説明

耐久性のある燃料極およびこの燃料極を組み込んだ固体酸化物形燃料電池

【課題】耐久性のある燃料極およびこの燃料極を組み込んだ酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】ランタンガレード系酸化物イオン伝導体を固体電解質とし、前記固体電解質の一方の面に多孔質の空気極が形成され、他方の面に多孔質の燃料極が成形された固体電解質形燃料電池用発電セルにおいて、前記燃料極の骨格構造をNiに代えてNi−Mn合金またはNi−Mo合金からなる骨格構造を採用することにより、骨格構造の前記合金の凝集が抑制されて、長期間運転してもセル電圧低下率が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐久性のある燃料極およびこの燃料極を組み込んだ固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体酸化物形燃料電池は、純水素ガスを燃料として発電しているが純水素ガスは比較的高価であるために、近年、都市ガス、天然ガス、メタノール、石炭ガスなどを改質して得られた水素ガスを燃料とすることが主流となってきた。この固体酸化物形燃料電池の構造は、一般に、酸化物からなる固体電解質の片面に空気極を積層し、固体電解質のもう一方の片面に燃料極を積層してなる構造を有している発電セルと、この発電セルの空気極の外側に空気極集電体を積層させ、一方、発電セルの燃料極の外側に燃料極集電体を積層させ、前記空気極集電体および燃料極集電体の外側にそれぞれセパレータを積層させた積層構造体を複数積層させた構造を有している。
【0003】
前記発電セルを構成する固体電解質として、ランタンガレート系酸化物イオン伝導体を用いることが知られており、このランタンガレート系酸化物イオン伝導体は、一般式:La1−XSrGa1−Y−ZMg(式中、A=Co、Fe、Ni、Cuの1種または2種以上、X=0.05〜0.3、Y=0〜0.29、Z=0.01〜0.3、Y+Z=0.025〜0.3)で表される酸化物イオン伝導体であることが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、前記発電セルを構成する燃料極は、B(ただし、BはSm、Gd、Y、Caの1種または2種以上)をドープしたセリア(以下、「Bドープセリア」という)とニッケルからなるサーメットからなることが知られており、このBドープセリアは、一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Caの1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表され、このBドープセリアとニッケルからなるサーメットは、ニッケル:Bドープセリア=90:10〜20:80(体積%)の範囲内にある焼結体であり、酸化ニッケル粉末とBドープセリア粉末との混合粉末に有機結合剤を添加したペーストを印刷、乾燥、焼成して作製することが知られている。そして、この燃料極となるサーメットは、発電時に酸化ニッケルは還元されてニッケルとなり、ニッケルからなる多孔質な骨格構造の表面に大粒径のBドープセリア粒が前記多孔質な骨格構造のニッケル表面を取り囲むようにネットワーク構造を形成してニッケル表面に固着しているとされている(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、固体酸化物形燃料電池用発電セルを構成する燃料極として、一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Caの1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープセリアとニッケルとの焼結体からなり、このBドープセリアとニッケルの焼結体におけるBドープセリア粒とニッケル粒の粒径が厚さ方向に変化し、その粒径は固体電解質に近いほど微細にした傾斜粒径を有する構造の燃料極(特許文献3参照)、Bドープしたセリア粒が固体電解質に接する界面およびその近傍の多孔質ニッケルの骨格表面に最も多く固着している構造の燃料極(特許文献4参照)などが知られている。
【特許文献1】特開平11−335164号公報
【特許文献2】特開平11−297333号公報
【特許文献3】特開2004−55194号公報
【特許文献4】特開2006−331798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体酸化物形燃料電池を広く普及させるためには、長期間の運転を行っても発電効率が低下しないことが求められているが、現在使用されている固体酸化物形燃料電池は比較的短期間の使用で電圧が低下するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本発明者らは、長期間の運転を行っても発電効率が低下しない固体酸化物形燃料電池を開発すべく鋭意研究を行った。その結果、
(イ)固体酸化物形燃料電池の発電効率が低下する原因の一つとして、固体酸化物形燃料電池を長期間運転すると、固体酸化物形燃料電池の発電セルを構成する燃料極の多孔質なニッケル骨格構造体のNiがシンタリングによって凝集し、気孔率が低下することにより発電効率が低下すること、
(ロ)前記ニッケル骨格構造体のNiが凝集する別の理由は、都市ガス、天然ガス、メタノール、石炭ガスなどを改質して得られた改質ガスには高温の水蒸気が含有されるため、固体酸化物燃料電池の起動停止を繰り返すとNiの酸化還元が繰り返され、ニッケルの凝集が進み、燃料極の気孔率が低下すること、
(ハ)Niに代えて、Mn:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi合金(以下、Ni−Mn合金という)またはMo:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi合金(Ni−Mo合金と言う)を用いて作製したニッケル合金骨格構造体は、前記従来のニッケル骨格構造体と比べて固体酸化物形燃料電池の発電セルの運転温度である750℃に長期間曝したり、起動停止を繰り返しても粒径の変化が小さく、したがって、前記ニッケル合金骨格構造体とBドープセリアとの焼結体からなる燃料極は凝集が少なくなって気孔率の低下が少なくなり、耐久性が向上すること、などの研究結果が得られたのである。
【0008】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMn:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mn合金のサーメットからなる固体電解質形燃料電池の発電セル用燃料極、
(2)一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMo:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mo合金のサーメットからなる固体電解質形燃料電池の発電セル用燃料極、に特徴を有するものである。
【0009】
前記燃料極を組み込んだ固体酸化物形燃料電池用発電セルもこの発明に含まれる。したがって、この発明は、
(3)ランタンガレード系酸化物イオン伝導体を固体電解質とし、前記固体電解質の一方の面に多孔質の空気極が形成され、他方の面に多孔質の燃料極が成形された固体酸化物形燃料電池用発電セルにおいて、
前記燃料極は、一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMn:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mn合金のサーメットからなる固体電解質形燃料電池の発電セル、
(4)ランタンガレード系酸化物イオン伝導体を固体電解質とし、前記固体電解質の一方の面に多孔質の空気極が形成され、他方の面に多孔質の燃料極が成形された固体酸化物形燃料電池用発電セルにおいて、
前記燃料極は、一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMo:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mo合金のサーメットからなる固体電解質形燃料電池の発電セル、に特徴を有するものである。
【0010】
次に、この発明の燃料極の焼結体に含まれるNi合金の成分組成を上記のごとく限定した理由は、MnまたはMoを1質量%未満含んでも純Niとほぼ同じとなるため、合金(Ni−Mn合金、Ni−Mo合金)の焼結開始温度や耐酸化還元性が純Niのそれと変わらないために凝集を起しやすくなるので好ましくなく、一方、MnまたはMoを20質量%を越えて含むと、耐凝集効果が高くなって劣化率が低減するが、燃料極としての触媒活性が落ちるために発電セルの性能が低下するので好ましくないという理由によるものである。
【0011】
この発明の固体酸化物形燃料電池用発電セルで使用される固体電解質は、既に知られている一般式:La1−XSrGa1−Y−ZMg(式中、A=Co、Fe、Ni、Cuの1種または2種以上、X=0.05〜0.3、Y=0〜0.29、Z=0.01〜0.3、Y+Z=0.025〜0.3)で表される酸化物イオン伝導体であり、また、この発明の固体酸化物形燃料電池用発電セルで使用される燃料極は、Bドープセリアと骨格構造を有する多孔質Ni−Mn合金または多孔質Ni−Mo合金の骨格表面に固着したサーメット(焼結体)からなり、このBドープセリアは一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Caの1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表される酸化物からなる。
【0012】
この発明の固体酸化物形燃料電池の発電セル用燃料極を製造するには、まず、酸化ニッケル粉末と酸化マンガン粉末との混合粉末または酸化ニッケル粉末と酸化モリブデン粉末との混合粉末をそれぞれ作製し、これら混合粉末をそれぞれ焼成して焼成体を作製し、これら焼成体をそれぞれ粉砕してNiとMnの複合酸化物粉末(以下、NiMn複合酸化物粉末という)またはNiとMoの複合酸化物粉末(以下、NiMo複合酸化物粉末という)を作製し、NiMn複合酸化物粉末とBドープセリア粉末を含むスラリーまたはNiMo複合酸化物粉末とBドープセリア粉末を含むスラリーを作製し、このスラリーを基板の表面にスクリーン印刷などの方法により基板に塗布し、大気中、温度:1000〜1200℃で焼成することにより作製する。
【0013】
また、この発明の固体酸化物形燃料電池用発電セルを製造するには、NiMn複合酸化物粉末とBドープセリア粉末を含むスラリーまたはNiMo複合酸化物粉末とBドープセリア粉末を含むスラリーをそれぞれ作製し、このスラリーを固体電解質の一方の面にスクリーン印刷などの方法により塗布し、大気中、温度:1000〜1200℃で焼き付け、その後、固体電解質の他方の面に通常の方法で空気極を形成することにより発電セルを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の燃料極を設けてなる発電セルを組込んだ固体酸化物形燃料電池は、数千〜数万時間に亘って連続運転しても、起動停止を繰り返しても、発電効率を低下させることなく高効率で発電することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施例1
酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化コバルトの粉体を用意し、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)Oで示される組成となるよう秤量し、ボールミル混合の後、空気中、1200℃に3時間加熱保持し、得られた塊状焼結体をハンマーミルで粗粉砕の後、ボールミルで微粉砕して、平均粒径1.8μmのランタンガレート系固体電解質原料粉末を製造した。前記ランタンガレート系固体電解質原料粉末をトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液と混合してスラリーとし、ドクターブレード法で薄板状に成形し、円形に切りだした後、空気中、1450℃に6時間加熱保持して焼結し、厚さ200μm、直径120mmの円板状のランタンガレート系固体電解質板を製造した。
【0016】
さらに、原料粉末として、平均粒径0.5μmのNiO粉末およびMnO粉末を用意し、これら粉末を表1に示される割合となるように配合し混合して混合粉末を作製し、これら混合粉末を空気中、温度:1200℃に6時間加熱保持の条件で焼成を行うことにより焼成体を作製し、この焼成体を粉砕することにより平均粒径:0.5μmのNiMn複合酸化物粉末A〜Gを作製した。
このNiMn複合酸化物粉末A〜Gに対して平均粒径:0.04μmのSmドープセリア(以下、SDCという)の微粉末を表2に示される割合で配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末にトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液を混合してスラリーとし、このスラリーをスクリーン印刷法で、前記ランタンガレート系固体電解質の一方の面に、平均厚さ:20μmになるようにスラリーを塗布し、加熱乾燥して有機バインダー溶液を蒸発させたのち空気中、1200℃に3時間加熱保持の条件で焼結を行うことにより、ランタンガレート系固体電解質板の表面にNiMn複合酸化物とSDCとの焼結体からなる燃料極を形成した。
【0017】
さらに、サマリウムストロンチウムコバルタイト系空気極原料粉をトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液と混合してスラリーを作製し、このスラリーをランタンガレート系固体電解質の燃料極と反対側の他方の面にスクリーン印刷法により厚さ:30μmになるように成形し乾燥したのち、空気中、1100℃に3時間加熱保持して、空気極を成形・焼きつけることにより空気極を形成し、固体電解質、燃料極および空気極からなる本発明固体酸化物形燃料電池用発電セル(以下、本発明発電セルと言う)1〜5および比較固体酸化物形燃料電池用発電セル(以下、比較発電セルと言う)1〜2をそれぞれ複数個製造した。
【0018】
得られた本発明発電セル1〜5および比較発電セル1〜2の燃料極の上にいずれも厚さ1mmの燃料極集電体を積層し、一方、本発明発電セル1〜5および比較発電セル1〜2の空気極の上にいずれも厚さ1.2mmの空気極集電体を積層し、さらに前記燃料極集電体および空気極集電体の上にセパレータを積層することにより本発明固体酸化物形燃料電池1〜10および比較固体酸化物形燃料電池1〜2をそれぞれ複数個作製した。
【0019】
さらに比較のために、原料粉末として、平均粒径0.5μmのNiO粉末を用意し、このNiO粉末に対して平均粒径:0.04μmのSmドープセリア(SDC)の微粉末を表2に示される割合(NiO粉末とSDC粉末が体積比率で60:40)で配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末にトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液を混合してスラリーとし、このスラリーをスクリーン印刷法で、先に作製したランタンガレート系固体電解質の一方の面に、平均厚さ:20μmになるように塗布し、加熱乾燥して有機バインダー溶液を蒸発させたのち空気中、1200℃に3時間加熱保持の条件で焼結を行うことにより、ランタンガレート系固体電解質板の表面にNiOとSDCとの焼結体からなる燃料極を形成し、さらに実施例1と同様にして空気極を形成して従来発電セル1を複数個製造した。この従来発電セル1の片面に燃料極集電体を積層しさらにその上にセパレータを積層し、一方、従来の発電セルの他方の片面に空気極集電体を積層しさらにセパレータを積層することにより従来固体酸化物形燃料電池1を複数個作製した。
【0020】
これら複数個の本発明固体酸化物形燃料電池1〜5、比較固体酸化物形燃料電池1〜2および従来固体酸化物形燃料電池1を、
温度:750℃、
燃料ガス:水素(0.05ppmの硫黄含有)、
燃料ガス流量:0.34L/min、
酸化剤ガス:空気、
酸化剤ガス流量:1.7L/min、
の発電条件で1時間運転するセル検査を行い、その時得られたセル電圧低下率を測定し、その結果をセル検査後のセル電圧低下率として表2に示した。その後、本発明固体酸化物形燃料電池1〜5、比較固体酸化物形燃料電池1〜2および従来固体酸化物形燃料電池1の内の1個を分解し、本発明発電セル1〜5および比較発電セル1〜2の燃料極を構成する骨格構造のNi−Mn合金の成分組成および平均粒径を測定し、さらに従来発電セル1の燃料極を構成する骨格構造のNiの平均粒径を測定し、それらの結果を表2に示した。
【0021】
さらに、本発明固体酸化物形燃料電池1〜5、比較固体酸化物形燃料電池1〜2および従来固体酸化物形燃料電池1について、本発明固体酸化物形燃料電池1〜5、比較固体酸化物形燃料電池1〜2および従来固体酸化物形燃料電池1を先の発電条件で12時間運転したのち12時間停止する運転を40回繰り返し行う起動−停止繰返し運転を行ったのちセル電圧低下率を測定し、その結果を表2に示し、さらに、この起動−停止繰返し運転を行った本発明固体酸化物形燃料電池1〜5および比較固体酸化物形燃料電池1〜2を分解して、燃料極を構成する骨格構造を有するNi−Mn合金の平均粒径を測定し、さらに従来固体酸化物形燃料電池1を分解して従来発電セル1の燃料極を構成する骨格構造を有するNiの平均粒径を測定し、その結果を表2に示した。
さらに、本発明固体酸化物形燃料電池1〜5、比較固体酸化物形燃料電池1〜2および従来固体酸化物形燃料電池1を連続して5000時間運転したのちセル電圧低下率を測定し、その結果を表2に示し、さらにこの5000時間連続運転した本発明固体酸化物形燃料電池1〜5および比較固体酸化物形燃料電池1〜2を分解して燃料極を構成する骨格構造のNi−Mn合金の平均粒径を測定し、さらに従来固体酸化物形燃料電池1を分解して燃料極を構成する骨格構造のNiの平均粒径を測定し、その結果を表2に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1〜2に示される結果から、SmドープされたセリアとMn:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mn合金の焼結体を燃料極とした本発明固体酸化物形燃料電池1〜5は、SmドープされたセリアとNiの焼結体を燃料極とした従来固体酸化物形燃料電池1と比べて、燃料極を構成する骨格構造のNi−Mn合金の凝集が遅く、したがって長期間運転してもセル電圧の低下率が少ないことから耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池を提供することができることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた量のMnを含むNi−Mn合金を骨格構造とする比較固体酸化物形燃料電池1〜2は、Mnの含有率が1質量%未満の場合本発明の効果が期待できず、また、Mnの含有率が20質量%を超える場合は燃料極の触媒活性が低下するので好ましくないことがわかる。
【0025】
実施例2
酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化コバルトの粉体を用意し、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)Oで示される組成となるよう秤量し、ボールミル混合の後、空気中、1200℃に3時間加熱保持し、得られた塊状焼結体をハンマーミルで粗粉砕の後、ボールミルで微粉砕して、平均粒径1.8μmのランタンガレート系固体電解質原料粉末を製造した。前記ランタンガレート系固体電解質原料粉末をトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液と混合してスラリーとし、ドクターブレード法で薄板状に成形し、円形に切りだした後、空気中、1450℃に6時間加熱保持して焼結し、厚さ200μm、直径120mmの円板状のランタンガレート系固体電解質板を製造した。
【0026】
さらに、原料粉末として、平均粒径0.5μmのNiO粉末およびMoO粉末を用意し、これら粉末を表3に示される割合となるように配合し混合して混合粉末を作製し、これら混合粉末を空気中、温度:800℃に6時間加熱保持の条件で焼成を行うことにより焼成体を作製し、この焼成体を粉砕することにより平均粒径:0.5μmのNiMo複合酸化物粉末A〜Gを作製した。
このNiMo複合酸化物粉末A〜Gに対して平均粒径:0.04μmのGdドープセリア(以下、GDCという)の微粉末を表3に示される割合で配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末にトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液と混合してスラリーとし、このスラリーをスクリーン印刷法で、前記ランタンガレート系固体電解質の一方の面に、平均厚さ:20μmになるようにスラリーを塗布し、加熱乾燥して有機バインダー溶液を蒸発させたのち空気中、1200℃に3時間加熱保持の条件で焼結を行うことにより、ランタンガレート系固体電解質板の表面にNiMo複合酸化物とGDCからなる燃料極を形成した。
【0027】
さらに、サマリウムストロンチウムコバルタイト系空気極原料粉をトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液と混合してスラリーを作製し、このスラリーをランタンガレート系固体電解質の燃料極と反対側の他方の面にスクリーン印刷法により厚さ:30μmになるように成形し乾燥したのち、空気中、1100℃に3時間加熱保持して、空気極を成形・焼きつけることにより空気極を形成し、固体電解質、燃料極および空気極からなる本発明固体酸化物形燃料電池用発電セル(以下、本発明発電セルと言う)6〜10および比較固体酸化物形燃料電池用発電セル(以下、比較発電セルと言う)3〜4をそれぞれ複数個製造した。
【0028】
得られた本発明発電セル6〜10および比較発電セル3〜4の燃料極の上にいずれも厚さ1mmの燃料極集電体を積層し、一方、本発明発電セル6〜10および比較発電セル3〜4の空気極の上にいずれも厚さ1.2mmの空気極集電体を積層し、さらに前記燃料極集電体および空気極集電体の上にセパレータを積層することにより本発明固体酸化物形燃料電池6〜10および比較固体酸化物形燃料電池3〜4をそれぞれ複数個作製した。
【0029】
さらに比較のために、原料粉末として、平均粒径0.5μmのNiO粉末を用意し、このNiO粉末に対して平均粒径:0.04μmのGdドープセリア(GDC)を表4に示される割合(NiO粉末とGDC粉末が体積比率で60:40)で配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末にトルエン-エタノール混合溶媒に有機結合剤を溶解した有機バインダー溶液を混合してスラリーとし、このスラリーをスクリーン印刷法で、先に作製したランタンガレート系固体電解質の一方の面に、平均厚さ:20μmになるように塗布し、加熱乾燥して有機バインダー溶液を蒸発させたのち空気中、1200℃に3時間加熱保持の条件で焼結を行うことにより、ランタンガレート系固体電解質板の表面にNiOとGDCとの焼結体からなる燃料極を形成し、さらに実施例2と同様にして空気極を形成して従来発電セル2を複数個製造した。この従来発電セル2の片面に燃料極集電体を積層しさらにその上にセパレータを積層し、一方、従来の発電セルの他方の片面に空気極集電体を積層しさらにセパレータを積層することにより従来固体酸化物形燃料電池2を複数個作製した。
【0030】
これら複数個の本発明固体酸化物形燃料電池6〜10、比較固体酸化物形燃料電池3〜4および従来固体酸化物形燃料電池2を、
温度:750℃、
燃料ガス:水素(0.05ppmの硫黄含有)、
燃料ガス流量:0.34L/min、
酸化剤ガス:空気、
酸化剤ガス流量:1.7L/min、
の発電条件で1時間運転するセル検査を行い、その時得られたセル電圧低下率を測定し、その結果を表4に示した。その後、本発明固体酸化物形燃料電池6〜10、比較固体酸化物形燃料電池3〜4および従来固体酸化物形燃料電池2の内の1個を分解し、本発明発電セル6〜10の燃料極を構成する骨格構造のNi−Mo合金の成分組成および平均粒径を測定し、さらに従来発電セル2の燃料極を構成する骨格構造のNiの平均粒径を測定し、それらの結果を表4に示した。
【0031】
さらに、本発明固体酸化物形燃料電池6〜10、比較固体酸化物形燃料電池3〜4および従来固体酸化物形燃料電池2について、本発明固体酸化物形燃料電池6〜10、比較固体酸化物形燃料電池3〜4および従来固体酸化物形燃料電池2を先の発電条件で12時間運転したのち12時間停止する運転を40回繰り返し行う起動−停止繰返し運転を行った後セル電圧低下率を測定し、その結果を表4に示し、さらに、この起動−停止繰返し運転を行った本発明固体酸化物形燃料電池6〜10、比較固体酸化物形燃料電池3〜4および従来固体酸化物形燃料電池2を分解して、燃料極を構成する骨格構造のNi−Mo合金の平均粒径、並びに従来発電セル2の燃料極を構成する骨格構造のNiの平均粒径を測定し、その結果を表4に示した。
さらに、本発明固体酸化物形燃料電池6〜10、比較固体酸化物形燃料電池3〜4および従来固体酸化物形燃料電池2を5000時間連続運転したのちセル電圧低下率を測定し、その結果を表4に示し、さらに、この5000時間連続運転した本発明固体酸化物形燃料電池6〜10および比較固体酸化物形燃料電池3〜4を分解して燃料極を構成する骨格構造のNi−Mo合金の平均結晶粒径を測定し、さらに従来固体酸化物形燃料電池2を分解して燃料極を構成する骨格構造のNiの平均粒径を測定し、その結果を表4に示した。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
表3〜4に示される結果から、GdドープされたセリアとMo:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi合金の焼結体を燃料極とした本発明固体酸化物形燃料電池6〜10は、GdドープされたセリアとNiの焼結体を燃料極とした従来固体酸化物形燃料電池1と比べて、燃料極を構成する骨格構造のNi−Mo合金の凝集が遅く、したがって長期間運転してもセル電圧の低下率が少ないことから耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池を提供することができることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた量のMoを含むNi−Mo合金を骨格構造とする比較固体酸化物形燃料電池3〜4は、Moの含有率が1質量%未満の場合本発明の効果が期待できず、また、Moの含有率が20質量%を超える場合は燃料極の触媒活性が低下するので好ましくないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMn:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mn合金のサーメットからなることを特徴とする固体電解質形燃料電池用燃料極。
【請求項2】
一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMo:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mo合金のサーメットからなることを特徴とする固体電解質形燃料電池用燃料極。
【請求項3】
ランタンガレード系酸化物イオン伝導体を固体電解質とし、前記固体電解質の一方の面に多孔質の空気極が形成され、他方の面に多孔質の燃料極が成形された固体酸化物形燃料電池用発電セルにおいて、
前記燃料極は、一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMn:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mn合金のサーメットからなることを特徴とする固体電解質形燃料電池の発電セル。
【請求項4】
ランタンガレード系酸化物イオン伝導体を固体電解質とし、前記固体電解質の一方の面に多孔質の空気極が形成され、他方の面に多孔質の燃料極が成形された固体酸化物形燃料電池用発電セルにおいて、
前記燃料極は、一般式:Ce1−m(式中、BはSm、Gd、Y、Ca内の1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるBドープされたセリアとMo:1〜20質量%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるNi−Mo合金のサーメットからなることを特徴とする固体電解質形燃料電池の発電セル。
【請求項5】
請求項3または4記載の固体電解質形燃料電池用発電セルを組み込んだことを特徴とする固体電解質形燃料電池。

【公開番号】特開2010−232135(P2010−232135A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81177(P2009−81177)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】