説明

耐久試験装置

【課題】 アクチュエータの駆動により移動する移動部材を備えた供試体に対して振動を付与するときに、ハンチング現象の発生を防止しながら、振動付与部材の追従性を向上させることが可能な耐久試験装置を提供する。
【解決手段】 モータ21の駆動により移動するロッド22を備えた供試体20に対して振動を付与することにより耐久試験を行う耐久試験装置30は、供試体20におけるロッド22を連続して押圧および牽引することにより振動を付与する油圧シリンダ31と、剛性が、供試体20の剛性より低く、かつ、油圧シリンダ31のシリンダロッド32がロッド22を押圧するときと牽引するときにおいて同一である弾性機構40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、供試体に対して振動を付与することにより耐久試験を行う耐久試験装置に関し、特に、アクチュエータの駆動により移動する移動部材を備えた供試体に対して耐久試験を行う耐久試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
供試体に対して油圧シリンダ等を利用して振動を付与することにより供試体を加振し、これにより供試体の耐久力を試験する耐久試験装置は、例えば、車両の耐久試験等において利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような耐久試験装置におけるサーボ制御機構は、供試体に対する負荷の大きさや供試体の変位量を常に測定しており、その目標値とフィードバック信号との差(偏差)に対して所定の制御ゲインを乗算したものを制御信号として、油圧シリンダ等のアクチュエータを制御している。
【0004】
ここで、供試体が試験片であったり、応力が付与されることにより変形する受動部品であった場合には、フィードバック制御に利用される制御ゲインは、供試体の剛性に大きく依存する。すなわち、供試体の剛性が高い場合には、アクチュエータは少ないストローク量で大きな荷重が発生することになるため、制御ゲインを小さく設定する必要がある。これに対して、供試体の剛性が低い場合には、荷重を発生させるために必要となるアクチュエータのストロークが大きくなることから、制御ゲインを大きく設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−303893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の耐久試験装置は、車両等の静止した供試体を対象としている。これに対して、供試体に対してモータ等のアクチュエータを搭載し、供試体がアクチュエータによる駆動を実行した状態で耐久性を評価する必要がある場合も生ずる。図4は、アクチュエータによる駆動を実行した供試体72に対して耐久性を評価する耐久試験装置の実施形態を示す概要図である。これらの耐久試験装置は、アクチュエータにより伸縮する移動部材73を備えた供試体72に対して耐久試験を行うためのものである。なお、この供試体72は、ベース71上に固定されている。
【0007】
図4(a)に示す耐久試験装置は、供試体72における移動部材73に対して、重錘82をワイヤー81を介して接続した構成を有する。この耐久試験装置においては、供試体72における移動部材73を往復運動させることにより、この移動部材73に対して、常に一定の引っ張り荷重を負荷した状態で、耐久試験を実行することが可能となる。
【0008】
図4(b)に示す耐久試験装置は、油圧シリンダ83におけるシリンダロッド84を、ロードセル等の荷重検出器85を介して供試体72における移動部材73に接続した構成を有する。この耐久試験装置においては、供試体72における移動部材73を往復運動させるとともに、油圧シリンダ83内の圧力をリリーフ弁などを使用して一定圧力に保つことにより、一定負荷を付与した状態での耐久性試験を実行することが可能となる。
【0009】
図4(c)に示す耐久試験装置は、バネ86に接続されたロッド87を、ロードセル等の荷重検出器85を介して供試体72における移動部材73に接続した構成を有する。この耐久試験装置においては、移動部材73のストローク量に比例した負荷を供試体72に付与することが可能となる。
【0010】
ところで、例えば図4(b)に示す耐久試験装置にサーボバルブのような制御弁を取り付け、アクチュエータにより駆動された供試体72に対して振動を付与することにより、耐久性を評価する耐久試験を実行する場合においては、供試体72における移動部材73の移動ストロークに併せて耐久試験装置における油圧シリンダ83のシリンダロッド84を移動させながら、供試体72に対して荷重を発生させる必要が生ずる。このような場合においては、供試体72の剛性が高い場合においても、供試体72における移動部材73の移動ストロークが大きい場合には、油圧シリンダ83のシリンダロッド84も大きなストロークで移動させる必要が生ずることから、上述した、供試体の剛性が高い場合に制御ゲインを小さく設定するという関係が成り立たなくなる。
【0011】
このような場合においては、通常のサーボ制御を行う場合に、剛性の高い供試体における移動部材を移動させながら、耐久試験装置の油圧シリンダ83を利用して荷重制御を実行しようとすると、耐久試験装置の油圧シリンダ83がこれに追従することができず、供試体におけるアクチュエータが過負荷状態になってしまう場合がある。また、耐久試験装置における油圧シリンダ83の追従性を向上させるために制御ゲインを大きくすると、ハンチング現象を発生するという問題がある。
【0012】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、アクチュエータの駆動により移動する移動部材を備えた供試体に対して振動を付与するときに、ハンチング現象の発生を防止しながら、振動付与部材の追従性を向上させることが可能な耐久試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、アクチュエータの駆動により移動する移動部材を備えた供試体に対して振動を付与することにより耐久試験を行う耐久試験装置であって、前記供試体における移動部材を連続して押圧および牽引することにより、当該移動部材に対して振動を付与する振動付与部材と、前記供試体における移動部材と前記振動付与部材との間に配設されるとともに、剛性が、前記供試体の剛性より低く、かつ、前記振動付与部材が前記移動部材を押圧するときと牽引するときにおいて同一である弾性機構とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記弾性機構は、その両端が前記移動部材または前記振動付与部材の一方に接続されるとともに、その中央部が前記移動部材または前記振動付与部材の他方に接続された弾性部材を備える。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記弾性部材は、板状または棒状の形状を有する金属から構成される。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記弾性部材の両端は、前記移動部材または前記振動付与部材の一方に対して、揺動可能な状態で接続される。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明において、前記振動付与部材は、油圧シリンダである。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明において、前記供試体におけるアクチュエータは、モータである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1乃至請求項6に記載の発明によれば、アクチュエータの駆動により移動する移動部材を備えた供試体に対して振動を付与することにより耐久試験を行う耐久試験装置において、ハンチング現象の発生を防止しながら、振動付与部材の制御ゲインを大きく設定することができる。このため、振動付与部材の追従性を向上させた状態で耐久性試験を実行することが可能となる。
【0020】
ここで、請求項2乃至請求項4に記載の発明によれば、簡易かつ耐久性を有する構成でありながら、振動付与部材が移動部材を押圧するときの剛性と牽引するときの剛性とを同一とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係る耐久試験装置の概要図である。
【図2】弾性機構40を、供試体20のロッド22および油圧シリンダ31のシリンダロッド32等と共に示す図である。
【図3】板バネ41の平面図である。
【図4】アクチュエータによる駆動を実行した供試体72に対して耐久性を評価する耐久試験装置の実施形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る耐久試験装置の概要図である。
【0023】
この耐久試験装置は、ベース11上に固定された供試体20に対して耐久試験を実行するものである。なお、この供試体20としては、アクチュエータとしてのモータ21を備え、移動部材としてのロッド22を所定ストロークで往復移動させる構成を有する。このような供試体は、産業用ロボットや、輸送機の操舵装置、あるいは、パワーアシスト装置等に使用される。
【0024】
この発明に係る耐久試験装置30は、供試体20に対する振動付与部材としての油圧シリンダ31を備える。この油圧シリンダ31のシリンダロッド32は、ロードセル12、および、この発明の特徴部分である弾性機構40を介して、供試体20のロッド22と接続されている。また、この耐久試験装置30は、シリンダロッド32の往復移動を制御するための制御弁33と、シリンダロッド32の移動ストロークを検出するためのストローク検出器35とを備える。
【0025】
図2は、弾性機構40を、供試体20のロッド22および油圧シリンダ31のシリンダロッド32等と共に示す図である。ここで、図2(a)は弾性機構40の平面図であり、図2(b)はその側面図である。
【0026】
この弾性機構40は、この発明に係る弾性部材としての板バネ41を備える。この板バネ41の両端部は、各々、取付具44と押さえ板42とにより挟持された状態で3本のネジ43により固定されている。また、一対の取付具44は、ベアリング45を介してベアリングホルダー46に回動自在に取り付けられている。そして、ベアリングホルダー46はベース板47に取り付けられており、このベース板47は油圧シリンダ31のシリンダロッド32の先端部に、ロードセル12を介して接続されている。また、板バネ41の中央部は、フランジ23を介して、供試体20のロッド22と接続されている。
【0027】
図3は、板バネ41の平面図である。
【0028】
この板バネ41は、板状の形状を有する金属から構成される。この板バネ41の両端部には、取付具44との接続を可能とするための孔部49が形成されており、板バネ41の中央部には、フランジ23との接続を可能とするための孔部48が形成されている。なお、この板バネ41のかわりに、適度の剛性(弾性力)を有する金属丸棒または金属角柱等からなる棒状の弾性部材を使用してもよい。
【0029】
また、この実施形態においては、板バネ41の両端部を油圧シリンダ31のシリンダロッド32に連結する取付具44に接続するとともに、板バネ41の中央部を供試体20のロッド22に連結するフランジ23に接続しているが、これとは逆に、板バネ41の両端部を供試体20のロッド22側に接続するとともに、板バネ41の中央部を油圧シリンダ31のシリンダロッド32に接続するようにしてもよい。
【0030】
なお、この板バネ41は、取付具44およびフランジ23に対して、着脱自在となっている。このため、供試体20に付与する荷重の大きさや荷重の変化速度等に対応して複数個の板バネを準備しておき、これらの板バネのうちから適切な板バネを選択して使用することが可能となる。
【0031】
この弾性機構40においては、油圧シリンダ31のシリンダロッド32と供試体20のロッド22との距離が変化した場合には、その変化量に応じて板バネ41が撓むことになる。このとき、板バネ41の両端部を支持する取付具44は、ベアリング45の作用により回動自在となっている。このため、板バネ41に撓みが発生した場合には、板バネ41の両端部は、取付具44の回動に伴って揺動する。すなわち、この板バネ41は、油圧シリンダ31のシリンダロッド32に対して、ロードセル12等を介して、揺動可能な状態で接続されていることになる。このような構成を有する弾性機構40においては、その剛性は、油圧シリンダ31のシリンダロッド32が供試体20のロッド22を押圧するときと牽引するときにおいて同一となっている。
【0032】
以上のような構成を有する耐久試験装置において供試体20の耐久試験を実行するときに、供試体20のモータ21を位置保持制御してロッド22を固定した状態で、油圧シリンダ31のシリンダロッド32を往復移動させることにより、ロッド22を連続して押圧および牽引して供試体20に振動を付与した場合には、供試体20は油圧シリンダ31による負荷力により変形する。これにより、通常の耐久試験装置の場合と同様に耐久試験を行うことができる。
【0033】
一方、供試体20のロッド22を往復移動させながら耐久試験を行う場合においては、供試体20のロッド22の往復運動に対応させて、油圧シリンダ31のシリンダロッド32も往復移動させた状態で耐久試験を行う必要がある。この場合には、供試体20の機械的剛性が高い場合等においては、上述したように、油圧シリンダ31のシリンダロッド32の移動が供試体20のロッド22の往復移動速度に追従することができず、供試体20におけるモータ21が過負荷となってしまう場合がある。また、これに対応するために、油圧シリンダ31を制御するための制御ゲインを大きくすると、ハンチング現象が発生して制御が不安定となる。
【0034】
しかしながら、この発明に係る耐久試験装置においては、油圧シリンダ31のシリンダロッド32と供試体20のロッド22との間に、弾性機構40が介在していることから、制御ゲインを大きく設定した場合においても、ハンチング現象の発生を防止することが可能となる。
【0035】
すなわち、上述した耐久試験装置において、供試体20の剛性をK1とし、弾性機構40の剛性をK2とした場合に、耐久試験装置における油圧シリンダ31から見た負荷系全体の剛性Kは、下記の式(1)で表される。
【0036】
K=K1×K2/(K1+K2) ・・・ (1)
【0037】
ここで、弾性機構40の剛性K2を供試体20の剛性K1に対して1/10〜1/100というような低い値に設定した場合には、負荷系全体の剛性Kは弾性機構40の剛性K2に近い値となり、負荷系全体の剛性Kを小さな値とすることができる。これにより、耐久試験装置における油圧シリンダ31の制御ゲインを大きな値に設定した場合においても、ハンチング現象の発生を防止することができる。従って、供試体20におけるモータ21のロッド22の往復移動に対する追従性を向上させながら、制御の安定性を得ることが可能となる。
【0038】
なお、上述した供試体20の剛性K1とは、供試体20全体の機械的な剛性であり、アクチュエータとしてのモータ21と、このモータ21により往復移動するロッド22とを含む供試体20の見かけ上の剛性を意味する。
【0039】
一方、弾性機構40の剛性K2は、板バネ41の幅をb、板バネ41の厚さをt、板バネ41の長さをL、板バネ41の素材のヤング率をEとした場合、下記の式(2)で表される。
【0040】
K2=4Ebt/L ・・・ (2)
【0041】
この弾性機構40の剛性K2は、低いほど制御の安定性を得ることはできるが、これを過度に低くすると、供試体20に必要な負荷を付与するために必要な油圧シリンダ31のストローク量が増えてしまうという問題が生ずる。
【0042】
ここで、所定の荷重Pを付与したときの板バネ41の変形量dは、下記の式(3)で表される。
【0043】
d=P/K2 ・・・ (3)
【0044】
耐久試験装置における油圧シリンダ31のストローク速度は、装置ごとに決まっている。このため、上記変形量dと必要な荷重速度とに基づいて弾性機構40の剛性を決定する必要がある。
【0045】
なお、上述した実施形態においては、供試体20におけるアクチュエータとしてのモータ21の駆動により、移動部材としてのロッド22を所定ストロークで往復移動させながら耐久試験を行っている。しかしながら、アクチュエータの駆動による移動部材の移動は、必ずしも往復運動である必要はない。すなわち、一方向にのみ移動する移動部材を有する供試体に対して振動を付与することにより耐久試験を行う耐久試験装置に、この発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
11 ベース
12 ロードセル
20 供試体
21 モータ
22 ロッド
30 耐久試験装置
31 油圧シリンダ
32 シリンダロッド
33 制御弁
35 ストローク検出器
40 弾性機構
41 板バネ
42 押さえ板
43 ネジ
44 取付具
45 ベアリング
46 ベアリングホルダー
47 ベース板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの駆動により移動する移動部材を備えた供試体に対して振動を付与することにより、耐久試験を行う耐久試験装置であって、
前記供試体における移動部材を連続して押圧および牽引することにより、当該移動部材に対して振動を付与する振動付与部材と、
前記供試体における移動部材と前記振動付与部材との間に配設されるとともに、剛性が、前記供試体の剛性より低く、かつ、前記振動付与部材が前記移動部材を押圧するときと牽引するときにおいて同一である弾性機構と、
を備えたことを特徴とする耐久試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の耐久試験装置において、
前記弾性機構は、その両端が前記移動部材または前記振動付与部材の一方に接続されるとともに、その中央部が前記移動部材または前記振動付与部材の他方に接続された弾性部材を備える耐久試験装置。
【請求項3】
請求項2に記載の耐久試験装置において、
前記弾性部材は、板状または棒状の形状を有する金属から構成される耐久試験装置。
【請求項4】
請求項3に記載の耐久試験装置において、
前記弾性部材の両端は、前記移動部材または前記振動付与部材の一方に対して、揺動可能な状態で接続される耐久試験装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の耐久試験装置において、
前記振動付与部材は、油圧シリンダである耐久試験装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の耐久試験装置において、
前記供試体におけるアクチュエータは、モータである耐久試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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