説明

織機における多色用緯入れ装置

【課題】緯入れの信頼性及び緯入れ装置の耐久性を備えた多色用緯入れ装置の提供を目的とする。
【解決手段】8本の緯入れノズルをスレイ上に固定して配置する。パイル織機のボーダ織り工程において、織前側の緯入れノズル2Gが選択されると、テリーモーション機構はエキスパンションバー及びテンプル装置を織機前方へ移動する。このため、織前は点X1で示す移動量だけ織機前方へ移動し、緯入れノズル2Gの射出口付近における経糸の開口距離を増大して緯入れノズル2Gによる安定した緯入れを可能にする。緯入れノズル2Gの緯入れが完了すると、テリーモーション機構はエキスパンションバー及びテンプル装置を織機後方へ移動し、織前を点X3で示す筬打ち位置へ復帰させ、緯糸の筬打ちが行なわれる。従って、多色用緯入れ装置において緯入れの信頼性及び緯入れ装置の耐久性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数の緯糸を選択して緯入れするために複数本の緯入れノズルを備えた多色用緯入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
緯入れノズルによって緯入れを行なう織機では、周知のように、緯糸案内通路を形成された変形筬と呼ばれる筬が揺動運動するスレイ上に配設され、緯糸は前記緯入れノズルによって前記緯糸案内通路内に射出される。このため、緯入れノズルは緯糸が前記緯糸案内通路内に射出され易いように、スレイ上に固定して設けることが一般的である。2本以上の緯入れノズルを備える多色用緯入れ装置では、スレイ上に複数の緯入れノズルを設ける構成が難しくなる。
【0003】
特に、6本の緯入れノズルをスレイ上に固定する場合は、前記緯糸案内通路の大きさに制限されるため、織機の上下方向に一列に配列して固定することができない。このため、各緯入れノズルは種々の方向から複雑に傾斜させた構成や、折り曲げた構成等を組み合わせることにより、各緯入れノズルの先端が前記緯糸案内通路に指向されるように工夫されている。しかし、5本目、6本目に該当する緯入れノズルから射出される緯糸は前記緯糸案内通路から外れ易くなり、前記緯糸案内通路の外方に開口している経糸に接触する緯入れミスを生じ易いという問題が増加する。このため、より本数を増やした8本の緯入れノズルを使用する多色用緯入れ装置は、スレイ上に緯入れノズルを固定して配設することが困難である。
【0004】
例えば、特許文献1は、8本の緯入れノズルをスレイ上で織機の上下方向に移動する構成を採用することにより緯入れを可能にした多色用緯入れ装置を開示している。即ち、織機の前後方向に並列した2本の緯入れノズルを織機の上下方向に4段に重ねて配列した合計8本の緯入れノズルがノズルサポータによって一体に保持されている。前記ノズルサポータは、スレイ上において織機の上下方向に揺動可能に配設された揺動プレートに取り付けられている。前記揺動プレートは織機のフレームに取り付けられたモータによって連結杆等の運動伝達機構を介して揺動される。従って、8本の緯入れノズルは前記揺動プレートによって絶えず上下方向に揺動され、この揺動運動によって、緯入れのために選択された緯入れノズルは前記緯入れ案内通路と対向する緯入れ位置に移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−32148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在稼動中の織機は、1分間に700〜1000回転以上の高速で運転されている。スレイ上に配設される6〜8本の緯入れノズルは大きな質量を持ち、しかもスレイの揺動中心軸から離れた位置にあるため、加速度による大きな力を受けることになる。このような大きな力を受ける複数の緯入れノズルを上下方向に揺動する特許文献1の技術では、緯入れノズルを上下動する揺動プレートの支持部や運動伝達機構の連結部のガタツキが早期に生じ易くなり、緯入れ位置への安定した移動や位置決めが難しい。また、揺動プレートの支持部や運動伝達機構の連結部に風綿等が堆積し易く、緯入れノズルの揺動運動自体に影響を及ぼすという問題がある。このような点から、特許文献1のように複数の緯入れノズルを移動させる構成は、緯入れの信頼性、緯入れ装置の耐久性の面で問題が多い。
【0007】
本願発明は緯入れの信頼性及び緯入れ装置の耐久性を備えた多色用緯入れ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本願発明は、複数の緯糸を選択して緯入れするために複数の緯入れノズルを備えた織機の多色用緯入れ装置において、前記複数の緯入れノズルを織機の前後方向に並列してスレイ上に固定し、前記複数の緯入れノズルの内、少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時に織前を織布の巻取り側に移動する織前移動手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の本願発明によれば、少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時に緯入れノズルの射出口と経糸との間隔が拡大するとともに経糸張力の上昇も加わり経糸の緩みが減少する。このため、少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルによる緯入れのための開口面積が大きくなり、緯糸は経糸と絡みにくくなるので、安定した緯入れを確保することができる。さらに、複数の緯入れノズルは単にスレイに固定するだけでよいので、緯入れ装置の耐久性の面でも問題が無い。
なお、本願発明において、多色とは全て異色の緯糸を使用する場合と異色の緯糸に幾つかの同色の緯糸を組み合わせて使用する場合との双方を含む概念である。また、筬打ちとは、緯入れされた緯糸を織成のために筬によって織前に打ち付ける動作であり、筬打ち位置とは、織成のために緯糸を筬打ちする織前の位置を言う。
【0010】
請求項2に記載の本願発明は、前記織前移動手段は前記複数の緯入れノズルの内、織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時に織前を織布の巻取り側に移動するとともに筬打ち時に筬打ち位置へ復帰させることを特徴とする。従って、筬打ち時は織前の移動方向と筬の筬打ち方向とが対向する形となるため、両者の相乗効果により緯糸の打ち込み力を向上させることができる。
【0011】
請求項3に記載の本願発明は、前記織前移動手段はパイル織機に用いられるテリーモーション機構で構成したことを特徴とする。テリーモーション機構はパイル織機においてパイル織りのために実用化され、信頼性を得ている構成であるため、これを本願発明の織前移動手段として使用することにより安定した織前移動と緯入れを確保することができる。
なお、本願発明において、テリーモーション機構とは、減速装置あるいはカム等を用いてエキスパンションバー及びテンプル装置を織機の前後方向に往復移動する装置である。
【0012】
請求項4に記載の本願発明は、少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時に前記テリーモーション機構により織布の巻取り側に移動する織前の移動量はパイル織り工程時の織前の移動量よりも小さいことを特徴とする。従って、少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時における織前の移動量はパイル形成時と異なり小さいため、テリーモーション機構の動作はパイル織機の高速回転に充分追従可能である。
【0013】
請求項5に記載の本願発明は、前記織機はパイル織り及びボーダ織りを交互に繰り返すパイル織機であり、前記織前移動手段は前記ボーダ織り時に作動することを特徴とする。従って、パイル織機においてはパイル織りのためにテリーモーション機構が装備されているので、このテリーモーション機構を利用すれば、新たに織前移動手段を設置する必要無く、ボーダ織り時に本願発明を簡単に実施することができる。
【0014】
請求項6に記載の本願発明は、前記織前移動手段は前記緯入れノズルと前記織前との距離が小さい程、緯入れ時に前記織前を織布の巻取り側に大きく移動することを特徴とする。従って、緯入れノズルの緯入れ安定性を確保するのに必要最小限の織前移動量で織前を移動すればよく、織前移動手段の駆動負荷をより低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明は、複数の緯入れノズルを全てスレイ上に固定した多色用緯入れ装置において緯入れの信頼性及び緯入れ装置の耐久性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】多色用緯入れ装置を示す概略平面図である。
【図2】多色用緯入れ装置を示す概略正面図である。
【図3】テリーモーション機構を備えたパイル織機の概略側面図である。
【図4】織前移動を説明する模式図である。
【図5】織前移動パターンを示す線図である。
【図6】第2の実施形態における織前移動パターンを示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。なお、本願明細書においては、図1の下方を織布巻取り側である織機の前方、上方を経糸送り出し側である織機の後方、左側を織機の左側方、右側を織機の右側方として説明する。
【0018】
スレイ1は図3に示した織機駆動モータMRによって駆動されるロッキングシャフト(図示せず)に固定され、織機の前後方向に揺動する。図1に示すように、スレイ1の左側方端部には、多色用緯入れ装置2が固定されている。多色用緯入れ装置2は8色用で8本の緯入れノズル2A〜2Hにより構成される。8本のうち4本の緯入れノズル2A、2C、2E、2Gは織機の前後方向に並列して配設されている。他の4本の緯入れノズル2B、2D、2F、2Hは同様に織機の前後方向に並列した状態で、緯入れノズル2A、2C、2E、2Gの下方に重ねて配設(図2参照)されている。
【0019】
緯入れノズル2A〜2Hは基端部分をホルダー3によって束ねられ、スレイ1に固定したブラケット4に固定されている。多色用緯入れ装置2の右側方のスレイ1上には、多数の変形筬5が立設され、各変形筬5に形成された窪みにより緯糸案内通路6が形成されている。前記した全ての緯入れノズル2A〜2Hの射出口は緯糸案内通路6内に指向されている。なお、7は補助ノズル、8は緯糸切断用カッター、9は織機の前後方向にスライド可能に構成されたテンプル装置である。また、Tは経糸、Wは織布、W1は織前、Yは緯糸を示している。
【0020】
図1及び図2に示した多色用緯入れ装置2はパイル織機において実施したものであり、図3においてパイル織機の概要を説明する。10は地経糸ビームである。地経糸ビーム10は地経糸送出し制御装置CGに電気的に接続された地経糸送出しモータMGにより回転駆動される。地経糸ビーム10から送り出される地経糸Tは円弧状のバックガイドプレート11及びテンションローラ12を経由して綜絖13及び変形筬5に通される。織布Wはエキスパンションバー15、サーフェスローラ16及びガイドローラ17、18を経由してクロスローラ19に巻き取られる。
【0021】
織機フレーム20に取り付けられた上向きレバー21はその上端にテンションローラ12を回転可能に支持する。なお、経糸開口運動による地経糸Tの張力変動は付勢力付与機構の付勢力を受けたテンションローラ12の消極イージングにより吸収される。また、下向きレバー22の先端にはロッド23が回転可能に連結されている。ロッド23にはテンションローラ12にかかる地経糸Tの張力を検出するロードセル24が取り付けられ、ロードセル24は地経糸送出し制御装置CGに電気的に接続されている。地経糸送出し制御装置CGは予め設定された基準張力及びロードセル24から得られる張力検出情報に基づいて地経糸送出しモータMGの送出し速度を制御する。
【0022】
地経糸ビーム10の上方にはパイル経糸ビーム25が配設されている。パイル経糸ビーム25はパイル経糸送出し制御装置CPに電気的に接続されたパイル経糸送出しモータMPにより回転駆動される。パイル経糸ビーム25から送り出されるパイル経糸TPは転向ローラ26、張力付与部材27及びテリーモーションローラ28を経由して綜絖13及び変形筬5に通される。
【0023】
転向ローラ26は織機フレームの一部に回転可能に支持されている。また、パイル経糸TPが接触してない転向ローラ26の端部位置には、図示しない一対の被検出要素が設けられており、前記一対の被検出要素と対応する一対の近接スイッチ31によって転向ローラ26の回転が検出され、パイル経糸送出し制御装置CPに出力される。張力付与部材27は板ばね32によって支持され、板ばね32は織機フレーム20に取り付けられた軸30によって支持されている。このため、張力付与部材27を周回するパイル経糸TPは板ばね32の撓みにより経糸開口運動における張力変動を吸収される。また、軸30の端部には、ロードセル29を備えたレバー14が固定されている。ロードセル29はパイル経糸TPの張力を検出し、パイル経糸送出し制御装置CPに出力する。
【0024】
従って、パイル経糸送出し制御装置CPは予め設定された基準張力とロードセル29から得られる張力検出情報との比較及び近接スイッチ31から得られる回転検出信号に基づいて、パイル経糸送出しモータMPの送り出し速度を制御する。テリーモーションローラ28は軸33によって回転可能に支持された揺動レバー34の上方アーム先端に回転可能に支持され、揺動レバー34の下方アームはロッド23に回転可能に連結している。
【0025】
一方、織機の前後方向中央部には二叉状の中間レバー35が軸36に回転可能に配設され、その上方位置には本願発明の織前移動手段に該当するテリーモーション機構37が配設されている。テリーモーション機構37は内部にボールねじ機構又はローラ式、遊星歯車式等の減速機あるいはカム機構からなる駆動装置(図示せず)を備え、テリーモーション制御装置CTに電気的に接続された専用のテリーモーション駆動モータMTによって駆動される。テリーモーション機構37の作動により前記駆動装置に連結された駆動軸38と一体の駆動レバー39が往復回転される。
【0026】
駆動レバー39は中間レバー35の一方のアーム40に連結するロッド41を介して中間レバー35に往復回動運動を伝え、中間レバー35は他方のアーム42に連結するロッド23を介してテンションローラ12及びテリーモーションローラ28に揺動運動、即ちテリーモーションを伝えることができる。織機の前方位置で織布Wを案内するエキスパンションバー15は軸43に回転可能に支持された揺動レバー44の上端に支持され、揺動レバー44の下端がロッド45を介して中間レバー35の他方のアーム42に連結されている。また、揺動レバー44は連結機構を省略しているが、織機の前後方向に可動に構成されたテンプル装置9(図1参照)と連結している。
【0027】
従って、中間レバー35の往復回動は同時にロッド45を介して揺動レバー44を揺動し、エキスパンションバー15及びテンプル装置9にテンションローラ12及びテリーモーションローラ28と同一方向のテリーモーションを伝えることができる。なお、クロスローラ19は巻取り制御装置CWに電気的に接続された巻取りモータMWにより駆動され、織布Wの巻き取りを行なう。
【0028】
織機制御装置CRは織機駆動モータMRを駆動するとともにロータリエンコーダ46に接続して織機の回転角度を検出し、記憶している。また、織機制御装置CRは多色用緯入れ装置2、地経糸送出し制御装置CG、パイル経糸送出し制御装置CP、テリーモーション制御装置CT及び巻取り制御装置CWと接続し、緯入れする緯入れノズル2A〜2Hの作動指令、地経糸送出しモータMG、パイル経糸送出しモータMP、テリーモーション駆動モータMT及び巻取りモータMWの駆動指令を発信する。なお、地経糸送出しモータMG、パイル経糸送出しモータMP、テリーモーション駆動モータMT及び巻取りモータMWは、全てサーボモータを使用しているが、他の電動機であっても構わない。
【0029】
柄出し制御装置47は図示しない入力装置によってパイル織り用の織り柄パターン及びボーダ織り用の織り柄パターンが設定され、織機制御装置CRと電気的に接続している。織機制御装置CRは緯入れ1サイクル中の所定の機台回転角度毎に柄出し制御装置47からパイル織り用及びボーダ織り用の各織り柄パターンを読み出し、多色用緯入れ装置2、地経糸送出し制御装置CG、パイル経糸送出し制御装置CP、テリーモーション制御装置CT及び巻取り制御装置CWに必要な作動指令を発信することができる。
【0030】
パイル織機のパイル織り工程では、周知のように、織機制御装置CRがパイル織り用の織り柄パターンを読み出し、パイル経糸送出し制御装置CP及びテリーモーション制御装置CTに作動指令を発信する。テリーモーション機構37はパイル織り工程のルーズピック時に、テンションローラ12、テリーモーションローラ28、エキスパンションバー15及びテンプル装置9を図3の仮想線のように揺動し、織前W1を織機の前方位置に移動する。また、テリーモーション機構37はパイル織り工程のファーストピック時、テンションローラ12、テリーモーションローラ28、エキスパンションバー15及びテンプル装置9を織機の後方に移動して織前W1を実線位置、即ち筬打ち位置に復帰させる。
【0031】
柄出し制御装置47に設定したボーダ織り用の織り柄パターンについて、詳細に説明する。従来、ボーダ織りにおいて、織前W1は織布Wを織成するために緯糸を打ち付ける筬打ち位置に固定されている。本願発明はテリーモーション機構37を利用し、ボーダ織りにおいても、所定の緯入れノズルが緯入れを行なう場合、織前W1を織機前方側へ所定量移動させるように構成している。
【0032】
図1及び図2に示すように、本実施形態では、8本の緯入れノズル2A〜2Hが織機の前後方向に4列、上下方向に2段に配設されている。緯入れノズル2A〜2Hの各射出口と開口された地経糸T(パイル経糸TP)との位置関係は、図4の模式図に示される。緯入れノズル2A〜2Dは地経糸T(パイル経糸TP)から充分に離れた位置に存在するが、緯入れノズル2E、2Fは地経糸T(パイル経糸TP)に若干近づき、稀に緯入れミスを生じる恐れがある。緯入れノズル2G、2Hは地経糸T(パイル経糸TP)に近接し、緯入れミスを生じる可能性が極めて高い。
【0033】
そこで、前記ボーダ織り用の織り柄パターンには、緯入れノズル2A〜2Hの選択順序を指令するプログラムの他に、緯入れノズル2E〜2Hが選択された場合、テリーモーション機構37に作動を指令するプログラム及び選択された緯入れノズルの種類(織前W1からの距離)に応じた織前W1の移動量を指令するプログラムが設定されている。図5は、前記ボーダ織り用の織り柄パターンの一部を示し、横軸に示したように、緯入れノズルは2G、2F、2H、2Cの順で選択され、緯入れされるパターンである。緯入れノズル2G及び2Hが選択される場合は、織前W1に最も近接しているため、点X1に示した比較的大きな織前W1の移動量が設定されている。緯入れノズル2Fが選択される場合は、織前W1からの距離が若干有り、射出口と地経糸T(パイル経糸TP)との間の間隔が若干大きくなるため、点X2に示すように点X1よりも小さな織前W1の移動量が設定されている。従って、緯入れノズル2Fの緯入れでは、点X1まで織前W1を移動させるのに比べて、テリーモーション機構37の駆動負荷が低減される。緯入れノズル2Cが選択された場合は、地経糸T(パイル経糸TP)の影響を受ける恐れが少ないため、テリーモーション機構37への作動指令は出されない。従って、織前W1は移動量零となり、筬打ち位置に固定された状態である。
【0034】
即ち、前記ボーダ織り用の織り柄パターンを読み取った織機制御装置CRはテリーモーション機構37に対して、緯入れノズル2A〜2Dが選択される場合、作動指令を出さない、緯入れノズル2E及び2Fが選択された場合、X2に示した織前W1の移動量を指令し、緯入れノズル2G及び2Hが選択された場合、X1に示した織前W1の移動量を指令する。なお、ボーダ織り工程での織前W1の移動量は、図5に仮想線X4で示したパイル織り工程時の織前W1の移動量に対して、小さい量で済み、織機の高速回転に充分追従することができる。
【0035】
図4及び図5を参照してボーダ織り工程におけるパイル織り織機の動作を説明する。パイル織り工程からボーダ織り工程に移行する時、柄出し制御装置47が緯入れノズル2Gを選択すると、織機制御装置CRはテリーモーション機構37に織前W1の移動量X1に相当する作動指令を発信する。テリーモーション機構37はテンションローラ12、テリーモーションローラ28、エキスパンションバー15及びテンプル装置9を織機の前方側へ移動する。このため、織前W1はX1で示す移動量だけ織機の前方側へ移動し(図4の仮想線位置及び図1の仮想線参照)、緯入れノズル2Gの射出口付近における地経糸T(パイル経糸TP)の開口距離(上側の地経糸T(パイル経糸TP)と下側の地経糸T(パイル経糸TP)との距離)を増大して、即ち、開口面積を増大して緯入れノズル2Gによる安定した緯入れを可能にする。
【0036】
緯入れノズル2Gによる緯入れが完了すると、テリーモーション機構37はテンションローラ12、テリーモーションローラ28、エキスパンションバー15及びテンプル装置9を織機の後方側へ移動し、織前W1を図5の点X3で示す筬打ち位置(図4の実線位置及び図1の実線参照)へ復帰させ、緯糸Yの筬打ちが行なわれる。この場合、変形筬5の筬打ち方向と織前W1の復帰方向が対向する形態になるため、相乗効果を生じ、織前W1が固定状態にある場合と比し、大きな筬打ち力が得られる。従って、ボーダ織りのように緯糸Yの高い打ち込み密度を要求される織物では、特に効果的である。
【0037】
以下同様な動作が行なわれ、緯入れノズル2Fが選択されると、織前W1はX2で示す移動量だけ織機の前方へ移動し、緯入れが完了するとX3で示す筬打ち位置に復帰し、筬打ちが行なわれる。次に、緯入れノズル2Hが選択されると、織前W1はX1で示す移動量だけ織機の前方へ移動し、緯入れが完了するとX3で示す筬打ち位置に復帰し、筬打ちが行なわれる。次に、緯入れノズル2Cが選択されると、織前W1は移動せず、通常の緯入れ及び筬打ちが行なわれる。
【0038】
前記した第1の実施形態は以下の作用効果を有する。
(1)8本の緯入れノズル2A〜2Hをスレイ1上に固定して配設しても、少なくとも織前W1側に位置する緯入れノズル2E〜2Hによって緯入れする場合、テリーモーション機構37を利用して織前W1を織機の前方へ移動することにより、射出口と地経糸T(パイル経糸TP)との間隔を開けることができ、安定した緯入れを確保することができるとともに緯入れ装置の耐久性も問題が無い。
(2)変形筬5の筬打ち方向と織前W1の復帰方向が対向するため、筬打ち力が高まり、緯糸Yの高い打ち込み密度を要求される織物の場合に好適である。
(3)パイル織機の場合、パイル織り工程に使用していたテリーモーション機構37をボーダ織工程に利用するので、動作に信頼性のあるテリーモーション機構37を効率良く使用することができる。
(4)ボーダ織り工程における織前W1の移動量はパイル形成時と異なり小さい量で済むため、ボーダ織り時におけるテリーモーション機構37の動作はパイル織機の高速回転に充分追従可能である。
【0039】
(第2の実施形態)
図6に示す第2の実施形態は、第1の実施形態におけるボーダ織り用の織り柄パターンを変更したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第2の実施形態のボーダ織り用の織り柄パターンにおける緯入れノズルの選択順序は第1の実施形態と同一に設定されている。第2の実施形態は織り柄が朱子織のような場合に、選択された緯入れノズル2Gにより緯入れされた緯糸が筬打ちされること無く、続いて選択された緯入れノズル2Fによる緯入れが行われるという連続緯入れのパターンを示している。
【0040】
ボーダ織り工程において、緯入れノズル2Gが選択されると、織機制御装置CRからの指令によりテリーモーション機構37が作動し、織前W1は点X1で示す移動量だけ織機の前方へ移動し、緯入れが行なわれる。緯入れが完了しても織成動作である筬打ちが行なわれないので、織前W1は筬打ち位置に復帰しない。続いて選択される緯入れノズル2Fは織前W1の移動量が点X2の位置であるため、織前W1は若干織機の後方側へ移動して点X2の位置で待機する。この間に緯入れノズル2Fにより緯入れが行なわれる。緯入れが完了すると、織前W1は点X3で示す筬打ち位置に復帰し、筬打ちが行なわれる。このように、筬打ちすること無く、連続して緯入れが行なわれるボーダ織り用の織り柄パターンであっても、本願発明を実施することができる。また、第2の実施形態は、織前W1が織機1回転毎に筬打ち位置に復帰する場合に比して織前W1の移動量が少なくなるため、テリーモーション駆動モータMTの負荷を減らすことができる。
【0041】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0042】
(1)本願発明の織前移動手段は、第1の実施形態に示したテリーモーション機構37に限らず、地経糸送出しモータMG、パイル経糸送出しモータMP及び巻取りモータMWを同期して駆動する方法を採用することができる。地経糸送出しモータMG及びパイル経糸送出しモータMPを経糸送出し方向に所定量回転するとともに巻取りモータMWを織布巻取り方向に所定量回転することにより、織前W1を織機前方に所定量移動することができる。逆に、地経糸送出しモータMG及びパイル経糸送出しモータMPを経糸巻取り方向に所定量回転するとともに巻取りモータMWを織布の送出し方向に所定量回転することにより、織前W1を織機後方の筬打ち位置に復帰させることができる。なお、パイル織機以外の織機では、パイル経糸送出しモータMPを除外した形態で実施することができる。
(2)本願発明を実施する多色用緯入れ装置は、スレイ1上に6本の緯入れノズルを固定して配設する場合や8本を超える複数の緯入れノズルを固定して配設する場合にも実施することができる。
(3)本願発明は、パイル織機のボーダ織りに限らず、パイル織り以外の普通の織物を製織する織機において実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 スレイ
2 多色用緯入れ装置
2A、2B、2C、2D、2E、2F、2G、2H 緯入れノズル
5 変形筬
6 緯糸案内通路
9 テンプル装置
10 地経糸ビーム
12 テンションローラ
15 エキスパンションバー
19 クロスローラ
25 パイル経糸ビーム
28 テリーモーションローラ
37 テリーモーション機構
47 柄出し制御装置
CG 地経糸送出し制御装置
CP パイル経糸送出し制御装置
CR 織機制御装置
CT テリーモーション制御装置
CW 巻取り制御装置
MG 地経糸送出しモータ
MP パイル経糸送出しモータ
MR 織機駆動モータ
MT テリーモーション駆動モータ
MW 巻取りモータ
T 地経糸
TP パイル経糸
W 織布
W1 織前
Y 緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の緯糸を選択して緯入れするために複数の緯入れノズルを備えた織機の多色用緯入れ装置において、
前記複数の緯入れノズルを織機の前後方向に並列してスレイ上に固定し、前記複数の緯入れノズルの内、少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時に織前を織布の巻取り側に移動する織前移動手段を設けたことを特徴とする織機における多色用緯入れ装置。
【請求項2】
前記織前移動手段は前記複数の緯入れノズルの内、少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時に織前を織布の巻取り側に移動するとともに筬打ち時に筬打ち位置へ復帰させることを特徴とする請求項1に記載の織機における多色用緯入れ装置。
【請求項3】
前記織前移動手段はパイル織機に用いられるテリーモーション機構で構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の織機における多色用緯入れ装置。
【請求項4】
少なくとも最も織前側に配置された緯入れノズルの緯入れ時に前記テリーモーション機構により織布の巻取り側に移動する織前の移動量はパイル織り工程時の織前の移動量よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の織機における多色用緯入れ装置。
【請求項5】
前記織機はパイル織り及びボーダ織りを交互に繰り返すパイル織機であり、前記織前移動手段は前記ボーダ織り時に作動することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の織機における多色用緯入れ装置。
【請求項6】
前記織前移動手段は前記緯入れノズルと前記織前との距離が小さい程、緯入れ時に前記織前を織布の巻取り側に大きく移動することを特徴する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の織機における多色用緯入れ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−261122(P2010−261122A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112399(P2009−112399)
【出願日】平成21年5月6日(2009.5.6)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】