説明

織物の開繊方法,織物及び複合材料

【課題】織物の製織工程をそのままにして簡易な方法で経糸及び緯糸を均一に開繊可能な織物の開繊方法の提供。
【解決手段】複数の繊維フィラメント1を収束した経糸2と緯糸3とを織成して成る織物4を開繊する織物の開繊方法であって、前記織物4の表面に保護フィルム5を介して当接体6を設け、この当接体6を前記織物4に対して前記経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに相対移動させることで該経糸2若しくは緯糸3を開繊する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物の開繊方法,織物及び複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の炭素繊維フィラメントを集束剤で収束した炭素繊維フィラメントの束(以下、繊維束または単に糸という。)を経糸及び緯糸として織成して成る炭素繊維織物は、樹脂と複合化して複合材料とすることにより軽量且つ高強度を発現することから、航空機材料分野で幅広く利用されている。また、近年、当該分野では、強度を維持しつつ更なる軽量化の要求がある。
【0003】
このような軽量化の要求を達成する方法として、織物に使用される糸量(目付重量)を抑えて強度を発現させることが試みられている。
【0004】
しかしながら、単に目付重量を抑えるだけでは、織物に隙間が生じ、複合材料にした場合、十分な強度が発現せず、物性にもばらつきが生じる。
【0005】
そこで、上記問題を解決する方法として、織物を構成する経糸と緯糸を夫々開繊させる方法がある。具体的には、例えば特許文献1には、緯糸(織物の搬送方向に対して垂直になる糸)をエアジェット噴射により開繊させた後、搬送される補強繊維織物の表面に、この織物の搬送前後方向(経糸と平行な方向)に往復動するローラ体を押圧せしめて加圧することで経糸(織物の搬送方向に対して平行になる糸)を開繊させる方法が開示されている。また、織物を水中に浸漬させ、音波等により開繊させる方法も知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−268669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示される方法では、緯糸がエアジェット噴射により開繊されるため、繊維フィラメントの束が乱れ、また、毛羽立ちやパサつきが生じ易い。また、織物として見た場合、糸切れや目ズレが発生し易くなり、ハンドリング性が低下する。
【0008】
更に、経糸と緯糸の交点部分(他方の糸の下に入る部分)は、ローラ体によっては直接加圧し難く、均一に開繊し難い。
【0009】
しかも、ローラ体に直接押圧される緯糸の繊維が基材の搬送方向下流側に溜まり易く、この点においても均一に開繊された織物を得ることができない。
【0010】
また、ローラ体を用いて開繊する場合、ローラ体による押圧により緯糸が織物の搬送方向に向かって湾曲し易く、目曲がりが生じ易くなる。
【0011】
従って、上記特許文献1に開示される方法で開繊した織物は、経糸及び緯糸が均一に開繊され難い。よって、この織物と樹脂からなる複合材料は、緯糸の配向が乱れているため十分な強度発現が得られない。
【0012】
また、上記織物を水中に浸漬させ音波等により開繊させる方法では、繊維束に付着している集束剤の水溶性成分が開繊時に脱落し、繊維束に毛羽立ちやパサつきが生じ易くなり、ハンドリング性が低下する。また、カップリング剤の役目も果たす集束剤が脱落することで、複合材料とした場合、基材である織物とマトリックス(樹脂)との間の接着力が低下する。
【0013】
本発明は、上述の問題点を解決したもので、織物の製織工程をそのままにして簡易な方法で経糸及び緯糸を均一に開繊可能で、しかも、ハンドリング性や樹脂との接着力が低下することもなく、この経糸及び緯糸が均一に開繊された扁平織物を用いて軽量で且つ高強度の複合材料をコスト安に実現可能な極めて実用性に秀れた織物の開繊方法、織物及び複合材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0015】
複数の繊維フィラメント1を収束した経糸2と緯糸3とを織成して成る織物4を開繊する織物の開繊方法であって、前記織物4の表面に保護フィルム5を介して当接体6を設け、この当接体6を前記織物4に対して前記経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに相対移動させることで該経糸2若しくは緯糸3を開繊することを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0016】
また、複数の繊維フィラメント1を収束した経糸2と緯糸3とを織成して成る織物4を開繊する織物の開繊方法であって、前記織物4の表面に保護フィルム5を介して当接体6を設け、この当接体6を回転させながら前記織物4に対して相対移動させることで該経糸2若しくは緯糸3を開繊することを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0017】
また、請求項2記載の織物の開繊方法において、前記回転は偏心回転であることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0018】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体6を前記織物4に対して移動させることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0019】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記織物4は搬送されているものであることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0020】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体6は振動せしめられていることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0021】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体6にして前記保護フィルム5を介して前記織物4の表面に当接する当接部には、凸湾曲条が環状に設けられた突起8が設けられていることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0022】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体6にして前記保護フィルム5を介して前記織物4の表面に当接する当接部には、多数の棒状体10が設けられていることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0023】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記繊維フィラメント1は無機繊維フィラメント1であることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0024】
また、請求項9記載の織物の開繊方法において、前記無機繊維フィラメント1は炭素繊維フィラメント1であることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0025】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記繊維フィラメント1は有機繊維フィラメントであることを特徴とする織物の開繊方法に係るものである。
【0026】
また、請求項1〜11いずれか1項に記載の織物の開繊方法により開繊されたことを特徴とする織物に係るものである。
【0027】
また、請求項12記載の織物において、カバーファクターが96%以上であることを特徴とする織物に係るものである。
【0028】
また、請求項12,13いずれか1項に記載の織物を基材とし、この基材に樹脂を含浸させて成ることを特徴とする複合材料に係るものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明は上述のようにしたから、工程を複雑化させることなく簡易な方法で経糸及び緯糸を均一に開繊可能で、しかも、ハンドリング性や樹脂との接着力が低下することもなく、この経糸及び緯糸が均一に開繊された扁平織物を用いて軽量で且つ高強度の複合材料をコスト安に実現可能な極めて実用性に秀れた織物の開繊方法、織物及び複合材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0031】
保護フィルム5を介して織物4表面に当接させた当接体6を、経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに移動させることで、例えば特許文献1に開示されるように経糸若しくは緯糸の長手方向に対して平行する方向に移動させながら加圧して単に押し潰して開繊するのではなく、経糸2若しくは緯糸3に該経糸2及び緯糸3を構成する各繊維フィラメント1の束を押し広げる力を作用させながら押圧して経糸2若しくは緯糸3を開繊することができる。
【0032】
また、繊維フィラメント1の束を押し広げるには押圧力を必要とするが、保護フィルム5を介して当接体6を繊維フィラメント1の束に押圧するから、経糸2及び緯糸3を傷め難いのは勿論、当接体6に織物4が拘束されないため、それだけ開繊工程を抵抗なくスムーズに進めることができる。
【0033】
また、繊維フィラメント1の束を押し広げる力を作用させることで、直接押し広げることができない経糸2と緯糸3との交点部分も該交点部分近傍が押し広げられることで連動して押し広げることができ、良好に開繊することが可能となる。この点、上述したように特許文献1に開示される方法では、ローラ体が経糸と平行方向に往復動するため、繊維フィラメント1の束に対して斜め方向に押し広げる力が作用せず、交点部分の開繊を十分に行うことができない。
【0034】
更に、当接体6を、経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに移動させるため、いずれか一方に対して斜めになれば、他方に対しても当然斜めとなり(通常、経糸2と緯糸3とは直交する)、従って、経糸2及び緯糸3を同時的に均等に開繊することができ、経糸2及び緯糸3の開繊度合いをより均一にすることができる。
【0035】
しかも、例えば、当接体6を織物4に対して偏心回転運動させながら当接せしめたり、当接体6を織物4の搬送方向に対して斜め方向に往復運動させたりすることで、当接体6を経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに移動させることは容易に行うことができ、また、偏心回転運動や往復運動により繰り返し上記各繊維フィラメント1の束を押し広げる力を作用させることで、より小さい押圧力で良好に開繊を行えることになる。特に、偏心回転運動により上記各繊維フィラメント1の束を押し広げる力を作用させる場合、より広範囲に均一に前記力を連続的に作用させることができ、極めて効率が良い。
【0036】
また、例えば当接体6を放射状(織物4の面方向)に細かく振動させながら織物4に対して偏心回転運動させることで、振動により一層良好に開繊が行われ、極めて効率的に開繊を行うことが可能となる。
【0037】
また、通常の織機で織成した織物4をそのまま開繊することができるため、経糸・緯糸をそれぞれ拡繊するなどの新たな設備を導入する必要がなく、それだけコスト安となる。更に、溶媒等に織物を浸漬させて開繊する方法と異なり、集束剤が脱落することがなく、よって、従来の織物と同等のハンドリング性を有し、また、毛羽立ちもないものとなる。
【0038】
従って、本発明によれば、経糸及び緯糸が均一に開繊された扁平な織物を得ることが可能となり、また、目スキ(糸の隙間)が非常に少ない織物を得ることが可能となる。具体的には、例えば特開2005−290623号に開示される測定装置によりカバーファクター(CF:織物の面積に対する糸の占める割合を測定した際、カバーファクターが96%以上のものを得ることが可能となる。即ち、それだけ織物の表面平滑性が向上すると共に厚さが薄くなる。
【実施例】
【0039】
本発明の具体的な実施例(実施例1及び実施例2)について図面に基づいて説明する。
【0040】
実施例1は、複数の繊維フィラメント1を収束した経糸2と緯糸3とを織成して成る織物4を開繊する織物の開繊方法であって、前記織物4の表面に保護フィルム5を介して当接体6を設け、この当接体6を前記織物4に対して前記経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに相対移動させることで該経糸2及び緯糸3を開繊する方法である。
【0041】
尚、実施例1においては繊維フィラメント1として炭素繊維フィラメント1が採用された織物4を開繊しているが、ガラス、アルミナなどからなる無機繊維フィラメントが採用された織物4を開繊しても良いし、アラミド、ポリアリレートなどからなる有機繊維フィラメントが採用された織物4を開繊しても良い。
【0042】
実施例1においては、図1,2に図示したような当接体6を用い、この当接体6を織物4に対して偏心回転運動させることで、この当接体6を前記経糸2若しくは前記緯糸3の長手方向斜め(長さ方向に対して斜め方向)に移動せしめて開繊する。尚、本実施例においては、織物4の上面に当接体6を当接せしめる構成としているが、織物4の下面に当接せしめる構成としても良いし、織物4の上面側及び下面側に夫々当接体6を配して上下両面に当接し得るように構成しても良い。特に、織物4の上面及び下面において(同一部位に)当接体6を相対する方向に回転させながら当接せしめる場合には、一層効率的な開繊が可能となる。
【0043】
具体的には、当接体6は、搬送される織物4の幅より幅広で、この織物4の表面と略水平に偏心回転運動し得るように構成されており、この当接体6を適宜な押圧力で保護フィルム5を介して織物4表面に押し付けながら偏心回転運動させることで、経糸2及び緯糸3を開繊する。尚、織物4が開繊する原理と当接体6の偏心回転運動の発生機構は後述する。
【0044】
この当接体6は、軸12とモータ本体13とから成るモータ14の該軸12が挿通する挿通孔15を有し前記モータ本体13と連結される金属製の上側板体16に対し、複数の弾性体から成る支柱17を介して前記上側板体16に対して微動可能に設けられる金属製の下側板体18と、この下側板体18の下面に設けられる弾性体から成るクッション材19とで構成されている。ここで、実施例1における上側板体16,下側板体18及びキャップ体22はステンレス製であり、支柱17及びクッション材19はゴム製の弾性体である。
【0045】
クッション材19の下面にして樹脂製の保護フィルム5を介して織物4の表面に当接する当接部には、凸湾曲条が環状に設けられた突起8(キャップ体22)が多数設けられており、側面視において互いに織物4との当接部分がオーバーラップするようにジグザグ状に設けられている(尚、例えば3列以上設ける場合は千鳥状に設けても良い)。また、実施例1においてはステンレス製のキャップ体22の底面を前記クッション材19に接着結合している。突起8の頂部は半径1mm〜半径3mm程度に設定するのが好ましい。従って、キャップ体22はクッション材19に対してその一部若しくは全部が沈み込み可能であり、織物4の表面の凹凸形状に柔軟に対応できる。
【0046】
尚、半球状や柱状の突起等、他の構成を採用し、これらをクッション材19の下面に多数並設した構成としても良いが、上記突起8の場合、どのような方向に移動させても織物4と一様に当接でき且つ柱状や半球状のものに比し当接範囲が広いため、特に好適である。
【0047】
ここで突起8が織物4を開繊する原理を説明する。後述するように当接体6は、中心位置から離れた偏心位置に回転軸を有する後記円盤体20が回転することで偏心回転運動する。従って、当接体6に設けられる各突起8も偏心回転運動することになるが、この偏心回転運動する突起8の軌跡は図3に図示したような円状の軌跡を描き、図3に示すように、突起8のR形状の頂部が織物4に当接し、経糸2及び緯糸3の長手方向斜めに運動する。これにより、経糸2及び緯糸3を構成する炭素繊維フィラメント1の束が斜め方向に強く押し広げられる。また、経糸2及び緯糸3との交点部分は、突起8が該交点部分近傍の経糸2及び緯糸3を斜め方向に押し広げるため、該交点部分(特に他方の糸の下に入る部分)を連動して押し広げることが可能となる。また、突起8は常に経糸2及び緯糸3の長手方向斜めへの移動を続け、搬送される織物4の幅方向全面に対して均一に当接するため、経糸2及び緯糸3の区別なく、均一な開繊を行うことが可能となる。また、保護フィルム5を介しているので炭素繊維フィラメント1を傷付けることなく、炭素フィラメント1の束を押し広げることが可能となる。
【0048】
次に当接体6の偏心回転運動の発生機構について説明する。当接体6の偏心回転運動は、モータ14の軸12を、下側板体18とベアリング21(ラジアルベアリング)を介して設けられる円盤体20の中心位置から離れた偏心位置に連結し、軸12の回転によりこの円盤体20が偏心回転運動することにより発生する。
【0049】
具体的には、軸12の回転により円盤体20が偏心回転運動すると、この円盤体20とベアリング21を介して設けられる下側板体18(及びクッション材19)が、図1に図示したような織物4の搬送方向に対して直交状態のまま偏心回転運動しようとするが、この下側板体18は弾性のある支柱17を介して上側板体16と連結されているため、支柱17による弾性体の復元力を受けながら放射状(織物4の面方向)に細かく振動しつつ偏心回転運動することになる。尚、実施例1においてはクッション材19は1枚設けた構成であるが、複数枚設けた構成としても良い。
【0050】
これにより、各炭素繊維フィラメント1の軸方向に対して傾斜方向に突起8が押し付けられるだけでなく、この突起8の頂部が振動しつつ擦り付けられることにより、各炭素繊維フィラメント1同士を押し広げる作用が極めて良好に発揮されることになる。
【0051】
尚、実施例1において、上側板体16は適宜な支持部材(図示省略)に設けられ、搬送される織物4に対して固定状態に設けられており、この上側板体16にはモータ本体13が固定状態に設けられている。具体的には、上側板体16(及び当接体6)が織物4の搬送方向に対して直交する向きとなるように固定されている。
【0052】
また、実施例1においては、上側板体16及びモータ本体13(当接体6)は、織物4に対して固定状態に設けられているが、当接体6を偏心回転運動させる際、この当接体6に同時に織物4の搬送方向に対して斜め方向に細かな往復運動を加えるように構成しても良い。この場合、当接体6は図4に図示したように楕円状の軌跡を示す。この場合も実施例1と同様に経糸2及び緯糸3の長手方向斜めに当接体6が移動し良好な開繊を行うことができる。
【0053】
ここで、実施例1で使用した突起8はステンレスであるが、弾性を有するクッション材19及び支柱17の存在により、織物4表面にやや強めに押し付けても、このクッション材19及び支柱17により押圧力が吸収される。従って、突起8のR形状の頂部を良好な開繊ができる程度に十分強く擦り付けることができ、しかも織物4に傷を付けにくい。
【0054】
上記構成の当接体6を用いて織物4を開繊すると、図5に図示したような状態(図1中、当接体6より織物4の搬送方向上流側の状態)から、図6に図示したように経糸2及び緯糸3を構成する各繊維フィラメント1が偏ったりせず適度にばらける。さらに、経糸2及び緯糸3との交点部分は、当接体6により該交点部分近傍の経糸2及び緯糸3を斜め方向に押し広げるため、該交点部分(特に他方の糸の下に入る部分)を連動して押し広げることが可能となる。これにより、厚さがtからtに押圧されて開かれた扁平織物(図1中、当接体6より織物4の搬送方向下流側の状態)とすることができ、経糸2と緯糸3とで囲繞される空間が可及的に小さい例えばカバーファクターが96%以上の織物4を得られることになる。従って、織物4を搬送しながら上記当接体6を当接せしめることで、織物4全体を連続的に良好に開繊し得る。また、この織物4からなる複合材料は、織物4にエポキシ樹脂等の樹脂が均一に含浸しているため、硬化成形後の複合材料は軽量且つ高強度となる。
【0055】
具体的には、この織物4を基材として樹脂を含浸させて複合化した複合材料は樹脂が均一に含浸しているため、曲げ強度・層間せん断強度などが十分に発現する。即ち、織物に樹脂を含浸させた場合、経糸若しくは緯糸(またはその双方)が存在する繊維部には、繊維と樹脂とが共に存在するため強固となるが、経糸と緯糸とで囲繞された空隙部には、繊維が存在せず樹脂のみが存在し、この空隙部は繊維と樹脂とが共に存在する繊維部に比し脆くなる。従って、カバーファクターの小さい織物(目が粗い織物)に比しカバーファクターの大きい織物(目の詰まった織物若しくは開繊した織物)では、脆い空隙部の割合が小さく、強固な繊維部の割合が大きくなるため、曲げ強度・層間せん断強度などが十分に発現することになる。
【0056】
また、経糸・緯糸の糸本数の密度を上げて目の詰まった織物(開繊前のカバーファクターが大きな織物)を得ることは可能であるが、経糸・緯糸の糸本数の密度を上げると、その断面方向における糸の屈曲度合いが大きくなり、糸そのものの強度発現率が低下する。糸は、断面方向に屈曲せず直線状に近い程、強度発現率が向上するからである。
【0057】
この点、本実施例によれば、適度なカバーファクターを有する織物を開繊することにより、糸の屈曲度合いが小さく、糸の強度発現率の良好な複合材料を得ることが可能となる。よって、本発明からなる織物を用いた複合材料は、航空機用材料等に適した極めて商品価値の高いものとなる。尚、糸本数の密度とは、所定の間隔の中にどの程度糸が存在するかを示す。
【0058】
また、図1に図示した当接体6と上側板体16と支柱17との連結構造は概念的なものであり、具体的には、例えば図7に図示したように、下側板体18の上面両端部に側面視コ字状の支持板体25を外向きに設け、この支持板体25の上側水平板部25aと上側板体16の下面両端部との間に支柱17に相当する弾性部材26を設けた連結構造を採用することができる。この弾性部材26は、ゴム製の本体27の上部及び下部に、螺子部28と鍔部29と尾部30とから成る連結体31の鍔部29と尾部30が埋設された構成である。従って、弾性部材26の本体27の下部に埋設された連結体31の螺子部28を前記支持板体25の上側水平板部25aの螺子孔32に螺着し、本体27の上部に埋設された連結体31の螺子部28を前記上側板体16の両端部の螺子孔33に螺着することで、当接体6は上側板体16に弾性体を介して連結されることになる。尚、図中、符号34はナットである。
【0059】
この弾性部材26の存在により、織物4表面にやや強めに押し付けても、弾性部材26により余分な押圧力が吸収され、織物4に適度な押圧力が加わる。従って、突起8のR形状の頂部を良好な開繊ができる程度に十分強く擦り付けることができ、しかも織物4に傷を付けにくいことになる。
【0060】
尚、上述のように当接体6を偏心回転運動させることで織物4を開繊する実施例1の他に、別の実施形態として、当接体6を織物4の搬送方向(長さ方向)に対して斜め方向に往復運動させることで、この当接体6を経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに移動せしめるように構成しても良い(実施例2)。
【0061】
具体的には、図8に図示したように織物4の搬送方向に対して直交状態に設けた2つの当接体6を、織物4の搬送方向に対して斜め方向にして互いに直交する方向に夫々往復運動させることで、当接体6を経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに移動せしめる構成としている。
【0062】
また、図9に図示した別例のように織物4の搬送方向に対して傾斜状態にして互いに直交する方向に設けた2つの当接体6を、織物4の搬送方向に対して斜め方向にして互いに直交する方向に夫々往復運動させることで、当接体6を経糸2若しくは緯糸3の長手方向斜めに移動せしめる構成としても良い。
【0063】
ここで、2つの当接体6を設け且つ夫々直交する方向に往復移動させるのは、可及的に均一に開繊を行うためである。この場合も、実施例1と同様に良好に開繊を行うことが可能である。
【0064】
また、実施例2においては経糸密度と緯糸密度が1:1の場合を想定して、当接体6の織物4に対する往復運動方向(振動方向)を、織物4の搬送方向に対して±45°に設定しているが、経糸密度と緯糸密度の比に応じて適宜設定する。例えば、経糸密度が高く緯糸密度が低い場合には、往復運動方向は±30°に設定するのが望ましい。
【0065】
また、図8,9の場合には、当接部に突起8を設けるより、図10に図示したように弾性を有する長さ10〜20mm程度の微細な弾性を有する棒状体10を板材23に多数立設したものや、図11に図示したように長さ10〜20mm程度の棒状体10を板材23に多数立設したものや、図12に図示したように長さ10〜20mm程度の棒状体10を軸24の周面に多数立設したものを採用すると、満遍なく開繊することができるため好ましい。
【0066】
具体的には、図10は微細な棒状体10自体の先端を半径1mm〜半径2mmのR形状とした例であり、図11及び図12は棒状体10の先端に半径1mm〜半径2mmの球状部を設けた例である。尚、図12の棒状体10自体の先端を半径1mm〜半径2mmのR形状としても良い。この場合も織物4への押し付け力等を適宜設定することで、経糸2及び緯糸3を良好に開繊することが可能である。棒状体10を採用する場合、上述のような偏心回転運動をさせる必要はないため、図10及び図11の場合には単に板材23に設ける構成とし、この板材23を所定の方向に往復直線移動させる移動機構を備えた構成とすれば良く、図12の場合には単に軸24に設ける構成とし、この軸24を回転させる回転機構を備えた構成とすれば良い。
【0067】
本実施例は上述のようにしたから、保護フィルム5を介して織物4表面に当接させた当接体6を、経糸2及び緯糸3の長手方向斜めに移動させることで、経糸2及び緯糸3を構成する各炭素繊維フィラメント1の束を押し広げる力を作用させながら押圧して経糸2及び緯糸3を開繊することができ、より小さい押圧力で経糸2及び緯糸3を開繊でき、それだけ経糸2及び緯糸3を傷め難い。また、各炭素繊維フィラメント1の束を押し広げる力を作用させることで、直接押し広げることができない経糸2と緯糸3との交点部分も該交点部分近傍が押し広げられることで連動して押し広げることができ、良好に開繊することが可能となる。
【0068】
また、実施例1においては、当接体6を織物4に対して偏心回転運動させながら当接摺動せしめて上記繊維フィラメント1の束を押し広げる力を作用させるから、より広範囲に均一に前記押し広げる力を連続的に作用させることができ、極めて効率が良い。更に、当接体6を該当接体6の放射方向に細かく振動させながら織物4に対して偏心回転運動させるから、振動により一層良好に開繊が行われ、極めて効率的に開繊を行うことが可能となる。
【0069】
また、通常の織機で織成した織物4をそのまま開繊することができるため、新たな設備を導入する必要がなく、それだけコスト安となる。更に、溶媒等に織物を浸漬させて開繊する方法と異なり、集束剤が脱落することがなく、よって、従来の織物と同等のハンドリング性を有し、また、毛羽立ちもないものとなる。
【0070】
従って、本実施例によれば、経糸及び緯糸が均一に開繊された扁平な織物を得ることが可能となり、具体的には、目スキ(糸の隙間)が非常に少ないものを得ることが可能となり、この織物を基材として航空機材料分野で要求されるような十分な強度発現が可能な複合材料を得ることが可能となる。
【0071】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0072】
図13に図示したように、フィラメント本数6000本・繊度400texの炭素繊維フィラメントの束を経糸及び緯糸として織成した同一の織物を用い、開繊処理をしていない比較例1、超音波による開繊処理を施した比較例2、上述のように当接体を偏心回転運動させることにより開繊処理を施した実施例1、上述のように当接体を±45°で往復直線運動させることにより開繊処理を施した実施例2の夫々について、カバーファクターを測定し、また、毛羽の有無及びハンドリング性の良し悪しを評価した。また、各例の織物に一般的なエポキシ樹脂を均一に含浸せしめて半硬化して成るプリプレグを夫々8枚ずつ重ね、硬化成形した複合材料の曲げ強度及び層間せん断強度(ILSS)を測定した。
【0073】
尚、カバーファクターの測定は、特開2005−290623号に開示されるような、経糸と緯糸とで織成され繊維強化樹脂に使用される織物の、該経糸と緯糸とで囲繞された開口部の開口率(開口部の開口面積の総和/測定範囲全面積)を測定する開口率測定装置であって、発光部と該発光部の発光を受光する受光部とが繊維強化樹脂に使用される織物を挟んで対置され、この発光部及び受光部は同期移動するように構成された測定装置(スキャナー)により行い、毛羽立ちの有無は目視観察により評価し、ハンドリング性はプリプレグの作製時における加工性のし易さ、具体的には毛羽の除去の頻度、目ズレの有無などにより評価した。
【0074】
また、曲げ試験及び層間せん断試験は、図14に図示したように、試料Aを支持体Cによる支点間距離Lを所定値に設定した状態で圧子Bにより荷重Pを加えることで行った。
【0075】
具体的には、曲げ試験は、JIS K7074に準拠した3点曲げにより行い、試料の厚さ:2±0.4mm、幅:15±0.2mm、長さ:100±1mmとし、試験条件は、支点間距離:80±0.2mm、試験速度:1mm/minとし、曲げ強度は、(3*P*L)/(2*b*h)から求めた。また、層間せん断試験は、JIS K7078に準拠した3点曲げにより行い、試料の厚さ:1.8〜4.2mm、幅:10.0±0.2、全長:7×試料厚さとし、試験条件は、支点間距離:5×試料厚さ、試験速度:1mm/min、層間せん断強度は(3/4)*P/(b*h)から求めた。尚、P:荷重(N)、L:支点間距離(mm)、b:試料片幅(mm)、h:試料片厚さ(mm)である。
【0076】
比較例1と比較例2との比較から、超音波開繊によりカバーファクターが向上し、それに伴い複合材料とした場合の曲げ強度及び層間せん断強度は若干向上するものの、毛羽立ちが生じ、また、ハンドリング性も改善されないことが確認できた。なお、比較例1に比べ比較例2の層間せん断強度が若干高いのは、比較例2の織物の扁平率が高いことに起因する。言い換えれば、カバーファクターが高いため糸が扁平状になっており、これにより単位面積内に繊維が隙間無く配されることから、樹脂の濡れ透過性が良好となり、樹脂が均一に含浸し、複合材料として強度が発現していると考えられる。
【0077】
実施例1及び実施例2は、カバーファクターを限界まで向上させることが可能でありながら、比較例2のように毛羽立ちが生ぜず、加えてハンドリング性が改善されることが確認でき、しかも、複合材料とした場合の曲げ強度及び層間せん断強度の向上率も比較例2より高くなることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1の概略説明斜視図である。
【図2】実施例1に係る当接体の概略説明斜視図である。
【図3】実施例1の突起の移動経路を示す概略説明図である。
【図4】実施例1の別例の突起の移動経路を示す概略説明図である。
【図5】開繊前の織物の概略説明断面図である。
【図6】開繊後の織物の概略説明断面図である。
【図7】実施例1の具体的な構成例を示す拡大説明断面図である。
【図8】実施例2の概略説明平面図である。
【図9】実施例2の別例の概略説明平面図である。
【図10】実施例2に係る当接体の当接部の概略説明側面図である。
【図11】実施例2に係る当接体の当接部の概略説明側面図である。
【図12】実施例2に係る当接体の当接部の概略説明斜視図である。
【図13】実験結果を示す表である。
【図14】曲げ試験及び層間せん断試験の概略説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 繊維フィラメント
2 経糸
3 緯糸
4 織物
5 保護フィルム
6 当接体
8 突起
10 棒状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維フィラメントを収束した経糸と緯糸とを織成して成る織物を開繊する織物の開繊方法であって、前記織物の表面に保護フィルムを介して当接体を設け、この当接体を前記織物に対して前記経糸若しくは緯糸の長手方向斜めに相対移動させることで該経糸若しくは緯糸を開繊することを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項2】
複数の繊維フィラメントを収束した経糸と緯糸とを織成して成る織物を開繊する織物の開繊方法であって、前記織物の表面に保護フィルムを介して当接体を設け、この当接体を回転させながら前記織物に対して相対移動させることで該経糸若しくは緯糸を開繊することを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項3】
請求項2記載の織物の開繊方法において、前記回転は偏心回転であることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体を前記織物に対して移動させることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記織物は搬送されているものであることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体は振動せしめられていることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体にして前記保護フィルムを介して前記織物の表面に当接する当接部には、凸湾曲条が環状に設けられた突起が設けられていることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記当接体にして前記保護フィルムを介して前記織物の表面に当接する当接部には、多数の棒状体が設けられていることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記繊維フィラメントは無機繊維フィラメントであることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項10】
請求項9記載の織物の開繊方法において、前記無機繊維フィラメントは炭素繊維フィラメントであることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項11】
請求項1〜8いずれか1項に記載の織物の開繊方法において、前記繊維フィラメントは有機繊維フィラメントであることを特徴とする織物の開繊方法。
【請求項12】
請求項1〜11いずれか1項に記載の織物の開繊方法により開繊されたことを特徴とする織物。
【請求項13】
請求項12記載の織物において、カバーファクターが96%以上であることを特徴とする織物。
【請求項14】
請求項12,13いずれか1項に記載の織物を基材とし、この基材に樹脂を含浸させて成ることを特徴とする複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−41150(P2009−41150A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209593(P2007−209593)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】