説明

耐アーク性絶縁物および遮断器

【課題】損耗量の低下を抑制しつつ、優れた絶縁性能を有する耐アーク性絶縁物および遮断器を提供する。
【解決手段】実施形態の耐アーク性絶縁物10は、電極と電極の間に発生するアークの近傍に配置される。この耐アーク性絶縁物10は、フッ素系樹脂20に、酸化亜鉛からなるウィスカで構成される第1の充填剤30を、フッ素系樹脂20の質量の3〜5%に相当する質量含有して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、耐アーク性に優れた耐アーク性絶縁物、およびこの耐アーク性絶縁物を使用した遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、大容量電流を遮断または投入する装置として、パッファ形ガス遮断器が知られている。パッファ形ガス遮断器では、容器内に充填した消弧性ガスをパッファシリンダおよびパッファピストンからなるピストン機構で圧縮し、圧縮されたこの消弧ガスをノズルから噴射し、電流遮断時に接触子間に発生したアークを消弧する。
【0003】
このようなパッファ形ガス遮断器では、消弧性ガスとしてSFガスを用い、ノズルの材質として絶縁性のフッ素樹脂を使用している。しかしながら、フッ素樹脂からなる絶縁物がアークに曝されると、アークから放射されたエネルギをフッ素樹脂の内部に浸透して吸収し、ノズル内部においてボイドや炭化現象を生じることがある。これにより、ノズルの絶縁性能が低下したり、ノズル材料が損耗され、ガス流れの状態が当初とは異なる状態となり、遮断性能が低下することがある。
【0004】
これらを防止するため、樹脂材料に無機材料や有機材料からなる充填剤を充填した材料を使用して、パッファ形ガス遮断器のノズルを構成するなどの様々な改良がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2581606号公報
【特許文献2】特公昭62−60783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したようにノズルの改良のために、様々な充填剤が検討されているが、従来の無機充填剤を含有したノズル材料は、無機充填剤の含有量に比例して機械的強度が低下し、遮断時の損耗量も無機充填剤の含有量に比例して増大する。また、無機充填剤の含有量の増加に伴って、ノズル材料の絶縁破壊電圧が低下するため、遮断器の小型化しようとする際、ノズルの使用電界を高くできない。
【0007】
例えば、窒化ホウ素などの絶縁抵抗が高い充填剤を含有したフッ素系樹脂では、フッ素系樹脂自体が大きな絶縁抵抗を有することから、充填剤を充填したフッ素系樹脂の絶縁抵抗が高くなり、帯電によりノズルの絶縁破壊電圧が低下する。ここで、フッ素系樹脂の帯電防止法として、導電性の充填剤としてカーボン粉、二硫化モリブデン、金属粉などを含有させて絶縁抵抗を低減する方法が考えられる。しかしながら、この方法によって安定して実現できる絶縁抵抗値は、ノズル材として要求される値よりも低く、絶縁破壊電圧が低下する。
【0008】
上記したように、従来の遮断器のノズル材料では、絶縁性能の低下を防止しつつ、遮断時の損耗量を低減することは困難であった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、損耗量の低下を抑制しつつ、優れた絶縁性能を有する耐アーク性絶縁物および遮断器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の耐アーク性絶縁物は、電極と電極の間に発生するアークの近傍に配置される。この耐アーク性絶縁物は、フッ素系樹脂に、酸化亜鉛からなるウィスカで構成される第1の充填剤を、前記フッ素系樹脂の質量の3〜5%に相当する質量含有して構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物の断面を模式的に示した図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物に含有される酸化亜鉛からなるウィスカを模式的に示した斜視図である。
【図3】本発明に係る第2の実施の形態の耐アーク性絶縁物10の断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10の断面を模式的に示した図である。図2は、本発明に係る第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10に含有される酸化亜鉛からなるウィスカ50を模式的に示した斜視図である。なお、以下に示す実施の形態において、同一の構成部分には、同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
【0014】
第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10は、図1に示すように、フッ素系樹脂20に、酸化亜鉛からなるウィスカで構成される第1の充填剤30を含有して構成されている。この第1の充填剤30は、フッ素系樹脂20中に均等に分散されていることが好ましい。
【0015】
フッ素系樹脂20としては、例えば、ポリ四フッ化エチレン樹脂または四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重体を用いることが好ましい。ポリ四フッ化エチレン樹脂の融点は約327℃であり、また、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重体の融点は約302〜310℃であり、これらはフッ素系樹脂の中でも高い耐熱性を有しているからである。
【0016】
また、ポリ四フッ化エチレン樹脂は溶融時の粘度が高いため、高温で溶融しても元の形状を維持することができるという特徴がある。このような特性を生かすことにより、耐アーク性絶縁物10を、アークに対して適切な距離を確保して配置することで、アークによって加熱されたとしても、熱による変形を防止することができる。
【0017】
さらに、ポリ四フッ化エチレン樹脂および四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重体は、加熱分解時に、高分子を構成する単位構造分子となってガス化するため、炭化物が残らず、導電性物質の生成による絶縁性能の低下が起き難いという利点がある。さらに、分解してガス化する際に多量のエネルギを消費することによって冷却効果が発揮され、ポリ四フッ化エチレン樹脂自体および四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重体自体を保護する効果も得られる。
【0018】
第1の充填剤30は、上記したように、例えば、酸化亜鉛からなるウィスカ50で構成される。この酸化亜鉛からなるウィスカ50は、フッ素系樹脂20の焼成温度である300℃前後の温度で変化や変色しない耐熱性を有し、耐薬品性に優れた無機物である。また、ウィスカ50は、シランカップリング処理などの表面処理が施されていないものを使用することが好ましい。表面処理をしたウィスカ50を使用する場合には、フッ素系樹脂20の焼成時に、変色したり、炭化物が生成するなど、絶縁性能の低下を招く。
【0019】
ウィスカ50は、図2に示すように、核部50aと、この核部50aから4軸方向に伸びる針状結晶部50bとから構成されるテトラポット形状を有している。このウィスカ50において、核部50aの径Dは、0.1μm〜10μmが好ましく、0.3μm〜3μmがさらに好ましい。針状結晶部50bの長さLは、3μm〜200μmが好ましく、5μm〜50μmがさらに好ましい。また、酸化亜鉛からなるウィスカ50としては、例えば、パナテトラ(アムテック社製商品名)を使用することができる。
【0020】
第1の充填剤30は、フッ素系樹脂20に、フッ素系樹脂20の質量の3〜5%に相当する質量含有されることが好ましい。第1の充填剤30の含有量は、耐アーク性絶縁物10における帯電を防止するとともに、損耗を低減するために、上記した範囲とすることが好ましい。
【0021】
ここで、耐アーク性絶縁物10の作用効果について説明する。
【0022】
図1に示すように、アーク60から発生した光61が入射した際、酸化亜鉛からなるウィスカ50は、アーク60からの光61のうち、主に内部劣化に関与する波長領域(例えば、360nm未満)の光を吸収する。これにより、フッ素系樹脂20の内部での炭化物の形成を抑制し、内部に発生したガスによってフッ素系樹脂20が吹き飛ばされるという現象を防ぎ、絶縁性能の低下を抑えることができる。
また、酸化亜鉛からなるウィスカ50は、半導電性であるため、耐アーク性絶縁物10の帯電を抑制する機能を有する。例えば、帯電を抑制するために、カーボンのような導電性物質を充填剤として含有した場合には、含有量が少量であっても、フッ素系樹脂の絶縁抵抗が大きく低下する。そのため、近接されたアークが導電性物質を含有したフッ素系樹脂の表面を流れやすくなり、耐アーク性が低下する。これに対して、第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10では、酸化亜鉛からなるウィスカ50を含有することで、フッ素系樹脂20が本来有する体積低効率(1×1018Ω・cm)を4桁程度低減することができる。そのため、耐アーク性絶縁物10の帯電が原因となる絶縁破壊電圧の低下を防止することができる。
【0023】
次に、耐アーク性絶縁物10の製造方法について説明する。
【0024】
前述したフッ素系樹脂20の粉末に、第1の充填剤30を、フッ素系樹脂20の質量の3〜5%添加し、均一に混合する。フッ素系樹脂20の粉末は、緻密な成形品が得られる、平均粒径が20μm〜27μmのものを使用することができ、特に、各種充填剤との混合用のベースパウダーに適した平均粒径が25μmのものが好ましい。ここで示す平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径であり、ASTM D1457に準じて測定される。
【0025】
続いて、均一に混合された混合物を所定の型に充填して圧縮形成し、圧縮形成体を作製する。ここで、例えば、耐アーク性絶縁物10を使用して遮断器のノズルを作製する場合には、遮断器のノズルを作製できるサイズの、例えば、円柱状の圧縮形成体を作製する。
【0026】
続いて、圧縮形成体を炉に設置し、温度を370℃程度まで徐々に上昇させ、フッ素系樹脂20の粉末を溶融して焼成する。その後、自然冷却により室温まで冷却し、成形品である耐アーク性絶縁物10が得られる。
【0027】
ここで、遮断器のノズルを作製する場合には、円柱状の成形品をノズルの形状に機械加工することで、遮断器のノズルが得られる。
【0028】
上記したように製造されたノズルは、一般に広く使用されている、例えば、パッファ形ガス遮断器のノズルとして使用することができる。パッファ形ガス遮断器(図示しない)は、固定電極と、その固定電極に接離する可動電極と、それらの電極間に設けられた絶縁物からなるノズルとを備えている。そして、可動電極を移動して固定電極との電気的な接続を遮断する際、容器内に充填した消弧性ガスをパッファシリンダおよびパッファピストンからなるピストン機構で圧縮し、ノズルから噴射し、電流遮断時に電極間に発生したアークを消弧する。ノズルを第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10で構成することで、アークが発生した場合においても、上記した耐アーク性絶縁物10の作用効果を得ることができる。
【0029】
上記したように、第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10によれば、第1の充填剤30を備えることで、損耗量の低下を抑制しつつ、帯電やアークによる内部炭化による絶縁性能の低下を防止することができる。
【0030】
(第2の実施の形態)
図3は、本発明に係る第2の実施の形態の耐アーク性絶縁物10の断面を模式的に示した図である。
【0031】
第2の実施の形態の耐アーク性絶縁物10は、図3に示すように、フッ素系樹脂20に、酸化亜鉛からなるウィスカで構成される第1の充填剤30および第2の充填剤70を含有して構成されている。この第1の充填剤30および第2の充填剤70は、フッ素系樹脂20中に均等に分散されていることが好ましい。
【0032】
フッ素系樹脂20および第1の充填剤30は、第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10におけるものと同じである。第1の充填剤30の含有量も、第1の実施の形態の耐アーク性絶縁物10におけるものと同じである。
【0033】
第2の充填剤70は、無機紫外線吸収材からなる粒子、または無機紫外線反射材からなる粒子で構成することができる。これらの無機紫外線吸収材および無機紫外線反射材からなる粒子は、フッ素系樹脂20の焼成温度である300℃前後の温度で変化や変色しない耐熱性を有し、耐薬品性に優れた無機物である。
【0034】
無機紫外線吸収材からなる粒子は、内部炭化に関与する波長領域(例えば、360nm 未満)の光の吸収に優れた無機材料からなる粒子である。内部劣化に関与する波長領域の光を吸収する効果が得られるという点においては、酸化亜鉛からなるウィスカ50の作用の一部と同じである。無機紫外線吸収材からなる粒子としては、紫外光を吸収し、可視領域の光をできる限り吸収しないものが好ましい。無機紫外線吸収材は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化セリウムのうちの少なくとも1種で構成される。すなわち、これらの材料を単体で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
なお、酸化チタンには、その結晶状態の違いにより、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型があるが、フッ素系樹脂20に与えるダメージを抑えるため、活性度が低く、光触媒作用の小さなルチル型を選択することが好ましい。
【0036】
この無機紫外線吸収材は、フッ素系樹脂20に、フッ素系樹脂20の質量の0.1〜1%に相当する質量含有されることが好ましい。無機紫外線吸収材の含有量をこの範囲とすることで、内部劣化に関与する波長領域の光を十分に吸収してフッ素系樹脂20の内部炭化を抑制し、フッ素系樹脂20の損耗量を低減することができる。また、この範囲において、安定した配合物の得やすさや、充填率誤差の影響の少なさ、製造のしやすさという観点から、無機紫外線吸収材の含有量を、フッ素系樹脂20の質量の0.2〜0.6%に相当する質量とすることがさらに好ましい。
【0037】
無機紫外線吸収材からなる粒子の平均粒径は、0.01μm〜0.2μmであることが好ましく、フッ素系樹脂20の粉末への分散性が特に良好な0.01μm〜0.02μmがさらに好ましい。ここで示す平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径であり、ASTM D1457に準じて測定される。無機紫外線吸収材からなる粒子の平均粒径が、0.01μm未満の場合には、無機紫外線吸収材の凝集のため作業性に問題があり、0.2μmを超える場合には、フッ素系樹脂20の粉末への分散性が低下する。
【0038】
無機紫外線反射材からなる粒子は、内部炭化に関与する波長領域の光の反射に優れた無機材料からなる粒子である。無機紫外線反射材は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび窒化ホウ素のうちの少なくとも1種で構成される。すなわち、これらの材料を単体で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
この無機紫外線反射材は、フッ素系樹脂20に、フッ素系樹脂20の質量の0.1〜1%に相当する質量含有されることが好ましい。無機紫外線反射材の含有量をこの範囲とすることで、内部劣化に関与する波長領域の光を十分に反射してフッ素系樹脂20の内部炭化を抑制し、フッ素系樹脂20の損耗量を低減することができる。また、この範囲において、安定した配合物の得やすさや、充填率誤差の影響の少なさ、製造のしやすさという観点から、無機紫外線反射材の含有量を、フッ素系樹脂20の質量の0.2〜1%に相当する質量とすることがさらに好ましい。
【0040】
無機紫外線反射材からなる粒子の平均粒径は、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムで構成する場合には、0.01μm〜0.2μmであることが好ましく、フッ素系樹脂20の粉末への分散性が良好な0.01μm〜0.1μm がさらに好ましい。また、無機紫外線反射材からなる粒子の平均粒径は、窒化ホウ素で構成する場合には、フッ素系樹脂20の粉末への分散性が特に良好な1μm〜10μmであることが好ましい。ここで示す平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径であり、ASTM D1457に準じて測定される。
【0041】
二酸化ケイ素および酸化アルミニウムで構成する場合において、無機紫外線反射材からなる粒子の平均粒径が、0.01μm未満のときには、無機紫外線反射材の凝集のため作業性に問題があり、0.2μmを超えるときには、フッ素系樹脂20の粉末への分散性が低下する。窒化ホウ素で構成する場合において、無機紫外線反射材からなる粒子の平均粒径が、1μm未満のときには、フッ素系樹脂20への分散性に問題があり、10μmを超えるときには、ノズル材としての機械的特性が低下する。
【0042】
ここで、耐アーク性絶縁物10の作用効果について説明する。
【0043】
まず、第2の充填剤70として、無機紫外線吸収材からなる粒子を備える場合について説明する。
【0044】
図3に示すように、アーク60から発生した光61が入射した際、酸化亜鉛からなるウィスカ50および第2の充填剤70は、アーク60からの光61のうち、主に内部劣化に関与する波長領域の光を吸収する。これにより、フッ素系樹脂20の内部での炭化物の形成を抑制し、内部に発生したガスによってフッ素系樹脂20が吹き飛ばされるという現象を防ぎ、絶縁性能の低下を抑えることができる。
【0045】
また、酸化亜鉛からなるウィスカ50は、半導電性であるため、耐アーク性絶縁物10の帯電を抑制する機能を有する。例えば、帯電を抑制するために、カーボンのような導電性物質を充填剤として含有した場合には、含有量が少量であっても、フッ素系樹脂の絶縁抵抗が大きく低下する。そのため、近接されたアークが導電性物質を含有したフッ素系樹脂の表面を流れやすくなり、耐アーク性が低下する。これに対して、第2の実施の形態の耐アーク性絶縁物10では、酸化亜鉛からなるウィスカ50を含有することで、フッ素系樹脂20が本来有する体積低効率(1×1018Ω・cm)を4桁程度低減することができる。そのため、耐アーク性絶縁物10の帯電が原因となる絶縁破壊電圧の低下を防止することができる。
【0046】
次に、第2の充填剤70として、無機紫外線反射材からなる粒子を備える場合について説明する。
【0047】
図3に示すように、アーク60から発生した光61が入射した際、酸化亜鉛からなるウィスカ50は、アーク60からの光61のうち、主に内部劣化に関与する波長領域の光を吸収する。一方、第2の充填剤70は、主に内部劣化に関与する波長領域の光を反射する。これにより、フッ素系樹脂20の内部での炭化物の形成を抑制し、内部に発生したガスによってフッ素系樹脂20が吹き飛ばされるという現象を防ぎ、絶縁性能の低下を抑えることができる。
【0048】
なお、酸化亜鉛からなるウィスカ50における他の作用効果は、上記したウィスカ50の作用効果と同じである。
【0049】
次に、耐アーク性絶縁物10の製造方法について説明する。
【0050】
前述したフッ素系樹脂20の粉末に、第1の充填剤30を、フッ素系樹脂20の質量の3〜5%、第2の充填剤70を、フッ素系樹脂20の質量の0.1〜1%添加し、均一に混合する。均一に混合された混合物を所定の型に充填して圧縮形成し、圧縮形成体を作製する。ここで、例えば、耐アーク性絶縁物10を使用して遮断器のノズルを作製する場合には、遮断器のノズルを作製できるサイズの、例えば、円柱状の圧縮形成体を作製する。
【0051】
続いて、圧縮形成体を炉に設置し、温度を370℃程度まで徐々に上昇させ、フッ素系樹脂20の粉末を溶融して焼成する。その後、自然冷却により室温まで冷却し、成形品である耐アーク性絶縁物10が得られる。
【0052】
ここで、遮断器のノズルを作製する場合には、円柱状の成形品をノズルの形状に機械加工することで、遮断器のノズルが得られる。なお、製造されたノズルの用途は、第1の実施の形態におけるものと同じである。
【0053】
上記したように、第2の実施の形態の耐アーク性絶縁物10によれば、第1の充填剤30および第2の充填剤70を備えることで、損耗量の低下を抑制しつつ、帯電やアークによる内部炭化による絶縁性能の低下を防止することができる。
【0054】
次に、本実施の形態の耐アーク性絶縁物10が、優れた耐アーク性などの特性を有することについて説明する。
【0055】
ここでは、試料1〜試料10について、体積抵抗率、耐アーク性、重量損耗量および内部劣化を評価した。ここで、試料1〜試料5は、本実施の形態に係るものであり、試料6〜試料10は、本実施の形態の範囲でない、比較例である。
【0056】
試料1〜試料10を以下に示すように作製した。
【0057】
(試料1)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第1の充填剤30として酸化亜鉛からなるウィスカ50をこの樹脂の質量の5%添加し、均一に混合した。なお、ここでの平均粒径は、ASTM D1457に準じて求められた値である(以下同じ)。
【0058】
続いて、均一に混合された混合物を、所定の型に充填して、温度25℃(室温)、圧力50MPaで圧縮形成し、圧縮形成体を作製した。
【0059】
続いて、圧縮形成体を炉に設置し、温度を370℃程度まで徐々に上昇させ、フッ素系樹脂20の粉末を溶融して焼成した。その後、自然冷却により室温まで冷却し、機械加工により、直径が100mm、厚さが3mmの耐アーク性および体積抵抗率評価用の試料1を作製した。
【0060】
また、焼結して冷却したものを機械加工して、ガス遮断器用ノズルとし、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1を作製した。
【0061】
(試料2)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第1の充填剤30として、酸化亜鉛からなるウィスカ50をこの樹脂の質量の5%添加し、第2の充填剤70として平均粒径が0.01μmのルチル型の酸化チタンをこの樹脂の重量の0.6%添加し、均一に混合した。
【0062】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料2をそれぞれ作製した。
【0063】
(試料3)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第1の充填剤30として、酸化亜鉛からなるウィスカ50をこの樹脂の質量の5%添加し、第2の充填剤70として平均粒径が0.02μmの酸化亜鉛をこの樹脂の重量の0.6%添加し、均一に混合した。
【0064】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料3をそれぞれ作製した。
【0065】
(試料4)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第1の充填剤30として、酸化亜鉛からなるウィスカ50をこの樹脂の質量の5%添加し、第2の充填剤70として平均粒径が0.01μmの酸化セリウムをこの樹脂の重量の0.6%添加し、均一に混合した。
【0066】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料4をそれぞれ作製した。
【0067】
(試料5)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第1の充填剤30として、酸化亜鉛からなるウィスカ50をこの樹脂の質量の5%添加し、第2の充填剤70として平均粒径が10μmの窒化ホウ素をこの樹脂の重量の1%添加し、均一に混合した。
【0068】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料5をそれぞれ作製した。
【0069】
(試料6)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末を、所定の型に充填して、温度25℃(室温)、圧力50MPaで圧縮形成し、圧縮形成体を作製した。
【0070】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料6をそれぞれ作製した。試料6は、第1の充填剤30および第2の充填剤70を含有していない。
【0071】
(試料7)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第2の充填剤70として平均粒径が0.01μmのルチル型の酸化チタンをこの樹脂の重量の0.6%添加し、均一に混合した。
【0072】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料7をそれぞれ作製した。試料7は、第1の充填剤30を含有していない。
【0073】
(試料8)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第2の充填剤70として平均粒径が0.02μmの酸化亜鉛をこの樹脂の重量の0.6%添加し、均一に混合した。
【0074】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料8をそれぞれ作製した。試料8は、第1の充填剤30を含有していない。
【0075】
(試料9)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第2の充填剤70として平均粒径が0.01μmの酸化セリウムをこの樹脂の重量の0.6%添加し、均一に混合した。
【0076】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料9をそれぞれ作製した。試料9は、第1の充填剤30を含有していない。
【0077】
(試料10)
平均粒径が25μmのポリ四フッ化エチレン樹脂の粉末に、第2の充填剤70として平均粒径が10μmの窒化ホウ素をこの樹脂の重量の1%添加し、均一に混合した。
【0078】
以後の作製工程は、上記した試料1の場合と同じとし、耐アーク性および体積抵抗率評価用、重量損耗量および内部劣化評価用の試料1と同サイズの試料10をそれぞれ作製した。試料10は、第1の充填剤30を含有していない。
【0079】
上記した方法で作製された試料1〜試料10を用いて、耐アーク性、体積抵抗率、重量損耗量および内部劣化の評価を行った。
【0080】
ここで、耐アーク性の評価(耐アーク性試験)は、日本工業規格 JIS K 6911に準じて行った。なお、耐アーク性とは、絶縁材料がアークによる劣化に耐える能力であり、導通や発火に至るまでの時間を測定した秒数である。体積抵抗率の評価(体積抵抗率の測定)は、日本工業規格 JIS K 6911に準じて行った。
【0081】
内部劣化の評価は、作製された各試料のガス遮断器用ノズルを遮断器に取付け、同じ条件で遮断試験を実施し、その実施後のノズル断面を観察し、劣化の有無を観察した。具体的には、試料の断面を目視で観察し、内部炭化跡の有無を調べた。
【0082】
重量損耗量の評価は、内部劣化の評価で使用したガス遮断器用ノズルの遮断試験前と遮断試験後の試料の重量を測定し、それぞれの差を求めることで評価を行った。なお、この評価においては、より正確に比較するため、遮断試験前後の重量差を遮断試験で注入したエネルギ量で除して求めた、単位エネルギ当りの重量変化を用いた。
【0083】
表1は、試験結果を示す。表1には、内部劣化がある場合を「有」、内部劣化がない場合を「無」と示している。ここで、内部劣化がない場合とは、内部炭化跡がなく、内部炭化に伴うエロージョンもない場合である。また、重量損耗量は、試料6における単位エネルギ当たりの重量損耗量を100としたときの相対値で示されている。例えば、試料6における単位エネルギ当たりの重量損耗量を超える場合には、相対値は100を超え、試料6における単位エネルギ当たりの重量損耗量を下回る場合には、相対値は100を下回る。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、試料1〜試料5においては、試料6〜試料10に比べて、体積抵抗率が大きく低下していることがわかった。また、試料1〜試料5においては、内部劣化も無かった。また、第2の充填剤70の添加条件は同じ条件で、第1の充填剤30を含有した場合としない場合の結果を比較すると、重量損耗量には大きな差はなく、同程度であった。これらの結果から、試料1〜試料5においては、損耗量の低下を抑制しつつ、優れた絶縁性能を有することがわかった。
【0086】
以上説明した実施形態によれば、損耗量の低下を抑制しつつ、優れた絶縁性能を有することが可能となる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0088】
10…耐アーク性絶縁物、20…フッ素系樹脂、30…第1の充填剤、50…ウィスカ、50a…核部、50b…針状結晶部、60…アーク、61…光、70…第2の充填剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と電極の間に発生するアークの近傍に配置される耐アーク性絶縁物であって、
フッ素系樹脂に、酸化亜鉛からなるウィスカで構成される第1の充填剤を、前記フッ素系樹脂の質量の3〜5%に相当する質量含有してなることを特徴とする耐アーク性絶縁物。
【請求項2】
前記フッ素系樹脂に、無機紫外線吸収材からなる粒子で構成される第2の充填剤を、前記フッ素系樹脂の質量の0.1〜1%に相当する質量含有してなることを特徴とする請求項1記載の耐アーク性絶縁物。
【請求項3】
前記フッ素系樹脂に、無機紫外線反射材からなる粒子で構成される第2の充填剤を、前記フッ素系樹脂の質量の0.1〜1%に相当する質量含有してなることを特徴とする請求項1記載の耐アーク性絶縁物。
【請求項4】
前記無機紫外線吸収材が、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化セリウムのうちの少なくとも1種で構成されていることを特徴とする請求項2記載の耐アーク性絶縁物。
【請求項5】
前記無機紫外線反射材が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび窒化ホウ素のうちの少なくとも1種で構成されていることを特徴とする請求項3記載の耐アーク性絶縁物。
【請求項6】
前記フッ素系樹脂が、ポリ四フッ化エチレン樹脂または四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の耐アーク性絶縁物。
【請求項7】
固定電極と、その固定電極に接離する可動電極と、それらの電極間に設けられた絶縁物からなるノズルとを備え、電流遮断時に前記電極間に発生するアークに、前記ノズルからガスを吹き付けて消孤する遮断器であって、
前記絶縁物が、請求項1乃至6のいずれか1項記載の耐アーク性絶縁物であることを特徴とする遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−190715(P2012−190715A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54551(P2011−54551)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】