説明

置換型無電解金めっき液

還元剤を使うことなく被金めっき金属表面の酸化を防止して、はんだ接合特性が良好な金皮膜を形成させる、置換型無電解金めっき液を開示する。水溶性金塩、電導性向上剤、イミノ2酢酸構造を有するキレート剤、主鎖または環中に窒素原子を2個以上含む有機化合物からなる表面酸化抑制剤、および残部としての溶媒を含んでなる、置換型無電解金めっき液。

【発明の詳細な説明】
[発明の背景]
発明の分野
本発明は、置換型無電解金めっき液に関するものである。
【背景技術】
置換型金めっき液は、電子部品に施され、通常0.2ミクロン以下の薄膜を形成させるのに使われている。これは電子部品実装時の接合部を金薄膜で保護する為で、めっき工程で置換金めっきが施された電子部品の金めっき被覆部は、実装工程においてはんだ等を用いて別の電子部品と接合されて、最終的にはパソコン、携帯電話等の電子装置として組み上げられている。
近年、電子装置が小型化、軽量化されるにつれ、置換型金めっきのはんだ接合特性が問題として採り上げられることが多くなった。これは、電子装置の小型化、軽量化への要求に応えるためにはんだ接合部の面積が小さくなっていることに加え、電子装置の移動機会の増加によって、落下等の機械的衝撃、圧迫や変形圧力に曝される機会が多くなってきていることによる。電子回路の断線を防止するために、従来よりさらに高いはんだ接合強度が必要になってきている。
置換型金めっきは、主として、下地金属(例えば銅、ニッケル、コバルト、パラジウム等)の腐食を防止し、はんだ溶融時の濡れ性を確保するために用いられているが、この置換型金めっきが正しく行われないと、はんだの接合強度が低下する。すなわち、置換型金めっきが正しく行われなかった場合、下地金属(例えば銅、ニッケル等)の酸化が起きていることがあり、このような金めっき表面をはんだ接合すると、下地金属とはんだとの間に形成される接着層が十分な強度を与えないことがある。下地金属の上に形成された金の薄膜は、はんだ溶融時にはんだ内部に拡散してゆき、界面合金層が被めっき金属とはんだとで形成される。
従来より、置換型金めっき工程中の下地金属の酸化を如何に防止するか多くの技術検討がなされている。ここで、置換型金めっきとは、めっき液中の金と、下地金属(例えば銅やニッケル等)とのイオン化傾向の差異を利用した金めっき法であって、最もイオン化しにくい金属である金をイオンとしてめっき液に溶解させ、ここに被めっき基板として下地金属を設けた基板を浸漬すると、イオン化傾向の大きい下地金属がイオンとなってめっき液に溶解し、代わりにめっき液中の金イオンが金属として下地金属上に析出して、金皮膜を形成することを利用したものである。従って、置換金めっき法では、還元剤を必要としない。
一方、還元剤を必要とする無電解金めっきは、還元型めっきとも言われており、置換型よりも厚い膜厚が必要な場合、通常は0.2ミクロン以上の場合、に使われている。
最近、還元剤を置換めっき液に添加して置換反応と還元反応とを同時に進行させる置換還元めっきと呼ばれるめっき液が紹介されている。この方法では、還元剤の作用により金が析出するだけでなく、下地金属の酸化が防止され、結果としてはんだ接合強度が改良されると解釈されている。特開2000−219973号公報では、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン等の還元剤を添加した無電解金めっき液が紹介され、特開2001−107259号公報では、次亜リン酸塩、ヒドラジン化合物の還元剤を添加した無電解金めっき液が紹介されている。
しかし、このような還元剤を添加した置換還元めっき液には、めっき液中の還元剤の分析・補充をめっき作業中に常時行なわなければならないという問題点がある。還元剤は、めっき浴の加熱により分解しこの際電子を放出する物質であるから、めっき液中に添加されて使用されるためにはこの分解反応は必要な化学反応である。このことから、めっきの進行につれて還元剤が分解し、有効な還元剤の量は次第に減少している。よって、めっき浴中に残存している還元剤の量を分析し、分解した分を補給する作業は置換還元型のめっき液には不可欠の作業といえる。還元剤の補給が良好に行われない場合には、めっき液中の還元剤濃度の変化や分解等による金析出状態の変化が生じて、良好なめっきを安定して行うことが困難になる結果、はんだ接合強度も不安定になりがちだった。
一方、通常の置換めっき液には還元剤が含有されていないので、このような作業は不要となる。特開2001−144441号公報には、めっき液中に下地金属を溶解しない錯化剤および下地金属の過剰なエッチングを抑制する金析出防止剤を必須成分とする無電解金めっき液に関する技術が紹介されている。この技術は、下地金属の過度のエッチング抑制を目的とするものであって、下地金属の酸化防止については検討がなされていない。
また、下地金属を溶解しない錯化剤を使用すると、置換反応により溶出する下地金属を安定に溶解させることが出来ず、下地金属も金と一緒に再析出を起こしやすくなり、得られる金メッキは茶色がかった色調となり、金本来のレモンイエローの色調を示さなくなることがある。
[発明の概要]
本発明は、還元剤を使うことなく、被めっき金属表面の酸化を有効に防止して、はんだ接合特性の良好な金皮膜を形成させる無電解金めっき液を提供する。換言すれば、使用時の還元剤の分析・補充が不要な置換型無電解金めっき液を提供することである。
したがって、本発明による置換型無電解金めっき液は、水溶性金塩、電導性向上剤、イミノ2酢酸型キレート剤、主鎖または環中に窒素原子を2個以上含む有機化合物からなる表面酸化抑制剤、および残部としての溶媒を含んでなること、を特徴とするものである。
本発明者らは、水溶性金塩、電導性向上剤および錯化剤からなるめっき液に各種化合物を添加して置換型無電解金めっき液を得て、この金めっき液によって形成させた金めっき皮膜にはんだ接合を行って、その接合強度を測定した。
本発明者らは、電子部品に広く用いられている銅、ニッケル等の表面には、主鎖または環中に窒素原子を2個以上含む有機化合物が表面酸化抑制剤として有効であることを見出し、本発明に到達した。
これらの一連の表面酸化抑制剤を必須成分とする本発明による置換型無電解金めっき液は、還元剤を含有しないにもかかわらず、得られる金めっき皮膜のはんだ特性が良好なものである。そして、この金めっき液は、還元剤を含有しない為、熱安定性に優れかつめっき作業中に常時還元剤の分析・補充等を行わなくても良いものである。
また、本発明のめっき液は下地金属をキレートし安定に溶解させるので、めっき液を使用することによって蓄積される置換反応生成物(金が析出する際、溶出した下地金属イオン)が、金めっき析出層に混入して、金メッキの色調(レモンイエロー)を損なうこともなく、長時間のめっき液の使用に耐えられることになる。
本発明によれば、還元剤を使うことなく、被めっき金属表面の酸化を防止して、はんだ接合特性の良好な金皮膜を形成させる置換型無電解金めっき液を提供することができる。この金めっき液は、保存安定性が良好なものであって、かつ還元剤量の分析および補給作業を全く必要としないものである。
そして、本発明による金めっき液は、めっき液中に蓄積される溶出金属、例えば、銅およびニッケル、コバルト、パラジウム等の金属イオンの影響を受けにくいものなので、良好な特性の金めっき層を安定的かつ長期にわたって形成可能なものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、はんだ接合特性を評価するための基板を示す図である。
図2AおよびBは、本発明によるめっき処理基板を示す断面図である。
図3は、はんだ接合特性の評価に用いたはんだボールを示す図である。
図4は、はんだボールのシェアー強度測定の概要を示す図である。
図5は、接合が良好な場合の剥離状態を示す図である。
図6は、接合が不良の場合の剥離状態を示す図である。
図7AおよびBは、実施例1のAuger測定結果を示す図である。
図8AおよびBは、比較例1のAuger測定結果を示す図である。
図9は、実施例3のESCA測定結果を示す図である。
[発明の具体的な説明]
<構成成分>
本発明による金めっき液の主要構成成分は、水溶性金塩、電導性向上剤、イミノ2酢酸構造を有するキレート剤、および主鎖または環中に窒素原子を2個以上含む有機化合物からなる表面酸化抑制剤である。ここで、「金めっき」とは、24K金めっき(純度98%以上)および24K金めっきから14K(純度56〜60%)程度に至るまでの各種金属種(例えば、Ni、Co、Ag、In等)との任意の合金比率の合金金めっきをも言うものである。
(1) 水溶性金塩
水溶性金塩としては、シアン化第1金カリウム、シアン化第2金カリウム、塩化第1金ナトリウム、塩化第2金ナトリウム、亜硫酸金アンモニウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金ナトリウム、チオ硫酸金ナトリウム、チオ硫酸金カリウムおよびこれらの混合物が良好な性質を示す。本発明において特に好ましいものは、シアン化第1金カリウムおよび亜硫酸金ナトリウムである。金めっき液中の水溶性金塩の濃度としては、0.1〜10g/Lの範囲が使用可能であり、特に望ましいのは0.5〜5g/Lの範囲である。
(2) 電導性向上剤
電導性向上剤としては、ホウ酸、ホウ酸塩、リン酸、リン酸塩、硫酸、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩などの無機化合物、クエン酸、クエン酸塩、リンゴ酸、リンゴ酸塩、コハク酸、コハク酸塩、乳酸、乳酸塩、マロン酸、マロン酸塩、マレイン酸、マレイン酸塩、蓚酸、蓚酸塩、酒石酸、酒石酸塩、フタル酸、フタル酸塩、安息香酸、安息香酸塩、グリシン、グリシン塩、グルタミン酸、グルタミン酸塩などの有機化合物、およびこれらの混合物が良好な性質を示す。塩化合物である場合、該化合物はカリウム塩、ナトリウム塩またはアンモニウム塩であることが好ましい。
本発明において特に好ましい電導性向上剤は、脂肪族多価カルボン酸およびこれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩である。金めっき液中の電導性向上剤の濃度は、5〜500g/Lの範囲が使用可能であり、特に好ましいのは10〜200g/Lの範囲である。
(3) キレート剤
本発明による金めっき液におけるキレート剤としては、イミノ2酢酸構造を有するキレート剤を使用する。このようなキレート剤は、金めっきが施される基板の表面金属、例えば銅、ニッケル、コバルト、鉄等(合金を含む)の金属を、金めっき処理の際にめっき液中に安定に溶解可能なものである。このような銅、ニッケル、コバルト、鉄等(合金を含む)の金属を溶解可能なイミノ2酢酸構造を有するキレート剤を必須成分として使用することによって、金めっきが施される基板の表面金属(例えば銅、ニッケル、コバルト、鉄等)のめっき液中への溶解を促進するとともに、これらの金属が再析出するのを防止することができる。
このようなイミノ2酢酸構造を有するキレート剤としては、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルイミノ2酢酸、ニトリロ3酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、プロパンジアミン4酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン4酢酸、およびこれらの水溶性塩(例えば、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、およびこれらの混合物等を挙げることができる。
イミノ2酢酸タイプの錯化剤のなかでも好ましいのはNiやCuを安定に溶解させる作用の強いキレート剤であり、酢酸ユニットを分子内に3個以上含むものが特に好ましい。即ち、ニトリロ3酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、エチレンジアミン4酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、およびこれらの水溶性塩が特に好ましい。
金めっき液中におけるイミノ2酢酸構造を有するキレート剤の濃度は、1〜200g/Lの範囲で使用され、特に好ましいのは2〜100g/Lの範囲である。
なお、このようなイミノ2酢酸構造を有するキレート剤には、必要に応じて他のキレート剤を併用することができる。但し、有機ホスホン酸化合物等のように下地金属(例えば銅、ニッケル、コバルト等)を実質的に溶解しないものは、置換反応により溶出する下地金属を安定に溶解させることが出来ず、下地金属も金と一緒に再析出を起こしやすくなって、得られる金メッキの色調が不良になったり、はんだ接合強度が不足する場合があるので、本発明では適さない。
(4) 表面酸化抑制剤
本発明において使用される表面酸化抑制剤は、主鎖または環中に窒素原子を2個以上、好ましくは3個以上、含む有機化合物である。この表面酸化抑制剤は、電子供与性化合物であることが好ましく、その場合の電子供与性が該化合物の主鎖または環中に存在する窒素原子が−NH−構造であることによって、即ち、主鎖または環中に1または2個以上の−NH−基が存在することによって、付与されているものが好ましい。
このような本発明の表面酸化抑制剤の具体例としては、下記の式〔I〕で示される脂肪族化合物および式〔II〕で示される複素環化合物を挙げることができる。

〔ここで、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜3のアルキル基、−(C−NH、−(C−OHを示す(ここで、mは0または1であり、nは0または1である)。pは0〜4の整数である。〕

〔ここで、

は、−NH−基の窒素原子および炭素原子を環中に有する複素環を示す。Rは、この複素環中の炭素原子に結合した水素、炭素数1〜3のアルキル基、アミノ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基を示す。〕
上記式〔I〕、の化合物において、R〜Rとしては水素、メチル基が好ましく、mとしては0または1、nとしては0または1、pとしては1〜3が好ましい。
上記式〔II〕の化合物において、Rとしては水素、メチル基、アミノ基が好ましい。「−NH−基の窒素原子および炭素原子を環中に有する複素環」としては5員環のものが好ましい。この五員環の複素環の残りの4原子(即ち、上記−NH−基の窒素原子以外の原子)は、4個の炭素原子、3個の炭素原子と1個の窒素原子、2個の炭素原子と2個の窒素原子、1個の炭素原子と3個の窒素原子であることができる。この炭素原子にはRが結合することができる。上記式〔II〕の複素環化合物は、1つの「−NH−基の窒素原子および炭素原子を環中に有する複素環」からなる複素単環化合物であっても、この複素単環化合物中の2つの炭素原子を共有した形で2つまたはそれ以上の環が形成されている縮合複素環系化合物であってもよい。ベンズイミダゾールおよびベンズトリアゾールはこの縮合複素環系化合物の好ましい具体例である。
前記のように、本発明における表面酸化抑制剤は電子供与性化合物であることが好ましいことから、主鎖または環中に窒素原子を3個以上含みかつこのうちの少なくとも1個以上の窒素原子が−NH−構造のものである化合物、その中でも特にπ電子過剰タイプの芳香族化合物が好ましい。
本発明の表面酸化抑制剤の好ましい具体例としては、下記化合物を例示することができる。
脂肪族化合物としては、エチレンジアミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−テトラエチレンペンタミン等が挙げられる。特に好ましいものは、窒素原子数が3個以上で、かつ少なくとも1個の窒素原子が2級アミン構造の脂肪族化合物である。
芳香族化合物としては、2−アミノピロール、3−アミノピロール、2−アミノインドール、3−アミノインドール、ピラゾール、3−アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、5−アミノピラゾール、イミダゾール、2−アミノイミダゾール、4−アミノイミダゾール、5−アミノイミダゾール、1,2,3−トリアゾール、4−アミノ−1,2,3−トリアゾール、5−アミノ−1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、5−アミノ−テトラゾール、ベンズイミダゾール、2−アミノ−ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール等が挙げられる。この中で特に好ましいものは、窒素原子数が3個以上で、かつπ電子過剰タイプの芳香族複素環化合物である。複素環化合物のπ電子過剰タイプと欠乏タイプについては、成書 “Heterocyclic Chemistry,by Adrien Albert,The Anthon Press University of London,1959”に詳細に解説されている。特開2000−14441号公報には、金析出抑制剤として多様な窒素含有化合物が列挙されているが、このうちパイ電子欠乏タイプのピリジン、トリアジン等の芳香族化合物は本発明では使用できない。
金めっき液中の表面酸化抑制剤の濃度は、5〜50000ppmの範囲で使用可能であり、特に好ましいのは10〜10000ppmの範囲である。
(5) 他の成分(任意成分)
本発明による金めっき液には、必要に応じて、結晶調整剤、界面活性剤および(または)緩衝剤などを適宜選択して添加することが出来る。本発明において好ましい結晶調整剤としては、例えばタリウムおよび鉛を例示することができる。結晶調整剤のめっき液中の濃度は、0.1〜100ppm、特に1〜50ppm、が好ましい。
界面活性剤は、主としてめっき液の被めっき基材への濡れ性を調節するために使用されるものである。本発明では、中性、アニオン性、カチオン性の界面活性剤を使用することができる。界面活性剤のめっき液中の濃度は、1〜1000ppmの範囲で適宜使用することができる。
緩衝剤に関しては、電導塩成分として緩衝作用を持つ化合物(緩衝剤)が使われることもあるが、別途添加することも可能である。フタル酸塩、燐酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、酢酸塩などを10〜200g/Lの範囲で使用することが出来る。
(6) 金めっき液の使用
上記の成分からなる本発明による置換型無電解金めっき液は、浴槽に入れられ、所定のpHに調整された後、加熱され、使用される。pHは通常4〜8の範囲で、浴温は通常60〜100℃の範囲である。
めっき液に浸漬される被めっき材は、金属部に好ましくは銅または銅合金、または銅上の形成されたニッケルめっき皮膜を有するものである。銅または銅合金として圧延等の機械的加工、電気めっき法、無電解めっき法、気相めっき法などの各種方法で形成されたものを被めっき部分とすることが出来る。ニッケルめっき皮膜としては、銅の上に0.2〜10ミクロンの厚さで電気めっきまたは無電解めっきにて形成されたものを被めっき部分とすることが出来る。
これらの被めっき部に形成される金めっき薄膜は、通常0.02〜0.4μm、好ましくは0.03〜0.2μmの厚さである。この金皮膜上に搭載されるはんだボールは、接続部(パッド)の大きさに応じて直径が100μm〜1mmの範囲内のものが使われる。
はんだ組成は、旧来のSn−Pb系以外に、Pbフリーはんだと総称される多様な組成のものが使用可能である。
<はんだ接合特性の評価法>
図1は、本発明において、はんだ接合特性評価に用いた基板の概要を示すものである。
図1に示される被めっき処理基板は、縦40mm×横40mm×厚さ1mmのガラスエポキシ基板1に、直径0.76mmの円形の銅パッド2が碁盤目状に配列されているものであって、各銅パッド周辺がフォトソルダーレジスト3で被覆されているものである。それぞれの銅パッド2は厚さ12μmの銅により形成され、レジスト被覆3の厚みは20ミクロン、銅パッド2の開口部の直径は0.62mmである。
上記基板を下記の表1の条件に従い、脱脂処理、ソフトエッチングおよび酸活性化(酸洗)からなる前処理を行なった後に、置換型無電解金めっきを行って、各銅パッド部2の開口部の銅表面上に厚さ0.06μmの金めっき皮膜4が直接形成された基板1a(以下、直接金めっき処理基板1aという)を得た(図2(a))。

別に、上記基板を下記の表2の条件に従って、各銅パッド2の銅表面上に厚さ5μmのニッケルめっき皮膜5が形成され、さらにこのニッケルめっき皮膜5上に厚さ0.06μmの金めっき皮膜4が形成された基板1b(以下、下地ニッケルめっき処理基板1bという)を得た(図2(b))。

図2(a)は、上記で得られた直接金めっき処理基板1aの断面を、図2(b)は、上記で得られた下地ニッケルめっき処理基板1bの断面を、示すものである。
上記の直接金めっき処理基板1aおよび下地ニッケルめっき処理基板1bのそれぞれのパッド部の金めっき皮膜4の表面に、それぞれ直径0.76mmのはんだボール6を搭載し、これを融着してはんだ接合し(図3)、その接合強度を下記方法によって評価した。
はんだボール6は、PbはんだおよびPbフリーはんだを使用した。
はんだ搭載プロセスおよびはんだ接合特性の評価は、次のように行った。
上記の直接金めっき処理基板1aおよび下地ニッケルめっき処理基板1bの各パッド部にはんだボール6を設置し、リフロー装置(本検討では、リフローはんだ付け装置「RF−430」、日本パルス技研社製を使用した)にて、はんだボールを溶解させ、はんだボール6をパッド部の金めっき皮膜4に接合させた(図3)。このとき、金皮膜4は、その一部がはんだボール中に溶解し、下地の銅またはニッケルとの合金層が形成させ、はんだボールは固定される。
リフロー温度およびリフロー時間を、使用するはんだの組成等を考慮して200〜300℃の範囲にて適宜設定し、評価を行った。
はんだ接合特性の評価は、シェアー強度測定装置(本検討では、「ボンドテスター4000」、デイジ社を使用した)を用い、はんだボール6をパッドから剥離し(図4)、その剥離面の状況を観察することによって行った。
剥離面7がはんだボールのボール部内(即ち、レジスト3の表面より上方)にできる場合(図5)が接合信頼性が高く、剥離面7がパッド部内(即ち、レジスト3の表面より下方)にできる場合(図6)は接合信頼性が低いと判断した。
はんだ接合特性を評価する際は、はんだが接合されるパッド上の金めっき皮膜の厚さも厳密にコントロールして行う必要があることから、金めっき厚の測定は、蛍光X線膜厚計(「SEA5120」、セイコーインスツルメンツ社製)を使用して精密に行って、評価結果にバラツキがないようにした。
【実施例】
【実施例1】
表3の実施例1に記載の組成の金めっき液を500mLビーカーに用意し、pHを7.0に調整後、湯浴にて85℃に加熱した。図1の基板を、表2の条件にてニッケルめっきした後(図2(b))、用意した金めっき浴に10分間浸漬し、0.06ミクロンの厚みの金皮膜を形成させた。Pbはんだボールを金めっきされた20個のパッド部に搭載し、230℃のリフロー装置にて融着後、シェアー装置にて20個のはんだボールを剥離し、各剥離部を観察した。
はんだ内の切断によるもの(即ち、剥離面がはんだボールのボール部内にできたもの)が100%で、Ni界面が露出したパッドは皆無で、良好なはんだ接続適性を示した。
次に、この金めっき液を90℃のオーブンに入れ、80時間放置後、取り出したが、金めっき液中に金の析出は認めらず、めっき浴の熱安定性は良好であった。
めっき液を室温に戻してから、再度pHを7.0に調整し、湯浴にて85℃に加熱後、図1の基板を、表2の条件にてニッケルめっきしたもの(図2(b))を10分間浸漬し、0.06ミクロンの金めっき皮膜を得た。Pbはんだボールを20個搭載し、230℃のリフロー温度にて融着後、はんだ剥離モードを測定したところ、はんだ内の剥離が95%で、Ni界面が露出したパッドは5%に過ぎなかった。
【実施例2】
表3の実施例2に示した組成の金めっき液を用意し、実施例1と同様な方法で、ニッケルめっき処理した基板(図2(b))にてめっき処理を行い、0.05ミクロンの厚みの金めっき皮膜を形成させた。この金めっき基板にて、20個のPbはんだボールの剥離モードを測定したところ、はんだ内切断が100%と良好であった。次に、この金めっき液を90℃のオーブンに入れると、80時間後も、金の析出は起こらず安定であった。
めっき液を室温に戻してから、再度pHを7.0に調整し、湯浴にて85℃に加熱後、図1の基板を、表2の条件にてニッケルめっきしたもの(図2(b))を10分間浸漬し、0.05ミクロンの金めっき皮膜を得た。Pbはんだボールを20個搭載し、230℃のリフロー温度にて融着後、はんだ剥離モードを測定したところ、はんだ内の剥離が95%で、Ni界面が露出したパッドは5%に過ぎなかった。
【実施例3】
表3の実施例3に記載の組成の金めっき液を500mLビーカーに用意し、pHを5.0に調整後、湯浴にて85℃に加熱した。図1の基板を、表1の条件にて前処理した後(図2(a))、用意した金めっき浴に10分間浸漬し、0.06ミクロンの厚みの皮膜を形成させた。得られた金めっき皮膜の深さ方向の分析をESCA(ULVAC製、QUANTUM2000)にて行なった結果を図9に示す。下地の銅の酸化は認められず、金めっき皮膜中に炭素も検出されていない。表面酸化抑制剤は銅表面の酸化を抑制するが、金めっき皮膜中には取り込まれないことを示している。次に、はんだボールテストを行なった。Pbフリーはんだボール(Sn−Ag3.0−Cu0.5)を金めっきされた20個のパッド部に搭載し、255℃のリフロー装置にて融着後、シェアー装置にて20個のはんだボールを剥離し、各剥離部を観察した。
はんだ内の切断によるものが95%で、Cu界面が露出したパッドは5%のみで、良好なはんだ接続適性を示した。
次に、この金めっき液を90℃のオーブンに入れ、100時間放置後、取り出したが、金めっき液中に金の析出は認めらず、熱安定性は良好であった。
めっき液を室温に戻してから、再度pHを5.0に調整し、湯浴にて85℃に加熱後、図1の基板を、表1の条件にて前処理したもの(図2(a))を10分間浸漬し、0.06ミクロンの金めっき皮膜を得た。金めっき皮膜の色調は鮮やかなレモンイエローであった。
Pbフリーはんだボール(Sn−Ag3.0−Cu0.5)を20個搭載し、255℃のリフロー温度にて融着後、はんだ剥離モードを測定したところ、はんだ内の剥離が95%で、Cu界面が露出したパッドは5%に過ぎなかった。
【実施例4】
実施例3に記載の金めっき液を500mL調合し、1000mLのビーカーに入れてめっきランニングテストを行なった。5cm角の銅板を多数用意し、実施例3に記載の条件で金めっきを行い、0.06ミクロン付近の金めっき皮膜を形成させる作業を繰り返し行なった。ランニング中にめっき液中の金濃度をICP(セイコーインスツルメンツ製、SPS3000)に測定し、金濃度が0.2g/L減少するたびに同量のシアン化第1金カリウムを補充しながら、めっき作業を繰り返し、総量4.0g/Lの金が消費された時点でランニングを終了した。このテストに要した日数は5日間であった。
テスト終了後の金めっき液中の表面酸化抑制剤の濃度をキャピラリー電気泳動装置(大塚電子製、CAPI3200)にて分析したところ、124トリアゾールの濃度は1000±40ppmであり、ランニング前の濃度と同じであった。
本発明の表面酸化抑制剤は長時間の加温条件下(85℃、5日間)でも分解せず、かつ、めっき反応時に消費もされていなことがわかった。
(比較例1)
表3の比較例1に示した組成の金めっき液を用意し、実施例1と同様な方法でめっき処理を行い、0.07ミクロンの厚みの金めっき皮膜を形成させた。この金めっき基板に20個のPbはんだボールを実施例1と同様に搭載し、はんだ剥離モードを測定したところ、はんだ内切断はわずかに10%で、残りの90%はニッケル界面が露出し、不満足なはんだ接続特性であった。
(比較例2)
表3の比較例2に示した組成の金めっき液を用意し、実施例1と同様な方法でめっき処理を行い、0.07ミクロンの厚みの金めっき皮膜を形成させた。この金めっき基板に20個のPbはんだボールを実施例1と同様に搭載し、はんだ剥離モードを測定したところ、はんだ内切断はわずかに5%で、残りの95%はニッケル界面が露出し、不満足なはんだ接続特性であった。
(深さAuger測定)
本発明の金めっき液の表面酸化抑制の効果を調べる為、実施例1で作成した金めっき皮膜と比較例1で作成した金めっき皮膜の、下地金属(ニッケル)の酸化の度合い深さAuger測定(Microlab 310−F、英国VG社、電子源:フィールドエミッション)にて行なった。
実施例1のAuger測定結果を図7に、比較例1を図8に示す。表面酸化抑制剤が添加されてない比較例1の方が、Ni下地が激しく酸化されている。
(比較例3)
表3の比較例3に示した組成の金めっき液を用意し、実施例3と同様な方法で処理した基板にてめっき処理を行い、0.05ミクロンの厚みの金めっき皮膜を形成させた。この金めっき基板にて、20個のPbフリーはんだ(実施例3と同一組成)ボールの剥離モードを測定したところ、はんだ内切断が60%、Cu界面露出40%であった。次にこの金めっき液を90℃のオーブンに入れると8時間後には、金の析出(ビーカー底への金の沈殿)が起こり、金めっき液は分解した。この金めっき液は還元剤のアスコルビン酸が添加されているため熱安定性が劣っていた。
(比較例4)
表3の比較例4に示した組成の金めっき液を用意し、実施例3と同様な方法でめっき処理を行い、0.07ミクロンの厚みの金めっき皮膜を形成させた。この金めっき基板に20個のPbフリーはんだ(実施例3と同一組成)ボールを実施例3と同様に搭載し、はんだ剥離モードを測定したところ、はんだ内切断はわずかに10%で、残りの90%はCu界面が露出し、不満足なはんだ接続特性であった。
(比較例5)
表3の比較例5に示した組成の金めっき液を用意し、実施例3と同様な方法でめっき処理を行ったが、黒色の金めっき析出層となり、レモンイエローの金めっき皮膜は得られなかった。ホスホン酸を用いたキレート剤の銅溶解性が低く、銅が金と一緒に共析したものと思われる。
(比較例6)
表3の比較例6に示した金めっき液を用意し、実施例3と同様な方法でめっき処理を行い、0.06ミクロンの金めっき皮膜を形成させた。金めっき皮膜の色調はレモンイエローであった。この金めっき基板に20個のPbフリーはんだ(実施例3と同一組成)ボールを実施例3と同様に搭載し、はんだ剥離モードを測定したところ、はんだ内切断は20%しかなく、残りの80%のパッドでCu界面が露出し、不満足なはんだ接続特性であった。


【図1】


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】



【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性金塩、電導性向上剤、イミノ2酢酸構造を有するキレート剤、主鎖または環中に窒素原子を2個以上含む有機化合物からなる表面酸化抑制剤、および残部としての溶媒を含んでなる、置換型無電解金めっき液。
【請求項2】
水溶性金塩が、シアン化第1金カリウム、シアン化第2金カリウム、塩化第1金カリウム、塩化第2金カリウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金ナトリウム、チオ硫酸金カリウム、チオ硫酸金ナトリウム、およびこれらの混合物からなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項3】
電導性向上剤が、ホウ酸、リン酸、硫酸、チオ硫酸、硝酸、塩化物、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、マロン酸、マレイン酸、蓚酸、酒石酸、フタル酸、安息香酸、グリシン、グルタミン酸、これらのカリウム塩、ナトリウム塩またはアンモニウム塩、およびこれらの混合物からなる群から選ばれたものである、請求項1または2に記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項4】
キレート剤が、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルイミノ2酢酸、ニトリロ3酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、プロパンジアミン4酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン4酢酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩、およびこれらの混合物混合物からなる群から選ばれたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無電解置換型金めっき液。
【請求項5】
表面酸化抑制剤が、電子供与性化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項6】
表面酸化抑制剤が、主鎖または環中に窒素原子を3個以上含みかつこのうちの少なくとも1個以上の窒素原子が−NH−構造のものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項7】
表面酸化抑制剤が、下記の式〔I〕で示される脂肪族化合物または式〔II〕で示される複素環化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の置換型無電解金めっき液。

〔ここで、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜3のアルキル基、−(C−NH、−(C−OHを示す(ここで、mは0または1であり、nは0または1である)。pは0〜4の整数である。〕

〔ここで、

は、−NH−基の窒素原子および炭素原子を環中に有する複素環を示す。Rは、この複素環中の炭素原子に結合した水素、炭素数1〜3のアルキル基、アミノ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基を示す。〕
【請求項8】
表面酸化抑制剤が、エチレンジアミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ビス(ベータヒドロキシエチル)−テトラエチレンペンタミン、2−アミノピロール、3−アミノピロール、2−アミノインドール、3−アミノインドール、ピラゾール、3−アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、5−アミノピラゾール、イミダゾール、2−アミノイミダゾール、4−アミノイミダゾール、5−アミノイミダゾール、1,2,3−トリアゾール、4−アミノ−1,2,3−トリアゾール、5−アミノ−1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、5−アミノ−テトラゾール、ベンズイミダゾール、2−アミノ−ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾールおよびこれらの混合物からなる群から選ばれたものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項9】
水溶性金塩の濃度が、0.1〜10g/L、電導性向上剤の濃度が5〜500g/L、キレート剤の濃度が1〜200g/L、表面酸化抑制剤の濃度が5〜50000ppmである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項10】
水溶性金塩の濃度が、0.5〜5.0g/L、電導性向上剤の濃度が10〜200g/L、キレート剤の濃度が5〜100g/L、表面酸化抑制剤の濃度が10〜10000ppmである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の置換型無電解金めっき液。

【国際公開番号】WO2004/038063
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546414(P2004−546414)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013243
【国際出願日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【出願人】(399133947)日本高純度化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】