説明

義歯床作製用ブロック体

【課題】 切削加工によって義歯床を作製する際に使用されるための最適な義歯床作製用ブロック体を提供する。
【解決手段】 (メタ)アクリレートモノマーを重合して作製され、JIS Z8729に基づいて試料厚4mmにて測定したとき、色調がL=40〜55,a=14〜31,b=5〜20の範囲であることを特徴とする義歯床作製用ブロック体とする。義歯床作製用ブロック体は、直径8〜15cm,高さ1.5〜5cmの円筒形状や、長径及び短径が8〜15cm,高さ1.5〜5cmの楕円筒形状であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元座標データに基づいて切削加工機によって義歯床を作製する際に使用される義歯床作製用ブロック体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インレー,クラウン,ブリッジ等の歯科用補綴物の作製は、ロストワックス鋳造法により金属材料を鋳造して作製する方法が一般的に採用されている。通常、ロストワックス鋳造法による歯科用補綴物の作製は、口腔内を印象採得して得られた印象型に石膏を注入・硬化させて作製した石膏模型上で、補綴物形状をワックスを用いて作製し、得られた蝋型を耐火埋没材中に埋没させ、埋没材の硬化後に電気炉中に入れて加熱して蝋型を焼却させて得られた鋳型で金属等を鋳造し、冷却後、鋳造物を埋没材から掘り出し、切削・研磨して目的とするインレーやクラウン等の歯科用補綴物が作製されている。
【0003】
このような歯科用補綴物は、対象とすべき歯の状態(齲蝕の状態,破損や折損の状態)や口腔内形状が患者一人一人によって異なるため、作製する歯科用補綴物も患者一人一人によって異なり、対合歯や隣在歯の関係や咬合関係等を考慮して歯科技工士の勘と経験に基づき形態が設計されて作製される。しかも前述のように歯科用補綴物の作製作業は煩雑で手作業の工程が多いにも拘らず、更に完成した歯科用補綴物には数μm単位の極めて高い寸法精度が要求されるため、歯科技工士の熟練ばかりでなく多大な時間と手間とが必要となっている。
【0004】
このようなことから、一定品質の歯科用補綴物を短時間で安定して多く供給できる方法として、近年、コンピュータを利用して画面上でインレー,クラウン,ブリッジ等の歯科用補綴物の設計を行い、切削・研削加工によって歯科用補綴物を作製するCAD/CAMシステムが注目され、CAD/CAMシステムを用いた歯科用補綴物の設計・作製システムにより歯科用補綴物が作製されている。このCAD/CAMシステムは、支台歯形成や窩洞形成した歯牙や場合によっては隣在歯や対合歯の形状を読み取り、読み取った歯牙の形状を基に目的の歯科用補綴物をコンピュータを用いて設計し、レジン硬化体,セラミック焼結体,金属体等のブロック状材料を切削・研削加工機にセットして切削・研削加工して目的とする歯科用補綴物を作製する方法である(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0005】
しかし、従来のCAD/CAMシステムを用いた歯科用補綴物の作製方法で義歯床を作製する場合に、従来使用されて被切削体、即ちレジン硬化体,セラミック焼結体,金属体等のブロック状材料は、その色調が歯牙に似せたものであったことから義歯床に使用することはできなかった。また、被切削体の大きさも義歯床の作製には適していないという問題があった(例えば、特許文献4〜6参照。)。
【特許文献1】特開2002−224143号公報
【特許文献2】特開2005−168825号公報
【特許文献3】特開2007−215763号公報
【特許文献4】特開2001−019539号公報
【特許文献5】特開2004−035332号公報
【特許文献6】特開2006−087527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、切削加工によって義歯床を作製する際に使用されるための最適な義歯床作製用ブロック体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(メタ)アクリレートモノマーを重合して作製され、JIS Z8729に基づいて試料厚4mmにて測定したとき、色調がL=40〜55,a=14〜31,b=5〜20の範囲であることを特徴とする義歯床作製用ブロック体とすれば前記課題を解決可能であることを究明して本発明を完成した。
【0008】
本発明に係る義歯床作製用ブロック体は、硬化後の色調がJIS Z8729に基づいて試料厚4mmにて測定したとき、色調がL=40〜55,a=14〜31,b=5〜20の範囲である。L,a,bの各値が該範囲を外れると義歯床として使用できない色調となる。好ましくは、L=42〜48,a=20〜30,b=5〜20の範囲である。
【0009】
本発明に係る義歯床作製用ブロック体は、一般的な総義歯床の大きさよりも十分に大きなブロックであることが好ましく、具体的には、直径8〜15cm,高さ1.5〜5cmの円筒形状や、長径及び短径が8〜15cm,高さ1.5〜5cmの楕円筒形状であることが好ましい。また、一辺が8〜15cm,高さ1.5〜5cmの方体であっても良い。
【0010】
義歯床作製用ブロック体の外周には切削加工機に装着するための、例えば、フランジ状,棒状突起,ねじ穴等の保持部が予め設けられていると、切削加工機への装着が簡単及び/または確実となるので好ましい。
【0011】
本発明に係る義歯床作製用ブロック体は、(メタ)アクリレートモノマーを重合して作製される。(メタ)アクリレートモノマーとしてはメチル(メタ)アクリレートが主に用いられるが、後述するポリマー成分と混合したときの流動性や硬化後の物理的性質を確保するために、その他の(メタ)アクリレートモノマーを混合して用いることもある。その他の(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート,ブチル(メタ)アクリレート,イソブチル(メタ)アクリレート,2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート,シクロヘキシル(メタ)アクリレート,テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これ等の1種または2種以上を混合して用いる。
【0012】
また、架橋剤として、多官能性(メタ)アクリレート、ジアリルフタレートまたは多官能性(メタ)アクリレートにジアリルフタレートを加えた混合物も用いられる。多官能性(メタ)クリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン結合を含む多官能性(メタ)アクリレート等が好適に用いられ、これ等は夫々1種または2種以上を混合して用いる。架橋剤の添加量は、(メタ)アクリレートモノマー100重量部に対し0.001〜15重量部が好ましく用いられ、0.001重量部未満であるとポリマー鎖の架橋密度が不足し緻密な構造とならないため、耐溶剤性に劣り、また架橋密度が不足し緻密な構造とならないため変形し易くなる。15重量部を超えると重合収縮が大きくなる傾向があり、更に硬化体が脆くなり破折し易くなる傾向がある。
【0013】
本発明に係る義歯床作製用ブロック体は前述のモノマー成分に加えてポリマー成分を混合することもある。ポリマー成分としては、メチル(メタ)アクリレートのホモポリマーまたはメチル(メタ)アクリレートを主成分とするコポリマーが主に用いられる。メチル(メタ)アクリレートを主成分とするコポリマーとしては、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレートコポリマー,メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレートコポリマー,メチル(メタ)アクリレート・トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートコポリマー,メチル(メタ)アクリレート・スチレンコポリマー等が挙げられ、メチル(メタ)アクリレートのホモポリマーとこれ等のメチル(メタ)アクリレートを主成分とするコポリマーとを混合して使用することもある。
【0014】
更に義歯床用レジンブロック体の物理的性質を調整するために、前記ポリマー成分以外のポリマーの1種または2種以上を混合することもある。そのポリマーとしては、エチル(メタ)アクリレートのホモポリマー,ブチル(メタ)アクリレートのホモポリマー等が挙げられる。
【0015】
本発明に係る義歯床作製用ブロック体の重合において重合触媒は、加熱して義歯床用樹脂材料を重合・硬化させる場合には熱重合触媒が使用される。重合触媒は0.01〜5重量部以下の範囲で用いることが適当であり、5重量部を超えても効果は得難い。また、ポリマーに残留している重合触媒のみでも緩やかに重合硬化するため、添加しない場合もある。
【0016】
重合触媒としては、芳香族を有するジアシルパーオキシド類や過安息香酸のエステルと見なされるようなパーオキシエステル類が使用可能であり、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキシド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ[(o−ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ]ヘキサン等を例示できる。また、アゾビスイソブチロニトリル等のようなアゾ化合物や、トリブチルホウ素等のような有機金属化合物等も使用可能である。
【0017】
なお、本発明に係る義歯床作製用ブロック体には、必要に応じて無機充填材を加えて硬化体の強度や切削のし易さを向上させることができる。この無機充填材としては、具体的には、二酸化ケイ素,バリウムガラス,アルミナガラス,カリウムガラス等のガラス類、合成ゼオライト,リン酸カルシウム,長石,ケイ酸アルミニウム,ケイ酸カルシウム,炭酸マグネシウム,石英等の粉末がある。これらの無機質充填材は、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,ビニルトリクロロシラン,ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリアセトキシシラン,ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等のシラン処理剤で表面処理されていても良い。また、前記の無機質充填材を予めメタ)アクリレートモノマーと混合して硬化させた後、粉砕して作製した所謂有機無機複合充填材や重合性モノマーに溶解性のないポリマー粉末も充填材として使用することができる。
【実施例】
【0018】
<外観評価>
作製した義歯床作製用ブロック体を厚さ4mmに切り出し、外観を目視にて観察した。
【0019】
<測色>
作製した義歯床作製用ブロック体を厚さ4mmに切り出し、測色計(商品名:色差計SE-2000,日本電色工業社製)を用い、JIS Z8729に基づいて試料厚4mmの色調を測定した。結果を表1に纏めて示す。
【0020】
<実施例1>
以下に示す粉成分と液成分を調整した。
粉成分
メチルメタクリレート重合体:1000gを100重量部として、顔料:0.0009重量部を乳鉢にて混合して粉末成分とした。

液成分
メチルメタクリレート:1000gを100重量部として、エチレングリコールジメタクリレート:0.005重量部を混合して液体成分とした。
【0021】
粉:液を220g:77gの比で混合し、80分放置して餅状物を得た。この餅状物を内径10cmの金型に投入し、油圧プレス機を用いて上から凸金型を10tの圧力で押し込み保圧した。金型の下面を75℃に昇温し16時間保温した。16時間後、プレス機の圧を解除し、金型を水中に投入して冷却した。冷却した金型からブロック体を取り出し、バリを除去して直径10cm、高さ3cmの円筒状の義歯床作製用ブロック体を得た。作製した義歯床作製用ブロック体を厚さ4mmに切り出し、外観を目視にて観察したところ、従来の義歯床と同じく審美的に十分使用可能であることが確認できた。
【0022】
<実施例2>
実施例1のうち顔料の配合量を0.0006重量部に変更した粉成分を用い、金型温度を上部40℃,下部90℃とし、4時間保温したものを実施例2とした。作製した義歯床作製用ブロック体を厚さ4mmに切り出し、外観を目視にて観察したところ、従来の義歯床と同じく審美的に十分使用可能であることが確認できた。
【0023】
<実施例3>
従来の義歯床用レジンとして市販の義歯床用レジン(商品名:ジーシー アクロン #3、株式会社ジーシー製)を用い、粉:液を200g:86gの比で混合し、30分放置してから餅状物を得た。流水下で冷却した後、この餅状物を内径10cmの石膏型に充填し沸騰水中に1時間投入して重合させた。この餅状物を内径10cmの金型に充填し30分間静止させ重合させた。金型からブロック体を取り出し、バリを除去して直径9cm、高さ2.8cmの円筒状の義歯床作製用ブロック体を得た。作製した義歯床作製用ブロック体を厚さ4mmに切り出し、外観を目視にて観察したところ、従来の義歯床と同じく審美的に十分使用可能であることが確認できた。
【0024】
<表1>



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレートモノマーを重合して作製され、JIS Z8729に基づいて試料厚4mmにて測定したとき、色調がL=40〜55,a=14〜31,b=5〜20の範囲であることを特徴とする義歯床作製用ブロック体。
【請求項2】
直径8〜15cm,高さ1.5〜5cmの円筒形状である請求項1に記載の義歯床作製用ブロック体。
【請求項3】
長径及び短径が8〜15cm,高さ1.5〜5cmの楕円筒形状である請求項1に記載の義歯床作製用ブロック体。
【請求項4】
一辺が8〜15cm,高さ1.5〜5cmの方体である請求項1に記載の義歯床作製用ブロック体。

【公開番号】特開2011−229839(P2011−229839A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105458(P2010−105458)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
【Fターム(参考)】