説明

耐チッピング用塗料組成物

【課題】経時による可塑剤の抜けをさらに抑制した耐チッピング用塗料組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の耐チッピング用塗料組成物は、ブロックドウレタン樹脂と、アクリル樹脂と、スズ系及び/又はアミン系触媒とを含有することを特徴とする。スズ系及び/又はアミン系触媒の含有割合は、合計して塗料組成物中0.05〜0.2重量%であることが好ましい。スズ系及び/又はアミン系の硬化触媒を併用することにより、硬化した塗膜の3次元架橋が強固なものとなり、経時による可塑剤の抜けが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の床裏部や、サイドシル、フエールタンク、フロントエプロン、タイヤハウス等には、走行時の飛び石による傷付きからの発錆を防止するため、アンダーコート(耐チッピング用塗料組成物)が塗布されている。この耐チッピング用塗料組成物としては、従来、塩化ビニル樹脂を含有するいわゆるPVCゾルが用いられていた。しかし近年、使用済み車両の焼却廃棄時に塩化水素が発生することなく、またリサイクル時の環境への配慮からアクリルゾルが用いられるようになってきた。例えば、(特許文献1)には、アクリル樹脂を可塑剤によりゾル化してなる耐チッピング用塗料組成物の付着付与成分としてフェノール樹脂を3〜20質量%含むことを特徴とするアクリルゾル系耐チッピング用塗料組成物が開示されている。
【0003】
アクリルゾルは、従来のPVCゾルに比べると汎用可塑剤との相溶性が悪く、硬化条件によっては、市場における熱や水の影響で徐々に可塑剤が塗膜から抜け、可撓性が低下する傾向が大きいことが分かってきた。また、硬化した塗膜が泥等の異物で被覆されると、その被覆物によって可塑剤の抜けが助長され(可塑剤が吸い取られ)、塗膜が異常に硬く脆くなり、飛び石による衝撃や割れや剥がれが起きやすくなる恐れがある。下表に、PVCゾル及びアクリルゾルを塗布した従来の塗膜について、40℃及び80℃の環境中に40〜120日放置した場合の塗膜減少率を示す。表の結果から明らかなように、アクリルゾルの重量減少率が大きく、可塑剤が抜け易いことが示唆される。
【0004】
【表1】

【0005】
一般的なアクリルゾル系耐チッピング用塗料組成物は、基体樹脂としてアクリル樹脂、可塑剤として低分子系可塑剤を用いて構成されている。経時による可塑剤の抜けを防止する場合は、さらに高分子系の可塑剤を添加するか、又は低分子に換えて高分子系可塑剤を含有させている。しかし、このような手法によっても、従来の耐チッピング用塗料組成物の性能はなお不十分であり、さらに経時による可塑剤の抜けを抑制することが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−38077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、経時による可塑剤の抜けをさらに抑制した耐チッピング用塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ブロックドウレタン樹脂及びアクリル樹脂に加え、さらにスズ系及び/又はアミン系の硬化触媒を併用することにより、硬化した塗膜の3次元架橋が強固なものとなり、この結果、経時により可塑剤が抜け難くなることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ブロックドウレタン樹脂と、アクリル樹脂と、スズ系及び/又はアミン系触媒とを含有する耐チッピング用塗料組成物。
(2)スズ系及び/又はアミン系触媒の含有割合が、合計して塗料組成物中0.05〜0.2重量%である前記(1)に記載の耐チッピング用塗料組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スズ系及び/又はアミン系の硬化触媒を併用することによって、硬化した塗膜の3次元架橋が強固なものとなり、経時による可塑剤の抜けが抑制される。また、可塑剤が抜けた場合にも、塗膜の良好な可撓性及び接着性が確保される。これにより、特に低温時の耐チッピング性が維持される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の耐チッピング用塗料組成物は、ブロックドウレタン樹脂と、アクリル樹脂と、スズ系及び/又はアミン系触媒とを含有することを特徴とする。
【0011】
ブロックドウレタン樹脂とは、ポリヒドロキシ化合物と過剰のポリイソシアネート化合物から得られる、分子内に平均1個より多くのイソシアネート基を有するウレタン樹脂をブロック化剤でブロックして得られるウレタン樹脂をいう。このようなブロックドウレタン樹脂として、例えば、ジイソシアネート重合物のオキシベンゾイックエステルもしくはアルキルフェノールブロック体、又はジイソシアネート重合物のヌレート環形成体のいずれか1種又は2種以上の組み合わせ等が好適に用いられる。
【0012】
ジイソシアネート重合物には、特開平7−278257号公報に見られるような、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、及び複素環式のポリイソシアネート、例えば、アニリン/ホルムアルデヒド縮合とその後のホスゲン化によって得られるポリメチレンポリイソシアネート等が挙げられる。カルボジイミド基を含むポリイソシアネート、アロファネート基を含むポリイソシアネート、イソシアヌレート基を含むポリイソシアネート、ウレタン及び/又は尿素基を含むポリイソシアネート、アシル化尿素基を含むポリイソシアネート、ビウレット基を含むポリイソシアネート、テロ重合反応によって生成したポリイソシアネート、エステル基を含むポリイソシアネート、好ましくはウレチジオン基を含むジイソシアネート及び尿素基を含むジイソシアネートも使用可能である。
【0013】
具体的には、p−キシリレンジイソシアネート、1,5−ジイソシアナトメチルナフタレン、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチルベンゼン2,5−ジイソシアネート、1,3−ジメチルベンゼン4,6−ジイソシアネート、1,4−ジメチルベンゼン2,5−ジイソシアネート、1−ニトロベンゼン2,5−ジイソシアネート、1−メトキシベンゼン2,4−ジイソシアネート、1−メトキシベンゼン2,5−ジイソシアネート、1,3−ジメトキシベンゼン4,6−ジイソシアネート、アゾベンゼン4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルジメチルメタン4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン1,5−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルジスルフィド4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン4,4’−ジイソシアネート、1−メチルベンゼン2,4,6−トリイソシアネート、1,3,5−トリメチルベンゼン2,4,6−トリイソシアネート、トリフェニルメタン4,4’,4’’−トリイソシアネート、4,4’−ジイソシアナト−1,2−ジフェニルエタン、二量体1−メチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、二量体1−イソプロピル−2,4−フェニレンジイソシアネート、二量体2,4’−ジイソシアナトジフェニルスルフィド、3,3’−ジイソシアナト−4,4’−ジメチル−N,N’−ジフェニル尿素、3,3’−ジイソシアナト−2,2’−ジメチル−N,N’−ジフェニル尿素、3,3’−ジイソシアナト−2,4’−ジメチル−N,N’−ジフェニル尿素、N,N’−ビス[4(4−イソシアナトフェニルメチル)フェニル]尿素、N,N’−ビス[4(2−イソシアナトフェニルメチル)フェニル]尿素、等が挙げられる。
【0014】
ブロックドウレタン樹脂を得るために使用されるブロック化剤としては、オキシム化合物(アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム等)、ラクタム類(ε−カプロラクタム等)、活性メチレン化合物(マロン酸ジエチル、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等)、フェノール類(フェノール、m−クレゾール等)、アルコール類(メタノール、エタノール、n−ブタノール等)、水酸基含有エーテル(メチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等)、水酸基含有エステル(乳酸メチル、乳酸アミル等)、メルカプタン類(ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン等)、酸アミド類(アセトアニリド、アクリルアマイド、ダイマー酸アミド等)、イミダゾール類(イミダゾール、2−エチルイミダゾール等)、酸イミド類(コハク酸イミド、フタル酸イミド等)、アミン類(ジシクロヘキシルアミン等)及びこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、オキシム化合物、フェノール類及びアミン類が好ましく用いられ、メチルエチルケトオキシム、フェノール及びジシクロヘキシルアミンが特に好ましい。これらの物質は、その解離温度が100℃〜140℃と比較的低いため、耐チッピング用塗料組成物として自動車に適用した場合でも充分に反応が進む。
【0016】
以上のようなブロックドウレタン樹脂は、塗料組成物中、2〜20重量%、特に4〜15重量%の割合で含有させることが好ましい。
【0017】
本発明の塗料組成物には、さらに充填材を含有させることができる。この充填材は、塗料組成物の全重量の5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%の割合で使用することが好ましい。使用量が50重量%を超えると、塗料組成物が硬化した後の塗膜の強度が弱く、耐チッピング用としての防錆機能を果たせなくなる恐れがある。また、5重量%に満たないと、作業性、特に垂れ性が悪化し、規定の塗膜厚みが得られなくなる場合がある。
【0018】
充填材としては、タルク、クレー、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
本発明の塗料組成物に含有させるアクリル樹脂としては、公知のアクリル樹脂粒子を用いることができるが、特にアクリル樹脂コアとこれを被覆するアクリル樹脂シェルとからなるコア/シェル構造を有する粒子が好適に用いられる。
【0020】
アクリル樹脂粒子の平均粒子径は適宜選定されるが、好ましくは0.1〜100μm、特に0.1〜40μmである。
【0021】
コア/シェル構造のコアには炭素数2以上、好ましくは3以上のアルキルアクリレートやヒドロキシアルキルアルキレート、炭素数3以上のアクリルメタクリレートやヒドロキシアルキルメタクリレートの単独重合体、これらの共重合体、さらにこれらの(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレン等との共重合体で形成され、可塑剤と相溶性のあるものが挙げられる。
【0022】
また、シェルにはメチルメタクリレートの単独重合体やメチルメタクリレート単位を80重量%以上含むメチルメタクリレートと上記アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレン等との共重合体で形成した、可塑剤に不相溶のものが挙げられる。
【0023】
以上のようなアクリル樹脂は、塗料組成物中、5〜60重量%、特に10〜50重量%の割合で含有させることが好ましい。
【0024】
そして、本発明の耐チッピング用塗料組成物は、スズ系及び/又はアミン系触媒を含有することを特徴とする。これにより、硬化した塗膜の3次元架橋が強固なものとなり、経時による可塑剤の抜けが抑制される。
【0025】
スズ系触媒としては、スズを含み、硬化触媒として機能する物質であれば適用することができ、例えば、テトラブチルスズ、塩化トリブチルスズ、二塩化ジブチルスズ、三塩化ブチルスズ、塩化スズ、トリブチルスズ−o−フェノレート、トリブチルスズシアネート、オクチル酸スズ、オレイン酸スズ、酒石酸スズ、ジブチルスズビス(2−エチルヘキソエート)、ジベンジルスズビス(2−エチルヘキソエート)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジイソオクチルマレエート、ジブチルスズスルフィド、ジブチルスズジブトキシド、ジブチルスズビス(o−フェニルフェノレート)、ジブチルスズビス(アセチルアセトネート)、ビス(2−エチルヘキシル)スズオキシド等を挙げることができる。
【0026】
また、一般式:X−Sn(R)−O−Sn(R)−X(式中、Rは同一又は異なるアルキル基、Xは同一又は異なるハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基又はアシルオキシ基を示す)で表わされる有機スズ化合物も、イソシアネート基と水又は水酸基との反応において触媒作用を有するので、本発明において好ましく用いることができる。このような有機スズ化合物の例として、テトラ−n−ブチル−1,3−ジアセチルオキシジスタノキサン、テトラ−n−プロピル−1,3−ジアセチルオキシジスタノキサン、テトラ−n−プロピル−1−クロロ−3−ヒドロキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1−クロロ−3−ヒドロキシジスタノキサン、テトラメチル−1,3−ジアセチルオキシジスタノキサン、テトラメチル−1−クロロ−3−アセチルオキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジホルミルオキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジアクリルオキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジオレイルオキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジステアリルオキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジフェニルアセチルオキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジイソシアノジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1−アセチルオキシ−3−ヒドロキシジスタノキサン、テトラ−n−プロピル−1−アセチルオキシ−3−ヒドロキシジスタノキサン、テトラメチル−1−アセチルオキシ−3−ヒドロキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジクロロジスタノキサン、テトラメチル−1,3−ジクロロジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1,3−ジプロポキシジスタノキサン、テトラ−n−プロピル−1,3−ジプロポキシジスタノキサン、テトラ−n−ブチル−1−プロポキシ−3−アセチルオキシジスタノキサン、テトラ−n−プロピル−1−ヒドロキシ−3−エトキシジスタノキサン、1,1−ジブチル−3,3−ジプロピル−1−ヒドロキシ−3−アセチルオキシジスタノキサン、1,3−ジプロピル−1,3−ジブチル−1−クロロ−3−ヒドロキシジスタノキサン等を挙げることができる。これらスズ系触媒は、いずれか1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、アミン系触媒としては、第三級アミンが好ましく、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ−sec−ブチルアミン等の第三級アルキルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トリベンジルアミン等の芳香族アミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等のモルホリン類、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ビス(2−エチルヘキシル)エタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン等のジアミン類及びトリアミン類、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)等が適用可能である。
【0028】
上記のスズ系及び/又はアミン系触媒の含有割合は、特に限定されるものではないが、合計して塗料組成物中0.05〜0.2重量%、特に0.08〜0.15重量%とすることが好ましい。0.05重量%未満であると接着性の発現が不十分で界面破壊となる恐れがあり、0.2重量%を超えると塗料組成物の生産後、保管中に粘度上昇を起こしスプレー性が低下する可能性がある。
【0029】
本発明の塗料組成物には、必要に応じて、さらに公知の汎用可塑剤、例えばフタル酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、リン酸、スルホン酸、オレイン酸、並びにステアリン酸と脂肪族又は芳香族結合したOH基を含む化合物、例えばアルコール又はフェノールとのエステル類等から選ばれるいずれか1種、又は2種以上を適宜組み合わせて含有させることができる。
【0030】
上記エステルの具体例としては、ベンジルブチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−イソノニルフタレート、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、トリクレジルホスフェート、ジフェニルオクチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、アルキル−スルホン酸フェニルエステル等が挙げられる。
【0031】
また、必要に応じて、高分子可塑剤を使用しても良い。この高分子可塑剤の例としては、フタル酸ポリエステル、アジピン酸ポリエステル等が挙げられる。
【0032】
さらに、本発明の塗料組成物には、公知の添加剤、例えば無機難燃剤(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、吸湿剤(酸化カルシウム、ゼオライト、シラン)、着色剤(染料、顔料)、軽量化材(ガラスバルーン、セラミックバルーン、シラスバルーン、樹脂バルーン)、有機発泡剤(アゾジカルボンアミド、4,4’−オキスビスベンゼンスルホニルヒドラジド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ヒドラジンカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル)、加熱膨張性マイクロバルーン、粘度調整剤(界面活性剤、カップリング剤、脂肪族炭化水素)、ADH等のヒドラジン系硬化剤等を使用することができる。
【0033】
上記の可塑剤、及び難燃剤、吸湿剤等の添加剤の含有割合は、特に限定されるものではないが、合計して塗料組成物中50重量%以下とすることが好ましい。
【0034】
本発明の塗料組成物は公知の方法で製造することができる。例えば縦型2軸ミキサー、プラネタリーミキサー、ボールミル、ロールミル、2軸ブレンダー、ニーダー、縦型高速攪拌機等の通常の混合装置を用いて各成分を混合し塗料化することにより得ることができる。
【0035】
本発明の耐チッピング用塗料組成物は、自動車塗装ラインにおいて、従来の塗装装置及び塗装条件を特に変更することなく使用することができる。また、その後の焼き付けも従来の条件に準じて行うことができる。すなわち、通常のエアレススプレー装置にて、所定の膜厚(0.2mm〜2mm)に塗布され、その後の中塗り炉(130〜150℃、15〜40分)、上塗り炉(130〜150℃、15〜40分)による処理を経て加熱され、たれ、亀裂、フクレ、縮み等のない、外観品質に優れた硬化塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらに限定されるものではない。
【0037】
(塗料組成物の調製)
ブロックドウレタン樹脂、アクリル樹脂、スズ系触媒、アミン系触媒、及びその他の添加剤を混合し、耐チッピング用塗料組成物を調製した。従来品、並びに比較例1〜3及び実施例1〜2における各成分の配合割合(重量比)は表Aの通りである。なお、スズ系触媒としてジブチルスズラウレート(略名:DBTDL)、アミン系触媒として1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7(略名:DBU)を用いた。
【0038】
(泥被覆法による重量減少率の測定)
予め重量を測定した75×70mmのED板上に、50×50×2mmの大きさで塗料組成物を塗布した。続いて、130℃×18分の焼き付けを行って試験片を作製し、冷却後の重量を測定した。その後、40メッシュのふるいにかけた土とイオン交換水とを2:8で混ぜ合わせた泥を調製し、この泥8gを塗膜の上全体に塗り広げ、所定の条件下に放置した。放置後、試験片の泥を水道水で良く洗浄し、90℃で30分乾燥させた後に冷却し、試験片の重量を測定した。そして、泥で被覆する前後の試験片の重量変化から塗膜の重量減少率(%)を求めた。
【0039】
(ガソリン浸漬後の重量減少率の測定)
上記と同様のED板上に塗料組成物を塗布した後、130℃×20分の焼き付けを行って試験片を作製した。この試験片を、所定時間ガソリンに浸漬させ、その後にガソリンから取り出し、室温で7日放置した後に重量を測定した。ガソリンに浸漬する前からの試験片重量の変化から、塗膜の重量減少率(%)を求めた。
【0040】
(ガソリン浸漬後の低温衝撃試験)
上記の条件でガソリンに試験片を浸漬させた後、ガソリンから取り出し、低温衝撃試験を行った。低温衝撃試験は、JIS K5600−3−2の6項<デュポン式>に準じ、雰囲気温度−30℃にて行った。
【0041】
低温衝撃試験の評価基準は以下の通りである。なお、本発明は下地からの界面剥離を防ぐことを目的としており、塗膜自体の凝集破壊は許容される。
○ : 試験後も塗膜がEDに接着している。
○△: 塗膜を剥がすとCF(凝集破壊)とAF(EDからの界面剥離)の混在。
△ : 試験後、塗膜は見かけ上EDに付いているが、剥がすとAFになる。
× : 塗膜が剥がれる。
試験結果を、表Aに示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表Aから明らかなように、スズ系触媒又はアミン系触媒を添加した実施例1及び2では、泥被覆法による重量減少率が低く、可塑剤の抜けが抑制された。また、実施例1及び2では、ガソリンに36時間浸漬した後でも塗膜の可撓性が維持され、低温衝撃試験による塗膜剥がれが起きにくいという結果が得られた。
【0044】
(実施例3)
上記実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。ただし塗料組成物中のスズ系触媒の添加量を0.025〜0.25重量%で変化させた。所定の条件で焼き付けを行い、得られた試験片について半円ビード剥離試験を行った。この半円ビード剥離試験では、まず、端部の70×50mmの部分に離型紙を貼り付けた70×150mmの電着塗装板に直径10mmの半円ビードを100mmの長さで塗布する。この時25mmの部分は離型紙の上になるようにした。所定の条件で焼き付けた後に冷却し、離型紙の上の塗料を指でつまんで垂直方向にゆっくり持ち上げ、電着塗装板上の塗料の破壊状態を観察した。また、塗料組成物の貯蔵安定性を評価するため、塗料組成物を35℃で10日間貯蔵し、貯蔵前後における粘度の変化率を求めた。試験結果を表Bに示す。なお、表B中の記号は、以下の状態を表す。
CF:塗膜自体が凝集破壊している。
CF/薄層CF:塗膜の一部が下地に残存する状態であり、AF(界面剥離)に近い状態である。すなわち、可塑剤が抜け、塗膜が硬くなっている。
【0045】
【表3】

【0046】
表Bから明らかなように、触媒の含有割合を塗料組成物中0.05〜0.2重量%とすると、塗膜の剥離がなく、また貯蔵安定性にも優れるため好ましい。なお、含有割合を0.25重量%とした場合に粘度変化率の値が大きくなるが、塗料組成物を調製した後に短時間で使用する場合は、必要な性能(接着性)は得られるため問題なく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックドウレタン樹脂と、アクリル樹脂と、スズ系及び/又はアミン系触媒とを含有する耐チッピング用塗料組成物。
【請求項2】
スズ系及び/又はアミン系触媒の含有割合が、合計して塗料組成物中0.05〜0.2重量%である請求項1に記載の耐チッピング用塗料組成物。

【公開番号】特開2011−127028(P2011−127028A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287851(P2009−287851)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300043303)セメダインヘンケル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】