説明

繊維製補強材及び、繊維製補強材を使用した建物躯体開口部の補強構造

【課題】改修工事などで、躯体に開口部を開けるときに、安価に躯体のヒビ割れ拡大を抑える。
【解決手段】環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸2と、略半径方向へ伸びて並列する繊維糸3とを重ね合わせ、両者を一体化して環状若しくは円弧状の繊維製補強材1とする。コンクリート建物躯体に開口した開口部4周囲の壁5面に、繊維製補強材1を接着性材料によって接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物躯体開口部を補強するための繊維製補強材と、それを使用した補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上水道、下水道、ガス管などを建物内に配管する場合、建物の設計時に予め配管経路を計画しておき、その途中に壁などの躯体がある場合は、配管を通すための開口部も設計しておくことが通常である。
そのような開口部の周囲には、予め鉄筋を配筋することで、建物開口部から周囲に向けて過大な亀裂(ヒビ)が入らないようにする対策が講じられている。
しかしながら、建築後の改修工事で、雑壁、耐震壁、梁などに開口部を新たに設ける必要が生じることがある。
このような開口部を建築後に開口する場合、当然ながら開口部の周囲には、開口部補強のための鉄筋は配筋していない。
【0003】
このようなために、従来は特許第3258569号に記載された発明のような補強手段が採用されていた。これを第8図に示す。
非構造部材に対しては、開口部aの周りに繊維を織って帯状材料にした補強材bを建物躯体c表面に付着させ、その繊維にエポキシ樹脂などの接着性材料を浸み込ませて、建物躯体cの周りに接着させる。
当該帯状の補強材bは、真っ直ぐな帯状材料であるため、図8のように四枚の補強材bによって開口部a周囲を囲み、端部同士を重ね合わせて付着させ、全体を一体化した補強材料とするものである。
【0004】
このような補強手段の課題は、その施工手間がかかることであり、施工コストもかなり高価となっていたことである。
また、図8のような円形の開口部を直線状の補強材で囲もうとすると、補強材は円形の接線上に位置するよう貼り付けるため、どうしても一部は開口部から離隔して囲むことになってしまい、できる限り開口部の近くを補強することが有効であるのにかかわらず、補強としては充分ではなかった。
方形の開口部にあっては、最も亀裂が入り易い隅角部近傍を重点的に補強するのが好ましいが、亀裂を生じさせようとする力を有効に押えることが可能な補強材がなかった。
また、開口部の大きさをくり抜いた一枚ものの織物状の補強材料を、建物躯体表面に張り付けることも採用されているが、補強材料の繊維の方向が必ずしも亀裂しようとする方向に対してそれを抑えるような方向とならないため、補強材料として有効に機能しないことがあった。
【特許文献1】特許第3258569号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、補強工事が煩雑で、施工コストが高くなることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる繊維製補強材は、
環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸を、接着材料によって接着、若しくは糸などによって縫合して一体化してなるものである。
【0007】
本発明にかかる他の繊維製補強材は、
環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸と、
略半径方向へ伸びて並列する繊維糸とを重ね合わせ、両者を一体化して環状若しくは円弧状とするものである。
【0008】
また、本発明にかかる他の繊維製補強材は、
円弧状の繊維製補強材は、環状の補強材を半径方向で切断したものである。
【0009】
また、本発明にかかる建物躯体開口部の補強構造は、
セメント系硬化材から成る建物躯体に開口した開口部周囲の壁面に、開口部を囲むよう配置する環状若しくは円弧状の繊維製補強材であって、
環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸と、
略半径方向へ伸びて並列する繊維糸とを重ね合わせ、両者を一体化して環状若しくは円弧状の繊維製補強材と成し、
この繊維製補強材を前記開口部周囲の躯体壁面に、接着性材料によって接着するものである。
【0010】
また、本発明にかかる他の建物躯体開口部の補強構造は、
セメント系硬化材から成る建物躯体に開口した開口部周囲の壁面に、開口部を囲むよう配置する環状若しくは円弧状の繊維製補強材であって、
環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸と、
略半径方向へ伸びて並列する繊維糸とを重ね合わせ、両者を一体化して環状若しくは円弧状の繊維製補強材と成し、
この繊維製補強材を前記開口部周囲の躯体壁面に、接着性材料によって接着し、
周囲に鍔状のリブを有する筒状部材を、前記躯体開口部に挿入し、
当該リブを前記繊維製補強材に接着させ、
躯体とリブとの間に繊維製補強材を挟むものである。
【0011】
更に、他の建物躯体開口部の補強構造は、
前記筒状部材を、軸方向若しくは軸直角方向に分割するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のような構成を有し、以下のうち少なくともひとつの効果を達成するものである。
<a>繊維製補強材は、環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸によって、環状若しくは円弧状とするものであるため、開口部から周囲に向けて亀裂(ヒビ)を生じさせようとする力を周方向に連続する繊維糸によって抑え、開口部から周囲へ派生する過大なヒビ割れを有効に抑えることが出来る。
<b>更に別の繊維製補強材は、環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸と略半径方向へ伸びて並列する繊維糸とを重ね合わせ、両者を一体化して環状若しくは円弧状とするものであるため、亀裂(ヒビ)を生じさせようとする力を周方向に連続する繊維糸によって抑え、さらにその周方向の糸を半径方向へ伸びる繊維糸によって補強して一体化するため、過大なヒビ割れをより有効に抑えることが出来る。
<c>開口部が円形であれば、環状の繊維製補強材を開口部外周に一枚接着すればよく、開口部の出来る限り近くを囲むように補強材を接着でき、施工が著しく簡易化されて、施工コストは大幅に安価となる。
<d>開口部が円形以外の方形や多角形であれば、その開口部の隅角部の外周に円弧形状の補強材を接着することにより、ヒビ割れの拡大を抑えることが可能となる。
<e>周囲に鍔状のリブを有する筒状部材を開口部に通し、リブを補強材に接着して、躯体とリブとの間に挟み込むことにより、補強材を躯体により密着させことができ、補強材による補強効果を向上でき、さらに筒状部材を設けることで開口部自体の補強効果も有する。
<f>筒状部材を軸方向、若しくは軸直角方向に分割することにより、施工を簡易化できる。
【実施例1】
【0013】
以下、図に示す実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
<a>繊維製補強材
繊維製補強材1は、環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸2と、ほぼ半径方向へ伸びて並列する繊維糸3を重ね合わせ、一体化したものである。
繊維糸2・3は、アラミド繊維などの合成樹脂繊維や、炭素繊維などの様々な繊維を束ねたマルチフィラメントが採用可能である。
この繊維糸2を、例えば環状となるよう螺旋状にトグロを巻くようにする。(図6)
巻き上げた繊維糸2は、隣り合う繊維糸2が並列するように、隙間なく並べるようにする。
或いは、輪にした繊維糸2を同心円状に、内側から外側へ連続して配列してもよい。
【0014】
この繊維糸2に重ね合わせるように、半径方向へ伸びて並列する繊維糸3を配する。
半径方向へ伸びるとは、前記した環状の繊維糸2の中心から、半径方向へ伸びる線状に位置することを意味する。
図7の実施例では、環状に配した繊維糸2の幅方向に、繊維糸3を往復させて、半径方向へ伸びるように配してある。
この他、多数本の繊維糸3を、環状の繊維糸2の幅方向に中心から放射状になるよう並べることも出来る。
このように配した繊維糸2・3を一体化する。
一体化するには、繊維糸2・3を、更に細い糸によって縫い合わせることも可能であるし、エポキシ樹脂などを繊維に浸み込ませて、接着することにより一体化することも可能である。
【0015】
<b>施工
以上のような補強材1を使用して、開口部4の補強工事を施工した場合について説明する。
建物躯体である壁5に円形の開口部4を開ける。
この開口部4の表面の周囲の壁5の表裏面に、それぞれ繊維製補強材1を接着する。
接着するには、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性で強固な接着性を有する材料が好適であり、これを繊維糸2・3に浸み込ませて、壁5面に接着する。
【0016】
<c>ヒビ拡大防止
繊維製補強材1は、円周方向に連続する繊維糸2及び繊維糸3を有しているため、収縮ヒビ割れ、応力ヒビ割れが拡大するのを抑えることになる。
ここで、対象となる単位引張外力は、コンクリートの圧縮強度が、fck=24N/mm2、対象壁厚がwt=150mmであって、補強材の繊維の弾性率Ef=118×103N/mm2であるとき、次の数式1で求められる。
【0017】
【数1】

【0018】
繊維製補強材1の歪をゼロスパンで0.7%に収めるとすると、繊維製補強材1の許容応力度は次の数式2で求められる。
【0019】
【数2】

【0020】
片側の必要繊維量は次ぎの数式3で求められる。
【0021】
【数3】

【0022】
繊維製補強材1の剥離破壊応力は次の数式4によって求められる。
【0023】
【数4】

【0024】
繊維製補強材1の許容応力度は、前記したように826N/mm2であって、繊維製補強材1の剥離破壊応力が782N/mm2であるから、補強材1は剥離を開始し、ゼロスパンが緩和され、釣り合うことになる。
【実施例2】
【0025】
以上の実施例は、環状に並列する繊維糸2と半径方向へ伸びて並列する繊維糸3とを重ね合わせて、両者を一体化した繊維製補強材1を使用した場合の実施例であるが、繊維糸3を使用せず、環状に並列する繊維糸2のみを使用した繊維製補強材1を使用することも可能である。
繊維糸2は、エポキシ樹脂などの接着材料によって全体を一体化したり、或いは細い糸によって縫合して一体化してもよい。
その使用方法については、実施例1に記載したのと同様である。
【実施例3】
【0026】
図5に示すのは、繊維製補強材1を半径方向で切断したものである。
実施例では、円環状の繊維製補強材1を半径方向に90度離隔して切断したもので、この円環の四分の三の円弧形状の繊維製補強材1を、四角形の開口部4の最も亀裂が集中する四隅の外周にその切り欠き部を合わせてそれぞれ接着したものである。
環状の繊維製補強材1は、半分や四分の一に分割して使用することも可能である。
【実施例4】
【0027】
図3に示すのは、筒状の部材6の周囲に鍔状のリブ7を設け、この筒状部材6を開口部4に通した実施例である。
筒状部材6の材質は特に限定するものではないが、鋼管である事が望ましい。
このとき、筒状部材6のリブ7を覆うように繊維製補強材1を密着させるものである。繊維製補強材1によってリブ7を押えることにより、開口部に生じる圧縮や引張りなどの力を筒状部材6からリブ7に伝達され、繊維製補強材1を通じて壁体5に戻すものである。
また、筒状部材6が鋼管であれば、筒状部材6による開口部4の補強効果が期待できる。
筒状部材6は円筒に限らず、方形角パイプを採用することもある。
また、筒状部材6は、軸方向若しくは軸直角方向に分割したものも採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】開口部外周に繊維製補強材を接着する状態の斜視図
【図2】開口部外周に繊維製補強材を接着した状態の正面図
【図3】リブ付きの筒状部材を使用した状態の斜視図
【図4】図1・図2に示す開口部の補強構造の断面図
【図5】方形の開口部に円弧状繊維製補強材を接着した状態の正面図
【図6】環状の繊維製補強材の繊維糸の巻きつけ方向の平面図
【図7】繊維製補強材の一部斜視図
【図8】従来の開口部の補強状態の正面図
【符号の説明】
【0029】
1:繊維製補強材
2:繊維糸
3:繊維糸
4:開口部
5:壁
6:筒状部材
7:リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸を、接着材料によって接着、若しくは糸などによって縫合して一体化してなる
繊維製補強材。
【請求項2】
環若しくは円弧の略円周方向に連続して並列する繊維糸と、
略半径方向へ伸びて並列する繊維糸とを重ね合わせ、両者を接着材料によって接着、若しくは糸などによって縫合して一体化して、
環状若しくは円弧状の繊維製補強材としてなる
繊維製補強材
【請求項3】
円弧状の繊維製補強材は、環状の補強材を半径方向で切断したものであることを特徴とする
請求項1又は2記載の繊維製補強材。
【請求項4】
セメント系硬化材から成る建物躯体に開口した開口部周囲の壁面に、開口部を囲むよう配置する請求項1乃至3のいずれか1項に記載された繊維製補強材を、
前記開口部周囲の躯体壁面に、接着性材料によって接着したことを特徴とする
建物躯体開口部の補強構造。
【請求項5】
セメント系硬化材から成る建物躯体に開口した開口部周囲の壁面に、開口部を囲むよう配置する請求項1乃至3のいずれか1項に記載された繊維製補強材を、
前記開口部周囲の躯体壁面に、接着性材料によって接着し、
周囲に鍔状のリブを有する筒状部材を、前記躯体開口部に挿入し、
当該リブを前記繊維製補強材に接着させ、
躯体とリブとの間に繊維製補強材を挟みこんだことを特徴とする
建物躯体開口部の補強構造。
【請求項6】
請求項5に記載の建物躯体開口部の補強構造であって、
前記筒状部材は、軸方向若しくは軸直角方向に分割されたものであることを特徴とする建物躯体開口部の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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