説明

繊維強化成形基材の製造方法

【課題】強化繊維の分散状態に優れ、成形品とした場合に力学特性に優れる繊維強化成形基材を短時間で得ることのできる、繊維強化成形基材の製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維束を分散させて強化繊維ウェブを得る工程(I)、前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブにバインダーを付与する工程(II)および、前記工程(II)において得られるバインダーの付与された強化繊維ウェブにマトリックス樹脂35を複合化する工程(III)を有してなる繊維強化成形基材の製造方法であって、前記工程(I)〜(II)がオンラインで実施されてなり、前記強化繊維束が10〜80質量%、前記バインダーが0.1〜10質量%、前記マトリックス樹脂が10〜80質量%である繊維強化成形基材32の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化成形基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と熱可塑性樹脂からなる繊維強化成形基材は、比強度、比剛性に優れているため、電気・電子用途、土木・建築用途、自動車用途、航空機用途等に広く用いられている。なかでも強化繊維が均一に分散した基材を用いた成形品は、力学特性が等方的になり、さらには高強度を発現するものであれば適用可能な用途は非常に多くなる。従ってこのように強化繊維が均一に分散した繊維強化成形基材の製造条件についてはこれまで様々な検討がなされてきた。
【0003】
特許文献1(国際公開第2007/97436号パンフレット)には、繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強化繊維として、単繊維状の炭素繊維であって質量平均繊維長が0.5〜10mmであり、かつ、配向パラメーターが−0.25〜0.25である炭素繊維を用いると、力学特性に優れ、等方的な力学特性を有する成形体が得られることが記載されている。この繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、(I)成形材料に含まれる熱可塑性樹脂を加熱溶融する工程、(II)金型に成形材料を配置する工程、(III)金型で成形材料を加圧する工程、(IV)金型内で成形材料を固化する工程、(V)金型を開き、繊維強化熱可塑性樹脂成形体を脱型する工程により製造されうるとされている。
【0004】
特許文献2(特開平9−94826号公報)には、繊維強化樹脂シートを製造するにあたり、不連続補強繊維と熱可塑性樹脂とを含む分散液を抄造する際に分散液の流れ方向を制御することにより、ウェブ中の繊維の配向をランダム化して、軽量で各方向に等方的に高い機械的強度を有し、且つ薄物大型品の成形性に優れた特性を発揮するランダム配向繊維強化樹脂シートが得られることが記載されている。
【0005】
特許文献3(特開2004−217879号公報)には、スタンパブルシートの製法として、(1)強化繊維と熱可塑性樹脂とを湿式分散法によりシート状に抄造した後、乾燥し、シートの略平面方向に配向した強化繊維が部分的に熱可塑性樹脂で結着されたマトリックス構造のウェブを製造し、(2)得られたウェブをニードリングして、前記マトリックス中の強化繊維の一部を厚み方向に配向させ、ニードリングマットを形成した後、(3)ニードリングマットの片面をマトリックス中の熱可塑性樹脂の融点異常の温度で加熱・圧縮する製法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/97436号パンフレット
【特許文献2】特開平9−94826号公報
【特許文献3】特開2004−217879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜特許文献3の繊維強化成形基材の製法においてはいずれも樹脂込みで強化繊維を抄紙しており、樹脂種を増やすには装置の洗浄、装置台数の増加などが必要であった。また、炭素繊維の配向を制御する必要があり、そのために工程ごとに詳細な条件を設定する必要があった。そのため、製造に時間および手間を要し、繊維強化成形基材の効率的な製造への適用には問題があった。
また、特許文献2、3は強化繊維と熱可塑性樹脂を混抄する必要があり、熱可塑性樹脂を変更した成形基材を作成するためには、樹脂を変更して抄紙する必要があるため、撹拌槽や抄紙槽の洗浄または製造ラインの増設などの多くの手間がかかることとなり、効率的な製造への適用には問題があった。
【0008】
本発明は、強化繊維の分散状態に優れ、成形品とした場合に力学特性に優れる繊維強化成形基材を短時間で得ることのできる、繊維強化成形基材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の〔1〕〜〔22〕を提供する。
〔1〕強化繊維束を分散させて強化繊維ウェブを得る工程(I)、前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブにバインダーを付与する工程(II)および、前記工程(II)において得られるバインダーの付与された強化繊維ウェブにマトリックス樹脂を複合化する工程(III)を有してなる繊維強化成形基材の製造方法であって、前記工程(I)〜(II)がオンラインで実施されてなり、前記強化繊維束が10〜80質量%、前記バインダーが0.1〜10質量%、前記マトリックス樹脂が10〜80質量%である繊維強化成形基材の製造方法。
〔2〕前記工程(I)は、強化繊維束の分散を水中で行い、得られるスラリーを抄造して強化繊維ウェブを得る工程である〔1〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔3〕前記工程(II)のバインダー付与工程において、分散後の強化繊維ウェブの含水率を10質量%以下に調整した後、バインダーを付与する、〔2〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔4〕前記工程(I)が、強化繊維束を気相中で分散させて強化繊維ウェブを得る工程である〔1〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔5〕前記強化繊維束の気相中での分散を、強化繊維束を非接触式で開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う、〔4〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔6〕前記強化繊維束の気相中での分散を、強化繊維束に空気流を当てて開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う、〔4〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔7〕前記強化繊維束の気相中での分散を、強化繊維束を接触式で開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う、〔4〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔8〕前記接触式による開繊が、カーディングまたはニードルパンチによる開繊である、〔7〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔9〕前記強化繊維束を構成する強化繊維が炭素繊維である、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔10〕前記炭素繊維のX線光電子分光法により測定される表面酸素濃度比O/Cが0.05〜0.50である、〔9〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔11〕前記強化繊維束が、長さ1〜50mmのチョップド繊維である、〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔12〕前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブにおける固形分の質量のうち、強化繊維の割合が80〜100質量%である、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔13〕前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブの目付が10〜500g/m2である、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔14〕前記工程(II)において、バインダーを熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの形態で強化繊維ウェブに付与する、〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔15〕前記熱可塑性樹脂が、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、カルボン酸塩基及び酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有する熱可塑性樹脂である、〔14〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔16〕前記工程(II)において、バインダーの付与後さらに加熱される、〔1〕〜〔15〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔17〕前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である、〔1〕〜〔16〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔18〕前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、〔1〕〜〔16〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔19〕前記熱可塑性樹脂が布帛、不織布及びフィルムから選択される少なくとも1種の形態で複合化に供される、〔18〕に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔20〕前記工程(III)におけるバインダーの付与された強化繊維ウェブとマトリックス樹脂との複合化が、加圧および/または加熱により行われる、〔1〕〜〔19〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔21〕さらに、前記工程(III)で得られた繊維強化成形基材を引き取る工程(IV)を有し、工程(I)〜(IV)がオンラインで実施されてなる、〔1〕〜〔20〕のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
〔22〕〔1〕〜〔21〕のいずれかに記載の製造方法で製造された繊維強化成形基材を用いる、電気・電子機器部品、土木・建築用部品、自動車・二輪車用の構造部品又は航空機用部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維強化成形基材の製造方法によれば、強化繊維の分散状態に優れ、成形品とした場合に力学特性に優れる繊維強化成形基材を短時間で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の繊維強化成形基材の製造方法は、強化繊維束を分散させて強化繊維ウェブを得る工程(I)、前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブにバインダーを付与する工程(II)および、前記工程(II)において得られるバインダーの付与された強化繊維ウェブにマトリックス樹脂を複合化する工程(III)を有してなる繊維強化成形基材の製造方法である。
【0012】
工程(I)では強化繊維束を分散させて強化繊維ウェブを得る。
【0013】
強化繊維束とは、強化繊維から構成される繊維束を意味する。
【0014】
強化繊維としては、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらのうち、炭素繊維が好ましい。
【0015】
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが例示される。PAN系炭素繊維は、ポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維はビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は炭化水素などを原料とする炭素繊維である。このうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましい。
【0016】
金属繊維としては例えば、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。有機繊維としては、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。無機繊維としては、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。
【0017】
強化繊維束を構成する強化繊維は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0018】
炭素繊維は、そのX線光電子分光法により測定される表面酸素濃度比O/Cが0.05〜0.50であるものが好ましく、0.06〜0.3であるものがより好ましく、0.07〜0.2であるものがさらにより好ましい。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の極性官能基量を確保し、熱可塑性樹脂組成物との親和性が高くなるので、より強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比が0.5以下であることにより、表面酸化による炭素繊維自身の強度の低下を少なくすることができる。
【0019】
表面酸素濃度比とは、繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比を意味する。表面酸素濃度比をX線光電子分光法により求める場合の手順を、以下に一例を挙げて説明する。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202cVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0020】
表面酸素濃度比は、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74として算出し得る。
【0021】
炭素繊維の表面酸素濃度O/Cを0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、電界酸化処理、薬液酸化処理、気相酸化処理などの手法が例示される。中でも電界酸化処理が取り扱いやすく好ましい。
【0022】
電界酸化処理に用いられる電解液としては、以下に挙げる化合物の水溶液が好ましく用いられる。硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化バリウム等の無機水酸化物、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機金属塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩類、さらにこれらナトリウム塩の代わりにカリウム塩、バリウム塩その他の金属塩、アンモニウム塩、その他にはヒドラジンなどの有機化合物である。これらの中でも電解液としては無機酸が好ましく、硫酸及び硝酸が特に好ましく使用される。電界処理の程度は、電界処理で流れる電気量を設定することにより炭素繊維表面のO/Cを制御することができる。
【0023】
強化繊維束は、連続した強化繊維から構成されるもの、あるいは不連続な強化繊維から構成されるもののどちらでも良いが、より良好な分散状態を達成するためには、不連続な強化繊維束が好ましく、チョップド繊維がより好ましい。
【0024】
強化繊維束は、炭素繊維により構成される繊維束(炭素繊維束)であることが好ましく、チョップド炭素繊維であることがより好ましい。
また、強化繊維束を構成する単繊維の本数には、特に制限はないが、生産性の観点からは24,000本以上が好ましく、48,000本以上がさらに好ましい。単繊維の本数の上限については特に制限はないが、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、300,000本程度もあれば生産性と分散性、取り扱い性を良好に保つことができる。
【0025】
成形基材の原料である強化繊維束の長さは、1〜50mmであることが好ましく、3〜30mmであることがより好ましい。1mm未満であると強化繊維による補強効果を効率良く発揮することが困難となるおそれがあり、50mmを超えると分散を良好に保つのが困難となるおそれがある。強化繊維束の長さとは、強化繊維束を構成する単繊維の長さをいい、強化繊維束の繊維軸方向の長さをノギスで測定する、あるいは強化繊維束から単繊維を取り出し顕微鏡で観察して測定され得る。また成形基材中より強化繊維長を測定するには、以下のようにして繊維強化成形基材から炭素繊維を分離して測定され得る。繊維強化成形基材の一部を切り出し、結着している熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒により、熱可塑性樹脂を充分溶解させる。その後濾過などの公知の操作により熱可塑性樹脂から炭素繊維を分離する。或いは、繊維強化成形基材の一部を切り出し、500℃の温度で2時間加熱し、熱可塑性樹脂を焼き飛ばして熱可塑性樹脂から炭素繊維を分離する。分離された炭素繊維を無作為に400本抽出し、光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にてその長さを10μm単位まで測定し、その平均値を繊維長とする。
【0026】
工程(I)では、強化繊維束を分散させて強化繊維ウェブを得るにあたり、湿式法、或いは乾式法のいずれかを取ることができる。湿式法とは強化繊維束の分散を水中で行う方法であり、乾式法とは強化繊維束の分散を空気中で行う方法である。
【0027】
湿式法により工程(I)を行う場合、強化繊維束の分散を水中で行い得られるスラリーを抄造して強化繊維ウェブを得ることができる。
【0028】
強化繊維束を分散させる水(分散液)は、通常の水道水のほか、蒸留水、精製水等の水を使用することができる。水には必要に応じて界面活性剤を混合し得る。界面活性剤は、陽イオン型、陰イオン型、非イオン型、両性の各種に分類されるが、このうち非イオン性界面活性剤が好ましく用いられ、中でもポリオキシエチレンラウリルエーテルがより好ましく用いられる。界面活性剤を水に混合する場合の界面活性剤の濃度は、通常は0.0001質量%以上0.1質量%以下、好ましくは0.0005質量%以上0.05質量%以下である。
【0029】
水(分散液)に対する強化繊維束の添加量は、水(分散液)1lに対する量として、通常0.1g以上10g以下、好ましくは0.3g以上5g以下の範囲で調整し得る。前記範囲とすることにより、強化繊維束が水(分散液)に効率よく分散し、均一に分散したスラリーを短時間で得ることができる。水(分散液)に対し強化繊維束を分散させる際には、必要に応じて撹拌を行う。
【0030】
スラリーとは固体粒子が分散している懸濁液をいう。
【0031】
スラリーにおける固形分濃度(スラリー中の強化繊維の質量含有量)は、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。上記範囲であることにより抄造を効率よく行うことができる。
【0032】
スラリーの抄造は、上記スラリーから水を吸引して行うことができる。スラリーの抄造は、いわゆる抄紙法に倣って行うことができる。一例を挙げて説明すると、底部に抄紙面を有し水を底部から吸引できる槽に、スラリーを流し込み水を吸引して行うことができる。前記槽としては、熊谷理機工業株式会社製、No.2553−I(商品名)、底部に幅200mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備える槽が例示される。このようにして強化繊維ウェブが得られる。
【0033】
分散後得られる強化繊維ウェブの含水率は、工程(II)のバインダー付与工程においてバインダーを付与する前に、10質量%以下、好ましくは5質量%以下に調整されることが好ましい。これにより、工程(II)に要する時間を短縮化し、繊維強化成形基材を短時間で得ることができる。
【0034】
乾式法により工程(I)を行う場合、強化繊維束を気相中で分散させて強化繊維ウェブを得ることができる。すなわち、強化繊維束を気相中で分散させて、分散後の強化繊維束を堆積させて、強化繊維ウェブを得ることができる。
【0035】
強化繊維束の気相中での分散は、強化繊維束を非接触式で開繊し開繊した強化繊維束を堆積させて行う方法(非接触式法)、強化繊維束に空気流を当てて開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う方法(空気流を用いる方法)、強化繊維束を接触式で開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う方法(接触式法)の3種類がある。
【0036】
非接触式法は、強化繊維束に固体や開繊装置を接触させることなく開繊させる方法である。例えば、空気や不活性ガスなどの気体を強化繊維束に吹き付ける方法、なかでもコスト面で有利な空気を加圧して吹き付ける方法が好ましく挙げられる。
【0037】
空気流を用いる方法において、強化繊維束に対し空気流を当てる条件は特に限定されない。一例を挙げると、加圧空気(通常0.1MPa以上10MPa以下、好ましくは0.5MPa以上5MPa以下の圧力がかかるような空気流)を強化繊維束が開繊するまで当てる。空気流を用いる方法において、使用し得る装置は特に限定されないが、空気管を備え、空気吸引が可能であり、強化繊維束を収容し得る容器を例示し得る。かかる容器を用いることにより、強化繊維束の開繊と堆積を一つの容器内で行うことができる。
【0038】
接触式法とは、強化繊維束に固体や開繊装置を物理的に接触させて開繊させる方法である。接触式法としては、カーディング、ニードルパンチ、ローラー開繊が例示されるが、このうちカーディング、ニードルパンチによることが好ましく、カーディングによることがより好ましい。接触式法の実施条件は特に限定されず、強化繊維束が開繊する条件を適宜定めることができる。
【0039】
強化繊維ウェブに占める強化繊維の割合は、80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。上記範囲であることにより、強化繊維ウェブを用いてマトリックス樹脂と複合させた場合に、効率的に補強効果を発現することが容易となり好ましい。
【0040】
強化繊維ウェブの目付は、10〜500g/m2であることが好ましく、50〜300g/m2であることがより好ましい。10g/m2未満であると基材の破れなどの取り扱い性に不具合を生じるおそれがあり、500g/m2を超えると、湿式法では基材の乾燥に長時間かかることや、乾式法ではウェブが厚くなる場合があり、その後のプロセスで取り扱い性が難しくなるおそれがある。
【0041】
工程(II)では工程(I)において得られる強化繊維ウェブに、バインダーを付与する。
【0042】
バインダーとは、強化繊維ウェブとマトリックス樹脂との間に介在し両者を連結するバインダーを意味する。バインダーは通常、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、アクリル系重合体、ビニル系重合体、ポリウレタン、ポリアミド及びポリエステルが例示される。本発明においてはこれらの例より選ばれる1種、または2種以上が好ましく用いられる。また、熱可塑性樹脂は、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、カルボン酸塩基及び酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、2種以上を有していてもよい。中でも、アミノ基を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0043】
バインダーの強化繊維ウェブへの付与は、バインダー(例えば上記熱可塑性樹脂)の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの形態で行うことが好ましい。水溶液とは水にほぼ完全に溶解した状態の溶液を意味し、エマルジョンとは完全に溶解しない2つの液体が液中で微細粒子を形成している状態の溶液(乳濁液)を意味し、サスペンジョンとは水に懸濁した状態の溶液(懸濁液)を意味する。液中の成分粒径の大きさは、水溶液<エマルジョン<サスペンジョンの順である。付与方式は特に問わないが、例えば熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンに炭素繊維ウェブを浸漬する方式、シャワー式等によることができる。接触後は乾燥工程の前に、例えば吸引または吸収紙などの吸収材へ吸収させるなどで、過剰分のバインダーを除去しておくことが好ましい。
【0044】
前記工程(II)において、強化繊維ウェブは、バインダーの付与後に加熱されることが好ましい。これにより、工程(III)に要する時間を短縮化し、繊維強化成形基材を短時間で得ることができる。加熱温度は、バインダー付与後の強化繊維ウェブが乾燥する温度を適宜設定することができ、100〜300℃であることが好ましく、120〜250℃であることがより好ましい。
【0045】
工程(III)では工程(II)において得られるバインダーの付与された強化繊維ウェブにマトリックス樹脂を複合化する。
【0046】
マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂が例示される。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PENp)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンやその酸変性物、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂およびフェノキシ樹脂が例示される。このうち、リサイクル性やリペア性の観点から熱可塑性樹脂が好ましく、なかでも力学特性の観点からポリアミド樹脂、軽量性の観点からポリプロピレン系樹脂、耐熱性の観点からはPPS樹脂がより好ましい。
【0047】
バインダーの付与された強化繊維ウェブへのマトリックス樹脂の複合化は、マトリックス樹脂を強化繊維ウェブに接触させることにより行うことができる。この場合のマトリックス樹脂の形態は特に限定されないが、例えばマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合、布帛、不織布及びフィルムから選択される少なくとも1種の形態であることが好ましく、不織布であることがより好ましい。接触の方式は特に限定されないが、マトリックス樹脂の布帛、不織布またはフィルムを2枚用意し、バインダーの付与された強化繊維ウェブの上下両面に配置する方式が例示される。
【0048】
複合化は、加圧および/または加熱により行われることが好ましく、加圧と加熱の両方が同時に行われることがより好ましい。加圧の条件は0.01〜10MPaであることが好ましく、0.05〜5MPaであることがより好ましい。加熱の条件は用いるマトリックス樹脂が溶融または流動可能な温度であることが好ましく、温度領域では50〜400℃であることが好ましく、80〜350℃であることがより好ましい。加圧および/または加熱は、マトリックス樹脂をバインダーの付与された強化繊維ウェブに接触させた状態で行い得る。例えば、マトリックス樹脂の布帛、不織布またはフィルムを2枚用意し、バインダーの付与された強化繊維ウェブの上下両面に配置し、両面から加熱および/または加熱を行う(ダブルベルトプレス装置で挟み込む方法等)方法が挙げられる。
工程(III)により、繊維強化成形基材が得られる。
【0049】
本発明においては、上記工程(I)〜(III)のほかにさらに工程(IV)を有していてもよい。工程(IV)は、前記工程(III)で得られた繊維強化成形基材を引き取る工程である。繊維強化成形基材の引き取りは、ロールに巻き取って行うことができる。引取速度は10m/分以上であることが好ましい。引取速度の上限は通常は、100m/分以下である。
【0050】
上記工程(I)〜工程(III)および必要に応じて行う工程(IV)のうち、工程(I)〜(II)はオンラインで実施されることが好ましく、工程(I)〜工程(III)および必要に応じて行う工程(IV)のすべてがオンラインで実施されることがより好ましい。オンラインとは、各工程の間が連続的に実施される方式であり、オフラインの反対語である。すなわちオンラインとは、各工程が一連の流れとして行われるプロセスを意味し、それぞれが独立した状態のプロセスとは異なる。工程(I)〜(II)をオンラインで実施することにより、繊維強化成形基材を短時間で得ることができる。
【0051】
強化繊維束、バインダー及びマトリックス樹脂の配合量は、強化繊維束が10質量%以上80質量%以下、バインダーが0.1質量%以上10質量%以下、マトリックス樹脂が10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、強化繊維束が20質量%以上60質量%以下、バインダーが1質量%以上8質量%以下、マトリックス樹脂が32質量%以上79質量%以下であることがより好ましい。この範囲とすることにより、強化繊維の補強を効率良く発揮可能な成形基材が得られ易い。
【0052】
本発明で得られる繊維強化成形基材には、必要に応じて、さらに公知の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、充填剤、導電性付与剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制震剤、防臭剤、摺動性改質剤、帯電防止剤が例示される。
【0053】
充填剤としては、マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、高分子化合物が例示される。
【0054】
導電性付与剤としては、金属系、金属酸化物系、カーボンブラック、グラファイト粉末が例示される。
【0055】
難燃剤としては、臭素化樹脂などのハロゲン系難燃剤;三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤;ポリリン酸アンモニウム、芳香族ホスフェート、赤燐などのリン系難燃剤、有ホウ酸金属塩、カルボン酸金属塩、芳香族スルホンイミド金属塩などの有機酸金属塩系難燃剤;硝酸亜鉛、亜鉛、酸化亜鉛、ジルコニウム化合物などの無機系難燃剤;シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェート、窒素化グアニジンなどの窒素系難燃剤;PTFEなどのフッ素系難燃剤;ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系難燃剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤が例示される。
【0056】
難燃助剤としては、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズ、酸化チタンが例示される。
【0057】
結晶核剤としては、マイカ、タルク、カオリンが例示される。
【0058】
本発明で得られる繊維強化成形基材の用途としては、電気・電子機器部品、土木・建築用部品、自動車・二輪車用部品、航空機用部品が挙げられる。
【0059】
電気・電子機器部品としては、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などに用いられる筐体、トレイ、シャーシ、内装部材又はそのケースが例示される。
【0060】
土木・建築用部品としては、支柱、パネル、補強材が例示される。
【0061】
自動車・二輪車用部品のうち、自動車・二輪車用構造部品としては、各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム、プロペラシャフト、ホイール、ギアボックスなどの、サスペンション、アクセル又はステアリング部品;フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの、外板またはボディー部品;バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーパー、エアロパーツなどの外装部品;インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、モジュールなどの内装部品;モーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク、燃料ポンプ、エアーインテーク、インテークマニホールド、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系又は吸気系部品が例示される。その他の自動車・二輪車用部品としては、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースイッチ、スターターリレー、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ホーンターミナル、ステップモーターローラー、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、スペアタイヤカバー、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、スカッフプレート、フェイシャーが例示される。
【0062】
航空機用部品としては、ランディングギアポッド、ウィングシット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブが例示される。
これらのうち、本発明で得られる繊維強化成形基材は、電気・電子機器部品、土木・建築用のパネル、自動車・二輪車用の構造部品、航空機用部品に好ましく用いられ、電子機器部品、自動車用の構造部品により好ましく用いられる。
【実施例】
【0063】
実施例に用いた原料
炭素繊維A1(PAN系炭素繊維)
炭素繊維A1は、下記のようにして製造した。
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240〜280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。この炭素繊維束に硫酸を電解質とした水溶液で、炭素繊維1gあたり3クーロンの電解表面処理を行い、さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維を得た。
総フィラメント数 24,000本
単繊維直径 7μm
単位長さ当たりの質量 0.8g/m
比重 1.8g/cm3
引張強度 (注1) 4.2GPa
引張弾性率(注2) 230GPa
O/C(注3) 0.10
サイジング種類 ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量(注4) 1.5質量%
【0064】
炭素繊維A2(PAN系炭素繊維)
炭素繊維A2は、下記のようにして製造した。
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240〜280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維を得た。
総フィラメント数 12,000本
単繊維直径 7μm
単位長さ当たりの質量 0.8g/m
比重 1.8g/cm3
引張強度(注1) 4.2GPa
引張弾性率(注2) 230GPa
O/C(注3) 0.05
サイジング種類 ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量(注4) 0.6質量%
【0065】
炭素繊維A3(PAN系炭素繊維)
炭素繊維A3は、下記のようにして製造した。
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240〜280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維を得た。
総フィラメント数 48,000本
単繊維直径 7μm
単位長さ当たりの質量 0.8g/m
比重 1.8g/cm3
引張強度(注1) 4.2GPa
引張弾性率(注2) 230GPa
O/C(注3) 0.05
サイジング種類 ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量(注4) 1.5質量%
【0066】
マトリックス樹脂B1(酸変性ポリプロピレン樹脂)
マトリックス樹脂B1は、三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE510を用いた。その物性は下記の通りである。
比重 0.91
融点 160℃
【0067】
マトリックス樹脂B2(ナイロン6樹脂)
マトリックス樹脂B2は、東レ(株)製、“アミラン”(登録商標)CM1001を用いた。その物性は下記の通りである。
比重 1.13
融点 225℃
【0068】
マトリックス樹脂B3(PPS樹脂)
マトリックス樹脂B3は、東レ(株)製、“トレリナ”(登録商標)A900を用いた。その物性は下記の通りでさる。
比重 1.34
融点 278℃
【0069】
マトリックス樹脂B4(エポキシ樹脂)
“エピコート”(登録商標)828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)30質量部、“エピコート”(登録商標)1002(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)30質量部、“エピコート”(登録商標)154(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)40質量部、“ビニレック”K(登録商標)(ポリビニルホルマール、チッソ(株)製)5質量部、DICY7(ジシアンジアミド、ジャパンエポキシレジン(株)製)4質量部、およびDCMU−99(3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレア、保土谷化学工業(株)製)5質量部を下に示す手順でニーダーで混合し、ポリビニルホルマールが均一に溶解したエポキシ樹脂組成物を得た。
(a)各エポキシ樹脂原料とポリビニルホルマールとを150〜190℃に加熱しながら1〜3時間攪拌し、ポリビニルホルマールを均一に溶解する。
(b)樹脂温度を55〜65℃まで降温し、ジシアンジアミド、および3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレアを加え、該温度で30〜40分間混練後、ニーダー中から取り出して樹脂組成物を得る。
【0070】
バインダー成分C1
バインダーを構成するバインダー成分は、日本触媒(株)製“ポリメント”(登録商標)SK−1000を用いた。その主な構成成分はアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体である。
【0071】
バインダー成分C2
バインダーを構成するバインダー成分は、日本触媒(株)製“エポクロス”(登録商標)WS−700を用いた。その主な構成成分はオキサゾリン基を側鎖に有するアクリル系重合体である。
【0072】
(注1)引張強度、(注2)引張弾性率の測定条件
日本工業規格(JIS)−R−7601「樹脂含浸ストランド試験法」に記載された手法により、求めた。ただし、測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、“BAKELITE”(登録商標)ERL4221(100質量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)/アセトン(4質量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて形成した。また、ストランドの測定本数は、6本とし、各測定結果の平均値を、その炭素繊維の引張強度、引張弾性率とした。
【0073】
(注3)O/Cの測定の測定条件
X線光電子分光法により次の手順に従って求めた。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着物などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた。X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202cVに合わせた。C1sピーク面積を、K.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積を、K.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。
表面酸素濃度を、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0074】
(注4)サイジング剤の付着量の測定条件
試料として、サイジング剤が付着している炭素繊維約5gを採取し、耐熱性の容器に投入した。次にこの容器を120℃で3時間乾燥した。吸湿しないようにデシケーター中で注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW1(g)とした。続いて、容器ごと、窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、同様にデシケーター中で吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW2(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤の付着量を次の式により求めた。
(式)付着量(質量%)=100×{(W1−W2)/W2
なお、測定は3回行い、その平均値を付着量として採用した。
【0075】
各実施例で得られる炭素繊維ウェブの評価基準は次の通りである。
・トータル工程時間
工程(I)から工程(III)、工程(I)から工程(IV)に要する時間を測定した。
【0076】
・強化繊維分散状態の評価
工程(I)で得られた炭素繊維ウェブの任意の部位より、50mm×50mmの正方形状にウェブを切り出して顕微鏡にて観察した。10本以上の炭素繊維の単繊維が束状になった状態、すなわち分散が不十分な炭素繊維の束の個数を測定した。この手順で20回の測定をおこない、その平均値をもって、分散が不十分な炭素繊維の束が1個未満を二重丸、分散が不十分な炭素繊維の束が1個以上5個未満を○、分散が不十分な炭素繊維の束が5個以上10個未満を△、分散が不十分な炭素繊維の束が10個以上を×で評価した。
【0077】
・成形基材の取扱い性
得られた繊維強化成形基材を取り扱う際に、炭素繊維ウェブとマトリックス樹脂とが一体化しており、取り扱い性に優れる場合を○、炭素繊維ウェブとマトリックス樹脂とが分離しており、取り扱いに注意が必要な場合を△とした。
【0078】
・成形品力学特性の評価
得られた繊維強化成形基材を200mm×200mmに切り出して、120℃で1時間乾燥させた。乾燥後の繊維強化成形基材を8枚積層し、温度200℃、圧力30MPaで5分間プレス成形し、圧力を保持したまま50℃まで冷却して厚み1.0mmの炭素繊維強化樹脂成形品を得た。得られた成形品を用いて、ISO178法(1993)に従い、曲げ強度をn=10で評価した。なお、曲げ強度の評価結果は実施例1を100として相対値で記載した。また、評価結果のばらつきを変動係数(CV値)で記載した。
【0079】
(実施例1)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P1の製造
図1の装置01を用いて、繊維強化成形基材P1を製造した。装置01は、分散槽11としての容器下部に開口コック15を備えるスラリー輸送部13を有する直径300mmの円筒形状の容器、抄紙槽12としての大型角型シートマシン(熊谷理機工業株式会社製、No.2553−I(商品名))、容器下部に開口コック28を備え、抄紙槽12の上に開口するバインダー輸送部27を備えるバインダー槽26を備えている。バインダー輸送部27は可動であり、炭素繊維ウェブ20上に均一にバインダー散布可能である。分散槽11の上面の開口部には撹拌機16が付属し、開口部から炭素繊維束17および分散媒体18を投入可能である。抄紙槽12の底部は長さ400mm×幅400mmの抄紙面(メッシュシート製)19を有し、抄紙面19上に炭素繊維ウェブ20が得られる。
【0080】
A1(炭素繊維)をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A1−1)を得た。
【0081】
水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を20リットル作成し、分散槽に移した。この分散液に、A1−1(チョップド炭素繊維)9.6gを投入し、10分間撹拌してスラリーを調製後、容器下部の開口コックを開放し、該スラリーを抄紙槽に流し込み、水を吸引して、長さ400mm、幅400mmの炭素繊維ウェブを得た(工程(I))。次いで該炭素繊維ウェブの上面部より、バインダー槽の開口コックを開放して、バインダー液としてC1の1質量%の水分散液(エマルジョン)を200g散布した。余剰分のバインダー液を吸引してバインダー成分を付与した炭素繊維ウェブを得た。該炭素繊維ウェブをシートマシンより取り出し、150℃で20分間乾燥して炭素繊維ウェブW1を得た(工程(II))。炭素繊維ウェブW1の目付は60g/m2であった。
【0082】
炭素繊維ウェブW1を製造装置01から取り出し、炭素繊維ウェブW1に、マトリックス樹脂としてB1の不織布(樹脂目付30g/m2)を炭素繊維ウェブの上下両面に配置し、220℃で10MPaの加圧をおこない、炭素繊維ウェブにマトリックス樹脂が含浸した繊維強化成形基材P1を得た(工程(III))。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材の評価結果を、表1に示した。
【0083】
(実施例2)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P2の製造
図2の装置02を用いて、繊維強化成形基材を製造した。装置02は、分散槽11とバインダー槽26に加圧された空気を槽内に送り込むための加圧空気管29,30を備える点、抄紙槽12が、底部に幅200mmの抄紙面19を有するメッシュコンベア21を備える槽である点、炭素繊維ウェブを運搬可能なコンベア22を前記メッシュコンベアに接続して備える点、バインダー輸送部27がコンベア22の上に開口する点で製造装置01と異なる。また、さらに、コンベア22で運搬された炭素繊維ウェブ20を水平方向に導入可能なダブルベルトプレス31、コンベア22上の炭素繊維ウェブ20を乾燥するための乾燥機38、及び得られる繊維強化成形基材32を巻き取り可能な巻き取りロール33を備える。ダブルベルトプレス31には、炭素繊維ウェブ20と共に、炭素繊維ウェブ20の両側面にロール36,37から供給されるマトリックス樹脂35が供給される。
【0084】
A1(炭素繊維)をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A1−1)を得た。
【0085】
水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を40リットル作成し、分散槽に移した。この分散液に、A1−1(チョップド炭素繊維)20gを投入し、10分間撹拌してスラリーを調製後、容器下部の開口コックを開放し、スラリーの容器に加圧空気を導入してスラリー流量を一定に保ちながら、該スラリーを幅200mmの抄紙面を有するメッシュコンベアに流し込み、水を吸引して、1m/分の速度で引き取り、長さ5m、幅200mmの炭素繊維ウェブを得た(工程(I))。次いで該炭素繊維ウェブの上面部より、バインダー槽の開口コックを開放して、バインダー液としてC1の1質量%の水分散液(エマルジョン)を200g散布した。余剰分のバインダー液を吸引したのち、200℃の乾燥炉に3分間で通過させ、炭素繊維ウェブW2を得た(工程(II))。炭素繊維ウェブW2の目付は20g/m2であった。該炭素繊維ウェブW2をオンラインのままコンベアでダブルベルトプレスに送り、マトリックス樹脂としてB1の不織布(樹脂目付15g/m2)を炭素繊維ウェブの上下両面に配置し、ダブルベルトプレス装置を用いて220℃で5MPaの加圧をおこない、炭素繊維ウェブにマトリックス樹脂が含浸した繊維強化成形基材P2を作製した(工程(III))。そのまま巻き取り速度1m/分でロール形状に巻き取りロールに巻き取った(工程(IV))。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P2の評価結果を、表1に示した。
【0086】
(実施例3)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P3の製造
実施例1において、工程(II)の強化繊維ウェブの含水率を20質量%としたほかは、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P3を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P3の評価結果を、表1に示した。
【0087】
(実施例4)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P4の製造
実施例2において、工程(III)における加圧及び加熱を行わなかったほかは、実施例2と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P4を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P4の評価結果を、表1に示した。
【0088】
(実施例5)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P5の製造
実施例1において、工程(III)のマトリックス樹脂としてB2の不織布(30g/m2)を用いて250℃でダブルベルトプレスを行ったほかは、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P5を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P5の評価結果を、表1に示した。
【0089】
(実施例6)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P6の製造
実施例1において、工程(III)のマトリックス樹脂としてB3の不織布(30g/m2)を用いて300℃でダブルベルトプレスを行ったほかは、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P6を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P6の評価結果を、表1に示した。
【0090】
(実施例7)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P7の製造
実施例1において、工程(III)のマトリックス樹脂としてB4のフィルム(30g/m2)を用いて80℃でダブルベルトプレスを行ったほかは、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P7を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P7の評価結果を、表1に示した。
【0091】
(実施例8)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P8の製造
A3(炭素繊維)をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A3−1)を得た。
実施例1において、工程(I)のチョップド炭素繊維としてA3−1を用いたほかは、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P8を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P8の評価結果を、表1に示した。
【0092】
(実施例9)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P9の製造
実施例1において、工程(II)のバインダーとしてC2を用いたほかは、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P9を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P9の評価結果を、表1に示した。
【0093】
(比較例1)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P10の製造
実施例1において、工程(I)、工程(II)、及び工程(III)の処理をオフラインで行ったこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P10を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P10の評価結果を、表1に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1から明らかなように、実施例1〜9ではいずれも短時間で分散状態に優れ、成形品とした場合にも高い力学特性を保つことのできる繊維強化成形基材を得ることができた。工程(I)〜(II)をオンラインで行うことにより、輸送時における強化線維の沈降、凝集を防ぐことができることが明らかとなった(実施例1〜9及び比較例1参照)。
【0096】
さらに、工程(I)〜(III),並びに必要に応じて設けることができる工程(IV)までを全てオンラインで行うことにより、より短時間で繊維強化成形基材を得ることができた(実施例1、2及び4参照)。
【0097】
工程(II)における炭素繊維ウェブの含水率を10質量%以下に調整することにより、バインダー付与後の加熱工程を短時間で済ませられることが明らかとなった(実施例1,3参照)。
【0098】
工程(III)における加圧、加熱を行うことにより、マトリックス樹脂が繊維強化ウェブに効率よく含浸し、得られる繊維強化成形基材の成形品の力学特性をより高く保つことができることが明らかとなった(実施例2,3参照)。
工程(III)における加圧、加熱をおこなわなければ、マトリックス樹脂が繊維強化ウェブに含浸しないため、繊維強化成形基材の取り扱い性はやや落ちるが工程時間を大きく短縮することができる。(実施例4)
上記の効果は、強化繊維、マトリックス樹脂、バインダーの種類にかかわらず、同様に得られるものであることも分かった(実施例1、5〜9参照)。
【0099】
(実施例10)乾式プロセスによる繊維強化成形基材P11の製造
図3の装置03を用いて、繊維強化成形基材P5を製造した。製造装置03は、分散−抄紙槽34としての、底面に抄紙面19を有し、空気吸引が可能な加圧空気管29を備える縦400mm×横400mm×高さ400mmの容器を備える。また、開口コック28を備え、抄紙槽12の上に開口するバインダー輸送部27を備えるバインダー槽26を備える。バインダー輸送部27は可動であり、分散−抄紙槽34内の炭素繊維ウェブ20上に均一にバインダー散布可能である。分散−抄紙槽34の底部は長さ400mm×幅400mmの抄紙面(メッシュシート製)19を有し、抄紙面19上に炭素繊維ウェブ20が得られる。
【0100】
A2(炭素繊維)をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A2−1)を得た。
【0101】
分散−抄紙室にチョップド炭素繊維(A2−1)9.6gを投入し、チョップド炭素繊維に加圧空気を吹き付けて開繊させたのちに、底面より空気を吸引して開繊した炭素繊維を底面に堆積させ、長さ400mm、幅400mmの炭素繊維ウェブを得た(工程(I))。次いで該炭素繊維ウェブの上面部より、バインダー槽の開口コックを開放して、バインダー液としてC1の1質量%の水分散液を200g散布した。余剰分のバインダー液を吸引してバインダー成分を付与した炭素繊維ウェブを得た。該炭素繊維ウェブを取り出し、150℃で20分間乾燥して炭素繊維ウェブW11を得た(工程(II))。炭素繊維ウェブW11の目付は60g/m2であった。
【0102】
該炭素繊維ウェブに、マトリックス樹脂としてB−1の不織布(樹脂目付30g/m2)を炭素繊維ウェブの上下両面に配置し、220℃で10MPaの加圧をおこない、炭素繊維ウェブにマトリックス樹脂が含浸した繊維強化成形基材P5を得た(工程(III))。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P11の評価結果を、表2に示した。
【0103】
(実施例11)乾式プロセスによる繊維強化成形基材P12の製造
図4の装置04を用いて、繊維強化成形基材P6を製造した。製造装置04は、強化繊維束の分散を行うカーディング装置39、底部に幅200mmの抄紙面19を有するメッシュコンベア21、容器下部に開口コック28を備え、メッシュコンベア21の上に開口するバインダー輸送部27を備えるバインダー槽26、コンベア22で運搬された炭素繊維ウェブ20を水平方向に導入可能なダブルベルトプレス31、コンベア22上の炭素繊維ウェブ20を乾燥するための乾燥機38、及び得られる繊維強化成形基材32を巻き取り可能な巻き取りロール33を備える。
【0104】
A2(炭素繊維)をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A2―1)を得た。
【0105】
カーディング装置にA2−1(チョップド炭素繊維)6gを30秒間で均等に投入し、カーディングの速度を1m/分に保ちながら、幅200mmの炭素繊維ウェブを引き取りした。次いで、バインダー槽の開口コックを開放して、バインダー液としてC1の1質量%の水分散液200gを、コンベア上を流れてくる炭素繊維ウェブの上面部に30秒間かけて均一に散布した。オンラインで余剰分のバインダー液を吸引したのち、200℃の乾燥炉に3分間で通過させ、炭素繊維ウェブW12を得た。炭素繊維ウェブW12の目付は60g/m2であった。該炭素繊維ウェブをオンラインのまま、マトリックス樹脂としてB−1の不織布(樹脂目付15g/m2)を炭素繊維ウェブの上下両面に配置し、ダブルベルトプレスを用いて220℃で5MPaの加圧をおこない、炭素繊維ウェブにマトリックス樹脂が含浸した繊維強化成形基材P6を作製し、そのまま巻き取り速度1m/分でロール形状に巻き取りロールに巻き取った。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P12の評価結果を、表2に示した。
【0106】
(実施例12)乾式プロセスによる繊維強化成形基材P13の製造
実施例2において、工程(III)における加圧及び加熱を行わなかったほかは、実施例6と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P13を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P13の評価結果を、表2に示した。
【0107】
(比較例2)湿式プロセスによる繊維強化成形基材P8の製造
実施例1において、工程(I)、工程(II)、及び工程(III)の処理をオフラインで行ったこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、繊維強化成形基材P14を得た。各工程における実施条件および得られた繊維強化成形基材P14の評価結果を、表2に示した。
【0108】
【表2】

【0109】
表2から明らかなように、実施例10〜12ではいずれも短時間で炭素繊維の分散状態に優れ、成形品とした場合にも高い力学特性を保つことのできる繊維強化成形基材を得ることができた。工程(I)〜(II)をオンラインで行うことにより、輸送時における強化線維の沈降、凝集を防ぐことができることが明らかとなった(実施例10〜12及び比較例2参照)。
【0110】
さらに、工程(I)〜(III),並びに必要に応じて設けることができる工程(IV)までを全てオンラインで行うことにより、より短時間で繊維強化成形基材を得ることができた(実施例10〜12参照)。
【0111】
工程(III)における加圧、加熱を行うことにより、マトリックス樹脂が繊維強化ウェブに効率よく含浸し、得られる繊維強化成形基材の成形品の力学特性をより高く保つことができることが明らかとなった(実施例11および12参照)。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】実施例の装置の一例を模式的に示す図である。
【図2】実施例の装置の一例を模式的に示す図である。
【図3】実施例の装置の一例を模式的に示す図である。
【図4】実施例の装置の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0113】
01,02,03,04 装置
11 分散槽
12 抄紙槽
13 輸送部
15,28 開口コック
16 撹拌機
17 チョップド炭素繊維(炭素繊維束)
18 分散液(分散媒体)
19 抄紙面
20 炭素繊維ウェブ(強化繊維ウェブ)
21 メッシュコンベア
22 コンベア
26 バインダー槽
27 バインダー輸送部
29,30 加圧空気管
31 ダブルベルトプレス
32 繊維強化成形基材
33 巻き取りロール
34 分散−抄紙槽
35 マトリックス樹脂
36,37 ロール
38 乾燥機
39 カーディング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束を分散させて強化繊維ウェブを得る工程(I)、前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブにバインダーを付与する工程(II)および、前記工程(II)において得られるバインダーの付与された強化繊維ウェブにマトリックス樹脂を複合化する工程(III)を有してなる繊維強化成形基材の製造方法であって、前記工程(I)〜(II)がオンラインで実施されてなり、前記強化繊維束が10〜80質量%、前記バインダーが0.1〜10質量%、前記マトリックス樹脂が10〜80質量%である繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(I)は、強化繊維束の分散を水中で行い、得られるスラリーを抄造して強化繊維ウェブを得る工程である請求項1に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(II)のバインダー付与工程において、分散後の強化繊維ウェブの含水率を10質量%以下に調整した後、バインダーを付与する請求項2に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(I)が、強化繊維束を気相中で分散させて強化繊維ウェブを得る工程である請求項1に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項5】
前記強化繊維束の気相中での分散を、強化繊維束を非接触式で開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う、請求項4に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項6】
前記強化繊維束の気相中での分散を、強化繊維束に空気流を当てて開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う、請求項4に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項7】
前記強化繊維束の気相中での分散を、強化繊維束を接触式で開繊し、開繊した強化繊維束を堆積させて行う、請求項4に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項8】
前記接触式による開繊が、カーディングまたはニードルパンチによる開繊である、請求項7に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項9】
前記強化繊維束を構成する強化繊維が炭素繊維である、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項10】
前記炭素繊維のX線光電子分光法により測定される表面酸素濃度比O/Cが0.05〜0.50である、請求項9に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項11】
前記強化繊維束が、長さ1〜50mmのチョップド繊維である、請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項12】
前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブにおける固形分の質量のうち、強化繊維の割合が80〜100質量%である、請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項13】
前記工程(I)で得られる強化繊維ウェブの目付が10〜500g/m2である、請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項14】
前記工程(II)において、バインダーを熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの形態で強化繊維ウェブに付与する、請求項1〜13のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂が、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、カルボン酸塩基及び酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有する熱可塑性樹脂である、請求項14に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項16】
前記工程(II)において、バインダーの付与後さらに加熱される、請求項1〜15に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項17】
前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である、請求項1〜16のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項18】
前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1〜16のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項19】
前記熱可塑性樹脂が布帛、不織布及びフィルムから選択される少なくとも1種の形態で複合化に供される、請求項18に記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項20】
前記工程(III)におけるバインダーの付与された強化繊維ウェブとマトリックス樹脂との複合化が、加圧および/または加熱により行われる、請求項1〜19のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項21】
さらに、前記工程(III)で得られた繊維強化成形基材を引き取る工程(IV)を有し、工程(I)〜(IV)がオンラインで実施されてなる、請求項1〜20のいずれかに記載の繊維強化成形基材の製造方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載の製造方法で製造された繊維強化成形基材を用いる、電気・電子機器部品、土木・建築用部品、自動車・二輪車用の構造部品又は航空機用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37358(P2010−37358A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198456(P2008−198456)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】