説明

老朽化モルタル吹付面の再生工法

【課題】老朽化したモルタル吹付面の再生工法においては、除去した老朽化モルタルが大量の産業廃棄物を構成し、これを処理するために現場と処理場間を何往復もする移動手段が必要となり、更に、新たな吹付材料としてのモルタル材料の現場への搬入にも多大な時間と労力が必要であるという問題があった。
【解決手段】老朽化した既設モルタル面を剥離して、そのまま粒径7mm以下に破砕して骨材として用いることにより、老朽化モルタルの除去による産業廃棄物の発生量をゼロとすると共に、老朽化モルタルの処理と施工材料の搬入搬出のための現場と加工場との往復移動を最小限のものとするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化したモルタル吹付法面の再生工法に関し、特に、老朽化した既設モルタル面を剥離して破砕し、再生モルタルの骨材として用いるようにした老朽化モルタル吹付面の再生工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
急勾配法面や地滑りの起きやすい法面の安定性を確保する手段として、モルタルの吹付が施工されてきているが、年月の経過による地下水の影響等によって空洞や亀裂が発生したりする吹付モルタルの老朽化を避けることができない。
【0003】
吹付モルタルの老朽化が進むとモルタルの落下や背後地山を伴った崩落が発生し非常に危険な状態となるので、このような危険を避けるため老朽化したモルタルを取り外して新たなモルタル吹付を再施工するか、老朽化したモルタルをそのまま残して、空洞にセメントペーストを注入したり、法面に鉄筋を挿入して吹付法枠を形成したりすることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
上記のようなモルタルの老朽化に対応して、特許文献1のようにコンクリート面上にセメントペースト、モルタル及び透水性コンクリートを吹付け、透水性コンクリートに生育基盤材を注入し、その上に植生基材を吹き付ける緑化工法が提案されている。
【0005】
また、法面安定化を図る手段として、地山を切り取った法面に縦横所定間隔でアンカー削孔を行い、削孔内にドリルパイプを残した状態でセメントミルク等の硬化材の充填を行いグランドアンカーを形成すると共に、アンカーから突出するドリルパイプに、中央部に挿通孔が貫設されたアンカー定着台座を貫通緊張して定着させる特許文献2による提案がされている。
【0006】
更に、老朽化したモルタル吹付法面の再生工法として、産業廃棄物を最小限とし、より安価な工法とすることを目指して、モルタル吹付法面の一部である最下端を含む1又は複数の区画又は中間高さに位置する1又は複数の区画におけるモルタルを除去する工程と、モルタルを除去した区画に対し透水性コンクリートを吹付けることにより透水性コンクリート補強体を築造することの提案が特許文献3によりなされている。
【0007】
なお、建築廃材などをバケットの開口部より収容して、ジョークラッシャーにより破砕し底部より排出する破砕装置が特許文献4により、更に、破砕物の選別と異物ダストを容易に取り除くことのできる破砕選別装置が特許文献5により提案されている。
【特許文献1】特開2002−146798号公報
【特許文献2】特開2002−61182号公報
【特許文献3】特開2009−24440号公報
【特許文献4】特開2001−300330号公報
【特許文献5】特開2003−164769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、老朽化したモルタル吹付面の再生工法における大きな問題点として除去した老朽化モルタルが大量の産業廃棄物を構成し、これを処理するために現場と処理場間を何往復もする移動手段が必要となり、更に、新たな吹付材料としてのモルタル材料の現場への搬入にも多大な時間と労力が必要である。
【0009】
特許文献1乃至3記載の方法は、何れも老朽化モルタルの除去による産業廃棄物の発生量を減少させるものではあるが、除去した老朽化モルタルの処理について言及するものではなく、その処理と施工材料の搬入搬出のための現場と加工場との往復移動に掛かる多大な時間と労力が、ひいては工期の延長を招き、交通渋滞や物流を阻害するという問題がある。
【0010】
また、新たな吹付材料としてのモルタルの調整が現場の地質や施工環境に対応するための調査に新たな時間を要したり、現場での作業と加工場での作業が分断されることによる工程や材料の不調和が工事に支障を来す原因となる問題も含んでいるものである。
【0011】
更に、コンクリートないしモルタルの骨材として用いられる川砂は、コンクリート構造物の増加により払底し、海砂を洗浄して塩分を抜いて用いるといった状況となっている。加えてコンクリートないしモルタルの敷設環境に対応した粒径の砂礫を得ることは極めて困難な状況となっているため、適切な粒径の骨材を調整するためには粒径加工を要する問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記した課題に対応しようとするものであり、老朽化した既設モルタル面を剥離して、そのまま粒径7mm以下に破砕して骨材として用いることにより、老朽化モルタルの除去による産業廃棄物の発生量をゼロとすると共に、老朽化モルタルの処理と施工材料の搬入搬出のための現場と加工場との往復移動を最小限のものとするようにした。
【0013】
即ち、出願人が行った破砕した老朽化モルタルの粒度と密度及び吸水率との関係から、既設モルタル面を形成している老朽化モルタルの径年劣化は、新たなセメントとの調合に悪影響を及ぼす要素は全くなく、寧ろ、それぞれの現場法面に調和し続けてきた馴染み度を含有しているものであることが判明した。
【0014】
従って、既設モルタル面を形成していた老朽化モルタルを破砕して再生モルタルの骨材として用いることにより、現場の地質や施工環境に対応するための調査を能率化することができ、より安定化した吹付被覆面の形成を可能とすることができたものである。
【0015】
本発明は、バックホウ等の先端に取り付けたバケット内に装置したクラッシャー機構によって、剥離した現場で、事前に調査した現場の地質や施工環境に対応する粒径に老朽化モルタルを破砕して、そのまま再生モルタルの骨材として用いることにより、老朽化モルタルの処理と施工材料の搬入搬出のための現場と加工場との往復移動を行わなくて済むようにしたものである。
【0016】
また、老朽化モルタルは、破砕粒度によって骨材としての密度や吸水率が異なってくるので、既設のモルタル面を形成していた当時の骨材の調合状况が再生モルタルに反映でき、再生現場の地質や施工環境に対応するモルタル混合指標を再生モルタルに活用できる。
【0017】
更に、上記のようなモルタルの老朽化に対応して、特許文献1のようにコンクリート面上にセメントペースト、モルタル及び透水性コンクリートを吹付け、透水性コンクリートに生育基盤材を注入し、その上に植生基材を吹き付ける緑化工法が提案されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上のように構成したことにより、老朽化モルタルのリサイクル化により産業廃棄物発生が抑制されると共に、新規材料使用量の低減を図ることができる。また、廃棄物運搬等に係るCO2排出の低減に寄与できる。
【0019】
また、既設モルタル面を剥離して破砕した破砕材を、コンクリートないしモルタルの敷設環境に対応して粒径選別装置により所定粒径毎に選別してコンクリートないしモルタルの混合骨材に生成することで、不足している川砂、海砂の需要増に対応でき、既設モルタル面を剥離して破砕する段階で粒度調整することが可能なので、所定の粒径を得るために粒径加工を行わなくても、所望の粒径の混合骨材の需要に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例を示すもので、本発明によるモルタル吹付工程のシステムを示す施工システム図
【図2】同じく、本発明の実施に用いる破砕選別装置をバックホウのアーム先端バケット内に装置した機器の一例を示す機器の側面図
【図3】同じく、既設モルタルの剥離と破砕を、バックホウの先端に取り付けたバケット内に装置したクラッシャー機構によって行っている状况を示す施工状况図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図2は破砕選別装置をバックホウのアーム先端バケット内に装置した機器の一例を示す側面図であり、1はクラッシャー機構登載機の本体で、バックホウのアーム11の先端に装着されたバケット12には、ジョークラッシャー等のクラッシャー機構取付けベースの一端を枢支し、他端をバケットシリンダーのロッドに第1リンクを介して枢支し、バケットシリンダーのロッドからアーム11に連結する第2リンクを接続してリンク機構を形成し、バケットシリンダーの伸縮によりクラッシャー機構がアームの先端を軸にして回動するようになっている。
【0022】
クラッシャー機構本体には、被破砕物の投入口側にバケットを一体に接続し、排出口側にスクリーン及びシュートが一体に接続されている。このように構成されたクラッシャー機構によって再生対象地において剥離した既設モルタルの破砕を行うようにしたものである。なお、実施例としては、バックホウタイプの破砕機を用いた場合について説明しているが、自走式、据置型のものを用い、或いは、手作業による破砕であっても良いことは勿論である。
【0023】
即ち、図3に示すように、再生対象地Gに沿って再生施工機器の設定に必要な幅の作業スペースSをおいて保護フェンスFを設定し、クラッシャー機構登載機1を搬入しバケット12の先端を作動して再生対象地G面上の老朽既設モルタルを剥離する。なお、老朽既設モルタルの剥離作業は手作業やその他の手段によっても良い。
【0024】
剥離された既設モルタルはクラッシャー機構の投入口に投入され、クラッシャー機構により所定の大きさに破砕されてスクリーンによる選別を経てシュートにより排出口から排出され、フレコン等に収容保管される。この際、スクリーンによる選別時に既設モルタルに混入されたラス網、アンカーピン等の異物片は除去されることになる。
【0025】
クラッシャー機構によって破砕された既設モルタルは、現場の地質や施工環境に対応する粒径に調整するため、2次破砕器によって粒度調整破砕が行われる。コンクリートの骨材として用いられる砂のJIS規格は、表乾密度2.58g/立方センチ、見掛け密度2.64g/立方センチ、絶乾密度2.5g/立方センチ以上、吸水率3.5%以下、安定性試験損失量10%以下、粘土塊量1.0%以下、微粒分量3.0%以下、比重1095の液体に浮くもの0.5%以下、有機不純物標準色液の色よりも淡いこと、塩化物量0.04%以下、単位容積質量1.63kg/リットル、容積率63.9%以下となっている。
【0026】
出願人において粗粒率2.33に破砕した既設モルタル粒子を炉乾燥して質量18.156g、資料温度28度Cとして26度Cの蒸留水を加えて行った密度試験の結果は、平均値2.656g/立方センチであり、更に、室温23度C、検定水温24度C、水の密度0.9973pwとした骨材の密度及び吸水率試験を行い、表乾密度・平均値2.264g/立方センチ、吸水率・平均値9.78%の結果を得た。
【0027】
また、資料温度25.1度C、pH4.01のフタル酸塩、資料温度25.0度C、pH6.86の中性りん酸塩、資料温度25.1度C、pH9.18のほう酸塩の標準液を使用したpH試験は、平均含水値9.8%、pH平均値12.13であった。
【0028】
このようにして破砕された既設モルタルは、現場の地質や施工環境に対応する粒径に調整されるが、粒径が細かくなるに従って造成されるモルタル被膜層の硬度が増すが、保水性、透水性に欠けることになる。従って、気候的に乾燥度の高い場所では粒径を大きくして保水性、透水性を保持できるようにし、湿潤環境の場所では粒径を細かくして被膜層の硬度を高めるようにする。
【0029】
そのため、2次破砕器によって粒度設定をして所定の粒度に破砕した後、ふるい分け器によって粒度を調整し、通常の場合、セメント1に対して4の割合で破砕骨材を混合し混練して吹付モルタル材を調製する。
【実施例1】
【0030】
実施例1は、先ず、作業スペースSに既設モルタルのクラッシャー装置、ふるい分け器、計量器、水槽、混合混練器、モルタル吹付装置等を設置し、バックホウや手作業で老朽化した既設モルタル面を取壊し、剥離された塊状の既設モルタルをクラッシャー機構により所定の大きさに破砕する。
【0031】
破砕した既設モルタルをふるい分け器や2次破砕器によって、現場の地質や施工環境に対応する粒径に調整すると共に、既設モルタルに混入されたラス網、アンカーピン等の異物片を除去し、フレコン等に収容保管する。
【0032】
一方、現場に搬入したセメント、破砕骨材をそれぞれ計量器によって計量し、現場の地質や施工環境に対応する割合でセメントと前記破砕骨材を混合し、水を加えて混練し所定流度の吹付け材を調製して再生面に吹付け、再生面に再生モルタル被覆層を造成して再生を行うものである。
【実施例2】
【0033】
実施例2は、作業スペースSにモルタル圧送ホースを備えた所定粒度に破砕された破砕骨材の収容器の下に図1に示すようなベルトコンベアシステムを設定し、シュートにより排出口から排出される破砕骨材の搬送速度と整合された計量器による計量セメントがベルトコンベア上に添加されて吹付け材料圧送機構と混合混練機構を備えたモルタル吹付機に搬送投入され、再生モルタル被覆材が調製され、材料圧送ホースの先端吹付けガンを用いて作業員がモルタル被覆材を再生面に吹付け、再生面に再生モルタル被覆層を造成して再生を行ものである。
【実施例3】
【0034】
実施例3は、セメントに、堆肥、チップ材、保水剤、種子等を混練した基盤材を破砕骨材に添加して植物生育基盤造成材として再生面に吹付け、再生面に植物生育再生モルタル被覆層を造成して法面等を緑化するものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る老朽化モルタル吹付面の再生工法は、近代産業の血管にも似た道路網に隣接する法面等の崩壊を保守防護する極めて重要な手段として多くの場所に適用されてきたモルタル吹付工法の経年劣化に対応する再生工法として、施工スペースの合理化と工期短縮の効果を得ることができ、現場と加工場との資材移動の無駄を省き、産業廃棄物の処理にも貢献できるので、産業上の利用価値は極めて高いものである。
【符号の説明】
【0036】
1 クラッシャー機構登載機の本体
11 バックホウのアーム
12 バックホウのアーム先端に装着されたバケット
2 モルタル吹付けガン
F 保護フェンス
G 再生対象地
S 作業スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
老朽化した既設モルタル面を剥離して破砕した破砕材を骨材として用いることを特徴とする老朽化モルタル吹付面の再生工法
【請求項2】
吹付面の補強環境に対応して破砕粒径を調整するようにした請求項1記載の老朽化モルタル吹付面の再生工法
【請求項3】
剥離した既設モルタルの破砕を、バックホウの先端に取り付けたバケット内に装置したクラッシャー機構によって行い、現場での既設モルタルの剥離、破砕に引き続いて再生モルタルの吹付施工を行えるようにした請求項1又は請求項2記載の老朽化モルタル吹付面の再生工法
【請求項4】
既設モルタル面を剥離した再生基盤面に粒径7mm以上の破砕材を骨材としてコンクリート打設し、その表面に粒径7mm以下の破砕材を骨材としたモルタルの吹付施工を行うようにした請求項1又は請求項2は請求項3記載の老朽化モルタル吹付面の再生工法
【請求項5】
破砕材を骨材とした再生モルタルに添加するセメントを、セメント、堆肥、チップ材、保水剤、種子等を混練した基盤材として植物生育基盤造成材とするようにした請求項1又は請求項2又は請求項3記載又は請求項4の老朽化モルタル吹付面の再生工法
【請求項6】
既設モルタル面を剥離して破砕した破砕材を、コンクリートないしモルタルの敷設環境に対応して粒径選別装置により所定粒径毎に選別して生成したコンクリートないしモルタルの混合骨材

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44101(P2013−44101A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180602(P2011−180602)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(595015579)株式会社富士建 (5)
【Fターム(参考)】