説明

耐光性DNAインキ

【課題】 印刷面の皮膜を保護するために、紫外線吸収剤を混合したオーバープリントニスにより被覆する等の工程が増加することなく、また、紫外線によるダメージ分を想定して、その分を上乗せしてDNAの添加量を増やすこともなく、耐光性に優れたDNAインキを提供する。
【解決手段】 DNAを含むインキにおいて、インキに紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合して成る、耐光性DNAインキ。また、DNAを含むインキに、紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合する割合が、0.1〜20%の割合で混合して成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性に優れたDNAインキに関するものである。特に、耐紫外線曝露に優れた耐光性に優れたDNAインキを提供する。
【背景技術】
【0002】
従来より、偽造防止、真偽判別等にDNAインキが用いられているが、DNAインキは、紫外線によりダメージを受けやすいことが問題となっている。それは、DNA内部の核酸基チミンが270nmの紫外線を吸収することが主要因によるものとされている。単に紫外線の吸収が問題となるのではなく、紫外線の吸収によりDNAの構造変化が生じることが問題となっており、DNAインキの耐光性の向上が図れる手法が求められていた。
【0003】
そこで、DNAインキで印刷された印刷物等には、印刷面の皮膜を保護するために、紫外線吸収剤を混合したオーバープリントニス(以下「OPニス」という。)で被覆することが行われている。また、DNAインキには、紫外線によるダメージ分を想定して、その分を上乗せした量のDNAを添加していた。
【0004】
しかし、オーバープリントをするために工程が増加し、更に、印刷物等の印刷面の皮膜をOPニスでオーバープリントして保護しているので、例えば、印刷物等の真偽を判別するために、印刷物等からDNAを抽出する際にDNAの抽出量が減少する、また、OPニスを用いているので印刷物が黄色味を帯びるという問題があった。
【0005】
更に、紫外線によるダメージ分を想定して、その分のDNAの添加量を増やしているためコストが高くなるという問題があった。
【0006】
DNAインキの信頼性向上について検証を行った報告では、DNAインキで印刷した物品認証ラベルの印刷物の日光曝露試験中間結果が報告されている。この報告の試験項目に、印刷物に紫外線吸収剤ZnOのOPニスをコーティングオーバプリントし、日光曝露することが記載されている。
【0007】
ZnOは紫外線散乱能と吸収能を併せ持つ粒子であるが、ZnOのOPニスで印刷物をコーティングによりオーバープリントした場合、この報告の中にはZnOの粒子の大きさの記載がないが、ZnOの粒径により表面の仕上がりに影響し、紫外線カット効果は充分とはいえない。また、日光曝露の条件が記載されておらず、どの程度の耐光性が得られているのかが不明である(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】日本印刷学会秋季研究発表会講演予稿集 Vol.111th,Page56-59 (2003.11.06) (59頁、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、DNAインキで印刷された印刷物等の印刷面の皮膜を保護するためのオーバープリントをしないので、工程が増加することなく、また、DNAの添加量も増やすことなく、耐光性に優れたDNAインキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は今般、DNAインキに紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合することで、DNAインキの耐光性が向上するとの知見を得た。本発明は、係る知見によるものである。
すなわち、本発明の耐光性に優れたDNAインキは、DNAを含むインキにおいて、インキに紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合して成るものである。
また、DNAを含むインキに、紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合する割合が、0.1〜20%の割合で混合して成るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、DNAインキに耐光性向上剤として紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合することにより、耐光性に優れたDNAインキが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
紫外線吸収剤は、高エネルギーをもつ紫外線を吸収し、無害のエネルギーに転換し、再輻射することによって紫外線遮蔽効果をもたらし、耐光性や耐候性を向上させるもので、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などが挙げられる。また、紫外線散乱剤は、紫外線を散乱させることによって紫外線遮蔽効果をもたらす材料であり、主に金属酸化物粉末などの無機系材料が用いられ、二酸化チタン、酸化亜鉛などを微粒子化した粉体などが挙げられる。また、光安定剤としては、ヒンダードアミン系のような、耐光性や耐候性を向上させるものが挙げられる。本発明においては、これらの紫外線遮蔽材料は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの紫外線遮蔽材料の添加量は、0.1〜20重量%で、好ましくは1〜10重量%であり、2種以上を組み合わせて用いる場合は、全体の添加量がこの範囲を超えないものとする。
【0012】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。本実施例に用いるDNAインキの作製方法の実施例について説明する。
【0013】
1 DNAインキの作製
本実施例に用いられるDNAとしては、市販のもので良く、本実施例においては、タカラバイオ社製のラットの遺伝子断片(塩基鎖長300)をICAN法により増幅したものを用いた。
【0014】
また、インキに配合する紫外線吸収剤としては、市販のもので良く、インキの耐光性を向上させるために付与するものであり、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系が挙げられる。本実施例においては、ベンゾトリアゾール系のチヌビン328(チバ・ガイギー社製:商標名)を用いた。紫外線吸収剤の添加量は、0.1〜20重量%で、好ましくは1〜10重量%である。
【0015】
また、インキに配合する光安定剤としては、ヒンダードアミン系が挙げられる。本実施例においては、ヒンダードアミン系のチヌビン123(チバ・ガイギー社製:商標名)を用いた。光安定剤の添加量は、0.1〜20重量%で、好ましくは1〜10重量%である。
【0016】
また、インキに配合する紫外線散乱剤としては、酸化チタンを用いても良好な結果を得ることができた。この場合の酸化チタンの添加量は、0.1〜20重量%で、好ましくは1〜10重量%である。
【0017】
また、インキに配合する紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤を少なくとも1つ以上混合しても良好な結果を得ることができた。この場合の紫外線吸収剤、光安定剤及び/又は紫外線散乱剤の添加量は、総量で0.1〜20重量%で、好ましくは1〜10重量%である。
【0018】
印刷技術としては、本実施例ではオフセット用インキを用いてオフセット印刷をしているが、一般に公知の印刷技術が適用できる。
【0019】
表1に紫外線吸収剤を含むDNAインキ1の組成を示す。オフセット用インキは市販のものでよい。
【0020】
【表1】

上記材料をフーバーマーラーにて混合し、紫外線吸収剤を含むDNAインキ1を作製した。このDNAインキ1を用いてオフセット印刷を行い、印刷物1を得た。
なお、本実施例では上記材料を混合してインキを作製しているが、紫外線吸収剤を含ませる方法はこれに限定することはなく、練合や攪拌等のどのような方法でもインキに紫外線吸収剤を含ませれば良い。
【0021】
次に、比較用として、紫外線吸収剤を含まない比較用DNAインキ2を作製する。表2に、比較用DNAインキ2の組成を示す。
【0022】
【表2】

上記材料をフーバーマーラーにて混合し、比較用DNAインキ2を作製した。この比較用DNAインキ2を用いて同様にオフセット印刷を行い、比較用印刷物2を得た。
【0023】
さらに、光安定剤を含むDNAインキ3を作製する。表3に、光安定剤を含むDNAインキ3の組成を示す。
【0024】
【表3】

上記材料をフーバーマーラーにて混合し、DNAインキ3を作製した。このDNAインキ3を用いて同様にオフセット印刷により印刷物3を得た。
【0025】
さらに、紫外線吸収剤及び光安定剤を含むDNAインキ4を作製する。表4に、紫外線吸収剤及び光安定剤を含むDNAインキ4の組成を示す。
【0026】
【表4】

上記材料をフーバーマーラーにて混合し、DNAインキ4を作製した。このDNAインキ4を用いて同様にオフセット印刷により印刷物4を得た。
【0027】
2.印刷物の耐光性試験
得られた印刷物1、比較用印刷物2、印刷物3及び印刷物4について、それぞれの印刷物に、JIS−K 7360-2(プラスチック-実験室光源による曝露試験方法 第2部:キセノンアーク光源)に準じて、相対湿度50%、ブラックパネル温度63℃、紫外線放射照度180W/mの条件下で1時間〜40時間の紫外線の照射を行い、耐光性試験を行った。このときの放射露光量は620J/m〜25670J/mであった。
【0028】
3.印刷物からのDNAの確認
耐光性試験を行った印刷物1、比較用印刷物2、印刷物3及び印刷物4を、5mmφに打ち抜き、非イオン性の界面活性剤とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水塩(EDTA)を使用して抽出を行った。この抽出物をインキに混合したDNAに対応する所定のプライマーを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)による増幅反応を行い、DNAの増幅を行った。得られたPCR産物、分子量マーカー、及びDNAに対して電気泳動を行い、エチジウムプロミド染色液を用いて染色し、紫外線下でゲルを観察し、電気泳動パターンを得た。図1に印刷物1の電気泳動パターンを示す。
【0029】
図1のレーン1及びレーン8は分子量マーカー、レーン2はDNA、レーン3は紫外線照射を行わないときの印刷物1からの抽出物のPCR産物、レーン4は紫外線を1時間照射した後の印刷物1からの抽出物のPCR産物、レーン5は紫外線を10時間照射した後の印刷物1からの抽出物のPCR産物、レーン6は紫外線を20時間照射した後の印刷物1からの抽出物のPCR産物、レーン7は紫外線を40時間照射した後の印刷物1からの抽出物のPCR産物である。
【0030】
この図から、印刷物1から抽出したPCR産物の電気泳動パターンはDNAの電気泳動パターンと同一であることが分かる。さらに、レーン1及びレーン8の分子量マーカーを参照に用いると、前記印刷物1からの抽出物のPCR産物のDNA鎖長が、インキに混入したDNAと同じ、塩基鎖長300であることが分かる。
【0031】
図2に比較用印刷物2の電気泳動パターンを示す。
図2のレーン9及びレーン16は分子量マーカー、レーン10はDNA、レーン11は紫外線照射を行わないときの比較用印刷物2からの抽出物のPCR産物、レーン12は紫外線を1時間照射した後の比較用印刷物2からの抽出物のPCR産物、レーン13は紫外線を10時間照射した後の比較用印刷物2からの抽出物のPCR産物、レーン14は紫外線を20時間照射した後の比較用印刷物2からの抽出物のPCR産物、レーン15は紫外線を40時間照射した後の比較用印刷物2からの抽出物のPCR産物である。
【0032】
比較用印刷物2についても、得られたPCR産物の電気泳動パターンがDNAの電気泳動パターンと同一であることを確認した。さらに、分子量マーカーを参照に用いることで、比較用印刷物2からの抽出物のPCR産物のDNA鎖長が、インキに混入したDNAと同じ塩基鎖長300であることが確認された。
【0033】
図3に印刷物3の電気泳動パターンを示す。
図3のレーン17及びレーン24は分子量マーカー、レーン18はDNA、レーン19は紫外線照射を行わないときの印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン20は紫外線を1時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン21は紫外線を10時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン22は紫外線を20時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン23は紫外線を40時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物である。
【0034】
印刷物3についても、得られたPCR産物の電気泳動パターンがDNAの電気泳動パターンと同一であることを確認した。さらに、分子量マーカーを参照に用いることで、印刷物3からの抽出物のPCR産物のDNA鎖長が、インキに混入したDNAと同じ塩基鎖長300であることが確認された。
【0035】
図4に印刷物4の電気泳動パターンを示す。
図4のレーン25及びレーン32は分子量マーカー、レーン26はDNA、レーン27は紫外線照射を行わないときの印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン28は紫外線を1時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン29は紫外線を10時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン30は紫外線を20時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物、レーン31は紫外線を40時間照射した後の印刷物3からの抽出物のPCR産物である。
【0036】
印刷物4についても、得られたPCR産物の電気泳動パターンがDNAの電気泳動パターンと同一であることを確認した。さらに、分子量マーカーを参照に用いることで、印刷物4からの抽出物のPCR産物のDNA鎖長が、インキに混入したDNAと同じ塩基鎖長300であることが確認された。
【0037】
図1、図2、図3及び図4に示した電気泳動パターンから、PCR産物のDNAのバンド濃度を目視で比較することで、印刷物からの抽出物のPCR増幅が可能であるかを比較した結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

○:増幅できた、×:増幅できない
【0039】
表5に示すように、本発明の実施例において、DNAの耐光性を飛躍的に増大させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例における印刷物のDNAの電気泳動パターンである。
【図2】実施例における比較用印刷物のDNAの電気泳動パターンである。
【図3】実施例における印刷物3のDNAの電気泳動パターンである。
【図4】実施例における印刷物4のDNAの電気泳動パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAを含むインキにおいて、前記インキに紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合して成る、耐光性DNAインキ。
【請求項2】
前記DNAを含むインキに、紫外線吸収剤、光安定剤、紫外線散乱剤の少なくとも1つ以上を混合する割合が、0.1〜20%の割合で混合して成る、請求項1記載の耐光性DNAインキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−22300(P2006−22300A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360884(P2004−360884)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】