説明

羽毛粉体、羽毛粉体の製造方法、土壌改良材およびそれを含む植物栽培土

【課題】 各種用途に有用な含水率が低く、かつ色や臭いの良い微細化された羽毛粉体、前記性状を有する羽毛粉体を工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】 家禽類の羽毛を化学的粉砕処理してなり、特定の組成、サイズ分布、臭度および白色度を有する羽毛粉体、並びに(A)家禽類の羽毛を、水系媒体中にて、pH12.5〜14.0および温度30〜60℃の条件下に、アルカリ剤にてアルカリ処理する工程、(B)前記(A)工程で得られた羽毛を含むアルカリ処理液を、pH8.0〜13.0および温度30〜60℃の条件下に、酸化剤にて酸化処理する工程、および(C)前記(B)工程で得られた酸化処理液を、中和、固液分離、洗浄および乾燥処理する工程、を含む羽毛粉体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家禽類の羽毛を化学的粉砕処理してなる、含水率が低く、かつ色や臭いの良い微細化された羽毛粉体、前記性状を有する羽毛粉体を工業的に有利に製造する方法、前記羽毛粉体からなる土壌改良材、および該土壌改良材を含み、ビルの屋上や高速道路の中央分離帯などの緑化に好適に用いることができる植物栽培土に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国においては、食肉用ブロイラーから排出される羽毛は、乾燥重量で年間約4万トンに達しているが、その中の極く一部が家畜用の飼料や肥料などに利用されているだけで、その大部分が焼却や廃棄処分されているのが実状である。
【0003】
羽毛を構成している物質の一成分であるケラチンは、硬タンパク質の一種であり、水や有機溶媒に不溶で物理・化学的に安定であり、強度、撥水性、保湿性、耐候性などに優れている。
【0004】
羽毛の利用技術として、これまで様々な方法が提案されているが、そのほとんどが、前記ケラチンタンパク質を可溶化、低分子化する方法に関するものである。
【0005】
羽毛の他の利用方法として、フェザーミールがあり、このフェザーミールは、羽毛の積極的な活用法として注目されていたが、その生産性が低い上に市場性も低いという問題がある。
【0006】
羽毛の利用技術として、例えば羽毛を弱アルカリ処理により低分子化することなく、微細化してなる羽毛微粉体の製造方法及び該微粉体を適宜の形状、構造に成形加工してなる羽毛微粉体の加工品が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この技術における羽毛微粉体の製造方法は、微粉体のサイズが大きく、また灰分などが混入しており、かつ粉体乾燥に長時間を要するなど、生産性が悪いなどの問題があった。
【0007】
さらには、羽毛微細粉末と繊維組成物を主成分とする調湿紙(例えば、特許文献2参照)、羽毛粉体を塗工したリサイクル可能な耐水段ボール(例えば、特許文献3参照)が開示されている。しかしながら、これらの技術においては、羽毛微細粉末や羽毛粉末として羽毛をアルコール系溶剤に浸漬し、石臼式回転磨砕及びボール粉砕を施した調製粉末が用いられており、したがって、この粉末の調製において生産性が劣るという問題があった。
【0008】
ところで、都心の気温が上昇するヒートアイランド現象の緩和や、断熱効果による省エネルギーを目的として、ビルの屋上の緑化が進められ、家屋の屋根についても緑化が検討されている。また、高速道路などの美観を保ち、運転者の疲労を癒すために、中央分離帯や路肩への植栽が進められている。しかし、路幅の制限を受けて路肩へ植栽する余地がなく、防音壁が剥き出しの状態で残されている箇所も多い。このような箇所で、防音壁そのものを緑化することができれば、美観を与え、反射光を減らし、吸音効果を発揮して、防音壁の性能を高めることができる。また、電柱や標識柱の側面には、柱の保護を目的として、小さい突起を有する金属板が巻き付けられている箇所が多いが、このような金属板も緑化することができれば、美観を高めることができる。
【0009】
しかし、ビル屋上や道路の中央分離帯などには頻繁に給水や施肥をすることは容易ではないので、植物の生長が不十分であったり、枯死したりしやすい。また、ビル屋上や道路の中央分離帯は、一般に風が強いので、土壌が流亡しやすい。このために、保水力と保肥力に優れ、軽量で植物がしっかりと根をはり、風により土壌が流亡することがなく、条件のよくない場所においても、手間をかけることなく植物を栽培することができる植物栽培土が求められていた。
【特許文献1】特許第3705534号公報
【特許文献2】特許第3870382号公報
【特許文献3】特許第3026975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、羽毛が有する軽量性、撥水性、吸水性、吸油性、金属吸着性、遮音性、断熱性などの性状を利用して、吸油材、遮音材、断熱材、土壌改良材、植物栽培土、金属吸着剤などとして有用な含水率が低く、かつ色や臭いの良い微細化された羽毛粉体、前記性状を有する羽毛粉体を工業的に有利に製造する方法、前記羽毛粉体からなる土壌改良材、および該土壌改良材を含み、ビルの屋上や高速道路の中央分離帯などの緑化に好適に用いることができる植物栽培土を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、原材料として家禽類の羽毛を用い、これに特定の工程を施すことにより、その目的に適合し得る羽毛粉体が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1] 家禽類の羽毛を化学的粉砕処理してなり、かつ下記の性状を有することを特徴とする羽毛粉体。
(1)組成
脂質 : 0.5〜3質量%
蛋白質 : 85〜94質量%
炭水化物: 0〜2質量%
灰分 : 0.5〜3質量%
水分 : 5〜10質量%
(2)サイズ分布
4メッシュ残 : 5〜19質量%
4メッシュパス・16メッシュ残 : 50〜85質量%
16メッシュパス・26メッシュ残: 3〜15質量%
26メッシュパス・36メッシュ残: 3〜10質量%
36メッシュパス : 1〜5質量%
(3)臭度: 130〜150
(4)白色度: 70〜80
[2] (A)家禽類の羽毛を、水系媒体中にて、pH12.5〜14.0および温度30〜60℃の条件下に、アルカリ剤にてアルカリ処理する工程、(B)前記(A)工程で得られた羽毛を含むアルカリ処理液を、pH8.0〜13.0および温度30〜60℃の条件下に、酸化剤にて酸化処理する工程、および(C)前記(B)工程で得られた酸化処理液を、中和、固液分離、洗浄および乾燥処理する工程、を含むことを特徴とする羽毛粉体の製造方法、
[3] (A)工程におけるアルカリ処理および/または(B)工程における酸化処理を機械的粉砕処理下に行う上記[2]項に記載の羽毛粉体の製造方法、
[4] (A)工程で用いるアルカリ剤が、アルカリ金属の水酸化物である上記[2]または[3]項に記載の羽毛粉体の製造方法、
[5] (B)工程で用いる酸化剤が、過酸化水素、過塩素酸、過ギ酸および過酢酸の中から選ばれる少なくとも1種である上記[2]〜[4]項のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法、
[6] (A)工程における羽毛濃度が、乾燥羽毛基準で、水系媒体に対して2〜10質量%である上記[2]〜[5]項のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法、
[7] (B)工程と(C)工程との間に、機械的粉砕工程を設ける上記[2]〜[6]項のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法、
[8] (C)工程で得られた乾燥羽毛粉体の水分含有率が10質量%以下である上記[2]〜[7]項のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法、
[9] 家禽類が鶏である上記[2]〜[8]項のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法、
[10] 上記[1]項に記載の羽毛粉体、または上記[2]〜[9]項のいずれか1項に記載の方法により得られた羽毛粉体からなる土壌改良材、および
[11] 上記[10]項に記載の土壌改良材を含むことを特徴とする植物栽培土、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、羽毛が有する軽量性、撥水性、吸水性、吸油性、金属吸着性、遮音性、断熱性などの性状を利用して、吸油材、遮音材、断熱材、土壌改良材、植物栽培土、金属吸着剤などとして有用な含水率が低く、かつ色や臭いの良い微細化された羽毛粉体を提供することができる。
【0014】
さらに、前記性状を有する羽毛粉体を工業的に有利に製造する方法、前記羽毛粉体からなる土壌改良材、および該土壌改良材を含み、ビルの屋上や高速道路の中央分離帯などの緑化に好適に用いることができる植物栽培土を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の羽毛粉体について説明する。
【0016】
本発明の羽毛粉体は、家禽類の羽毛を化学的粉砕処理してなり、かつ下記の性状を有することを特徴とする。
[羽毛粉体の性状]
本発明の羽毛粉体は、
(1)組成
脂質 : 0.5〜3質量%
蛋白質 : 85〜94質量%
炭水化物: 0〜2質量%
灰分 : 0.5〜3質量%
水分 : 5〜10質量%
(2)サイズ分布
4メッシュ残 : 5〜19質量%
4メッシュパス・16メッシュ残 : 50〜85質量%
16メッシュパス・26メッシュ残: 3〜15質量%
26メッシュパス・36メッシュ残: 3〜10質量%
36メッシュパス : 1〜5質量%
(3)臭度: 130〜150
(4)白色度: 70〜80
前記(1)の組成の測定において、脂質はエーテル抽出法、蛋白質は窒素定量換算法により分析し、炭水化物は残量として求めた値であり、また、灰分は直接灰化法により求めた値である。
【0017】
水分については、試料約2gを秤量ビンに入れ、電子天秤で質量を測定し(Ag)、恒温乾燥器100℃で5時間乾燥させたのち、電子天秤で質量を測定し(Bg)、水分含有率を下記の式で算出した値である。
水分含有率(%)=[(A−B)/A]×100
さらに、サイズ分布については、水990mL中に試料10gを投入し、スターラーで30秒間攪拌したのち、標準篩を用いて篩い分けを行い、各サイズの質量割合(%)を求めた値である。なお標準篩い寸法:直径200mm×高さ45mm(JIS Z 8801)である。
【0018】
本発明の羽毛粉体においては、下記の方法で測定した臭度は、130〜150であり、また、下記の方法で測定した白色度は、70〜80である。
<臭度の測定方法>
羽毛粉体100gをチャック付きポリエチレン袋(410mm×280mm)に入れ、1時間後ポータブル型ニオイセンサー[コスモ電器社製、機種名「XP−329III」]で臭度を測定する。数値が小さいほど、臭いが少ない。
<白色度の測定方法>
坪量80g/m2を目標に、パルプ50質量%、羽毛粉体50質量%の配合でシートマシンにより手抄し、白色度を、白色度計[スガ試験機社製、機種名「JIS−P8212」]で測定する。数値が大きいほど、白色度が高い。
【0019】
このような性状を有する本発明の羽毛粉体は、例えば以下に示す本発明の方法を採用することにより、工業的に有利に製造することができる。
【0020】
本発明の羽毛粉体の製造方法(以下、単に製造方法と称することがある。)は、以下に示す(A)工程、(B)工程および(C)工程を含むことを特徴とする。
【0021】
[(A)工程]
本発明の製造方法における(A)工程は、家禽類の羽毛を、水系媒体中において、pH12.5〜14.0および温度30〜60℃の条件下に、アルカリ剤にてアルカリ処理し、微細化する工程(以下、アルカリ微細化工程と称することがある。)である。
【0022】
本発明において、原材料として用いる家禽類の羽毛としては、食肉用ブロイラー、産卵鶏、アヒル、カモなどの羽毛が挙げられるが、大量入手が可能な工業的観点から、ブロイラーおよび産卵鶏の羽毛が好適である。
【0023】
この家禽類の羽毛は、水中で解離処理した羽毛を脱水してなる脱水ウエット羽毛を用いるのが好ましい。該脱水ウエット羽毛の水分含有率は、通常30〜50質量%程度である。
【0024】
当該(A)アルカリ微細化工程においては、前記の脱水ウエット羽毛を、水系媒体中にて、アルカリ剤によりアルカリ処理する。ここで、アルカリ剤としては、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化アルカリ金属を用いることができるが、これらの中で、工業的な面から、水酸化ナトリウムが好適である。
【0025】
水系媒体中でのアルカリ処理は、水酸化アルカリ金属水溶液を調製し、この水溶液中で、前記のウエット羽毛を、pH12.5〜14.0を維持しながら、30〜60℃の範囲の温度でアルカリ処理する。
【0026】
このアルカリ処理における羽毛濃度としては、処理効果および生産性の観点から、乾燥羽毛基準で、水系媒体に対して2〜10質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。
【0027】
また、pHが12.5未満では、アルカリ処理による羽毛の微細化効果が充分に発揮されず、またpHが14.0を超えると羽毛が溶解する傾向があり、得率が低下する。好ましいpHは13.0〜14.0である。さらに処理温度は30〜60℃の範囲である。この温度が30℃未満ではアルカリ処理効果が充分に発揮されず、60℃を超えると羽毛が溶解する傾向がみられ、得率が低下する。好ましい処理温度は35〜55℃である。
【0028】
なお、このアルカリ処理における水酸化アルカリ金属の濃度としては、水酸化アルカリ金属が水酸化ナトリウムの場合、通常1質量%前後であり、この濃度で前記範囲のpHを維持することができる。
【0029】
この(A)アルカリ微細化工程におけるアルカリ処理時間としては、処理温度にもよるが、通常10〜20時間程度である。
【0030】
このアルカリ処理は、微細化を促進させるために、反応容器として、攪拌機と底部にナイフミキサーを備えたものを用い、機械的粉砕処理を行うこともできる。
【0031】
[(B)工程]
本発明の製造方法における(B)工程は、前記(A)工程で得られた羽毛を含むアルカリ処理液を、pH8.0〜13.0および温度30〜60℃の条件下で、酸化剤により酸化処理し、微細化する工程(以下、酸化微細化工程と称することがある。)である。
【0032】
当該(B)工程の酸化微細化工程において用いられる酸化剤としては、例えば過酸化水素、過塩素酸、過ギ酸および過酢酸などを挙げることができる。これらの酸化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、酸化剤としての作用効果、入手性、取り扱い性、経済性などのバランスの観点から、過酸化水素が好適である。
【0033】
当該(B)工程においては、前記(A)工程で得られたpH12.5〜14.0のアルカリ処理液を、pH8.0〜13.0の範囲で酸化剤により酸化処理する関係上、前記アルカリ処理液を、まず必要に応じ、硫酸などの酸を用いて中和し、pHを8.0〜13.0の範囲に調整してから、酸化処理を行う。酸化剤の使用量は、酸化剤が過酸化水素である場合、前記(A)工程で用いた羽毛の乾燥質量に対して、H22として1〜25質量%程度、好ましくは3〜20質量%である。過酸化水素の使用量を上記範囲とすることにより、羽毛の酸化微細化が効果的に行われる。
【0034】
この酸化処理を、前述したようにpH8.0〜13.0の範囲、好ましくは8.5〜13.0、より好ましくは9.0〜12.5の範囲で実施することにより、羽毛の酸化微細化を効果的に行うことができる。処理温度は30〜60℃、好ましくは35〜55℃である。処理時間は処理温度にもよるが、0.5〜3時間程度、好ましくは1〜2.5時間である。この酸化処理終了液のpHは、通常かなり低下し、7.0〜12.0程度となる。
【0035】
本発明においては、当該(B)酸化微細化工程を施すことにより、前記(A)アルカリ微細化工程のみの場合に比べて、羽毛はより細かい微細化物となり、羽軸の分解も起こる上、臭いや色も良くなる。
【0036】
この酸化処理は、微細化を促進させるために、反応容器として、攪拌機と底部にナイフミキサーを備えたものを用い、機械的粉砕処理を行うこともできる。
【0037】
[(C)工程]
本発明の製造方法における(C)工程は、前記(B)工程で得られた酸化処理液を、中和、固液分離、洗浄および乾燥処理する工程である。
【0038】
本発明の製造方法においては、この(C)工程を実施する前に、前記(B)工程で得られた酸化処理液に残存している1〜3cm程度の羽軸を粉砕するために、所望により、該酸化処理液に機械的粉砕工程を施してもよい。例えば、(B)工程と(C)工程とを連結する配管中にラインミキサーを設置して、羽軸を粉砕する方法などを採用することができる。
【0039】
当該(C)工程においては、前記(B)工程から、場合によりラインミキサーを通って送られてきた酸化処理液は、通常pHが7.0〜12.0程度の範囲にあるので、まず、該酸化処理液を、必要により硫酸などの酸により、pH7近辺まで中和する。次いで羽毛微細化物を固液分離したのち、充分に洗浄処理(水洗)する。固液分離手段としては、特に制限はなく、従来公知の回転遠心脱水機やフィルタープレスなどを用いて固液分離することができる。
【0040】
このようにして固液分離された羽毛微細化物を乾燥処理する。乾燥処理手段に特に制限はなく、従来公知の各種乾燥機を用いることができるが、ドラムドライヤーの使用が、生産性の観点から有利である。
【0041】
このようにして、水分含有率が、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下の羽毛粉体が、仕込み羽毛(乾燥物として)に対して、60質量%以上の得率で得ることができる。
【0042】
本発明の羽毛粉体の製造方法によれば、羽毛のアルカリ微細化工程と酸化微細化工程を組み合せることにより、アルカリ微細化工程単独の場合に比べて、羽毛はより細かい微細化物となり、かつ臭いや色が良い上、乾燥羽毛粉体の含水率が、より低くなる。
【0043】
本発明の方法で得られた乾燥羽毛粉体は、様々な用途、例えば断熱材、遮音材、吸油材、金属吸着剤、調湿材、防振材、土壌改良材などの材料として有用である。
【0044】
次に、本発明の土壌改良材およびそれを含む植物栽培土について説明する。
[土壌改良材]
本発明の土壌改良材は、前述した本発明の羽毛粉体または本発明の方法で得られた羽毛粉体からなることを特徴とする。
【0045】
当該羽毛粉体は、下記の特性を有することから、土壌改良材として有用である。
(1)みかけ比重が0.05〜0.08程度と極めて小さく、土壌に混入した場合、羽毛含有土壌は軽量となる。
(2)保水性に優れ、土壌に5〜10質量%程度加えることにより、水分保持量が30〜50質量%程度増加する。
(3)羽毛表面には油脂分が付着しているので、撥水性を有し、土壌に混入することにより、栽培植物に対する根腐れ防止作用を発揮する。
[植物栽培土]
本発明の植物栽培土は、前述した羽毛粉体からなる土壌改良材を含むことを特徴とする。
【0046】
当該植物栽培土に用いる土壌に特に制限はなく、例えば砂土、砂壌土、壌土、埴壌土、埴土などを、それぞれ単独で、あるいは適宜混合して用いることができる。さらに、川砂、軽石砂、溶岩砂、鹿沼土、ピート(水苔)、バーミキュライト、腐葉土なども土壌として用いることができる。これらの土壌は、植栽する植物の種類に応じて適切なものを選択することが好ましい。
【0047】
当該植物栽培土における羽毛粉体の含有量は、土壌100質量部に対して、保水性、土壌としての機能、羽毛粉体の混合性などの観点から、通常2〜20質量部程度、好ましくは5〜10質量部である。
【0048】
本発明の植物栽培土は、保水力に優れ、軽量で植物がしっかりと根をはり、風による土壌の流亡を防止することができ、ビルの屋上や、高速道路の中央分離帯などの緑化に好適に用いることができる。
【0049】
また、本発明の植物栽培土は、特開2001−327219号公報記載のように、発泡ガラス片と併用することができる。
【0050】
図1は、本発明の植物栽培土を用いた植栽の1例を示す概念図であって、本発明の植物栽培土と発泡ガラス片との併用系の場合である。
【0051】
底部に排水口1を有するプランター2に、発泡ガラス片3と植物栽培土4とが収容され、該栽培土4の層において植物5が植栽されている状態が示されている。
【0052】
図1で示すように、本発明の植物栽培土(以下、単に栽培土と称することがある。)と発泡ガラス片を併用する場合、発泡ガラス片が相互にほぼ接触し、発泡ガラス片の間隙に、発泡ガラス片の高さより低い厚さに栽培土が充填された状態であることが好ましい。発泡ガラス片が相互にほぼ接触していると、発泡ガラス片同士が支えあって、プランター中の発泡ガラス片の位置が安定する。また、発泡ガラス片の間隙に、発泡ガラス片の高さより低い厚さに栽培土を充填することにより、発泡ガラス片が有効な障壁となって、風などによる栽培土の流亡を防止することができる。栽培土層の厚さは、植栽する植物の種類により適宜選択することができ、例えば、栽培土層の厚さを発泡ガラス片の高さに近づけることができ、あるいは、植物によってはごく薄い栽培土層とすることもできる。
【0053】
発泡ガラス片の寸法としては、球体の場合、直径は通常10〜100mm程度、好ましくは30〜80mmである。また発泡ガラス片の密度は、破砕を防止し得る強度および軽量性のバランスの観点から、通常0.3〜1.2g/cm3程度、好ましくは0.4〜0.8g/cm3である。
【0054】
栽培土層の厚さは、ビル屋上や道路の中央分離帯の緑化に用いられる植物を栽培する場合、10〜80mm程度である。
【0055】
ビル屋上を緑化する場合、植栽する植物として、多年草であること、多量の給水と施肥を必要としないこと、高温、低温、強風などの過酷な気象条件に耐えることなどの条件を満たす植物が好ましい。このような植物としては、例えば、ベンケイソウ科の植物などを挙げることができる。
【0056】
本発明の植物栽培土は保水力に優れ、また発泡ガラス片を併用する場合、該発泡ガラス片は吸水性を有することから、これらは降雨時には保水し、周囲の環境が乾燥してくると徐々に水分を放出する、したがって、日本国内の通常の気象の場合、年間を通じて給水する必要はない。
【0057】
本発明の植物栽培土および併用し得る発泡ガラス片は、いずれも比重が小さく軽量であるので、既設のビルに対しても、建築物への負荷の小さい状態で緑化することができる。また、発泡ガラス片が風に対する障壁となり、楔効果を発揮するので、強風が吹いても、土壌の流亡が抑制される。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0059】
なお、各例で得られた乾燥羽毛粉体の組成、臭度、白色度およびサイズ分布は、明細書本文に記載の方法に従って測定した。
実施例1
成鶏羽毛を水中に投入し、超音波洗浄装置により室温で10分間洗浄したのち、脱水処理物(脱水羽毛)を原材料として用いた。この脱水羽毛の水分含有率は約45質量%であった。
【0060】
底部にナイフミキサーを備えた攪拌機付き反応容器で、水1350kgと水酸化ナトリウム13.5kgを含むアルカリ水溶液を調製し、これに、上記脱水羽毛100kg(乾燥羽毛約55kg)を投入し、温度約50℃、pH13.4の条件でアルカリ処理を15時間行った。
【0061】
次いで、上記アルカリ処理液に、70質量%硫酸水溶液11.9Lを添加し、pHを12.5に調整したのち、35質量%過酸化水素水を20L添加し、温度約50℃で酸化処理を1.5時間行ったところ、pHは10.2に低下した。さらに、この酸化処理液に、70質量%硫酸水溶液2.3Lを添加して中和し、pHを7.1に調整した。中和後の酸化処理液のpHは7.1、温度は46℃であった。
【0062】
次いで、上記酸化処理液を、回転遠心脱水器により、脱水・水洗処理して脱水羽毛を得たのち、ドラムドライヤーにて、温度125℃で乾燥処理し、水分含有率4.6質量%の乾燥羽毛粉体37kgを得た。得率は、仕込み羽毛の乾燥質量基準で67%であった。
【0063】
処理条件及び諸特性を表1に、サイズ分布を表2に示す。
実施例2
低部にナイフミキサーを備えた攪拌機付き反応容器で、水1350kgと水酸化ナトリウム13.5kgを含むアルカリ水溶液を調製し、これに、実施例1で用いた脱水羽毛100kg(乾燥羽毛約55kg)を投入し、温度約50℃、pH13.2の条件でアルカリ処理を17.5時間行った。
【0064】
次いで、上記アルカリ処理液に、70質量%硫酸水溶液14Lを添加し、pHを12.0に調整したのち、35質量%過酸化水素水を10L添加し、温度約50℃で酸化処理を1.5時間行ったところ、pHは10.0に低下した。
【0065】
次に、この酸化処理液(温度44℃)を、配管中に設置したラインミキサーを通して脱水工程へ移送し、回転遠心脱水器により、脱水・水洗処理して脱水羽毛を得たのち、ドラムドライヤーにて、温度125℃で乾燥処理し、水分含有率6.5質量%の乾燥羽毛粉体30.9kgを得た。得率は、仕込み羽毛の乾燥質量基準で56%であった。
【0066】
なお、前記実施例1では、得られた乾燥羽毛粉体中に、1〜2.4cmの羽軸の混入がかなり見られたが、本実施例では、ラインミキサーを通すことにより、2〜3mm程度の羽軸が一部残っているのみであった。
【0067】
処理条件及び諸特性を表1に、サイズ分布を表2に示す。
比較例1
攪拌機付き反応容器で、水1350kgと水酸化ナトリウム13.5kgを含むアルカリ水溶液を調製し、これに、実施例1で用いた脱水羽毛100kg(乾燥羽毛約55kg)を投入し、温度約50℃、pH13.3の条件でアルカリ処理を15時間行った。
【0068】
次に、上記アルカリ処理液に、70質量%硫酸水溶液15.1Lを添加して、pH7.2に中和処理した。次いでこの中和処理液(温度40℃)を回転遠心脱水器により、脱水・水洗処理して脱水羽毛を得たのち、ドラムドライヤーにて、温度125℃で乾燥処理し、水分含有率10.4質量%の乾燥羽毛粉体36.2kgを得た。得率は、仕込み羽毛の乾燥質量基準で66%であった。
【0069】
処理条件及び諸特性を表1に、サイズ分布を表2に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1から、アルカリ処理と酸化処理を組み合わせた実施例1および実施例2の羽毛粉体は、アルカリ処理のみである比較例1の羽毛粉体に比べて微細化されており、かつ臭度および白色度がよいことが分かる。
実施例3
土壌としての赤玉土(みかけ比重0.78、真比重1.38)194gと、実施例2で得た羽毛粉体(水分6.5質量%)19g(赤玉土に対して9.8質量%)とを混合して植物栽培土A(みかけ比重0.54)206gを製造した。
【0073】
この植物栽培土A146gに十分に通水したところ、288g(保水量142g)になった。なお、赤玉土206gに十分に通水したところ、280g(保水量74g)になった。
【0074】
上記保水植物栽培土Aと保水赤玉土について、保水率の経時変化を調べた。その結果を表3に示す。
【0075】
なお、保水率は、[保水量/(植物栽培土量又は土壌量)]×100、により求めた値である。
【0076】
【表3】

【0077】
表3から、本発明の植物栽培土Aは、赤玉土のみのものに比べて、保水率がはるかに大きく、かつその経時変化が小さい。
実施例4
土壌として富士砂(みかけ比重1.18)334gと、実施例2で得た羽毛粉体(水分6.5質量%)18g(富士砂に対して5.4質量%)とを混合して植物栽培土B(みかけ比重0.74)352gを製造した。
【0078】
この植物栽培土B198gに十分に通水したところ、298g(保水量100g)になった。なお、富士砂269gに十分に通水したところ、330g(保水量61g)になった。
【0079】
上記植物栽培土Bと富士砂について、保水率の経時変化を調べた。その結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4から、本発明の植物栽培土Bは、富士砂のみのものに比べて、保水率がはるかに大きく、かつその経時変化が小さい。
実施例5
土壌として水苔(乾燥したものを水に4時間浸せきしたのち、常温で24時間放置したもの:みかけ比重0.43)187gと、実施例2で得た羽毛粉体(水分6.5質量%)18g(水苔に対して9.6質量%)とを混合して植物栽培土C(みかけ比重0.325)205gを製造した。
【0082】
この植物栽培土C104gに十分に通水したところ、184g(保水量80g)になった。なお、水苔140gに十分に通水したところ、180g(保水量40g)になった。
【0083】
上記植物栽培土Cと水苔について、保水率の経時変化を調べた。その結果を表5に示す。
【0084】
【表5】

【0085】
表5から、本発明の植物栽培土Cは、水苔のみのものに比べて、保水率がはるかに大きく、かつその経時変化が小さい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の羽毛粉体は、家禽類の羽毛を化学的粉砕処理により、微細化したものであって、含水率が低く、かつ色や臭いも良好であり、例えば断熱材、遮音材、吸油材、金属吸着剤、調湿材、防振材、土壌改良材などの材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の植物栽培土を用いた植栽の1例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0088】
1 排水口
2 プランター
3 発泡ガラス片
4 植物栽培土
5 植物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家禽類の羽毛を化学的粉砕処理してなり、かつ下記の性状を有することを特徴とする羽毛粉体。
(1)組成
脂質 : 0.5〜3質量%
蛋白質 : 85〜94質量%
炭水化物: 0〜2質量%
灰分 : 0.5〜3質量%
水分 : 5〜10質量%
(2)サイズ分布
4メッシュ残 : 5〜19質量%
4メッシュパス・16メッシュ残 : 50〜85質量%
16メッシュパス・26メッシュ残: 3〜15質量%
26メッシュパス・36メッシュ残: 3〜10質量%
36メッシュパス : 1〜5質量%
(3)臭度: 130〜150
(4)白色度: 70〜80
【請求項2】
(A)家禽類の羽毛を、水系媒体中にて、pH12.5〜14.0および温度30〜60℃の条件下に、アルカリ剤にてアルカリ処理する工程、(B)前記(A)工程で得られた羽毛を含むアルカリ処理液を、pH8.0〜13.0および温度30〜60℃の条件下に、酸化剤にて酸化処理する工程、および(C)前記(B)工程で得られた酸化処理液を、中和、固液分離、洗浄および乾燥処理する工程、を含むことを特徴とする羽毛粉体の製造方法。
【請求項3】
(A)工程におけるアルカリ処理および/または(B)工程における酸化処理を機械的粉砕処理下に行う請求項2に記載の羽毛粉体の製造方法。
【請求項4】
(A)工程で用いるアルカリ剤が、アルカリ金属の水酸化物である請求項2または3に記載の羽毛粉体の製造方法。
【請求項5】
(B)工程で用いる酸化剤が、過酸化水素、過塩素酸、過ギ酸および過酢酸の中から選ばれる少なくとも1種である請求項2〜4のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法。
【請求項6】
(A)工程における羽毛濃度が、乾燥羽毛基準で、水系媒体に対して2〜10質量%である請求項2〜5のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法。
【請求項7】
(B)工程と(C)工程との間に、機械的粉砕工程を設ける請求項2〜6のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法。
【請求項8】
(C)工程で得られた乾燥羽毛粉体の水分含有率が10質量%以下である請求項2〜7のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法。
【請求項9】
家禽類が鶏である請求項2〜8のいずれか1項に記載の羽毛粉体の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の羽毛粉体、または請求項2〜9のいずれか1項に記載の方法により得られた羽毛粉体からなる土壌改良材。
【請求項11】
請求項10に記載の土壌改良材を含むことを特徴とする植物栽培土。

【図1】
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【公開番号】特開2010−31066(P2010−31066A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181839(P2008−181839)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(599046254)有限会社梅田事務所 (11)
【Fターム(参考)】