説明

繊維状または粒子状の物質

【課題】
本発明は、空隙率を低下させることなく細孔径を変化させることが可能となり、分離材として使用して粒子等が目詰まりした場合にも効率的に洗浄することができる新規な繊維状または粒子状の物質を提供することをその課題とする。
【解決手段】
浸漬している水溶液のイオン強度を変化させたときの繊維径または粒子径の変化率が20%以下であり、かつ、液体の入口及び出口を有するカラムに充填して水溶液を流したときの圧力損失ΔP、ΔPが下式を満たすことを特徴とする繊維状または粒子状の物質。
ΔP/ΔP≧2
ここで、前記イオン強度変化前の水溶液を前記イオン強度変化前に流したときの圧力損失および前記イオン強度変化後の水溶液を前記イオン強度変化後に流したときの圧力損失のいずれか大きい一方の圧力損失がΔP、他方がΔP

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な物質であり、具体的には、繊維状または粒子状を有する物質、特に浸漬する液体の変化により繊維または粒子の形態が変化する繊維状または粒子状を有する物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維状を有する物質は、好ましくは不織布として、医療用、エアフィルター等の集塵用、液体浄化など水処理用の分離材として利用されてきた。このような不織布は、空気や水等から異物となる異物粒子を除去するために使用される。一方、粒子状を有する物質も、同様の用途に用いられることがあり、特に医療用途、水処理用途においては、液体の入口及び出口を有するカラムにビーズ状の物質が充填されて用いられる。
【0003】
ここで、濾過による異物粒子の除去を行う場合、除去効率を向上させるために、繊維間、または粒子間の空隙である細孔部分を、異物粒子の大きさに応じて小さくする必要がある。しかし、細孔部分を小さくすると目詰まりしやすくなるなどの問題があった。これに対し、これまで種々の取り組みがなされてきた。例えば、水処理分野では、流体を濾過するために不織布やビーズを使用しているが、目詰まりのために頻繁にフィルター交換や逆洗を行う必要がある。それに対し、温度変化等により繊維径が変化する反応性ゲルを用いることで、繊維径が大きい、すなわち空隙が小さい場合に分離処理を行い、目詰まりが生じてきた場合、繊維径を小さくする、すなわち空隙を大きくして、捕捉した異物粒子を洗浄する技術が開示されている(特許文献1)。しかし、この場合、繊維径が大きくなった場合、開孔部分が減少するという問題点があった。
【0004】
また、不織布の繊維の分散性に関する技術としては、エアフィルター分野で、不織布の1本1本の繊維を分散させることで、異物粒子の捕集効率を向上させる技術が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、紡糸条件などの製造方法を最適化することにより、不織布の繊維の分散性を向上させているので、製造後は、浸漬している液体の条件等を変更したとしても、糸の分散性を変化させることはできない。
【0005】
上記のように、従来技術では、不織布やビーズ等の形態で用いられる、異物粒子の捕捉材としての繊維状または粒子状の物質の空隙率を低下させずに細孔径を変化させることができなかった。
【特許文献1】特開2002−538949号公報
【特許文献2】特開2002−102332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、繊維状または粒子状の物質を水溶液に浸漬させ、そのイオン強度を変更することにより、空隙率を低下させることなくとも、細孔径を変化させることが可能であるという、新規な繊維状または粒子状の物質を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の構成を有する。
1.浸漬している水溶液のイオン強度を変化させたときの繊維径または粒子径の変化率が20%以下であり、かつ、液体の入口及び出口を有するカラムに充填して水溶液を流したときの圧力損失ΔP、ΔPが下式を満たすことを特徴とする繊維状または粒子状の物質。
【0008】
ΔP/ΔP≧2
ここで、前記イオン強度変化前の水溶液を流したときの圧力損失および前記イオン強度変化後の水溶液を流したときの圧力損失のいずれか大きい一方の圧力損失がΔP、他方がΔP
2.前記繊維径または粒子径の変化率が10%以下であることを特徴とする前記1記載の繊維状または粒子状の物質。
3.繊維状であり、かつ不織布形態を有することを特徴とする前記1または2記載の繊維状または粒子状の物質。
4.前記圧力損失の変化に可逆性があることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の繊維状または粒子状の物質。
5.前記イオン強度の変化が、水溶液に添加した塩濃度の変化によるものであることを特徴とする前記1〜4いずれかに記載の繊維状または粒子状の物質。
6.前記塩が塩化ナトリウムであることを特徴とする前記5記載の繊維状または粒子状の物質。
7.水不溶性担体に4級アンモニウム塩を結合してなる前記1〜6のいずれかに記載の繊維状または粒子状の物質。
8.N−メチロール−α−クロルアセトアミドおよび硫酸を含む反応液の温度を5℃以下の状態としてポリスチレンを含む繊維または粒子に浸漬させて得られる繊維状または粒子状の物質に、アミノ基を有する官能基を導入して得ることを特徴とする繊維状または粒子状の物質の製造方法。
9.繊維状であり、かつ不織布形態を有することを特徴とする前記8に記載の繊維状または粒子状の物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維状または粒子状の物質は、異物粒子を分離する目的等に用いて異物粒子等による目詰まりが生じた場合には、浸漬している水溶液のイオン強度を変更することにより繊維または粒子の分散性を変化させることが可能である。従って、異物粒子等の透過性を向上することが可能であることから、異物粒子等が目詰まりした場合にも効率的に洗浄することができる。さらに、繊維径または粒子径の著しい変化を伴うものではないため、開孔部の体積を大きく減少させることなく、その透過特性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、上述の課題解決のために、浸漬条件を変化させたときに、著しい繊維径または粒子径の変化を伴うことなく細孔径を変化させることができる繊維状または粒子状の物質に関するものである。
【0011】
本発明では、空隙孔径の変化は、主として繊維状または粒子状の物質の分散状態が変化することによって生じる。すなわち、繊維状または粒子状の物質の繊維が束状に集まっている場合やビーズ形態の粒子が凝集している場合、は、空隙孔径が大きくなり、繊維や粒子が分散している場合は、空隙孔径が小さくなる。
【0012】
本発明において、繊維状または粒子状の物質の分散度を変化させるために繊維状または粒子状の物質に浸漬させる液体として、水またはこれらに塩、高分子などが添加された溶液がある。中でも繊維状または粒子状の物質素材を溶解しないものであるものが好ましい。なお、分散度とは、繊維や粒子が離散している度合いであり、10本または10個の繊維または粒子が集まっている時より、2本または2個の繊維または粒子が集まっている時の方が分散度は高いとみなす。
【0013】
繊維状または粒子状の物質を液体に浸漬させた上で、繊維または粒子の分散状態を変化させる方法としては、浸漬する液体の組成を変えてイオン強度等を変化させること、液体の温度を変化させることなどが挙げられるが、本発明においては、液体のイオン強度を変化させる方法を採る。このような手段がどのようにして繊維または粒子の分散度を変化させるのかのメカニズムは定かではないが、繊維または粒子の有する電荷の変化、すなわち繊維または粒子の表面状態の変化により、繊維または粒子間の引力、反発力といった相互作用の変化が起こることが原因でないかと考える。
【0014】
イオン強度の変化は、例えば、水等に添加された溶質の濃度を変化させることにより可能である。イオン強度の変化が大きいほど、大きく圧力損失を変化させることができるが、多すぎると高コストとなるため、用途により適正な濃度を選択する必要がある。溶質の濃度変化によりイオン強度を変化させる場合、その濃度変化は、0.1wt%以上が好ましく、1wt%以上がより好ましく、10wt%以上が更に好ましい。
【0015】
水に添加する塩としては塩素イオンなどのハロゲンイオンを含む塩などが挙げられるが、特に塩化ナトリウムは、安全性、汎用性の観点から好ましい。
【0016】
本発明において、イオン強度Iは、各イオンのモル濃度と電価の2乗の積を加え合わせ、1/2にしたものであり、以下の式にて表される。
【0017】
【数1】

【0018】
ここで、ci:電解液における各イオンのモル濃度(mol/L) zi:イオンの電価
上記液体のイオン強度を変化させて繊維または粒子の分散度を変化させる場合、繊維径または粒子径が変化しないことが好ましい。なぜならば、繊維径または粒子径が変化して大きくなりすぎると、繊維状または粒子状の物質に対する粒子等の目詰まりが起こりやすくなり、逆に繊維径または粒子径が変化して小さくなりすぎると、繊維の場合は強度が低くなり、繊維が破損しやすくなり、粒子の場合は小さすぎて取り扱いにくくなるからである。従って、繊維径または粒子径の変化率は、浸漬している液体のイオン強度を変化させる前の20wt%以下更に好ましくは10wt%以下であることが求められる。
【0019】
繊維径または粒子径の測定としては、繊維状または粒子状の物質を水溶液に浸漬した状態で、マイクロスコープや光学顕微鏡で観察測量する方法があげられる。このとき、繊維状または粒子状の物質を水溶液に十分浸漬し、ランダムに選んだ繊維または粒子100本(または個)以上の直径を測定し、その平均値を求める。イオン強度を変化させる前の繊維径または粒子径はイオン強度を変化させる前の水溶液に浸漬し、イオン強度を変化させる後の繊維径または粒子径はイオン強度を変化させる後の水溶液に浸漬する。また、変化率は、以下の式にて求める。
【0020】
(R−R)/R×100(%)
ここで、R、Rはともにイオン強度変化前、後のいずれかの繊維径または粒子径を表し、R≧Rである。
【0021】
さらに、本発明の繊維状または粒子状の物質は、例えば、水処理のために使用する場合、水を濾過処理するに従って、微粒子等が繊維状または粒子状の物質に目詰まりする。そこで、目詰まりした状態で処理する水溶液のイオン強度を変化させる、具体的には、食塩水等の水溶液に切り替えることで、繊維または粒子の分散状態が変化し、目詰まりしている粒子等を洗い流して目詰まりを解消することができる。このような繊維状または粒子状の物質の繊維または粒子の分散状態の変化は、繊維状または粒子状の物質通過前後の処理液体の圧力損失を測定することにより調べることができる。すなわち、繊維が束状に集まっている場合や粒子が凝集している場合は、空隙の孔径が大きくなる結果、圧力損失は小さくなり、逆に繊維または粒子が分散している場合は圧力損失が大きくなる。すなわち、液体種類を切り替えたとき等のようにイオン強度を変化させたときのかかる圧力損失の変化が大きいほど、繊維状または粒子状の物質を効率的に洗浄することが可能となる。例えば、圧力損失の変化率が2倍以上であれば、同圧力で2倍の洗浄液を流すことが可能となる。ため、洗浄効率が2倍となるため、好ましい。かかる圧力損失の変化は10倍以上であることがより好ましく、100倍以上であれば更に好ましい。圧力損失の変化は、イオン強度の変化によりコントロール可能である。
【0022】
本発明において、圧力損失の測定は、繊維状または粒子状の物質を液体の入口と出口を有するカラムに充填し、ポンプにて、カラムに液体を送液したときのカラム前後の圧力を測定することによって行う。繊維状または粒子状の物質の充填時の嵩密度その他の条件は、流体処理等に実際に使用するときと同等とすることが望ましい。繊維状または粒子状の物質の圧力損失ΔPは次のように算出する。
【0023】
ΔP=Pin−Pout
ここで、Pin:カラムの入口側の圧力、Pout:カラムの出口側の圧力
ここで、測定されたΔPの内、イオン強度変化前の水溶液をイオン強度変化前に流したときの圧力損失および該イオン強度変化後の水溶液を該イオン強度変化後に流したときの圧力損失のいずれか大きい一方の圧力損失がΔP、他方がΔPであるとして、圧力損失の変化率をΔP/ΔPにより求める。
【0024】
本発明の繊維状または粒子状の物質は、液体を水等の元の液体に戻すことにより、繰り返し使用することができるもの、すなわち、水溶液のイオン強度の変化による分散度の変化に可逆性があるようなものであることが望ましい。
【0025】
本発明の繊維状または粒子状の物質は、水処理等の液体を浄化する用途などに用いることができる。また、液体より所望の粒子を捕集し、浸漬条件を変化させて回収するなどの用途にも用いることができる。上記は、本発明の繊維状または粒子状の物質の用途の一例であり、これらに限定されるものではない。
【0026】
また、混合物を含む液体から、大きなサイズの物質を得たい場合、濾過を行い、繊維状または粒子状の物質に大きなサイズの物質を捕捉し、捕捉した後に、例えば液体を食塩水やアルコール等に変え、空隙孔径を大きくし、捕捉されている大きな物質を回収することができる。さらに、分散度の変化に可逆性がある場合は、液体を水に戻すことにより、繰り返し使用することができる。
【0027】
本発明において、繊維状または粒子状の物質の素材としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの公知のポリマーを使用することができる。これらのポリマーの単独糸であっても、芯鞘型、海島型またはサイドバイサイド型の複合糸であってもかまわない。なお、繊維または粒子の断面形状は円形断面であっても、中空状であっても、それ以外の異形断面であってもかまわない。繊維状または粒子状の物質の製造方法としては、公知の繊維状または粒子状の物質の製造方法、例えば湿式法、カーディング法、エアレイ法、スパンボンド法、メルトブロー法等を用いることができる。
【0028】
また、かかる繊維状または粒子状の物質を構成する繊維または粒子の直径は、目的とする除去対象粒子を考慮し決められるべきものである。たとえば、10μm程度の異物粒子の除去のためには4μm以上であることが好ましく、より好ましくは5μm〜10μmのものが使用される。これ以外に、これより太い繊維または大きな粒子を同時に混合した繊維状または粒子状の物質とすることもできる。0.5〜4μmの繊維または粒子を用いれば5μm程度の異物粒子の除去にも好適に使える。さらに、0.5μm未満の繊維または粒子を用いれば、更に微小な異物粒子の除去効率を上げることが可能となる。
【0029】
ここで示した直径は、円柱状のもののみ適用される物ではなく、たとえば楕円や矩形、多角形の物にも適用される。この場合、最外層を結んでできた図形の面積を求め、その面積に相当する円の直径を求める。ただし、5つの突起部分が存在する星形を例にとると、その5つの頂点を結ぶ図形を考え、その面積を算出し、対応する円の直径を本発明で言う直径とする。
【0030】
本発明において、不織布は、ネット等の他の素材と積層構造を構成して用いることができる。例えば、ネットの素材は、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの公知のポリマーを使用することができる。後述するように、不織布と一体化した後に官能基導入のための有機合成反応に供する場合は、用いる溶媒の種類や、反応温度に応じて適宜素材を選択すればよい。特に、耐熱性の面からは、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0031】
ネットを用いることで、不織布に形体保持性を付与することができ、嵩密度が小さくても形体の安定した不織布とすることができる。なお、ネット自体が圧損に影響を与えるので、ネットはなるべく開孔部が大きい方が望ましい。このためには100mm中に、10mm以上空隙を有することが望ましく、特に好ましくは、3mm角程度の開孔部を有すると、形体保持性も良好となり、好適に使用できる。
【0032】
不織布の厚みについては、厚みは0.1mm以上10cm以下が取り扱い上好ましく、0.5mm以上が更に好ましい。
【0033】
本発明における不織布の嵩密度は、0.03〜0.30g/cmであるものが使用される。嵩密度を大きくすると空隙(細孔)が小さくなり、除去能力が向上するが、目詰まりしやすくなるため、前記の範囲が好ましい。
【0034】
以下、本発明の繊維状または粒子状の物質の製造方法の一例として不織布の例を示す。本発明の不織布は、例えば以下に示す官能基を導入する際の条件を最適化することで製造することが可能である。不織布を形成する繊維は、特に好ましくは芯がポリプロピレン、鞘がポリスチレンなどの多芯海島型複合繊維からつくられる。素材の組み合わせは、製糸性が良好であれば、いかなる組み合わせも実現できるが、特に鞘にポリスチレンを用いると鞘構造に官能基導入が行いやすくなるため、特に好ましい。この場合、アミドメチル化法を適用することで、アミノ基を有する官能基を簡便に導入できる。このアミドメチル化の際、硫酸、N−メチロール−α−クロルアセトアミド(以下、NMCAと略す)と、ニトロベンゼン、パラホルムアルデヒド等を10℃以下で混合したものを撹拌し、パラホルムアルデヒド等とNMCAをニトロベンゼンと硫酸の混合物等に完全に溶解させたNMCA化反応液にフェルトを浸漬し、反応を行うが、その反応液を5℃以下に冷却し、反応初期の温度を5℃以下とすることで、繊維分散性の異なる不織布を製造することができる。従来から、環状ペプチド(ポリミキシンB、ポリミキシンS)、ポリエチレンイミン、4級アンモニウム塩などの水不溶性担体への導入が行われている。かかるアミノ基としては、その具体例として、アミノ基を持つ環状ペプチド残基、ポリアルキレンイミン残基、ベンジルアミノ基、1級、2級、3級のアルキルアミノ基を使用することができる。そのなかでも、好ましくはアミノ基を持つ環状ペプチド残基、ポリアルキレイミン残基、さらに好ましくはアミノ基を持つ環状ペプチド残基が、生理活性物質に対する吸着性能が高くてよい。
【0035】
より具体的には、アミノ基をもつ環状ペプチドは、2個以上50個以下、より好ましくは4個以上16個以下のアミノ酸からなる環状ペプチドであって、その側鎖に1個以上のアミノ基をもつものであれば良く、特に制限はない。その具体例としては、ポリミキシンB、ポリミキシンE、コリスチン、グラミシジンSあるいはこれらのアルキルあるいはアシル誘導体などを使用することができる。
【0036】
また、本発明で言うポリアルキレイミン残基とは、ポリエチレンイミン、ポリヘキサメチレンイミンおよびポリ(エチレンイミン・デカメチレンイミン)共重合体で代表されるポリアルキレンイミンまたはその窒素原子の一部を、n−ヘキシルブロマイド、n−デカニルブロマイド、n−ステアリルブロマイドなどで代表されるハロゲン化炭化水素の単独または混合物でアルキル化したもの、または、酪酸、バレイン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、レノレイン酸、ステアリル酸などの脂肪酸でアシル化したものを意味する。
【実施例】
【0037】
(カラム圧力損失の測定方法)
図1のようにチューブ、ポンプ、圧力計、カラムを接続し、回路を作成する。供給液を十分量用意し、室温(20℃)にて、6mL/minの流量で送液する。カラムやチューブに気泡がある場合は、十分に泡抜きする。6mL/minの流量にてカラムに5分程度送液し、カラム入口側圧力P1in、出口側圧力P1outの測定値が安定した後、圧力を測定する。次に不織布の入っていないカラムを用いて同様に圧力を測定する。不織布の圧力損失ΔPは次のように算出する。
【0038】
ΔP=Pin−Pout
ここで、Pin:カラムの入口側の圧力、Pout:カラムの出口側の圧力
(繊維径または粒子径の測定)
繊維径または粒子径の測定は、ハイロックス社製デジタルマイクロスコープ KH-3000VDを使用して行う。繊維状または粒子状の物質が浸漬した水溶液のイオン強度を変更による変化率を求めるための繊維径または粒子径の測定は、繊維状または粒子状の物質を水溶液に十分浸漬し、ランダムに選んだ繊維または粒子100本以上の直径を測定し、その平均値を求める。イオン強度を変化させる前の繊維径または粒子径はイオン強度を変化させる前の水溶液に浸漬し、イオン強度を変化させる後の繊維径または粒子径はイオン強度を変化させる後の水溶液に浸漬する。また、変化率は、以下の式にて求める。
【0039】
(R−R)/R×100(%)
ここで、R、Rはともにイオン強度変化前、後のいずれかの繊維径または粒子径を表し、R≧Rである。
(フェルトを浸漬した溶液の振とう)
シーソー型の振とう機(BIO CRAFT社、BC−700型)を用いて行った。
[実施例1]
36島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合によりなるものを次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
島の芯成分;ポリプロピレン
島の鞘成分;ポリスチレン90wt%、ポリプロピレン10wt%
海成分;エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3wt%含む共重合ポリエステル
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=42:43:15
この繊維85wt%と、直径20μmのポリプロピレン繊維15wt%からなる不織布(目付150g/m)を作製した。次に、この不織布を90℃、3wt%の水酸化ナトリウム水溶液で処理して海成分である「エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3wt%含む共重合ポリエステル」を溶解することによって、芯鞘繊維の直径が5μmのフェルトを作製した。
【0040】
次に、ニトロベンゼン46wt%、硫酸46wt%、パラホルムアルデヒド1wt%、NMCA7wt%を10℃以下で混合したものを撹拌し、パラホルムアルデヒドとNMCAをニトロベンゼンと硫酸の混合物に完全に溶解させ、NMCA化反応液を調製した。このNMCA化反応液を5℃に冷却し、フェルト1gに対し、約40mlの固液比でかかるNMCA化反応液を加え、15〜20℃の水浴中で反応液を15〜20℃に保ったまま2時間反応させた。この2時間の間に10分間隔でフェルトと反応液を手で撹拌した。反応液からフェルトを引き上げ、上記NMCA反応液と同量のニトロベンゼンに浸漬し、振とう機により40往復/分で30分間振とうした。続いてフェルトを引き上げ、メタノールに浸漬し、振とう機により40往復/分で30分間振とうする、というNMCA化後のメタノール洗浄を計7回繰り返し、NMCA化フェルトを得た。
【0041】
続いて、ジメチルスルホオキシド(DMSO)71wt%、メタノール22wt%、N,N−ジメチルオクチルアミン(DMOA)6wt%、ヨウ化カリウム1wt%を混合したものを攪拌し、DMOA化反応液を調製した。次に、上記NMCA化反応液と同量のDMOA化反応液を採り、これを50℃まで昇温し、上記NMCA化フェルトを浸漬し、50℃の温浴中で4時間反応させた。反応液からフェルトを引き上げ、上記NMCA反応液と同量のメタノールに浸漬、振とう機により40往復/分で30分間振とうする、というDMOA化後のメタノール洗浄を計7回繰り返した。続いてフェルトを引き上げ、NMCA化反応液と同量の水に浸漬、振とう機により40往復/分で30分間振とうする、という水洗浄を計3回数繰り返し、DMOA化フェルトを得た。
【0042】
続いて、内直径1cm、長さ1.2cmのポリプロピレン製円筒形カラムに1cmの直径に打ち抜いた円形の上記DMOA化フェルト6枚をカラム底面に合うように重ねて充填して、カラムを調製した。
【0043】
図1のような回路を作成し、流量6mL/minにて純水を流し、カラム入口の圧力と出口の圧力を測定した。カラム入口の圧力は305mmHg、出口の圧力は−5mmHgであり、差圧は310mmHgであった。
【0044】
次に、上記と同様の方法で生理食塩水を流し、差圧を測定した。カラム入口の圧力は、1mmHg、出口の圧力は0mmHgであり、差圧は1mmHgであった。
【0045】
以上の結果より、カラム内の不織布の差圧、すなわち流体の圧力損失は、純水の場合310mmHgであったが、生理食塩水の場合1mmHgと、変化率は310倍であった。
【0046】
また、マイクロスコープで観察した結果、繊維径は、純水浸漬時にはポリプロピレン繊維18.5μm、芯鞘繊維3.6μmであり、生理食塩水浸漬時にはポリプロピレン繊維18.6μm、芯鞘繊維3.8μmと、繊維径の変化率はポリプロピレン繊維で0.5%、芯鞘繊維で5.6%であった。
[比較例1]
DMOA化フェルトを作成する際、NMCA化反応液を冷却せず、20℃にした状態でフェルトに加えたこと以外は、実施例1と同様の条件にてDMOA化フェルトを得た。
【0047】
実施例1と同様に図1のような回路を作成し、同一の条件にて純水水を流し、カラム入口の圧力と出口の圧力を測定した。カラム入口の圧力は4mmHg、出口の圧力は−4mmHgであり、差圧は8mmHgであった。
【0048】
次に、上記と同様の方法で生理食塩水を流し、差圧を測定した。カラム入口の圧力は3mmHg、出口の圧力は−6mmHgであり、差圧は9mmHgであった。
【0049】
以上の結果より、カラム内の不織布の差圧、すなわち流体の圧力損失は、純水の場合8mmHgであり、生理食塩水の場合9mmHgであり、変化率は1.11倍であった。
【0050】
また、マイクロスコープで観察した結果、繊維径は、純水浸漬時はポリプロピレン繊維18.5μm、芯鞘繊維3.6μmであり、生理食塩水浸漬時にはポリプロピレン繊維18.6μm、芯鞘繊維3.8μmと、繊維径の変化率はポリプロピレン繊維で0.5%、芯鞘繊維で5.6%であった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】カラム圧力損失の測定方法
【符号の説明】
【0052】
1 カラム
2 入口側圧力計
3 出口側圧力計
4 ポンプ
5 供給液
6 廃液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬している水溶液のイオン強度を変化させたときの繊維径または粒子径の変化率が20%以下であり、かつ、液体の入口及び出口を有するカラムに充填して水溶液を流したときの圧力損失ΔP、ΔPが下式を満たすことを特徴とする繊維状または粒子状の物質。
ΔP/ΔP≧2
ここで、前記イオン強度変化前の水溶液を流したときの圧力損失および前記イオン強度変化後の水溶液を流したときの圧力損失のいずれか大きい一方の圧力損失がΔP、他方がΔP
【請求項2】
前記繊維径または粒子径の変化率が10%以下であることを特徴とする請求項1記載の繊維状または粒子状の物質。
【請求項3】
繊維状であり、かつ不織布形態を有することを特徴とする請求項1または2記載の繊維状または粒子状の物質。
【請求項4】
前記圧力損失の変化に可逆性があることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維状または粒子状の物質。
【請求項5】
前記イオン強度の変化が、水溶液に添加した塩濃度の変化によるものであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の繊維状または粒子状の物質。
【請求項6】
前記塩が塩化ナトリウムであることを特徴とする請求項5記載の繊維状または粒子状の物質。
【請求項7】
水不溶性担体に4級アンモニウム塩を結合してなる請求項1〜6のいずれかに記載の繊維状または粒子状の物質。
【請求項8】
N−メチロール−α−クロルアセトアミドおよび硫酸を含む反応液の温度を5℃以下の状態としてポリスチレンを含む繊維または粒子に浸漬させて得られる繊維状または粒子状の物質に、アミノ基を有する官能基を導入して得ることを特徴とする繊維状または粒子状の物質の製造方法。
【請求項9】
繊維状であり、かつ不織布形態を有することを特徴とする請求項8に記載の繊維状または粒子状の物質の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−144341(P2008−144341A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288127(P2007−288127)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】