説明

耐指紋付着性コーティング被膜を有する複合材

【課題】付着した指紋や手垢が目立たないコーティング被膜を有する耐指紋付着性に優れた複合材を提供する。
【解決手段】基板の表面に珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を含む耐指紋付着性コーティング被膜が形成された複合材であって、前記コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満とすることで、耐指紋付着性コーティング被膜が形成された複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着した指紋が目立たないないし目立ちにくいコーティング被膜を有する耐指紋付着性に優れた複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家具、建材、電化製品等各種製品の人間が接触する物品は、その表面が埃、塵のみならず指紋や手垢等の人間の手の接触に伴い油性汚染物が付着し、それが目立ち美観が損なわれ見苦しいものであり、除去する拭き取り作業にも手間がかかるものであった。
【0003】
そこで、表面に指紋や手垢等が付着することを防止するため、または付着した指紋や手垢等を除去し易くするための手法が、従来から種々検討されている。鋼板等の基材の表面にフッ素系樹脂コートにより防汚性、撥油性等を付与する手法として、例えば、撥油膜としてパーフルオロポリエーテル変性シランからなる表面処理剤が知られている(特許文献1)。しかし、該フッ素系樹脂コートすることにより油等の汚れ成分の付着防止をすることはある程度できても、フッ素系樹脂自体にはセルフコーティング作用がなく、表面に付着した汚れ成分は当然のことながら拭き取る等の作業が必要であった。
【0004】
油類や指紋等が付着しても、光触媒の薄膜を基材の表面に形成しておくことで油類や指紋等の有機物を分解して基材表面の汚れを解消することも、例えば、可視光反応型光触媒をフッ素系樹脂を含む有機溶剤に有効量配合した塗料として提案されている(特許文献2)。しかし、可視光反応型光触媒は高価であり、又可視光反応型といえども室内においては有機物の分解作用が弱く十分な耐指紋付着性は得られていないものであった。
【0005】
化粧板における表面の平滑なフラット仕上げや、表面に凹凸のあるエンボス仕上げでは、触れた際の触感に差があり、合成樹脂製化粧板の樹脂特有の触感であり、手が触れた際の指紋跡がつきやすく、さらりとした触感がない。そこで、プロテインパウダーを樹脂液の固形分100重量部に対して1〜40重量部添加した樹脂含浸紙を表面に有することで、指紋跡や手垢等を付きにくくすることが提案されている(特許文献3)。
【0006】
また、指紋付着防止技術として、付着した指紋が目立たないように、塗膜の表面のオレイン酸接触角が15度以下とし、付着した指紋を大きく濡れ広がせて、指紋が目立たなくした鏡面仕上げ建材が提案されている(特許文献4)。更に携帯用情報機器の表面に、樹脂と粒子径0.3〜1.0μmの範囲の微粒子とを比100:20〜500としたコーティング膜を形成することで、指紋跡や剥離箇所とそれ以外の個所との光沢度に差がないようにして目立たなくすることも提案されている(特許文献5)。
【0007】
しかし、特許文献4のものは、鏡面仕上げした建材であって用途が限られてしまい、また特許文献5のものは、粒子径0.3〜1.0μmの範囲の微粒子を樹脂100に対して、質量比として20〜500と多量に必要とし、また指紋跡や剥離箇所とそれ以外の個所との光沢度に差がないようにするとしているものの、具体的にどの程度光沢度に差がなければよいのか検討されていない。以上のとおり、付着した指紋や手垢等が目立たないようにする指紋付着防止技術として実用レベルで十分満足できるものは、今までなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−238577号公報
【特許文献2】特開2007−146041号公報
【特許文献3】特開2005−199495号公報
【特許文献4】特開2007−313686号公報
【特許文献5】特開2007−169310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、付着した指紋や手垢等が目立たないコーティング被膜を有する耐指紋付着性に優れた複合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を含む耐指紋付着性コーティング被膜が基板の表面に形成された複合材であって、前記コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満である耐指紋付着性コーティング被膜を有する複合材とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
本発明は、珪素化合物を含むコーティング剤に平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を添加し、コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満とすることで、反射光を散乱させ、ぎらつきを抑える構造とすることにより、指紋や手垢等を目立たなくすることができ、表面に付着した汚れ成分を拭き取る等の作業が必要なく、耐指紋付着性が長期にわたり維持できる優れたコーティング被膜を有する複合材を提供することができた。
【0012】
即ち、本発明は、
[1] 基板と、前記基板の表面に珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を含む耐指紋付着性コーティング被膜が形成された複合材であって、前記コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満であることを特徴とする耐指紋付着性コーティング被膜が形成された複合材。
[2] 前記珪素化合物が、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、クロロシランから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]に記載の複合材。
[3] 前記アルコキシシランがテトラアルコキシシラン、アルキルアルコキシシランがアルキルトリアルコキシシランであることを特徴とする上記[2]に記載の複合材。
[4] 前記親水性金属酸化物微粒子がシリカであることを特徴とする上記[1]〜 [3]のいずれかに記載の複合材。
[5]前記珪素化合物100重量部に対して、前記親水性金属酸化物微粒子を0.01〜10重量部含有することを特徴とする上記[1]〜 [4]のいずれかに記載の複合材。
[6] 前記基板が化粧板あることを特徴とする上記[1]〜 [5]のいずれかに記載の複合材。
[7] 前記化粧板がメラミン化粧板であることを特徴とする上記[6]に記載の複合材。
【発明の効果】
【0013】
基板の表面に、珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を含み、コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満である耐指紋付着性コーティング被膜を形成した複合材を提供することができた。該耐指紋付着性コーティング被膜は、耐指紋付着性のみならず、硬化被膜自体の強度が高く、耐引っ掻き性にも優れたもので、基板表面に塗布することで容易かつ簡便に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の複合材は、基板と、前記基板の表面に形成された珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を含む耐指紋付着性コーティング被膜を有し、該コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満である耐指紋付着性コーティング被膜が形成された複合材である。
【0015】
本発明の耐指紋付着性コーティング被膜は、珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子含有コーティング液を、水と触媒との存在下、加水分解反応および重縮合(脱水縮合)反応を経てシロキサン結合を形成させポリシロキサン化合物の硬化被膜として形成させる。乾燥、熱処理により被膜は緻密になり、硬化被膜自体の強度が高く、耐引っ掻き性にも優れている。本発明は、いわゆるゾルゲル法による硬化被膜形成である。
コーティング液が被覆される基板の表面は、親水化されていると表面の水酸基とアルコキシシランが共有結合を作ることで、通常耐久性のよい被膜が形成されるが、本発明においては、必ずしも基板の表面が親水化されている必要はなく、基板の表面を清浄化さえしておけばよい。
【0016】
本発明の耐指紋付着性コーティング被膜は撥水性コーティング被膜であり、これを形成する珪素化合物には、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、クロロシランの中から選ばれる。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、1,3―ジメチルテトラメトキシジシロキサン、1,3―ジメチルテトラエトキシジシロキサン、1,3−ジオクチルテトラメトキシジロキサン、1,3−ジオクチルテトラエトキシジロキサン等、アルキルアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、(3−シクロペンタジエニルプロピル)トリメトキシシラン、(3−シクロペンタジエニルプロピル)トリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、トリルトリエトキシシラン、ベンジルトリメトキシラン、ベンジルトリエトキシラン等、クロロシランとしては、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、クロロフェニルトリメトキシシラン、クロロフェニルトリエトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリエトキシシラン、クロロフェニルトリメトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)トリメトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)トリエトキシシラン等があり、これらの中から少なくとも1種又は2種以上で用いることができる。
【0017】
なかでも、珪素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランが好ましく、特にオクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシランを用いるのがより好ましい。
【0018】
本発明で用いる平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子は、金属酸化物であり、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、アルミノシリケート、タルク等から選ばれる1種類、あるいは複数種類を混合したものである。平均粒子径は、nmオーダーの1〜100nmの範囲のものである。好ましくは5〜20nmの範囲である。1nm未満では微粒子間の凝集力が強くなり、コーティング液中に均一に分散させるためには取り扱いにくく、100nm超では、被膜の白化が顕著に現れるため好ましくない。なお、本発明において平均粒子径とは、電子顕微鏡写真より3,000〜5,000の粒子の直径を測定し、その算術平均を平均粒子径と見なす。
また、本発明のナノオーダーの親水性金属酸化物微粒子は、市販のナノ粒子として入手しやすい酸化ケイ素(シリカ)を用いるのがより好ましい。
【0019】
本発明のコーティング液に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール、アミルアルコール等のアルコール類を挙げることができるが、なかでも常温における蒸発速度が大きい炭素数が3以下の鎖式飽和1価アルコールを用いるのが好ましい。コーティング液に用いる酸触媒としては、常温の乾燥で揮発し被膜中に残らないという観点から、塩酸、沸酸、硝酸、酢酸、ギ酸等の揮発性の酸が好ましく、なかでも高い揮発性を有し、しかも取り扱いが比較的容易な塩酸が特に好ましい。
溶媒に珪素化合物を加え、攪拌し、次いで加水分解用の水、酸を加え攪拌し、必要に応じて1〜3日間室温で攪拌し、ベース液を調製する。次いで、ベース液を同じ重量の溶媒で希釈し、希釈したベース液100重量部に対して、親水性金属酸化物微粒子を0.01〜10重量部の範囲で混合して調製する。親水性金属酸化物微粒子の含有量が0.01重量部未満または10重量部超であると、耐指紋付着性コーティング被膜の光沢度、色差を本発明の範囲とすることができず、付着した指紋が目立つものである。
【0020】
通常、コーティング被膜の表面状態は水接触角により、被膜の最表面の液体、固体等に対する界面状況を表すことができ、親水性から疎水性まで評価することができる。そこで、本発明者らは、本発明の耐指紋付着性コーティング被膜について、水接触角を測定した。本発明は、コーティング液の主剤であるベース剤により水接触角は85度以上を示し、疎水性を示しており、撥水性被膜ということができる。
【0021】
次に、本発明の耐指紋付着性コーティング被膜について、オレイン酸接触角を測定した。従来から、例えば特許文献4に記載されているとおり、耐指紋付着性の評価にオレイン酸接触角が用いられていた。即ち指紋の主成分が皮脂であり、皮脂は中性脂肪(トリグリセリドなど)および中性脂肪が分解した脂肪酸(オレイン酸やパルミチン酸など)からなり、その代表的な成分であるオレイン酸によるぬれ性により、耐指紋性が評価されていた。
【0022】
本発明において、オレイン酸接触角を測定すると、前記特許文献4に記載された15度以下でなくとも十分耐指紋付着性に優れていた。また、親水性金属酸化物微粒子の含有量が多くなりオレイン酸接触角が低くなってくると、オレイン酸がコーティング被膜に染み込んでしまい指紋跡が残ってしまうことが見出された。そこで、金属酸化物微粒子は、0.01〜5重量部の範囲で混合するのがより好ましい。さらに該範囲中0.5重量部以上のときには、オレイン酸がコーティング被膜に一部染み込み、オレイン酸跡が光線の状況によりやや目立つこともあるので、親水性金属酸化物微粒子の添加量は0.5重量部未満であることが一層より好ましい。
【0023】
本発明のコーティング液には、耐指紋付着性コーティング被膜の光沢度、色差が本発明の範囲とすることができる範囲内で、耐指紋付着性向上以外のコーティング被膜として求められる性能を発揮するための各種成分を含むことができる。このような成分には、溶剤、界面活性剤、硬化剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、湿潤剤、防腐剤等を掲げることができる。
【0024】
本発明での耐指紋付着性コーティング被膜の光沢度は8以下、色差は4.6未満である。この範囲であると、反射光を散乱させ、ぎらつきを抑える構造とすることができ、指紋跡や手垢等を目立たなくすることができる。好ましくは、光沢度の下限は1以上、色差の下限は1.0以上である。より好ましくは、光沢度2以上8以下、色差1.0以上4.4以下である。光沢度が8を超えると、基板自体の光沢度に近く、耐指紋付着コーティングとして効果が見いだせない。色差が4.6以上であると、元の基板とは全く別の色味になり、意匠上の問題がある。
【0025】
本発明の複合材を形成する基板としては、金属、ガラス、プラスチック、セラミックス、石材、木質ボード、パーチクルボード、紙など各種材質のものを用いることができる。なかでも耐指紋付着性が要求される家具、建材に使用される化粧板として用いることができる。この化粧板には、メラミン、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート、アクリル化粧板などがあるが、特に家具、建材に多用されるメラミン化粧板を用いるのが特に好ましい。
【0026】
コーティング被膜を基板表面に形成するにあたって、その方法は特に限定されるものではない。例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディップコート)、ロールコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、テーブルコート、シートコート、枚葉コート、ダイコート、バーコート、リバースコート、キャップコート等の通常の各種塗布方法から選択することができる。このようなコーティング法で被膜を形成する場合、気相法よりも大面積の被膜を容易に得ることができると共に、高いスピードで被膜形成をすることができる。
本発明の被膜形成は、例えばコーティング後、常温で、または150℃以下の温度で、30分〜2時間、自然乾燥または強制乾燥させるだけで緻密な硬化被膜が形成することができる。被膜の厚みは、基板との機械的密着性が保てる限りはいかなる厚みでも構わない。
【0027】
本発明の複合材は、耐指紋付着性が求められる用途ならばいかなる用途にでも使用することができる。例えば、事務用家具、台所用建材、浴槽、洗面台などのサニタリー製品、外壁用建材、レンズ、フィルターなどの各種光学部品、家電製品、自動車、電車、航空機などの窓ガラス、ヘッドランプカバー、電柱や電話ボックスの張り紙防止剤、これらの撥水、防汚、油汚れ、油脂付着防止などのコーティング被膜として用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。本発明の代表例であるコーティング被膜を以下に説明する。
【0029】
[実施例1〜5]
コーティング液の調製は、エタノール46.1gにテトラエトキシシラン20.8g、デシルトリメトキシシラン2.6gを加え、攪拌し、次いで水19.8g、塩酸0.03gを加え攪拌し、3日間、室温で攪拌し、ベース液を調整した。ベース液を同じ重量のエタノールで希釈し、希釈したベース液100重量部につき、表1のとおり、7nmの親水性シリカ微粒子(製品名AEROSIL 380、製造元日本アエロジル)0.01〜5.0重量部加え攪拌し、コーティング液を調製し実施例1〜5とした。
市販のメラミン化粧板を大きさ7.0 ×2.5cmとし、アルコールで十分に洗浄し、上記調製したコーティング液に浸漬し、1mm/sで引き上げディップコーチィングし、80℃で熱乾燥し得られたサンプルにつき、色差、光沢度、水接触角、オレイン酸接触角を測定し、その結果を表1に示す。
【0030】
コーティング被膜の光沢度は、被膜の拡散反射に対する直接反射の割合として定義される。光沢度の測定はホリバ製グロスチェッカーIG−330を使用して行った。コーティング被膜によるメラミン化粧板の外観の変化を定量化するために色差測定を行った。測定はコニカミノルタ製測色計CR−13を用いて行った。
【0031】
水接触角は、コーティング被膜の表面に0.3mgの水滴を着滴させた後5秒後の接触角を接触角計(接触角計CA−DT、協和界面科学(株)製)を用いて測定した。また、オレイン酸接触角は、コーティング被膜の表面に0.3mgのオレイン酸滴を着滴させた後5秒後の接触角を接触角計(接触角計CA−DT、協和界面科学(株)製)を用いて測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
[実施例6〜9、比較例1]
実施例1において、7nmのシリカ微粒子を12nmの親水性シリカ微粒子(製品名AEROSIL 200、製造元日本アエロジル)に変えた以外は同様にしてコーティング液を調製し比較例1、実施例6〜9とした。コーティングしたサンプルにつき、色差、光沢度、水接触角、オレイン酸接触角を測定した。シリカの添加量、及び結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
[実施例10〜13、比較例2〜3]
実施例1において、7nmのシリカ微粒子を20nmの親水性シリカ微粒子(製品名AEROSIL 90、製造元日本アエロジル)に変えた以外は同様にしてコーティング液を調製し実施例10〜13、比較例2とした。コーティングしたサンプルにつき、色差、光沢度、水接触角、オレイン酸接触角を測定した。シリカの添加量、及び結果を表3に示す。同時に、シリカ微粒子を添加しないコーティング液(比較例3)も、色差、光沢度を測定した。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例1〜13によれば、珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子をわずかな量添加することで、コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満とすることができ、付着した指紋が目立たないコーティング被膜を形成することができた。比較例1、2は、色差が4.6以上であり、また、比較例3は、親水性微粒子シリカを添加しておらず、付着した指紋がやや目立つコーティング被膜であった。
更に、被膜形成者による耐指紋付着性評価は何ら問題ない程度と考えられるものであるが、オレイン酸接触角が36度以下の場合にはオレイン酸が被膜表面から一部染み込んでしまい、キムワイプでふき取っても、やや拭き取り跡が残っていた。
【0038】
(官能試験)
次に、被膜形成にかかわらない一般人を評価者として10人選び、次の官能試験を行った。評価者には、サンプルの種類や内容処方の違いを一切知らせずに行った。
実施例6、10、11について、10人の評価者により耐指紋付着性の評価として、評価者自身が指で触り、指紋の目立ちにくさの官能試験を実施したところ、いずれのサンプルについても、目立たないという結果を得た。
次に、実施例10及び比較品A〜Cについて同様に10人の評価者による耐指紋付着性評価の官能試験を行った。
10人の評価者の結果を集計しまとめとして、判定結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

比較品A:市販メラミン化粧板
比較品B:Aのシボ形状変更メラミン化粧板
比較品C:市販耐指紋性メラミン化粧板
判定結果:○は、指紋が目立たない、もしくは気にならない。△は、比較品Aより改善は見られものの、依然指紋が目立つ、もしくは気になる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、基板の表面に珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を含むコーティング被膜を形成し、該被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満である耐指紋付着性コーティング被膜を形成した複合材を提供することができた。該耐指紋付着性コーティング被膜は、硬化被膜自体の強度が高く、耐引っ掻き性にも優れたもので、平均粒子径nmオーダーの親水性金属酸化物微粒子を少量含有させた珪素化合物含有コーティング被膜とすることにより、容易かつ簡便に耐指紋付着性コーティング被膜を形成することができる。この耐指紋付着性コーティング被膜を形成した複合材は、付着した指紋や手垢等が目立たないので、人が接触する面の各種用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の表面に珪素化合物と平均粒子径1〜100nmの親水性金属酸化物微粒子を含む耐指紋付着性コーティング被膜が形成された複合材であって、前記コーティング被膜の光沢度が8以下、色差が4.6未満であることを特徴とする耐指紋付着性コーティング被膜が形成された複合材。
【請求項2】
前記珪素化合物が、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、クロロシランから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記アルコキシシランがテトラアルコキシシラン、アルキルアルコキシシランがアルキルトリアルコキシシランであることを特徴とする請求項2に記載の複合材。
【請求項4】
前記親水性金属酸化物微粒子がシリカであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材。
【請求項5】
前記珪素化合物100重量部に対して、前記親水性金属酸化物微粒子を0.01〜10重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合材。
【請求項6】
前記基板が化粧板であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合材。
【請求項7】
前記化粧板がメラミン化粧板であることを特徴とする請求項6に記載の複合材。

【公開番号】特開2010−259971(P2010−259971A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110633(P2009−110633)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(502435454)株式会社SNT (33)
【出願人】(304046982)コクヨファニチャー株式会社 (112)
【Fターム(参考)】