、または請求項8または9に記載の導電体である、積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−263825(P2009−263825A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117198(P2008−117198)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】