説明

繊維強化複合材製の部品の構造及びその製造方法

【課題】剛性強度が必要なFRP製部位と、剛性強度は特に必要ないが凹凸形状を含む樹脂部位とを一体化して成る部品の剛性強度を高め、かつ当該部品の生産性を向上させた繊維強化複合材料製の部品の構造及びその製造方法を提供する。
【解決手段】構造材用反応射出成形により連続繊維で強化された熱可塑性樹脂からなる剛性強度を高めた筒状骨格部1Bと、該熱可塑性樹脂と同系統の、溶着性が高い熱可塑性樹脂で前記筒状骨格部材の両端の開口を覆う凹凸構造1A、1Cと、からなる部品1。特に、その製造方法では、構造材用反応射出成形で用いた熱可塑性樹脂が重合しない間に、同系統の熱可塑性樹脂を筒状骨格部材1Bの周りを囲む金型キャビテイに射出成形し、剛性強度の高い部品1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材を含む部品の構造及びその製造方法に関し、さらに詳細には、構造材用反応射出成形(Structual Reaction Injection Molding;以下「SRIM」と略す)法によって成形される繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic;以下「FRP」と略す)からなる骨格部材と、該骨格構部材を覆う部材とを射出成形によって一体化して成る部品の構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、熱可塑性樹脂を含む構造と、熱硬化性樹脂を含むFRPとを一体成形化する方法が以下のように示されている。
まず、剛性強度を高めるための強化繊維と熱硬化性樹脂とからなるFRPに、熱可塑性樹脂フィルムを積層する。そして、熱硬化性樹脂を硬化し、かつ熱可塑性樹脂フィルムの樹脂を流動する温度条件で、熱可塑性樹脂フィルムが被覆されたFRPを、ホットプレスにより所望形状にする。
【0003】
さらに、所望形状のFRPを金型キャビティ内に配置し、FRPに積層された熱可塑性樹脂フィルムに向けて、熱可塑性樹脂を射出成形する。そして、熱可塑性樹脂フィルムが流動する温度条件で、熱可塑性樹脂フィルムを接着剤として機能させることでFRPと熱可塑性樹脂とが接着一体化した部品の構造を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−138354号公報
【特許文献2】特許4023515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来方法によれば、第1に、FRPのレジンである熱硬化性樹脂とFRPシートの熱可塑性樹脂との接着界面の強度が不足しがちであること、第2に、例えばボスやリブのような複雑な凹凸形状を部品に含む場合に適さないこと、第3に、部品の生産性が低いこと、及び、第4に、部品の材料のリサイクル性が低いという課題がある。
【0006】
上記第1の課題は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂という硬化までの熱挙動が逆の異種樹脂を用いていることに起因する。この課題を解決するためには、熱可塑性樹脂フィルム(インサート材)の表面を活性化したり、熱可塑性樹脂フィルムの代わりに、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂フィルムとの間に接着適合性のある接着剤を塗布するといったことが考えられる。
しかるに、これらの方法によれば、追加の設備や工程が必要となり、かつ、熱可塑性樹脂フィルムで接着を完了させたいが、新たな接着剤が必要となり、コスト増となり好ましくない。
【0007】
上記第2の課題は、熱可塑性フィルムを貼る部品の母材面が比較的平坦であればよいが、ボス、リブ等の凹凸構造があると、例えば凹凸構造の屈曲部又は変曲部(ラウンド部)で、一度密着した熱可塑性フィルムが、母材面から浮き上がり又はシワになるといった不具合を招く。また、これらの浮き上がり又はシワが発展すると、熱可塑性フィルムが剥離し好ましくない。
上記第3の課題は、熱可塑性樹脂の射出成形に関しては、ボス、リブ等の凹凸構造を形成するには生産性が非常に良好であるが、積層タイプの熱硬化性FRPの成形に関しては、その積層作業に人的労力を要する。そして、一般に、熱硬化性樹脂が架橋反応により硬化する時間は、熱可塑性樹脂が冷却して固化する時間よりも長い時間が必要であり生産性が低下する。
【0008】
上記第4の課題は、熱可塑性樹脂は、粉砕してリサイクルできるが、熱硬化性樹脂は、一度硬化させると粉砕し新たに加熱しても最早軟化しない。熱硬化性樹脂は、不可逆反応で樹脂硬化するためである。そのため、FRPのレジンが熱硬化性樹脂であると、FRPはリサイクルできない。結果として、レジンが熱硬化性樹脂のFRPは廃棄せざるをえず廃棄コストがかかる。
【0009】
そこで、本発明は、部品の構造中、優れた剛性強度が要求される部位にはFRPのレジンとして熱可塑性樹脂を用い、剛性強度がそれほど要求されず、かつ、ボス、リブ等の凹凸構造のような複雑構造の部位には上記熱可塑性樹脂と同系統の熱可塑性樹脂を用いて、SRIM法で形成されたFRPを含む単純形状の骨格部材と、例えばボス、リブ等の複雑形状であるが強度を必ずしも要求されない部材とを射出成形で一体化して部品の剛性強度を高め、かつ、当該部品の生産性を向上させた繊維強化複合材料製の部品の構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項が請求項1、(2)項が請求項2、(8)項が請求項3に対応する。
【0011】
(1)構造材用反応射出成形により連続繊維で強化された熱可塑性樹脂からなる骨格部材と、前記熱可塑性樹脂に対して溶着性が高い熱可塑性樹脂からなり、前記骨格部材を覆う部材とを、射出成形により一体化して成ることを特徴とする繊維強化複合材料製の部品の構造。
【0012】
本項によれば、連続繊維によって強化された部材と射出成形部材とが溶着性のある同系統の樹脂、すなわち熱可塑性樹脂であり、射出成形時に両部材が溶着されるとき、同系統ゆえ相溶性があり、もって溶着性があるため、従来技術のように、異種系統樹脂同士が界面で接着が好適に行われないため、強度不足となるおそれがない
また、連続繊維によって強化された部材は、織物状の繊維と熱可塑性樹脂とを、直接的に構造材用反応射出成形(SRIM成形)によって製造するので、事前にプリプレグシートを作製する工程が削減できる。また接着剤となる熱可塑性樹脂フィルムが不要であり、当該フィルムに起因する複雑形状からの浮き上がり、シワ発生の問題は生じない。
また、一般にPA6に代表される熱可塑性樹脂のSRIM部品の構造は、該熱可塑性樹脂の重合時間が熱硬化性樹脂の硬化時間に対し、非常に短く生産性が高い。さらに、全て熱可塑性樹脂で構成されているため、再利用することが可能である。
【0013】
(2)前記骨格部材に用いる前記熱可塑性樹脂はPA6であり、前記骨格部材を覆う熱可塑性樹脂は、PA6と溶着性が高く、かつ、PA6よりも吸水性の低いポリアミド系熱可塑性樹脂であることを特徴とする(1)項に記載の繊維強化複合材料製の部品の構造。
本項は、骨格部材に用いる樹脂と、該骨格部材を覆いながら凹凸形状を形成する樹脂を例示する。PA6は、SRIM法による成形性に優れており、価格も比較的廉価であるといった長所がある。
しかし、PA6は、吸水性が比較的高く、吸水すると剛性強度が低下したり寸法が変化するといった短所がある。したがって、吸水による物性変化が問題となる部品にはPA6を使用できない。
そこで、本項では、骨格部材は、PA6と筒状繊維を用いたSRIM法による成形で製作し、その吸水を防ぐため骨格部材を覆うように、PA6と溶着性があり、かつ吸水性の低いPA66やPA46を射出成形して、凹凸構造を形成し、一体化することで吸水性が問題となるときでも、不具合発生のおそれがなく比較的安価に部品が得られる。
【0014】
(3)強度剛性を高めるための繊維含有を必須とする第1樹脂部材と、前記繊維含有を必ずしも必要としない第2樹脂部材とを一体化した繊維強化複合材製の部品の構造であって、前記第1樹脂部材は、SRIM法によって剛性強化用の繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたFRPからなり、前記第2樹脂部材は、熱可塑性樹脂を含み、該熱可塑性樹脂を用いて、前記第1樹脂部材と、前記第2樹脂部材とを、射出成形によって一体化したことを特徴とする繊維強化複合材製の部品の構造。
【0015】
本項は、SRIM法によって剛性強度がもたらされた長尺の管状部位を、第1樹脂部材とし、例えば、リブやボス等の複雑な凹凸形状を備えたプレート又はフランジのような部位を、第2樹脂部材とし、溶融した熱可塑性樹脂によって、長尺管部位の両端開口をプレート又はフランジで覆いつつ、第1樹脂部材に第2樹脂部材を、射出成形により一体化することを例示するものである。
【0016】
(4)前記第1樹脂部材は、繊維織物にPA6を含浸させた筒部材であり、かつ、前記第2樹脂部材は、前記筒部材の側面を覆いかつ、両開口を覆いながら形成された凹凸構造であることを特徴とする(3)項に記載の繊維強化複合材製の部品の構造。
本項は、(3)項において、前記第1樹脂部材と、前記第2樹脂部材の形状を例示するものである。例えば、後述する図1に示すような部品が該当する。
【0017】
(5)前記第2樹脂部材は、前記PA6と溶着性があり、かつ、前記PA6よりも吸水性が低いポリアミド系の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする(3)項又は(4)項に記載の繊維強化複合材製の部品の構造。
本項は、第2樹脂部材の熱可塑性樹脂に、第1樹脂部材の樹脂種PA6と溶着性があり、かつ、PA6よりも吸水性が低いものを用いることを例示する。これによって、第1樹脂部材と第2樹脂部材とが強固に接着、一体化し、かつ、部品の構造に耐水性をもたらすことができる。
【0018】
(6)前記第2樹脂部材の熱可塑性樹脂は、PA46又はPA66であることを特徴とする(5)項に記載の繊維強化複合材製の部品の構造。
本項は、第2樹脂部材の樹脂のさらなる具体例を例示するものある。PA46又はPA66は第1樹脂部材のPA6と相溶性、溶着性があるため、両構造の界面でよく溶け合い一体化して強固な接着強度をもたらすことができる。
【0019】
(7) 前記第2樹脂部材は、さらに、有機又は無機の短尺フィラー材を0wt%より多く50wt%以下の重量比で含むことを特徴とする(3)項から(6)項のいずれかに記載の繊維強化複合材製の部品の構造。
本項は、第2樹脂部材に有機又は無機の短尺フィラー材を適量含ませたものを例示する。これによって、第2樹脂部材にも剛性強度をもたらすことができる。
【0020】
(8)構造材用反応射出成形によって、筒状繊維を熱可塑性樹脂に含浸させて成る骨格部材と、熱可塑性樹脂を含む凹凸構造とを射出成形によって一体化させて繊維強化複合材料製の部品を製造する方法であって、前記骨格部材を形成する熱可塑性樹脂の重合反応時間を、前記構造材用反応射出成形に連続して前記射出成形を行うことで、前記骨格部材に含まれる前記熱可塑性樹脂の重合反応時間を前記射出成形時間に含むようにしたことを特徴とする繊維強化複合材料製の部品の製造方法。
【0021】
一般に、熱可塑性樹脂の構造材用反応射出成形(SRIM成形)と射出成形では成形時間が異なる。つまり、モノマーの重合反応による固化時間とポリマーの冷却固化時間では、ポリマーの冷却固化時間の方が短い。
そのため、(1)項から(7)項のいずれかの部品の製造方法は、SRIM成形工程において骨格部材を別途ロット生産し、そこで得られた骨格部材を射出成形工程に搬送し、溶着性を確保するために骨格部材を加熱し、それを射出成形用の型にセットして射出成形することができる。
しかしながら、このような製造方法では、射出成形工程にアイドルタイムが生じたり、又は、骨格部材の加熱といった余分な工程が必要となり必ずしも効率的ではない。
【0022】
そこで、本項では、SRIM法による成形で熱可塑性樹脂の重合反応が完了する前、すなわち高分子化が十分に進行する前に射出成形を連続的に行うことで、重合反応(高分子化)に必要な温度状態を維持しながら、射出成形にかかる時間に重合時間を含めるようにして、部品の製造にかかるリードタイム全体を短縮し、かつ、SRIM法による成形後の部材の温度も低下していないため、溶着性確保のため別工程による骨格部材の加熱も必要がない、非常に効率の良い生産が達成できる。
【0023】
(9)パンチ駆動方向が鉛直方向に沿った直方体状又は円柱状の第1オス型と、前記パンチ駆動方向と平行に配置された柱状の第2オス型と、前記第1オス型または前記第2オス型に嵌合可能な、直方体状又は円柱状のキャビティを含む第1メス型と、前記第1オス型または前記第2オス型に嵌合可能であり、かつ、直方体状又は円柱状で端面に凹凸構造を含む第2メス型と、を含む金型構造体を用いて、前記凹凸構造のキャビティを直方体状又は円柱状の筒部に備える繊維強化複合材部品を製造する方法であって、前記第1オス型の側面を、強度剛性を高めるための繊維織物で被覆し、前記第1オス型と前記第1メス型とを、両型間に第1クリアランスを保ちながら嵌合し、かつ、前記第1オス型及び前記第1メス型を加熱し、第1クリアランスに溶融状態の熱可塑性樹脂を注入し、前記繊維織物に前記熱可塑性樹脂を含浸して直方体状又は円柱状の筒部材を形成し、次に、前記第1オス型と前記第1メス型とを離型し、前記熱可塑性樹脂が半硬化状態のうちに、前記第1オス型と前記第2メス型とを、両金型間に第2クリアランスを保ちながら嵌合し、嵌合された前記第1オス型及び前記第2メス型を加熱し、第2クリアランスに溶融状態の熱可塑性樹脂を注入して、前記キャビティの前記凹凸構造に対応した凹凸構造が形成されるように射出成形を行い、前記筒部材と前記凹凸構造とを冷却して一体化することを特徴とする繊維強化複合材製の部品の構造の製造方法。
本項は、(1)から(7)のいずれかの部品の製造方法であって、(8)項の部品の製造方法の具体例である。本項の詳細は本実施形態の欄で後述する。
【0024】
(10)前記第1オス型及び前記第2オス型は円柱状又は直方体状の下パンチ型であり、前記第1メス型は円柱状又は直方体状のキャビティ空間を有する上パンチ型であり、前記第2メス型は、上部がボス及びリブ付きプレートを形成するための凹凸面を有し、かつ、下部がボス及びリブ付きフランジを形成するための凹凸面を有し、上下部が凹凸構造で側面が円柱側面又は直方体側面である部品を作製することを特徴とする(9)項に記載の繊維強化複合材製の部品の製造方法。
本項は、上記製造方法で製造可能な、凹凸構造を含む当該部品の一例を示すものである。ただし、当業者によって適宜、当該部品の形状を改変することが可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る部品の構造によれば、SRIM法で形成されたFRPを含む骨格部材と、ボス、リブ等の比較的複雑な形状部分とからなる非骨格部材とを射出成形で一体化でき、剛性強度が高い部品が提供できる。また、本発明に係る部品の製造方法によれば、SRIM法で形成されたFRPを含む骨格部材と、ボス、リブ等の比較的複雑な形状部分とからなる非骨格部材とを射出成形で一体化でき、剛性強度が高い部品を、接着剤なしで、高い効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は、プレート及びフランジと、筒を一体化した部品の斜視図を示し、(b)は、プレート、筒、及び他の部材に固定するフランジの分解斜視図を示す。
【図2】図1の部品の製造方法の第1ステップに係る概略断面図である。
【図3】同方法の第2ステップに係る概略断面図である。
【図4】同方法の第3ステップに係る概略断面図である。
【図5】同方法の第3ステップにおいて下金型を180°回転させた状態を示す概略断面図である。
【図6】同方法の第4ステップに係る概略断面図である。
【図7】同方法の第5ステップに係る概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態(「本実施形態」という)を、図1から図7を参照しながら説明する。本実施形態は、部品の構造についての第1実施形態及び第2実施形態、並びに部品の製造方法についての第3実施形態からなる。
なお、本願明細書では、図1に示す部品を代表例とするが、本発明は、これに限定されるものではなく、当業者によって適宜、改変、修正等が可能である。
<第1実施形態>
図1は、例えば、図示しない部品(以下「部品X」とする)に図示しない部品(以下「部品Y」とする)を取り付けるためのフレーム部品の構造1を示す。さらに、図1の(a)は、部品Xに当該フレーム部品を取り付けるための複雑形状のフランジ部1Cと、当該フレーム部品に部品Yを取り付けるためのボスを備えたプレート1Aと、単純形状の筒1Bを一体化した部品の構造1の斜視図を示し、図1の(b)は、部品1の3つの構成部位、すなわち、部品Yを取り付けるためのプレート1A、部品Yを支えるフレーム部の筒1B及び部品Xに固定するフランジ部1Cを分解した斜視図を示す。
【0028】
筒1Bは、剛性強化用の繊維を平織り、目抜平織り、綾織り、又は朱子織り等によって織物状にした連続繊維に、熱可塑性樹脂を含浸させた骨格部材である。この筒1Bは、四面が肉厚の長方形板T1〜T4を、長尺方向に対して垂直な開口が長方形の筐体の内部に形成されている。このように、筒部1Bは長尺であっても、内部に骨格部材を含むため剛性強度が高い。
筒1Bの剛性強化用の繊維は、炭素、アラミド、ガラス等の有機又は無機の連続繊維、あるいは繊維長が10mm以上の長繊維が好ましい。また筒1Bの熱可塑性樹脂は、比較的容易にRIM成形が可能なPA6、PA11、PA12、あるいは環状PBT、環状PET、環状PEN等の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。中でも、PA6は、広く普及しているためコスト安になるため材料コストの点から好ましい。これらは、その原料であるモノマーあるいはオリゴマーから比較的容易に重合反応により、高分子化(ポリマー化)した熱可塑性樹脂が得られる。そして、モノマーあるいはオリゴマーは低分子の為、ポリマーを溶融した液体の粘度に比較して大幅に粘度が低いため、先の剛性強化用の繊維に対して容易に含浸される。したがって、ポリマー化した熱可塑性樹脂よりも、より強化繊維の割合を増やす事や、繊維と樹脂の濡れ性を向上し、強度の向上を図る事ができる。
【0029】
筒1Bの強化用繊維を例えば炭素繊維としたとき、炭素繊維の占める割合は10wt%〜70wt%にすることが好ましい。10wt%未満であると補強効果が手間に比較して小さい一方、70wt%より大きいと成形性が悪化し、剛性強度が低下したり、繊維が多すぎて部品1の表面から露出することもあり好ましくない。ただし、当該割合の範囲は、繊維種やその他の条件によって適宜改変することができ、上記範囲に限られない。
なお、筒1Bのような予め筒状のものではなく帯状のものを、金型側面に解けないように巻き付けて、結果的に筒状になるようなものを使用してもよい。
【0030】
プレート1Aは、プレート1Aの平面Pの中央に部品Yを取り付けるためのボスB5を備えている。円筒状のボスB5は、平面Pに対して垂直に平面Pと一体成形されている。また、ボスB5を四方から支えるために、平面PとボスB5に断面直角三角形状のリブR4〜R7が一体成形されている。
プレート1Aに用いられる熱可塑性樹脂は、フレーム筒1BにPA6、PA11、PA12等のPA製樹脂を用いた場合、PA6[ナイロン6(登録商標)]、PA11[ナイロン11(登録商標)]、PA12[ナイロン12(登録商標)]、PA66[ナイロン66(登録商標)]等のポリアミド系熱可塑性樹脂あるいはそのアロイを用いることが好ましい。中でも、PA6は、広く普及しているためコスト安になるため材料コストの点から好ましい。なお、筒1Bに環状PBT、環状PET、環状PENを用いた場合は、プレート1Aには、PBT、PET、PENや、そのアロイを用いることが好ましい。これらの理由は、筒1Bとプレート1Aを同系の樹脂とする事で、その部材間で溶着せしめるためである。
【0031】
フランジ1Cは、プレート1Aと同様の熱可塑性樹脂又は樹脂アロイを用いて成り、その形状は額縁状である。そして、フランジ1Cの四隅には、固定用ボルト貫通用の円筒状のボスB1〜B4(B4は不図示)と、剛性強度を高めるための断面直角三角形状のリブR1〜R6(R4〜R6は不図示)とが形成されている。断面直角三角形状のリブR1〜R6の斜辺面ではない他二辺のうち、短い方の辺を含む面は、額縁部Fの面に対して直角に一体化しており、長い方の辺を含む面は、額縁部Fに対して垂直に一体化している。そして、このリブR1〜R6に支えられるように一体成形されている。そして、開口部H2の断面直方体額縁状を形成するための開口が肉厚壁W1〜W4によって囲まれている。このように、フランジ1Cは、様々な凹凸構造を有する複雑な構造を含むものである。
【0032】
プレート1A、フランジ1Cは、必要がなければ熱可塑性樹脂や樹脂アロイのみでもよいが、剛性強度をさらに高める場合には、熱可塑性樹脂や樹脂アロイに、短尺フィラー材を多数含ませるようにすることが好ましい。短尺フィラー材には、例えば射出成形によるガラス短尺繊維を使用することが好ましい。そして、全体に対するフィラー材の占める割合は、0wt%よりも多く50wt%以下が好ましい。フィラー材をこのような比較的低比率で熱可塑性樹脂に含ませるのは、プレート1A、フランジ1Cは上述のようなボス、リブ等の複雑な凹凸構造を含むため、金型の凹凸面に充填する流動性が必要とされるからである。すなわち、フィラー材が50wt%より多くなると熱可塑性樹脂に流動性が悪化するおそれがあるため好ましくない。また後述する射出成形中に射出ノズルN(図6参照)にフィラー材がつまるおそれも高まり好ましくない。
なお、フィラー材は、炭素、アラミド[ケブラー(登録商標)]や、その他の有機又は無機材からなる短尺繊維材を使用してもよい。このとき、繊維の表面処理や樹脂の添加剤により流動性が確保できる場合は、上記の好適範囲に限られるものではなく、wt%の上限をさらに大きく設定することも可能となる。
【0033】
<第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態の変形例である。第2実施形態では、筒1Bの熱可塑性樹脂にPA6を用い、プレート1A及び/又はフランジ1Cの熱可塑性樹脂にPA6と溶着性がありかつ吸水性の低い、例えばPA66を用い、さらに、筒1Bの周囲全体をPA66で覆う態様を例示する。これにより吸水が問題となるような部品においても、SRIM成形の材料にPA6を使用する事が可能となる。
【0034】
また、筒1B、並びに、プレート1A及び/又はフランジ1Cの材料として、PA6とPA66との組み合わせ以外にも、PA6とPA11、PA6とPA12、PA6とPA46のような、PA6と溶着性があり、かつ吸水性の低い樹脂の組み合わせを適用できる。また、その他の各種ポリアミド系樹脂と、このポリアミド系樹脂と溶着性があり、かつ吸水性の低い樹脂とのアロイ樹脂との組み合わせを適用してもよい。
【0035】
<第3実施形態;部品の構造の製造方法>
第3実施形態は、部品1の製造方法の一形態である。この実施形態を、適宜、図1並びに図2から図7を参照しながら、熱可塑性樹脂にPA6を使った実施例を代表例にして以下説明する。
【0036】
第3実施形態では、まず、図2に示すような、パンチ駆動方向V1が鉛直方向に沿った柱状の第1オス型M1と、前記パンチ駆動方向V1と平行に配置された柱状の第2オス型M2(パンチ駆動方向V2)と、第1オス型M1に一定のクリアランス(以下「第1クリアランス」とする)をもって嵌合可能な、直方体状(図1の部品の場合)又は円柱状のキャビティを含む第1メス型F1と、第2オス型M2に一定のクリアランス(以下「第2クリアランス」とする)をもって嵌合可能であって凹凸状のキャビテイを上部に含む第2メス型F2と、を含む金型A、Bを準備する(なお、図1の部品を製造する場合は、キャビティ面が図1のプレート1Aに相当する第2メス型F2と、同図のフランジ1Cに相当する第1オス型M1を使用する)。金型Aは鉛直方向上下に油圧シリンダ等によって駆動され、金型Bは、第1オス型M1と第2オス型M2の中心軸の対称軸の周りをターンテーブルによって水平回動する。
第1及び第2のオス型M1、M2は、鉛直対称軸を中心に回転可能にされている基台に、軸対称状に配置されている。第1オス型M1を回転軸Oの周りをターンテーブルで180度回転させると、第2オス型M2と同一の箇所に位置決めされるようになっている。
【0037】
[第1ステップ;図2]
初めに、剛性強化用の繊維(例えば炭素繊維)を平織物状にした連続繊維を円筒状に形成した円筒繊維Wを第1オス型M1の上から被せて、円筒繊維Wで第1オス型M1の側部全体を被覆する。このとき、円筒繊維Wの高さは、第1オス型M1の高さと同一かやや低くなるように設定されている。なお、連続繊維を円筒状に予め作製しておく代わりに、帯状の連続繊維を第1オス型M1の上に巻き付けて固定するようにしてもよい。
[第2ステップ;図3]
次に、金型Aを鉛直下方に向けて駆動して、第1オス型M1及び第2オス型M2に、第1メス型F1及び第2メス型F2を嵌合し、タンクTに予め収容されている溶融状態の熱可塑性樹脂R1(例えば、PA6モノマー)を円筒繊維W部に注入する。
【0038】
このとき、金型A、Bの温度は140℃〜170℃、熱可塑性樹脂(εカプロラクタム)の溶融温度は80℃〜100℃に設定しておくことが望ましい。
金型A、Bの温度は、140℃より低いと十分な高分子化が進行しない一方、170℃より高いと樹脂が金型に完全に充填する前に固化するため好ましくない。また、εカプロラクタムの溶融温度は、80℃より低いと粘度が高くなるため好ましくない一方、100℃より高いと重合反応が進み粘度が高くなるため好ましくない。なお、筒1Bの円筒繊維Wの織物の密度次第でεカプロラクタムの含浸時間を更に必要とする場合は、金型温度と熱可塑性樹脂の溶融温度とを同じ程度にしておき含浸が終了してから、金型温度を高めるようにしてもよい。
このようにすることで、毛管現象によって、溶融状態の熱可塑性樹脂R1が円筒繊維Wに含浸されていく。
【0039】
[第3ステップ;図4及び図5]
次に、熱可塑性樹脂R1の重合反応の途中で、金型Aを鉛直上方V1´(V2´)に駆動して(図4)、第1オス型M1と第1メス型F1、第2オス型M2と第2メス型F2とが完全に離間したら、金型KBを回転軸Oの周りに180度回転させ、停止させる(図5)。
[第4ステップ;図6]
第1ステップと同様にして、金型Aを鉛直下方(V1方向)に駆動させ、今度は、第2オス型M2と第1メス型F1を、そして、第1オス型M1と第2メス型F2とを嵌合させていく。そして、溶融状態の熱可塑性樹脂を射出ガンのノズルNから射出注入して、キャビティCの凹凸空間を充填する。上述したように、必要に応じて熱可塑性樹脂を、剛性強度を高めるための短尺ガラス繊維のようなフィラー材を適量、例えば30wt%含ませるようにしてもよい。
このとき、第2ステップ及び第3ステップでSRIM法を適用したときに熱可塑性樹脂を含浸した円筒繊維が含む樹脂の重合を促進するために、金型温度は150℃以上にすることが好ましい。
【0040】
[第5ステップ;図7]
最後に、射出ガンのノズルNを第1オス型M1及び第2メス型F2から離間し、かつ、金型A、Bを冷却させて、熱可塑性樹脂が冷却・固化するのをまって、次に金型Aを鉛直上方に駆動させ金型Aと金型Bとの間に、少なくとも部品の構造1が取り出せる空間を確保し、部品1をオス型1から取り外す。
【0041】
以上の第1〜5ステップの部品1の製造方法によれば、第1又は第2の実施形態で説明した部品1を得ることができる。特に、この製造方法では、第1オス型M1に被覆された円筒繊維に含浸された熱可塑性樹脂が重合反応の途中のうちに、この第1オス型M1に凹凸状のキャビティCを備えた第2メス型M2を嵌合して、連続的に、キャビティCを充填する熱可塑性樹脂を射出成形することができる。
【0042】
その結果、熱可塑性樹脂の重合反応(高分子化)に必要な温度を維持し、かつ、射出成形時間を熱可塑性樹脂の重合反応時間に含めることができる。その結果、部品1の製造全体のリードタイムを短縮でき、かつ、SRIM法によって得られた熱可塑性樹脂が含浸された円筒繊維(骨格部材)の温度が低下しないうちに次の工程(射出成形)に進むため、溶着性確保のために骨格部材をあえて加熱する必要もなく、かつ、高い効率で生産性良く、部品1が製造できる。
【0043】
以上の実施形態から分かるように、本発明によれば、剛性強度に優れる連続繊維強化材料(FRP)と、形状の自由度と生産性に優れる熱可塑性樹脂(必要に応じて短繊維強化材、フィラー材を含む)の利点を併せ持つ複合材料からなる部品とその製造方法を提供することができる。
【0044】
また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、第3実施形態では、熱可塑性樹脂としてPA6を用いたが、他の熱可塑性樹脂を使用した場合は、当業者によって、使用される熱可塑性樹脂に応じて、金型温度、熱可塑性樹脂の溶融温度を最適温度に調整して、当該製造方法を実施するようにすればよい。
第3実施形態では、金型Bは、オス型M1とオス型M2の中心軸Oの周りをターンテーブルによって水平回動するようにしているが、金型Aの方を、同様に水平回動して、第1オス型M1と第2オス型M2とを位置決めしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1B:筒状骨格部材、1A、1C:凹凸構造、1:部品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造材用反応射出成形により連続繊維で強化された熱可塑性樹脂からなる骨格部材と、
前記熱可塑性樹脂に対して溶着性が高い熱可塑性樹脂からなり、前記骨格部材を覆う部材とを、射出成形により一体化して成ることを特徴とする繊維強化複合材料製の部品の構造。
【請求項2】
前記骨格部材に用いる前記熱可塑性樹脂はPA6であり、前記骨格部材を覆う熱可塑性樹脂は、PA6と溶着性が高く、かつ、PA6よりも吸水性の低いポリアミド系熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料製の部品の構造。
【請求項3】
構造材用反応射出成形によって、筒状繊維を熱可塑性樹脂に含浸させて成る骨格部材と、熱可塑性樹脂を含む凹凸構造とを射出成形によって一体化させて繊維強化複合材料製の部品を製造する方法であって、
前記骨格部材を形成する熱可塑性樹脂の重合反応時間を、前記構造材用反応射出成形に連続して前記射出成形を行うことで、
前記骨格部材に含まれる前記熱可塑性樹脂の重合反応時間を、前記射出成形時間に含むようにしたことを特徴とする繊維強化複合材料製の部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−251492(P2011−251492A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127815(P2010−127815)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】