繊維強化複合材料
【課題】3次元形状の繊維強化複合材料に関して、その中間製品であるプリフォームを、シワのない良好な状態で形成できるようにして、繊維強化複合材料の強度を向上する。
【解決手段】繊維強化複合材料は、繊維基材2を賦形型3に密着させて賦形することにより3次元形状のプリフォーム1を形成する賦形過程と、溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程と、溶融樹脂を硬化させる硬化過程とを経て得ることができる。繊維基材2は、繊維束からなる組糸5・6の間に複数本の中央糸7が組み込まれた組物である。プリフォーム1は、湾曲する屈折線10と、屈折線10に連続する複数個の構成面20とを有する。そして、構成面20に中央糸7を配置する。組物からなる繊維基材2においては、賦形型3の形状に対応して組糸5・6が動くので、シワのないプリフォーム1を得ることができる。
【解決手段】繊維強化複合材料は、繊維基材2を賦形型3に密着させて賦形することにより3次元形状のプリフォーム1を形成する賦形過程と、溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程と、溶融樹脂を硬化させる硬化過程とを経て得ることができる。繊維基材2は、繊維束からなる組糸5・6の間に複数本の中央糸7が組み込まれた組物である。プリフォーム1は、湾曲する屈折線10と、屈折線10に連続する複数個の構成面20とを有する。そして、構成面20に中央糸7を配置する。組物からなる繊維基材2においては、賦形型3の形状に対応して組糸5・6が動くので、シワのないプリフォーム1を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元形状の繊維強化複合材料に関し、その中間製品であるプリフォームの賦形過程に特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
3次元形状の繊維強化複合材料のプリフォームを得る際には、作製が容易な2次元形状の繊維基材を、当該3次元形状を有する賦形型に密着させて賦形する手法が多く採られている。このことは、例えば特許文献1および2などに公知である。
【0003】
【特許文献1】特開2006−188791号公報
【特許文献2】特開2007−144994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記手法によれば、もともとは2次元形状の繊維基材を3次元形状に変形させるため、繊維基材には若干のシワが生じる。ここでシワとは、繊維が極端に折り曲げられた状態を指す。特に、形成対象となるプリフォームが、湾曲線状の屈折線を有する複雑な3次元形状である場合は、屈折線の中央部分付近などにある程度のシワが生じることは避けられない。このシワは、後にプリフォームを繊維強化複合材料とした場合に、当該複合材料の強度低下の原因となる。シワが生じないように、2次元形状の繊維基材に切れ目を設けてから、3次元形状の賦形型に密着させることも考えられるが、その場合は、当該切れ目が新たに強度低下の原因になってしまう。
【0005】
本発明の目的は、プリフォームを得る賦形過程において、シワのない良好な状態のプリフォームを得ることができるようにすることで、繊維強化複合材料の強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、プリフォームに溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程と、溶融樹脂を硬化させる硬化過程とを経て得られる3次元形状の繊維強化複合材料に関する。繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に複数本の中央糸が組み込まれた組物である。プリフォームは、湾曲する屈折線と、屈折線に連続する複数個の構成面とを有し、構成面に中央糸が配置してあることを特徴とする。
【0007】
具体的には、繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に2本の中央糸が組み込まれた組物である。プリフォームは、湾曲する1本の屈折線と、屈折線に連続する2個の構成面とを有し、各構成面に中央糸が1本ずつ配置してある。
【0008】
もしくは、繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に少なくとも2本の中央糸が組み込まれた組物である。プリフォームは、湾曲する複数本の屈折線と、左右両側端の屈折線に連続する2個の端部構成面と、左右両側端の屈折線の間に設けられる少なくとも1個の中央部構成面とを有し、各端部構成面に中央糸が1本ずつ配置してある。中央部構成面には中央糸を配置してもよく、また配置しなくてもよい。
【0009】
繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである平打組物からなる形態を採ることができる。もしくは繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである丸打組物からなる形態を採ることができる。後者の場合は、賦形過程に先行して、丸打組物を扁平に押し潰して2層状に形成し、賦形過程において、得られた2層状の繊維基材を賦形型に密着させて、プリフォームを形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、プリフォームとなる繊維基材として組物を採用する。組物を構成する2方向の組糸は、織物を構成する緯糸と経糸に比べて互いに動き易く、交差角度が変化し易いという特徴がある。この組糸の動きによれば、組糸の配列を乱すことなく、繊維基材の全体形状を変化させることができる。つまり織物の場合は、3次元形状の賦形型に対して織物を正確に密着させようとすると、シワが生じるのを避けられないが、組物の場合は、賦形型の形状に対応して組糸が動くので、正確に密着させてもシワが生じない。したがって、シワのない良好な状態のプリフォームを得ることができる。そして、シワのないプリフォームは、繊維強化複合材料とした場合の強度が高い。以上のように、本発明は、中間製品であるプリフォームの繊維構造を好適化することにより、最終製品である繊維強化複合材料の強度を向上させるものである。
【0011】
このように本発明は、プリフォームの賦形過程で、組糸の互いの変位を利用して繊維基材を賦形型に密着させるものであるが、その場合には、繊維束からなる組糸の幅寸法が変化する。そして、幅寸法が変化すると、繊維密度にも変化が生じる。組糸の繊維密度は、繊維強化複合材料とした際の強度に大きく関係するものであり、特にこれが極端に小さくなると、強度の低下を招き、当該複合材料の信頼性が損なわれるおそれがある。こうした強度の低下に対処するには、プリフォームにおける組糸の繊維密度を充分に大きくする必要がある。しかし、繊維基材を作製する段階で繊維密度を充分に大きく設定しておいても、プリフォームにおける繊維密度はその設定値より小さくなる場合がある。
【0012】
そこで本発明では、組糸の間に中央糸を組み込んで組糸の動きを拘束することにより、中央糸の周辺部において、組糸の幅寸法と繊維密度が、賦形過程の前後で変化しないようにした。つまり、中央糸の周辺部では、繊維基材における組糸の繊維密度が、賦形過程後に得られるプリフォームにおいてもそのまま維持される。したがって、中央糸を、繊維基材の特定箇所、すなわち、繊維強化複合材料の使用形態において大きい負荷が掛かる箇所に配置するとともに、中央糸の周辺部の繊維密度を充分に大きく設定しておけば、当該箇所の強度が大きく信頼性の高い繊維強化複合材料を得ることができる。
【0013】
また中央糸は、同一の賦形型を用いて形成される各プリフォームの構造強度を均一化することにも役立つ。賦形過程で賦形型に密着させたとき、繊維基材においては、組糸が動いてその幅寸法が変化する箇所もあれば、逆に殆ど動かない箇所もあり、前者の箇所では当然に繊維密度が大きく変化する。しかし、中央糸がない場合は、これらの箇所が毎回異なってしまいがちであり、その結果、各プリフォームの繊維密度の分布が相違する。つまり、各プリフォームの構造強度がバラバラになってしまう。これに対して本発明では、組糸の間に中央糸を組み込んで、その周辺部の組糸の動きを拘束した。すなわち、組糸が動かない箇所を定めた。組糸の動かない箇所が定まると、組糸の動く箇所も自然と定まるので、結果として、各プリフォームの繊維密度の分布を一定にして、構造強度を均一化することができる。
【0014】
本発明では、プリフォームが、湾曲する1本の屈折線と、屈折線に連続する2個の構成面とを有し、各構成面に中央糸が1本ずつ配置してある形態を採ることができる。もしくは、プリフォームが、湾曲する複数本の屈折線と、左右両側端の屈折線に連続する2個の端部構成面と、左右両側端の屈折線の間に設けられる少なくとも1個の中央部構成面とを有し、各端部構成面に中央糸が1本ずつ配置してある形態を採ることができる。このように、構成面あるいは端部構成面に配置される中央糸を1本のみとすると、中央糸の周辺部を除く構成面あるいは端部構成面のほぼ全ての範囲で、組糸が拘束されることなく動くことができるので、賦形の際にシワが生じることを確実に防止できる。
【0015】
繊維基材を平打組物とした場合は、賦形前の加工を必要とせず、その状態のままで賦形型に密着させて賦形することができるので、繊維強化複合材料の製造工程の工数を削減することができる。一方、繊維基材を丸打組物とした場合は、扁平に押し潰すという簡単な作業で2層状に形成することができ、プリフォームの強度、すなわち、繊維強化複合材料の強度を容易に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第1実施形態を、図1から図5を用いて説明する。図2は、繊維強化複合材料の中間製品であるプリフォーム1を示している。このプリフォーム1は、部分円弧状に形成された1本の屈折線10と、屈折線10に連続する2個の同形の構成面20・20とからなり、断面はV字形状を呈する。換言すれば、一対の円弧形帯板の外周側の円弧どうしが互いに繋がった形状を呈している。図2において符号11は、プリフォーム1の遊端線を示す。
【0017】
プリフォーム1は、図3に示す2次元形状の平打組物(繊維基材)2を、図1に示す3次元形状の賦形型3に密着させて賦形する過程を経て得ることができる。賦形型3は、形成対象となるプリフォーム1の形状に対応して成形されており、この賦形型3の形状に合致するように平打組物2を賦形することにより、所望する形状のプリフォーム1を得ることができる。平打組物2は、組角度が異なる2種類の組糸5・6を組み合わせて、全体として帯状に形成される。各組糸5・6は、複数のガラス繊維あるいはカーボン繊維などを束ねた繊維束である。かかる平打組物2は、例えば特開平4−257339号公報に開示された方法で得ることができる。
【0018】
図3に示すように、組糸5・6の間には、2本の中央糸7・7が組み込まれている。各中央糸7は、組糸5・6と同様に繊維束からなり、中央糸7を構成する繊維は、組糸5・6のそれと同じでもよく、また異なっていてもよい。中央糸7は、平打組物2の長手方向に伸びており、平打組物2の幅方向両端部にそれぞれ1本ずつ配置されている。図3において符号Lで示した想像線は、平打組物2を幅方向に等分する二等分線であり、この二等分線Lは、後にこの平打組物2を賦形してプリフォーム1とした際の屈折線10の形成箇所に一致する。2本の中央糸7・7は、二等分線Lと平行であり、また二等分線Lに対して対称である。プリフォーム1において各中央糸7は、図2に示すように、遊端線11の近傍に位置する。各中央糸7は組糸5・6の動きを拘束しており、中央糸7の周辺部では賦形過程の前後で組糸5・6の幅寸法が変化しないが、この意義については後述する。
【0019】
賦形過程の詳細について図1を用いて説明する。図1は、平打組物2を賦形型3に密着させる直前の様子を示しており、この状態からまず、平打組物2の長手方向の一端側を賦形型3に密着させる。ここから、密着の範囲を他端側へと広げていき、平打組物2の全体を賦形型3に密着させたところで賦形過程は完了となる。この作業は手作業で行われる。なおこの作業は、図3に示した二等分線Lに沿う折り目を先に設けてから行うこともできる。
【0020】
図4は、賦形過程が完了してプリフォーム1が完成した状態を示しており、この状態では図4(b)に示すように、プリフォーム1が賦形型3に確りと密着している。このときの2個の構成面20・20および2本の中央糸7・7は、屈折線10の全体を含む垂直面Xに対して対称である。完成したプリフォーム1は、賦形型3に密着した状態のまま、プリフォーム1に溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程に移される。次いで、この溶融樹脂を加熱により硬化させる硬化過程と、温度低下後の離型過程を経て、目的の繊維強化複合材料が完成する。
【0021】
図5は、平打組物2を賦形して3次元形状のプリフォーム1とすることにより、組糸5・6の交差角度および幅方向寸法が変化する様子を示している。図5において(a)は平打組物2を示し、(b)はプリフォーム1を示している。ここで、組糸5・6の交差角度とは、組糸5・6の長手方向の中心線どうしがなす角のうち小さい方の角度を指し、組糸5・6の幅方向とは、前記中心線に直交する方向を指す。
【0022】
図5(a)に示すように、平打組物2における組糸5・6の交差角度θ1および幅寸法W1は、任意の位置で等しい。これに対し、図5(b)に示すように、プリフォーム1における組糸5・6の交差角度は、交差箇所がプリフォーム1の屈折線10に近寄るほど小さくなっている。平打組物2における交差角度θ1と比較すると、屈折線10上の交差角度θ2はθ1より小さく、遊端線11上の交差角度θ3はθ1より大きい。
【0023】
一方、プリフォーム1における組糸5・6の幅寸法は、屈折線10に近寄るほど大きくなっている。遊端線11上の幅寸法W3は、遊端線11の近傍では中央糸7により組糸5・6の動きが拘束されるために、平打組物2における幅寸法W1とほぼ等しくなる。屈折線10上の幅寸法W2は、W1あるいはW3より大きい。プリフォーム1および平打組物2の全体をみると、遊端線11の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法に等しく、屈折線10の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より大きい。
【0024】
上記のように本実施形態では、中央糸7の周辺部において、組糸5・6の幅寸法が賦形過程の前後で変化しない。幅寸法が変化しなければ繊維密度も変化せず、中央糸7の周辺部では、平打組物2における組糸5・6の繊維密度が、賦形過程後に得られるプリフォーム1においてもそのまま維持される。したがって、中央糸7を、平打組物2の特定箇所、すなわち、繊維強化複合材料の使用形態において大きい負荷が掛かる箇所に配置し、更に中央糸7の周辺部の繊維密度を充分に大きく設定しておけば、当該箇所の強度が大きく信頼性の高い繊維強化複合材料を得ることができる。
【0025】
(第2実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第2実施形態を、図6および図7を用いて説明する。本実施形態は、各中央糸7を屈折線10の近傍に配置する点が、先の第1実施形態と相違する。本実施形態では、屈折線10の近傍で組糸5・6の動きが拘束されるので、屈折線10上の組糸5・6の幅寸法W2が、平打組物2における幅寸法W1とほぼ等しくなる。遊端線11上の幅寸法W3は、W1あるいはW2より小さい。プリフォーム1および平打組物2の全体をみると、屈折線10の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法に等しく、遊端線11の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より小さい。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0026】
(第3実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第3実施形態を、図8および図9を用いて説明する。本実施形態は、各中央糸7を屈折線10と遊端線11の中間部に配置する点が、先の第1実施形態と相違する。本実施形態では、前記中間部で組糸5・6の動きが拘束されるので、この中間部における組糸5・6の幅寸法W4が、平打組物2における幅寸法W1とほぼ等しくなる。一方、屈折線10上の幅寸法W2は、W1あるいはW4より大きく、遊端線11の幅寸法W3は、W1あるいはW4より小さい。プリフォーム1および平打組物2の全体をみると、屈折線10の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より大きく、遊端線11の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より小さい。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0027】
(第4実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第4実施形態を、図10および図11を用いて説明する。本実施形態は、プリフォーム1となる繊維基材として丸打組物2を採用する点が、先の第1実施形態と相違する。丸打組物2は、円筒状のマンドレル(不図示)に対して、組角度が異なる2種類の組糸5・6を螺旋状に巻き付けることにより、図10に想像線で示すように円筒状に作製される。マンドレル上に作製した丸打組物2は、マンドレルから分離した後、外周面側から扁平に押し潰して2層帯状に成形する。その後、賦形過程に移り、図11に示すように、得られた2層状の丸打組物2を賦形型3に密着させて賦形することにより、プリフォーム1を得ることができる。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
(第5実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第5実施形態を、図12を用いて説明する。本実施形態は、プリフォーム1の形状、具体的には、屈折線10の湾曲方向が、先の第1実施形態と相違する。すなわち第1実施形態では、屈折線10がV字断面の頂角方向(図4において上方向)に凸曲状に湾曲していたが、ここでは逆に凹曲状に湾曲している。換言すれば、本実施形態のプリフォーム1は、一対の円弧形帯板の内周側の円弧どうしが互いに繋がった形状を呈している。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0029】
(第6実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第6実施形態を、図13を用いて説明する。本実施形態は、プリフォーム1の形状が先の第1実施形態と大きく相違する。ここでのプリフォーム1は、左右に並ぶ2本の屈折線10・10と、屈折線10に連続する3個の構成面とを有する。この構成面は、2本の屈折線10・10に連続する1個の中央部構成面21と、1本の屈折線10に連続する2個の端部構成面22とに分類することができ、中央部構成面21は各端部構成面22に対して直交している。
【0030】
端部構成面22は、第1実施形態のプリフォーム1の構成面20とほぼ同一の形状を呈しており、この端部構成面22では、組糸5・6の交差角度が屈折線10に近寄るほど小さくなるとともに、その幅寸法が屈折線10に近寄るほど大きくなっている。中央糸7は、屈折線10に対向する遊端線11の近傍に、それぞれ1本ずつ配置されている。一方、中央部構成面21は、矩形板がその厚み方向に湾曲した形状を呈しており、ここの組糸5・6は、賦形過程で殆ど動くことがない。そのため、中央部構成面21では、組糸5・6の交差角度および幅寸法が任意の位置で等しい。また、組糸5・6が殆ど動かないことから、中央部構成面21には任意の本数の中央糸7を配置することができる。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
以上のように、本発明に係る上記各実施形態では、プリフォーム1となる繊維基材として組物(平打組物・丸打組物)2を採用した。組物2を構成する組糸5・6は互いに動き易く、交差角度が変化し易い。この組糸5・6の動きによれば、組物2の作製段階での組糸5・6の配列を乱すことなく、組物2の全体形状を変化させることができる。つまり、組物2では、賦形型3の形状に対応して組糸5・6が動くので、正確に密着させてもシワが生じない。したがって、シワのない良好な状態のプリフォーム1を得ることができる。そして、シワのないプリフォーム1は、繊維強化複合材料とした場合の強度が高い。
【0032】
上記以外に、プリフォーム1の屈折線10は3本以上とすることができる。例えば3本の場合は、左側端の屈折線10と中央の屈折線10との間、および、中央の屈折線10と右側端の屈折線10との間に、それぞれ中央部構成面21が設けられる。一般には、屈折線10の本数より1つ少ない数の中央部構成面21が設けられる。端部構成面22は、屈折線10の本数に関係なく2個である。その他、中央糸7は、複数本の糸が一列に並び、全体が1本の破線を成すような形態であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施形態に係る繊維基材を賦形する直前の様子を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るプリフォームの形態を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る繊維基材の構成を示す斜視図である。
【図4】第1実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す図であり、(a)が正面図、(b)が(a)のA−A線断面図である。
【図5】組糸の構成を拡大して示す図であり、(a)が繊維基材、(b)がプリフォームを示している。
【図6】第2実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す縦断面図である。
【図7】第2実施形態に係るプリフォームの組糸の構成を拡大して示す図である。
【図8】第3実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す縦断面図である。
【図9】第3実施形態に係るプリフォームの組糸の構成を拡大して示す図である。
【図10】第4実施形態に係る繊維基材の構成を示す斜視図である。
【図11】第4実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す縦断面図である。
【図12】第5実施形態に係るプリフォームの形態を示す斜視図である。
【図13】第6実施形態に係るプリフォームの形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 プリフォーム
2 繊維基材(平打組物・丸打組物)
3 賦形型
5 組糸
6 組糸
7 中央糸
10 屈折線
20 構成面
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元形状の繊維強化複合材料に関し、その中間製品であるプリフォームの賦形過程に特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
3次元形状の繊維強化複合材料のプリフォームを得る際には、作製が容易な2次元形状の繊維基材を、当該3次元形状を有する賦形型に密着させて賦形する手法が多く採られている。このことは、例えば特許文献1および2などに公知である。
【0003】
【特許文献1】特開2006−188791号公報
【特許文献2】特開2007−144994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記手法によれば、もともとは2次元形状の繊維基材を3次元形状に変形させるため、繊維基材には若干のシワが生じる。ここでシワとは、繊維が極端に折り曲げられた状態を指す。特に、形成対象となるプリフォームが、湾曲線状の屈折線を有する複雑な3次元形状である場合は、屈折線の中央部分付近などにある程度のシワが生じることは避けられない。このシワは、後にプリフォームを繊維強化複合材料とした場合に、当該複合材料の強度低下の原因となる。シワが生じないように、2次元形状の繊維基材に切れ目を設けてから、3次元形状の賦形型に密着させることも考えられるが、その場合は、当該切れ目が新たに強度低下の原因になってしまう。
【0005】
本発明の目的は、プリフォームを得る賦形過程において、シワのない良好な状態のプリフォームを得ることができるようにすることで、繊維強化複合材料の強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、プリフォームに溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程と、溶融樹脂を硬化させる硬化過程とを経て得られる3次元形状の繊維強化複合材料に関する。繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に複数本の中央糸が組み込まれた組物である。プリフォームは、湾曲する屈折線と、屈折線に連続する複数個の構成面とを有し、構成面に中央糸が配置してあることを特徴とする。
【0007】
具体的には、繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に2本の中央糸が組み込まれた組物である。プリフォームは、湾曲する1本の屈折線と、屈折線に連続する2個の構成面とを有し、各構成面に中央糸が1本ずつ配置してある。
【0008】
もしくは、繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に少なくとも2本の中央糸が組み込まれた組物である。プリフォームは、湾曲する複数本の屈折線と、左右両側端の屈折線に連続する2個の端部構成面と、左右両側端の屈折線の間に設けられる少なくとも1個の中央部構成面とを有し、各端部構成面に中央糸が1本ずつ配置してある。中央部構成面には中央糸を配置してもよく、また配置しなくてもよい。
【0009】
繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである平打組物からなる形態を採ることができる。もしくは繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである丸打組物からなる形態を採ることができる。後者の場合は、賦形過程に先行して、丸打組物を扁平に押し潰して2層状に形成し、賦形過程において、得られた2層状の繊維基材を賦形型に密着させて、プリフォームを形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、プリフォームとなる繊維基材として組物を採用する。組物を構成する2方向の組糸は、織物を構成する緯糸と経糸に比べて互いに動き易く、交差角度が変化し易いという特徴がある。この組糸の動きによれば、組糸の配列を乱すことなく、繊維基材の全体形状を変化させることができる。つまり織物の場合は、3次元形状の賦形型に対して織物を正確に密着させようとすると、シワが生じるのを避けられないが、組物の場合は、賦形型の形状に対応して組糸が動くので、正確に密着させてもシワが生じない。したがって、シワのない良好な状態のプリフォームを得ることができる。そして、シワのないプリフォームは、繊維強化複合材料とした場合の強度が高い。以上のように、本発明は、中間製品であるプリフォームの繊維構造を好適化することにより、最終製品である繊維強化複合材料の強度を向上させるものである。
【0011】
このように本発明は、プリフォームの賦形過程で、組糸の互いの変位を利用して繊維基材を賦形型に密着させるものであるが、その場合には、繊維束からなる組糸の幅寸法が変化する。そして、幅寸法が変化すると、繊維密度にも変化が生じる。組糸の繊維密度は、繊維強化複合材料とした際の強度に大きく関係するものであり、特にこれが極端に小さくなると、強度の低下を招き、当該複合材料の信頼性が損なわれるおそれがある。こうした強度の低下に対処するには、プリフォームにおける組糸の繊維密度を充分に大きくする必要がある。しかし、繊維基材を作製する段階で繊維密度を充分に大きく設定しておいても、プリフォームにおける繊維密度はその設定値より小さくなる場合がある。
【0012】
そこで本発明では、組糸の間に中央糸を組み込んで組糸の動きを拘束することにより、中央糸の周辺部において、組糸の幅寸法と繊維密度が、賦形過程の前後で変化しないようにした。つまり、中央糸の周辺部では、繊維基材における組糸の繊維密度が、賦形過程後に得られるプリフォームにおいてもそのまま維持される。したがって、中央糸を、繊維基材の特定箇所、すなわち、繊維強化複合材料の使用形態において大きい負荷が掛かる箇所に配置するとともに、中央糸の周辺部の繊維密度を充分に大きく設定しておけば、当該箇所の強度が大きく信頼性の高い繊維強化複合材料を得ることができる。
【0013】
また中央糸は、同一の賦形型を用いて形成される各プリフォームの構造強度を均一化することにも役立つ。賦形過程で賦形型に密着させたとき、繊維基材においては、組糸が動いてその幅寸法が変化する箇所もあれば、逆に殆ど動かない箇所もあり、前者の箇所では当然に繊維密度が大きく変化する。しかし、中央糸がない場合は、これらの箇所が毎回異なってしまいがちであり、その結果、各プリフォームの繊維密度の分布が相違する。つまり、各プリフォームの構造強度がバラバラになってしまう。これに対して本発明では、組糸の間に中央糸を組み込んで、その周辺部の組糸の動きを拘束した。すなわち、組糸が動かない箇所を定めた。組糸の動かない箇所が定まると、組糸の動く箇所も自然と定まるので、結果として、各プリフォームの繊維密度の分布を一定にして、構造強度を均一化することができる。
【0014】
本発明では、プリフォームが、湾曲する1本の屈折線と、屈折線に連続する2個の構成面とを有し、各構成面に中央糸が1本ずつ配置してある形態を採ることができる。もしくは、プリフォームが、湾曲する複数本の屈折線と、左右両側端の屈折線に連続する2個の端部構成面と、左右両側端の屈折線の間に設けられる少なくとも1個の中央部構成面とを有し、各端部構成面に中央糸が1本ずつ配置してある形態を採ることができる。このように、構成面あるいは端部構成面に配置される中央糸を1本のみとすると、中央糸の周辺部を除く構成面あるいは端部構成面のほぼ全ての範囲で、組糸が拘束されることなく動くことができるので、賦形の際にシワが生じることを確実に防止できる。
【0015】
繊維基材を平打組物とした場合は、賦形前の加工を必要とせず、その状態のままで賦形型に密着させて賦形することができるので、繊維強化複合材料の製造工程の工数を削減することができる。一方、繊維基材を丸打組物とした場合は、扁平に押し潰すという簡単な作業で2層状に形成することができ、プリフォームの強度、すなわち、繊維強化複合材料の強度を容易に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第1実施形態を、図1から図5を用いて説明する。図2は、繊維強化複合材料の中間製品であるプリフォーム1を示している。このプリフォーム1は、部分円弧状に形成された1本の屈折線10と、屈折線10に連続する2個の同形の構成面20・20とからなり、断面はV字形状を呈する。換言すれば、一対の円弧形帯板の外周側の円弧どうしが互いに繋がった形状を呈している。図2において符号11は、プリフォーム1の遊端線を示す。
【0017】
プリフォーム1は、図3に示す2次元形状の平打組物(繊維基材)2を、図1に示す3次元形状の賦形型3に密着させて賦形する過程を経て得ることができる。賦形型3は、形成対象となるプリフォーム1の形状に対応して成形されており、この賦形型3の形状に合致するように平打組物2を賦形することにより、所望する形状のプリフォーム1を得ることができる。平打組物2は、組角度が異なる2種類の組糸5・6を組み合わせて、全体として帯状に形成される。各組糸5・6は、複数のガラス繊維あるいはカーボン繊維などを束ねた繊維束である。かかる平打組物2は、例えば特開平4−257339号公報に開示された方法で得ることができる。
【0018】
図3に示すように、組糸5・6の間には、2本の中央糸7・7が組み込まれている。各中央糸7は、組糸5・6と同様に繊維束からなり、中央糸7を構成する繊維は、組糸5・6のそれと同じでもよく、また異なっていてもよい。中央糸7は、平打組物2の長手方向に伸びており、平打組物2の幅方向両端部にそれぞれ1本ずつ配置されている。図3において符号Lで示した想像線は、平打組物2を幅方向に等分する二等分線であり、この二等分線Lは、後にこの平打組物2を賦形してプリフォーム1とした際の屈折線10の形成箇所に一致する。2本の中央糸7・7は、二等分線Lと平行であり、また二等分線Lに対して対称である。プリフォーム1において各中央糸7は、図2に示すように、遊端線11の近傍に位置する。各中央糸7は組糸5・6の動きを拘束しており、中央糸7の周辺部では賦形過程の前後で組糸5・6の幅寸法が変化しないが、この意義については後述する。
【0019】
賦形過程の詳細について図1を用いて説明する。図1は、平打組物2を賦形型3に密着させる直前の様子を示しており、この状態からまず、平打組物2の長手方向の一端側を賦形型3に密着させる。ここから、密着の範囲を他端側へと広げていき、平打組物2の全体を賦形型3に密着させたところで賦形過程は完了となる。この作業は手作業で行われる。なおこの作業は、図3に示した二等分線Lに沿う折り目を先に設けてから行うこともできる。
【0020】
図4は、賦形過程が完了してプリフォーム1が完成した状態を示しており、この状態では図4(b)に示すように、プリフォーム1が賦形型3に確りと密着している。このときの2個の構成面20・20および2本の中央糸7・7は、屈折線10の全体を含む垂直面Xに対して対称である。完成したプリフォーム1は、賦形型3に密着した状態のまま、プリフォーム1に溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程に移される。次いで、この溶融樹脂を加熱により硬化させる硬化過程と、温度低下後の離型過程を経て、目的の繊維強化複合材料が完成する。
【0021】
図5は、平打組物2を賦形して3次元形状のプリフォーム1とすることにより、組糸5・6の交差角度および幅方向寸法が変化する様子を示している。図5において(a)は平打組物2を示し、(b)はプリフォーム1を示している。ここで、組糸5・6の交差角度とは、組糸5・6の長手方向の中心線どうしがなす角のうち小さい方の角度を指し、組糸5・6の幅方向とは、前記中心線に直交する方向を指す。
【0022】
図5(a)に示すように、平打組物2における組糸5・6の交差角度θ1および幅寸法W1は、任意の位置で等しい。これに対し、図5(b)に示すように、プリフォーム1における組糸5・6の交差角度は、交差箇所がプリフォーム1の屈折線10に近寄るほど小さくなっている。平打組物2における交差角度θ1と比較すると、屈折線10上の交差角度θ2はθ1より小さく、遊端線11上の交差角度θ3はθ1より大きい。
【0023】
一方、プリフォーム1における組糸5・6の幅寸法は、屈折線10に近寄るほど大きくなっている。遊端線11上の幅寸法W3は、遊端線11の近傍では中央糸7により組糸5・6の動きが拘束されるために、平打組物2における幅寸法W1とほぼ等しくなる。屈折線10上の幅寸法W2は、W1あるいはW3より大きい。プリフォーム1および平打組物2の全体をみると、遊端線11の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法に等しく、屈折線10の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より大きい。
【0024】
上記のように本実施形態では、中央糸7の周辺部において、組糸5・6の幅寸法が賦形過程の前後で変化しない。幅寸法が変化しなければ繊維密度も変化せず、中央糸7の周辺部では、平打組物2における組糸5・6の繊維密度が、賦形過程後に得られるプリフォーム1においてもそのまま維持される。したがって、中央糸7を、平打組物2の特定箇所、すなわち、繊維強化複合材料の使用形態において大きい負荷が掛かる箇所に配置し、更に中央糸7の周辺部の繊維密度を充分に大きく設定しておけば、当該箇所の強度が大きく信頼性の高い繊維強化複合材料を得ることができる。
【0025】
(第2実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第2実施形態を、図6および図7を用いて説明する。本実施形態は、各中央糸7を屈折線10の近傍に配置する点が、先の第1実施形態と相違する。本実施形態では、屈折線10の近傍で組糸5・6の動きが拘束されるので、屈折線10上の組糸5・6の幅寸法W2が、平打組物2における幅寸法W1とほぼ等しくなる。遊端線11上の幅寸法W3は、W1あるいはW2より小さい。プリフォーム1および平打組物2の全体をみると、屈折線10の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法に等しく、遊端線11の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より小さい。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0026】
(第3実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第3実施形態を、図8および図9を用いて説明する。本実施形態は、各中央糸7を屈折線10と遊端線11の中間部に配置する点が、先の第1実施形態と相違する。本実施形態では、前記中間部で組糸5・6の動きが拘束されるので、この中間部における組糸5・6の幅寸法W4が、平打組物2における幅寸法W1とほぼ等しくなる。一方、屈折線10上の幅寸法W2は、W1あるいはW4より大きく、遊端線11の幅寸法W3は、W1あるいはW4より小さい。プリフォーム1および平打組物2の全体をみると、屈折線10の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より大きく、遊端線11の長さ寸法は、平打組物2の長手方向寸法より小さい。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0027】
(第4実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第4実施形態を、図10および図11を用いて説明する。本実施形態は、プリフォーム1となる繊維基材として丸打組物2を採用する点が、先の第1実施形態と相違する。丸打組物2は、円筒状のマンドレル(不図示)に対して、組角度が異なる2種類の組糸5・6を螺旋状に巻き付けることにより、図10に想像線で示すように円筒状に作製される。マンドレル上に作製した丸打組物2は、マンドレルから分離した後、外周面側から扁平に押し潰して2層帯状に成形する。その後、賦形過程に移り、図11に示すように、得られた2層状の丸打組物2を賦形型3に密着させて賦形することにより、プリフォーム1を得ることができる。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
(第5実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第5実施形態を、図12を用いて説明する。本実施形態は、プリフォーム1の形状、具体的には、屈折線10の湾曲方向が、先の第1実施形態と相違する。すなわち第1実施形態では、屈折線10がV字断面の頂角方向(図4において上方向)に凸曲状に湾曲していたが、ここでは逆に凹曲状に湾曲している。換言すれば、本実施形態のプリフォーム1は、一対の円弧形帯板の内周側の円弧どうしが互いに繋がった形状を呈している。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0029】
(第6実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第6実施形態を、図13を用いて説明する。本実施形態は、プリフォーム1の形状が先の第1実施形態と大きく相違する。ここでのプリフォーム1は、左右に並ぶ2本の屈折線10・10と、屈折線10に連続する3個の構成面とを有する。この構成面は、2本の屈折線10・10に連続する1個の中央部構成面21と、1本の屈折線10に連続する2個の端部構成面22とに分類することができ、中央部構成面21は各端部構成面22に対して直交している。
【0030】
端部構成面22は、第1実施形態のプリフォーム1の構成面20とほぼ同一の形状を呈しており、この端部構成面22では、組糸5・6の交差角度が屈折線10に近寄るほど小さくなるとともに、その幅寸法が屈折線10に近寄るほど大きくなっている。中央糸7は、屈折線10に対向する遊端線11の近傍に、それぞれ1本ずつ配置されている。一方、中央部構成面21は、矩形板がその厚み方向に湾曲した形状を呈しており、ここの組糸5・6は、賦形過程で殆ど動くことがない。そのため、中央部構成面21では、組糸5・6の交差角度および幅寸法が任意の位置で等しい。また、組糸5・6が殆ど動かないことから、中央部構成面21には任意の本数の中央糸7を配置することができる。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
以上のように、本発明に係る上記各実施形態では、プリフォーム1となる繊維基材として組物(平打組物・丸打組物)2を採用した。組物2を構成する組糸5・6は互いに動き易く、交差角度が変化し易い。この組糸5・6の動きによれば、組物2の作製段階での組糸5・6の配列を乱すことなく、組物2の全体形状を変化させることができる。つまり、組物2では、賦形型3の形状に対応して組糸5・6が動くので、正確に密着させてもシワが生じない。したがって、シワのない良好な状態のプリフォーム1を得ることができる。そして、シワのないプリフォーム1は、繊維強化複合材料とした場合の強度が高い。
【0032】
上記以外に、プリフォーム1の屈折線10は3本以上とすることができる。例えば3本の場合は、左側端の屈折線10と中央の屈折線10との間、および、中央の屈折線10と右側端の屈折線10との間に、それぞれ中央部構成面21が設けられる。一般には、屈折線10の本数より1つ少ない数の中央部構成面21が設けられる。端部構成面22は、屈折線10の本数に関係なく2個である。その他、中央糸7は、複数本の糸が一列に並び、全体が1本の破線を成すような形態であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施形態に係る繊維基材を賦形する直前の様子を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るプリフォームの形態を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る繊維基材の構成を示す斜視図である。
【図4】第1実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す図であり、(a)が正面図、(b)が(a)のA−A線断面図である。
【図5】組糸の構成を拡大して示す図であり、(a)が繊維基材、(b)がプリフォームを示している。
【図6】第2実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す縦断面図である。
【図7】第2実施形態に係るプリフォームの組糸の構成を拡大して示す図である。
【図8】第3実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す縦断面図である。
【図9】第3実施形態に係るプリフォームの組糸の構成を拡大して示す図である。
【図10】第4実施形態に係る繊維基材の構成を示す斜視図である。
【図11】第4実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す縦断面図である。
【図12】第5実施形態に係るプリフォームの形態を示す斜視図である。
【図13】第6実施形態に係るプリフォームの形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 プリフォーム
2 繊維基材(平打組物・丸打組物)
3 賦形型
5 組糸
6 組糸
7 中央糸
10 屈折線
20 構成面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、
前記プリフォームに溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程と、
前記溶融樹脂を硬化させる硬化過程とを経て得られる3次元形状の繊維強化複合材料であって、
前記繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に複数本の中央糸が組み込まれた組物であり、
前記プリフォームは、湾曲する屈折線と、前記屈折線に連続する複数個の構成面とを有しており、
前記構成面に前記中央糸が配置してあることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に2本の中央糸が組み込まれた組物であり、
前記プリフォームは、湾曲する1本の屈折線と、前記屈折線に連続する2個の構成面とを有しており、
前記各構成面に前記中央糸が1本ずつ配置してある請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に少なくとも2本の中央糸が組み込まれた組物であり、
前記プリフォームは、湾曲する複数本の屈折線と、左右両側端の前記屈折線に連続する2個の端部構成面と、左右両側端の前記屈折線の間に設けられる少なくとも1個の中央部構成面とを有しており、
前記各端部構成面に前記中央糸が1本ずつ配置してある請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである平打組物からなる請求項1から3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
前記繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである丸打組物からなり、
前記賦形過程に先行して、前記丸打組物を扁平に押し潰して2層状に形成し、
前記賦形過程において、得られた2層状の前記繊維基材を前記賦形型に密着させて、前記プリフォームが形成してある請求項1から3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項1】
繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、
前記プリフォームに溶融樹脂を含浸させる樹脂含浸過程と、
前記溶融樹脂を硬化させる硬化過程とを経て得られる3次元形状の繊維強化複合材料であって、
前記繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に複数本の中央糸が組み込まれた組物であり、
前記プリフォームは、湾曲する屈折線と、前記屈折線に連続する複数個の構成面とを有しており、
前記構成面に前記中央糸が配置してあることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に2本の中央糸が組み込まれた組物であり、
前記プリフォームは、湾曲する1本の屈折線と、前記屈折線に連続する2個の構成面とを有しており、
前記各構成面に前記中央糸が1本ずつ配置してある請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記繊維基材は、繊維束からなる組糸の間に少なくとも2本の中央糸が組み込まれた組物であり、
前記プリフォームは、湾曲する複数本の屈折線と、左右両側端の前記屈折線に連続する2個の端部構成面と、左右両側端の前記屈折線の間に設けられる少なくとも1個の中央部構成面とを有しており、
前記各端部構成面に前記中央糸が1本ずつ配置してある請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである平打組物からなる請求項1から3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
前記繊維基材が、組糸の間に中央糸が組み込んである丸打組物からなり、
前記賦形過程に先行して、前記丸打組物を扁平に押し潰して2層状に形成し、
前記賦形過程において、得られた2層状の前記繊維基材を前記賦形型に密着させて、前記プリフォームが形成してある請求項1から3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−53255(P2010−53255A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220199(P2008−220199)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】
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