説明

繊維強化プラスチック

【課題】環境に優しい植物繊維を使用しながら、界面強度を高めて良好な機械的強度を有する繊維強化プラスチックを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と植物繊維とを含む繊維強化プラスチックであって、植物繊維の含有率(重量%)/平均繊維径(μm)が1.2以上であり、且つ植物繊維と熱可塑性樹脂との界面積を480cm2/cm3以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に、補強繊維として植物繊維を配合した繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂に機械的強度を向上するための補強繊維として、ガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維を配合した繊維強化プラスチック(FRP)が開発されている。しかし、無機繊維を配合した繊維強化プラスチックは、これを焼却しても無機繊維に由来する残渣が残るという問題を有する。そこで、無機繊維に替えて、補強繊維として植物繊維を配合した繊維強化プラスチックが開発されている。このような繊維強化プラスチックとしては、例えば下記特許文献1がある。
【0003】
特許文献1では、植物繊維を取り出す過程で生じる独特の発酵匂を低減させるため、植物から得られるリグノセルロース繊維をエーテル結合を複数有する長鎖の二価のアルコールにより処理したり、パラフィンワックスにより処理したり、イソシアネートにより処理したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−347079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、植物繊維に起因する臭気を改善するものであるが、繊維強化プラスチックの本来的機能である強度の向上については特に着目していない。すなわち、植物繊維は環境負荷が小さいというメリットを有するものの、従来のガラス繊維や炭素繊維と比べると絶対的な強度が劣るため、繊維強化プラスチックの強度も無機繊維を配合する場合と比べると相対的に低くなってしまう。そのため、植物繊維を用いた高強度繊維強化プラスチックの開発が実用化に対する重要な課題となっている。
【0006】
また、植物繊維を用いた繊維強化プラスチックの強度が相対的に低くなる原因としては、上記のように植物繊維自体の強度が低いことに加え、植物繊維と熱可塑性樹脂との界面強度が低いことも挙げられる。植物繊維と熱可塑性樹脂との界面強度が低いと、植物繊維と熱可塑性樹脂との接着力が低くなるため、外力に対して界面剥離が生じ、そこから破壊が生じるからである。したがって、繊維強化プラスチックの機械的強度を向上するには、植物繊維と熱可塑性樹脂との界面強度を向上させることが重要である。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、環境に優しい植物繊維を使用しながら、界面強度を高めて良好な機械的強度を有する繊維強化プラスチックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段として、本発明は、熱可塑性樹脂と、植物繊維とを含む繊維強化プラスチックであって、前記植物繊維の含有率(重量%)/平均繊維径(μm)が1.2以上であり、前記植物繊維と前記熱可塑性樹脂との界面積が480cm/cm以上であることを特徴とする。
【0009】
これによれば、植物繊維の含有率と平均繊維径とのバランスを適切に設計することで、植物繊維と熱可塑性樹脂との界面積を480cm/cm以上に大きくできる。これにより、植物繊維と熱可塑性樹脂との界面強度が向上し、以って繊維強化プラスチックの機械的強度も実用レベルにまで向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物繊維の含有率と平均繊維径とのバランスを適切に設計して植物繊維と熱可塑性樹脂との界面積を大きくすることで、植物繊維と熱可塑性樹脂との全体的な界面強度が大きくなる。而して、環境に優しい植物繊維を使用しながら、良好な機械的強度を有する繊維強化プラスチックを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。本発明の繊維強化プラスチック(FRP)は、ベースとなる熱可塑性樹脂に、補強繊維として植物繊維が配合されている。
【0012】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)等のポリエステル樹脂、プロピレン−エチレン共重合体、ポリスチレン樹脂、芳香族ビニル系単量体と低級アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、テレフタル酸−エチレングリコール−シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂などの合成樹脂のほか、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレートなどの生分解性樹脂や植物由来樹脂を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を混合使用してもよい。中でも、成形性や材料費等の点から、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。生分解性樹脂や植物由来樹脂であれば、環境負荷の低減に有利である。
【0013】
植物繊維としては特に限定されず、草本類や木本類から得られる繊維を使用可能である。草本類としては、クラワ、パイナップルなどのパイナップル科の植物のほか、例えばケナフ、ラミー(苧麻)、リネン(亜麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ワラ、バガスなどの靭皮植物が挙げられる。木本類としては、スギやヒノキなどの針葉樹や、シイ、柿、サクラなどの広葉樹、熱帯樹を使用することができる。靭皮植物であれば、良質な繊維が得られやすい。一方、クラワやパイナップルであれば、植物繊維の中でも最も繊維径が小さいうちの1つであるというメリットを有する。なお、植物繊維としては、機械パルプ、化学パルプ、セミケミカルパルプ、これらのパルプを原料として合成される人工の各種セルロース系繊維も含まれるが、このようなパルプ繊維やセルロース繊維は得るための処理が煩雑なので、好ましくない。これら植物繊維は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を混合使用してもよい。
【0014】
繊維強化プラスチック中における植物繊維の含有率は、従来からある繊維強化プラスチックと同程度でよく、特に限定されない。具体的には、3〜50重量%程度、好ましくは5〜45重量%程度、より好ましくは10〜40重量%程度とすればよい。植物繊維の含有率が少なすぎると補強効果が得られ難く、多すぎても反って強度が低下する傾向にあるからである。なお、植物繊維は、必要に応じてシランカップリング剤等によって表面処理することも好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と植物繊維との接合力を向上できるからである。
【0015】
上記のように、植物繊維の含有率そのものは然程重要ではないが、繊維径とのバランスが重要である。具体的には、植物繊維の含有率(重量%)/平均繊維径(μm)を少なくとも1.2以上とする。これにより、植物繊維と熱可塑性樹脂との総界面積が少なくとも480cm/cm以上となり、従来からある繊維強化プラスチックよりも植物繊維と熱可塑性樹脂との総界面積を大きくできる。延いては、植物繊維と熱可塑性樹脂との全体的な界面強度が向上して、繊維強化プラスチックの機械的強度を向上することができる。
【0016】
そのためには、植物繊維の平均繊維径はできるだけ小さいことが好ましい。具体的には、植物繊維の平均繊維径を35μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下とする。植物繊維の平均繊維径をできるだけ小さくすることで、植物繊維の含有率/平均繊維径が大きくなり、植物繊維と熱可塑性樹脂との総界面積をより大きくできる。
【0017】
植物繊維の繊維径は、植物から繊維を得た状態のままでの繊維径でもよいし、解繊することで適宜調整することもできる。但し、繊維を解繊するには手間を要するので、植物から得られた状態の繊維をそのまま使用することが好ましい。なお、植物によっては、繊維を単繊維の状態で得られるものと、繊維束の状態で得られるものがある。したがって、植物繊維の繊維径を言う場合は、単繊維の状態での繊維径と繊維束の状態での繊維径とを含む。なお、植物繊維の細さには限界がある。したがって、植物繊維の平均繊維径の下限は得に限定されない。例えば、最も繊維径の小さい部類であるクラワ繊維やパイナップル繊維でも、7μm程度の繊維径を有する。
【0018】
植物繊維の繊維長も特に限定されないが、長いほど機械的強度の向上には有利である。しかし、植物繊維の繊維長が長すぎると、熱可塑性樹脂との混練時に流動性が低下するなど、繊維強化プラスチックからなる成形体の成形性が低下するおそれがある。これを踏まえると、植物繊維の繊維長は、0.1〜30mm程度が好ましく、より好ましくは0.5〜10mm程度である。なお、各繊維の繊維長を調整するため、必要に応じてチョップド繊維とすることもできる。チョップド繊維とは、連続繊維を束ねて所定の寸法にカットしたものである。
【0019】
繊維強化プラスチック中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種添加剤を添加することもできる。具体的には、顔料、染料、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤などを添加することもできる。
【0020】
繊維強化プラスチックは、上記熱可塑性樹脂と植物繊維とを混練したうえで、押出し成形や射出成形などによって所定形状の樹脂成形体として成形される。得られた樹脂成形体は、自動車のドアトリム、インナーパネル、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージ、室内灯レンズなどの内装材として好適に使用できる。その他にも、建築材、土木材、包装材、日用品などとしても使用できる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の具体的な実施例について説明するが、これに限られることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。各実施例及び比較例で使用した熱可塑性樹脂や植物繊維及びその組成等は、表1に示すとおりである。
【0022】
【表1】

【0023】
これらの各材料を混練したうえで、200℃で55mm×50mm×1mmの扁平な板状に射出成形した。次いで、得られた各実施例及び比較例について、引張応力を測定した。その結果も表1に示す。
【0024】
表1の結果から、植物繊維の含有率/平均繊維径が大きいほど熱可塑性樹脂と植物繊維との総界面積が大きくなり、これに伴い繊維強化プラスチック(樹脂成形体)の強度が向上する傾向が確認された。特に、含有率/平均繊維径が1.2以上であれば熱可塑性樹脂と植物繊維との総界面積が480cm/cm以上となりなり、実務レベルでも対応可能な程度の良好な強度が得られることが確認された。中でも、クラワ繊維やパイナップル繊維は、植物繊維の中でも特に繊維径が小さいことから、含有率/平均繊維径4.0以上、且つ熱可塑性樹脂と植物繊維との総界面積1700cm/cm以上とすることもでき、高い強度が得られることが確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、植物繊維とを含む繊維強化プラスチックであって、
前記植物繊維の含有率(重量%)/平均繊維径(μm)が1.2以上であり、
前記植物繊維と前記熱可塑性樹脂との界面積が480cm2/cm3以上であることを特徴とする、繊維強化プラスチック。



【公開番号】特開2012−246459(P2012−246459A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121743(P2011−121743)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】