説明

繊維強化樹脂製歯車

【課題】径方向断面における繊維組織層の繊維の連続性を確保することができるとともに、繊維組織層が渦巻き状に形成された繊維強化樹脂製歯車より強度を設定する際の自由度を向上させることができる繊維強化樹脂製歯車を提供する。
【解決手段】ウォームホイールには、芯金15の外周を囲むようにして芯金15と一体的に形成された繊維強化樹脂部16が設けられている。繊維強化樹脂部16は、強化繊維が組紐状に編成されることで構成された複数の組物層R1〜R7に樹脂が含浸されることで形成されている。そして、複数の組物層R1〜R7は、歯部17に対応する部分には歯元部に達する連続繊維を有し、ウォームホイールの径方向断面において、閉じた輪状に形成されるとともに独立した状態で同心状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂製歯車は、噛み合い音が低く、軽量で回転慣性力が小さい等の利点を持つため、例えば、ギヤ部に高面圧が作用する電動パワーステアリング装置の減速ギヤ機構に用いられることがある。そして、このような繊維強化樹脂製歯車の一例としては繊維強化樹脂製のリング状素材の外周部を歯切り加工した場合であっても噛み合い面において補強繊維が渦巻き状となる繊維強化樹脂歯車が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された繊維強化樹脂歯車は、補強繊維を有するプリプレグを用い、その補強繊維は、90°/0°配向の第1繊維と、歯元部に埋設された±45°配向の第2繊維とを有する。そして、歯部において最も大きな応力が生じる歯元部には第1繊維と第2繊維とからなる層が形成されており、第1繊維より第2繊維の割合が多くなるように設定されることで強化されている。
【0004】
また、その他の繊維強化樹脂歯車としては、軟質繊維及び硬質繊維からなる2種類のプリプレグが用いられ、最外周部には加工性の良い軟質繊維が硬質繊維より相対的に多く配設されるとともに、歯元付近には硬質繊維が軟質繊維より相対的に多く配設されて構成されたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−240324号公報
【特許文献2】特開平6−91770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載された繊維強化樹脂歯車では、2種類のプリプレグを重ねた状態で巻いて棒状に形成し、その棒状の両端を合わせてドーナツ状に形成した後に成形する方法を採用するが故に第1繊維及び第2繊維は渦巻き形状となっている。そして、第1繊維及び第2繊維が渦巻き形状であると、繊維強化樹脂部に対する強度設計が制限され、例えば、繊維強化樹脂歯車の径方向断面において、内側から外側に向かうにつれて強度が大きくなるように設計することは難しい。
【0006】
また、特許文献2に記載された繊維強化樹脂歯車では、特許文献1に記載された繊維強化樹脂歯車と同様に渦巻き状に巻かれており、アラミド繊維からなる軟質繊維とカーボン繊維からなる硬質繊維の相対的な割合を調整することによって強度を設定するため、繊維強化樹脂部に対する強度設計が制限されるという欠点がある。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、歯部における繊維組織層の繊維の連続性を確保することができるとともに、繊維組織層が渦巻き状に形成された繊維強化樹脂製歯車より強度を設定する際の自由度を向上させることができる繊維強化樹脂製歯車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも外周部に繊維強化樹脂部が形成され、該繊維強化樹脂部に複数の歯部が形成されている繊維強化樹脂製歯車において、前記繊維強化樹脂部は繊維組織体に樹脂が含浸されることで形成され、前記繊維組織体は複数の繊維組織層を有し、前記複数の繊維組織層は、前記歯部に対応する部分には歯元部に達する連続繊維を少なくとも有し、径方向断面において、それぞれ輪状に形成されるとともに独立した状態で同心状となるように形成されていることを要旨とする。
【0009】
ここで、「繊維組織層」とは、連続繊維が組織されて構成されたものを意味し、例えば、織布や組物を含む。「径方向断面」とは、繊維強化樹脂製歯車の軸心を含み、なおかつ、繊維強化樹脂製歯車の外周と直交する面のことを意味する。
【0010】
この発明では、例えば、繊維強化樹脂部を切削加工して歯部が形成された場合であっても、歯部と対応する箇所の径方向断面において複数の繊維組織層は独立した輪状であるため、歯部には連続する繊維組織層が複数存在する。そして、歯部に対応する部分における繊維組織層の繊維は連続しているため、フープ巻きされた連続繊維によって強化された繊維強化樹脂を切削加工して歯部を形成した場合に比べて、歯部に対して連続繊維の特長である力学特性を付与することができる。
【0011】
また、繊維強化樹脂製歯車の径方向断面において、輪状の繊維組織層は独立した状態で同心状に複数層形成されており、各繊維組織層は渦巻き形状には形成されていない。したがって、各繊維組織層の粗さ、配向、繊維種等を設定すれば、繊維強化樹脂部の強度を繊維組織層毎に設定することができる。そのため、例えば、繊維強化樹脂製歯車の径方向断面において渦巻き状に形成された複数の繊維組織層から繊維組織体が構成された場合に比べて、繊維強化樹脂部の強度を繊維組織層毎に細かく設定できるため、繊維強化樹脂製歯車の強度を設定する際の自由度が向上する。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記複数の繊維組織層のうち少なくとも一つの繊維組織層は、繊維体積含有率が異なることを要旨とする。
この発明では、例えば、同じ太さの繊維を用いて繊維組織層を構成するのであれば、繊維組織層の目の粗さを変えることで、繊維組織層の繊維体積含有率を変えることができる。そして、繊維組織層の繊維体積含有率を変えることができれば、繊維強化樹脂部の強度を部位によって変えることができるため、繊維強化樹脂部において強度を設定する際の自由度が向上する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記複数の繊維組織層のうち、外側の繊維組織層の方が内側の繊維組織層よりも繊維体積含有率が小さくなるように形成されていることを要旨とする。
【0014】
この発明では、内側の繊維組織層は外側の繊維組織層よりも繊維体積含有率が大きくなるため、歯部の内側に該当する歯元部の強度を歯部の先端部よりも大きくすることができる。したがって、歯車として用いる場合に、強度的に有利である。
【0015】
また、外側の繊維組織層から構成されている繊維強化樹脂部の繊維体積含有率は小さくなるため、繊維強化樹脂部の外周部の硬度は低くなる。したがって、繊維強化樹脂部の外周を容易に切削加工することができるため、繊維強化樹脂部の外周に歯部を形成し易い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、歯部における繊維組織層の繊維の連続性を確保することができるとともに、繊維組織層が渦巻き状に形成されている繊維強化樹脂製歯車より強度を設定する際の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、ウォームギヤに用いられるウォームホイールに具体化した一実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
図1に示すように、ウォームギヤ11は、外周に螺旋状で連続的な歯部12が形成された金属製のウォーム13と、ウォーム13と噛み合う繊維強化樹脂製歯車としてのウォームホイール14とから構成されている。そして、ウォーム13は、第1端部が図示しない駆動装置の出力軸と連結され、ウォーム13側からウォームホイール14に対して回転力を付与できるように構成されている。
【0018】
ウォームホイール14には、その中心部にリング状の芯金15が設けられるとともに、芯金15の外周を囲むようにして芯金15と一体的となるように繊維強化樹脂部16が設けられている。
【0019】
繊維強化樹脂部16には、その外周部に切削加工が施されることでウォーム13の歯部12と噛み合う複数の歯部17が形成されている。図2に示すように、繊維強化樹脂部16は、強化繊維が組紐状に編成されることでなる複数の繊維組織層としての組物層R1〜R7に熱可塑性樹脂が含浸されることで形成されている。そして、強化繊維としてはアラミド繊維が用いられるとともに、熱可塑性樹脂としてはポリアミド系合成樹脂が用いられている。
【0020】
各組物層R1〜R7は歯部17に対応するウォームホイール14の径方向断面において閉じた輪状に形成されるとともに、ウォームホイール14の径方向断面において独立した状態で同心状に配置されている。具体的には、各組物層R1〜R7は、ウォームホイール14の径方向断面において、全周が360°閉じるとともに、輪郭線が略矩形状となるように形成されている。各組物層R1〜R7は、同じ太さの強化繊維を用いて編成されるとともに、同じ配向となるように編成されている。そして、各組物層R1〜R7は、径方向断面において同心状に配置された各組物層R1〜R7の中心Oから離間する層ほど目が粗くなっている。したがって、最も内側の組物層R1は最も単位体積当たりの繊維量が多く、最も外側の組物層R7は最も単位体積当たりの繊維量が少ない。そのため、繊維強化樹脂部16はその繊維体積含有率が径方向断面において各組物層R1〜R7の中心Oから離間するにつれて小さくなるように形成されている。なお、図1に示すように、組物層R5〜R7のうち歯部17に対応する部分には、歯元部17aにまで達する連続繊維が存在している。また、組物層R5〜R7はその一部がウォームホイール14の噛み合い面18から現出している。また、組物層R5〜R7は歯底面19から現出するとともに、ウォームホイール14の周方向に沿うように延びている。また、「ウォームホイールの径方向」とは、ウォームホイール14の軸心Pを通過し、なおかつ、ウォームホイール14の外周と直交する方向(図1で図示する矢印Y方向)である。つまり、軸心Pに直交する方向である。「ウォームホイールの径方向断面」とは、ウォームホイール14の軸心Pを通過し、なおかつ、ウォームホイール14の外周と直交する面のことを意味する。つまり、軸心Pを含む平面で切った断面である。また、図1及び図2では、各組物層の間の樹脂は省略して図示し、図2では、図面の都合上、繊維強化樹脂部16のハッチングを省略したうえで各組物層を図示している。
【0021】
次に、ウォームホイール14の製造方法について説明する。
まず、複数の組物層R1〜R7を編成するため、棒状の芯材20を準備し、図示しない製紐機の中心に芯材20を配置し、製紐機によって芯材20の外周部に対して強化繊維を組紐状に編成する。次に、芯金15の外周より長い長さにまで組物層R1を編成する作業が終わると、図示しない製紐部(キャリア)と組物層R1の組み上げ点との間に存在する強化繊維を図示しない切断装置によって切断する。そして、芯材20を元の位置に戻し、再び、組物層R1の外周を覆う組物層R2を編成する作業を行う。さらに、同じように組物層R3〜R7を編成する作業を5回繰り返すと、図3(a)に示すように、7枚の組物層R1〜R7によって7層構造の繊維組織体21が作製される。図3(b)に示すように、繊維組織体21は、筒形状で、同心状に7枚の組物層R1〜R7が重ねられた状態に構成されている。なお、組物層R1〜R7を形成する作業を行う際、芯材20から離れる組物層R1〜R7程、目が粗くなるように編成する。ただし、図3(a),(b)で図示する組物は、図面の都合上、同じ目の粗さからなる組物で図示している。
【0022】
その後、この繊維組織体21から芯材20を抜取って、繊維組織体21の両端部21aの一部を切除して両端部21aが斜め形状で、かつ同じ形状となるように形成する。そして、図3(c)に示すように、繊維組織体21を湾曲させて両端部21aを突き合わせることで環状に変形させる。
【0023】
その後、下型と上型とから構成された図示しない成形型内において、リング状の芯金15を下型に位置決めした状態で配置し、そのうえで、環状に変形された繊維組織体21を成形型のキャビティに配置して芯金15の外周を包囲する。次に、上型を下降させてキャビティ内に配置された繊維組織体21を押圧して圧縮させた状態で、図示しない注入孔からキャビティ内へ溶融させたポリアミド系合成樹脂を注入して繊維組織体21に含浸させる。繊維組織体21に対するポリアミド系合成樹脂の含浸が終了すると、次に、繊維組織体21を冷却して、ポリアミド系合成樹脂を固化させることで外周部に繊維強化樹脂部16が形成された円環状の成形体が完成する。なお、芯金15の外周部には外周に沿って一周する溝部15a(図2参照)が形成され、ポリアミド系合成樹脂が溝部15a内に入り込んだ状態で成形されるため、繊維強化樹脂部16は芯金15と分離しないように接着される。
【0024】
その後、成形型内から成形体を取り出し、成形体を構成する繊維強化樹脂部16の外周部分(組物層R5〜R7と対応する部分)を切削加工する作業を行う。この際、繊維強化樹脂部16の外周部分は、ウォームホイール14の径方向断面における中心部O付近に比べて繊維体積含有率が小さくなっているため、容易に切削加工することができる。そして、繊維強化樹脂部16を切削加工することで外周部に歯部17が形成され、全ての歯部17が形成されると繊維強化樹脂製のウォームホイール14が完成する。
【0025】
次に、ウォームホイール14の作用について説明する。
ウォームギヤ11において、ウォーム13が図示しない駆動装置によって回転させられると、ウォーム13からウォームホイール14に回転力が伝達される。ここで、回転力の伝達は歯部12と歯部17とが順次噛み合うことで行われるため、回転力の伝達が行われる際、歯部17の噛み合い面18にはウォーム13の歯部12から高面圧が付加される。しかし、ウォームホイール14の歯部17は繊維強化樹脂部16の一部であり、歯部17では、ウォームホイール14の径方向断面において各組物層R5〜R7の繊維が歯元部17aまで連続しているため、歯部17には連続繊維の力学特性(例えば、高強度、高弾性等)が損なわれることなく付与される。とくに、繊維強化樹脂部16のうち、組物層R1から組物層R5までの部分は、組物層R6から組物層R7までの部分より繊維体積含有率が高く設定されることで、歯部17の歯元部17a付近の強度は歯部17の刃先部分に比べて高く設定される。そのため、歯部17の歯元部17a付近に応力が集中しても破損することは抑制され、歯部17の噛み合い面18に高面圧が付与されても、歯部17は十分にその圧力に耐えることができウォームホイール14は支障なく回転する。
【0026】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ウォームホイール14にはその外周部に繊維強化樹脂部16が形成されている。そして、繊維強化樹脂部16には、ウォームホイール14の径方向断面において、閉じた輪状の組物層R1〜R7が独立した状態で同心状に複数層形成されている。したがって、繊維強化樹脂部16を切削加工して歯部17を形成した場合であっても、歯部17に対応する組物層R5〜R7の部分には、連続する繊維が存在しているため、組物層R1〜R7を構成する強化繊維の力学特性が損なわれることを抑制でき、歯部17の歯元部17aに十分な強度を設定することができる。
【0027】
(2)各組物層R1〜R7の目の粗さ、配向、繊維種等を設定することで、繊維強化樹脂部16の強度を組物層R1〜R7毎に設定することができる。そのため、ウォームホイール14の径方向断面において、渦巻き状の複数の組物層から繊維強化樹脂部を形成する場合に比べて、組物層R1〜R7の目の粗さ、配向、繊維種を設定するだけで、繊維強化樹脂部16において各組物層R1〜R7毎に所望の強度に設定することができるため、繊維強化樹脂部16に対して強度を設定する際の自由度が向上する。
【0028】
(3)繊維強化樹脂部16において、各組物層R1〜R7毎に繊維体積含有率が変わるように形成されている。そして、例えば同じ太さの強化繊維を用いたうえで組物層R1〜R7の目の粗さを変えることで、組物層R1〜R7の繊維体積含有率を変更でき、繊維体積含有率を変えれば繊維強化樹脂部16の強度を部位によって変えることができる。したがって、繊維強化樹脂部16において各部位の強度を設定する際の自由度が向上する。
【0029】
(4)組物層R1〜R7の中心Oから離間する組物層R1〜R7である程、繊維体積含有率が小さくなるように形成されている。そして、歯部17における繊維体積含有率は歯先部よりも歯元部17aの方が大きくなるように設定されている。したがって、歯部17の歯元部17a付近に応力が集中しても破損することは抑制され、強度的に有利なウォームホイール14とすることができる。
【0030】
(5)繊維強化樹脂部16において、歯部17を形成する際に切削加工される外側の組物層R5〜R7に対応する部分は、内側の組物層R1〜R4に対応する部分に比べて繊維体積含有率が小さくなるように形成されている。したがって、歯部17を形成する際に切削される繊維強化樹脂部16の外周部分の硬度は低くなるため、切削加工して歯部を形成し易い。
【0031】
(6)繊維組織体21は、組物層R1〜R7によって構成されている。ここで、袋織に織られた織物を用いて繊維組織体を製作する場合、幅が異なる織物を一枚ずつ製織した後、複数の織物を順次、芯材に被せる作業を行わなければならないため面倒である。これに対して、組物層R1〜R7で繊維組織体21を構成する場合には、製紐機によって芯材20の外周部に複数層の組物層R1〜R7を編成し、その後に、芯材20を取り除けば、断面が閉じた輪状であるとともに、独立した状態で同心状に配置された複数の組物層R1〜R7からなる繊維組織体21を製作できる。したがって、組物を編成する作業を繰り返し行うことができるため、袋織に織られた織物を用いて繊維組織体を製作する場合に比べて効率よく繊維組織体を製作することができる。
【0032】
本実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 繊維強化樹脂部のうち、ウォームホイールの径方向断面における繊維体積含有率の分布を変更してもよい。例えば、繊維強化樹脂部においてその繊維体積含有率が同心状に配置された組物層R1〜R7の中心Oから離間するにつれて大きくなるように形成してもよい。この場合、複数枚の組物層からなる複数層構造の繊維組織体を製作する際に、同じ太さの強化繊維を用いたうえで、中心Oから離れる組物である程目が細かくなるように各組物を編成する。このように構成すれば、繊維強化樹脂部の繊維体積含有率は、内側(組物層の中心O側)より外側の方が大きくなるように設定することができる。また、中心Oから組物層R3までと、組物層R5より外側の繊維強化樹脂部の繊維体積含有率が、組物層R3から組物層R5までの繊維強化樹脂部の繊維体積含有率より小さくなるように設定してもよい。また、繊維体積含有率を組物層R1〜R7の順に連続的に変えなくてもよく、例えば、2段階、3段階に変えてもよい。
【0033】
○ 各組物層R1〜R7の繊維体積含有率を設定する方法を変更してもよい。各組物層R1〜R7を編成する際の目の粗さを変えることで繊維体積含有率を変える代わりに、例えば、各組物層R1〜R7を編成する際の目の粗さを同じにしたまま、組物層R1〜R7を編成する際に、太さが異なる強化繊維を用いることで各組物層R1〜R7の繊維体積含有率を変えてもよい。
【0034】
○ 繊維強化樹脂部の強度を設定する方法を変更してもよい。繊維強化樹脂部の繊維体積含有率を変えることで繊維強化樹脂部の強度を設定する代わりに、例えば、各組物層を形成する際に、強化繊維の配向を変えることで繊維強化樹脂部の強度を設定してもよい。また、各組物層に用いる強化繊維の種類を変えることで繊維強化樹脂部の強度を設定してもよい。なお、各組物層を構成する強化繊維の配向や、組物層に用いられる強化繊維の種類を変更することで繊維強化樹脂部の強度を設定するのであれば、繊維強化樹脂部の繊維体積含有率を一定にしてもよい。
【0035】
○ 製紐機によって複数層構造の繊維組織体を形成する際、予め設定した長さにまで組物層を編成した後に毎回行う強化繊維の切断作業を省略してもよい。この場合、例えば、予め設定した長さの組物層を編成した後に、編成を開始する際に強化繊維を保持する製紐機の保持部と編成された組物層との間に存在する強化繊維を切断する。そして、組物層を自由状態となった組物層の端部から少しずつ自身と芯材との間に入り込むように配置することで、組物層は内側に芯材を配置させたまま裏返される。その後、強化繊維の編成を開始した位置にまで製紐部を移動させて、再び、強化繊維の編成を行い、予め設定した長さの組物層が編成されると、再度、内側に芯材を配置させたまま組物層を裏返す作業を行う。このような作業を行えば、強化繊維の切断作業を繰り返し行う必要がなく、製紐部が複数回折り返して作業を行うことで複数層構造の繊維組織体を形成することができる。また、その他に、製紐部によって予め設定した長さの組物層を形成した後、製紐部が折り返して編成を行うことで複数層構造の繊維組織体を製作してもよい。この場合、製紐部を駆動する駆動装置が反対側に移動できるように構成すれば、製紐部は組物層を任意の長さにまで編成した後、折り返してその組物層の外周にさらに組物層を編成することができる。
【0036】
○ 繊維強化樹脂部における繊維組織層の層数は複数層であればよく、7層より少ない層数の繊維組織層から繊維強化樹脂部を構成してもよいし、7層より多い層数の繊維組織層から繊維強化樹脂部を構成してもよい。
【0037】
○ 繊維強化樹脂部の径方向断面において、それぞれ独立した状態で同心状に配置された複数の組物層群が二組形成されるように変更してもよい。この場合、環状に変形された繊維組織体を二つ準備し、成形型のキャビティ内において環状に変形された二つの繊維組織体を重ねて配置したうえで上型によって二つの繊維組織体を圧縮する。なお、二つの繊維組織体を重ねる際には、各繊維組織体の両端部が突き合わされている部分が180°ずれるように配置する。その後、成形型内において、樹脂の注入工程及び加熱工程を行い成形すれば、径方向断面において、独立した状態で同心状に配置された組物層群が二つ存在する繊維強化樹脂部を形成することができる。
【0038】
○ 繊維組織層は、ウォームホイール14の径方向断面において、全周が360°閉じた形状であれば、略矩形をなす形状に限らず、真円である形状や楕円である形状の繊維組織層に変更してもよい。
【0039】
○ 成形体を構成するポリアミドとして、モノマーキャストナイロンを用いてもよい。
○ 繊維組織体に含浸させる樹脂を変更してもよい。熱可塑性樹脂としてのポリアミド系樹脂を含浸させる代わりに、その他のエンジニアリングプラスチックである熱可塑性樹脂としてのポリカーボネートやポリブチレンテレフタレートやポリアセタールを繊維組織体に含浸させることで繊維強化樹脂部を形成してもよい。また、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂やフェノール樹脂を繊維組織体に含浸させてもよい。
【0040】
○ 組物層R1〜R7を構成する強化繊維の種類を変更してもよい。例えば、強化繊維としてカーボン繊維を用いて組物層を編成してもよい。また、繊維強化樹脂製歯車に要求される特性によっては、強化繊維としてガラス繊維やポリエステル繊維を用いて組物層を編成してもよい。
【0041】
○ 繊維組織体を組物層から構成する代わりに、例えば、袋織によって形成された繊維組織層としての織物から繊維組織体を構成してもよい。この場合、例えば、幅が異なる複数の織物を袋織で製織した後、棒状の芯材を準備し、芯材に対して複数の織物を被せることで複数層構造の繊維組織体を製作する。その後、芯材を取り除いて成形型内に繊維組織体を配置して成形すれば繊維強化樹脂からなる成形体を形成できる。
【0042】
○ 本発明の繊維強化樹脂製歯車をウォームホイールに適用する代わりに、平歯車や遊星歯車に適用してもよい。
○ 繊維組織層は径方向断面において、輪状に形成された各繊維組織層が独立した状態で同心状に形成されていればよく、各繊維組織層は閉じた輪状になっていなくてもよい。例えば、図4のように、各組物層R1〜R7を繊維強化樹脂部16の径方向断面において一部が開いた輪状に形成し、開いている部分が重なり合わないようにしたうえで同心状に配置してもよい。 以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
【0043】
○ 前記繊維組織体は、組物からなる複数の繊維組織層によって構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂製歯車。
○ 少なくとも外周部に繊維強化樹脂部が形成された円環状の歯車用成形体において、前記繊維強化樹脂部は繊維組織体に樹脂が含浸されることで形成され、前記繊維組織体は複数の繊維組織層によって構成され、前記繊維組織層は、径方向断面において、それぞれ閉じた輪状に形成されるとともに独立した状態で同心状となるように形成されていることを特徴とする歯車用成形体。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態におけるウォームギヤの斜視図。
【図2】本実施形態におけるウォームホイールの部分模式断面図。
【図3】(a)は繊維組織体の部分破断模式図、(b)は繊維組織体の模式断面図、(c)は環状に変形させた繊維組織体を示す模式斜視図。
【図4】別の実施形態におけるウォームホイールの部分模式断面図。
【符号の説明】
【0045】
R1〜R7…繊維組織層としての組物層、14…繊維強化樹脂製歯車としてのウォームホイール、16…繊維強化樹脂部、17…歯部、17a…歯元部、21…繊維組織体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも外周部に繊維強化樹脂部が形成され、該繊維強化樹脂部に複数の歯部が形成されている繊維強化樹脂製歯車において、
前記繊維強化樹脂部は繊維組織体に樹脂が含浸されることで形成され、
前記繊維組織体は複数の繊維組織層を有し、
前記複数の繊維組織層は、前記歯部に対応する部分には歯元部に達する連続繊維を少なくとも有し、径方向断面において、それぞれ輪状に形成されるとともに独立した状態で同心状となるように形成されていることを特徴とする繊維強化樹脂製歯車。
【請求項2】
前記複数の繊維組織層のうち少なくとも一つの繊維組織層は、繊維体積含有率が異なることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項3】
前記複数の繊維組織層のうち、外側の繊維組織層の方が内側の繊維組織層よりも繊維体積含有率が小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化樹脂製歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−36356(P2009−36356A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203212(P2007−203212)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】