説明

耐めっき剥離性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】高Si含有鋼板を母材とした高加工時の耐めっき剥離性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】
質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.8〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.025%以下、S:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板であって、めっき/鋼板界面およびめっき層中に存在するSiおよび/またはMnの酸化物の内、面積が4μm以上の膜状の酸化物は、亜鉛めっき鋼板の10000μmに相当する面積内に合計で10個以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有高強度鋼板を母材とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。また、自動車の燃費向上および自動車の衝突安全性向上の観点から、車体材料の高強度化によって薄肉化を図り、車体そのものを軽量化かつ高強度化するために、高強度鋼板の自動車への適用が促進されている。溶融亜鉛めっき鋼板には、めっき後合金化処理を施したものと施さないものがあるが、本発明では合金化処理の有無に係わらず溶融亜鉛めっき鋼板と称する。特に区別する必要がある場合には、合金化処理を施したものは合金化溶融亜鉛めっき鋼板、施さないものは非合金化溶融亜鉛めっき鋼板と記載する。
【0003】
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は、スラブを熱間圧延や冷間圧延した薄鋼板を母材として用い、母材鋼板をCGLの焼鈍炉で再結晶焼鈍し、その後、溶融亜鉛めっきを行い、合金化処理を行わない溶融亜鉛めっき鋼板である非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造し、溶融亜鉛めっき後さらに合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【0004】
Si、Mnを多量に含む高強度鋼板を母材とした耐めっき剥離性に優れる溶融めっき鋼板として、特許文献1では、溶融亜鉛めっき鋼板について、特許文献2では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、めっき/鋼板界面に直交する断面から観察したときの酸化物の形状や、素地鋼板の元素分布を規定している。また、特許文献3では、溶融亜鉛めっき鋼板について、めっき層を溶解させた後の表面観察によって、めっき/鋼板界面に形成される酸化物の被覆率について規定している。
【0005】
しかし、特許文献1では、めっき/鋼板界面および素地鋼板における酸化物の形態を規定しているのみで、めっき層中に存在している酸化物については規定していない。また、特許文献2では、めっき皮膜中の酸化物の存在については規定しているが、その形状や形態については規定しない。また、特許文献3では、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板でのめっき/鋼板界面の酸化物とめっき密着性について示している。
【0006】
さらに近年、より加工の厳しい箇所への高強度溶融亜鉛めっき鋼板の適用が進んでおり、高加工時の耐めっき剥離特性が重要視されるようになっている。具体的には、めっき鋼板を90°越えの曲げ加工を行い、より鋭角に曲げたときや、より厳しい衝撃が加わり、鋼板が加工を受けた場合の加工部のめっき剥離の抑制が要求される。このような特性を満たすためには、鋼中に多量にSiを添加し所望の鋼板組織を確保するだけでなく、めっき剥離の原因となる亀裂伝播を抑制するために、めっき/鋼板界面だけでなく、めっき層中に存在する酸化物の形態についても、高度な制御が求められる。しかしながら従来技術ではそのような制御が困難であり、Si含有高強度鋼板を母材として高加工時の耐めっき剥離特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−288550号公報
【特許文献2】特許第3991860号公報
【特許文献3】特表2006−517257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、高Si含有鋼板を母材とした高加工時の耐めっき剥離性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
Si、Mnを添加した鋼板は、溶融亜鉛めっき前の焼鈍過程において、鋼板表面にSi、Mnの酸化物が析出し、溶融亜鉛めっきを施した後に、これがめっき/鋼板界面に存在する。また、合金化処理を施した場合は、めっき/鋼板界面からFe−Znの合金化反応が進行するために、めっき/鋼板界面に存在しているSi、Mnの酸化物の一部がめっき皮膜中に分散する。
【0010】
本発明者らは、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき/鋼板界面およびめっき皮膜中に存在する酸化物に着目して、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜中に含まれる酸化物と、高加工時の耐めっき剥離性の関係について調査した結果、めっき/鋼板界面およびめっき皮膜中に存在する酸化物のうち、面積が4μm以上になる膜状の酸化物が高加工時の耐めっき剥離性を劣化させることが判った。
【0011】
本発明はこの知見に基づくもので、上記課題を解決する本発明の手段は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.8〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.025%以下、S:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板であって、めっき/鋼板界面およびめっき層中に存在するSiおよび/またはMnの酸化物の内、面積が4μm以上の膜状の酸化物は、亜鉛めっき鋼板の10000μmに相当する面積内に合計で10個以下であることを特徴とする耐めっき剥離性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高Si含有鋼板を母材とした高加工時の耐めっき剥離性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】溶融亜鉛めっき鋼板のめっき/鋼板界面およびめっき皮膜中に存在する膜状のSi、Mnの酸化物の走査型電子顕微鏡写真の一例を示し、(a)は合金化溶融亜鉛めっき鋼板、(b)は非溶融亜鉛めっき鋼板の場合である。
【図2】網目状に観察される膜状のSi、Mnの酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明において、鋼成分組成の各元素の含有量、めっき層成分組成の各元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0015】
先ず鋼成分組成について説明する。
【0016】
C:0.01〜0.15%
Cは、鋼組織を、マルテンサイトなどを形成させることで加工性を向上しやすくする。そのためには0.01%以上が望ましい。0.15%を越えると溶接性が劣化する。したがって、C量を0.01〜0.15%に限定する。
【0017】
Si:0.8〜2.0%
Siは鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素である。Siが0.8%未満では本発明を適用しなくても高加工時の耐めっき剥離性に問題がなく、2.0%を越えると高加工時の耐めっき剥離性の改善が困難である。したがって、Si量を0.8〜2.0%とする。
【0018】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは鋼の高強度化に有効な元素である。機械特性や強度を確保するためは1.0%以上含有させることが必要である。3.0%を越えると溶接性やめっき密着性の確保、強度延性バランスの確保が困難になる。したがって、Mn量は1.0〜3.0%とする。
【0019】
P:0.025%以下
不可避的に含有されるものである。0.025%を越えると溶接性が劣化するだけでなく、表面品質が劣化し、合金化処理時には合金化処理温度を上昇しないと所望の合金化度とすることができず、また所望の合金化度とするために合金化処理温度を上昇させると延性が劣化すると同時に合金化めっき皮膜の密着性が劣化するため、所望の合金化度と、良好な延性、合金化めっき皮膜を両立させることができない。したがって、P量は0.025%以下が望ましい。
【0020】
S:0.01%以下
不可避的に含有される元素である。下限は規定しないが、多量に含有されると溶接性が劣化するため0.01%以下が好ましい。
【0021】
なお、強度延性バランスを制御するため、Al:0.01〜0.1%、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%のうちから選ばれる元素の1種以上を必要に応じて添加してもよい。これらの元素のうち、Cr、Mo、Nb、Cu、Niは単独または2種以上の複合添加で焼鈍雰囲気がHOを比較的多量に含むような湿潤雰囲気である場合に、Siの内部酸化を促進し、表面濃化を抑制する効果を有するため、機械的特性改善のためではなく、良好なめっき密着性を得るために添加してもよい。
【0022】
これらの元素を添加する場合における適正添加量の限定理由は以下の通りである。
【0023】
Alは熱力学的に最も酸化しやすいため、Si、Mnに先だって酸化し、Si、Mnの酸化を促進する効果がある。この効果は0.01%以上で得られる。0.1%を越えるとコストアップになる。したがって、Al量は0.01〜0.1%とする。
【0024】
Crは0.05%未満では焼き入れ性や焼鈍雰囲気がHOを比較的多量に含むような湿潤雰囲気である場合の内部酸化促進効果が得られにくく、1.0%越えではCrが表面濃化するため、めっき密着性や溶接性が劣化する。
【0025】
Moは0.05%未満では強度調整の効果やNb、またはNiやCuとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、1.0%越えではコストアップを招く。
【0026】
Nbは0.005%未満では強度調整の効果やMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、0.05%越えではコストアップを招く。
【0027】
Tiは0.005%未満では強度調整の効果が得られにくく、0.05%越えではめっき密着性の劣化を招く。
【0028】
Cuは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やNiやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、1.0%越えではコストアップを招く。
【0029】
Niは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やCuとMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、1.0%越えではコストアップを招く。
【0030】
Bは0.001%未満では焼き入れ効果が得られにくく、0.005%以上ではめっき密着性が劣化する。
【0031】
上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0032】
次に本発明で最も重要なめっき/鋼板界面およびめっき層中に存在するSi、Mnの酸化物について説明する。
【0033】
通常、溶融亜鉛めっき鋼板は、次のようにして製造する。素材鋼板を連続焼鈍設備で還元雰囲気中で焼鈍した後、亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきを施し、亜鉛めっき浴から引き上げてガスワイピングノズルでめっき付着量を調整して非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。または引き続き合金化加熱炉でめっき皮膜の合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【0034】
溶融亜鉛めっき鋼板を高強度化するためには、上述したように鋼にSi、Mnなどを添加することが有効である。しかし、これらの元素を添加した鋼板は、溶融亜鉛めっきを施す前に実施する焼鈍過程において、鋼板表面に、添加したSi、Mnの酸化物が析出して、亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきを施した後に、これがめっき/鋼板界面に存在することになる。また、合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、めっき/鋼板界面からFe−Znの合金化反応が進行するために、めっき/鋼板界面に存在しているSi、Mnの酸化物の一部がめっき皮膜中に分散する。これらの酸化物の形態は、高加工時の耐めっき剥離性に大きく影響を及ぼす。
【0035】
本発明者らは、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき/鋼板界面およびめっき皮膜中に存在する酸化物に着目して、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜中に含まれる酸化物と、高加工時の耐めっき剥離性の関係について調査した。
【0036】
図1は、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき/鋼板界面およびめっき皮膜中に存在する酸化物を走査型電子顕微鏡で観察した一例を示す。図1において、(a)は合金化溶融亜鉛めっき鋼板、(b)は非合金化溶融亜鉛めっき鋼板の例である。図1(a)、(b)に示される酸化物は膜状で、EDSの元素分析結果より、SiとMnを主体とする酸化物であることが分かった。
【0037】
なお、膜状の酸化物が溶融亜鉛めっき後はめっき/鋼板界面に存在し、合金化処理後はめっき層中にも存在していることは断面の解析から確認した。膜状の酸化物の形態・大きさの計測は断面観察では困難であるので、後記するように、めっき層を剥離して剥離残渣の解析から求めた。
【0038】
本発明者等は、このような比較的大きい膜状に形成した酸化物が溶融亜鉛めっき鋼板のめっき/鋼板界面およびめっき皮膜中に多く存在していた場合、高加工時の耐めっき剥離性に劣っていることを見出した。更に詳細に検討し、膜状の酸化物の1個あたりの面積と個数を評価し、耐めっき剥離性との関係を調査した結果、溶融亜鉛めっき鋼板の10000μmに相当する面積内に存在する面積が4μm以上になる膜状の酸化物の数が合計10個以下である場合に、高加工時の耐めっき剥離性が優れていることが分かった。
【0039】
めっき/鋼板界面およびめっき層中の酸化物を抽出して観察する方法としては、亜鉛めっき層を非水溶液中で電気化学的に溶解させ、その溶解液をフィルターでろ過し、得られた残渣を、走査型電子顕微鏡、または透過型電子顕微鏡で観察する方法がある。
【0040】
溶融亜鉛めっき鋼板の10000μmに相当する面積を観察するには、例えば、面積がA(mm)の亜鉛めっき層を非水溶液中で電気化学的に溶解させ、その溶解液を面積がB(mm)のフィルターでろ過した場合に、2000×B/A(μm)の任意の5視野を観察し、その合計を評価することで可能である。
【0041】
また、酸化物の面積を測定するには、観察された画像を画像処理によって、コントラスト調整および2値化した後に、測定することが可能である。そのときの酸化物の面積とは、例えば図2のような網目状に観察された酸化物については、穴になっている部分を除いた面積とする。
【0042】
観察面積における4μm以上の面積として観察されるSiおよび/またはMnの酸化物の数を10000μmに相当する面積の個数に換算することで、10000μmに相当する面積内の個数を求める。
【0043】
非水溶液中で溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層を電気化学的に溶解させると、めっき皮膜中およびめっき/鋼板界面に存在する酸化物は溶解せずに非水溶液中に分散する。この酸化物が分散した非水溶液をろ過することで、ろ過フィルターに酸化物を、酸化物の形状を保ったまま捕捉することが出来る。また、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層のみを電気化学的に溶解させるには、めっき層のみが溶解する電位に制御して定電位電解を行うことで、下地鋼板の溶解を起こすことなく、めっき層の溶解を行うことが出来る。
【0044】
溶融亜鉛めっき鋼板において、高加工時の耐めっき剥離性の向上は、高加工時にめっき層に発生した亀裂の伝播を抑制することで実現できる。しかし、めっき皮膜中に膜状に形成されたSiおよび/またはMnの酸化物が存在すると、そこから亀裂が伝播し易くなるために、めっき皮膜中で発生した亀裂が容易に伝播して、めっきの剥離に至るものと推定される。また、膜状に形成されたSiおよび/またはMnの酸化物がめっき/鋼板界面に存在している場合も同様に、めっき皮膜中で発生した亀裂がめっき/鋼板界面に到達すると容易に伝播するために、めっき/鋼板界面の剥離が起こり易いと考えられる。
【0045】
Siおよび/またはMnの酸化物が膜状でめっき皮膜中および/またはめっき/鋼板界面に存在するのは、めっき前の鋼板表面に存在する酸化物の形態に大きく影響されるものと思われる。すなわち、めっき前の鋼板表面にSiおよび/またはMnの酸化物が膜状に形成していた場合には、亜鉛めっきを施して、合金化処理された後も、その形状を保ったままめっき/鋼板界面に存在するか、めっき皮膜中に分散されるものと考えられる。よって、めっき前の鋼板表面に存在する酸化物を膜状ではなく、細かく分散させた状態にすれば良い。
【0046】
めっき前の鋼板表面の酸化物状態を制御する方法として、めっき前の焼鈍条件(温度分布、雰囲気)を制御する方法や、予め鋼板表面に種々の前処理を施す方法、などがある。本発明ではその方法は限定するものではないが、例えば、焼鈍過程において鋼板の表層における酸素ポテンシャルを増加し、地鉄表層部を内部酸化させることで、めっき前の鋼板表面に膜状の酸化物を形成させないことが可能である。
【0047】
また例えば、鋼板をDFF型またはNOF型の加熱帯を有するCGLで、加熱帯出側の鋼板温度を700℃以上とすることで鋼板表層にFe系スケールを付着させ、このFe系スケールが次の還元帯において酸素供給源となり、鋼板表層を内部酸化する方法がある。加熱帯出側の鋼板温度が700℃未満ではFe系スケールの生成量が不十分であるため、還元帯で還元焼鈍する際に内部酸化層が形成されず、めっき前の鋼板表面に膜状のSiおよび/またはMnの酸化物が膜状に形成する。更に、加熱帯内における雰囲気ガス組成のCO/HO比(容量比)を0.8以下とする。加熱帯にはコークスガスなどの燃焼ガスが混入しているため、ガス組成は多種に及ぶが、その中で未燃ガスの一種であるCOはHOと解離平衡することでHOをHに還元する効果がある。そのため、CO濃度が上昇すると鋼板の酸化が抑制される。一方HOは鋼板表面で分解しOを放出することで鋼板を酸化する。そのため、鋼板を積極的に酸化するためにはCO濃度を抑制し、HOの相対量を多くする必要がある。但し、CO/HO比が0.8越えではDFF出側温度を700℃以上としても還元効果が勝るためFeの酸化量が確保できず、めっき前の鋼板表面に膜状のSiおよび/またはMnの酸化物が膜状に形成する。
【0048】
次に、還元帯で、700〜940℃の温度域で、15〜600s再結晶焼鈍することで、めっき前の鋼板表面の酸化物状態を膜状ではなく、分散させた状態にすることができ、亜鉛めっきを施し、またはさらに合金化処理を行い、本発明の規定を満足する酸化物の状態を実現することができる。亜鉛めっき方法、合金化処理方法は特に限定されない。
【0049】
本発明は、めっき/鋼板界面およびめっき皮膜中に存在する酸化物の形状を規定するものである。めっき皮膜全体の合金層の種類や構成に限定されるものではない。また、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板において、下地鋼板の製造方法は特に限定されず、通常の酸洗板あるいは冷延板でよい、通常、板厚は5mm以下である。また、溶融亜鉛めっき鋼板の製造装置についても特に限定されず、例えば通常使用されている連続式溶融亜鉛めっき装置であってもよい。また、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板に、FeあるいはNiを主成分とした上層めっき、またはZnを主成分とした酸化皮膜を形成させることなどを施し、プレス成形性を更に改善しても良い。
【0050】
めっき付着量は片面あたり20〜120g/mが好ましい。20g/m未満では耐食性の確保が困難になり、120g/mを越えると耐めっき剥離性が劣化する。また、めっき層のFe含有量は7〜15%が好ましい。7%未満では合金化ムラ発生やフレーキング性が劣化し、15%越えは耐めっき剥離性が劣化する。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を、実施例に基いて具体的に説明する。
【0052】
表1に示す化学成分の鋼を溶製して得た鋳片を熱間圧延、酸洗、冷間圧延によって1.2mm厚の冷延鋼板とした。
【0053】
【表1】

【0054】
この冷延鋼板をDFF型加熱帯を有するCGLで加熱帯出側温度および必要に応じてHOやCOを加熱帯に導入してCO/HO比を適宜変更して加熱した。DFF出側鋼板温度は放射温度計で測定した。その後、還元帯で850℃で20s再結晶焼鈍し、460℃の亜鉛めっき浴で片面あたりの目付け量50g/mのめっきを施し、さらに一部は合金化処理を施した。
【0055】
得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板、および非合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、外観性(めっき外観)、耐めっき剥離性を調査した。また非水溶液中で亜鉛めっき層を定電位電解によって溶解させて、得られた残渣を50nmの径を有するニュークリポアフィルターでろ過した後に、フィルターに捕捉された残渣の観察を走査型電子顕微鏡で観察した。本実施例では面積100mmの亜鉛めっき層の電気化学的溶解を行い、面積254mmのフィルターでろ過を実施した。走査型電子顕微鏡による観察では倍率1000倍(観察視野面積:約8000μm)で任意の5視野を観察した。膜状の物質については順次拡大して観察を行い、EDSによる元素分析を実施して、4μm以上の面積として観察されるSiおよび/またはMnの酸化物の数を数えた。
【0056】
外観性は、不めっきや合金化ムラなどの外観不良が無い場合は外観良好(記号○)、ある場合は外観不良(記号×)と判定した。
【0057】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、耐めっき剥離性として、めっき鋼板を90°を越えて鋭角に曲げたときの曲げ加工部のめっき剥離の抑制が要求される。本実施例では120°曲げた場合の曲げ加工部をテープ剥離し、単位長さ当たりの剥離量を蛍光X線によりZnカウント数を測定し、下記の基準に照らして、ランク1(記号○)、2(記号△)のものを耐めっき剥離性が良好、3以上のものを耐めっき剥離性が不良(記号×)と評価した。
【0058】
蛍光X線Znカウント数 ランク
0−500未満 :1(良)
500−1000未満 :2
1000−2000未満 :3
2000−3000未満 :4
3000以上 :5(劣)
【0059】
非合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、耐めっき剥離性として、特に衝撃時の耐めっき剥離性が要求されるため、その評価は、ボールインパクト試験で、1m高さから1.8kgの錘を1/2インチのポンチの上に落として、めっき鋼板の当たった部分をセロテープ(登録商標)剥離し、めっき層剥離の有無を目視判定し、以下のように評価した。
剥離なし:○
剥離有り:×
【0060】
製造条件、得られた結果を表2と表3に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2は合金化溶融亜鉛めっき鋼板の例である。表2から明らかなように、本発明法で製造された溶融亜鉛めっき鋼板は、Si等の易酸化性元素を多量に含有する高合金鋼であるにもかかわらず高加工時の耐めっき剥離性に優れ、めっき外観も良好である。一方、本発明法の範囲外で製造された溶融亜鉛めっき鋼板は、高加工時の耐めっき剥離性が劣り、またはさらにめっき外観が劣る。
【0063】
【表3】

【0064】
表3は非合金化溶融亜鉛めっき鋼板の例である。表3から明らかなように、本発明法で製造された溶融亜鉛めっき鋼板は、Si等の易酸化性元素を多量に含有する高合金鋼であるにもかかわらず高加工時の耐めっき剥離性に優れ、めっき外観も良好である。一方、本発明法の範囲外で製造された溶融亜鉛めっき鋼板は、高加工時の耐めっき剥離性が劣り、またはさらにめっき外観が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、高加工時の耐めっき剥離性に優れ、自動車の車体そのものを軽量化かつ高強度化するための表面処理鋼板として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.8〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.025%以下、S:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板であって、めっき/鋼板界面およびめっき層中に存在するSiおよび/またはMnの酸化物の内、面積が4μm以上の膜状の酸化物は、亜鉛めっき鋼板の10000μmに相当する面積内に合計で10個以下であることを特徴とする耐めっき剥離性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−58013(P2011−58013A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205407(P2009−205407)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】