説明

置換ビフェニルアニリド類を調製する方法

本発明は、式(I)で表される置換ビフェニルアニリドを調製する方法に関し、ここで、該方法は、式(II)で表される化合物を、溶媒中で、塩基の存在下、及び、パラジウム触媒[ここで、該パラジウム触媒は、以下の群から選択される:(a)パラジウムの酸化状態がゼロであるパラジウム−トリアリールホスフィン錯体若しくはパラジウム−トリアルキルホスフィン錯体、(b)錯体リガンドとしてのトリアリールホスフィン若しくはトリアルキルホスフィンの存在下におけるパラジウムの塩、又は、(c)トリアリールホスフィン若しくはトリアルキルホスフィンの存在下における、場合により担体に担持されていてもよい金属パラジウム]の存在下で、式(III)で表されるジフェニルボリン酸と反応させることを含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)
【0002】
【化1】

〔式中、置換基は以下のように定義される:
Hetは、
【0003】
【化2】

[ここで、“#”は、当該残基の置換位置を示している]
から選択されるヘテロシクリル残基であり;
Xは、水素、フッ素又は塩素であり;
は、C−C−ハロアルキルであり;
は、シアノ、ニトロ、ハロゲン、C−C−アルキル、C−C−アルケニル、C−C−アルキニル、C−C−アルコキシ、C−C−ハロアルキル、(C−C−アルキル)カルボニル又はフェニルであり;
nは、1、2又は3であり、ここで、nが2又は3である場合、Rラジカルは、異なっていてもよい〕
で表される置換ビフェニルアニリドを調製する方法に関し、ここで、該方法は、式(II)
【0004】
【化3】

〔式中、Halは、ハロゲンであり、X及びHetは、上記で定義されているとおりである〕
で表される化合物を、溶媒中で、塩基の存在下、及び、パラジウム触媒[ここで、該パラジウム触媒は、以下のものから成る群から選択される:(a)パラジウムの酸化状態がゼロであるパラジウム−トリアリールホスフィン錯体若しくはパラジウム−トリアルキルホスフィン錯体、(b)錯体リガンドとしてのトリアリールホスフィン若しくはトリアルキルホスフィンの存在下におけるパラジウムの塩、又は、(c)トリアリールホスフィン若しくはトリアルキルホスフィンの存在下における、場合により担体に担持されていてもよい金属パラジウム]の存在下で、式(III)
【0005】
【化4】

〔式中、R及びnは、上記で定義されているとおりである〕
で表されるジフェニルボリン酸と反応させることを含む(ここで、使用するトリアリールホスフィン類又はトリアルキルホスフィン類は、置換されていてもよい)。
【背景技術】
【0006】
「Tetrahedron Lett. 32, page 2277(1991)」には、[1,4−ビス(ジフェニルホスフィン)−ブタン]パラジウム(II)ジクロリド触媒を用いてフェニルボロン酸とクロロベンゼンの間のカップリング反応が進行するが、その際の収率は28%に過ぎないということが記載されている。
【0007】
EP−A 0888261には、パラジウム触媒と塩基の存在下でクロロニトロベンゼンをフェニルボロン酸と反応させることによるニトロビフェニル類の調製方法が開示されている。この調製方法においては、非常に高い触媒濃度が必要である。
【0008】
WO 2006/092429及びWO 2007/138089は、それぞれ、パラジウム触媒の存在下で置換ジフェニルボリン酸をジハロアリール化合物とカップリングさせることによる置換ビフェニル類の調製方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0888261号
【特許文献2】国際公開第2006/092429号
【特許文献3】国際公開第2007/138089号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett. 32, page 2277(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、置換されているビフェニルアニリド類を位置選択的に調製するために工業規模で実施することが可能な、引き下げられたパラジウム触媒濃度で機能する経済的に実用的な調製方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、冒頭で定義した調製方法が見いだされた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ジフェニルボリン酸(III)は、スキーム1によって示されているように、WO 2007/138089に従って、溶媒としてのテトラヒドロフランの中で、場合により置換されていてもよいフェニルマグネシウムクロリド(V)をホウ酸トリアルキル(好ましくは、ホウ酸トリメチル)と反応させることによって得られる。
【0014】
【化5】

は、C−C−アルキル、好ましくは、メチルである。
【0015】
ジフェニルボリン酸(III)の高収率にとって不可欠なことは、使用する置換クロロベンゼン(IV)に基づいて僅かに0.7eqのホウ酸トリアルキルを使用することである。EP−A 0888261に記載されているように、1.1eqのホウ酸トリアルキルを使用すればフェニルボロン酸が生成される。
【0016】
調製方法のこの段階における反応温度は、20〜60℃、好ましくは、40〜50℃である。
【0017】
本発明の調製方法で調製された置換ビフェニルは、いずれの場合にも単独で及び組み合わされて、以下の好ましい置換基を有している。
【0018】
Hetは、
【0019】
【化6】

[ここで、“#”は、当該残基の置換位置を示している]
から選択されるヘテロシクリル残基であり;
は、トリフルオロメチル又はジフルオロメチル、さらに好ましくは、ジフルオロメチルであり;
は、シアノ、ニトロ、フッ素、塩素、臭素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、アリル、プロパルギル、メトキシ、エトキシ、トリフルオロメチル又はフェニル、さらに好ましくは、フッ素、塩素、メチル又はメトキシ、最も好ましくは、フッ素又は塩素であり;
nは、1又は2、好ましくは、2である。
【0020】
続いて、均質に触媒されるスズキビアリールクロスカップリングをスキーム2に従って行う。
【0021】
【化7】

【0022】
式(III)〔式中、R及びnは、上記で定義されているとおりである〕で表されるジフェニルボリン酸から出発するのが好ましい。
【0023】
さらに好ましい出発物質は、nが1又は2(特に、2)であるジフェニルボリン酸(III)である。3位及び4位が置換されているか又は4位のみが置換されているジフェニルボリン酸(III)が特に好ましい。
【0024】
ジ(2,3−ジフルオロフェニル)ボリン酸、ジ(3,4−ジフルオロフェニル)ボリン酸、ジ(2,3−ジクロロフェニル)ボリン酸、並びに、特に、ジ(3,4−ジクロロフェニル)ボリン酸及び(4−クロロフェニル)ボリン酸が、出発化合物(III)として極めて特に好ましい。
【0025】
以下の化合物(II)から出発するのが好ましい:
N−(2−クロロ−4−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモ−4−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−クロロ−4−フルオロフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモ−4−フルオロフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−クロロ−6−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモ−6−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−クロロ−6−フルオロフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモ−6−フルオロフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−クロロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−クロロフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、2−クロロ−N−(2−クロロフェニル)ピリジン−3−カルボキサミド、2−クロロ−N−(2−ブロモフェニル)ピリジン−3−カルボキサミド。N−(2−クロロ−4−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモ−4−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、2−クロロ−N−(2−クロロフェニル)ピリジン−3−カルボキサミド及び2−クロロ−N−(2−ブロモフェニル)ピリジン−3−カルボキサミドが特に好ましい。
【0026】
式(II)で表される化合物は、WO 03/070705に記載されているよう調製することができる。下記式によって示されているように、例えば、出発物質としての1−メチル−3−(トリフルオロメチル)−1H−ピラゾール−4−カルボニルクロリドと2−ブロモ−4−フルオロアニリン並びに塩基を使用する。
【0027】
【化8】

【0028】
化合物(II)は、ジフェニルボリン酸(III)(ジフェニルボリン酸等価体)に基づいて、通常、等モル量で、好ましくは、最大で20%までの過剰量で、特に、最大で50%までの過剰量で使用する。使用する塩基は、有機塩基、例えば、第三級アミン類などであり得る。例えば、トリエチルアミン又はジメチルシクロヘキシルアミンなどを使用するのが好ましい。使用する塩基は、好ましくは、混合された及び特に個別の、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ土類金属酢酸塩、アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ土類金属アルコキシドである。特に好ましい塩基は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩である。とりわけ好ましい塩基は、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム、並びに、さらに、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムなどである。該塩基は、本発明による調製方法において、ジフェニルボリン酸(III)の量に基づいて、好ましくは、100〜500mol%の割合、さらに好ましくは、150〜400mol%の割合で使用する。適切なパラジウム触媒は、パラジウムの酸化状態がゼロであるパラジウム−リガンド錯体、錯体リガンドの存在下におけるパラジウムの塩、又は、(好ましくは錯体リガンドの存在下における)場合により担体に担持されていてもよい金属パラジウムである。適切な錯体リガンドは、無電荷のリガンド、例えば、アリール環が場合により置換されていてもよいトリアリールホスフィン類及びトリアルキルホスフィン類、例えば、トリフェニルホスフィン(TPP)、ジ−1−アダマンチル−n−ブチルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン(TtBP)又は2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−ビフェニルなどである。
【0029】
さらに、文献には、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−H2−イミダゾリウムクロリド(cf.、例えば、「G.A.Grasa et al. Organometallics 2002, 21, 2866」)及びトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフィト(cf.、「A.Zapf et al., Chem.Eur.J. 2000, 6, 1830」)などを包含する、別の構造の類に属する特に反応性であるさらなる錯体リガンドも記載されている。
【0030】
テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)などの第4級アンモニウム塩を加えることによって、錯体リガンドの反応性を増強することができる(cf.、例えば、「D.Zim et al., Tetrahedron Lett. 2000, 41, 8199」)。必要に応じ、スルホン酸基若しくはスルホン酸塩基、カルボン酸基若しくはカルボン酸塩基、ホスホン酸基若しくはホスホニウム基若しくはホスホン酸塩基、ペルアルキルアンモニウム基、ヒドロキシル基及びポリエーテル基などのさまざまな置換基によって、上記パラジウム錯体の水溶性を改善することができる。パラジウムの酸化状態がゼロである該パラジウム−リガンド錯体の中で、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを使用するのが好ましく、さらに、テトラキス[トリ(o−トリル)ホスフィン]パラジウムを使用するのも好ましい。錯体リガンドの存在下で使用するパラジウムの塩においては、パラジウムは、通常、正の二価の酸化状態で存在する。塩化パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート(Pd(acac))又はビスアセトニトリルパラジウムクロリドを使用するのが好ましい。パラジウムビスアセチルアセトナート(Pd(acac))を使用するのが特に好ましい。
【0031】
一般に、1〜60当量、好ましくは、1〜25当量の上記錯体リガンド(特に、トリフェニルホスフィン)を、1当量の上記パラジウム塩と合する。
【0032】
本発明の最も好ましい実施形態では、パラジウムビスアセチルアセトナートとトリ−tert−ブチルホスフィンを等モル量で使用する。
【0033】
EP−A 0888261には、1当量のパラジウム触媒当たり2〜6当量のトリフェニルホスフィンを使用することが記載されている。大過剰量のリガンドを使用することは、該文献中では一般に不利であるとみなされているが、それは、触媒として活性な錯体が大過剰量のリガンドの使用によって不活性化されることが予期されるからである(cf.、例えば、「J.Hassan et al., Chem. Rev. 2002, 102, 1359」)。かくして、少量の触媒の使用と組み合わせて多量のトリフェニルホスフィンを使用することにより、結果として、本発明による調製方法の全収率が増大したこと、従って、経済的な実用性が向上したということは、驚くべきことであった。金属パラジウムは、好ましくは、粉末化形態で使用するか、又は、担体物質上に担持された形態、例えば、活性炭担持パラジウム、アルミナ担持パラジウム、炭酸バリウム担持パラジウム、硫酸バリウム担持パラジウム、炭酸カルシウム担持パラジウム、モンモリロナイトのようなアルミノケイ酸パラジウム、SiO担持パラジウム及び炭酸カルシウム担持パラジウムなどの形態(いずれの場合にも、パラジウム含有量は、0.5〜12重量%である)で使用する。これらの触媒は、パラジウム及び担体物質に加えて、さらなるドーパント(例えば、鉛)も含有することができる。
【0034】
場合により担体に担持されていてもよい金属パラジウムを使用する場合、上記錯体リガンドを使用することも特に好ましく、特に、錯体リガンドとしてのトリフェニルホスフィン(ここで、該トリフェニルホスフィン内のフェニル基は、好ましくは、合計で1〜3のスルホネート基で置換されている)の存在下において活性炭担持パラジウムを使用することが特に好ましい。本発明による調製方法において、該パラジウム触媒は、化合物(II)の量に基づいて、0.001〜1.0mol%という低い割合で使用し、好ましくは、0.005〜0.5mol%又は0.01〜0.5mol%、特に、0.005〜0.05mol%という低い割合で使用する。
【0035】
多量の錯体リガンドの使用と組み合わせて少量のパラジウム塩を使用することは、従来技術の調製方法を上回る本調製方法のコスト面において著しく有利となる。
【0036】
本発明による調製方法は、水性相と固相(即ち、触媒)からなる二相系の中で実施することができる。その場合、その水性相は、水に加えて水溶性有機溶媒も含み得る。
【0037】
本発明による調製方法に適した有機溶媒は、エーテル類、例えば、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン及びtert−ブチルメチルエーテル、炭化水素類、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレン、アルコール類、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、1−ブタノール、2−ブタノール及びtert−ブタノール、ケトン類、例えば、アセトン、エチルメチルケトン及びイソブチルメチルケトン、アミド類、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドンなどであって、これらは、いずれの場合にも、単独であるか又は混合物の形態にある。
【0038】
好ましい溶媒は、いずれの場合にも単独又は混合物の形態にある、エーテル類、例えば、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン及びジオキサン、炭化水素類、例えば、シクロヘキサン、トルエン及びキシレン、アルコール類、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール及びtert−ブタノールである。本発明による調製方法の特に好ましい変形態様においては、水、1種類以上の水不溶性溶媒及び1種類以上の水溶性溶媒を使用し、例えば、水とジオキサンの混合物、又は、水とテトラヒドロフランの混合物、又は、水とジオキサンとエタノールの混合物、又は、水とテトラヒドロフランとメタノールの混合物、又は、水とトルエンとテトラヒドロフランの混合物などを使用し、好ましくは、水とテトラヒドロフランの混合物、又は、水とテトラヒドロフランとメタノールの混合物を使用する。
【0039】
溶媒の総量は、化合物(II)の1モル当たり、通常、3000〜500gであり、好ましくは、2000〜700gである。
【0040】
適切には、該調製方法は、水と1種類以上の不活性有機溶媒の混合物に、化合物(II)、ジフェニル−ボリン酸(III)、塩基及び触媒量のパラジウム触媒を添加し、50℃〜120℃の温度、好ましくは、70℃〜110℃の温度、さらに好ましくは、90℃〜100℃の温度で、1〜50時間、好ましくは、2〜24時間撹拌することによって実施する。
【0041】
使用する溶媒と温度に応じて、圧力は、1bar〜6bar、好ましくは、1bar〜4barとする。水とテトラヒドロフランの中で該反応を実施するのが好ましい。該反応は、そのような調製方法に適した慣用の装置内で実施することができる。反応が完了次第、固体として得られたパラジウム触媒を、例えば濾過によって、除去し、その粗製生成物から1種類又は複数種類の溶媒を除去する。充分には水溶性ではない生成物の場合、水相の分離に際して、粗製生成物から水溶性のパラジウム触媒又は錯体リガンドを完全に除去する。次に、その特定の生成物に適した、当業者には知られている方法によって、例えば、再結晶、蒸留、昇華、帯域融解、溶融結晶化又はクロマトグラフィーなどによって、さらなる精製を実施することができる。
【0042】
本発明の好ましいさらなる実施形態では、該反応は、トルエン中で実施するか、又は、水とトルエンの混合物中で、例えば、1/1混合物(水/トルエン)中で実施する。反応が完了次第、生成物及び触媒は、相分離によって分離させることができる。
【0043】
本発明の調製方法によって、例えば以下のものを調製することができる:
2−クロロ−N−(4’−クロロビフェニル−2−イル)ピリジン−3−カルボキサミド、N−(3’,4’−ジクロロビフェニル−2−イル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(3’,4’−ジクロロ−5−フルオロビフェニル−2−イル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(3’,4’−ジクロロ−5−フルオロビフェニル−2−イル)−3−(トリフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド。
【0044】
本発明による調製方法では、化合物(I)が、定量的収率にまで達する極めて高い収率で且つ極めて良好な純度で得られる。本発明の調製成方法によって得ることができる置換ビフェニル類は、殺菌性作物保護活性成分の前駆物質として適している(cf.、WO 03/070705)。
【実施例】
【0045】
実施例1: ビス(3,4−ジクロロフェニル)ボリン酸の合成
乾燥フラスコに、DCM中のトリブロモボラン(13mL、13mmol、1M)を添加した。この溶液を−62℃に冷却し、得られた冷溶液に、ブロモ(3,4−ジクロロフェニル)マグネシウム(50mL、25mmol、THF中0.5M)を滴下して加えた。その反応混合物を室温まで昇温させ、一晩撹拌した。減圧下に溶媒を除去した。その残渣をDCMに溶解させ、1N HClをゆっくりと添加することによって加水分解した。有機層を分離し、ブラインで洗浄し、減圧下に溶媒を除去した。得られた油状物を、溶離剤として25%酢酸エチルを使用するシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。これによって、標題化合物が固体として得られた(3.34g、10.4mmol、収率80%)。
【0046】
実施例2: N−(3’,4’−ジクロロ−5−フルオロビフェニル−2−イル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド(DMI3−5)の合成
0.5L容二重ジャケット反応器の中に、THF/トルエン混合物(2/3 w/w)中の、ジ(3,4−ジクロロフェニル)ボリン酸(0.2mol)の溶液178gと水13gを入れる。水酸化ナトリウムの10%水溶液(32g)を添加してpHを7.4に調節する。N−(2−ブロモ−4−フルオロフェニル)−1−メチル−3−(ジフルオロメチル)−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド(56g、0.2mol)を添加し、次いで、その反応混合物を脱酸素し、75−80℃に加熱する。この温度で、水とトルエンの1/1混合物に溶解させた0.06g(0.2mmol)のトリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフルオロボレートと0.06g(0.2mmol)のパラジウムアセチルアセトナートの混合物を入れる。10%(w/w)水酸化ナトリウム溶液(消費量 98g)を添加することによって、pHを8.0−8.5に調節し、そして、その範囲内に維持する。反応が終了した後、その反応混合物を20℃に冷却し、水相を分離除去する(195g)。有機層(190g)は、22%(w/w)(HPLC)のN−(3’,4’−ジクロロ−5−フルオロビフェニル−2−イル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミドを含んでいる(収率50%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

〔式中、
Hetは、
【化2】

[ここで、“#”は、当該残基の置換位置を示している]
から選択されるヘテロシクリル残基であり;
Xは、水素、フッ素又は塩素であり;
は、C−C−ハロアルキルであり;
は、シアノ、ニトロ、ハロゲン、C−C−アルキル、C−C−アルケニル、C−C−アルキニル、C−C−アルコキシ、C−C−ハロアルキル、(C−C−アルキル)カルボニル又はフェニルであり;
は、C−C−アルキル、C−C−アルケニル又はC−C−アルキニルであり;
nは、1、2又は3であり、ここで、nが2又は3である場合、Rラジカルは、異なっていてもよい〕
で表される置換ビフェニルアニリドを調製する方法であって、式(II)
【化3】

〔式中、Halは、ハロゲンであり、X及びHetは、上記で定義されているとおりである〕
で表される化合物を、溶媒中で、塩基の存在下、及び、パラジウム触媒[ここで、該パラジウム触媒は、以下のものから成る群から選択される:
(a)パラジウムの酸化状態がゼロであるパラジウム−トリアリールホスフィン錯体若しくはパラジウム−トリアルキルホスフィン錯体;
(b)錯体リガンドとしてのトリアリールホスフィン若しくはトリアルキルホスフィンの存在下におけるパラジウムの塩;又は、
(c)トリアリールホスフィン若しくはトリアルキルホスフィンの存在下における、場合により担体に担持されていてもよい金属パラジウム]
の存在下で、式(III)
【化4】

〔式中、R及びnは、上記で定義されているとおりである〕
で表されるジフェニルボリン酸と反応させることを含む(ここで、使用するトリアリールホスフィン類又はトリアルキルホスフィン類は、置換されていてもよい)、前記方法。
【請求項2】
使用する化合物(II)が、N−(2−クロロ−4−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、N−(2−ブロモ−4−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミド、2−クロロ−N−(2−クロロフェニル)ピリジン−3−カルボキサミド及び2−クロロ−N−(2−ブロモフェニル)ピリジン−3−カルボキサミドからなる群から選択される、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
出発化合物(III)が、3位及び4位において置換されているジフェニルボリン酸である、請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項4】
3位及び4位にフッ素又は塩素を有しているジフェニルボリン酸(III)を使用する、請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項5】
出発化合物(III)が、ジ(3,4−ジクロロフェニル)ボリン酸である、請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項6】
使用する請求項1に記載のパラジウム触媒(a)が、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム又はテトラキス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウムである、請求項1〜5に記載の調製方法。
【請求項7】
請求項1に記載のパラジウム触媒(b)を使用する、請求項1〜5に記載の調製方法。
【請求項8】
使用する請求項1に記載のパラジウム触媒(c)が、トリフェニルホスフィン(ここで、該トリフェニルホスフィンのフェニル基は、合計で1〜3のスルホネート基で置換されている)の存在下における活性炭担持金属パラジウムである、請求項1〜5に記載の調製方法。
【請求項9】
使用するパラジウム触媒(b)の塩が、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムビスアセチルアセトナート(Pd(acac))又はビスアセトニトリルパラジウムクロリドである、請求項7に記載の調製方法。
【請求項10】
パラジウム触媒(b)を使用し、そのパラジウム触媒(b)に関して、該パラジウム塩1当量当たり6〜60当量のトリフェニルホスフィンを使用する、請求項7に記載の調製方法。
【請求項11】
化合物(II)の量に基づいて、0.001〜1.0mol%のパラジウム触媒を使用する、請求項1に記載の調製方法。
【請求項12】
反応を50〜120℃の温度で実施する、請求項1に記載の調製方法。
【請求項13】
反応を水と有機溶媒の混合物の中で実施する、請求項1に記載の調製方法。
【請求項14】
使用する有機溶媒がエーテルである、請求項13に記載の調製方法。
【請求項15】
反応を1〜6barの圧力で実施する、請求項1に記載の調製方法。
【請求項16】
化合物(II)が、N−(2−クロロ−4−フルオロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミドであり、且つ、化合物(III)が、ジ(3,4−ジクロロフェニル)ボリン酸である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項17】
化合物(II)が、N−(2−クロロフェニル)−3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボキサミドであり、且つ、化合物(III)が、ジ(3,4−ジクロロフェニル)ボリン酸である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項18】
化合物(II)が、2−クロロ−N−(2−ブロモフェニル)ピリジン−3−カルボキサミドであり、且つ、化合物(III)が、(4−クロロフェニル)ボリン酸である、請求項1に記載の調製方法。

【公表番号】特表2011−515335(P2011−515335A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547089(P2010−547089)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000986
【国際公開番号】WO2009/106234
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】