説明

置換芳香族ニトリル化合物およびその製造方法

【課題】パラジウム触媒などのような高価な添加剤を使用せずとも、グリニャール試薬とハロゲンおよびシアノ基を有する芳香族ニトリル化合物とのカップリング反応により、新しい置換芳香族ニトリル化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、芳香族性炭素に結合するシアノ基および3つ以上のフッ素および/または塩素原子を有する芳香族ニトリル化合物と、グリニャール試薬とを反応させて、前記芳香族ニトリル化合物のハロゲンを、グリニャール試薬からの有機基で置換する置換芳香族ニトリル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換芳香族ニトリル化合物の製造方法、およびそれから得られる置換芳香族ニトリルに関するものである。本発明の製造方法は、詳しくは、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物のハロゲンをグリニャール試薬の有機基で置換することにより、置換芳香族ニトリル化合物を製造するものである。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の合成では、効率よく炭素−炭素結合を形成させること(C−Cカップリング反応)がポイントとなる。殊にA分子とB分子という異分子間で炭素−炭素結合を形成させてA−B分子を合成するクロスカップリング反応は、合成有機化学の分野で重要な位置を占めている。
【0003】
このカップリング反応の一例として、以下のように、有機ハロゲン化物:R11のハロゲンを、グリニャール試薬:R2MgY2からの有機基で置換する求核置換反応が知られている:
11 + R2MgY2 → R1−R2 + MgX12
(式中、R1およびR2は有機基を表し、X1およびY2はハロゲンを表す。)
【0004】
しかし求核置換反応を受ける有機ハロゲン化物:R11が、sp2炭素上にハロゲンを有する場合、上記のようなグリニャール試薬を用いるカップリング反応では、一般にパラジウムやニッケル触媒が必要であると考えられている(例えば非特許文献1、第45頁参照)。パラジウムまたはニッケル触媒の存在下で、ハロゲン化アリールのハロゲンをグリニャール試薬により置換する合成反応は、例えば非特許文献2に開示されている。しかしパラジウム触媒等は高価であり、これらを工業生産に用いるためには、回収および再生等の設備および工程が必要になる。
【0005】
一般にグリニャール試薬は、ハロゲンだけではなく、多くの官能基、例えばシアノ基、カルボニル基や活性水素を有する官能基などとも反応してしまう。しかしトリフルオロ安息香酸の製造方法を開示している特許文献1において、テトラフルオロイソフタロニトリルのフッ素をグリニャール試薬のアルキル基により置換する反応では、グリニャール試薬とシアノ基との反応が起こらず、2,4,5−トリフルオロ−6−アルキルイソフタロニトリルが形成されることが開示されている(殊に請求項1、段落0023〜0026、0080および0081参照)。
【0006】
また特許文献2は、下記式で示されるような、グリニャール試薬である有機マグネシウム化合物〔I〕と、基質であるアリール化合物〔II〕とを銅塩の存在下で反応させることを特徴とする、活性置換基を有するビフェニル化合物〔III〕の製造方法を開示している(特許文献2の段落0006および0007参照)。
【0007】
【化1】

【0008】
上記式中、Rはアリール基またはアリール基を有してもよい炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Yは脱離基を示し、Zは活性置換基を示し、Aはハロゲン原子を示す。kおよびmは0または1を示すが、k+m=1である。nは0〜2の整数を示す。
【0009】
殊に特許文献2の実施例22〜35(m=0である場合)では、塩化リチウム銅(II)または塩化カリウム銅(II)の存在下で、フェニルマグネシウムブロミド類〔I〕とハロゲン化ベンゼン類〔II〕とを反応させて、シアノ基を有するビフェニル化合物〔III〕を製造している。
【非特許文献1】「有機金属反応剤ハンドブック」、第1版第2刷、(株)化学同人2004年7月30日発行、第45頁
【非特許文献2】Tomoyuki Saekiら,“Nickel- and Palladium-Catalyzed Cross-Coupling Reaction of Polyfluorinated Arenes and Alkenes with Grignard Reagents”,Synlett 2005,No. 11,p. 1171 - 1774
【特許文献1】特開2000−143577号公報、請求項1、段落0023〜0026、0080および0081
【特許文献2】特開平11−171799号公報、段落0006および0007、実施例22〜35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1において、グリニャール試薬に対する基質(シアノ基を有する出発化合物)は、テトラフルオロイソフタロニトリルに限定されており、その製造方法は汎用性に欠ける。またその実施例では、テトラフルオロイソフタロニトリルとグリニャール試薬との反応を、−50℃という低温で行っている(段落0080および0081参照)。反応の選択性を上げるために、低温で反応を行って副反応を抑制することは有効である。しかしあまりにも低い反応温度は、特別な冷却設備が必要となり、また冷却のためのエネルギーコストが過大になるため、工業生産上の障害となる。さらに特許文献1は、グリニャール試薬の求核置換反応において、パラジウム触媒などのような添加剤については何ら検討していない。
【0011】
また前記特許文献2は、アリール化合物〔II〕のsp2炭素上のハロゲン(脱離基Y)を、銅塩の存在下で、グリニャール試薬の有機基により置換することを開示している(上記式〔II〕中、m=0の場合)。しかしm=0の場合、基質であるアリール化合物〔II〕は、ハロゲンを1つだけ有するもの(上記式〔II〕中、Y=ハロゲン原子)またはハロゲンを全く有さないもの(Y=ハロゲン原子以外の脱離基)に限定される。
【0012】
本発明は前記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、パラジウム触媒などのような高価な添加剤を使用せずとも、グリニャール試薬と、シアノ基および3つ以上のハロゲン原子(フッ素または塩素原子)を有する芳香族ニトリル化合物とのカップリング反応(ハロゲンの求核置換)により、新しい置換芳香族ニトリル化合物を製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成し得た本発明とは、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、芳香族性炭素に結合するハロゲンおよびシアノ基を有する芳香族ニトリル化合物と、グリニャール試薬とを反応させて、前記芳香族ニトリル化合物のハロゲンを、グリニャール試薬からの有機基で置換することを特徴とする、置換芳香族ニトリル化合物の製造方法である。
【0014】
本発明の製造方法において、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、下記式(1)の芳香族ニトリル化合物と、下記式(2)のグリニャール試薬とを反応させて、下記式(3)の置換芳香族ニトリル化合物を製造することが好ましい:
【0015】
【化2】

【0016】
上記式中、X10およびY10は、それぞれハロゲン原子を表し、R10は有機基を表し、a、bおよびcは、a+b≦6、b≧cであることを条件として、それぞれ1以上の整数であり、pおよびqは、p≧qを条件として、それぞれ1または2であり、qが2である場合にcは1である。
【0017】
上記式中、好ましくは、X10はフッ素または塩素原子を表し、Y10はハロゲン原子を表し、R10は有機基を表し、a+b≦6、b≧cであることを条件として、aは1または2であり、bは3以上の整数であり、cは1以上の整数であり、pおよびqは、p≧qを条件として、それぞれ1または2であり、qが2である場合にcは1である。
【0018】
なお上記反応式(i)は、下記反応式(ii)で示されるように、芳香族ニトリル化合物(1)の複数のハロゲンが、複数のグリニャール試薬(2)の有機基で置換される場合(q=1)、および下記反応式(iii)で示されるように、2分子の芳香族ニトリル化合物(1)と1分子のジグリニャール試薬(2)とがカップリング反応する場合(q=2、c=1)を含む。
【0019】
【化3】

【0020】
本発明の製造方法において、ハロゲン化アルカリ金属はハロゲン化リチウムであり、式(2)中のR10はアリール基または置換アリール基であり、式(1)中の少なくとも1つのX10はフッ素原子であることが望ましい。式(1)の芳香族ニトリル化合物の中で好ましいものは、テトラフルオロフタロニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリルまたはペンタフルオロベンゾニトリルである。
【0021】
本発明の1つの実施態様では、ハロゲン化リチウム(好ましくは塩化リチウムおよび/または臭化リチウム、より好ましくは塩化リチウム)の存在下で、テトラフルオロフタロニトリルと、式:ArMgY20(式中、Arはアリール基または置換アリール基を表し、Y20はハロゲン原子を表す。)のグリニャール試薬とを反応させることにより、4−アリール置換−3,5,6−トリフルオロフタロニトリルまたは4,5−ジアリール置換−3,6−ジフルオロフタロニトリルを製造することが好ましい。
【0022】
また本発明の別の実施態様では、ハロゲン化リチウム(好ましくは塩化リチウムおよび/または臭化リチウム、より好ましくは塩化リチウム)の存在下で、ペンタフルオロベンゾニトリルと、式:ArMgY30(式中、Arはアリール基または置換アリール基を表し、Y30はハロゲン原子を表す。)のグリニャール試薬とを反応させることにより、4−アリール置換−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリルを製造することが好ましい。
【0023】
さらに本発明の別の実施態様では、ハロゲン化リチウム(好ましくは塩化リチウムおよび/または臭化リチウム、より好ましくは塩化リチウム)の存在下で、テトラフルオロイソフタロニトリルと、式:ArMgY40(式中、Arはアリール基または置換アリール基を表し、Y40はハロゲン原子を表す。)のグリニャール試薬とを反応させることにより、4−アリール置換−2,5,6−トリフルオロイソフタロニトリルまたは4,6−ジアリール置換−2,5−ジフルオロフタロニトリルを製造することが好ましい。
【0024】
本発明は、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を含むグリニャール試薬溶液も提供する。
【0025】
本発明は、さらに、上記製法により製造できる新規化合物を提供する。具体的には本発明は、下記式(4)で表される置換芳香族ニトリル化合物を提供する。
【0026】
【化4】

【0027】
上記式中、X20はフッ素または塩素原子を表す。R20は2〜14個の炭素原子を有する有機基を表す。d+e+f≦6であることを条件として、dは1または2であり、eは2以上の整数であり、fは1または2である。gは1または2である。但しdが2である場合には、2つのシアノ基は相互にオルト位またはメタ位にあり、gが2である場合には、fは1である。
【発明の効果】
【0028】
驚くべきことに、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物とグリニャール試薬とを反応させることにより、高価なパラジウム触媒などを使用せずとも、芳香族性炭素上のハロゲンをグリニャール試薬の有機基で置換し得ることを見出した。
【0029】
またハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下では、グリニャール試薬のシアノ基への攻撃が抑制されて、ハロゲンの置換反応が選択的に進行することを見出した。
【0030】
さらに驚くべきことに、3つ以上のフッ素および/または塩素原子を含有する芳香族ニトリル化合物のフッ素または塩素原子をグリニャール試薬で置換する場合、特許文献2に記載の銅塩よりも、本発明のようにハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を用いる方が、目的とする置換生成物の選択性が向上することを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の製造方法は、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物とグリニャール試薬とを反応させることに大きな特徴がある。一般に、グリニャール試薬による芳香族性炭素上のハロゲンの求核置換は、高価なパラジウム触媒等が必要であると考えられているが、安価なハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を使用することによっても、この置換反応が進行することを見出した。
【0032】
またハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を用いることにより、グリニャール試薬のシアノ基への攻撃が抑制され、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物からの置換反応の選択性(置換生成物の収率)が向上することを見出した。この現象は、下記式(5)(式中、R3は有機基を表す)に示すような様式で、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属がグリニャール試薬に配位または相互作用することにより、反応性および選択性に影響を及ぼしていることが原因の1つであると推定される。但し正確な作用メカニズムは不明であり、本発明は、前記のような推定には限定されない。
【0033】
【化5】

【0034】
本発明は、グリニャール試薬に対する基質として、シアノ基および3つ以上のフッ素および/または塩素原子を含有する芳香族ニトリル化合物(1)を用いることも特徴の1つとする。このような基質を用いたグリニャール試薬によるカップリング反応では、驚くべきことに、特許文献2に記載の銅塩よりも、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を用いる方が、目的とする置換生成物の選択性が向上することを見出した(以下の実施例参照)。この現象の理由として、基質である芳香族ニトリル化合物(1)が3つ以上のフッ素および/または塩素原子を含有すると、基質の立体障害が大きくなること、および基質の電気的特性が変化することにより、銅塩の基質に対する触媒作用が低下することが推定される。それに対して本発明のハロゲン化アルカリ金属等は、基質のハロゲン原子が増えても、悪影響を受けないことが推定される。但し本発明は、このような推定に限定されない。
【0035】
本発明において、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属は、1種類のみを単独で使用するか、または2種類以上を併用することができる。本発明で使用し得るハロゲン化アルカリ金属は、好ましくはハロゲン化リチウム、より好ましくは塩化リチウムおよび臭化リチウムであり、ハロゲン化アルカリ土類金属は、好ましくはフッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化カルシウムである。これらの中でも、溶媒への溶解性、並びに反応性および選択性の影響を考慮すると、塩化リチウムが最も好ましい。よって本発明では、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属として、塩化リチウムのみを使用することが推奨される。
【0036】
本発明において「芳香族性炭素に結合するハロゲンおよびシアノ基を有する芳香族ニトリル化合物」または「含ハロゲン芳香族ニトリル化合物」とは、芳香環上の置換基としてハロゲン原子およびシアノ基を併有する化合物をいう。本発明で使用できる含ハロゲン芳香族ニトリル化合物には特に限定はなく、その芳香環として、ベンゼン環;ナフタレン環のような縮合環;ピリジン環のようなヘテロ原子を含む複素環;を有する芳香族ニトリル化合物を使用することができる。
【0037】
含ハロゲン芳香族ニトリル化合物として、入手容易性などの観点から、ベンゼン環を有し、該ベンゼン環上にシアノ基およびハロゲン原子を有するものが好ましい。
【0038】
含ハロゲン芳香族ニトリル化合物として、ベンゼン環に1つ以上のシアノ基および1つ以上のハロゲン原子を有するものが挙げられる。シアノ基は電子求引性基の1種であり、ハロゲン原子の置換反応を促進する。またハロゲン原子が複数ある場合には、置換されるハロゲン原子以外のハロゲン原子も電子求引性基として機能し、置換反応を促進する。殊にハロゲン化アルカリ金属等の効果を充分に発揮させるために、本発明では、3つ以上のフッ素および/または塩素原子を有する芳香族ニトリル化合物を用いることが好ましい。また求核置換反応をさらに促進するために、必要に応じて、他の電子求引性基(例えばニトロ基など)を有していてもよい。置換されるハロゲン原子に対して、パラまたはオルト位にシアノ基、ハロゲン原子、他の電子求引性基を有するものがより好ましい。なお反応性を大幅に損なわない限り、ベンゼン環に電子供与性基(例えばアルキル基など)が結合していてもよい。
【0039】
シアノ基およびハロゲン原子も、上述したように電子求引性基として作用するので、これらを複数有する化合物が好ましい。反応性および入手容易性の観点から、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物として、ベンゼン環上のシアノ基とハロゲン原子の合計が6であるもの、殊に5つのフッ素および/または塩素原子を有するベンゾニトリル、あるいは4つのフッ素および/または塩素原子を有するフタロニトリル、イソフタロニトリルまたはテレフタロニトリルがより好ましい。
【0040】
含ハロゲン芳香族ニトリル化合物として、1種のみまたは2種以上のハロゲン原子を有するものを使用することができる。ハロゲン原子として、求核置換反応の受け易さ、および他のハロゲンの置換反応を促進するために、電子求引性の強いフッ素および塩素が好ましく、フッ素がより好ましい。従って含ハロゲン芳香族ニトリル化合物として、少なくとも1つのハロゲン原子(X10)が、フッ素原子であるもの、より好ましくは全てのハロゲンがフッ素原子であるものが好ましい。例えばテトラフルオロフタロニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリルおよびペンタフルオロベンゾニトリルが特に好ましい。
【0041】
含ハロゲン芳香族ニトリル化合物として、例えば含ハロゲンベンゾニトリル類、含ハロゲンフタロニトリル類、含ハロゲンイソフタロニトリル類、含ハロゲンテレフタロニトリル類などを挙げることができる。これらは、例えばアルドリッチ社、シンクエスト社、アズマックス株式会社、セントラル薬品株式会社などから購入することができる。含ハロゲン芳香族ニトリル化合物の具体例として、以下のようなものを挙げることができる。但し本発明は、以下の具体例に限定されない:
【0042】
2−フルオロベンゾニトリル、3−フルオロベンゾニトリル、4−フルオロベンゾニトリル;2,3−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,5−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、3,4−ジフルオロベンゾニトリル、3,5−ジフルオロベンゾニトリル;2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル、2,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、2,3,6−トリフルオロベンゾニトリル、2,3,4−トリフルオロベンゾニトリル、3,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、2,3,5−トリフルオロベンゾニトリル;2,3,4,5−テトラフルオロベンゾニトリル、2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル;ペンタフルオロベンゾニトリル;
【0043】
2−クロロベンゾニトリル、3−クロロベンゾニトリル、4−クロロベンゾニトリル;2,3−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,5−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、3,4−ジクロロベンゾニトリル、3,5−ジクロロベンゾニトリル;ペンタクロロベンゾニトリル;
【0044】
2−フルオロ−5−ヨードベンゾニトリル、2−フルオロ−6−ヨードベンゾニトリル、2−ブロモ−5−フルオロベンゾニトリル、4−ブロモ−2−フルオロベンゾニトリル、3−ブロモ−4−フルオロベンゾニトリル、5−ブロモ−4−フルオロベンゾニトリル、5−クロロ−2−フルオロベンゾニトリル、3−クロロ−2−フルオロベンゾニトリル、2−クロロ−6−フルオロベンゾニトリル、2−クロロ−4−フルオロベンゾニトリル、3−クロロ−4−フルオロベンゾニトリル、4−ブロモ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル;
【0045】
2−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2−フルオロ−6−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2−フルオロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、3−フルオロ−2−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、3−フルオロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、3−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、4−フルオロ−2−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、4−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、4−フルオロ−6−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2,3−ジフルオロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、3,4−ジフルオロ−5−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル;4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル;
【0046】
4−フルオロフタロニトリル、4,6−ジクロロ−2,5−ジフルオロフタロニトリル、4−クロロ−2,5,6−トリフルオロフタロニトリル、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロフタロニトリル、4−ブロモ−2,5,6−トリフルオロフタロニトリル、テトラフルオロフタロニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリル、テトラフルオロテレフタロニトリル;4,5−ジクロロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリル、テトラクロロイソフタロニトリル、テトラクロロテレフタロニトリル。
【0047】
上記の物の中でも、3つ以上のフッ素および/または塩素原子を含有する、以下の含ハロゲン芳香族ニトリル化合物がより好ましい:2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル、2,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、2,3,6−トリフルオロベンゾニトリル、2,3,4−トリフルオロベンゾニトリル、3,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、2,3,5−トリフルオロベンゾニトリル;2,3,4,5−テトラフルオロベンゾニトリル、2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル;ペンタフルオロベンゾニトリル;ペンタクロロベンゾニトリル;4−ブロモ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル;テトラフルオロフタロニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリル、テトラフルオロテレフタロニトリル、4,6−ジクロロ−2,5−ジフルオロフタロニトリル、4−クロロ−2,5,6−トリフルオロフタロニトリル、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロフタロニトリル、4−ブロモ−2,5,6−トリフルオロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリル、テトラクロロイソフタロニトリル、テトラクロロテレフタロニトリル。
【0048】
本発明において使用することができるグリニャール試薬は、下記式(2)で表される有機マグネシウム化合物である。下記式(1)の芳香族ニトリル化合物と下記式(2)のグリニャール試薬とを、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で反応させることにより、有機基を1つ(c=1)または2つ以上(c≧2)有する下記式(3)の置換芳香族ニトリル化合物を製造することができる:
【0049】
【化6】

【0050】
グリニャール試薬は、既知の有機ハロゲン化物から、以下に示すような既知の方法で製造することができ、また広く市販されている。グリニャール試薬中のハロゲン原子(式(2)中のY10)として、塩素、臭素またはヨウ素原子が好ましく、臭素またはヨウ素原子がより好ましい。また本発明において、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基(これらには、置換されているものを含む)を有するあらゆるグリニャール試薬を使用することができる。
【0051】
グリニャール試薬の中でも、有機基R10として、アリール基または置換アリール基を有するものが好ましい。このようなグリニャール試薬を使用することにより、一般的な方法では合成が困難な、ビアリール骨格(芳香環同士が結合した骨格)を有する置換芳香族ニトリル化合物を製造できるからである。
【0052】
芳香環(好ましくはベンゼン環)上にハロゲンを有する有機ハロゲン化物から、アリール基(好ましくはフェニル基)を有するグリニャール試薬を製造できる。そのような有機ハロゲン化物として、例えばブロモベンゼン、クロロベンゼン、ヨードベンゼン、p−ブロモトルエン、o−ブロモトルエン、p−クロロトルエン、o−クロロトルエン、p−ブロモアニソール、p−ブロモトリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)−5−ブロモベンゼンなどを挙げることができる。
【0053】
グリニャール試薬の調製法は、該分野で周知であり、例えば溶媒(通常はエーテル系溶媒、好ましくはTHF)にマグネシウムを加えたものに、有機ハロゲン化物または有機ハロゲン化物溶液を添加することにより、容易に製造することができる:
pMg + R1010p → R10(MgY10p (iv)
(式中、R10は有機基を表し、Y10はハロゲン原子を表し、pは1以上の整数である。)
【0054】
グリニャール試薬は水などに対して不安定であるので、その調製は、水分を排除した雰囲気下、例えば不活性ガス(好ましくは窒素またはアルゴン)雰囲気下で行う必要があり、溶媒も脱水したものを使用する必要がある。
【0055】
グリニャール試薬を調製するために使用するマグネシウム量は、前記反応式(iv)から求まる理論的必要量に対して、通常1倍以上で、1.5倍以下、好ましくは1.3倍以下、より好ましくは1.2倍以下である。またグリニャール試薬溶液の濃度は、好ましくは0.1〜2(モル/L)、より好ましくは1(モル/L)程度である。
【0056】
複雑な有機基を有するグリニャール試薬は、既に合成されている他のグリニャール試薬を用いて、以下のような反応(以下、「グリニャール交換反応」と省略することがある)で製造することができる:
4−H + R5MgY5 →R4MgY5 + R5−H
(式中、R4およびR5は有機基を表し、Y5はハロゲン原子を表す。)
【0057】
例えばエチニルトリメチルシランとエチルマグネシウムブロミドとを用いて、以下のように複雑な有機基を有するグリニャール試薬を製造することができる:
Me3Si−C≡C−H + EtMgBr
→ Me3Si−C≡C−MgBr + Et−H
(式中、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。)
【0058】
また、複雑な有機基を有するグリニャール試薬は、既に合成されている他のグリニャール試薬を用いて、以下のようなMg−ハロゲン交換反応により製造することができる:
6−I + R7MgBr →R6MgBr + R7−I
(式中、R6およびR7は有機基を表す。)
【0059】
本発明で使用し得るR10(MgY10pのグリニャール試薬(2)は、pが1でもよく、2以上でもよい。pが2以上のグリニャール試薬は、pが2以上の有機ハロゲン化物:R1010pから、既知の方法(Mgとの反応、グリニャール交換反応またはMg−ハロゲン交換反応)で製造することができる。
【0060】
ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、下記式(1)の芳香族ニトリル化合物と、pが2以上の下記式(2)のグリニャール試薬とを反応させることにより、グリニャール試薬1分子に対して、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物を1分子カップリングさせた化合物(下記式(3)でq=1となる化合物)、または含ハロゲン芳香族ニトリル化合物を2分子以上カップリングさせた化合物(下記式(3)でq≧2となる化合物、但しp≧q)を製造することができる:
【0061】
【化7】

【0062】
但し、pが3以上であるグリニャール試薬(2)を使用しても、qが3以上の置換芳香族ニトリル化合物(3)を収率良く製造することは難しいため、本発明の方法では、pが1または2であるグリニャール試薬(2)を使用することが好ましい。
【0063】
グリニャール試薬は水などに対して不安定であるため、グリニャール試薬を調製した溶液は、そのまま合成反応に用いられる。そして一般に、グリニャール試薬と有機ハロゲン化物(本発明では「含ハロゲン芳香族ニトリル化合物」)とのカップリングでは、基質である有機ハロゲン化物またはその溶液に、グリニャール試薬溶液を添加することにより、反応が行われる。よって本発明でも、このような添加形態が好ましいが、グリニャール試薬溶液に、基質またはその溶液を添加してもよいし、グリニャール試薬溶液と基質溶液とを同時に反応容器に添加・混合してもよい。
【0064】
反応に使用する溶媒には特に限定は無く、添加剤(ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属)、グリニャール試薬および含ハロゲン芳香族ニトリル化合物が溶解するものを使用することができる。また反応に支障が無ければ、必要に応じて2種以上の溶媒を用いてもよい。但しグリニャール試薬が分解しないようにするため、充分に脱水した溶媒を使用する必要がある。好ましい溶媒はエーテル系溶媒であり、より好ましいものはTHFおよびジエチルエーテルである。
【0065】
グリニャール試薬溶液と含ハロゲン芳香族ニトリル化合物との添加・混合、およびその後のカップリング反応を充分に進行させるための撹拌は、水分を除去した雰囲気、例えば不活性ガス(好ましくは窒素またはアルゴン)雰囲気下で行う必要がある。
【0066】
本発明の方法は、グリニャール試薬と、基質である含ハロゲン芳香族ニトリル化合物とのカップリング反応を、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で行うことに特徴がある。ハロゲン化アルカリ金属等の存在下でのカップリング反応は、グリニャール試薬の溶液、および基質溶液の少なくとも一方に、ハロゲン化アルカリ金属等を含ませて、グリニャール試薬溶液および基質溶液を混合することにより行うことができる。なお基質溶液を用いる場合、その濃度には特に限定は無いが、反応速度を向上させるためには、基質溶液の濃度はできる限り高い方が好ましい。
【0067】
上記式(5)で示したように、ハロゲン化アルカリ金属等のグリニャール試薬への配位または相互作用を促進するために、ハロゲン化アルカリ金属等を含むグリニャール試薬溶液を反応に使用することが好ましい。よって本発明は、好ましくはハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属、より好ましくはハロゲン化リチウム、さらに好ましくは塩化リチウムおよび/または臭化リチウム、最も好ましくは塩化リチウムを含むグリニャール試薬も提供する。より好ましくはグリニャール試薬溶液および基質溶液の両方に、ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を含ませておくことが推奨される。
【0068】
ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ金属の合計量は、グリニャール試薬中のマグネシウム1モルあたり、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜4モル、さらに好ましくは1〜3モル程度である。
【0069】
グリニャール試薬と基質(含ハロゲン芳香族ニトリル化合物)とは、基質中の置換しようとするハロゲン原子1モルあたり、グリニャール試薬中のMg量が、好ましくは1〜3モル、より好ましくは1.2〜2モル、さらに好ましくは1.3〜1.7モルとなるように、反応させることが推奨される。よって例えば、1分子中に1つのマグネシウムを有するグリニャール試薬を用いて、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物の一置換体を製造しようとする場合、基質1モルあたりのグリニャール試薬量は、好ましくは1〜3モル、より好ましくは1.2〜2モル、さらに好ましくは1.3〜1.7モルであり、二置換体の製造を予定する場合、基質1モルあたりのグリニャール試薬量は、好ましくは2〜6モル、より好ましくは2.4〜4モル、さらに好ましくは2.6〜3.4モルである。
【0070】
グリニャール試薬と基質との混合および反応は、副反応を抑制するために、低温で行うことが好ましい。但しあまりに低い温度は、特別な設備および冷却コストがかかり過ぎる。よって混合および反応温度は、好ましくは50℃〜−35℃、より好ましくは40℃〜−20℃、さらに好ましくは30〜−5℃である。
【0071】
グリニャール試薬と基質との混合中および混合後に、通常、反応溶液を前記温度で撹拌することにより、反応を充分に進行させる。この撹拌時間は、好ましくは1時間〜数日、より好ましくは10〜48時間、さらに好ましくは24時間程度である。次いで、酸性水溶液と反応溶液とを混合することにより、反応を終了させることができる。反応溶液からの置換芳香族ニトリル化合物の単離は、該分野で通常の方法、例えば抽出、クロマトグラフィー、晶析法、再結晶法、昇華精製法などを適宜利用することにより行うことができる。
【0072】
本発明は、上記の製法で製造できる下記式(4)で表される置換芳香族ニトリル化合物を提供する。
【0073】
【化8】

【0074】
上記式中、X20はフッ素または塩素原子、好ましくはフッ素原子を表す。R20は2〜14個の炭素原子を有する有機基、好ましくは6〜14個の炭素原子を有するアリール基または置換アリール基、より好ましくは6〜14個の炭素原子を有するフェニル基または置換フェニル基を表す。d+e+f≦6であることを条件として、dは1または2であり、eは2以上の整数であり、fは1または2である。好ましくはd+e+f=6である。gは1または2である。但しdが2である場合には、2つのシアノ基は相互にオルト位またはメタ位にあり、gが2である場合には、fは1である。好ましくはg=f=1である。
【0075】
置換芳香族ニトリル化合物(4)は、電子材料、光学材料(例えば光学用途向けの樹脂添加剤)、医薬中間体等に利用できる。置換芳香族ニトリル化合物(4)の中でも、上記カップリング反応の基質としてテトラフルオロフタロニトリルまたはテトラフルオロイソフタロニトリルを用いて製造できるものが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0077】
実施例1(3,5,6−トリフルオロ−4−(4−トリフルオロメチルフェニル)フタロニトリル(置換生成物A)の製造)
【0078】
【化9】

【0079】
反応容器(滴下ロートと還流管を備えた200mlの三つ口フラスコ)に、マグネシウム3.06g(125.94mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した後、THF100mlを加えた。続いて室温でp−ブロモトリフルオロメチルベンゼン23.62g(104.95mmol)を滴下ロートからゆっくりと滴下し、滴下終了後、還流下で1時間撹拌してグリニャール試薬(p−トリフルオロメチルフェニルマグネシウムブロミド)を合成した。次いで塩化リチウム4.45g(104.95mmol)を加えて、塩化リチウムを含む均一なグリニャール試薬溶液を調製した。
【0080】
グリニャール試薬の合成とは別に、反応容器(温度計および滴下ロートを備えた300mlの三つ口フラスコ)を用意し、これにテトラフルオロフタロニトリル14.00g(69.97mmol)および塩化リチウム4.45g(104.95mmol)を加え、この反応容器を窒素置換した後、THF150mlを加えて、基質溶液を調製した。この基質溶液を0℃まで冷却した後、先に調製したグリニャール試薬溶液をシリンジで滴下ロートに移し、反応溶液が5℃を超えないように注意しながら、グリニャール試薬溶液を滴下した。
【0081】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、0℃で24時間撹拌した後、1Mの塩酸水溶液を加えて反応を終了させた。これから有機相を取り出し、残りの水相をジエチルエーテルで3回抽出し、抽出で用いたジエチルエーテルをあわせた有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水した。次いで硫酸マグネシウムをろ過により除去し、有機相の溶媒をエバポレーターで留去し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/ヘキサン=1/1)で精製することにより、置換生成物Aを9.15g(28.05mmol、収率40%)で得た。
【0082】
置換生成物Aの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 7.60(d、J=8.1Hz、2H)、7.84(d、J=8.1Hz、2H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −127.55(dd、J=19.6Hz、12.0Hz、1F)、−121.95(dd、J=19.6Hz、12.0Hz、1F)、−105.84(dd、J=12.0Hz、1F)、−63.27(s、3F)
融点:107〜109℃
MS(EI):m/z=326(M+
HRMS(高分解能マススペクトル)(EI):計算値(C15462)326.0279、実測値326.0282
元素分析(%):計算値(C15462);C 55.23、H 1.24、N 8.59、実測値;C 55.08、H 1.23、N 8.75
【0083】
実施例2(3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メチルフェニル)フタロニトリル(置換生成物B)の製造)
【0084】
【化10】

【0085】
置換生成物を昇華精製したこと以外は、以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Bを47%の収率で得た。
【0086】
置換生成物Bの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 2.45(s、3H)、7.12〜7.50(m、4H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −128.43(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−122.62(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−105.88(dd、J=12.4Hz、12.4Hz、1F)
融点:189〜190℃
MS(EI):m/z=272(M+
HRMS(EI):計算値(C15732)272.0561、実測値272.0553
元素分析(%):計算値(C15732);C 66.18、H 2.59、N 10.29、実測値;C 65.91、H 2.49、N 10.29
【0087】
実施例3(置換生成物Bの製造)
【0088】
【化11】

【0089】
以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Bを得た。但しこの実施例では置換生成物を単離しなかった。反応終了後の溶液中の置換生成物Bの収率は、ガスクロマトグラフ内部標準法で定量したところ、39%であった。
【0090】
実施例4(3,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニル)フタロニトリル(置換生成物C)の製造)
【0091】
【化12】

【0092】
置換生成物を、酢酸エチル/ヘキサン=1/1の混合溶媒による再結晶で精製したこと以外は、以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Cを53%の収率で得た。
【0093】
置換生成物Cの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 3.89(s、3H)、7.06(d、J=7.9Hz、2H)、7.42(d、J=7.9Hz、2H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −128.58(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−123.20(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−106.22(dd、J=12.4Hz、12.4Hz、1F)
融点:179〜180℃
MS(EI):m/z=288(M+
HRMS(EI):計算値(C15732O)288.0510、実測値288.0512
元素分析(%):計算値(C15732O);C 62.51、H 2.45、N 9.72、実測値;C 62.36、H 2.67、N 9.76
【0094】
実施例5(3,5,6−トリフルオロ−4−(2−メチルフェニル)フタロニトリル(置換生成物D)の製造)
【0095】
【化13】

【0096】
置換生成物を逆相HPLCにより単離したこと以外は、以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Dを40%の収率で得た。
【0097】
置換生成物Dの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 2.19(s、3H)、7.16(d、J=7.8Hz、1H)、7.32〜7.50(m、3H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −128.31(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−119.18(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−103.30(dd、J=12.4Hz、12.4Hz、1F)
融点:92〜93℃
MS(EI):m/z=272(M+
HRMS(EI):計算値(C15732)272.0561、実測値272.0553
【0098】
実施例6(3,5,6−トリフルオロ−4−(4−フルオロフェニル)フタロニトリル(置換生成物E)の製造)
【0099】
【化14】

【0100】
以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Eを32%の収率で得た。
【0101】
置換生成物Eの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 7.23〜7.30(m、2H)、7.43〜7.50(m、2H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −128.03(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−122.52(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−107.76〜−107.68(m、1F)、−106.04(dd、J=12.4Hz、12.4Hz、1F)
融点:112〜113℃
MS(EI):m/z=276(M+
HRMS(EI):計算値(C14442)276.0311、実測値276.0301
元素分析(%):計算値(C14442);C 60.88、H 1.46、N 10.14、実測値;C 60.82、H 1.55、N 10.04
【0102】
実施例7(3,5,6−トリフルオロ−4−フェニルフタロニトリル(置換生成物F)の製造)
【0103】
【化15】

【0104】
以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Fを38%の収率で得た。
【0105】
置換生成物Fの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 7.42〜7.48(m、2H)、7.54〜7.59(m、3H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −128.29(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−122.37(dd、J=22.3Hz、12.4Hz、1F)、−105.79(dd、J=12.4Hz、12.4Hz、1F)
融点:119〜120℃
MS(EI):m/z=258(M+
HRMS(EI):計算値(C14532)258.0405、実測値258.0396
元素分析(%):計算値(C14532);C 65.12、H 1.95、N 10.85、実測値;C 65.06、H 1.99、N 10.82
【0106】
実施例8(置換生成物Bの製造)
【0107】
【化16】

【0108】
以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Bを得た。但しこの実施例では置換生成物を単離しなかった。反応終了後の溶液中の置換生成物Bの収率は、ガスクロマトグラフ内部標準法で定量したところ、20%であった。
【0109】
実施例9(2,5,6−トリフルオロ−4−(4−メトキシフェニル)イソフタロニトリル(置換生成物G)の製造)
【0110】
【化17】

【0111】
置換生成物を逆相HPLCにより単離したこと以外は、以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Gを22%の収率で得た。
【0112】
置換生成物Gの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 3.90(s、3H)、7.08(d、J=8.7Hz、2H)、7.48(d、J=8.7Hz、2H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −138.66(dd、J=22.3Hz、14.7Hz、1F)、−116.42(d、J=22.3Hz、1F)、−100.51(d、J=14.7Hz、1F)
融点:126〜127℃
MS(EI):m/z=288(M+
HRMS(EI):計算値(C15732O)288.0510、実測値288.0515
【0113】
実施例10(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−(4−メトキシフェニル)ベンゾニトリル(置換生成物H)の製造)
【0114】
【化18】

【0115】
置換生成物を逆相HPLCにより単離したこと以外は、以下の表1に示す条件で実施例1と同様の方法により、置換生成物Hを5%の収率で得た。
【0116】
置換生成物Hの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 3.88(s、3H)、7.05(d、J=9.0Hz、2H)、7.43(d、J=9.0Hz、2H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −140.44(dd、J=9.9Hz、2F)、−132.67(d、J=9.9Hz、2F)
融点:130〜131℃
MS(EI):m/z=281(M+
HRMS(EI):計算値(C1474NO)281.0464、実測値281.0461
【0117】
前記実施例1〜10の反応条件および置換生成物の収率を、以下の表1にまとめた。
【0118】
【表1】

【0119】
実施例11(3,5,6−トリフルオロ−4−[(トリメチルシリル)エチニル]フタロニトリル(置換生成物I)の製造)
【0120】
【化19】

【0121】
コールドフィンガーを備えた10mlの二口反応容器内を窒素置換した後、1MのエチルマグネシウムブロミドのTHF溶液3.0ml(3.0mmol)を加え、0℃まで冷却した。続いてエチニルトリメチルシラン0.294g(3.0mmol)をシリンジを用いてゆっくりと加え、そのまま室温まで昇温し、室温でさらに1時間撹拌してグリニャール試薬を合成した。次いで塩化リチウム127.2mg(3.0mmol)を加えて、塩化リチウムを含む均一なグリニャール試薬溶液を調製した。
【0122】
グリニャール試薬の合成とは別に、20mlのスクリュー管瓶を用意し、これにテトラフルオロフタロニトリル200.1mg(1.0mmol)および塩化リチウム65.4mg(1.5mmol)を加え、この反応容器を窒素置換した後、THF3mlを加えて、基質溶液を調製した。この基質溶液を0℃まで冷却した後、先に調製したグリニャール試薬溶液を、シリンジで反応溶液が5℃を超えないように注意しながら、滴下した。
【0123】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、室温に昇温して、室温で24時間撹拌した後、1Mの塩酸水溶液を加えて反応を終了させた。そして実施例1と同様にして精製することにより、置換生成物Iを113.9mg(0.41mmol、収率41%)で得た。
【0124】
置換生成物Iの同定データを、以下に記載する。
1H−NMR(300MHz、CDCl3):δ 0.31(s、9H)
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −128.75(dd、J=20.0Hz、12.4Hz、1F)、−115.77(dd、J=20.0Hz、7.6Hz、1F)、−99.76(dd、J=12.4Hz、7.6Hz、1F)
28Si−NMR(53.54MHz、CDCl3):δ −13.90
融点:81〜82℃
MS(EI):m/z=278(M+
HRMS(EI):計算値(C13932Si)278.0487、実測値278.0484
元素分析(%):計算値(C13932Si);C 55.23、H 1.24、N 8.59、実測値;C 55.08、H 1.23、N 8.75
【0125】
実施例12(3,5,6−トリフルオロ−4−(テトラフルオロフェニル)フタロニトリル(一置換生成物J)および5,6−ジフルオロ−3,4−ビス(テトラフルオロフェニル)フタロニトリル(二置換生成物K)の製造)
【0126】
【化20】

【0127】
10mlの二口反応容器内を窒素置換した後、0.84MのエチルマグネシウムブロミドのTHF溶液1.79ml(1.5mmol)を加え、0℃まで冷却した。続いてブロモペンタフルオロベンゼン1.83mL(1.5mmol)を、シリンジで10分かけて加え、そのまま室温まで昇温し、室温でさらに1時間撹拌してグリニャール試薬を合成した。次いで塩化リチウム63.6mg(1.5mmol)を加えて、塩化リチウムを含む均一なグリニャール試薬溶液を調製した。
【0128】
グリニャール試薬の合成とは別に、20mlのスクリュー管瓶を用意し、これにテトラフルオロフタロニトリル200.1mg(1.0mmol)および塩化リチウム65.4mg(1.5mmol)を加え、この反応容器を窒素置換した後、THF3mlを加えて、基質溶液を調製した。この基質溶液を0℃まで冷却した後、先に調製したグリニャール試薬溶液を、シリンジで5分かけて加えた。
【0129】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、0℃で24時間撹拌した後、1Mの塩酸水溶液を加えて反応を終了させた。そしてシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして精製することにより、一置換生成物J(Rf値0.30)を86.7mg(0.249mmol、収率25%)で、二置換生成物K(Rf値0.38)を72.1mg(0.145mmol、収率15%)で得た。
【0130】
一置換生成物Jの同定データを、以下に記載する。
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −158.65〜−158.09(m、2F)、−146.47〜−145.90(m、1F)、−136.17〜135.96(m、2F)、−127.15〜−126.77(m、1F)、−116.34〜−116.16(m、1F)、−101.89〜−101.70(m、1F)
MS(EI):m/z=348(M+
HRMS(EI):計算値(C1482)347.9934、実測値347.9926
【0131】
二置換生成物Kの同定データを、以下に記載する。
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −157.47(dd、J=19.8Hz、15.0Hz、4F)、−145.57(t、J=19.8Hz、2F)、−137.61(d、J=19.8Hz、4F)、−103.27(s、2F)
融点:166〜167℃
MS(EI):m/z=496(M+
HRMS(EI):計算値(C20122)495.9870、実測値495.9868
【0132】
実施例13(1,4−ビス(3,4−ジシアノ−2,5,6−トリフルオロフェニル)−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン(置換生成物L)の製造)
【0133】
【化21】

【0134】
10mlの二口反応容器に、1,4−ジブロモ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン230.9mg(0.75mmol)および塩化リチウム65.4mg(1.5mmol)を加えて窒素置換した後、THF3mlを加えて−78℃まで冷却した。続いて0.89MのエチルマグネシウムブロミドのTHF溶液1.69ml(1.5mmol)をシリンジで10分かけて加え、15分間撹拌することでジグリニャール試薬溶液を調製した。
【0135】
ジグリニャール試薬の合成とは別に、20mlのスクリュー管瓶を用意し、これにテトラフルオロフタロニトリル200.1mg(1.0mmol)および塩化リチウム65.4mg(1.5mmol)を加え、この反応容器を窒素置換した後、THF3mlを加えて、基質溶液を調製した。この基質溶液を−78℃まで冷却した後、先に調製したジグリニャール試薬溶液を、テフロン(登録商標)チューブを用いて加えた。
【0136】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、−78℃で3時間、次いで−20℃で21時間撹拌した後、1Mの塩酸水溶液を加えて反応を終了させた。そしてシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして精製することにより、置換生成物L(Rf値0.31)を23.3mg(0.05mmol、収率5%)で得た。
【0137】
置換生成物Lの同定データを、以下に記載する。
19F−NMR(254MHz、CDCl3):δ −133.88〜133.80(m、4F)、−126.45〜−126.23(m、2F)、−115.81〜115.55(m、2F)、−101.43〜−101.27(m、2F)
融点:289〜290℃
MS(EI):m/z=510(M+
HRMS(EI):計算値(C22104)509.9963、実測値509.9969
【0138】
比較例1(添加剤無しでの反応)
【0139】
【化22】

【0140】
塩化リチウムを使用しなかったこと以外は、実施例2と同様の方法により、4−トリルマグネシウムブロミドとテトラフルオロフタロニトリルとを反応させた。具体的には以下のように反応を行った。
コールドフィンガーを備えた10mlの二口反応容器に、マグネシウム43.76mg(1.8mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した後、THF1.5mlを加えた。続いて室温でp−ブロモトルエン256.5mg(1.5mmol)をシリンジでゆっくりと滴下し、滴下終了後、還流下で1時間撹拌してグリニャール試薬(4−トリルマグネシウムブロミド)を合成した。
【0141】
グリニャール試薬の合成とは別に、20mlのスクリュー管瓶を用意し、これにテトラフルオロフタロニトリル200.1mg(1.0mmol)を加え、この反応容器を窒素置換した後、THF3mlを加えて、基質溶液を調製した。この基質溶液を0℃まで冷却した後、先に調製したグリニャール試薬溶液を、シリンジで反応溶液が5℃を超えないように注意しながら、滴下した。
【0142】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、0℃で24時間撹拌した後、1Mの塩酸水溶液を加えて反応を終了させた。この反応終了後の反応溶液をガスクロマトグラフィーで調べたところ、多数の副生成物が形成しているため分離・精製できる状態ではなかった。多数の副生成物が形成したのは、塩化リチウムを使用しなかったため、副反応(グリニャール試薬のシアノ基への攻撃)が抑制されなかったことが原因の1つであると考えられる。
【0143】
比較例2(添加剤無しでの反応)
グリニャール試薬と基質(含ハロゲン芳香族ニトリル化合物)との反応を−35℃で行ったこと以外は、比較例2と同様の方法により、4−トリルマグネシウムブロミドとテトラフルオロフタロニトリルとを反応させた。しかしながらこの比較例でも、反応終了後の反応溶液をガスクロマトグラフィーで調べたところ、比較例2と同様に多数の副生成物が形成しており、−35℃という低温反応でも、副反応を充分に抑制できなかった。
【0144】
比較例3(パラジウム触媒存在下での反応)
【0145】
【化23】

【0146】
塩化リチウムの代わりにパラジウム触媒を使用したこと以外は、実施例2と同様の方法により、4−トリルマグネシウムブロミドとテトラフルオロフタロニトリルとを反応させた。具体的には以下のように反応を行った。
コールドフィンガーを備えた10mlの二口反応容器に、マグネシウム43.76mg(1.8mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した後、THF1.5mlを加えた。続いて室温でp−ブロモトルエン256.5mg(1.5mmol)をシリンジでゆっくりと滴下し、滴下終了後、還流下で1時間撹拌してグリニャール試薬(4−トリルマグネシウムブロミド)を合成した。
【0147】
グリニャール試薬の合成とは別に、20mlのスクリュー管瓶を用意し、これにテトラフルオロフタロニトリル200.1mg(1.0mmol)とパラジウム触媒(Pd(Cl2)(dppf)、dppf=1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)7.32mg(0.01mmol)を加え、この反応容器を窒素置換した後、THF3mlを加えて、基質溶液を調製した。この基質溶液を0℃まで冷却した後、先に調製したグリニャール試薬溶液を、シリンジで反応溶液が5℃を超えないように注意しながら、滴下した。
【0148】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、0℃で24時間撹拌した後、1Mの塩酸水溶液を加えて反応を終了させた。この反応終了後の反応溶液をガスクロマトグラフィーで調べたところ、多数の副生成物が生成しているため、分離・精製できる状態ではなく、Pd触媒を用いても選択性良く反応を行うことができなかった。
【0149】
実施例14(塩化リチウム(LiCl)と塩化リチウム銅(Li2CuCl4)との比較)
3つ以上のフッ素および/または塩素原子を含有する芳香族ニトリル化合物を基質とする場合のカップリング反応の選択性(目的とする置換生成物の選択率)について、本発明の添加剤(ハロゲン化アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属)と特許文献2に記載の銅塩とを対比した。
【0150】
まず下記に示すように、塩化リチウムまたは塩化リチウム銅の存在下におけるテトラフルオロフタロニトリル(F4−PN)とフェニルマグネシウムブロミドとの反応における置換生成物Fの選択率を調べた。
【0151】
【化24】

【0152】
具体的には、まず塩化リチウムを用いた場合、以下のように行った:滴下ロートを備えた50mlの反応容器に、テトラフルオロイソフタロニトリル2.00g(10.00mmol)および塩化リチウム0.635g(14.98mmol)を加えて窒素置換した後、THF10mlを加え、5℃まで冷却して、基質溶液を調製した。
【0153】
別途用意したナスフラスコに塩化リチウム0.635g(14.98mmol)を加え、さらに1.08Mのフェニルマグネシウムブロミド溶液11.5ml(12.42mmol)を加えて撹拌し、グリニャール試薬溶液を調製した。このグリニャール試薬溶液を、反応容器に備えた滴下ロートに移し、反応溶液が10℃以上にならないように注意しながらゆっくりと加えた。
【0154】
グリニャール試薬溶液の滴下終了後、そのまま終夜撹拌してから、反応溶液の一部をサンプリングし、1Mの塩酸でクエンチした後、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。この酢酸エチル層のガスクロマトグラフ(GC)を測定することで、反応混合物のガスクロマトグラフのピーク面積比(GC面積比)を調べた。結果を下記表2に示す。
【0155】
塩化リチウムの代わりに塩化リチウム銅を使用して、上記と同様に、反応混合物のGC面積比を調べた。塩化リチウム銅の使用法は、特許文献2に開示されている方法に従った。具体的には塩化リチウム銅を、“Synthesis, p. 303-305, 1971年”に記載の方法で調製した。また塩化リチウム銅/テトラフルオロイソフタロニトリルのモル比が0.01になるように、0.1Mの塩化リチウム銅溶液(0.1mmol)を基質溶液にのみ加えた。結果を下記表2に示す。
【0156】
上記と同様にして、テトラフルオロイソフタロニトリル(F4−IPN)とフェニルマグネシウムブロミドとの反応における2,3,6−トリフルオロ−4−フェニルイソフタロニトリル(置換生成物M)の選択率(GC面積比);5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル(ClF3−IPN)とフェニルマグネシウムブロミドとの反応における5−クロロ−2,6−ジフルオロ−4−フェニルイソフタロニトリル(置換生成物N)の選択率;およびペンタフルオロベンゾニトリル(F5−BN)とフェニルマグネシウムブロミドとの反応における2,3,5,6−テトラフルオロ−4−フェニルベンゾニトリル(置換生成物O)の選択率を調べた。結果を下記表2に示す。
【0157】
【化25】

【0158】
【表2】

【0159】
上記表2の結果から、シアノ基および3つ以上のフッ素および/または塩素原子を含有する芳香族ニトリル化合物(1)のカップリング反応では、本発明の塩化リチウムを用いた場合、良好な目的物の選択率が得られている。これに対して、特許文献2の塩化リチウム銅を用いた場合、目的物の選択率が低下し、副生成物(ビフェニル、Ph−Ph)の割合が増大している。この理由として、基質である芳香族ニトリル化合物に3つ以上のフッ素および/または塩素原子が存在することで、基質の立体障害が大きくなること、および基質の電気的特性が変化することにより、基質に対する塩化リチウム銅の触媒作用が低下し、塩化リチウム銅は、基質とグリニャール試薬とのカップリング反応よりはむしろ、副反応であるグリニャール試薬(フェニルマグネシウムブロミド)同士のカップリング反応を促進することが考えられる。以上の結果から、シアノ基および3つ以上のフッ素および/または塩素原子を含有する芳香族ニトリル化合物(1)のカップリング反応において、本発明の塩化リチウムが非常に優れた反応促進作用を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
パラジウム触媒などのような高価な添加剤を使用せずとも、安価なハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属を使用することで、含ハロゲン芳香族ニトリル化合物のハロゲンを、グリニャール試薬からの有機基で置換して、置換芳香族ニトリル化合物を製造することができる。このような置換芳香族ニトリル化合物は、電子材料等としての利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化アルカリ金属および/またはハロゲン化アルカリ土類金属の存在下で、下記式(1)の芳香族ニトリル化合物と、下記式(2)のグリニャール試薬とを反応させて、下記式(3)の置換芳香族ニトリル化合物を得ることを特徴とする、置換芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【化1】

〔式中、X10はフッ素または塩素原子を表す。Y10はハロゲン原子を表す。R10は有機基を表す。a+b≦6、b≧cであることを条件として、aは1または2であり、bは3以上の整数であり、cは1以上の整数である。p≧qを条件として、pおよびqはそれぞれ1または2である。但しqが2である場合には、cは1である。〕
【請求項2】
ハロゲン化アルカリ金属が、ハロゲン化リチウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(2)中のR10が、アリール基または置換アリール基である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式(1)中の少なくとも1つのX10が、フッ素原子である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
式(1)の芳香族ニトリル化合物が、テトラフルオロフタロニトリル、テトラフルオロイソフタロニトリルまたはペンタフルオロベンゾニトリルである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ハロゲン化リチウムの存在下で、テトラフルオロフタロニトリルと、式:ArMgY20(式中、Arはアリール基または置換アリール基を表し、Y20はハロゲン原子を表す。)のグリニャール試薬とを反応させることを特徴とする、4−アリール置換−3,5,6−トリフルオロフタロニトリルまたは4,5−ジアリール置換−3,6−ジフルオロフタロニトリルの製造方法。
【請求項7】
下記式(4)で表される置換芳香族ニトリル化合物。
【化2】

〔式中、X20はフッ素または塩素原子を表す。R20は2〜14個の炭素原子を有する有機基を表す。d+e+f≦6であることを条件として、dは1または2であり、eは2以上の整数であり、fは1または2である。gは1または2である。但しdが2である場合には、2つのシアノ基は相互にオルト位またはメタ位にあり、gが2である場合には、fは1である。〕

【公開番号】特開2007−230999(P2007−230999A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3778(P2007−3778)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】