説明

繊維構造物

【課題】本発明は、軽量感があり洗濯耐久性に優れた制電性、吸水性、防汚性を有する繊維構造物を提供せんとするものである。
【解決手段】本発明の繊維構造物は、糸長方向に繊維表面から中空部まで貫通する連続した貫通溝を有し、かつ中空部の内径Aと貫通溝の幅Bで表される異形度A/Bが2.0〜9.0である繊維表面に、無機微粒子を含有するポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリルおよび/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる被膜が形成されており、該重合性単量体/無機微粒子の重量混合比が1/0.4〜1.0であって、かつ、該被膜は、5〜300nmの粒子径を有する該無機微粒子により微細な凹凸表面を有する凹凸が形成されている表面を有するものであることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量感があり洗濯耐久性に優れた制電性、吸水性、防汚性を有する繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル織編物は優れた物性およびWash&Wear(W&W)性を有するため、現在では衣料分野の主流を占めている。しかし、この優れたポリエステル繊維には静電気による衣服の身体へのまとわりつきや、脱衣時の不快な放電音の発生、また汗などを吸い取ってくれない、繰り返し洗濯によって黒ずんでくるなどの問題点を抱えている。
【0003】
これら欠点を改良する方法として、従来から数多くの処理方法が提案されている。その中には大きく分けて2つの方法があり、一つは繊維自体を改質する方法であり、もう一つは後加工により表面を改質させる方法である。
【0004】
繊維自体を改質する方法は繊維自体が脆化してしまうため強力が低下する問題や加工工程が多くコスト的な問題もあった。(特公昭53−8590号)
もう一つの方法である後加工による方法として、界面活性剤などの低分子型帯電防止加工剤を使用し、Pad−Dry−Cureあるいは染色後の浴中処理の工程で行われてきたが、洗濯などによる耐久性が悪く、一時的な帯電防止性能しかないということが最大の欠点である。(特開平09−137383)
このため、耐洗濯性のある耐久帯電防止加工剤や加工方法が検討開発されてきた。これらのほとんどは親水基を持つが水には溶解しない高分子帯電防止剤であり、水に乳化分散させた状態でPad−Dry−Cureで繊維表面に固着させるものである。乳化型親水性高分子であるため、浴中処理では乳化破壊によるターリングや繊維への均一吸着が困難など加工が非常に難しい。また通常のPad−Dry−CureではDry工程での薬剤が繊維構造の結束部や交絡部に移動(マイグレーション)し、親水性高分子の均一な被膜が形成されにくく、帯電防止の性能が出にくいこと、さらには高分子薬剤が繊維結束部や交絡部に移動したままでCureされるため、風合いが粗硬になるという問題もある。さらに、親水性高分子を使用するにもかかわらず、繊維束を固めるために吸水性が悪化するなどの問題も発生する。さらに、糸加工技術の高度化に伴い布帛の組織が複雑・多様化する中で、表面への加工やコーティングでは布帛の独特の風合いを損なってしまう場合も多い。
【0005】
また、耐久性を向上させる手段の一つとして、生地に帯電防止剤を付着させた後に低圧プラズマで処理する方法が挙げられるが、装置や素材が限定されたり、減圧時にマイグレーションを起こしたりするため、十分な性能が得られなかった。(特公昭60−151379)
【特許文献1】特公昭53−8590号公報
【特許文献2】特開平09−137383号公報
【特許文献3】特公昭60−151379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、軽量感があり洗濯耐久性に優れた制電性、吸水性、防汚性を有する繊維構造物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の繊維構造物は、糸長方向に繊維表面から中空部まで貫通する連続した貫通溝を有し、かつ中空部の内径Aと貫通溝の幅Bで表される異形度A/Bが2.0〜9.0である繊維表面に、無機微粒子を含有するポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリル基および/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる被膜が形成されており、該被膜の厚みが5〜40nmであって、該重合性単量体/無機微粒子の重量混合比が1/0.4〜1.0、かつ、該被膜は、粒子径5〜400nmの該無機微粒子により微細な凹凸表面を有する1つの凹凸が形成されている表面を有するものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軽量感があり洗濯耐久性に優れた制電性、吸水性、防汚性を有する繊維構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、前記課題について鋭意検討した結果、帯電防止・防汚効果のある樹脂を単糸一本一本に均一に被膜化させ、風合いを損なうことなく、高い性能を得ることを可能にした。強固な均一被膜を形成させることで、後加工で問題となっていた繰り返し洗濯による性能低下を飛躍的に改善することに成功した。また通常の表面樹脂加工品と比較して高い表面積を得ることができるため、後加工の帯電防止加工において課題であった湿度の影響を抑制し、静電気の発生しやすい低湿度状況下でも高い帯電防止効果を得ることができ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0010】
すなわち、5〜400nmという特定な粒子径を有する該無機微粒子を該特定単量体に混合して繊維表面で重合させて被膜を形成してみたところ、得られた繊維構造物は優れた制電性を有するものであった。
【0011】
本発明の繊維構造物は、繊維構造物を構成する単繊維に5〜40nm、特に好ましくは10〜30nmの被膜が形成されているものである。この被膜は、ポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリルおよび/またはメタクリル基を有する単量体を重合せしめてなる被膜である。
【0012】
本発明におけるポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリル基および/またはメタクリル基を有する単量体としては、例えばポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジアクリレート等を、単独あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0013】
かかる単量体を重合するために重合開始剤を使用することができ、重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリ、アゾビスイソブチロニトリル、硫酸アンモニウム等、一般的なビニル重合開始剤を使用することができる。かかる重合開始剤を用いて、80〜160℃の飽和水蒸気または過飽和水蒸気雰囲気中で0.5〜10分間の処理をすることにより、繊維表面に連続または非連続的皮膜を形成させることができる。かかる被膜の厚みは樹脂付着量によってコントロールすることができる。すなわち、重合性単量体および重合触媒の混合液を作成する際の樹脂有効成分濃度と繊維構造物を樹脂液に含浸させてマングルで絞る際の絞り率、つまりマングルの加圧圧力を適宜調整することにより樹脂付着量つまり被膜の膜厚をコントロールすることができる。一般的には、一定圧力で絞り樹脂有効成分濃度を変更することによりコントロールするものであり、樹脂有効成分濃度を低くする、または絞り率を高くすれば被膜の厚みは薄くなる傾向にある。
【0014】
かかる被膜を単繊維表面に被覆させることにより、耐久性のある制電性、防汚性が得られるものである。
【0015】
本発明の無機微粒子としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、カオリナイト、タルク、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等であり、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。該粒子の粒子径としては5〜400nmであり、好ましくは10〜200nmのものを使用する。5nmより小さいと微細な凹凸を形成しにくく、400nmを越えると重合体の被膜形成が不十分となる場合があるため、無機微粒子としては粒径が5〜400nmの範囲内とする必要があるが、該粒径範囲外の粒径のものが上記凹凸形成に影響のない程度、例えば0%を超え、10%程度まで含まれることはさしつかえない。該粒子範囲の無機粒子は、市販されている特定粒子範囲の無機粒子を使用することもできるが、好ましくは分散液の状態で使用するのが好ましい。かかる分散液は特に限定されるものではないが、例えばケイ素の重合反応によって反応媒体にシリカの核粒子が生成し、その粒子成長をコントロールすることによって、特定の粒子径を形成したものなどが好ましい。
【0016】
本発明の重合性単量体と無機微粒子の重量混合比は、単量体1に対して好ましくは0.4以上、より好ましくは0.4〜1.0であり、0.4より少ないと表面凹凸が小さく、また1.0より多いと被膜形成性が悪くなり、制電性能が不十分になる場合がある。該無機粒子は該重合体被膜に均一もしくはランダムに含有されるものであり、繊維上に凹凸形状を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0017】
本発明の無機微粒子を含有する被膜を形成させる方法としては、重合性単量体、重合開始剤および無機微粒子を混合した水系液に、繊維布帛を浸積して、マングル等で絞って所定の付着量に調整した後、80〜160℃の飽和水蒸気または過飽和水蒸気の雰囲気で0.5〜10分、好ましくは1〜4分の処理を行い、しかる後に非イオン系界面活性剤と炭酸ナトリウム等を含む洗浄液中で40〜80℃の温度で1〜5分間洗浄、水洗して未反応の単量体や重合開始剤を除去し、100〜130℃で乾燥、140〜180℃でヒートセット方法などを採用することができる。また、水系液を付与した後、100〜130℃で乾燥した後に、水蒸気処理する方法も採用することもできる。かかる被膜形成加工をした後に、本発明の効果を阻害しない範囲で、帯電防止剤、吸水剤、吸湿剤、撥水剤、撥油剤、防汚剤、着色剤、増摩剤等で処理してもかまわない。
【0018】
本発明の繊維構造物を透過型電子顕微鏡(TEM)で100000倍で観察すると図1のごとくに該無機微粒子を含有した5〜40nmの被膜が単繊維上に形成されているものである。
【0019】
本発明の繊維布帛を構成する繊維としては、糸長方向に繊維表面から中空部まで貫通する連続した貫通溝を有し、かつ中空部の内径Aと貫通溝の幅Bで表される異形度A/Bが2.0〜9.0を満たす形状を有するものであれば特に限定されないが、前記課題を有するものとしてポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などの合成繊維やレーヨン、アセテートなどの半合成繊維が本発明の効果を得る上で好ましい。また木綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維等と2種類以上混合して使用することも何ら差し支えない。また、長繊維でも短繊維でも良く、これらを混合して使用しても良い。本発明の繊維布帛の組織としては、前記繊維からなる織物、編物、不織布等のものを使用することができる。
【0020】
本発明の繊維構造物は、軽くて洗濯耐久性に優れた制電性、吸水性、防汚性を有することから、コート、ブルゾン、ウインドブレーカー、ブラウス、シャツ、スカート、スラックス、手袋、帽子等の衣料や布団側地等の寝装具、カーテン等のインテリア用具などの用途に好適に使用されるものである。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例中の品質評価は次の方法で実施した。
【0022】
(制電性)
JIS L 1094B法(摩擦耐電圧測定法)に規定される方法で、20℃×30%RHの雰囲気中で、対象布を木綿として摩擦耐電圧を測定し、(kV)で表示した。数値が大きいほど、制電性が悪いことを示す。
【0023】
(吸水性)
JIS L 1096に規定される方法で、布帛上に水滴を落とし、それが完全に吸収されるまでの時間を測定し、(sec)で表示した。数値が大きいほど、吸水性が悪いことを示す。
【0024】
(洗濯耐久性)
自動反転渦巻き電気洗濯機に、JIS K 337に規定される弱アルカリ性合成洗剤を0.2%の濃度になるように溶解し、浴比1:50で、40±2℃の温度で、強条件で10分洗濯し、次いで排水し水洗5分をする工程を1回としこれを10回繰り返した後、風乾した。
【0025】
実施例1〜3、比較例1〜10
ポリエチレンテレフタレートを鞘成分にアルカリ易溶解性の共重合ポリエステルを芯成分に配置した84dtex、24フィラメントの仮撚り加工糸をタテ糸、ヨコ糸に使用して平織物を製織したのち、該織物を95℃の温度で連続式精練機で常法に従い精練、湯水洗し、次いで130℃で乾燥、180℃でピンテンターセットした。引き続き、液流染色機で芯部分の共重合成分を溶出した後、染色し、130℃で乾燥、170℃でピンテンターセットして中空率40%、異形度4.0の染色布Aを得た。
【0026】
ポリエチレンテレフタレートからなる84dtex、24フィラメントの仮撚り加工糸をタテ糸、ヨコ糸に使用して平織物を製織したのち、該織物を95℃の温度で連続式精練機で常法に従い精練、湯水洗し、次いで130℃で乾燥、180℃でピンテンターセットした。引き続き、液流染色機で染色し、130℃で乾燥、170℃でピンテンターセットして染色布Bを得た。
【0027】
なお、被膜厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維断面の100000倍拡大写真を撮り、測定した。
【0028】
<重合性単量体>
ポリアルキレンオキサイドセグメントが分子量1000であるポリエチレングリコールジメタクリレート(有効成分100重量%)を使用した。
【0029】
<無機微粒子>
次に示す粒径の酸化ケイ素の水分散液を使用した。なお、ここでいう有効成分とは水分散液中の酸化ケイ素のことであり、b〜dについては示した粒径以外の粒径のものを数%含む。
a.スノーテックスXS(粒径約4nm)(日産化学工業(株)製、有効成分20重量%)
b.スノーテックスOL(粒径40〜50nm)(日産化学工業(株)製、有効成分20重量%)
c.CLA110(粒径180〜200nm)(共栄社化学(株)製、有効成分10重量%)
d.MP4540(粒径420〜480nm)(日産化学工業(株)製、有効成分40重量%)
<処理液の調整>
単量体を2g/l、20g/l、40g/lの濃度で水に溶解し、該液に酸化ケイ素の有効成分が単量体1に対して0.1、0.4、0.9、1.2の重量比になるように添加した。酸化ケイ素を含まない処理液も調整した。
【0030】
<処理条件>
染色布A、Bそれぞれを処理液に浸積して、マングルで絞り、処理液の付着量が100重量%になるように調整した後、106℃の飽和水蒸気雰囲気中にて3分間の処理を行った。
【0031】
次いで、非イオン界面活性剤1g/L、炭酸ナトリウム1g/Lとした60℃の水溶液中で1分洗浄し、水洗し、130℃で乾燥、160℃でピンテンターセットした。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、比較例に比して、実施例のものは、重合性単量体に特定比率で酸化ケイ素を混合しているもので、微細な凹凸を有する5〜40nmの被膜が形成されており、軽量感があり制電性、吸水性、防汚性をも兼ね備え、耐洗濯性にも優れることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】異形度
【図2】制電剤の付着
【符号の説明】
【0035】
A:中空糸部の内径
B:貫通溝の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸長方向に繊維表面から中空部まで貫通する連続した貫通溝を有し、かつ中空部の内径Aと貫通溝の幅Bで表される異形度A/Bが2.0〜9.0である繊維表面に、無機微粒子を含有する、ポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリル基および/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる被膜が形成されており、該被膜の厚みが5〜40nmであって、該重合性単量体/無機微粒子の重量混合比が1/0.4〜1.0、かつ、該被膜は、粒子径5〜400nmの該無機微粒子により微細な凹凸が形成されている表面を有するものであることを特徴とする繊維構造物。
【請求項2】
該無機微粒子が、酸化珪素である請求項1に記載の繊維構造物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−262619(P2007−262619A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90620(P2006−90620)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】