説明

耐火性窓ガラスの製造方法

35から43重量%の水を含有するケイ酸塩系中間層を備え、優れた物性を有する耐火性窓ガラスを現場打ち法を用いて製造し得る。中間層の含水量は、ケイ酸塩溶液を濃縮することにより、又はシリカをシリカゾルの形態で導入することにより減らせる。水性ゾルと有機ゾルとの混合物を用いるのが好ましい。ポリヒドロキシ化合物と糖類とを中間層に添合してその物性を改善し、含水量を減らすことができる。ケイ酸塩系配合物は注入可能で、現場打ち製造法に用い、次いで硬化して光学的に透明な中間層を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性の窓ガラス(glazing)と、耐火性窓ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、耐火性窓ガラスは、少なくとも二つの透明な窓枠と、少なくとも一つの耐火性中間層とを有する積層構造体からなる。ポリカーボネートのような他の透明材料を使用し得るが、透明な窓枠は通常ガラス窓枠である。中間層は光学的に透明でなければならず、窓ガラスの製品寿命を通して変色することなく透明でなければならない。これはまた、窓ガラスの耐火性を改善するように機能しなければならない。
【0003】
多くの国で、特定部位で使用するために必要な耐火性を指定する規則が存在する。一般に、かかる規則は、窓ガラスの片側が火災に曝された際に窓ガラスが火炎の伝播に対して障壁を形成すべき最小時間および/または火災に曝されない側の窓ガラス上の輻射熱の温度及び/又は強度が特定数量以下に留まるべき最小時間のどちらかを指定する。ガラス窓枠は、これら必要条件のいずれか又は全てを満たすことはなく、現在までに開発された耐火性窓ガラスは、少なくとも二枚の対向ガラス窓枠間に少なくとも一つの中間層を有する積層窓ガラスである。
【0004】
開発された中間層の一種は、アルカリ金属ケイ酸塩水ガラスに基づく。かかるケイ酸塩層は、熱への暴露により膨張し、不透明な泡を形成する。この泡が、ガラス窓枠の保持を助け、輻射熱に対する障壁として機能する。
【0005】
ケイ酸塩系中間層を形成する方法の一つは、ガラス窓枠の表面に水ガラス溶液を注ぎ、該溶液を制御された条件下で乾燥してガラス上に薄膜を形成することにある。第二の窓枠を乾燥した中間層の上に置いて耐火性窓ガラスを形成することができる。かかる処理は、ピルキントン・グループ社から商標名PYROSTOPおよびPYRODURで販売されているような耐火性窓ガラスの製造に使用されている。
【0006】
耐火性窓ガラスの第二の製造方法は、溶液を二枚の対向窓枠間のスペースに注入し、硬化して中間層を形成する所謂現場打ち法である。現場打ち法では、溶液の含水量が硬化した中間層で維持される。この高い含水量は、火災中に多量の熱を吸収することができるが、発生した蒸気が窓ガラスの破損をもたらす場合がある。現場打ち法に固有の難点は、二枚の対向ガラス窓枠間のスペースに注入すべき溶液が十分に低い粘度を有する必要性と、該溶液を硬化して窓ガラスの製品寿命を通して所定位置に維持するに十分に硬い中間層を形成する必要性との間のバランスである。
【0007】
特許文献1には、耐火性ガラスの製造用の現場打ち法が開示され、ここでアクリルアミド重合体および粒子状金属酸化物を備える水性ゲルからなる中間層が、アクリルアミド単量体、粒子状金属酸化物および光重合開始剤を備える分散液をガラス窓枠間に導入し、該分散液を照射して単量体を重合することにより製造される。
【0008】
特許文献2には、現場打ち法を用いてケイ酸塩系中間層を有する耐火性窓ガラスの製造方法と、該方法によって製造した窓ガラスとが開示されている。中間層は、二酸化ケイ素対アルカリ金属酸化物のモル比が4:1より大きく、含水量が重量で少なくとも約44%〜60%であるアルカリ金属ケイ酸塩を備える溶液を2個のガラス窓枠間に注入することにより製造される。該溶液は、硬化剤としてケイ酸を含む。注入後、自己硬化してポリケイ酸塩を形成するまで、かかる組成を放置することができる。
【0009】
特許文献3には、現場打ち法を用いてケイ酸塩系中間層を有する耐火性窓ガラスの製造方法と、該方法によって製造した窓ガラスとが開示され、ここで中間層が、少なくとも35重量%のナノ粒子状シリカと、10〜60重量%のポリオールのような多官能化合物と、1〜40重量%の溶媒、好ましくは水とを備える溶液を2個のガラス窓枠間に注入することにより得られる。かかる溶液は、シリカ粒子と、ポリオール及び水を備えるミルク状ゾルを形成し、該ゾルにアルカリ金属水酸化物を添加することにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第590978号明細書
【特許文献2】欧州特許第620781号明細書
【特許文献3】欧州特許第981580号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、ケイ酸塩水溶液をシリカゾルと一緒にして従来使用されていたものよりも低い含水量を有する混合物を形成することを備える現場打ち法を用いたケイ酸塩系中間層を有する耐火性窓ガラスの新規な製造方法を見い出した。この減少した含水量は、特に中間層が崩落する傾向の減少を示し、優れた耐火特性も示し得る限り、優れた特性を有する耐火性窓ガラスの製造を可能とする。
【0012】
従って、本発明の第一態様は、ケイ酸塩系中間層を備える耐火性積層窓ガラスの製造方法を提供するもので、該中間層がアルカリ金属ケイ酸塩溶液とシリカゾルとを含む混合物を二枚の対向ガラス窓枠間の空洞に注入し、該混合物を乾燥することなく硬化することにより形成され、前記混合物の含水量が35重量%から43重量%であることを特徴とする。好ましい方法では、混合物の含水量が38重量%から42重量%である。
【0013】
本発明者らは、前記混合物の含水量を二方法のどちらかもしくは両方の組み合わせを用いて減少し得ることを見出した。第一方法では、既知の方法で用いる水性シリカゾルの少なくとも一部を有機シリカゾルに置き換える。第二方法では、アルカリ金属ケイ酸塩溶液の含水量を減ずる。驚くべきことに、本発明者らは、これら濃縮したケイ酸塩溶液、シリカゾルおよびこれらを含む混合物が透明で、注入性を製造過程で有用な十分な時間保留し、放置により硬化して優れた特性を有する透明な中間層を生成することを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の組成に有用な有機シリカゾルは、シリカ粒子の非水性溶媒分散液からなる。かかるゾルは、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%の固形材料を含む。
【0015】
溶媒は、所望量のシリカを分散し得る非水性溶媒とすることができる。光学的に透明で、安定な中間層へ導入可能な溶媒であるのが好ましい。有用な溶媒を例示すると、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびトリメチロールプロパンがある。
【0016】
シリカ粒子は、7nmから50nmの範囲の平均粒径を有するのが好ましい。これら粒子はゾル中でより容易に分散し、中間層に添合した際に光を散乱しない。有機シリカゾルは、有機修飾シリカを含むのが好ましい。かかる分散液は、商品として入手し得る。これは、乾燥形態で予期されるSi−OH吸収ピークより小さいピークを示すことにより特徴付けられる。これは、シリカ粒子の水溶性系を形成し、存在する水の一部を除去し、有機材料で置換することによって製造することができる。有機修飾シリカは、シリカ粒子を有機媒体に分散することにより調製したものより一層均一な粒径を有する。本発明の中間層への有機修飾シリカの添合は、優れた耐火性能を有する製品をもたらす。有機修飾シリカゾルの使用はまた、本発明の好ましい態様を示す。
【0017】
有機シリカゾルを水性シリカゾルと組み合わせて用いるのが好ましい。かかる水性ゾルはまた、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、もっとも好ましくは少なくとも50重量%のシリカ固形分を有する。これはまた、7nmから50nmの粒径を有するシリカ粒子を含むのが好ましい。
【0018】
有機シリカゾルと水性シリカゾルの相対的割合は、これらをケイ酸塩溶液に添加した際に生ずる混合物が透明で注入可能であることを確実にするように調整される。水性ゾルの使用量は、所望量の水を含む中間層を形成するようなものである。一般に、水性ゾルの形態で導入されるシリカ粒子の重量は、非水性ゾルの形態で導入されるものと等しいか、又はそれ以上である。水性ゾルの形で導入される重量は、通常粒状シリカの総重量の75重量%以下である。
【0019】
シリカゾルをアルカリ金属ケイ酸塩溶液と一緒にし、ここで二酸化ケイ素対アルカリ金属酸化物のモル比が4:1未満である。シリカゾルの添加量は、混合物中の二酸化ケイ素対アルカリ金属酸化物のモル比が少なくとも4:1、好ましくは少なくとも4.5:1であるようなものとするのが好ましい。
【0020】
ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム若しくはケイ酸カリウム又はその混合物とすることができる。ケイ酸塩はケイ酸カリウムであることが好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩溶液は商品として入手し得、そのうちの一つを都合よく用いることができる。二酸化ケイ素対酸化ナトリウムのモル比が2:1から4:1であるケイ酸ナトリウムを商品として入手し得、二酸化ケイ素対酸化カリウムのモル比が1.4:1から2.0:1であるケイ酸カリウムも同様である。
【0021】
これら市場で入手し得る溶液は、一般に30重量%から52重量%の固形材料を含む。これを、二酸化ケイ素対アルカリ金属酸化物の所要モル比を付与する量でシリカゾルと混合する。これは蒸発により濃縮しても良い。本発明の使用に好ましいケイ酸カリウム溶液の場合、該溶液を62重量%の固形材料のレベルまで濃縮することができる。
【0022】
35から43重量%の水と、2から20重量%の有機材料とを含有するケイ酸塩水溶液並びに該溶液を硬化することよって得た中間層は、新規なもので、本発明の第二態様を構成する。該溶液は、2から15重量%、より好ましくは2から12重量%の有機材料を含有するのが好ましい。
【0023】
有機材料を有機シリカゾルの形で中間層配合物に添合するか、又は該配合物に添加しても良い。エチルグリコール又はグリセロールを含有する有機シリカゾルは、本発明での使用に好適である。有機材料は、火炎に曝される間中間層の特性を修正するために、有用に添加することができる。
【0024】
エチレングリコールおよびグリセロールのような化合物は、中間層用の可塑剤として働き、所望の耐火度を示すには脆すぎる場合の中間層に有効に添合することができる。中間層は、好ましくは15重量%まで、より好ましくは2から10重量%のグリセロールまたエチルグリコールを含む。ソルビトール、キシリトール又はマンニトールのような糖類は、中間層の含水量を減らし、中間層内で水を結合し、窓ガラスの耐火性を改善するように働く。好ましい中間層は、0から10重量%の糖類を含む。
【0025】
配合物を、通常はガラス窓枠である二枚の対向窓枠間に形成された空洞へ注入する。ガラス窓枠は、2.0から8.0mmの厚さを有するフロートガラス窓枠であるのが好ましい。窓枠は、少なくとも一方の表面に熱反射塗膜を有することができる。かかる塗膜を有するガラス窓枠は、当業界で既知で、商品として入手し得る。使用し得る塗布ガラスの一例として商標K Glassとしてピルキントン・グループより販売される低放射ガラスがある。フロートガラス窓枠は、強化ガラス窓枠であるのが好ましい。窓枠はまた、ホウケイ酸塩ガラスか、又は日本電気硝子株式会社よりファイアライトの商標で販売されているもののようなセラミックガラスにから形成しても良い。
【0026】
空洞の短辺側を、窓枠の周辺の周りに延在する適当なシーラントを用いて閉鎖する。窓枠間のスペースの幅は、好ましくは2mmから12mmの範囲、より好ましくは2から8mm、最も好ましくは3mmから6mmである。配合物を脱泡ステップに施し、次いでシーラント中の開口を介して空洞へ注入する。空洞が満たされたとき、開口を閉じ、配合物を硬化させ得るに十分な時間窓ガラスを放置する。この硬化は、窓ガラスを高温、即ち50から90℃に加熱することにより促進しても良い。
【実施例】
【0027】
本発明を次の例により説明する。エチルグリコールをシリカゾルおよび糖類と予め混合することにより、表1に示すような組成を有する配合物を調製した。かかる予混合ゾルを、室温で撹拌しながらケイ酸カリウム溶液に呈上速度で添加した。該溶液を減圧下脱気し、3mmの空洞を有する5mmの強化ガラスからなるセル内に注型した。この溶液を高温で硬化して固形中間層を形成する。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属ケイ酸塩溶液とシリカゾルとを含有する混合物を二枚の対向ガラス窓枠間の空洞へ注入し、該混合物を乾燥することなく硬化させることにより形成したケイ酸塩系中間層を備え、前記混合物の含水量が35重量%から43重量%であることを特徴とする耐火性積層窓ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記混合物の含水量が38重量%から42重量%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリカゾルが水溶性シリカゾルと有機シリカゾルとの混合物からなる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゾルが少なくとも30重量%の固形材料を含む請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ゾルが少なくとも50重量%の固形材料を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記シリカゾルが7から50nmの平均粒径を有する粒子からなる前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属ケイ酸塩溶液が40重量%から62重量%の水を含む前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属ケイ酸塩がケイ酸カリウムである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ケイ酸カリウムが少なくとも1.4:1のSiO2対M2Oのモル比を有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Mが前記混合物中のアルカリ金属陽イオンであるSiO2対M2Oのモル比が少なくとも4:1である前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記SiO2対M2Oのモル比が少なくとも4.5:1である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも一つの中間層と、少なくとも二つの透明な窓枠とを備え、前記中間層がアルカリ金属ケイ酸塩と、35から43重量%の水と、2から20重量%の有機材料とを含むことを特徴とする耐火性積層窓ガラス。
【請求項13】
前記アルカリ金属が少なくとも4.0:1.0のSiO2対M2Oモル比を有し、Mがアルカリ金属である請求項12に記載の窓ガラス。
【請求項14】
前記SiO2対M2Oモル比が少なくとも4.5:1.0である請求項13に記載の窓ガラス。
【請求項15】
前記アルカリ金属ケイ酸塩がケイ酸カリウムである請求項12から14のいずれかに記載の窓ガラス。
【請求項16】
前記中間層が2から15重量%の有機材料を含む請求項12から15のいずれかに記載の窓ガラス。
【請求項17】
前記中間層が2から12重量%の有機材料を含む請求項16に記載の窓ガラス。

【公表番号】特表2010−508224(P2010−508224A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533960(P2009−533960)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050662
【国際公開番号】WO2008/053247
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(591229107)ピルキントン グループ リミテッド (82)
【Fターム(参考)】