説明

義足

【課題】歩行時に地面側に載せられる下部とを含む義足に関し、硬さの調整手段を備えた義足を提供する。
【解決手段】上部、及び歩行時に地面側に載せられる下部とを含む義足であって、その際上部及び下部がかかと領域に配置されている弾性の緩衝要素によって互いに結合され及び上部及び下部がバネを形成し、重なり合って及び互いに間隔をあけてつま先の領域に伸びており、その際に緩衝要素9とつま先5の間の領域で上部3と下部4の間に少なくとも1つのインサート15を入れ、そのインサート15によって歩行時にインサート15によって連結される上部3と下部4の曲げ強度を高める義足を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部と、歩行時に地面側に載せられる下部とを含む義足に関し、その際上部及び下部はかかと領域に配置されている弾性の緩衝要素によって互いに結合され、及び上部と下部が重なり合い、及び互いに間隔をあけてつま先の領域に伸びている。
【背景技術】
【0002】
記述した種類の義足は、着用者に、快適な緩衝要素によって和らげられた着地及び本物の足に近い歩行を可能にする。現代の義足は、例えばカーボンラミネート、つまり炭素繊維複合材などから構成されている。このような義足は上部を備えており、この上部により、人工装具全体を下肢幹部に固定する接続軸又はそれに類似したものと義足とが、適切な接続手段によって連結される。上部は、ほぼ水平に伸びるセグメントを備えており、このセグメントはかかと領域からつま先領域に及んでいる。つま先の領域では、この上部が歩行時に地面側に載る下部と接続している。上部と下部は互いに間隔をあけているが、ほぼ合同に重なり合っている。上部と下部の間には、かかと領域には例えばゴム質の素材から成る弾性の緩衝要素があり、これは着地ダンパーとして作用し、及び地面に足を載せた時に作用する力を和らげる。緩衝要素とつま先の間の領域では上部と下部がバネを形成し、このバネが歩行時に曲げられ、及び荷重がかけられる。歩行動作時には、義足は下部の後端で地面に踏み込む。かかとエラストマーは、着地ダンパーとして、及び足後部てこと足前部てこの間、つまりかかと領域とつま先領域の間の支点として作用する。足後部てこは、地面反発力によって上方へ圧縮応力がかけられ、緩衝要素内にねじ戻りモーメントをもたらす。それによって足前部領域、つまり緩衝要素とつま先の間の領域に圧縮応力がかけられ、その結果このセグメントが拡大され、つまりこの領域で上部が下部から離れ、上方への曲がりが生じる。このようにして、そこにエネルギーが蓄積される。このエネルギーは、足前部が地面に接触すると、つまりつま先も載せられた時に、再び解放されて前進運動を楽にする。初期の直立段階への移行時には、地面反発力のベクトルは、それまで緩衝要素の後ろ、つまり後部かかと領域にあったものが、緩衝要素の前に移動する。これによって支点としての緩衝要素内にモーメントが生じ、このモーメントが足前部の下部領域と上部領域を圧縮する。つまり、体重移動の結果、以前に生じた上部と下部間の拡大が再び小さくなる。このモーメントは、ロール過程が経過するにつれて大きくなる。なぜなら地面反発力のベクトルがさらにますます前へ移動するからであり、これによって上部と下部の2つの領域は、それ以前には互いに離れる応力がかかっていたが、互いにさらにますます接近し、まず線で、次に面で互いに接触する。接触するようになるこの時点から、足前部抵抗が平均を上回る。つまり起こり得る弾性の足変形のゆえに、格段に高い抵抗が逆向きにかけられ、これは緩衝要素とつま先の間の領域にある互い接触している上部と下部の領域からもたらされる。
【0003】
義足の基本的な硬さ、つまり最終的にはそのバネ領域の屈曲能力とロール能力は、カーボン素材から成る現代の人工装具では、最終的には上部硬さ及び下部硬さそれぞれの設計によって、つまり最終的には部品素材自身によって調節される。つまり所望の硬さに合わせて、人工装具を形成するカーボン素材に応じてより厚く仕上げる、又は積層材に応じてより硬く調節する、などである。硬さを調節する手段は、整形外科技術者又は使用者には与えられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が基づく問題は従って、硬さの調整手段を備えた義足を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この問題を解決するために、冒頭に挙げた種類の義足は、本発明に従い、緩衝要素とつま先の間の領域で、上部と下部の間に少なくとも1つのインサートを入れ、このインサートによって歩行時に、挿入要素によって連結された上部と下部の曲げ強度を高めることが企図される。
【0006】
本発明による義足は、緩衝要素とつま先の間の領域で、つまりそこに設けられた上部と下部の間の空洞に、インサートをはめ込むことを特徴としている。これは、インサート設計に応じて、歩行動作中に上部と下部の1つ又は2つの互いの方を向きあった面と接触する。このことによって、上部の、本発明に従ってインサートによって連結される下部との当たり過程又は連結過程の変化がもたらされる。歩行時に生じる、下部に対する上部の動きは、一時的に両方に密着しているインサートによって、抵抗が逆向きにかけられ、その結果緩衝要素とつま先の間の領域の上部と下部から構成されるバネが硬くなる。つまり、硬さを高める接続は、歩行動作中に上部が下部に接触した時に初めて行われるのではなく、すでにはるかに早くから、すなわち面接触がインサートを介して行われた時に行われる。インサートは上部と下部の間の領域に配置されているため、インサートを挿入していない義足と比べて必然的に格段に早くから面接触が生じる。つまり、格段に早くから及びその結果としてまさしく個別に調節可能な時点で、曲げ強度の変化がもたらされる。接触の結果、下部に対する上部のずらし動作も変化し、この変化は遅くとも引きの際又はけって離れる際にもたらされる。ここで、2つの部分はほぼ相対的に動く。この動きは、挿入要素を介した連結によって抵抗が逆向きにかけられ、これは同様に硬化作用をもたらす。というのは、インサートの統合によって、上部が下部に対して完全に接近することが必要ではなくなり、むしろ抵抗が高まり、その結果、インサートが接触するほど上部が下部に近づき、そのために面の当接によってより高められた抵抗に対してたわみが可能になり下部に対する上部の相対ずれが可能になった時点で、人工装具の硬化が生じる。
【0007】
つまり、本発明に従って上足前部の領域と下領域の間、つまり上部と下部に組み入れられたインサートにより、ステップサイクルのどの段階で足前部の硬さが平均を上回って上昇開始するかを、個別に調整する可能性が存在する。これによって、整形外科技術者に、着用者にとって最も快適なように義足を個別に適合する手段が提供され、その際、言うまでもなく各使用状況(余暇のための義足、スポーツのための義足)に応じて個別に適合を実施することができる。
【0008】
インサート自体は、好ましくは少なくとも1つの粘着性の当接面を備えた、平らな構成部品であり、さまざまな方法で上部と下部の間に入れることができる。
【0009】
第一の発明別法に従い、インサートは固定的に上部又は下部と接続されていて、例えば貼り付けられていてよい。インサートは、この別法に従い、整形外科技術者によって個別の、着用者固有の選択及び必要に応じた適合に従ってしっかり固定される。歩行時には、それぞれ向かい合っている部分が接触し、その際抵抗が生じる。したがってインサートが例えば縦長の平らなプラスチック構成部品で十分な弾性を持つエラストマーである場合、例えば下部に接着され、歩行時に上部と接触する。インサートが整形外科技術者によって初めてはめ込まれる状況は、人工装具又はそのばね特性を着用者の個人的な要求に合わせて正確に適合及び調節することを可能にする。
【0010】
別法として、インサートが取り外し可能に上部に、下部に、又は緩衝要素に配置されることが企図される。これは、固定的な接着の別法の配置可能性として、整形外科技術者又は着用者に特別な利点を提供する。その利点とは、このインサートが必要に応じて取り外したり、他のインサートと交換したりすることができることである。ここでは、最高度の柔軟性が、義足の個別の減衰設計、あるいは硬さ設計に与えられる。なぜなら、整形外科技術者又は着用者は、インサートを取り外したり他のより軟らかい又はより硬い又はより長い又はより短いインサートと交換したりすることで、好みに合わせて人工装具調節を変化させることが可能だからである。インサートの基本的な選択と、個人的な適合、及びそれによる人工装具の調整は、整形外科技術者が行い、交換可能性の利点は着用者にも提供される。
【0011】
本発明別法の目的に合わせた発展形態では、取外し可能なインサートが企図され、緩衝要素には第一の固定セグメントが、及びインサートには第一の固定セグメントに補完的に形成された第二の固定セグメントが備えられ、これら固定セグメントは取外し可能に互いにかみ合わせることができる。本実施形態により、好ましくはインサートの固定部は緩衝要素にある。ここでは、2つの補完的に互いに仕上げられた固定セグメントを備え、1つは緩衝要素に、もう1つはインサートにあり、これらは固定のために取外し可能に互いにかみ合わされる。
【0012】
確実な固定は例えば、第一の固定セグメントはつま先に向かって開いた溝に内側に設けられたアンダーカットされた縦長の保持用突起部を備えていること、第二の固定セグメントは溝及び保持用突起部に対して補完的に形成されて保持用突起部を取り囲む保持用つめを備えていることで、達成される。緩衝要素に備えられた溝はさらなる十分な深さを持たせることなく仕上げることができる。なぜなら緩衝要素自体がある程度の水平の長さを備えているからである。この形状補完的な溝の構造は保持用突起部と共に、例えば断面図として見た場合に丸い突き出したこぶのように仕上げられ、及び保持用つめは堅牢な形状接合的な固定結合を作り出す。
【0013】
上部と下部の間には比較的小さいスペースしかないため、この領域で間隔が例えば0.5cm〜2cm動くと、本発明の目的に合わせた発展形態では、インサートが側面からその第二の固定セグメントを第一の固定セグメントに挿入可能であることが企図される。つまり、インサートを側面から挿入し、それによって上部と下部の間に入れることができる。側面方向へ滑り出ることを防ぐために、本発明の発展形態では、第一の及び第二の固定セグメントに、前記はめ込み位置で協働する外れ止め要素、例えば溝と突出部及び類似したものが備えられている。これによって、インサートはその側面方向の位置が固定される。
【0014】
上述の実施形態の別法として、2つの固定セグメントが補完的に形成された、互いにかみ合う構造には別の一発明バリエーションが企図され、緩衝要素に第一の固定セグメントが、及びインサートに第二の固定セグメントが備えられ、これら固定セグメントは貫通孔として仕上げられ、この貫通孔を通ってはめ込み位置で好ましくは上部から挿入される止めピン又は同様に好ましくは上部から挿入される、同様に緩衝要素に備えられた雌ネジセグメントにかみ合う止めボルトが、かみ合う。例えば緩衝要素はやはり溝を備えてよく、しかしこの場合はアンダーカット又は何か他のやり方による成形はなされておらず、単純な長方形の又は前方へ開いた構造を備えている。上からは貫通孔が、つまり穴が設けられている。補完的に、合同に位置決めされた穴がインサートにあり、このインサートは例えばやはり側面から挿入される。穴が合同に設けられている場合は、上から上部を通って止めピン又は止めボルトが通され、これらピン又はボルトがインサートを緩衝要素内に固定する。ここでは、ネジを使用すること、及び例えば緩衝要素内に雌ネジを切ったスリーブを設けることも考えられ、このスリーブ内にスクリューがねじ込まれる。ここでも、確実な、及び着用者が簡単に取外し可能なインサートの固定部が提供される。上部の変形可能性は使用された固定要素、例えばスクリューによって損なわれてはならない。それゆえに、これは緩衝要素とインサートの結合に使われるだけであり、この固定要素は上部に支持されない。
【0015】
インサートの縦方向終端の一か所のみに固定セグメントを備えることは、すでに十分かつ有利であるにも関わらず、インサートの縦方向両端に固定セグメントを設けることもまた、当然考えられ、その結果インサートを180°回転させた位置で同様に挿入することができる。このことは特に、これについては以下にさらに取り上げるが、インサートが異なった硬さの素材から成り、又はセグメントが異なったショア硬度を備えている、などの場合、有利である。
【0016】
本発明の目的に合わせた発展形態では、上部と下部が2つの隣り合って位置した縦セグメントを形成しながら、つま先から縦方向にスリットを切られている。この縦方向スリットは、2つの隣り合って位置したバネの形成を可能にする。このバネには歩行時に着用者の回内運動又は回外運動のために異なった負荷がかけられる。インサートをスリット領域まで広げると、つまりそのような縦セグメントに設けられると、その結果ここではまた回内運動又は回外運動がそれぞれインサートの作用によって変えられ又は調節される。
【0017】
インサート自体の幅は、ほぼ上部と下部の幅に相当するが、インサートは少なくともセグメント単位で、上部と下部より狭い幅を備えてもよい。
【0018】
義足が縦スリットを切られ、2つの隣り合って位置する縦セグメント又はバネとして構成されている場合、インサートが少なくとも、2つの重なり合って位置する縦セグメントのスリットを切られた上部と下部の間に配置された領域にあり、縦セグメントの幅だけを有しているという、本発明の特に有利な発展形態が企図される。つまり、右又は左のバネの領域にだけ、つまり右又は左の縦セグメントペアの領域にだけ広がり、及びその結果この領域だけにインサートの効果が影響を与えるように、インサートの寸法が決められる。その結果これは、実際の運動の種類に応じて、右又は左のバネ及び引いては回内運動又は回外運動にそれぞれインサートを介して影響を与える、局部的及び個別的な可能性を提供する。別の利点としてさらに、縦方向スリットと個別的な「横への」影響を組み合わせることで、発明による義足は右脚へも左脚へも着用することができることがある。というのは、ほぼ横から見て部分的に又はセグメント単位でしか作用しないインサートを統合する手段により、着用時になって左脚か右脚かが分かるような状況においては、それに応じて硬さを調節することができる。つまり、中央-側部ないし内側-外側の硬さ特性又は剛性特性ないし減衰特性が、インサートによって調整可能である。つまり負荷線は歩行動作中にいわば一方の側から他方の側へ「移動」し、その結果インサートに局部的な影響だけがもたらされる。
【0019】
発明による義足の変形形態をさらに改善するため、インサートを異なったショア硬度を備えた複数の素材から作るか、又は1つの素材から成る領域に異なったショア硬度を持たせてもよい。つまり、異なったショア硬度を備えたさまざまな種類の素材を使用するか、又は局部的に異なって調整された素材を1種類だけ使用するかで、インサートに局部的に異なった硬さないし弾力性を与えるという方法がある。当然ながらショア硬度の異なる交換可能なインサートも提供し得る。
【0020】
その際異なった素材の、又はショア硬度が異なった領域から成るセグメントは、幅方向又は長さ方向に隣り合って配置されていてよい。つまり、異なった硬さの領域が長さ方向で相前後して位置し、しかし同様に幅方向にも変化させることができる。他方、実施形態に応じて、足前部領域の硬さも変わる。
【0021】
別法として、又は異なった硬さの素材の使用又は異なった硬さの領域の構成に加えて、インサートをその長さ又は幅にわたって厚みを変化させるという方法がある。つまり、例えば側部を中央より厚く又はその逆に、あるいは長さ方向に相前後して切り替える、例えば波形状に肥厚を行ってよい。そのような厚み変更により、局部的な接触領域は、ほぼ負荷ないしステップ動作の進行に応じて変化し得る。例えば長さ方向に相前後して切り替えられた波が備えられていると、着地動作又はロール動作中にまず波山部が各上部面と下部面に接触する。動作が進行するにつれ、波山部はますます圧縮され、接触面が拡大し、抵抗がさらに強くなる。
【0022】
インサート自体は、中実素材構成部品として弾性の素材から構成されていてよい。しかし、発泡弾性のプラスチック素材を使用することも、つまり、インサートが発砲プラスチック構成部品であることも考え得る。しかし、非圧縮性のインサートの使用も考え得る。
【0023】
所望の弾性あるいはショア硬度を備えたプラスチック及び抵抗を高めることのできる十分な摩擦係数あるいは密着性を備えたプラスチックを使用してもよい。というのは、抵抗の上昇は最終的に、上部面及び下部面それぞれに対するインサートの密着性を伴って現れるからである。
【0024】
上部及び下部自体は、好ましくは互いにワンピースで成形される。義足の炭素構成部品又は炭素繊維複合構成部品では、ただ1つの炭素要素又は炭素繊維要素が使用され、ほぼループ形状に伸び、及びワンピースの構成部品として、つま先領域で上部に移行する下部が形成される。このためには別法として、上部と下部がつま先の領域で接続手段によって互いに結合されることも考えられる。例えば2つをスクリュー接続で互いに固定し、その際縦スリットを切った構成部品としての人工装具の実施形態では、各バネが独立した接続手段を上部と下部の間に備えていることが考えられる。
【0025】
上述したように、着用者には自分の義足の硬さを任意に調節することのできる手段がある。インサートが弾性のプラスチック素材製である場合、個別に適切にインサートを裁断することで所望のインサート形状を簡単に得ることができる。つまり、整形外科技術者又は着用者自身が、所望の、場合によって非対称の形状寸法にも、インサートを定義することができる。また、インサートの長さを変える手段も提供される。そのために目的に合わせてインサートの少なくとも一方の側に長さ表示が備えられ、その長さ表示で着用者に、どのくらいの長さだけ、例えばインサートを足前部領域に広げるかなどの適切な情報を与える。ここではまた、長さの異なった義足に合わせて適合することもできる。
【0026】
本発明のさらなる利点、特徴及び詳細は、以下に記述する実施例と図によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による義足の斜視図である。
【図2】図1の義足の側面図である。
【図3】図1の義足の平面図である。
【図4】分離した状態の緩衝要素及びインサートの詳細図である。
【図5】緩衝要素とインサートとの接続領域の拡大断面図である。
【図6】インサートの第二の実施形態の図である。
【図7】インサートの第三の実施形態の図である。
【図8】インサートの第四の実施形態の図である。
【図9】インサートの緩衝要素への第二の固定手段の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、ワンピースの炭素構成部品又は炭素繊維複合構成部品2から成る、本発明による義足1を示している。この構成部品は、つま先5の領域で(ワンピースであるために)互いに結合されている、上部3と上部3の下方に案内された下部4を備えている。自身に向かって曲がっている上部3を備えた上端部6には、義足を人工装具ホルダーに接続する接続手段7がある。下部4自体は歩行時に地面に置かれ、後端部8はかかと部分を形成している。
【0029】
上部3と下部4は、後端8の領域で、つまりかかと領域で、緩衝要素9によって互いに結合されている。この緩衝要素9は、弾性の材料、特にゴム構成部品又はプラスチック構成部品から成り、上部3と下部4に強固に接続され、好ましくは接着されている。
【0030】
上部3と下部4は、図1及び図3に見られるように、その一部を縦に、縦スリット10で分離され、その結果2つの独立したバネ11a、11bを形成し、上部3と下部4のそれぞれ2つの縦セグメントから成り、すなわち上部3の縦セグメント12a、12b及び下部4の縦セグメント13a、13bから成る。つまり、2つのバネ11a、11bは互いに別々に可動であり、あるいは互いに別々に屈曲できる。
【0031】
特に図2に見られるように、上部3と下部4の間には空洞14が形成される、この空洞内には本発明による義足ではインサート15をはめ込むことができる。このインサート15は、平らな、縦長の、舌状の構成部品として形成されている。インサートはその一方の端部によって緩衝要素9に固定され、これについては以下で詳細に取り上げる。このインサートは、例え空洞の長さのほぼ3分の2まで、緩衝要素9からつま先5へと伸びている。その幅は、同幅である上部3と下部4の幅とほぼ同じ寸法である。
【0032】
インサートの機能は、下部4のかかと領域8の着地から始まり着用者がつま先5を蹴り出すステップの終わりに至るまでの歩行動作時に、特定の歩行段階に達した後一時的に、上部3を下部4と摩擦連結し、その結果これらをインサート15によって互いに結合することである。歩行動作中、上部3から下部4への相対運動が調節される。それは、特に足前部16領域が着地し及び着用者がつま先5までロールしてつま先を蹴り出し始めた時の、着用者の体重によってステップ時にかけられる義足1の重量負荷によるものである。ここで、まずかかと領域8の着地時に人工装具素材の弾性によって、互いに離れるよう引っ張られた上部と下部3、4は再び互いに閉じ、つまり空洞14の高さが減る。特定の時点から、上部3と下部4の内面がインサート15に当接し、インサートはその素材選択によって十分な摩擦係数を備え、優れた粘着力を当接面それぞれに提供する。上部3と下部4は、動作の進展につれ減衰されずに互いに相対的に動き、これは互いに相前後する動きにも互いの縦ずれにも該当するが、その際この縦ずれは比較的小さい。むしろこの動きはインサート15によって和らげられる。つまりこの動きには、インサート15によって面連結の結果高められた抵抗が逆向きにかかる。ここでは、全体として特に、足前部16の領域、つまりバネがより硬くなり、それゆえに容易には変形できなくなる。なぜなら、この領域ではインサート15と面連結によって曲げ運動に抵抗がかけられるからである。その結果義足1は、インサート15なしの人工装具と比べて、歩行時にそれほどには「軟らかく」又は弾性ではなくなる。
【0033】
インサート15は取外し可能に緩衝要素9に固定されており、つまり着用者が好みに合わせて取り付けたり取り外したりすることができる。ここでは緩衝要素9に第一の固定セグメント16が備えられ、これはその後端領域で両側がアンダーカットされた溝17と、断面が丸く成形された縦長の保持用突起部18とで構成されている。
【0034】
インサート15には、その後端に第二の固定セグメント19が形成されており、この第二の固定セグメントはその形状が溝17及び保持用突起部18に対して補完的である。インサートは、保持用突起部18を補完する溝20を備えており、この溝は両側をつめ状のセグメント21で囲まれており、その形状は再び保持用突起部18の周りの形に合致している。つまり、第二の固定セグメントは保持用つめとして形成されている。
【0035】
組立のために、インサート15は側方から緩衝要素9の溝17に挿入される。図5の拡大断面図に見て取れるように、2つの保持セグメント16、19は組立位置で互いに形状接合する。緩衝要素9に対する保持用突起部18の配置及びインサート15に対する保持用つめの配置は、かかとでの着地時に、つまり緩衝要素9に後ろに力が伝わった時に、これが上に伝わって接続が外れるようなことを防止する。つまり、たとえ溝17の前領域がいくらか開いてもつめ状の包込み領域が開かないことで、常に各歩行段階に応じて強固な固定が与えられる。
【0036】
図6はインサート15の別の一実施形態の略図である。これは非対称に仕上げられている。詳細には図示していない第二の固定セグメント19を備えたその後端が、やはり詳細には図示していない緩衝要素9(同じく図4のように仕上げられている)内に固定される。これはその幅広い領域15aが足前部16の領域に伸び、この足前部では上部と下部3、4が重なり合って位置している。幅広い領域15aは、上部3と下部4の幅にほぼ合致する。このセグメントは、ここでは点線で示された炭素構成部品又は炭素繊維複合構成部品2の縦スリット10のほぼ終端まで伸びている。セグメント15aには延長されたセグメント15bがつながっているが、はるかに幅が細く、その幅は2つの重なり合って位置する縦セグメント12b、13b、つまり最終的にバネ11bの幅にほぼ合致している(図1の図を適用)。つまり、ここではインサート15が最終的に右バネ11bの領域の曲げ特性に影響を与え、右バネはインサート15又はセグメント15bによって縦セグメント12b、13bが連結した結果、インサート15のセグメントの間にはかみ合わないバネ11aと比べて硬くなる。したがってこれはバネ11bより軟らかい。従ってこのことにより、どの非対称のバネ11a、11bの範囲で足の歪曲による負荷がかかるのか、歩き方に応じて回内又は回外に影響を与えることができる。言うまでもなく、インサート15を異なった形状にし、長くしたセグメント15bを反対側に配置することができ、その結果これがバネ11aの領域に伸びてそれに影響を与える一方で、バネ11bは影響を受けない。従って、バネ11a、11b両方の間にインサート15を入れるか、又は1つのバネの領域にだけに入れるかして、足縦軸に沿った負荷線を最終的に変化させることができる。これにより着用者は自分にとって快適なように任意に調整することが可能になる。
【0037】
図7は、インサート15の別の一実施形態を示しており、インサートの第二の固定セグメント19は再び図4に示されたように仕上げられている。インサートはその長さに沿って均一の幅を備えているが、2つの異なった硬さのセグメント22a、22bを備えており、これは異なった斜線によって示唆されている。例えばセグメント22bはセグメント22aよりも硬く、つまりその部分の素材は他のセグメントよりもより高いショア硬度を備えている。このことは例えば、共通の製造方法で簡単に一緒に射出成形することができる、異なったプラスチック素材からセグメント22a、22bを成形して実施することができる。しかしまた、2つのセグメントにプラスチックを使い局部的に適切な添加物を加えることでそのショア硬度が異なるように調節することも考えられる。いずれにしても、このような要素によってやはりバネ11a、11bのうちの一方の弾性特性をもう一方と異なるように調節することができる。というのは、セグメント22bの幅は、バネ11a、11bの1つの幅とほぼ同じであり、示した例ではそれはバネ11bであり、一方で隣接するセグメント22aの細い領域はバネ11aの幅に相当する。バネ11bは、従ってバネ11aよりも硬いと推測される。
【0038】
前記第二の固定セグメント19は左右対称に形成されているため、インサート15を180°回転させて使用することもできる。つまり、着用者は例で推測される程度にいくらか硬いセグメント22bをバネ11aに配置し、他方でより軟らかいセグメント22aをバネ11bに配置することができ得る。
【0039】
セグメント22a、22bは、詳細には図示されてはいないが縦スリットによって互いに分離されていてよく、その際縦スリットは人工装具の縦スリット10に一致して伸びる。
【0040】
さらには、弾性の素材から成るインサート15の実施形態により(これはすべての記述した実施形態に適用されるが)、整形外科技術者又は着用者は、インサートを必要に応じてはさみ又は類似のもので目的の形に切ることができるようになる。例えば図4に示したようにその特性が均質なインサート15を、図6に示したインサート15のように簡単にある形状に切り抜くことができる。また、それがより快適と思われる場合には、一方又は他方の領域22a、22bを切り取ることで図7のインサート15を部分的に目的に合わせて切ることができる。
【0041】
図8は、インサート15の別の一実施形態の側面図であり、再び第二の固定セグメント19を備えているが、平面的な形状を備えておらず、波形23を備えている。これによって、波山部がまず上部3と下部4の面に接触する。上部3が下部4に接近していくと、波山部が圧縮され、当接面が徐々に大きくなり、ここでは摩擦に起因して逆向きにかかかる抵抗が平均を上回って増加する。ここでも、人工装具の硬さを変化させることが達成される。波形の代りに、例えばジグザグ形も考えられる。
【0042】
最後に図9は、義足1の別の一実施形態の部分図であり、インサート15の固定部がこれまで記述したものとは別の方法で行われる。緩衝要素9には、ほぼ垂直に伸びた穴24が備えられており、この穴の下端に、例えばスレッドスリーブ25をはめ込むことができる。インサート15は、その後端に(この後端には、ここにも備えられた特に輪郭を描かれていない溝17がかみ合う)同じく穴26を備え、この穴は組立位置で緩衝要素9内の穴24と位置合わせされている。上から、つまり上部3から、固定スクリュー27が差し込まれ、この固定スクリューはスレッドスリーブ25にねじ込まれる。スクリューヘッドは緩衝要素9の上に載っており、上部3はスクリューと結合していない。ここでは、再び確実なインサート15の固定が保証される。このスクリュー27を介して、同時に横方向固定も実施される。図4以降に記述された固定方法では、横方向固定は、協働する第一の及び第二の固定セグメント16、19の領域で、互いに正しい組立位置で協働する外れ止めセグメント、例えば細い溝又はくぼみ及びそれに合わせて成形された突出部と協働し横方向固定を提供することによって達成されている。
【0043】
図ではワンピースの人工装具構成部品2が記述されていても、当然ながら上部3と下部4を別々の構成部品として作ることもできる。この場合、さらにつま先5の領域で接続要素が例えばボルト連結部又は類似したもので互いに固定されることになる。この実施形態も同様にインサート15の適用範囲である。この実施形態でも、2つの独立した、隣り合って位置するバネのために縦スリットが形成される限り、2つのバネ端部はつま先5の領域で適切な接続手段によって接続されることになる。
【符号の説明】
【0044】
1 義足
2 炭素構成部品又は炭素繊維複合構成部品
3 上部
4 下部
5 つま先
6 上端部
7 接続手段
8 後端部
9 緩衝要素
10 縦スリット
11a バネ
11b バネ
12a 縦セグメント
12b 縦セグメント
13 上部
14 空洞
15 インサート
16 足前部
17 溝
18 保持用突起部
19 固定セグメント
20 溝
21 セグメント
22a セグメント
22b セグメント
23 波形
24 穴
25 スレッドスリーブ
26 穴
27 固定スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部と、歩行時に地面側に載せられる下部とを含む義足であって、その際前記上部及び前記下部がかかと領域に配置されている弾性の緩衝要素によって互いに結合され及び前記上部及び前記下部がバネを形成し、重なり合って及び互いに間隔をあけて、前記つま先の領域に伸びている義足において、前記緩衝要素(9)と前記つま先(5)の間の領域で前記上部と下部(3、4)の間に少なくとも1つのインサート(15)を入れ、これによって歩行時に前記インサートによって連結される上部と下部の曲げ強度を高めることを特徴とする義足。
【請求項2】
前記インサート(15)が、平らな構成部品であり、少なくとも1つの粘着性の当接面を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の義足。
【請求項3】
前記インサート(15)が前記上部(3)又は前記下部(4)と強固に結合され及び歩行時に前記下部(4)又は前記上部(3)と、抵抗を生じつつ密着することを特徴とする、請求項1又は2に記載の義足。
【請求項4】
前記インサート(15)が、前記上部(3)又は前記下部(4)と接着されていることを特徴とする、請求項3に記載の義足。
【請求項5】
前記インサート(15)が取外し可能に上部(3)に、下部(4)に、又は緩衝要素(9)に配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の義足。
【請求項6】
前記緩衝要素(9)には第一の固定セグメント(16)が、及びインサート(15)には第一の固定セグメント(16)に対して補完的に形成された第二の固定セグメント(19)が備えられ、該第一及び第二の固定セグメントを取外し可能に互いにかみ合わせることができることを特徴とする、請求項5に記載の義足。
【請求項7】
前記第一の固定セグメント(16)が、つま先(5)に向かって開いた溝(17)に、内側に設けられた、アンダーカットされた縦長の保持用突起部(18)を備え、及び前記第二の固定セグメント(19)が、前記溝(17)及び前記保持用突起部に対して補完的に形成され、前記保持用突起部(18)を取り囲む保持用つめ(20)を備えていることを特徴とする、請求項6に記載の義足。
【請求項8】
前記インサート(15)が、側面からその第二の固定セグメント(19)を前記第一の固定セグメント(16)に挿入可能であることを特徴とする、請求項7に記載の義足。
【請求項9】
前記第一及び前記第二の固定セグメント(16、19)には、側面方向へ滑り出ることを防ぐ、はめ込み位置で協働する外れ止め要素を備えていることを特徴とする、請求項7又は8に記載の義足。
【請求項10】
前記緩衝要素(9)には第一の固定セグメントが、及び前記インサート(15)には第二の固定セグメントが備えられ、該第一及び第二固定セグメントは貫通孔(24、26)として仕上げられ、該貫通孔を通ってはめ込み位置で好ましくは上部(3)から挿入される、場合によって前記緩衝要素(9)に備えられている雌ネジセグメントにかみ合う止めピン又は止めボルト(27)がかみ合うことを特徴とする、請求項5に記載の義足。
【請求項11】
前記インサート(15)が両方の縦方向終端に第二の固定セグメントを備えていることを特徴とする、請求項5〜10のいずれか一項に記載の義足。
【請求項12】
前記上部(3)及び前記下部(4)が2つの隣り合って位置した縦セグメント(12a、12b、13a、13b)を形成しながら前記つま先(5)から縦スリットを切られていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の義足。
【請求項13】
前記インサート(15)の幅がほぼ前記上部と下部(3、4)の幅に相当するか、又は前記インサート(15)が少なくともセグメント単位で前記上部と下部(3、4)より狭い幅を備えていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の義足。
【請求項14】
前記インサート(15)が、少なくとも2つの重なり合って位置する縦セグメント(12a、13a、12b、13b)のスリットを切られた前記上部と下部(3、4)の間に配置された領域(15b)にあり、ほぼ前記縦セグメント(12a、13a、12b、13b)の幅を備えていることを特徴とする、請求項12及び13に記載の義足。
【請求項15】
異なったショア硬度を備えたインサート(15)を使用可能であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の義足。
【請求項16】
前記インサート(15)が、複数の異なったショア硬度を備えた素材から成るか、又は複数の異なったショア硬度を備えた領域(22a、22b)を備えていることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の義足。
【請求項17】
前記セグメント(22a、22b)に、異なった素材又は領域が異なったショア硬度を幅方向又は長さ方向に隣り合って配置されていることを特徴とする、請求項16に記載の義足。
【請求項18】
前記インサート(15)が、その長さ及び/又は幅にわたって変化する厚みを備えていることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の義足。
【請求項19】
前記インサート(15)が、中実素材構成部品として弾性のプラスチック素材から構成されるか、又発砲素材構成部品として発泡させた弾性のプラスチック素材から形成されていることを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項に記載の義足。
【請求項20】
前記上部(3)及び前記下部(4)が、互いにワンピースで成形されていることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の義足。
【請求項21】
前記上部(3)及び前記下部(4)が、つま先(5)の領域で接続手段によって互いに結合されていることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の義足。
【請求項22】
前記インサート(15)の少なくとも一方の側に長さ表示が備えられていることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項に記載の義足。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−40379(P2012−40379A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175215(P2011−175215)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(511196087)メディ ゲーエムベーハー アンド シーオー. カーゲー (1)
【Fターム(参考)】