説明

織物

【課題】 張り・腰、ソフト感、ふくらみ感に優れ、かつ良好な滑脱抵抗力を具備する、仮撚捲縮糸使いの織物を提供する。
【解決手段】 合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いてなる織物において、該合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を構成するフィラメントが特定の断面特性を有し、カバーファクターが1000〜2500であり、縫目滑脱が2.0mm以下である織物。特に合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸は、製織前において、沸水処理後の伸長率が120%以上、トルクが100T/M以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の断面特性を有する合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いた織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いた織物が知られているが、強度、寸法安定性などに優れる一方で、目ずれが発生し易いという問題があり、その改善が図られている。
【0003】
例えば、特許文献1において、特定のカバーファクターで構成されたポリエステル系裏地が提案されている。
【特許文献1】特開2002−309423号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記裏地では、滑脱抵抗力を上げるためにカバーファクターが大きく設定されており、これに伴う風合い硬化を柔軟剤付与によって解決する手段が採用されている。このような手段は、最終製品の風合い調整を困難にするだけでなく、コスト上昇をも招く傾向にある。また、上記特許文献1に開示されている技術は、丸断面ポリエステル系フィラメント糸の生糸を使用する場合にのみ有効であって、仮撚捲縮糸の場合には、捲縮により、フィラメント同士の接触面積が小さくなると同時に経糸と緯糸との接触面積が減少し、滑脱抵抗力が低下するという問題が生じる。このように、仮撚捲縮糸を用いて良好な滑脱抵抗力を具備する織物を得るには、高密度に製織する以外に手段がなく、たとえ後に柔軟剤を付与しても風合い硬化を改善できないのが現状である。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題を解決し、張り・腰、ソフト感、ふくらみ感に優れ、かつ良好な滑脱抵抗力を具備する、仮撚捲縮糸使いの織物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の断面特性を有する合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用い、特定のカバーファクターに設定することにより、良好な滑脱抵抗力を具備する織物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いてなる織物において、該合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を構成するフィラメントが下記(1)〜(3)式に示す断面特性を有し、カバーファクター(CF)が1000〜2500であり、縫目滑脱が2.0mm以下であることを特徴とする織物を要旨とするものである。
【0008】
【数1】

【0009】
そして、本発明には、製織前における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸の沸水処理後の伸長率が120%以上であること、製織前における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸のトルクが100T/M以上であることが好ましい態様として含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の織物は、特定の断面特性を有する合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いてなるものであり、高密度に製織されていないにもかかわらず、良好な滑脱抵抗力を具備し、同時に張り・腰、ソフト感、ふくらみ感などにも優れている。
【0011】
したがって、本発明の織物は、婦人、紳士などの一般衣料用途は勿論、カーシート、カーテンなどのインテリア用途などにも好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の織物は、合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いてなるものである。
【0014】
本発明においては、この仮撚捲縮糸が織物に含まれてさえいればよいが、発明の効果をより顕著なものとするには、30質量%以上含まれることが好ましく、50質量%以上がより好ましい。最も好ましいのは、上記仮撚捲縮糸のみを用いる態様である。
【0015】
本発明における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸は、フィラメントから構成され、そのフィラメントは、熱可塑性の重合体からなるものである。熱可塑性の重合体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PETを主成分とする共重合ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどのポリエステルや、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミドの他、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体などのポリ乳酸などがあげられる。また、必要に応じて、上記の重合体中に、酸化チタンなどの艶消剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤、抗菌剤、消臭剤、導電性付与剤などを含有させてもよい。
【0016】
そして、本発明における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸は、下記(1)〜(3)式に示す断面特性を満足することが必要である。
【0017】
【数2】

【0018】
ここで、CSとは平均断面変形率を指す。平均断面変形率とは、合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を構成するフィラメントの断面変形率の平均値である。そして、断面変形率とは、フィラメントの断面写真に描かれた内接円と外接円との直径比をいう。平均断面変形率を求めるには、まず、織物から採取した合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸の断面写真を撮影し、次に個々のフィラメントの断面変形率を算出した後、それらの数値を平均する。但し、フィラメント数が50本以上ある場合は、適宜選択した50本のフィラメントの断面変形率を算出し、それらの数値を平均する。
【0019】
本発明においては、上記のように平均断面変形率(CS)が2.0以上である必要があり、2.5〜5.0であることが好ましい。
【0020】
また、本発明においては、上記のように合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を構成するフィラメントの内、断面変形率が2.0以上であるフィラメントの割合(S2.0)が50%以上である必要があり、60〜100%であることが好ましい。S2.0は、次式によって算出される。
【0021】
【数3】

【0022】
ここで、全フィラメント数とは、合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を構成するフィラメントの数をいう。
【0023】
さらに、本発明においては、上記のように合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を構成するフィラメントの内、断面変形率が2.5以上であるフィラメントの割合(S2.5)が20%以上である必要があり、30〜100%であることが好ましい。S2.5は、次式によって算出される。
【0024】
【数4】

【0025】
このように本発明における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸は、上記(1)〜(3)式に示す断面特性を有しており、これにより、フィラメント同士の接触面積が大きくなると同時に経糸と緯糸との接触面積も大きくなって摩擦抵抗が増し、滑脱抵抗力が向上する。
【0026】
また、本発明の織物においては、カバーファクター(CF)が1000〜2500であることが必要であり、1500〜2200であることが好ましい。カバーファクターをこのような範囲に設定することにより、張り・腰、ソフト感、ふくらみ感を一層発現することができると共に、上記した仮撚捲縮糸の断面特性による滑脱抵抗力向上の効果をより顕著なものとすることができる。つまり、カバーファクターが1000未満であると、織物の密度が粗くなり、滑脱抵抗力が低下する。一方、2500を超えると、滑脱抵抗力が向上するものの、織物に空隙が少なくなり、ソフト感、ふくらみ感が損なわれる。
【0027】
ここで、カバーファクター(CF)は、下記式によって算出される。
【0028】
【数5】

【0029】
一般に織物において、カバーファクターを高く設定すれば必然的に滑脱抵抗力は増し、それに伴いソフト感、ふくらみ感などが低下する傾向にある。本発明の織物は、カバーファクターを高く設定しなくとも、すなわち高密度に製織しなくとも、良好な滑脱抵抗力を具備しており、張り・腰、ソフト感、ふくらみ感などに優れている。
【0030】
さらに、本発明の織物においては、縫目滑脱が2.0mm以下であることが必要であり、1.5mm以下であることが好ましく、0〜1.0mmであることがより好ましい。縫目滑脱が2.0mmを超えると、織物に張力が掛かった際に目ずれが生じ、織物の品位が著しく低下する。縫目滑脱は、JIS L1096記載の滑脱抵抗力B法に準じて測定する。
【0031】
次に、本発明の織物の好ましい製法について説明する。
【0032】
図1は、本発明における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸8の製法例を示す概略工程図である。図1において、スプール2から引き出された供給糸1を、ガイド3の通過後、フィードローラー4、ヒーター5、仮撚施撚体6及び第1デリベリローラー7を順次通過させることで仮撚加工し、当該合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸8を得ることができる。仮撚加工の条件としては、延伸倍率として1.4〜1.7倍が好ましく、仮撚係数(仮撚係数=仮撚数(T/M)×√(延伸後のトータル繊度(dtex)/1.11)として32000〜38000が好ましく、ヒーター温度として210〜240℃が好ましい。
【0033】
得られた合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸の糸質物性として、沸水処理後の伸長率が120%以上であることが好ましい。伸長率がこのような範囲にあると、仮撚捲縮糸の捲縮が細かくなって単位長さあたりの捲縮数が増えるため、織物において、フィラメント同士の接触面積が大きくなると同時に経糸と緯糸との接触面積も大きくなって摩擦抵抗が増し、滑脱抵抗力が増す傾向にあり、加えて、織物の嵩高性も向上する傾向にあるため好ましい。沸水処理後の伸長率は、当該合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を95℃の熱水中に30分間浸漬し、しかる後にJIS L1013の伸縮性B法に準じて測定する。
【0034】
さらに、得られた合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸の糸質物性として、トルクが100T/M以上であることが好ましい。トルクがこのような範囲にあると、仮撚捲縮糸における捩じれ作用によってフィラメント同士が密着し易くなるため、織物の滑脱抵抗力が一層増す傾向にあり好ましい。トルクは、当該合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸をU字状に吊り下げ、その両上端にそれぞれ1/34(cN/dtex)の荷重を掛けて固定し、次に、U字状をした仮撚捲縮糸の下端に1/340(cN/dtex)の荷重を掛け、仮撚捲縮糸が旋回を停止したときの1m当たりの撚数を求め、この値をトルクとする。
【0035】
得られた合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸においては、沸水処理後の伸長率、トルクが共に上記した範囲内にあることが特に好ましく、これにより織物のふくらみ感を強調できる。
【0036】
なお、上記の沸水処理後の伸長率、トルクについては、仮撚加工によって得られた合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸、すなわち、製織前における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を対象とするものであって、染色加工を経て得られる本発明の織物に含まれる合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を対象とするものではない。
【0037】
合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を得た後は、公知の方法で製織、染色加工を行い、本発明の織物を得ることができる。なお、染色加工の際、柔軟剤を付与すると、ソフト感、ふくらみ感が増すので好ましい。柔軟剤としては、特に限定されるものではないが、シリコーン系樹脂が好ましく採用できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。実施例における織物の風合い評価を以下の方法に準じ、それ以外の特性を前述の方法に準じ測定した。
(織物の風合い)
張り・腰、ソフト感、ふくらみ感を官能評価した。評価者は10名とし、下記の評価基準で最も人数の多い評価を採用した。
○:良好、△:普通、×:不足
【0039】
(実施例1)
供給糸1として、複屈折率が56×10−3のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸255dtex48fを用い、図1の工程に準じ、表1記載の条件で仮撚加工し、163dtex48fの合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を得た。
【0040】
得られた仮撚捲縮糸を経緯糸に用いて、経糸密度72本/2.54cm、緯糸密度50本/2.54cmの平織物を製織し、精練の後、分散染料を用いて染色し、しかる後にファイナルセットして本発明の織物を得た。この織物の経糸密度は88本/2.54cmであり、緯糸密度は65本/2.54cmであり、カバーファクターは1851であった。
【0041】
(比較例1)
仮撚加工条件を表1記載の条件に変更しての合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を得ること、並びにファイナルセット後の織物における経糸密度を85本/2.54cm、同緯糸密度を63本/2.54cm、同カバーファクターを1826とする以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0042】
(比較例2)
比較例1における仮撚捲縮糸を用いて、経糸密度112本/2.54cm、緯糸密度93本/2.54cmの平織物を製織後、実施例1と同様に精練、染色、ファイナルセットして織物を得た。この織物の経糸密度は125本/2.54cmであり、緯糸密度は105本/2.54cmであり、カバーファクターは2838であった。
【0043】
以上の実施例及び比較例における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を製造する際の仮撚加工条件、及び得られた仮撚捲縮糸の糸質物性、並びにファイナルセット後の織物の特性を、下記表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、本発明の織物は、滑脱抵抗力に優れ、張り・腰、ソフト感、ふくらみ感のいずれにも優れるものであった。
【0046】
これに対し、比較例1においては、張り、腰、ソフト感を有するものの、仮撚捲縮糸の断面特性が本発明の構成要件を満足しないため、滑脱抵抗力に劣るものとなった。さらに、製織前における仮撚捲縮糸の沸水処理後の伸長率、トルクが共に小さいため、ふくらみ感に欠けるものとなった。
【0047】
比較例2においては、カバーファクターが大きいので、縫目滑脱は良好であるものの、ソフト感、ふくらみ感に欠けるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸の製法例を示す概略工程図である。
【符号の説明】
【0049】
1 供給糸
2 スプール
3 ガイド
4 フィードローラー
5 ヒーター
6 仮撚施撚体
7 第1デリベリローラー
8 合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いてなる織物において、該合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸を構成するフィラメントが下記(1)〜(3)式に示す断面特性を有し、カバーファクター(CF)が1000〜2500であり、縫目滑脱が2.0mm以下であることを特徴とする織物。
【数1】

【請求項2】
製織前における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸の沸水処理後の伸長率が120%以上であることを特徴とする請求項1記載の織物。
【請求項3】
製織前における合成繊維マルチフィラメント仮撚捲縮糸のトルクが100T/M以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の織物。


【図1】
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【公開番号】特開2007−270359(P2007−270359A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93595(P2006−93595)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】