説明

耐指紋性に優れた製品およびその製造方法

【課題】フッ素含有シラン化合物の防汚層などを設けなくても、指紋が付着し難く、また、指紋が付着しても目立たない、さらには、指紋が付着しても容易に除去が可能な耐指紋性に優れた製品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】製品基体表面に当該製品基体側から順に高屈折率層と低屈折率層とが形成された耐指紋性に優れた製品であって、当該低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する親水性低屈折率層であり、かつ屈折率が1.35〜1.45である耐指紋性に優れた製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋、皮脂、手垢、汗、化粧品などの人間の手の接触に伴う汚染物(以下、このような汚染物を「指紋」と総称する。)が付着し難く、また、指紋が付着しても目立たない、さらには、指紋が付着しても容易に除去可能な耐指紋性に優れた製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の表面は、視認性などの光学特性、表面の保護や美観の向上等のために、薄膜などを形成することが行われている。
しかし、この薄膜などに指紋が付着すると、視認性などの光学特性や美観が損なわれることがある。例えば、タッチパネル、テレビモニター、携帯電話などのディスプレイや眼鏡レンズなどには、透過率、視認性などの向上のため反射防止膜が設けられることも多いが、この反射防止膜に指紋が付着すると、指紋により光が乱反射するため、透過率、視認性などの光学特性が低下するという問題がある。また、金属などには、その表面を保護したり、美観を向上させたりするために、薄膜が形成されることも多いが、この薄膜に指紋が付着すると、金属などの美観が損なわれるという問題もある。
【0003】
そこで、薄膜に指紋が付着することを防止するため、あるいは、付着した指紋を容易に除去するために、製品の表面に耐指紋性を有する層を形成する方法が用いられている。
例えば、製品の表面に炭素数4〜21個のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基などのフッ素を含有する撥水性(親油性)の塗料を塗布し、乾燥させて薄膜を形成することにより、耐指紋性を向上させる方法が知られている。
しかしながら、この方法においても、撥水性(親油性)のフッ素を含有する薄膜は、指紋の主成分である皮脂の付着を完全に防止することはできず、実用レベルの耐指紋性を得ることは難しかった。また、この薄膜は、耐久性が充分とはいえず、比較的短時間のうちに耐指紋性の効果が消失するという問題もあった。
【0004】
また、金属やガラスの表面に、アクリルなどのクリアー塗膜を形成して表面の親水性(撥油性)を向上させ、指紋の主成分である皮脂を濡れ広げて、指紋が目立たなくなるようにして、耐指紋性を向上させる方法も知られている。
しかしながら、この方法においても、指紋が目立たないような実用レベルの耐指紋性を得ることは難しかった。また、この薄膜も、耐久性が充分とはいえず、比較的短時間のうちに耐指紋性の効果が消失するという問題もあった。
【0005】
これらの問題を解決し、実用レベルの耐指紋性を得る方法として、特許文献1および2には、次の化学式(I)で示される膜厚0.5μm以下の親水性被膜を金属板表面に形成する方法が開示されている。
LiaNabc(SiOmx(ZrOny(H2O)z ・・・(I)
ただし、a、b、c、z:任意数 m、n:1〜4の任意数 x+y=1
【0006】
また、特許文献3には、透明プラスチックフィルム基材に、ハードコート層、低屈折率層、防汚層を形成し、これにより耐指紋性を向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−301273号公報
【特許文献2】特開2003−310411号公報
【特許文献3】特開2002−277604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法によっても、親水性被膜の屈折率は考慮されておらず、耐指紋性が必ずしも充分とはいえず、付着した指紋が目立ちやすいという未だ解決すべき問題を有するものであった。
【0009】
また、特許文献3に記載の方法では、ハードコート層上に低屈折率層を形成し、これにより屈折率を下げる旨が記載されているが、耐指紋性を向上させる機能を有するのは、低屈折率層上に形成されるパーフルオロポリエーテル基含有シランカップリング剤などのフッ素含有シラン化合物の防汚層と認められる。
この特許文献3の方法によった場合は、防汚層の劣化、消失などにより耐指紋性の効果が減少するという問題がある。さらに、防汚層を設けることから、作業工程が増加し、コストが高くなるという問題もある。
【0010】
そこで、本発明は、フッ素含有シラン化合物の防汚層などを設けなくても、指紋が付着し難く、また、指紋が付着しても目立たない、さらには、指紋が付着しても容易に除去が可能な耐指紋性に優れた製品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、製品基体表面に当該製品基体側から順に高屈折率層と低屈折率層とを形成し、当該低屈折率層を親水性の層とし、かつ屈折率を1.35〜1.45とすることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) 製品基体表面に当該製品基体側から順に高屈折率層と低屈折率層とが形成された耐指紋性に優れた製品であって、当該低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する親水性低屈折率層であり、かつ、屈折率が1.35〜1.45である耐指紋性に優れた製品、
(2) 前記親水性低屈折率層が、リチウムを含有するものである上記(1)に記載の耐指紋性に優れた製品、
(3) 製品基体表面に、酸化物微粒子および/または熱処理により酸化物微粒子を生成する前駆体を含有する高屈折率層形成用塗布液を塗布し、熱処理して高屈折率層を形成する第1の工程、当該高屈折率層上に、酸化ケイ素形成物質と閉孔形成物質とを含有する親水性低屈折率層形成用塗布液を塗布し、熱処理して屈折率が1.35〜1.45である親水性低屈折率層を形成する第2の工程を含む耐指紋性に優れた製品の製造方法、
(4) 前記酸化ケイ素形成物質が、シリコンアルコキシドおよび/または珪酸アルカリである上記(3)に記載の耐指紋性に優れた製品の製造方法、
(5) 前記閉孔形成物質が、発泡性物質、空気連行剤、中空シリカのうちから選ばれる少なくとも1種である上記(3)または(4)に記載の耐指紋性に優れた製品の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フッ素含有シラン化合物の防汚層などを設けなくても、指紋が付着し難く、また、指紋が付着しても目立たない、さらには、指紋が付着しても容易に除去が可能な耐指紋性に優れた製品が得られる。そして、製品の視認性などの光学特性や美観が損なわれることがなく、耐指紋性の効果を長期間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施態様の耐指紋性に優れた製品の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔耐指紋性に優れた製品〕
まず、本発明の耐指紋性に優れた製品について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の耐指紋性に優れた製品の概念図である。図1において、1は製品基体、2は高屈折率層、3は親水性低高屈折率層、4は閉孔した微細孔であり、親水性低高屈折率層3中に多数形成されている。
製品基体1の一主表面には、高屈折率層2が形成され、その上に親水性低高屈折率層3が形成されており、これにより、耐指紋性に優れた製品が構成されている。
【0016】
本発明に用いられる製品基体1の種類は、特に限定されるものではなく、高屈折率層2および親水性低高屈折率層3を形成する際の熱処理に耐えうるものであればよく、ガラス、ガラスセラミックス、セラミックス、プラスチック、金属などを用いることができる。
【0017】
高屈折率層2は、製品基体1上に形成され、製品基体1と親水性低屈折率層3とを強固に結合させる機能を有するものであり、これにより、親水性低高屈折率層3の耐久性を高めることができる。また、高屈折率層2と親水性低高屈折率層3との積層により反射防止膜の機能も有している。
高屈折率層2は、親水性低屈折率層3との屈折率差を大きくするために、屈折率は1.70以上であることが好ましく、1.80以上が特に好ましく、1.90以上がさらに好ましい。また、上限は、特に限定されないが、実用的な材料の使用を考慮すると2.30未満が好ましい。高屈折率層2の屈折率は、例えば、エリプソメーターなどを用いて測定することができる。
【0018】
また、高屈折率層2の膜厚は、特に制限されるものではないが、5〜200nmであることが好ましい。この範囲の膜厚であれば、例えば、可視光反射率を3%未満に低減させて反射光量を減少させることができ、親水性低屈折率層3に付着した指紋が目立ち難くなるからである。高屈折率層2の膜厚は、例えば、光学干渉式膜厚計などを用いて測定することができる。
【0019】
高屈折率層2の材料は、屈折率を高め、特に前記の屈折率を満たすことができるものであれば特に制限されるものではなく、製品基体1の意匠性を低下させることがないように透明性に優れた薄膜を形成し得るものが好ましい。このような材料としては、例えば、酸化チタン(TiO2、屈折率2.25程度)、酸化ジルコニウム(ZrO2、屈折率1.95程度)、酸化錫(SnO2、屈折率1.9程度)、酸化アルミニウム(Al23、屈折率1.65程度)などが挙げられ、これらの材料の単独またはこれらの組み合わせからなる複合材など用いることができる。
【0020】
さらに、高屈折率層2には、酸化ケイ素(SiO2)を含有させてもよい。酸化ケイ素(SiO2)は、通常、屈折率が1.46程度の屈折率が低い材料であり、これを含有させることにより、高屈折率層2の屈折率を所望の値に制御することができるからである。
【0021】
親水性低屈折率層3は、高屈折率層2上に形成され、耐指紋性の機能を有するものであり、また、上記したように、高屈折率層2との積層により反射防止膜としての機能も有している。そして、親水性低屈折率層3中には、閉孔した微細孔4が多数存在している。
親水性低屈折率層3は、酸化ケイ素を含有する親水性低屈折率層であり、かつ屈折率が1.35〜1.45である。酸化ケイ素は、通常、屈折率が1.46程度の屈折率が低い材料であり、この酸化ケイ素を主成分とし、閉孔した微細孔4を多数形成することにより、親水性低屈折率層3の屈折率を1.35〜1.45とすることが可能となる。
【0022】
親水性低屈折率層3の屈折率を1.35〜1.45とする理由は、この範囲であれば、親水性低屈折率層3に付着した指紋が目立たなくなるからであり、1.38〜1.42が特に好ましい。この付着した指紋が目立たなくなる理由は、必ずしも明確ではないが、指紋の主成分の皮脂は中性脂肪(トリグリセリドなど)及び中性脂肪が分解した脂肪酸(オレイン酸やパルミチン酸など)からなるものであって、その屈折率は1.40程度であり、親水性低屈折率層3の屈折率を皮脂の屈折率(1.40)に近似させることにより指紋付着部と親水性低屈折率層3からの反射量が近似したものとなるからと考えられる。
【0023】
親水性低屈折率層3の屈折率の調整は、当該層中に閉孔した微細孔4を形成することによりおこなうことができ、閉孔した微細孔4の大きさ(径)、数量などを適宜制御することにより所望の屈折率とすることができる。屈折率は、上記の高屈折率層2と同様にして測定することができる。
この閉孔した微細孔4の大きさ(径)は、屈折率の制御の容易性、膜強度などの観点から、最大直径が親水性低屈折率層3の膜厚より小さいことが好ましく、60nm以下が特に好ましく、30nm以下がさらに好ましい。また、下限は、最大直径が5nm以上が好ましく、10nm以上がさらに好ましい。
【0024】
また、閉孔した微細孔4の数量は、屈折率の制御の容易性、膜強度などの観点から、親水性低屈折率層3の体積に対して、5〜50体積%であることが好ましい。
さらに、この閉孔した微細孔4は互いに独立し、かつ均一に分布したものであることが好ましい。その理由は、前記の微細孔が連通し、均一に分布していないと、親水性低屈折率層3の屈折率を所望の屈折率に制御することが困難であり、また、親水性低屈折率層3において屈折率のバラツキが生じるからである。
【0025】
親水性低屈折率層3の膜厚は、特に制限されるものではなく、例えば、5〜1000nmが好ましく、50〜300nmが特に好ましい。この範囲であれば、耐指紋性、膜強度に優れ、膜の剥離などが防止でき、耐久性耐久性に優れた親水性低屈折率層となるからである。また、この範囲であれば、親水性低屈折率層3の透明性の低下が少なく、意匠性も低下しない。膜厚は、上記の高屈折率層2と同様にして測定することができる。
【0026】
親水性低屈折率層3は親水性の膜であり、親水性の程度は、水に対する接触角で30°以下であることが好ましい。水に対する接触角が30°以下であれば、指紋を水拭き程度の簡単な清掃で容易に取り除きことができ、指紋が水をはじくことも少ないからである。接触角は、例えば、静滴法(Sessile Drop Method)で測定することができる。
【0027】
親水性低屈折率層3には、酸化ケイ素のほかにリチウムを含有していることが好ましい。リチウムは軽元素であるため親水性低屈折率層3の屈折率を小さくすることができるからである。
さらに、リチウムは、親水性低屈折率層3を形成するのに用いる塗布液中の水や空気中の水と水和反応しやすく、親水性低屈折率層3中に水が含まれることとなり、親水性低屈折率層3の耐水性、親水性が向上させることができる。ここで、「水が含まれる」とは、水が化学結合することなく単に親水性低屈折率層3中に分散した状態で含まれるのではなく、水が親水性低屈折率層3の形成成分と化学的に結合された状態で含有された状態をいう。
【0028】
また、親水性低屈折率層3には、ホウ素、マグネシウム、カルシウムなどの酸化物微粒子が含有されていてもよく、これらの酸化物微粒子が含有されていると、耐水性がさらに向上する。
これらリチウム、ホウ素、マグネシウム、カルシウムは、それぞれ、親水性低屈折率層3の成分含有量中、酸化物換算で10質量%以下が好ましく、5質量%以下が特に好ましい。この範囲であれば、親水性低屈折率層3の耐水性、親水性を向上させるのに十分だからである。また、下限は、耐水性を十分に発揮させるために0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が特に好ましい。
【0029】
親水性低屈折率層3を形成する成分の好ましい例としては、例えば、次の化学式(II)
で表されるものがある。
LiabMgcCad(SiOmx(H2O)y ・・・(II)
ここに、a、b、c、及びdはいずれも任意の数であり、mは1〜4の任意の数であり、x及びyはいずれも任意の数である(ただし、x≠0)で表される。
【0030】
〔耐指紋性に優れた製品の製造方法〕
次に、本発明の耐指紋性に優れた製品の製造方法について説明する。
本発明の耐指紋性に優れた製品の製造方法は、製品基体1の表面に、酸化物微粒子および/または熱処理により酸化物微粒子を生成する前駆体を含有する高屈折率層形成用塗布液を塗布し、熱処理して高屈折率層2を形成する第1の工程、当該高屈折率層2上に、酸化ケイ素形成物質と閉孔形成物質とを含有する親水性低屈折率層形成用塗布液を塗布し、熱処理して屈折率が1.35〜1.45である親水性低屈折率層を形成する第2の工程を含むものである。
【0031】
前記第1の工程に用いられる酸化物微粒子は塗膜形成成分であり、酸化チタン(TiO2)微粒子、酸化ジルコニウム(ZrO2)微粒子、酸化錫(SnO2)微粒子、酸化アルミニウム(Al23)微粒子などの屈折率の高い酸化物微粒子を用いることができ、これらの平均粒子径は10nm以下が好ましく、5nm以下が特に好ましい。ここに、平均粒子径は、数平均粒子径を意味し、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置で測定することができる。
このような酸化物微粒子を用いることにより、より低温度の熱処理で製品基体1との密着性に優れ、膜強度などの物理的特性に優れた高屈折率層2を形成することができる。また、このような酸化物微粒子は水和反応性を有し、高屈折率層2上に形成される親水性低屈折率層3と製品基体1とを強固に結合させることができ、親水性低屈折率層3の親水性、耐久性を向上させることができる。
【0032】
また、熱処理により酸化物微粒子を生成する前駆体も塗膜形成成分であり、酸化チタン(TiO2)微粒子などを熱処理により生成するものであればよく、例えば、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、錫アルコキシド、アルミニウムアルコキシドまたはこれらの部分加水分解物や、塩化チタン(TiCl4)、ジルコニウムオキシクロライド(ZrOCl4)、塩化錫(SnCl2)、塩化アルミニウム(AlCl3)などの塩化物や、オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO32)、硝酸アルミニウム(Al(NO33)などの硝酸塩などを例示することができる。
【0033】
高屈折率層形成用塗布液の溶剤または分散媒は特に制限はなく、前記塗膜形成成分を溶解または分散させて高屈折率層形成用塗布液を作製することができればよく、例えば、水や、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを例示することができる。
また、前記塗膜形成成分の濃度は、製品基体表面に均一な被膜を形成し得る濃度であれば特に制限はないが、塗布容易性の点から、酸化物換算で0.1〜10質量%が好ましい。
【0034】
さらに、塗膜形成成分として、酸化ケイ素(SiO2)微粒子および/または熱処理により酸化ケイ素(SiO2)微粒子を生成する前駆体を含有させることもできる。酸化ケイ素(SiO2)微粒子により、得られる高屈折率層2の屈折率を所望の値に制御することができるからである。
酸化ケイ素(SiO2)微粒子を生成する前駆体としては、テトラメトキシシランやテトラエトキシイラン等のシリコンアルコキシド、またはその加水分解生成物がある。
【0035】
高屈折率層形成用塗布液を製品基体1の表面に塗布する塗布法は、高屈折率層形成用塗布液を均一に塗布可能な塗布方法であれば特に制限されず、ディッピング法、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、刷毛塗り等、既存の各種塗布法を採用することができる。
【0036】
前記第1の工程における熱処理温度は、製品基体1が熱処理に耐え、かつ、高屈折率層2の製品基体1への密着性、膜強度などの物理的特性を確保できる温度であれば特に制限はないが、例えば200℃〜700℃が好ましい。熱処理温度が高い方が、前記の高屈折率層形成用塗布液に含まれる溶剤または分散媒を充分に揮散させることができ、高屈折率層2の製品基体1への密着性、膜強度などの物理的特性を確保でき、さらに、これらの溶剤または分散媒に起因した空孔が高屈折率層2中に形成されず、高屈折率層2の屈折率を高めることができるが、製品基体の材質を考慮して熱処理温度を決定するのがよい。
【0037】
前記第2の工程に用いられる酸化ケイ素形成物質は塗膜形成成分であり、例えば、シリコンアルコキシドまたはその加水分解生成物や、珪酸アルカリを例示することができる。
シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランを例示することができる。
【0038】
珪酸アルカリとしては、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸アンモニウムを例示することができる。珪酸アルカリは、以下に示すように閉孔形成物質として発泡性物質、空気連行剤を使用する場合に、親水性低屈折率層3中に閉孔し、かつ独立した微細孔を効率よく形成できるので特に好ましい。
また、珪酸アルカリのうち、珪酸リチウムは、親水性低屈折率層3にリチウムを含ませることができるので好適である。リチウムが含有されていると、第2の熱処理工程において水和反応しやすく、親水性低屈折率層3中に水が含まれることとなり、親水性低屈折率層3の耐水性、親水性が向上する。
【0039】
リチウムの含有量は、親水性低屈折率層形成用塗布液中における全アルカリ量の20質量%以上であることが好ましい。
また、親水性低屈折率層形成用塗布液には、耐水性向上のために塗膜形成成分として、ホウ素、マグネシウム、カルシウムなどの酸化物微粒子、または、熱処理によりこれらの酸化物微粒子を生成する前駆体を含有することができる。熱処理によりこれらの酸化物微粒子を生成する前駆体としては、ホウ酸や、マグネシウム、カルシウムなどの炭酸塩、硝酸塩などを例示することができる。
【0040】
特に、酸化カルシウム(CaO)微粒子が親水性低屈折率層3中に含まれると、前記第2の工程における熱処理時に水和反応が進行しやすく、前記の親水性低屈折率層3中に水が含まれることとなって、前記の親水性低屈折率層3の耐水性、親水性が向上するので好ましい。親水性低屈折率層3を形成する好ましい例としては、前記化学式(II)表されるものがある。
【0041】
親水性低屈折率層形成用塗布液に含まれる閉孔形成物質は、発泡性物質、空気連行剤、中空シリカから選択されるものが好ましい。この閉孔形成物質の親水性低屈折率層形成用塗布液中における含有量は、前記親水性低屈折率層3の屈折率を1.35〜1.45、好ましくは1.38〜1.42の範囲内に制御可能な量とする。
【0042】
前記の発泡性物質は、熱の作用を受けて気体を発生させる物質であり、例えば、熱の作用を受けて二酸化炭素(CO2)を発生させる無機炭酸塩、具体的には炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)などや、熱の作用を受けて酸素(O2)を発生させる過酸化水素(H22)などを例示することができる。
【0043】
前記の空気連行剤は、多数の微細な独立した空気泡を親水性低屈折率層3中に一様に分布させる作用を有する界面活性剤である。このような界面活性剤としては、例えばコンクリートの分野でAE剤(Air Entraining agent)として用いられ、日本工業規格:JIS A 6204「コンクリート用混和剤」に規定されたカルボン酸型AE剤、硫酸エステル型AE剤、スルホン酸型AE剤、エーテル型AE剤、エステルエーテル型AE剤、イミダゾリン型AE剤などを例示することができる。
【0044】
前記の中空シリカは、シリカ系酸化物からなる外殻(シェル)の内部に空洞が1つまたは複数形成されてなる中空状であり、この空洞内に空気を包含してなるシリカ系微粒子であり、その空洞の平均内径は、例えば60nm以下が好ましく、30nm以下が特に好ましい。また、下限は5nm以上が好ましく、10nm以上が特に好ましい。
【0045】
親水性低屈折率層形成用塗布液の溶剤または分散媒は特に制限はなく、前記高屈折率層形成用塗布液に用いられる溶剤または分散媒と同じものを用いることができる。なかでも、水は廉価のうえ、第2の工程における熱処理時の水和反応により親水性低屈折率層3中に水を含ませることができるので好適である。
前記塗膜形成成分の濃度は、製品基体表面に均一な被膜を形成し得る濃度であれば特に制限はないが、塗布容易性の点から、酸化物換算で0.1〜10質量%が好ましい。
親水性低屈折率層形成用塗布液を高屈折率層2上に塗布する塗布法は、前記高屈折率層形成用塗布液の塗布方法と同じ塗布方法を用いることができる。
【0046】
前記第2の工程における熱処理温度は、製品基体1が熱処理に耐え、かつ、高屈折率層2への密着性、膜強度などの物理的特性を確保でき、閉孔形成物質により微細な閉孔が多数、親水性低屈折率層3中に形成される温度であれば特に制限はなく、例えば200℃、好ましくは400℃以上である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例によりさらに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
製品基体として、ソーダライムのガラス基板を用意した。
次に、数平均一次粒子径が約3nmの酸化ジルコニウム微粒子(住友大阪セメント社製のナノジルコニア)を固形分濃度が2質量%になるように水で希釈して、ジルコニア微粒子が分散した高屈折率層形成用塗布液を作製した。
【0048】
さらに、珪酸リチウム45(日本化学工業社製の珪酸リチウム水溶液、SiO2/Li2Oモル比=4.5)および日本工業規格:JIS4号珪酸ナトリウムの1:1(質量比)混合水溶液を固形分濃度が2質量%となるように水で希釈し、さらに閉孔形成物質として炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加して親水性低屈折率層形成用塗布液を作製した。炭酸ナトリウム(Na2CO3)の前記親水性低屈折率層形成用塗布液中における濃度は.1質量%である。
【0049】
そして、高屈折率層形成用塗布液をガラス基板にディップ法でコーティングし、大気雰囲気中、400℃の温度下で30分間熱処理して高屈折率層を形成した。この高屈折率層厚さは100nmであり、屈折率は1.95であった。
その後、親水性低屈折率層形成用塗布液を前記高屈折率層上にディップ法でコーティングし、大気雰囲気中、400℃の温度下で30分間熱処理して酸化ケイ素を含有する親水性低屈折率層を形成した。この親水性低屈折率層の厚さは150nmであり、屈折率は1.40であった。
【0050】
このようにして、高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板を得た。
この高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板について、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、高屈折率層には微細孔は観察されなかったが、親水性低屈折率層には多数の閉孔した微細孔が観察され、その平均径が約20nmであり、その量が親水性低屈折率層の体積に対して、20体積%の多孔質層であった。
【0051】
実施例2
製品基体として、ステンレス板を用意した。
次に、酸化ジルコニウムの前駆体であるジルコニウムテトラブトキシド7質量部、酸化ケイ素の前駆体であるテトラエトキシシラン2質量部、硝酸カルシウム1質量部を、アセト酢酸エチル5質量部、イソプロピルアルコール84質量部、水1質量部の混合溶剤に添加して高屈折率層形成用塗布液を作製した。この高屈折率層形成用塗布液の固形分(酸化物換算)は3質量%であり、固形分(酸化物換算)中の酸化ジルコニウムの割合は70質量%である。
【0052】
さらに、珪酸リチウム45(日本化学工業社製の珪酸リチウム水溶液、SiO2/Li2Oモル比=4.5)および日本工業規格:JIS4号珪酸ナトリウムの2:1(質量比)混合水溶液を固形分濃度が10質量%となるように水で希釈し、さらに閉孔形成物質として濃度80質量%の過酸化水素水を添加して親水性低屈折率層形成用塗布液を作製した。過酸化水素の前記親水性低屈折率層形成用塗布液中における濃度は1質量%である。
【0053】
そして、この高屈折率層形成用塗布液をステンレス板にローラーコート法で塗布し、大気雰囲気中、250℃の温度下で30分熱処理して高屈折率層を形成した。得られた高屈折率層の厚さは50nmであり、屈折率は1.90であった。
その後、親水性低屈折率層形成用塗布液を前記高屈折率層上にローラーコート法で塗布し、大気雰囲気中、250℃の温度下で30分間焼成して親水性低屈折率層を形成した。この親水性低屈折率層の厚さは300nmであり、屈折率は1.38であった。
【0054】
このようにして、高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板を得た。
この高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたステンレス板について、実施例1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、高屈折率層には微細孔は観察されなかったが、親水性低屈折率層には多数の閉孔した微細孔が観察され、その平均径が約40nmであり、その量が親水性低屈折率層の体積に対して、25体積%の多孔質層であった。
【0055】
実施例3
親水性低屈折率層形成用塗布液を珪酸リチウム45(日本化学工業社製の珪酸リチウム水溶液、SiO2/Li2Oモル比=4.5)および日本工業規格:JIS4号珪酸ナトリウムの1:1(質量比)混合水溶液と、2−プロパノールに中空シリカ(空洞の平均内径;20nm)を分散させた分散液(触媒化成工業社製)とを混合して親水性低屈折率層形成用塗布液とし、前記親水性低屈折率層形成用塗布液中における中空シリカの濃度を2質量%としたほかは実施例1と同様にして、高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板を得た。この親水性低屈折率層の厚さは100nmであり、屈折率は1.40であった。
【0056】
この高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板について、実施例1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、高屈折率層には微細孔は観察されなかったが、親水性低屈折率層には多数の閉孔した微細孔が観察され、その平均径が約20nmであり、その量が親水性低屈折率層の体積に対して、20体積%の多孔質層であった。
【0057】
比較例1
親水性低屈折率層形成用塗布液中に閉孔形成物質である炭酸ナトリウムを添加しなかったほかは実施例1と同様にして、高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板を得た。
【0058】
比較例2
親水性低屈折率層形成用塗布液中に閉孔形成物質である過酸化水素水を添加しなかったほかは実施例2と同様にして、高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたステンレス板を得た。
【0059】
比較例3
実施例1の高屈折率層形成用塗布液を、実施例1と同様のガラス基板にディップ法でコーティング処理し、大気雰囲気中、400℃の温度下で30分間熱処理して高屈折率層を形成して、高屈折率層のみが形成されたガラス基板を得た。この高屈折率層厚さは100nmであり、屈折率は1.95であった。
【0060】
比較例4
実施例1の親水性低屈折率層形成用塗布液を、実施例1と同様のガラス基板上にディップ法でコーティング処理し、大気雰囲気中、400℃の温度下で30分間熱処理して親水性低屈折率層のみが形成されたガラス基板を得た。この親水性低屈折率層の厚さは150nmであり、屈折率は1.40であった。
【0061】
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板、ステンレス板などについて、以下のような評価をおこなった。
評価項目及び評価方法は次のとおりであり、その結果を表1に示した。
(1)屈折率:エリプソメーター(J.A. WOOLLAM JAPAN社製)を用いて25℃にて測定した。
(2)反射率:入射角5度の正反射冶具を用いて、550nmの波長の光を入射した際における反射率を分光光度計(日本分光社製、V−570)により測定した。
(3)指紋の目立ちやすさ:付着した指紋について目視により観察した。
(4)指紋のふき取りやすさ:付着した指紋を水拭きし、水拭きした箇所を目視により観察した。
【0062】
(5)水含有度(水和度):100℃で乾燥した後、1000℃の温度下で強熱減量を求め、水含有度(水和度)を算出した。
(6)耐沸騰水性:沸騰水中に24時間浸漬した後、スポンジで親水性低屈折率層表面を擦り、劣化度合いを目視により判定した。
(7)耐アルカリ性:5質量%の水酸化ナトリウム水溶液に室温下で24時間浸漬した後、スポンジで親水性低屈折率層表面を擦り、劣化度合いを目視により判定した。
(8)鉛筆硬度:日本工業規格JIS K 5600−5−4「引っかき硬度(鉛筆法)」に準拠して、親水性低屈折率層における鉛筆硬度を測定した。ここでは、負荷荷重を750gとし、この荷重下で傷が付かなかった鉛筆の硬度を用いて評価した。
(9)水の接触角:親水性低屈折率層上における純水の接触角を、日本工業規格:JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して、協和界面科学社製の接触角計「ドロップマスター」を用いて測定した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示した結果から、実施例1〜3の高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板、ステンレス板では、親水性低屈折率層の屈折率が1.38〜1.40であり、指紋は目立たず、指紋拭き取りも良好であった。また、耐沸騰水製、耐アルカリ性に優れ、膜の硬度も高く強度に優れていた。さらに、水の接触角が10°と親水性に優れており、耐指紋性の効果を長期間持続させることができることを確認した。
これに対し、比較例1、2の高屈折率層および親水性低屈折率層が形成されたガラス基板、ステンレス板では、親水性低屈折率層の屈折率が1.47と高く、指紋拭き取りは良好であったが、指紋が目立つものであった。
【0065】
また、高屈折率層のみを形成し、親水性低屈折率層を形成しなかった比較例3では、指紋が非常に目立つものであり、指紋拭き取りも不良であった。また、膜の硬度も低く強度に劣り、水の接触角も70°と親水性に劣っていた。さらに、親水性低屈折率層のみを形成し、高屈折率層を形成しなかった比較例4では、指紋がやや目立つ程度であったが、耐沸騰水性、耐アルカリ性に劣るものであった。
【0066】
これらの結果から、本発明によれば、耐指紋性に優れ、フッ素含有シラン化合物の防汚層などを設けなくても、指紋が付着し難く、また、指紋が付着しても目立たない、さらには、指紋が付着しても容易に除去が可能な耐指紋性に優れた製品が得られ、製品の視認性などの光学特性や美観が損なわれることがなく、耐指紋性の効果を長期間持続させることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、フッ素含有シラン化合物の防汚層などを設けなくても、指紋が付着し難く、また、指紋が付着しても目立たない、さらには、指紋が付着しても容易に除去が可能な耐指紋性に優れた製品を提供することができ、タッチパネル、テレビモニター、携帯電話などのディスプレイや眼鏡レンズなどに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 製品基体
2 高屈折率層
3 親水性低高屈折率層
4 閉孔した微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品基体表面に当該製品基体側から順に高屈折率層と低屈折率層とが形成された耐指紋性に優れた製品であって、当該低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する親水性低屈折率層であり、かつ屈折率が1.35〜1.45である耐指紋性に優れた製品。
【請求項2】
前記親水性低屈折率層が、リチウムを含有するものである請求項1に記載の耐指紋性に優れた製品。
【請求項3】
製品基体表面に、酸化物微粒子および/または熱処理により酸化物微粒子を生成する前駆体を含有する高屈折率層形成用塗布液を塗布し、熱処理して高屈折率層を形成する第1の工程、当該高屈折率層上に、酸化ケイ素形成物質と閉孔形成物質とを含有する親水性低屈折率層形成用塗布液を塗布し、熱処理して屈折率が1.35〜1.45である親水性低屈折率層を形成する第2の工程を含む耐指紋性に優れた製品の製造方法。
【請求項4】
前記酸化ケイ素形成物質が、シリコンアルコキシドおよび/または珪酸アルカリである請求項3に記載の耐指紋性に優れた製品の製造方法。
【請求項5】
前記閉孔形成物質が、発泡性物質、空気連行剤、中空シリカのうちから選ばれる少なくとも1種である請求項3または4に記載の耐指紋性に優れた製品の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−167744(P2010−167744A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14387(P2009−14387)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】