説明

耐擦傷性樹脂板及びその用途

【課題】耐擦傷性が高い硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル単位60〜95重量%と、マレイン酸無水物単位及びN−置換又は無置換マレイミド単位から選ばれる単位5〜40重量%とを有し、ガラス転移温度が110℃以上であるメタクリル樹脂からなる基板の少なくとも一方の面に、硬化被膜を形成する。硬化被膜は、分子中に少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する化合物を含む硬化性塗料により形成するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦傷性樹脂板及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)などの携帯型電話類が、インターネットの普及とともに、単なる音声伝達機能に加えて、文字情報や画像情報を表示する機能を持った携帯型情報端末として広く普及してきた。また、このような携帯型電話類とは別に、住所録などの機能にインターネット機能や電子メール機能を併せ持つPDA(Personal Digital Assistant)も幅広く使用されている。本明細書では、このような携帯電話やPHS、PDAなどをまとめて“携帯型情報端末”と呼ぶこととする。すなわち、本明細書でいう“携帯型情報端末”とは、人が携行できる程度の大きさであって、文字情報や画像情報などを表示するための窓を有するものを総称する。
【0003】
これらの携帯型情報端末では、液晶やEL(エレクトロルミネッセンス)などの方式により、文字情報や画像情報を表示するようになっているが、その表示窓には、保護板として透明樹脂製のものが一般に用いられており、中でも透明性の点からメタクリル樹脂板が好ましく用いられている(例えば特許文献1〜3参照)。そして、この保護板には、表面の傷付きを防止するため、硬化性塗料により耐擦傷性(ハードコート性)の硬化被膜を設けることが提案されている(同特許文献参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−6764号公報
【特許文献2】特開2004−143365号公報
【特許文献3】特開2004−299199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案されている携帯型情報端末の表示窓保護板では、硬化被膜の耐擦傷性が必ずしも十分なものではなかった。特に、帯電防止性を付与すべく、硬化被膜に導電性粒子を含有させると、耐擦傷性を高めるのが難しかった。
【0006】
そこで、本発明者らは、耐擦傷性が高い硬化被膜を有する、携帯型情報端末の表示窓保護板として好適な耐擦傷性樹脂板を開発すべく、鋭意検討を行った結果、所定の単量体単位組成及びガラス転移温度を有するメタクリル樹脂からなる基板に、硬化被膜を設けることにより、所望の耐擦傷性樹脂板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、メタクリル樹脂からなる基板の少なくとも一方の面に、硬化被膜が形成されてなり、前記メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位60〜95重量%と、マレイン酸無水物単位及びN−置換又は無置換マレイミド単位から選ばれる単位5〜40重量%とを有し、ガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とする耐擦傷性樹脂板を提供するものである。
【0008】
また、本発明によれば、この耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板モ提供され、さらには、携帯型情報端末のみならず、他の携帯型表示機器や設置型の表示機器をも対象とするディスプレイ用保護板も提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐擦傷性樹脂板は、耐擦傷性が高い硬化被膜を有しており、この耐擦傷性樹脂板をディスプレイ用保護板、特に携帯型情報端末の表示窓保護板として用いることにより、その表示窓を効果的に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の耐擦傷性樹脂板は、基板の少なくとも一方の面に、硬化被膜が形成されてなるものである。そして、この基板は、全単量体単位を基準として、メタクリル酸メチル単位60〜95重量%と、マレイン酸無水物単位及びN−置換又は無置換マレイミド単位から選ばれる単位5〜40重量%とを有し、ガラス転移温度が110℃以上であるメタクリル樹脂から構成される。
【0011】
ここで、メタクリル酸メチル単位は、メタクリル酸メチルの重合により形成される単位〔−CH2−C(CH3)(CO2CH3)−〕であり、マレイン酸無水物単位は、マレイン酸無水物の重合により形成される単位〔式(1)〕であり、N−置換又は無置換マレイミド単位は、N−置換又は無置換マレイミドの重合により形成される単位〔式(2)〕である。
【0012】
【化1】

【0013】
式(2)中、R1は水素原子又は置換基を表し、この置換基の例としては、メチル基、エチル基のようなアルキル基、シクロヘキシル基のようなシクロアルキル基、フェニル基のようなアリール基、ベンジル基のようなアラルキル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜20程度である。
【0014】
メタクリル酸メチル単位、マレイン酸無水物単位、及びN−置換又は無置換マレイミド単位は、重合原料として、それぞれ、メタクリル酸メチル、マレイン酸無水物、及びN−置換又は無置換マレイミドを用いることにより、導入することができる。
【0015】
メタクリル樹脂の単量体単位組成は、メタクリル酸メチル単位が、好ましくは65〜95重量%、より好ましくは70〜92重量%であり、マレイン酸無水物単位及びN−置換又は無置換マレイミド単位から選ばれる単位が、好ましくは5〜35重量%、より好ましくは8〜30重量%である。また、メタクリル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは115℃以上であり、また通常150℃以下である。
【0016】
なお、メタクリル樹脂は、必要に応じて他の単位、例えば、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸アダマンチルのようなメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルのようなアクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレンのような芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物などの単量体単位を有していてもよいが、その量は全単量体単位を基準として、通常20重量%までである。
【0017】
メタクリル樹脂又はその原料は、通常の懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの方法で製造することができる。重合には通常、連鎖移動剤やラジカル重合開始剤が用いられ、連鎖移動剤としては、ドデシルメルカプタンやオクチルメルカプタンのようなメルカプタン類が好ましく用いられ、ラジカル重合開始剤としては、有機過化酸化物やアゾ化合物が好ましく用いられる。
【0018】
メタクリル樹脂の重量平均分子量は、成形加工性の点から、通常2万〜50万であり、好ましくは5万〜20万である。
【0019】
上記のメタクリル樹脂からなる基板は、メタクリル樹脂を押出成形することにより、好適に製造される。押出成形は、具体的にはTダイ法やインフレーション法の如き溶融押出法により行うことができる。得られる押出板の表面は平滑であってもよいし、微細な凹凸が設けられていてもよい。平滑性や凹凸形状の付与には、メタクリル樹脂を、例えばTダイから溶融押出しし、得られる板状物の少なくとも片面をロール又はベルトに接触させて製板する方法が、表面性状の良好な板が得られる点で好ましい。とりわけ、押出板の平滑性または形状付与の精密性を向上させる観点からは、メタクリル樹脂を溶融押出して得られる板状物の両面をロール表面又はベルト表面に接触させて成形する方法が好ましい。この際に用いるロール又はベルトは、いずれも金属製であるのが好ましい。したがって、好ましい形態として、上記メタクリル樹脂をTダイから溶融押出しした後、少なくとも1本の鏡面ロールに接触させて、より好ましくは2本の鏡面ロールに接触させて挟み込んだ状態で、成形する方法が挙げられる。また、金属ロールと、弾性を有する金属ロールにより、面で溶融樹脂の両面を接触、通過させる方法は、成形時の歪みを低減させ、強度や熱収縮性の異方性を低減した押出板を得るのに好適である。金属弾性ロールとしては、例えば、軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うように配置され、溶融樹脂に接触する円筒形の金属製薄膜とを備えており、これら軸ロールと金属製薄膜との間に水や油などの温度制御された流体が封入されたものや、ゴムロールの表面に金属ベルトを巻いたものが例として挙げられる。
【0020】
メタクリル樹脂には、必要に応じて他の成分を配合し、メタクリル樹脂組成物として、該組成物からなる基板を得てもよい。例えば、ゴム粒子を配合することにより、得られる基板の耐衝撃性を向上させることができる。
【0021】
また、基板は、必要に応じて多層構成とすることもできる。例えば、ゴム粒子を含む基材層の少なくとも一方の面に、ゴム粒子を含まない表面層を設けることにより、耐衝撃性に優れ、かつ表面の耐熱性に優れるものとすることができる。このような多層構成の基板を製造するには、例えば、複数の押出機と、それらから押し出される樹脂を積層するためのマルチマニホールド方式やフィードブロック方式などの機構とを有する、公知の多層押出機を用いることができる。
【0022】
基板の厚みは、通常0.2〜3mmであり、好ましくは0.25〜2.5mmである。厚みがあまり小さいと、携帯型情報端末の表示窓の表示窓保護板としては、強度ないし剛性が十分でないことがあり、また、厚みがあまり大きいと、携帯型情報端末の表示窓の表示窓保護板としては、デザイン上、適当でないことがある。なお、上記押出板を携帯型情報端末の表示窓の表示窓保護板として用いるに際しては、その表示窓の表面形状に合わせて、平面形状で、又は曲面を有する形状で適用することができる。
【0023】
以上のような、所定の単量体単位組成及びガラス転移温度を有するメタクリル樹脂からなる基板の表面に、硬化性塗料を塗布して硬化させることにより、耐擦傷性の高い硬化被膜を形成することができる。この際、硬化被膜は、基板の両面に設けてもよいし、片面に設けてもよい。片面に硬化被膜を設けた場合は、携帯型情報端末の表示窓保護板とするにあたり、その硬化被膜形成面が外側に向く面となるようにする。また、前述したような、ゴム粒子を含む層と、ゴム粒子を含まない層との積層板であって、両面が異なる材料となっているもの、すなわち、片面がゴム粒子を含む層で、別の片面がゴム粒子を含まない層である積層板の片面に、硬化被膜を設ける場合は、いずれの面に設けることもできる。こうして得られる耐擦傷性樹脂板を携帯型情報端末の表示窓保護板として用いることを想定して、耐衝撃性を重視する場合は、ゴム粒子を含む層の表面に硬化被膜を設け、その面が外側へ向くようにすればよい。一方、保護板の硬度を重視する場合は、ゴム粒子を含まない層の表面に硬化被膜を設け、その面が外側へ向くようにすればよい。一般には、ゴム粒子を含まない硬質層側に硬化被膜を設け、その面が外側へ向くようにするのが好ましい。
【0024】
硬化被膜を形成するのに用いられる硬化性塗料は、耐擦傷性をもたらす各種の硬化性化合物を主成分とし、好ましくは帯電防止性をもたらす導電性粒子を含み、必要に応じて、溶媒、硬化触媒などを混合したものである。本発明によれば、上記所定のメタクリル樹脂からなる基板を用いることにより、硬化被膜が導電性粒子を含む場合でも、その耐擦傷性を高いものとすることができる。
【0025】
まず、硬化性化合物について説明すると、アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、カルボキシル基変性エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、共重合系アクリレート、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテルエポキシ樹脂、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などのなかから、耐擦傷性を付与する効果を有するものを用いればよい。なかでも、高い耐擦傷性をもたらす硬化性化合物として、多官能アクリレート系、多官能ウレタンアクリレート系、多官能エポキシアクリレート系など、ラジカル重合系の硬化性化合物や、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシランなど、熱重合系の硬化性化合物を挙げることができる。これらの硬化性化合物は、例えば、電子線、放射線、紫外線などのエネルギー線を照射することにより硬化するか、あるいは加熱により硬化するものである。これらの硬化性化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
これらの硬化性化合物のなかでも好ましいものは、分子中に少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する化合物である。ここで、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基又はメタクロイルオキシ基をいう。その他、本明細書において、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などというときの「(メタ)」も同様の意味である。
【0027】
分子中に少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ−又はテトラ−(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ−、テトラ−、ペンタ−又はヘキサ−(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ−、ペンタ−、ヘキサ−又はヘプタ−(メタ)アクリレートのような、3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート;分子内にイソシアナート基を少なくとも2個有する化合物に、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーを、イソシアナート基に対して水酸基が等モル以上となる割合で反応させて得られ、1分子中の(メタ)アクリロイルオキシ基の数が3個以上となったウレタン(メタ)アクリレート〔例えば、ジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートの反応により、3〜6官能のウレタン(メタ)アクリレートが得られる〕;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。ここには単量体を例示したが、これら単量体のままで用いてもよいし、例えば2量体、3量体などのオリゴマーの形になったものを用いてもよい。また、単量体とオリゴマーを併用してもよい。
【0028】
少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する硬化性化合物には、市販されているものもあるので、このような市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、“NKハ−ド M101”〔新中村化学工業(株)製品、ウレタンアクリレート系〕、“NKエステル A−TMM−3L”〔新中村化学工業(株)製品、ペンタエリスリトールトリアクリレート〕、“NKエステル A−TMMT”〔新中村化学工業(株)製品、ペンタエリスリトールテトラアクリレート〕、“NKエステル A−9530”〔新中村化学工業(株)製品、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート〕、“NKエステル A−DPH”〔新中村化学工業(株)製品、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〕、“KAYARAD DPCA”〔日本化薬(株)製品、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〕、“ノプコキュア 200”シリーズ〔サンノプコ(株)製品〕、“ユニディック”シリーズ〔大日本インキ化学工業(株)製品〕などが挙げられる。
【0029】
少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する化合物は、硬化性塗料の固形分100重量部あたり、50重量部以上、さらには60重量部以上を占めるように用いるのが好ましい。少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する硬化性化合物の含有量が50重量部未満であると、表面硬度が不十分となるおそれがある。
【0030】
以上説明した分子中に少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する化合物以外に、例えば、以下に示す各種の混合物を硬化性化合物として用いることもできる。これらは、少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する化合物と併用してもよい。
【0031】
マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸のような化合物の組合せによる、飽和又は不飽和二塩基酸と(メタ)アクリル酸の混合ポリエステルなど。
【0032】
硬化性塗料を紫外線で硬化させる場合は、光重合開始剤を使用する。光重合開始剤としては、例えば、ベンジル、ベンゾフェノンやその誘導体、チオキサントン類、ベンジルジメチルケタール類、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、ヒドロキシケトン類、アミノアルキルフェノン類、アシルホスフィンオキサイド類などが挙げられる。光重合開始剤の添加量は、硬化性化合物100重量部に対し、0.1〜5重量部の範囲が一般的である。
【0033】
これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いることができるほか、多くは2種以上混合して用いることもできる。また、これらの各種光重合開始剤は市販されているので、そのような市販品を用いることができる。市販の光重合開始剤としては、例えば、“IRGACURE 651”、“IRGACURE 184”、“IRGACURE 500”、“IRGACURE 1000”、“IRGACURE 2959”、“DAROCUR 1173”、“IRGACURE 907”、“IRGACURE 369”、“IRGACURE 1700”、“IRGACURE 1800”、“IRGACURE 819”、“IRGACURE 784”〔以上のIRGACURE(イルガキュア)シリーズ及びDAROCUR(ダロキュア)シリーズは、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)で販売〕、“KAYACURE ITX”、“KAYACURE DETX−S”、“KAYACURE BP−100”、“KAYACUREBMS”、“KAYACURE 2−EAQ”〔以上のKAYACURE(カヤキュア)シリーズは、日本化薬(株)で販売〕などを挙げることができる。
【0034】
また本発明においては、硬化被膜に帯電防止性を付与するために、硬化性塗料中に導電性粒子を添加するのが好ましい。このために用いる導電性粒子としては、例えば、アンチモンがドープされた酸化錫、リンがドープされた酸化錫、酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛、酸化チタン、ITO(インジウム錫酸化物)などの無機粒子が挙げられる。
【0035】
導電性粒子の粒子径は、粒子の種類によって適宜選択することが可能であり、通常は0.5μm以下のものが使用されるが、得られる硬化被膜の帯電防止性や透明性の観点からは、平均粒子径で0.001μm以上、また0.1μm以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.001μm以上0.05μm以下のものである。導電性粒子の平均粒子径があまり大きいと、得られる耐擦傷性樹脂板のヘイズが大きくなり、透明性が低下することがある。また、導電性粒子の使用量は、硬化性化合物100重量部に対して、通常2〜50重量部程度、好ましくは3〜20重量部程度である。その量があまり少ないと、帯電防止性向上効果が乏しくなる。またその量があまり多いと、硬化被膜の透明性を低下させるおそれがある。
【0036】
かかる導電性粒子は、例えば、気相分解法、プラズマ蒸発法、アルコキシド分解法、共沈法、水熱法などにより製造することができる。また、導電性粒子の表面は、例えば、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、シリコン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などで表面処理されていてもよい。
【0037】
硬化性塗料には、塗料の粘度調整などを目的として、希釈溶媒を用いるが、特に導電性粒子を添加する場合には、その分散のために必要である。導電性粒子を用い、かつ溶媒を用いる場合には、例えば、導電性粒子及び溶媒を混合して、溶媒中に導電性粒子を分散させた後、硬化性化合物と混合してもよいし、硬化性化合物と溶媒を混合した後、そこに導電性粒子を加えて混合してもよい。
【0038】
溶媒は、硬化性化合物を溶解することができ、かつ塗布後に揮発し得るものであればよく、また塗料成分として導電性粒子を用いる場合は、それを分散させることができるものであればよい。例えば、ジアセトンアルコール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノールのようなアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコールのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類、水などが挙げられる。硬化性塗料における溶媒の使用量に特別な限定はなく、硬化性化合物の性状などに合わせて、適切な量で使用することができる。
【0039】
また、この硬化性塗料には、公知のレベリング剤を添加してもよい。レベリング剤としては、例えば、シリコーンオイル系のものなどが例示できる。シリコーンオイルとしては通常のものが使用でき、具体的には、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル、シラノール基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル、フェノール基含有シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどが例示される。これらのレベリング剤は市販されているので、市販品を用いることができる。市販のレベリング剤としては、例えば、“SH200−100cs”、“SH28PA”、“SH29PA”、“SH30PA”、“ST83PA”、“ST80PA”、“ST97PA”、“ST86PA”〔以上いずれも東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)で販売〕などを挙げることができる。これらのレベリング剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。レベリング剤の使用量は、硬化性塗料の特性に応じて適宜選択されるが、一般的には硬化性化合物100重量部に対し、0.01〜5重量部程度である。
【0040】
このようにして、硬化性化合物に、好ましくは導電性粒子、及び必要に応じて溶媒、レベリング剤、光重合開始剤などを混合して得られる硬化性塗料は、基板の表面に塗布して硬化性塗膜とし、引き続いて硬化させることにより、表面に耐擦傷性の硬化被膜が形成された耐擦傷性樹脂板とすることができる。
【0041】
基板に硬化性塗料を塗布して硬化性塗膜とする場合には、例えば、バーコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、ダイコート法、スプレーコート法など、公知のコート方法により塗布すればよい。かくして、基板の表面に硬化性塗膜が形成される。その後、硬化性塗料の種類に応じ、紫外線、電子線などのエネルギー線を照射するか、又は加熱することにより、硬化性塗膜を硬化させ、耐擦傷性の硬化被膜が形成される。
【0042】
エネルギー線を照射して硬化させる場合のエネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、放射線などが挙げられ、その強度や照射時間などは、用いる硬化性塗料の種類に応じて適宜選択される。また、加熱により硬化させる場合の加熱温度や加熱時間などは、用いる硬化性塗料の種類に応じて適宜選択されるが、加熱硬化の場合には、基板が変形などを起こさないよう、一般的には100℃以下の温度が好ましい。硬化性塗料が溶媒を含有する場合には、塗布後、溶媒を揮発させた後に硬化性塗膜を硬化させてもよいし、溶媒の揮発と硬化性塗膜の硬化とを同時的に行ってもよい。
【0043】
硬化被膜の厚みは、0.5〜50μm程度であるのが好ましく、さらに好ましくは1〜20μm程度である。硬化被膜の厚みがあまり大きいと、亀裂が生じやすくなり、あまり小さいと、耐擦傷性が不十分となる傾向にある。
【0044】
得られた耐擦傷性樹脂板には、その表面に、コート法やスパッタ法、真空蒸着法など、公知の方法により反射防止処理を施すこともできる。また、別途作製した反射防止性のシートを上記の耐擦傷性樹脂板の片面又は両面に貼合して、反射防止効果を付与することも可能である。
【0045】
かくして得られる耐擦傷性樹脂板は、耐擦傷性が高く、帯電防止性も備えた硬化被膜を有しているため、各種用途に用いることができ、中でも、携帯型情報端末の表示窓保護板として好適であるが、その他、デジタルカメラやハンディ型ビデオカメラなどのファインダー部、携帯型ゲーム機の表示窓保護板など、また、家庭用や業務用のテレビの画面保護板など、携帯型情報端末のみならず、他の携帯型表示機器や設置型の表示機器をも対象とするディスプレイ用保護板として用いることもできる。とりわけ本発明の耐擦傷性樹脂板は、携帯電話、特に表示窓を含む表示部が、不使用時には折りたたまれて操作ボタン部を覆う構造となった携帯電話の表示窓保護板に対して、有利な効果を発揮する。
【0046】
本発明の耐擦傷性樹脂板から、ディスプレイ用保護板を作製するには、まず必要に応じ、印刷、穴あけなどの加工を行い、必要な大きさに切断処理すればよい。しかるのちに、ディスプレイにセットすれば、耐擦傷性の高いディスプレイとすることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0048】
実施例1
(A1)メタクリル樹脂の調製
撹拌機の備わったオートクレーブに、懸濁分散剤を含む純水100部、メタクリル酸メチル78部、アクリル酸メチル2部、N−シクロヘキシルマレイミド20部、n−オクチルメルカプタン0.15部、及びラウロイルパーオキサイド0.4部を加え、この混合物を撹拌しながら窒素で雰囲気を置換した後、80℃に加熱し重合を行った。2時間後に温度を95℃に上げ、更に1時間重合を行い反応を完結させた。その後、重合物を冷却、遠心分離、水洗して80℃で乾燥を行った。このメタクリル樹脂は、ガラス転位温度が121℃であった。なお、ガラス転移温度は、JIS K7121に従い、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で求めた補外ガラス転移開始温度である。
【0049】
(B)メタクリル樹脂押出板の作製
上記(A)で得たメタクリル樹脂のペレットを、65mmφ一軸押出機〔東芝機械(株)製〕を用い、T型ダイを介して押し出し、ポリシングロールに両面が完全に接するようにして冷却し、厚さ0.8mmのメタクリル樹脂押出板を得た。
【0050】
(C)硬化性塗料の調製
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〔新中村化学工業(株)から販売されている“NKエステル A−DPH”〕27.7部、光重合開始剤〔チバスペシャリティーケミカルズ(株)のIRGACURE 184〕1.5部、5酸化アンチモン微粒子ゾル〔触媒化成工業(株)のELCOM−7514;固形分濃度20%〕12部、イソブチルアルコール29.4部、1−メトキシ−2−プロパノール29.4部、及びシリコーンオイル〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)から販売されている“SH28PA”〕0.045部を混合して、硬化性塗料を調製した。
【0051】
(D)耐擦傷性樹脂板の作製
上記(C)で得た硬化性塗料を、ディッピング装置を用いて、上記(B)で得たメタクリル樹脂押出板の両面に塗布した後、室温で1分間乾燥して、塗膜を押出板の表面に形成した。次いで、45℃の熱風オーブン内で10分間乾燥して溶媒を揮発させた後、この塗膜に、120Wの高圧水銀ランプを用いて、0.5J/cm2の紫外線を照射して硬化させ、耐擦傷性樹脂板を得た。この耐擦傷性樹脂板について、以下の評価を行い、結果を表1に示した。
【0052】
〔全光線透過率(Tt)及びヘイズ(Haze)〕
JIS K7361−1に従って全光線透過率(Tt)を測定し、JIS K7136に従ってヘイズ(Haze)を測定した。
【0053】
〔硬化被膜の厚さ〕
両面の硬化被膜それぞれについて、高速顕微膜厚計〔大塚電子(株)社製、MS−2000〕を用いて測定した。
【0054】
〔スチールウール硬度試験〕
両面の硬化被膜それぞれについて、スチールウール#0000を500g/cm2の荷重で往復させ、硬化被膜に傷が生じるまの往復回数を、10回毎に判定した。
【0055】
〔表面抵抗〕
ASTM−D257に従って測定した。
【0056】
〔加工性〕
フライスルーター(朝日メガロ株式会社製、FR500)を用いて試験片を切断し、その切断面及び周辺の切り粉の付着具合を目視で観察し、切り粉の付着がないものを○、切り粉の付着があるものを×とした。
【0057】
実施例2
(A2)メタクリル樹脂の調製
撹拌機の備わったオートクレーブに、懸濁分散剤を含む純水100部、メタクリル酸メチル82部、α−メチルスチレン12部、無水マレイン酸6部、n−オクチルメルカプタン0.15部、及びラウロイルパーオキサイド0.4部を加え、この混合物を撹拌しながら窒素で雰囲気を置換した後、80℃に加熱し重合を行った。2時間後に温度を95℃に上げ、更に1時間重合を行い反応を完結させた。その後、重合物を冷却、遠心分離、水洗して80℃で乾燥を行った。このメタクリル樹脂は、ガラス転位温度が113℃であった。
【0058】
上記(A2)で得たメタクリル樹脂を用いて、実施例1(B)〜(D)と同様の操作を行った。得られた耐擦傷性樹脂板の評価結果を表1に示した。
【0059】
比較例1
(A3)メタクリル樹脂の調製
メタクリル酸メチル99部及びアクリル酸メチル1部からなるモノマーを、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタンをモノマー100部に対して0.3部、ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルをモノマー100部に対して0.15部用いて、懸濁重合させることにより、メタクリル樹脂のビーズを得た。このメタクリル樹脂は、ガラス転位温度が104℃であった。
【0060】
上記(A3)で得たメタクリル樹脂を用いて、実施例1(B)〜(D)と同様の操作を行った。得られた耐擦傷性樹脂板の評価結果を表1に示した。
【0061】
比較例2
(A4)メタクリル樹脂の調製
メタクリル酸メチル93部及びアクリル酸メチル7部からなるモノマーを、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタンをモノマー100部に対して0.25部、ラジカル重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイドをモノマー100部に対して0.25部用いて、懸濁重合させることにより、メタクリル樹脂のビーズを得た。このメタクリル樹脂は、ガラス転位温度が96℃であった。
【0062】
上記(A4)で得たメタクリル樹脂を用いて、実施例1(B)〜(D)と同様の操作を行った。得られた耐擦傷性樹脂板の評価結果を表1に示した。
【0063】
比較例3
実施例1(C)で得た硬化性塗料に代えて、下記(C’)により調製した塗料を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた耐擦傷性樹脂板の評価結果を表1に示した。
【0064】
(C’)硬化性塗料の調製
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〔新中村化学工業(株)から販売されている“NKエステル A−DPH”〕30部、光重合開始剤〔チバスペシャリティーケミカルズ(株)のIRGACURE 184〕1.5部、イソブチルアルコール32部、及び1−メトキシ−2−プロパノール32部、及びシリコーンオイル〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)から販売されている“SH28PA”〕0.045部を混合して、硬化性塗料を調製した。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂からなる基板の少なくとも一方の面に、硬化被膜が形成されてなり、前記メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位60〜95重量%と、マレイン酸無水物単位及びN−置換又は無置換マレイミド単位から選ばれる単位5〜40重量%とを有し、ガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とする耐擦傷性樹脂板。
【請求項2】
基板の厚さが0.2〜3mmである請求項1に記載の耐擦傷性樹脂板。
【請求項3】
硬化被膜が、分子中に少なくとも3個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する化合物を含む硬化性塗料により形成された被膜である請求項1又は2に記載の耐擦傷性樹脂板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐擦傷性樹脂板からなるディスプレイ用保護板。

【公開番号】特開2009−248361(P2009−248361A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95861(P2008−95861)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】