説明

耐吸湿性無機鉱物粉および湿気硬化型樹脂組成物、並びに耐吸湿性無機鉱物粉の表面処理方法

【課題】工業製品用フィラーとして用いられる従来の粉砕製品、乾燥処理製品より、水分含有率が低く、吸湿性の少ない耐吸湿性無機鉱物粉を提供するものである。
【解決手段】平均粒径が30μm以下の炭酸カルシウムなどの無機フィラーをミキサーで攪拌して、この時発生する攪拌熱により無機フィラーを加熱乾燥させた状態で、グリコール類を0.1〜3.0重量%添加してから、更に攪拌することにより、水分含有量が低く、乾燥後の吸湿性が少ない耐吸湿性無機鉱物粉を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業製品用フィラーとして用いる耐吸湿性無機鉱物粉および、これを樹脂に混合した湿気硬化型樹脂組成物、並びに耐吸湿性無機鉱物粉の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムなどの無機鉱物粉は、接着剤や、シーリング剤、コーティング剤、塗料などの湿気硬化型工業製品のフィラーとして多く利用されている。無機鉱物粉は製粉メーカーで原料を細かく粉砕して所望の粒子径に調整して出荷されるが、通常、製造直後の水分含有量は3000ppm程度あり、これを容器に包装して、運搬、保管中に更に湿度を吸収する。このように湿気を吸収した無機鉱物粉を湿気硬化型製品のフィラーとして使用すると、密閉した容器内で徐々にフィラーから湿気が供給され、時間の経過に伴って湿気硬化型製品が容器中で増粘し、場合によっては硬化してしまう問題がある。
【0003】
このため従来は湿気硬化型製品メーカーで製品を製造する直前に加熱によって無機鉱物粉の水分を除去してから、湿気硬化型製品に使用することが行なわれている。しかし、湿気硬化型製品メーカーではこの乾燥作業工程が追加されるため、工場の設備や人手を必要とし、また乾燥後の無機鉱物粉を放置しておくと再度吸湿してしまうため、長期保存性がないことから製品の生産計画に影響を及ぼすことがあった。このような事情から、製粉メーカーで出荷する段階で、あらかじめ無機鉱物粉を乾燥して出荷することが検討されており、水分量が少なく耐吸吸湿性に優れ長期間の保管が可能な無機鉱物粉の開発が要望されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題を改善し、水分含有量が低く、乾燥後の吸湿性が少ない耐吸湿性無機鉱物粉およびこれらを配合した貯蔵安定性に優れた湿気硬化型樹脂組成物、並びに耐吸湿性無機鉱物粉の表面処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1記載の耐吸湿性無機鉱物粉は、平均粒径が30μm以下の乾燥した無機鉱物粉に、グリコール類を0.1〜3.0重量%混合して表面に耐吸湿性を付与したことを特徴とするものである。
【0006】
本発明の請求項2記載の耐吸湿性無機鉱物粉は、無機鉱物粉として、炭酸カルシウム、タルク、カオリンクレー、珪石、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ゼオライト、マイカ、アルミナ、硫酸バリウム、チタン、ベントナイト、ドロマイト、バライト、蛍石の何れか1種または2種以上を用いることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項3記載の耐吸湿性無機鉱物粉は、グリコール類が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの何れか1種また2種以上であることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項4記載の湿気硬化型樹脂組成物は、平均粒径が30μm以下の乾燥した無機鉱物粉に、グリコール類を0.1〜3.0重量%混合して表面に耐吸湿性を付与した耐吸湿性無機鉱物粉を、樹脂に混合したことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項5記載の耐吸湿性無機鉱物粉の表面処理方法は、平均粒径が30μm以下の無機鉱物粉をミキサーで攪拌して、この時発生する攪拌熱により無機鉱物粉を加熱乾燥させた状態で、グリコール類を0.1〜3.0重量%添加し、更にミキサーで攪拌して表面に耐吸湿性を付与することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る請求項1記載の耐吸湿性無機鉱物粉によれば、水分量が少なく耐吸吸湿性に優れて貯蔵安定性に優れた原料フィラーとして有効であり、従来、使用直前に湿気硬化型製品メーカーで行なっていた乾燥作業工程を省くことができる
【0011】
また請求項2記載の耐吸湿性無機鉱物粉によれば、無機鉱物粉として幅広い無機鉱物に適用することができ、また請求項3記載の耐吸湿性無機鉱物粉によれば、各種のグリコール類を使用することができる。
【0012】
また請求項4記載の湿気硬化型樹脂組成物は、粘度安定性に優れ長期間容器中に保存しても、増粘や硬化を防止することができる。更に請求項5記載の耐吸湿性無機鉱物粉の表面処理方法は、極めて簡単な設備と処理方法により、水分量が少なく耐吸吸湿性に優れた耐吸湿性無機鉱物粉を安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明について説明する。平均粒径が30μm以下に粉砕した無機鉱物粉をミキサーに入れて低速で攪拌し、無機鉱物粉同士の摩擦により発生する攪拌熱により無機鉱物粉を加熱して乾燥させる。この無機鉱物粉としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、カオリンクレー、珪石、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ゼオライト、マイカ、アルミナ、硫酸バリウム、チタン、ベントナイト、ドロマイト、バライト、蛍石の何れか1種または2種以上を用いる。本発明で無機鉱物粉の平均粒径を30μm以下に限定したのは、これを超える大きな粒子は単位体積当たりの表面積が少なく、吸湿による鉱物粉同士の凝縮などの影響が少ないからである。
【0014】
無機鉱物粉をミキサーで2〜20分攪拌していくと、無機鉱物粉は摩擦による攪拌熱で100〜120℃に上昇し、表面が乾燥してくる。この乾燥した状態で、グリコール類を0.1〜3.0重量%添加して攪拌する。このグリコール類としては例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの何れか1種また2種以上用いると良い。このようにグリコール類を噴霧または散布し、更に攪拌しながら摩擦により加熱していく。
【0015】
この過程でグリコール類が揮発し、同時に、無機鉱物粉に含まれている水分も蒸発して除去される。無機鉱物粉の表面に付着したグリコール類の揮発により、粒子表面が活性化され、毛細管現象による表面からの水分吸収が大幅に遅くなり、長期間に亘って耐吸湿性が保持されて、貯蔵安定性が向上するものと考えられる。
【0016】
この場合、グリコール類の添加量が0.1重量%未満であると、耐吸湿性の改善効果が少なく、また3.0重量%を超えて添加すると逆に粉体粒子同士が凝固し易くなるので上記範囲が好ましい。
【0017】
このように処理された無機鉱物粉は、容器や袋に入れて出荷され、輸送中や湿気硬化型製品メーカーの工場で保管中にも水分の吸収が少なく、さらに従来行われていた無機鉱物粉の乾燥工程を省略することができる。また、これをフィラー原料として使用した湿気硬化型製品は、容器中に封入した状態で無機鉱物粉が有する湿気による増粘、硬化を防止することができる。
【0018】
また本発明の耐吸湿性無機鉱物粉をフィラーとして用いた湿気硬化型樹脂組成物としては、ウレタン系樹脂、変成シリコーン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、初期は液状であるが、湿気が供給されることによって硬化反応が進行し、最終的に固体状の樹脂となる。これらの反応を利用することによって、一液タイプの湿気硬化型の接着剤、シーリング材、塗料、コーティング剤等を得ることができ、これらに混合するフィラーとして本発明の耐吸湿性無機鉱物粉を使用する。また、二液タイプの接着剤、シーリング材、塗料、コーティング剤においても、湿気と反応する成分を含有する場合には、フィラーが有する水分が問題となる場合があり、これらに混合するフィラーとしても本発明の耐吸湿性無機鉱物粉を使用することができる。
【0019】
上記ウレタン系樹脂としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する、いわゆるウレタンプレポリマーが知られている。これらウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物やポリチオール化合物に対して、過剰のポリイソシアネート化合物を反応させることにより得られる。またポリオール化合物は、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリエステルポリオール(例えば、アジピン酸等のジカルボン酸類とジオール類の重縮合物等)等の分子内に2個以上の活性水素基を有する化合物である。またポリチオール化合物は、分子内に2個以上の活性水素基を有する、液状ポリサルファイド等の化合物である。これらは、通常分子量が100〜20,000のものが使用され、使用目的や性能によって使い分ければよい。
【0020】
またポリイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート化合物、ジイソシアネート化合物を除くポリイソシアネート化合物が挙げられる。これらの具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(いわゆるMDI)、トリレンジイソシアネート(いわゆるTDI)、その他の脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、芳香族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0021】
また前記変成シリコーン系樹脂は、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体を指し、ポリオキシアルキレン系主鎖の末端に反応性ケイ素基が導入されてなるものである。
【0022】
湿気硬化型組成物を製造する方法として、例えばウレタン系樹脂組成物に適用した場合、先ずベースとなるウレタンプレポリマーを製造する。この製造方法は、撹拌機、コンデンサー、減圧脱水装置、窒素気流装置を備えた密閉式反応釜に、ポリオール化合物等を仕込み、減圧脱水後、ポリイソシアネート化合物を配合して窒素気流下で70〜100℃にて3〜8時間程度反応させ、設計NCO含有量に近似するまで重合を続けることで得られる。
【0023】
また、ウレタン系湿気硬化型組成物の製造方法は、撹拌機、コンデンサー、減圧脱水装置、窒素気流装置を備えた密閉式加工釜に、反応釜で合成した前記ウレタンプレポリマーと本発明の無機鉱物粉や添加剤等を配合し、更に接着剤、シーリング材、塗料、コーティング剤等の目的に応じた改質剤(充填材や添加剤等)を仕込み、窒素気流下等の湿気が混入しない状態で、均一に混合、撹拌することにより製造する。
【実施例】
【0024】
(実施例1) 以下本発明の実施例について説明する。平均粒径2.5μmに粉砕した炭酸カルシウム(母体水分3009.0ppm)をミキサーで10分攪拌し、摩擦による攪拌熱で100℃に上昇したところで、ジエチレングリコールを0.3重量%添加し、更にミキサーで60分間攪拌して158℃まで加熱して処理した(実施例品No 1)。この処理後の炭酸カルシウムについて水分量を測定し、これを密閉袋に封入して、1日後、4日後、7日後、10日後、15日後、21日後、25日後、30日後のそれぞれについて水分量の変化を測定した。また処理後の水分増加量についても測定し、その結果を表1に示した。
【0025】
また平均粒径5.0μmに粉砕した炭酸カルシウム(母体水分2595.0ppm)をミキサーで10分攪拌し、摩擦による攪拌熱で100℃に上昇したところで、ジエチレングリコールを0.2重量%添加し、更にミキサーで60分間攪拌して142℃まで加熱して処理した(実施例品No 2)。この試料についても同様に測定して、その結果を表1に併記した。
【0026】

【表1】



【0027】
(比較例)また比較のために、平均粒径5.0μmに粉砕した炭酸カルシウム(母体水分3037.0ppm)をミキサーで60分攪拌し、160℃まで上昇させて乾燥処理した(比較例品No 1)。この処理後の炭酸カルシウムについて水分量を測定し、これを密閉袋に封入して、1日後、4日後、7日後、12日後、20日後、30日後のそれぞれについて水分量の変化を測定した。また処理後の水分増加量についても測定し、その結果を表2に示した。同様に平均粒径2.5μmに粉砕した炭酸カルシウム(母体水分3037.0ppm)をミキサーで60分攪拌し、205℃まで上昇させて乾燥処理した(比較例品No 2)。この試料についても同様に測定して、その結果を表2に併記した。
【0028】
【表2】

【0029】
上表の結果より、本発明の実施例品は処理直後でも、水分含有量は500ppm程度であり、その後30日経過しても1000ppm程度までしか増加せず、長期間に亘って耐吸湿性が保持されて、貯蔵安定性が向上していることが確認された。これに対して比較例品は処理直後でも、700ppm程度であり、1日経過するだけで1000ppmを超えてしまい耐吸湿性は認められなかった。
【0030】
(実施例2) 次にウレタン系一液湿気硬化型組成物に適用した場合の本発明の実施例について説明する。下記の各原料を、表3に示す割合(質量部)で用い、ウレタン系一液湿気硬化型組成物を調製した。なお、フィラーとして混合する炭酸カルシウムの放置時間が、湿気硬化型組成物の粘度安定性に与える影響を比較するために、炭酸カルシウムはポリエチレン製の袋に小分け後7〜28日間冷暗所にて放置後使用した。なお、実施例品No 3〜No 5で用いた各化合物は下記の通りである。
【0031】
(使用原料)
ウレタンプレポリマー
スミジュールE21−2(湿気硬化型ウレタンプレポリマー)(住化バイエルウレタン株式会社製)
炭酸カルシウム
実施例品No 1(ジエチレングリコールを0.3重量%配合)
希釈剤
アイソパー H(イソパラフィン系:エクソン化学株式会社製)
揺変剤(粘性付与剤)
RY200S(シリカ:日本アエロジル株式会社製)
【0032】
この組成物の製造方法は、E21−2と実施例品No 1、およびRY200Sを表3に示す割合で混合して、減圧下で撹拌する。そこへ、希釈剤であるアイソパーHを加え、減圧撹拌して本発明に係る一液湿気硬化型組成物を製造した。製造したウレタン系一液湿気硬化型組成物を紙缶カートリッジに充填し、50℃以下で4週間放置した後、BH型粘度計を用いて、23℃における粘度を測定し、その結果を表3に示した。粘度安定性の評価は、製造直後の粘度と、貯蔵後の粘度を測定し、以下の式により計算した粘度上昇率が0〜50%以内のものを○、50%以上のものは×とした。
粘度上昇率=[(貯蔵後粘度)−(製造直後粘度)]÷(製造直後粘度)
【0033】
(比較例2)また比較のために、加熱処理しただけの比較例品No 2を冷暗所に14日間放置したもの以外は、実施例2と同様に製造したウレタン系一液湿気硬化型組成物(比較例品No 3)についても、その粘度安定性の評価を行なった。
【0034】
【表3】

【0035】
表3の結果から明らかなように、従来の加熱乾燥しただけの炭酸カルシウムをフィラーとして用いた場合と比較して、本発明に係る耐吸湿性炭酸カルシウムを使用したものは粘度安定性が良く、長期保存後に使用しても、配合される湿気硬化型組成物の粘度安定性に対して悪影響を与えにくいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
なお本発明の耐吸湿性無機鉱物粉は接着剤や、シーリング剤、コーティング剤、塗料などの工業製品用フィラーに限らず、化粧品や薬品、食品などの分野にも広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が30μm以下の乾燥した無機鉱物粉に、グリコール類を0.1〜3.0重量%混合して表面に耐吸湿性を付与したことを特徴とする耐吸湿性無機鉱物粉。
【請求項2】
無機鉱物粉として、炭酸カルシウム、タルク、カオリンクレー、珪石、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ゼオライト、マイカ、アルミナ、硫酸バリウム、チタン、ベントナイト、ドロマイト、バライト、蛍石の何れか1種または2種以上を用いることを特徴とする請求項1記載の耐吸湿性無機鉱物粉。
【請求項3】
グリコール類が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの何れか1種また2種以上であることを特徴とする請求項1記載の耐吸湿性無機鉱物粉。
【請求項4】
平均粒径が30μm以下の乾燥した無機鉱物粉に、グリコール類を0.1〜3.0重量%混合して表面に耐吸湿性を付与した耐吸湿性無機鉱物粉を、樹脂に混合したことを特徴とする湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
平均粒径が30μm以下の無機鉱物粉をミキサーで攪拌して、この時発生する攪拌熱により無機鉱物粉を加熱乾燥させた状態で、グリコール類を0.1〜3.0重量%添加し、更にミキサーで攪拌して表面に耐吸湿性を付与することを特徴とする耐吸湿性無機鉱物粉の表面処理方法。

【公開番号】特開2006−143518(P2006−143518A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335222(P2004−335222)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(300062603)三共精粉株式会社 (3)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】