説明

繊維強化プラスチックの成形方法

【課題】成形用金型による中空部を有する成形品の成形時に、加圧気体や加圧流体を用いることなく中子の内圧を高めて中子の外周表面積を変形させることができる繊維強化プラスチックの成形方法を提供する。
【解決手段】内部に粒体4aを真空パック包装した中子4を介在させたプリプレグ3を、成形用金型15の下型1に形成した凹部1a内に載置する。上型2を下降して下型1との間でプリプレグ3を加圧成形しているとき、下型1に設けたピストンロッド5aをキャビティ内に突出させて、中子4を押圧する。中子4をピストンロッド5aで押圧することにより、中子4の外周表面積を広げ、中子4とプリプレグ3間にあった空隙を解消する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、繊維に樹脂を含浸させたプリプレグに中子を用いて加熱加圧を行い、閉断面を有する繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)の成形体を製造する成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
閉断面を有する繊維強化プラスチックの成形体としては、航空機の胴体や翼のような大型の成形体から、自転車のフレーム、テニスラケット、釣竿やゴルフシャフト等の小型の成形体まで幅広く利用されている。また、開断面を有する繊維強化プラスチックの成型体としては、ヘルメットなどに幅広く利用されている。
【0003】
閉断面を形成するための中子としては、粉粒体を包装フィルムで包んで真空パック包装を行い所定形状に形成した中子や、ブロー成形によって形成した中子などが用いられている。真空パック包装した粉粒体を所望の形状に形成した中子としては、多層プラスチック成形体とその製造方法(特許文献1参照)などが提案されており、ブロー成形によって形成した中子としては、多層プラスチック成形体とその製造方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載された発明を本願発明の従来例1として、図5〜図7を用いて説明する。図5は、成形用金型30によって閉断面の一種である中空部を有する成形品を製造する途中の状態を示している。即ち、予備加熱を行って溶融状態にしたシート状の繊維強化熱可塑性樹脂材(FRTP)34を成形用金型30の下型31上に載置している。FRTP34は溶融状態にあるため、FRTP34は自重により垂れ下がり下型31の凹部に沈み込んだ状態になっている。
【0005】
図6、図7に示すように、粉粒体33aを包装材33bで包み込み、真空パック包装によって所定形状に固形化した中子33は、FRTP34の凹部に載置されている。中子33を載置したFRTP34の上部には、加熱して溶融状態にした新たなシート状のFRTP35が載置される。この状態では、中子33の周囲は、FRTP34とFRTP 35とによって囲まれた状態になっている。
【0006】
この状態から、成形用金型30の上型32を下降させ、下型31との間でFRTP34とFRTP 35とを加熱硬化することにより、中子33を内部に含んだ状態でFRTP34とFRTP35とを一体的に成形することができる。出来上がった半成形品から中子33を排出するためには、半成形品に小さな孔を開ける。半成形品に孔を開けると、真空パックされた中子33の粉粒体33a間に空気が入り込むことになり、粉粒体33a間の結束が緩められる。
【0007】
そして、半成形品に形成した孔を通って、中子33を構成していた粉粒体33aを半成形品の外に排出して成形品を完成させることができる。このとき、粉粒体33aを真空パック包装していた包装材33bが、成形品に対して剥離性がよい材料から構成されていれば、包装材33bも成形品から取外すことができる。
【0008】
特許文献2に記載された発明を本願発明の従来例2として、図8を用いて説明する。図8は、ブロー成形によって成形した中子43を、外層形成の成形用金型41a、41b間にセットした状態を示している。図8に示すように、成形用金型41a、41bは、中子43を収納可能とするように構成されており、成形用金型41a、41bの型締め時には、成形用金型41a、41bの各合せ面42a、42bと中子43との間に溶融樹脂を充填させる中空部としてのキャビティが形成される。
【0009】
キャビティ内には、押出し機44で可塑化された溶融樹脂45が供給される。型締め状態にある成形用金型41a、41bのキャビティ内に溶融樹脂45を供給することによって、中空部を有する製品を所望の形状に賦形することができる。しかし、製品を賦形するときに、溶融樹脂の温度に対して中子43の耐熱性が低い場合や、中子43の肉厚が薄肉の場合には、賦形時に中子43に加わる圧力によって、中子43が変形してしまう場合がある。また、中子43の形状において広い平坦部分があると、この平坦部分では剛性が不足するため、同様に中子43が変形してしまう場合がある。
【0010】
中子43の変形を防止するため、特許文献2に記載された発明では、中子43の内圧を加圧することができる構成になっている。そのための構成として、中子43に連通した加圧ユニット46が設けられており、加圧ユニット46から中子43の内部に加圧した気体や液体を導入することで、中子43の内圧を加圧することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−238912号公報
【特許文献2】特開平7−100856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の発明では、FRTP34とFRTP35との間に中子33を挟んだ状態で上型32を下降させ、上型32と下型31との間でFRTP34及びFRTP35に対して加圧を加えている。しかし、下型31の凹部に沈み込ませてFRTP34に形成した凹部に、中子33を載置したとき、また、中子33の上からFRTP35を被せたときに、下型31の凹部における隅部とFRTP34との間や中子33とFRTP34及びFRTP35との間に空隙が生じる。
【0013】
この空隙が残っている状態で上型32と下型31とによる加熱加圧が行われると、中子33によってFRTP34及びFRTP35を内側から十分に支えておくことができず、特に、上型32が移動する上下方向と同じ方向に沿って成形されるFRTP34の部位、即ち、縦の部位において、肉厚の変化や、更には、FRTP34の外周面形状を下型31の凹部における隅部形状に沿った形状に形成することができず、また、外面にシワや、上下方向に座屈した形状に成形されてしまう。あるいは、縦の部位における長さ寸法が、規定の長さ寸法よりも短い長さ寸法に圧縮された状態で成形され、製品の寸法精度が低下してしまう。
【0014】
特に、FRTP34及びFRTP35が、長繊維を用いた長繊維強化樹脂材料から構成されているときには、中子33とFRTP34及びFRTP35との間や上型32及び下型31とFRTP34及びFRTP35との間に空隙が存在したまま加圧成形されると、長繊維の繊維配向が乱れて屈曲が生じてしまい、繊維強化プラスチックとしての強度の低下、成形品における外観の悪化を招くことになる。
【0015】
従来例1の構成を模式的に示した図6、図7を用いて、更に説明する。図6、図7では、上述した縦の部位を符号37で示している。そして、内部に中子33を配した環状のプリプレグ36を下型31に形成した凹部内に収納し、上型32を下型31に向かって下降させた状態を示している。
尚、図7では、図6に示すプリプレグ36の構成において、プリプレグ36の中央部に補強用のリブ39を設けた構成を示しているが、他の構成は図6と同様の構成になっている。
【0016】
図6、図7に示すように、上型32と下型31との間にプリプレグ36を挟んで加熱加圧することで、半成形品を製造することができる。そして、でき上がった半成形品に孔を開けて、中子33を構成している粉粒体を半成形品に開けた孔から外に排出することで、中空状の
成形品が完成する。
【0017】
しかし、下型31に収納したプリプレグ36に形成された凹部内に中子33を載置したとき、角部を有する形状に半成型品を賦形する場合などでは、中子33の外周面とプリプレグ36の内周面との間に空隙が生じてしまう。特に、成形用金型にプリプレグ36をスムーズに投入させるため、成型用金型とプリプレグ36との間にある程度間隔を空けることになり、成形面における隅部とプリプレグ36との間でも、同様に空隙が生じ易くなってしまう。
【0018】
そして、上型32を下型31に向かって下降させて、プリプレグ36を加熱加圧しているときには、この空隙の影響によって、プリプレグ36における縦の部位37においてシワや曲がりが生じてしまったり、プリプレグ36における外面側の角部が、所望の直角形状に形成されず、未充填状態になってしまう。
【0019】
特に、中子33を構成する粉粒体の使用量が少なくて、プリプレグ36と中子33との間に空隙が形成され、プリプレグ36における縦の部位37において曲がりが生じてしまう。そして、図6、図7に示したように、縦の部位37の一部が中子33側に湾曲した形状に変形することになる。しかも、中子33を構成する粉粒体の流動性が低い場合には、変形の影響が顕著になる。
【0020】
そして、図6に示すように、縦の部位37の一部が中子33側に湾曲した形状に変形しなくても、縦の部位37における長さ寸法が、規定の長さ寸法よりも短い長さ寸法に圧縮してしまうことになる。
【0021】
また、図7のように補強用のリブ39を設けた構成にした場合は、上型32と下型31とでプリプレグ36を加圧したときには、リブ39の両側において中子33が動くため、より湾曲した形状に変形してしまうことになる。そして、図6、図7に示すような状態になると、成形品としては不良品になってしまう。
【0022】
特許文献1の発明において、不良品を発生させないようにするためには、プリプレグ36と中子33との間に空隙が形成されないように、プリプレグ36のプリフォーム精度を向上させたり、中子33の形状が所望の形状となるように形成しておくことが必要になる。しかし、中子33を構成する粉粒体の使用量を正確に測定して構成し、形状も所望の形状に形成して、プリプレグ36を中子33に密着させ、更にプリプレグ36の外形形状を、成形用金型の内面形状に沿わせることは、完全に固定されていない粉粒体や硬化していないプリプレグでは形状が安定しないため、多数の手間を必要とし長時間を要してしまうことになる。
【0023】
特許文献2に記載された発明では、加圧した気体や液体を導入することで、中子43の内圧を加圧することができる。加圧した気体や液体では、任意の一点における圧力は、全ての方向において同一の圧力になる物理的性質を有している。このため、内圧を高めるために加圧された気体や液体の一部が、中子43から漏れ出たときには、漏れ出た気体や液体は、高速で高圧のジェット流になり、しかも、高温状態のままで、成形用金型41a、41bの隙間から外部に噴出してしまうことになる。そして、特に、液体が噴出した場合は、成形用金型の周囲に大きな損害を与えたり、作業者に危害を加えてしまう虞があるため、十分な安全対策を講じた設備が必要になる。
【0024】
本願発明は、上述した従来の問題点を解決すると共に、成形用金型による閉断面を有する成形品の成形時に、気体や液体を用いることなくプリプレグと中子間における圧力を均一に高めることができ、しかも、中子に圧力を加えても、そして、通常の成形用金型を用いた場合であっても、中子を構成している媒体の一部が成形用金型から漏れ出るのを防止できる繊維強化プラスチックの成形方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を達成するために、本願発明の繊維強化プラスチックの成形方法では、流動性を有する多数の粒体を包装フィルムで包んで真空パック包装を行い、所望形状の中子を形成すること、樹脂と繊維とからなるプリプレグの間に、前記中子を介在させて成形用金型内部に配置すること、前記成形用金型による圧縮成形を行うことを最も主要な特徴としている。
【0026】
また、本願発明では、粒体として、粒子の直径が均一ではない粒体を用いることを主要な特徴としている。
【0027】
更に、本願発明では、前記成形用金型による圧縮成形時に、前記中子の外周面の一部を押圧して前記中子の外周表面積が広がるように変形させることを主要な特徴としている。
更にまた、本願発明では、前記成形用金型の成形面内に出没自在なロッドで、前記中子の外周面の一部を押圧することを主要な特徴としている。
【0028】
また、本願発明では、前記ロッドが、ピストンロッドであることを主要な特徴としている。
更に、本願発明では、前記成形用金型による圧縮成形後に成形された成形品において、前記中子の外周面の一部を押圧した部位を、前記成形品から前記粒体を排出する排出孔として使用することを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本願発明では、高い流動性を有する構成にした多数の粒体を真空パック包装して所望形状に形成した中子を用いている。しかも、成形用金型による圧縮成形時に、プリプレグを介して、またはプリプレグを介さずに、中子の一部外周面を押圧することで、中子の外周面に窪みを形成して、中子による内圧を強制的に高めている。そして、中子による内圧を高めることで、中子を構成している粒体間に滑りを生じさせ、中子の外周表面積が広がるように変形させている。
【0030】
中子の外周表面積を広げることで、中子を包み込んでいるプリプレグと中子との間に空隙が形成されていても、中子の変形によってこの空隙を埋めて解消することができる。また、特に、成形用金型の成形面における隅部とプリプレグとの間に空隙が形成されていても、中子の変形によってプリプレグをこの空隙を埋める方向に移動させることができ、空隙を解消することができる。
【0031】
中子の変形によってプリプレグと中子との間に形成されていた空隙は、中子による高い内圧によって潰れるか、空隙を構成していた空気がプリプレグを通って成形用金型から大気中に放出されることになる。空気がプリプレグを通ったときに形成された通路は、空気が通った後では溶融しているプリプレグによって自然に塞がれる。
【0032】
中子は、真空パック包装した多数の粒体を内部に備えた構成になっている。このため、中子の外周面を押圧して外周面に窪みを形成して中子の外周表面積が広がるように変形させても、中子内における内部圧力としては、液体や気体を用いたときのように、通常は全ての部位において同一の圧力状態にはならない。即ち、粒体に対して圧力を加えても、圧力が加えられた部位における圧力よりも小さい圧力が、他の部位において生じることになる。そして、加えられた圧力がある値を超えると、粒体間において滑りが生じることになる。
【0033】
そのため、中子の外周面を押圧したときに、押圧により中子の外周面に窪みが形成され
た部位において、そこでの内部圧力が大きく上昇しても、この部位から離れた中子の外周面側における部位での圧力上昇は、窪みが形成された部位での内部圧力よりも低くなる。
【0034】
特に、中子内での圧力の伝達性、粒体の流動性は、粒体における粒子表面の粗さ、粒子径が影響する。均一の粒子径である粒体を用いると、中子内で粒体は最密充填されることになり、粒体の流動性が阻害され、圧力の伝達性が損なわれる。従って、中子内での粒子径の分布状況や粒子表面の粗さの分布状況を考慮したり、異なる粒子径の粒体を組み合わせて使用することにより、中子内での粒体の流動性と圧力伝達性が向上する。
【0035】
押圧により窪みが形成された部位から離れた中子内の部位においても、粒体の滑りによって中子の外周表面積が広がるように変形する。これによって、プリプレグを成形用金型の成形面に沿って押圧することができ、例えば、上述したような縦の部位を支持している中子の部位とプリプレグ間での圧力を上昇させることができる。そして、上型と下型とによる加圧時において、上述したような縦の部位が屈曲して変形してしまうのを防止できる。
【0036】
しかも、上述した縦の部位における縦方向の長さ寸法が規定の長さ寸法となるように、成型用金型の型締め位置を固定し、中子の外周面とプリプレグの内面間での圧力を上昇させておくことができる。これによって、上述したような縦の部位における縦方向の長さ寸法が、所定の寸法以下に圧縮されて短くなってしまうような事態の発生が回避でき、プリプレグを所望の肉厚に成形できる。
【0037】
また、プリプレグの外周面における角部に、例えば、直角の角部を形成する場合においても、角部を成形する成形用金型の隅部に十分な量のプリプレグを移動させることができるので、プリプレグの外周面における角部を直角等に成形することができる。
【0038】
中子の内圧を高めると、各粒体は前後左右方向に滑りを生じて移動することになるが、各粒体を包装している包装フィルムは延長展開可能な材質から構成されている。そのため、延長展開可能な包装フィルムによって、各粒体の移動に伴う中子の外形形状の変形を許容できる。
【0039】
仮に、成形用金型の型締めや、窪みを形成する押圧により粒体の圧力が上昇したとき、包装フィルムは圧力に抗して粒体を保持する強度はないため、粒体が包装フィルムを破る場合がある。成形用金型の隙間が粒子の直径よりも小さければ、粒子が破砕しない限り、成形用金型から漏れ出すことは起きない。
【0040】
中子の外周面の一部を押圧する構成としては、成形用金型の成形面内に出没自在なロッドを用いた構成にすることができる。成形用金型の成形面内に出没自在なロッドを用いた構成としては、例えば、ロッドとしてピストンロッドを用いた構成にしておくことができ、複数部位に押圧部を設置することもできる。
【0041】
本願発明では、中子の外周面を押圧したときに、プリプレグを介して又はプリプレグを介さずに中子の一部外周面を押圧することできる。略平面形状部位でプリプレグを介して押圧する場合には、プリプレグに凹部が形成される。凸形状部位でプリプレグを介して押圧する場合には、プリプレグは平坦になることになる。これら押圧部位である凹部や平坦部、そして押圧部位以外でも、成形品から中子を構成している粒体を排出する排出孔を設けることができる。
【0042】
また、プリプレグを介さずに中子の一部外周面を押圧する場合には、ロッド等の押圧部に相当する孔をプリプレグに開けておき、中子に直接加圧することになり、この成形品の
孔位置から包装フィルムを破り、粒子を排出することができる。包装フィルムは離型材を塗布など離型処理を行う、又は二重包装とすることにより、粒子が接する包装フィルムも除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】加圧成形時を示す模式図である。(実施例1)
【図2】プリプレグと中子の内部構造を示す模式図である。(実施例1)
【図3】中空部を有する成形品を製造する各段階を示す模式図である。(実施例1)
【図4】他の加圧成形時を示す模式図である。(実施例2)
【図5】中空部を有する成形品を成形する状態を示す説明図である。(従来例1)
【図6】図5の加圧成形時を示す模式図である。(従来例1)
【図7】図5の加圧成形時を示す他の模式図である。(従来例1)
【図8】成形用金型間に中子をセットした状態を示す図である。(従来例2)
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明に係わる繊維強化プラスチックの成形方法としては、以下で説明する成形用金型、中子等の構成以外であっても、成形用金型による加圧成形中に中子の外周表面積を広げることができる構成であれば、それらの構成に対しても本願発明を好適に適用することができるものである。
【実施例1】
【0045】
図1に示すように、中子4を内包したプリプレグ3を成形用金型15の内周面形状と略同じ形状に、室温にて賦形したプリフォームを、予め加熱した成形用金型15の下型1に形成した凹部1a内に載置されている。
【0046】
プリプレグ3は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維等の繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたシート状のものとして構成しておくことができる。図示例では、プリプレグ3における断面形状が環状に形成され、内部に中子4を介在させた形状に構成されている。例えば、二枚のシート状のプリプレグ間に中子4を包み込むように形成することで、プリプレグ3を図示例のように構成することができる。
【0047】
そして、成型用金型の加熱により、溶融状態になっているプリプレグ3を成形用金型15内で加圧成形することにより硬化させ、所望の形状を有した繊維強化プラスチック(FRP)の成形品を製造することができる。熱硬化性樹脂の代わりに熱可塑性樹脂を含浸させた場合は、プリプレグ3を予め加熱して賦形したプリフォームを、成形用金型にて加圧冷却し、所望の形状のFRP成形品を製造することができる。
【0048】
繊維に含浸させる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、フェノール樹脂等を用いることができ、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニール、ポリアミド樹脂などを用いることができる。
【0049】
中子4は、粒体4aを包装フィルム4bで包み真空パック包装を行って、所望の外形形状に構成している。中子4を構成する粒体4aとしては、アルミナ、ジルコニア等のセラミック、ガラス、硬質耐熱樹脂、金属、鋳物砂等を粒体物として用いることができる。中子4の形態保持に用いる包装フィルム4bとしては、ナイロン製のフィルム、ポリエチレン製のフィルム、フッ素樹脂フィルム、シリコンゴム等を用いることができる。粒体4aとして、ジルコニア、石英を用いた場合には、これらの物質は、熱伝導率が低いので、中子4の粒体4aとしては好適な材料となる。
【0050】
下型1には、成形用金型15のキャビティ内に出没自在なピストンロッド5aを備えたシリンダ5が設けられている。尚、図1では、ピストンロッド5aを摺動させるためにシリンダ5の圧力室に作動流体を給排する配管の図示は省略している。
【0051】
まず、上型2と下型1とが互いに近接する方向に移動させることで、完全に型締めを行い、下型1の凹部1a内に載置したプリプレグ3を加熱硬化させることができる。この段階では圧力は高くなく、次の段階のピストンロッドにより圧力を高めるため、型締め機としては型の開閉機構があれば良く、高圧プレス機が不要となる。
【0052】
このとき、ピストンロッド5aを成形用金型15のキャビティ内に突出させることで、プリプレグ3内に介在させている中子4の外周面における一部部位を押圧する。この押圧により、図1において丸で囲んだ部位Aを拡大した図2に示すように、異なる粒子径での組み合わせを有する粒子構成により粒体4aの流動性が向上し、中子4内の粒体4aは滑りを生じる。
【0053】
特に空隙が生じ易いプリプレグ3の内面における四隅にも、凹部1a壁面に沿って形成される縦の部位の内面に沿った領域に、曲がりやシワや空隙が生じないように、中子4の外周表面積を広げてプリプレグ3の内面に密接させることができ、寸法精度の高い成型品を得ることができる。
【0054】
中子4の外周表面積を広げることで、中子4を包み込んでいるプリプレグ3と中子4との間に空隙が形成されていても、空隙を構成していた空気は、中子による高い内圧により潰れるか、プリプレグ3を通って成形用金型15から大気中に放出されることになる。空気がプリプレグ3を通ったときに形成された通路は、空気が通った後では溶融しているプリプレグ3によって自然に塞がれることになる。
【0055】
また、成形用金型15の角部において、成形用金型15とプリプレグ3との間に空隙が存在していた場合であっても、外周面形状を広げた中子4からの押圧によってプリプレグ3は空隙側に移動する。そして、この空隙を形成していた空気は、高い内圧により潰れるか、成形用金型15から大気中に押し出すことができる。
【0056】
空気が押し出された空隙の部分にはプリプレグ3が移動して、成形用金型15の角部形状に沿った形状に形成される。これにより、プリプレグ3を加熱加圧して形成した成形品は、例えば、角部が直角に形成された成形品になる。
【0057】
尚、実施例の説明で用いる各図において、包装フィルム4bを分かり易く説明するため、誇張した状態で包装フィルム4bの肉厚を厚く示している。実際には、包装フィルム4bは、1mm厚以下の薄いフィルム状に構成されることができる。ここでは、角パイプ形状の成形品を成形する構成について説明を行っているが、成形品としては、閉断面を有する他の形状に構成することができる。
【0058】
閉断面に近い形状としては、断面形状がC字状の形状等がある。例えば、C字状の断面形状を有する成形品を形成する場合には、中子の一部を上型2又は下型1の成形面に直接当接させた配置構成にすることができる。そして、成形面に当接していない中子の周囲をプリプレグ3で覆うことにより、C字状の断面形状を有する成形品を成形することができる。このため、本願発明における閉断面としては、角パイプ形状等の形状以外にも、例えば、C字状の断面形状も本願発明における閉断面に包含される。
【0059】
図1に示すように、ピストンロッド5aで中子4の外周面の一部を押圧することによって
、プリプレグ3の外周面には凹部6が形成されることになる。ピストンロッド5aで中子4の外周面を押圧すると、中子4内の容積としては、粒体4aの容積に突入したピストンロッド5aの容積が強制的に加わった状態になる。その結果として、中子4内の内圧を高めることができる。
【0060】
中子4の内圧が高まることによって、各粒体4aは相互の粒体間で滑りを生じて前後左右方向に移動することになる。しかし、各粒体4aを包装している包装フィルム4bは真空パック包装を行うことができる材質から構成されているので、包装フィルム4bは各粒体4aの移動を実質的に制限せずに延長展開することができる。
【0061】
このように、中子4の内圧を高め、粒体4a間での滑りを生じさせることができるので、中子4の外周表面積を広げることができ、図2に示すように、中子4とプリプレグ3との間に空隙をなくすことができる。
【0062】
しかも、中子4の外周面形状の広がりとしては、空隙が生じているようなプリプレグ3との間での圧力が低い部位において生じるので、空隙をなくしながらプリプレグ3の肉厚を所定の肉厚に維持しておくことができる。
このように、所定の肉厚を有し、所望の外周面形状を備えた形状にプリプレグ3を加圧成形することができる。
【0063】
図3(a)には、成形用金型15による加圧成形が終了した半成形品10aを、成形用金型15から取り出した状態を示している。ピストンロッド5aで押圧したプリプレグ3の部位には、凹部6が形成されている。
【0064】
図3(b)に示すように、凹部6aに排出用の孔を開けると、この孔から中子4を構成していた粒体4a間に空気が流入し、粒体4a間の結合状態が崩れる。そして、結合状態が崩れた粒体4aを、凹部6aに形成した排出用の孔から外部に排出することができる。そして、図3(c)に示すように、中空部10bを有する成形品10を完成させることができる。
粒体4aを真空パック包装していた包装フィルム4bを、成形品10に対して剥離性がよい材料での構成や、包装フィルム4bを二重に構成しておけば、粒体4aに接する包装フィルム4bも成形品10から取外すことができる。
【0065】
このように、中子4とプリプレグ3との間に空隙がない状態でプリプレグ3に対する加圧成形を施すことができるので、成形品10としては曲がりやシワのない所望の肉厚で所望の外周面形状を有する製品として製造することができる。また、成形用金型を閉めた状態において中子4内の内圧が低い場合であっても、ピストンロッド5aから加えた押圧力によって中子4内の内圧を高めることができるので、成形品10としては所望の肉厚で所望の外周面形状を有する製品に製造することができる。
【0066】
本実施例を具体的に示す。図1に示すようにジルコニア粒子(直径1mm、3mmの混合)をナイロンフィルムで真空パック包装した中子4を作製した。炭素繊維強化エポキシ樹脂プリプレグ3(三菱レイヨン社製TR3110 391IMU)を5プライで当該中子4を内包し、成形用金型15の内周面形状と略同形状に、室温にてプリフォームした。予め140℃に加熱した成形用金型15の下型1に形成した凹部1a内にプリフォームを載置し、上型2と下型1を完全に型締めを行い、続いてピストンロッド5aで中子4の外周面の一部を8MPaで押圧した。10分後、型開きを行い、成形品を取り出した。ピストンロッド押圧により形成された凹部6(図3(a))に排出用の孔を開け、粒体4aを排出用孔から外部に排出し(図3(b))、中空成形品を得た(図3(c))。この成形品は寸法精度が高く、外面にシワなど欠陥のない外観に優れるものであった。
【実施例2】
【0067】
図4を用いて、本願発明に係わる実施例2の構成について説明する。実施例1では、中子4を押圧するためにピストンロッド5aを用いた構成について説明したが、実施例2では、中子4を押圧するのにピストンロッド5aを用いない構成になっている。他の構成は、実施例1と同様の構成になっており、同様の構成部材については、実施例1で用いた部材符号と同じ部材符号を用いることにより、その部材についての説明を省略する。
【0068】
図4に示すように、下型1の凹部1a内にプリフォームされたプリプレグ3を収納する。図3(c)で示したように中空部10bを有する成形品10を製造するため、プリプレグ3内には中子4が配設されている。
【0069】
高い圧力を発生できる型締め機により、上型2と下型1とでプリプレグ3を加圧成形する。型締めされることにより、異なる粒子径での組み合わせを有する粒子構成により粒体4aの流動性が向上し、中子4の外周表面積を広げて中子4とプリプレグ3との間に生じていた空隙を解消させることができる。そして、成形用金型15の成形面とプリプレグ3との間に生じていた空隙を解消させることができる。プリプレグ3のプリフォームの精度が高ければ、所望の肉厚で所望の外周面形状を有する成形品が製造できる。
【0070】
実施例2を具体的に示す。図4に示すように、ピストンロッド5aを用いず、上型2により押圧する以外、実施例1と同様に成形を行った。型開きを行い、成形品を取り出し、成形品の側面に排出用の孔を開け、粒体4aを排出用孔から外部に排出し、中空成形品を得た。この成形品は外面にシワなど欠陥がなく、外観に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本願発明は、中子を用いた成形加工において好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1・・・下型、2・・・上型、3・・・プリプレグ、4・・・中子、4a・・・粒体、4b・・・包装フィルム、5a・・・ピストンロッド、15・・・成形用金型、30・・・成形用金型、31・・・下型、32・・・上型、33・・・中子、33a・・・粉粒体、33b・・・包装材、34,35・・・繊維強化熱可塑性樹脂材(FRTP)、36・・・プリプレグ、41a,41b・・・成形用金型、42a,42b・・・合せ面、43・・・中子、46・・・加圧ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性を有する多数の粒体を包装フィルムで包んで真空パック包装を行い、所望形状の中子を形成すること、
樹脂と繊維とからなるプリプレグの間に、前記中子を介在させて成形用金型内部に配置すること、
前記成形用金型による圧縮成形を行うことを含む繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項2】
粒体として、粒子の直径が均一ではない粒体を用いることを含む請求項1記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項3】
前記成形用金型による圧縮成形時に、前記中子の外周面の一部を押圧して前記中子の外周表面積が広がるように変形させることを含む請求項1または2項記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項4】
前記成形用金型の成形面内に出没自在なロッドで、前記中子の外周面の一部を押圧することを含む請求項3記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項5】
前記ロッドが、ピストンロッドであることを含む請求項4記載の繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項6】
前記成形用金型による圧縮成形後に成形された成形品において、前記中子の外周面の一部を押圧した部位を、前記成形品から前記粒体を排出する排出孔として使用することを含む請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−111100(P2012−111100A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261057(P2010−261057)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】