説明

繊維機械及びシャッター弁

【課題】簡単な構成でシャッター弁の位置を安定させることが可能な繊維機械を提供する。
【解決手段】精紡機は、複数の紡績ユニットと、前記複数の紡績ユニット間を走行可能な糸継台車と、吸引ダクト14と、シャッター弁60と、を備えている。吸引ダクト14においては、糸継台車に吸引空気流を供給するための吸引空気流供給孔141が当該吸引ダクト14の孔形成面142に形成されている。シャッター弁60は、孔形成面142に回転可能に支持されるとともに、吸引空気流供給孔141を塞ぐことが可能な蓋部611,612,613,614が放射状に形成されている。複数の蓋部のそれぞれにおいて、孔形成面142側を向く面には膨らみ部621,622,623,624が形成される。前記シャッター弁60は、その中央部が孔形成面142に対して接近するように弾性変形して支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、繊維機械に関する。詳細には、当該繊維機械において、走行する作業台車に吸引空気流を供給するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維機械においては、糸端の捕捉や糸屑の吸引除去のために真空による吸引空気流が用いられている。
【0003】
複数の糸処理ユニットを備えた繊維機械においては、前記複数の糸処理ユニット間を走行する作業台車を備えた構成とされる場合がある。例えば、自動糸継台車を備えた繊維機械では、ある糸処理ユニットで糸切れが発生すると、前記自動糸継台車が当該糸処理ユニットの位置まで走行して糸継ぎ作業を行う。このような作業台車による作業時においても、糸端を捕捉する際には吸引空気流を用いる。
【0004】
上記の繊維機械においては、作業台車の小型化及び軽量化などの観点から、真空源となるブロアを台車側に搭載しない構成とすることが一般的である。このような作業台車は、装置背面に設けられた吸引ダクトから吸引空気流の供給を受ける。具体的には、前記吸引ダクトには各糸処理ユニットに対応した箇所に吸引空気流供給孔が形成されており、作業台車は作業対象の糸処理ユニットの位置まで走行して停止すると当該吸引空気流供給孔から吸引空気流の供給を受けることができるように構成される。
【0005】
上記のような繊維機械において、前記吸引空気流供給孔を常時開放していると吸引ダクト内に外気が流入して吸引力が低下してしまうため、各吸引空気流供給孔に開閉可能なシャッター弁(蓋板)を配置する構成が知られている。このシャッター弁の形状については各種提案されており、例えば特許文献1及び特許文献2は、この種のシャッター弁を備えた繊維機械を開示する。
【特許文献1】特開昭58−144133号公報
【特許文献2】実開平2−102479号公報
【0006】
ところで、特許文献2が指摘するように、L字形に形成された従来のシャッター弁には回転方向に制限があり、作業台車が左右どちらか一方向からしか近づくことができない。このようなL字形シャッター弁に対して作業台車が間違った方向から近づくと、当該L字形シャッター弁を回転させることができず、場合によってはシャッター弁を破損してしまう。近年、1つの繊維機械上に複数の作業台車を走行させる構成が採用されているが、このような繊維機械においてはシャッター弁の回転方向に制限があると各作業台車が移動できる範囲が制限されてしまうため、複数台の作業台車による作業効率を最大限に発揮させることができない。
【0007】
この点、特許文献1又は2が開示するシャッター弁は、回転対称な形状に構成されており、左右どちらにでも回転させることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記従来のL字形シャッター弁には、回転後の位置を安定させるためにストッパが設けられている。一方、回転対称な形状のシャッター弁にはこのようなストッパを設けることができない。シャッター弁が位置を安定させるための構造を持たない場合、吸引ダクトに吸引空気流が作用しているときは吸引空気流供給孔に吸い付けられてある程度は回転しにくくなるが、吸引ダクトに吸引空気流が作用していないときは自由に回転してしまう。このため、回転対称な形状のシャッター弁は、その位置(回転位相)が意に反してズレてしまう場合があった。シャッター弁が正規の位置からいったんズレてしまうと、当該シャッター弁を作業台車によって回転させることができなくなり、無理に回転させようとするとシャッター弁等を破損してしまうことがあった。このため、シャッター弁が勝手に動かないようにするための構成が求められていた。
【0009】
この点、特許文献2は、シャッター弁に形成された凹部に板バネの突出部を係合する構成を開示する。これによりシャッター弁が位置決めされるので、シャッター弁が勝手に回転して位置がズレてしまうことを防ぐことができる。しかしながら、このようにシャッター弁を固定するための構成を別途設けると、部品点数が増えてコストが増大してしまう。
【0010】
また、位置ズレを防止するために摩擦板などの回転抵抗をシャッター弁と吸引ダクトとの間に設ける構成も考えられるが、この場合も摩擦板やプランジャーを新たに設ける必要があるためコストアップにつながる。また、上記のように摩擦板を設ける構成では摩擦板による抵抗がシャッター弁に常に掛かるため、吸引ダクトに吸引空気流が作用していないときにシャッター弁の位置を保持するのに十分な摩擦抵抗とすると、吸引空気流の作用時には回転抵抗が過大になってしまう。
【0011】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、簡単な構成でシャッター弁の位置を安定させることが可能な繊維機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0013】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の繊維機械が提供される。即ち、この繊維機械は、複数の糸処理ユニットと、前記複数の糸処理ユニット間を走行可能な作業台車と、吸引ダクトと、シャッター弁と、を備える。前記吸引ダクトにおいては、前記作業台車に吸引空気流を供給するための吸引空気流供給孔が当該吸引ダクトの孔形成面に形成されている。前記シャッター弁は、前記吸引空気流供給孔を塞ぐことが可能な蓋部が放射状に複数形成されるとともに、前記孔形成面に回転可能に支持される。前記複数の蓋部のうち少なくとも何れか1つには、前記孔形成面側を向く面に膨らみ部が形成される。前記シャッター弁は、その中央部が前記孔形成面に対して接近するように弾性変形して支持されている。
【0014】
この構成により、シャッター弁自身を弾性変形させることで、膨らみ部を孔形成面に対して押し当てることができる。これにより、膨らみ部と孔形成面との間で摩擦による回転抵抗を生じさせ、シャッター弁が自然に回転することを防止することができる。また、シャッター弁自身の弾性力を利用して膨らみ部による押圧力を得る簡単な構成なので、例えばプランジャーや摩擦板などを新たに設ける必要がなく、低コストでシャッター弁の位置を安定させる構成を実現することができる。
【0015】
前記の繊維機械においては、前記シャッター弁は、4つの前記蓋部が等間隔に配置されて略十字形に形成されていることが好ましい。
【0016】
即ち、シャッター弁の形状を上記のように回転対称形とすることで、左右どちらに回転させても同じように蓋部によって吸引空気流供給孔を塞ぐことができる。
【0017】
前記の繊維機械においては、前記膨らみ部は、前記吸引空気流供給孔よりも小さく形成されているとともに、前記蓋部が前記吸引空気流供給孔を塞いだときに当該吸引空気流供給孔の内側に入るように形成されていることが好ましい。
【0018】
これにより、蓋部によって隙間無く吸引空気流供給孔を塞ぐことができる。
【0019】
前記の繊維機械においては、前記シャッター弁の外形輪郭は、前記吸引空気流供給孔に入った前記膨らみ部が当該吸引空気流供給孔の縁に接触したときに、当該シャッター弁が前記吸引空気流供給孔の一部を開放するように形成されていることが好ましい。
【0020】
即ち、膨らみ部が吸引空気流供給孔の縁を乗り越えるときには大きな回転抵抗が発生するが、このときに吸引空気流供給孔の一部を開放することにより吸引空気流による蓋部の吸引力を低減し、蓋部と孔形成面との間の摩擦抵抗を低減することで、回転抵抗が過大となることを防止することができる。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、前記の繊維機械において使用されることを特徴とするシャッター弁が提供される。
【0022】
このシャッター弁の中央部を繊維機械が備える吸引ダクトに取り付けることで、シャッター弁自身を弾性変形させ、膨らみ部を孔形成面に対して押し当てることができる。これにより、膨らみ部と孔形成面との間で摩擦による回転抵抗を生じさせ、シャッター弁が自然に回転することを防止することができる。また、シャッター弁自身の弾性力を利用して膨らみ部による押圧力を得る簡単な構成なので、例えばプランジャーや摩擦板などを新たに設ける必要がなく、低コストでシャッター弁の位置を安定させる構成を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の一実施形態に係る繊維機械としての精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示した正面図である。
【0024】
図1に示す繊維機械としての精紡機1は、並設された多数の紡績ユニット(糸処理ユニット)2と、糸継台車(作業台車)3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0025】
精紡機1の装置背面側には、ブロアボックス4に連結される吸引ダクト14が設けられている。吸引ダクト14の内部はブロアボックス4によって真空(大気圧より小さい圧力)に保たれており、精紡機1の各構成に対して吸引空気流を供給することができる。また、前記吸引ダクト14には、各紡績ユニット2に対応する位置に図略の吸引空気流供給孔が形成されるとともに、当該吸引空気流供給孔を塞ぐためのシャッター弁60が配置されている。
【0026】
各紡績ユニット2は、図1に示すようにスライバ15からパッケージ45を形成するためのものであって、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、糸弛み取り装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1のフレーム6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から排出された紡績糸10は糸送り装置11で送られ、後述のヤーンクリアラ52を通過した後、巻取装置13によって巻き取られてパッケージ45が形成される。
【0027】
前記糸継台車3は、紡績ユニット2が並べられる方向に走行可能な構成となっている。そして、糸切断時(後述)には、糸継ぎが必要な紡績ユニット2の位置まで走行し、紡績装置9側の上糸と、巻取装置13側の下糸とを糸継ぎすることができるように構成されている。
【0028】
次に、図2を参照して各紡績ユニット2の詳細な構成について説明する。図2は精紡機1の縦断面図である。
【0029】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。
【0030】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与え、紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。
【0031】
糸送り装置11は、精紡機1のフレーム6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触して設けられたニップローラ40と、を備える。この構成で、紡績装置9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んだ状態で、前記デリベリローラ39を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸10を巻取装置13側へ送るようになっている。
【0032】
精紡機1のフレーム6の前面側であって前記糸送り装置11よりも若干下流側の位置には、ヤーンクリアラ52が設けられている。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、巻取装置13で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するように構成されている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さ及び速度を監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図略のユニット制御部へ送信するように構成されている。また、ヤーンクリアラ52の近傍には、糸欠点検出時に紡績糸10を切断するためのカッタ57が設けられている。
【0033】
糸弛み取り装置12は、紡績装置9と巻取装置13との間(紡績装置9と後述のスプライサ43との間)の紡績糸10の弛みを除去し、適切な張力を付与できるように構成されている。前記糸弛み取り装置12は、弛み取りローラ21と、糸掛け部材22と、を主に備えている。糸弛み取り装置12の詳細な構成については説明を省略するが、前記弛み取りローラ21の外周に紡績糸10を巻き付けて貯留し、貯留した糸をバッファとして機能させることで、紡績糸10の張力の変動を吸収して糸の弛みを防止するものである。
【0034】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備え、このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するボビンを回転可能に支持できるようになっている。また巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。
【0035】
前記巻取ドラム72は、前記ボビンやそれに紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。このトラバースガイド76は、複数の紡績ユニット2に跨って水平に配置されるトラバースロッド77に固定されている。この構成で、トラバースロッド77を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取ることができる。
【0036】
次に、糸継台車3について説明する。糸継台車3は、図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、吸引空気流供給パイプ47と、を備えている。糸継台車3は、精紡機1のフレーム6に設けられたレール41上を走行するように設けられている。この構成で、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、糸継台車3は当該紡績ユニット2まで走行して停止し、糸継動作を行うように構成されている。
【0037】
以下、糸継台車3による糸継動作について具体的に説明する。前述のように、ヤーンクリアラ52が紡績糸10の糸欠点を検出すると、糸欠点検出信号が前述のユニット制御部へ送信される。前記ユニット制御部は、上記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57で糸を切断し、更にドラフト装置7、紡績装置9、巻取装置13等を停止し、糸継台車3を当該紡績ユニット2の前まで走行させる。
【0038】
また、糸継台車3が走行するレール41と平行な方向に吸引ダクト14が設けられており、糸継台車3は吸引空気流供給パイプ47を吸引ダクト14の表面(孔形成面142)に摺動させながら走行することができる。これにより、前記吸引空気流供給パイプ47がシャッター弁60を回転させて孔形成面142に形成された吸引空気流供給孔141を開放するとともに、当該吸引空気流供給孔141と吸引空気流供給パイプ47とが接続されて、糸継台車3に吸引空気流の供給が開始される。なお、この点については後に具体的に説明する。
【0039】
続いて、ユニット制御部は、当該紡績ユニット2のドラフト装置7及び紡績装置9等を再び駆動させるとともに、糸継台車3が備えたサクションパイプ44及びサクションマウス46による糸端の捕捉を開始させる。サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績装置9から排出される上糸の糸端を、吸引空気流によって吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。これと前後して、サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置13に回転自在に支持されたパッケージ45からの下糸の糸端を吸引空気流によって吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。
【0040】
上糸と下糸がスプライサ43に案内されると、案内された糸端同士の糸継ぎがスプライサ43によって行われる。スプライサ43の詳しい構成については説明しないが、例えば圧縮空気流などの流体によって糸端同士を撚り合わせる方法により糸継ぎを行う構成とすることができる。糸継ぎが終了すると、巻取装置13による巻取りを再開させる。
【0041】
次に、シャッター弁の構成について図3を参照して説明する。図3は、本実施形態に係るシャッター弁60の外観斜視図である。
【0042】
シャッター弁60は、ある程度の弾性を備えた素材(例えばポリアミド樹脂などのプラスチック)で構成され、ほぼ平板状の部材として形成されている。図に示すように、シャッター弁60は中央部から放射状に延びる4枚の蓋部(第1蓋部611、第2蓋部612、第3蓋部613、第4蓋部614)を有している。それぞれの蓋部の一面側には、平坦な孔閉鎖面が形成されている。また、この孔閉鎖面のほぼ中央には、他の部分よりも厚みを増した円形の膨らみ部(第1膨らみ部621、第2膨らみ部622、第3膨らみ部623、第4膨らみ部624)が突出状に形成されている。また、シャッター弁60の中央部には、当該シャッター弁60を孔形成面142に取り付けるための取付孔63が形成されている。
【0043】
前記各蓋部は、取付孔63を中心とした回転対称形に形成されており、これによりシャッター弁60が略十字形を呈する。なお、以下の説明で、便宜上蓋部及び膨らみ部を特定して説明する場合があるが、上記のようにシャッター弁60は対称形であり4つの蓋部及び膨らみ部はすべて同じ形状であるので、シャッター弁60を回転させることによりすべての蓋部及び膨らみ部に対して同様の説明が成り立つ。
【0044】
次に、シャッター弁60及び吸引空気流供給パイプ47による吸引空気流供給孔141の開閉動作について説明する。
【0045】
図2に示すように、吸引ダクト14の糸継台車3側を向いている平坦な面(孔形成面142)には、吸引空気流供給孔141が形成されている。この吸引空気流供給孔141は、それぞれの紡績ユニット2の配置箇所と対応する箇所に形成されており、それぞれの吸引空気流供給孔141を塞ぐようにシャッター弁60が配置される(図1参照)。
【0046】
図4の正面図に示すように、吸引空気流供給孔141が使用されていない場合(即ち、吸引空気流供給孔141と吸引空気流供給パイプ47とが接続されず、糸継台車3に対して吸引空気流を供給していない場合)、当該吸引空気流供給孔141はシャッター弁60の第3蓋部613によって塞がれている。これにより、吸引ダクト14内に外気が流入して吸引力が低下してしまうことを防止することができる。また、シャッター弁60は、軸支ピン64によって、当該軸支ピン64を中心に回転可能にして孔形成面142上に支持されている。この構成で、糸継台車3が吸引空気流供給パイプ47の先端で吸引ダクト14の孔形成面142を摺るようにして図4の矢印の方向に移動すると、第3蓋部613の縁が吸引空気流供給パイプ47によって押され、シャッター弁60が時計回りに回転する。
【0047】
糸継台車3は、上記のように吸引空気流供給パイプ47を摺動させながら移動するので、並べて配置されるシャッター弁60を次々と回転させながら目的の紡績ユニット2まで走行する。シャッター弁60の外形輪郭は、吸引空気流供給パイプ47が吸引空気流供給孔141の位置を通過することで、吸引空気流供給パイプ47が第3蓋部613を押して図4の状態から90°回転させることができるように形成されている。従って、吸引空気流供給パイプ47が吸引空気流供給孔141の位置を完全に通過すると、図4の状態からシャッター弁60が回転して、第2蓋部612が吸引空気流供給孔141を再び塞ぐことができる。これにより、吸引ダクト14内に流入する外気を最小限に抑えることができる。
【0048】
一方、糸継台車3は、目的の紡績ユニット2まで到着すると、シャッター弁60が吸引空気流供給孔141を完全に開放した状態で(即ち、シャッター弁60を図4の状態から45°だけ回転させた状態で)停止することで、吸引空気流供給パイプ47と吸引空気流供給孔141とを接続して吸引空気流の供給を受けることができる。なお、前述のようにシャッター弁60は回転対称形に形成されているので、図とは反対側から吸引空気流供給パイプ47が近づいても良いのは勿論である(この場合、シャッター弁60は反時計回りに回転する)。
【0049】
次に、シャッター弁60の取付構造について図5を参照して説明する。図5(a)はシャッター弁60を吸引ダクト14に取り付ける前の様子を示した断面図、図5(b)は図4のA−A断面矢視図である。
【0050】
図5に示すように、シャッター弁60は膨らみ部が形成された面(孔閉鎖面)を孔形成面142に対面させて配置されるとともに、シャッター弁60の取付孔63にはスペーサ65が挿入される。このスペーサ65は、大径部と小径部とを有する段付き状に構成されており、当該スペーサ65の取付孔63に挿入される部分(小径部)の厚みt2は、シャッター弁60の膨らみ部の厚みt1より小さくなるように構成されている。ただし、前記小径部の厚みt2は、シャッター弁60の中央部の厚みよりは僅かに大きく設定されている。また、スペーサ65は軸支ピン64を挿通することができるように構成されており、この軸支ピン64がスペーサ65を介して吸引ダクト14に対してシャッター弁60を軸支する。スペーサ65及び軸支ピン64(即ち、シャッター弁60の回転中心)は、孔形成面142において吸引空気流供給孔141の近傍に配置される。
【0051】
そして、前記スペーサ65を用いてシャッター弁60を支持することにより、図5(b)に示すようにシャッター弁60が若干変形する。即ち、スペーサ65の小径部の厚みt2が膨らみ部の厚みt1より小さいので、当該スペーサ65の大径部によって、シャッター弁60の中央部(回転中心側)が孔形成面142に対して押圧されるようにして取り付けられることになる。この結果、具体的には、第2蓋部612と第4蓋部614が反るようにして若干変形する。以上の構成で、シャッター弁60自身の弾性力により、第2膨らみ部622及び第4膨らみ部624を吸引ダクト14の孔形成面142に対して押圧することができる。これにより、膨らみ部622,624と、孔形成面142と、の間の摩擦力によってシャッター弁60に回転抵抗を与え、シャッター弁60が勝手に回転しないように保持することができる。
【0052】
なお、図4の状態では、孔形成面142に対して押圧されることで回転抵抗を与えているのは、4つの膨らみ部のうち第2膨らみ部622と第4膨らみ部624のみである。即ち、図4に示すように、第1膨らみ部621は孔形成面142から図面上側にハミ出しているので、回転抵抗に関与していない。また、第3膨らみ部623は吸引空気流供給孔141の内部に入っているので、第3膨らみ部623と孔形成面142との間には摩擦抵抗が発生していない。
【0053】
次に、蓋部によって吸引空気流供給孔141を塞ぐための構成について説明する。蓋部によって吸引空気流供給孔141を塞ごうとする場合には当該蓋部と孔形成面142とが密着する必要があるが、膨らみ部によって蓋部の表面(孔閉鎖面)が孔形成面142から浮いた状態になってしまうと、吸引空気流供給孔141を隙間無く塞ぐことができない。そこで本実施形態では、図4及び図6に示すように、膨らみ部は、吸引空気流供給孔141よりも小さく形成されているとともに、蓋部が吸引空気流供給孔を塞いだときに吸引空気流供給孔141内に入るように形成されている。
【0054】
この点について図6を参照して説明する。図6は図4のB−B断面矢視図である。図に示すように、第3膨らみ部623は、吸引空気流供給孔141内に入ることができるように構成されている。なお、スペーサ65の小径部の厚みt2はシャッター弁60の中央部の厚みより大きく、また、当該中央部には第2膨らみ部622及び第4膨らみ部624による押圧の反力が作用するため、シャッター弁60の中央部と孔形成面142の間には僅かな隙間が形成される。しかしながら、吸引ダクト14に吸引空気流が作用している場合は、図6に示すように第3蓋部613が吸引空気流供給孔141に吸い付けられて若干変形することにより、第3蓋部613(孔閉鎖面)と孔形成面142とが密着して当該吸引空気流供給孔141を隙間無く塞ぐことができる。
【0055】
なお、吸引ダクト14に吸引空気流が作用していない場合は、前述のとおり、第2膨らみ部622及び第4膨らみ部624と、孔形成面142と、の間の摩擦抵抗が回転抵抗となってシャッター弁60の位置が保持されている。これにより、吸引空気流が作用していない場合でもシャッター弁60の位置を良好に保持することができる。一方、吸引ダクト14に吸引空気流が作用している場合は、上記の回転抵抗に加えて、第3蓋部613が孔形成面142に対して吸い付けられることにより、第3蓋部613と孔形成面142との間での摩擦抵抗が更に生じている。このように、2つの膨らみ部622,624と、第3蓋部613と、によってシャッター弁60に十分な回転抵抗が与えられているので、意に反して回転することがないようにシャッター弁60の位置を保持することができる。
【0056】
ところで、図4の状態から吸引空気流供給パイプ47によってシャッター弁60が回転されていくと、やがて、図7の拡大図に示すように第3膨らみ部623が吸引空気流供給孔141の縁を乗り越える。また、本実施形態では前述のように第1膨らみ部621が孔形成面142からハミ出しているが、シャッター弁60が回転すると、第3膨らみ部623が吸引空気流供給孔141の縁を乗り越えるとほぼ同時に第1膨らみ部621が孔形成面142に乗り上げる。このとき、シャッター弁60には、図4の状態で作用していた上記の回転抵抗に加えて、第3膨らみ部623が吸引空気流供給孔141の縁に乗り上げるのに抗する力(具体的には、吸引空気流供給孔141の部分での吸着力、シャッター弁60の弾性力、及び膨らみ部の摩擦抵抗力)と、第1膨らみ部621が孔形成面142に乗り上げるのに抗する力と、が更に加わる。このため、シャッター弁60の回転抵抗が過大となり易く、当該シャッター弁60をスムーズに回転させることが困難になってしまう。
【0057】
本実施形態では上記の課題を克服するため、膨らみ部が吸引空気流供給孔141の縁を乗り越えるとき(膨らみ部が吸引空気流供給孔141の縁に乗り上げる直前)に吸引空気流供給孔141を開放するように、シャッター弁60の外形輪郭が形成されている。具体的には、それぞれの蓋部には幅が狭いクビレ部分が形成されており、図7に示すように、シャッター弁60が回転して第3膨らみ部623が吸引空気流供給孔141の縁に接触したときに、第3蓋部613のクビレ部分によって吸引空気流供給孔141の一部が開放され、開放部80が形成されるように構成されている。
【0058】
このように吸引空気流供給孔141の一部を開放して吸引空気流をリリースすることで、第3蓋部613に掛かる吸引力を低減させ、第3蓋部613と孔形成面142との間に生じる摩擦抵抗を低減するとともに、第3膨らみ部623が吸引空気流供給孔141の縁を乗り越えるときの抵抗も低減することができる。発明者らの実験によれば、第3膨らみ部623が吸引空気流供給孔141を乗り越えるときのシャッター弁60の回転抵抗は、吸引空気流をリリースしなかった場合が3.8Kg・cmであったのに対し、吸引空気流をリリースした場合は2.6Kg・cmに抑えることができた。このように、吸引空気流をリリースすることにより、回転抵抗が過大となってしまうことを防ぎ、シャッター弁60をスムーズに回転させて装置の負担を低減することができる。なお、前記クビレ部分は対称形状とされているので、シャッター弁60が図7と反対の方向に回転した場合でも同様に開放部80を形成することができる。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態の精紡機1は、複数の紡績ユニット2と、前記複数の紡績ユニット2間を走行可能な糸継台車3と、吸引ダクト14と、シャッター弁60と、を備えている。吸引ダクト14においては、糸継台車3に吸引空気流を供給するための吸引空気流供給孔141が当該吸引ダクト14の孔形成面142に形成されている。シャッター弁60は、孔形成面142に回転可能に支持されるとともに、吸引空気流供給孔141を塞ぐことが可能な蓋部が放射状に複数形成されている。複数の蓋部のそれぞれにおいて、孔形成面142側を向く面に膨らみ部が形成される。前記シャッター弁60は、その中央部が孔形成面142に対して接近するように弾性変形して支持されている。
【0060】
この構成により、シャッター弁60自身を弾性変形させることで、膨らみ部を孔形成面142に対して押し当てることができる。これにより、膨らみ部と孔形成面142との間で摩擦による回転抵抗を生じさせ、シャッター弁60が自然に回転することを防止することができる。また、シャッター弁60自身の弾性力を利用して膨らみ部による押圧力を得る簡単な構成なので、例えばプランジャーや摩擦板などを新たに設ける必要がなく、低コストでシャッター弁60の位置を安定させる構成を実現することができる。
【0061】
また、本実施形態の精紡機1においては、シャッター弁60は、4つの蓋部が等間隔に配置されて略十字形に形成されている。
【0062】
即ち、シャッター弁60の形状を上記のように回転対称形とすることで、左右どちらに回転させても同じように蓋部によって吸引空気流供給孔141を塞ぐことができる。
【0063】
また、本実施形態の精紡機1においては、膨らみ部は、吸引空気流供給孔141よりも小さく形成されているとともに、蓋部が吸引空気流供給孔141を塞いだときに当該吸引空気流供給孔141の内側に入るように形成されている。
【0064】
これにより、蓋部によって隙間無く吸引空気流供給孔141を塞ぐことができる。
【0065】
また、本実施形態の精紡機1においては、シャッター弁60の外形輪郭は、吸引空気流供給孔141に入った膨らみ部が当該吸引空気流供給孔141の縁に接触したときに、当該シャッター弁60が吸引空気流供給孔141の一部を開放するように形成されている。
【0066】
即ち、膨らみ部が吸引空気流供給孔141の縁を乗り越えるときには大きな回転抵抗が発生するが、このときに吸引空気流供給孔141の一部を開放することにより吸引空気流による蓋部の吸引力を低減し、蓋部と孔形成面142との間の摩擦抵抗を低減することで、回転抵抗が過大となることを防止することができる。
【0067】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0068】
蓋部の数は4枚に限らず、3枚でも良いし、5枚以上としても良い。ただし、左右どちらにも回転できるようにするという観点からは、シャッター弁を回転対称な形状に構成することが好ましい。
【0069】
本実施形態では、図4の第1膨らみ部621が孔形成面142からハミ出るように構成したが、吸引ダクト14の上下幅を増やしてハミ出ないように構成することもできる。
【0070】
前記吸引空気流をリリースする構成は省略することができる。ただし、シャッター弁60の回転抵抗を小さくする観点からは吸引空気流のリリースを行うことが好ましい。また、クビレ部によって吸引空気流のリリースを行う構成に代えて、例えば蓋部の適宜位置に小さな貫通孔を形成することで吸引空気流のリリースを行うように変更することができる。
【0071】
糸継台車3は、吸引空気流供給パイプ47によってシャッター弁60を回転する構成に代えて、シャッター弁60を回転するための構成を別途設けても良い。
【0072】
また、糸継台車3は吸引空気流供給パイプ47を孔形成面142に対して常に摺動させる構成に代えて、例えば、通常時は吸引空気流供給パイプ47を孔形成面142から離間させておき、作業対象である紡績ユニット2の位置の直前で吸引空気流供給パイプ47と孔形成面142とを接触させる構成としても良い。
【0073】
吸引空気流を供給するための作業台車としては糸継台車に限らない。例えば、満巻になったパッケージを交換するための自動玉揚台車に吸引空気流を供給する構成にも、本発明を適用することができる。
【0074】
また、精紡機に限らず、例えば自動ワインダなどの他の繊維機械にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示した正面図。
【図2】精紡機の縦断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るシャッター弁の外観斜視図。
【図4】シャッター弁が孔形成面に取り付けられている様子を示す正面図。
【図5】(a)シャッター弁を吸引ダクトに取り付ける前の様子を示す断面図。(b)図4のA−A断面矢視図。
【図6】図4のB−B断面矢視図。
【図7】吸引空気流のリリースの様子を示した拡大図。
【符号の説明】
【0076】
1 精紡機(繊維機械)
2 紡績ユニット(糸処理ユニット)
3 糸継台車(作業台車)
14 吸引ダクト
60 シャッター弁
141 吸引空気流供給孔
142 孔形成面
611,612,613,614 蓋部
621,622,623,624 膨らみ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸処理ユニットと、
前記複数の糸処理ユニット間を走行可能な作業台車と、
前記作業台車に吸引空気流を供給するための吸引空気流供給孔が孔形成面に形成された吸引ダクトと、
前記吸引空気流供給孔を塞ぐことが可能な蓋部が放射状に複数形成されるとともに、前記孔形成面に回転可能に支持されるシャッター弁と、
を備え、
前記複数の蓋部のうち少なくとも何れか1つには、前記孔形成面側を向く面に膨らみ部が形成されるとともに、
前記シャッター弁は、その中央部が前記孔形成面に対して接近するように弾性変形して支持されていることを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維機械であって、
前記シャッター弁は、4つの前記蓋部が等間隔に配置されて略十字形に形成されていることを特徴とする繊維機械。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維機械であって、
前記膨らみ部は、前記吸引空気流供給孔よりも小さく形成されているとともに、前記蓋部が前記吸引空気流供給孔を塞いだときに当該吸引空気流供給孔の内側に入るように形成されていることを特徴とする繊維機械。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維機械であって、
前記シャッター弁の外形輪郭は、前記吸引空気流供給孔に入った前記膨らみ部が当該吸引空気流供給孔の縁に接触したときに、当該シャッター弁が前記吸引空気流供給孔の一部を開放するように形成されていることを特徴とする繊維機械。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の繊維機械において使用されることを特徴とするシャッター弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−77577(P2010−77577A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250750(P2008−250750)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】