説明

耐火物の評価方法

【課題】耐火物の実際の使用状況に近似した条件で耐火物の特性を正確に評価できる耐火物の評価方法を提供する。
【解決手段】カーボン素材からなる容器200内に収納可能な大きさに評価対象となる耐火物を加工して耐火物試験体500を形成する。試験体500をシリカアルミナ系接着剤700にて容器200の底面210に接着する。容器200内に溶銑600を投入する。容器200内の溶銑600に加圧する。試験体500を取り出してこの耐火物試験体500への溶銑浸透度を確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物の評価方法に関する。例えば、溶銑と接する耐火物の損耗特性を実験室レベルで評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑、溶鋼等の溶融金属や溶融スラグなどに接する場所に用いられる耐火物は、酸化、浸食、溶解等によって不可避的に損耗が生じる。したがって、こうした耐火物については、損耗量に着目した特性評価が必要であり、特許文献1には耐火物の試験方法が開示されている(図5参照)。
特許文献1に開示の耐火物試験方法では、まず、耐火物試験材20を中空の環状に形成し、この耐火物試験材20をるつぼ10の内側に配置する。耐火物試験材20の内側に溶銑または溶銑スラグ30を流し込む。さらに、るつぼ10と耐火物試験材20との間40に冷却ガス(窒素ガス)を流通させて耐火物試験材20に温度勾配をつける。高周波誘導による溶解炉(不図示)中にるつぼ10をセットし、るつぼ10を昇温させる。
この状態で所定時間経過した後、耐火物試験材20の損耗量を確認する。
【0003】
【特許文献1】特開2000−39412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高炉の炉底において使用される耐火物には所定の圧力がかかった状態となる。この点、特許文献1に記載の耐火物の試験方法では溶銑に圧力を付加することが考慮されていない。
また、特許文献1に開示される構成では、環状の耐火物試験材20に注入された溶銑スラグ30に加圧しても耐火物試験材20の全体に均等に加圧できず、実際に耐火物が使用される状況と実験条件は全く異なったものとなってしまう。さらに、特許文献1のごとく、耐火物を中空の円環状に加工した耐火物試験材20を用いる場合、耐火物を加工する段階で亀裂等の損傷が発生しやすい。すると、このような亀裂から溶銑が耐火物試験材20に浸透してしまうので、耐火物そのものの損耗特性を正確に評価することができない。
【0005】
本発明の目的は、耐火物の実際の使用状況に模した条件で耐火物の特性を正確に評価できる耐火物の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐火物評価方法は、耐火物への溶銑浸透度を評価する耐火物評価方法であって、曲げ強さが15MPa以上かつ弾性率が10GPa以下である素材からなる容器内に収納可能な大きさに評価対象となる耐火物を加工して耐火物試験体を形成する試験体形成工程と、前記試験体形成工程にて形成された耐火物試験体を接着剤にて前記容器の底面に接着する試験体接着工程と、前記容器内に溶銑を投入する溶銑投入工程と、前記容器内の前記溶銑に加圧する加圧工程と、前記耐火物試験体を取り出してこの耐火物試験体への溶銑浸透度を確認する評価工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このような構成において、まず、試験体形成工程において耐火物を所定の大きさに加工する。このとき、試験体が容器内に収納可能であればよいので、試験体の形状は単純な円柱や角柱でよい。そして、試験体接着工程において、試験体を容器の底面に接着し、さらに、容器内に溶銑を投入する。
このとき、耐火物の比重は溶銑よりも圧倒的に小さいが、試験体は容器の底面に接着されているので、試験体が浮かび上がってきたりすることなく試験体が溶銑中に没入した状態が保たれる。さらに、容器内の溶銑に加圧する。
このとき、容器は、曲げ強さが15MPa以上かつ弾性率が10GPa以下である素材であり、靱性および柔軟性を備えているので、加圧しても容器に亀裂が入るような不都合が生じることはない。そして、所定時間経過したのち、冷却して耐火物試験体を取り出し、試験体への溶銑侵入度を評価する。
たとえば、所定時間溶銑中に没入させた試験体のサンプルを切断し、X線撮影によるFe成分の浸透深さを測定することにより、溶銑の浸透度合いを評価することができる。
【0008】
このような構成によれば、耐火物を試験体として加工する際に単純な形状とすることができるので、試験体を形成する際に亀裂等が生じるおそれを排除することができる。
従って、亀裂等から溶銑が浸透することがなく、耐火物そのものの溶銑浸透度を適切に評価することができる。また、試験体を接着材によって容器の底面に貼り付けているので、試験体が溶銑中に没入した状態を保つことができる。そして、試験体が溶銑に没入した状態で溶銑に加圧することで、試験体に均等に圧力がかかる。よって、試験体の総ての表面から均質に溶銑の浸透が起こるので、局所的な圧力の高低差に起因する浸透度の違いが生じることがなく、試験体の評価を適切かつ正確に行うことができる。そして、従来と異なり、試験体で容器を形成するわけではないから、容器を圧力に耐えられる強い素材で形成することができる。その結果、十分に加圧でき、高炉の炉底など耐火物の使用状態を再現することができ、耐火物の正確な評価を行うことができる。
【0009】
なお、接着材としては、アルミナ微粉を水ガラスで溶いたものを使用することができる。例えば、アロンセラ(登録商標)を使用することができる。
【0010】
また、容器の曲げ強さの上限は特に定めるものではないが、通常使用される素材では30MPaを超えるものがないので、上限は30MPa程度が例示される。弾性率の下限値は1GPa未満になると容器が変形しやすくなるので、1GPa以上とすることが好ましい。
【0011】
本発明では、前記容器は、カーボン素材にて形成されていることが好ましい。
【0012】
このような構成において、容器をカーボン素材とすることにより、対溶銑性、靱性、柔軟性を備えた容器を得ることができ、本発明の耐火物評価方法に好適な容器を得ることができる。
【0013】
なお、骨材と結合材とのそれぞれの弾性率としては、骨材の弾性率を10GPa以上とし、結合材の弾性率を骨材の弾性率の10分の1(すなわち1GPa以上)程度とすることが例として挙げられる。
結合材としては、微粉のカーボン、SiO、SiCなどが例として挙げられる。
【0014】
本発明では、前記耐火物は、骨材の弾性率と結合材との弾性率が異なる材料から構成されていることが好ましい。
【0015】
このような構成において、骨材と結合材の弾性率が異なる材料は加工が困難であるが、本発明では、耐火物を単純な形状に切り出せばよいので、加工時に試験体に亀裂等が生じる恐れがない。
近年では、耐火物として、アルミナ−シリカ系や、アルミナ−カーボン−SiC系などが使用されてきているところ、これらは硬質で粗粒の骨材を含有しており、容器の形状に加工することは非常に困難であった。
この点、本発明では、耐火物を単純な形状に切り出すだけでよいので、耐火物に粗粒が含まれていても簡便に試験体の形状に加工することができ、正確に耐火物の溶銑浸透度を評価することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐火物を試験体として加工する際に単純な形状とすることができるので、試験体を形成する際に亀裂等が生じるおそれを排除することができ、亀裂等から溶銑が浸透することがなく、耐火物そのものの溶銑浸透度を適切に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
本発明の耐火物評価方法にかかる実施形態について説明する。
図1は、この耐火物評価方法に使用される耐火物評価装置100の全体図である。
耐火物評価装置100は、内側に試験体500と溶銑600とを収容可能な容器200と、この容器200の外側から加熱する加熱手段300と、容器200内の溶銑600に加圧する加圧手段400と、を備えている。
【0018】
図2は、容器200の拡大図であり、図3は、容器200内に試験体500を接着する様子を示す斜視図である。
容器200は、カーボン素材で形成されており、曲げ強さが15MPa以上かつ弾性率が10GPa以下である。
なお、容器200の開口部220は、段差をもって拡径する形状である。
容器200内には、耐火物を円柱形状に切り出した試験体500が収納され、さらに、試験体500はアルミナシリカ系の接着材によって容器200の底面210に接着されている。そして、試験体500が底面210に接着された状態で容器200内に溶銑600が投入されている。
【0019】
加熱手段300は、容器の周囲を囲んで配設された誘導コイル310を備え、高周波電流の印加により容器200を外側から加熱する。
【0020】
加圧手段400は、アルゴン等の不活性ガスを容器200内に注入するノズル410を備えている。このノズル410の下端420が容器200の開口部220を閉塞している。
なお、ノズル410は、下方に向けて押圧されており、容器200を密閉状態とする。そして、ノズル410からガスが容器内に注入されることにより、溶銑600に圧力が加えられる。
【0021】
このような構成を備える耐火物試験装置100によって耐火物を評価する耐火物評価方法の手順について説明する。
まず、容器200内に収納可能な大きさに評価対象となる耐火物を加工して耐火物試験体500を形成する(試験体形成工程)。そして、耐火物試験体500をシリカアルミナ系接着剤700により容器200の底面210に接着する(試験体接着工程、図3参照)。続いて、容器200内に溶銑600を投入する(溶銑投入工程)ノズル410によって容器200を密閉し、ノズル410から容器200内にアルゴン等の不活性ガスを注入して容器200内の溶銑600に加圧する(加圧工程)。同時に、加熱手段300の誘導コイル310に高周波電流を印加して、容器200を外側から加熱する。
この状態を所定時間継続する。すると、例えば、図4に示されるように、耐火物試験体500に溶銑が浸透(501)する。
ここで、実験条件としては、0.5MPa、1500℃とし、継続時間を4時間とすることが例として挙げられる。
時間経過後、耐火物試験体500を取り出してこの耐火物試験体500への溶銑浸透度を確認する(評価工程)。例えば、耐火物試験体500を切断して、X線撮影によりFe成分の浸透度を観察する。Fe成分が浸透している部分についてはX線撮影したときに白くなるので、X線撮影像に基づいて溶銑の浸透深さを相対的に評価できる。
【0022】
このような構成を備える第1実施形態によれば、次の効果を奏することができる。
(1)耐火物を試験体500として加工する際に単純な円柱状とするので、試験体を形成する際に亀裂等が生じるおそれを排除することができる。従って、亀裂等から溶銑600が浸透することがなく、耐火物そのものの溶銑浸透度を適切に評価することができる。
【0023】
(2)耐火物は溶銑600よりも比重が小さいが、接着剤700によって容器200の底面210に貼り付けているので、試験体500を溶銑600中に没入した状態を保つことができ、溶銑600に加圧することで、試験体500に均等に圧力をかけることができる。試験体500の総ての表面から均質に溶銑600の浸透が起こり、局所的な圧力の高低差に起因する浸透度の違いが生じることがなく、試験体500の評価を適切かつ正確に行うことができる。
【0024】
(3)本実施形態では、試験体500で容器200を形成するわけではないので、容器200を圧力に耐えられるカーボン素材で形成することができる。
その結果、十分に加圧でき、高炉の炉底など耐火物の使用状態を再現することができ、耐火物の正確な評価を行うことができる。
【0025】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
試験体とする耐火物の成分や粒度については特に限定されるものではない。
容器は、カーボン素材を例にして説明したが、カーボンに限らず、対溶銑性、靱性、柔軟性などを備えた適切な素材を適宜選択すればよい。
評価装置の構成は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の評価方法を実施できればよいことはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、耐火物の評価方法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】耐火物評価方法に使用される耐火物評価装置の全体図。
【図2】容器の拡大図。
【図3】容器内に試験体を接着する様子を示す斜視図。
【図4】試験体に溶銑が浸透した状態を示す図。
【図5】従来の耐火物試験方法を説明する図。
【符号の説明】
【0028】
20…耐火物試験材、30…溶銑スラグ、100…耐火物評価装置、200…容器、210…底面、220…開口部、300…加熱手段、310…誘導コイル、400…加圧手段、410…ノズル、500…試験体、501…試験体に浸透した溶銑、600…溶銑、700…接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物への溶銑浸透度を評価する耐火物評価方法であって、
曲げ強さが15MPa以上かつ弾性率が10GPa以下である素材からなる容器内に収納可能な大きさに評価対象となる耐火物を加工して耐火物試験体を形成する試験体形成工程と、
前記試験体形成工程にて形成された耐火物試験体を接着剤にて前記容器の底面に接着する試験体接着工程と、
前記容器内に溶銑を投入する溶銑投入工程と、
前記容器内の前記溶銑に加圧する加圧工程と、
前記耐火物試験体を取り出してこの耐火物試験体への溶銑浸透度を確認する評価工程と、を備える
ことを特徴とする耐火物評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火物評価方法において、
前記容器は、カーボン素材にて形成されている
ことを特徴とする耐火物評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の耐火物評価方法において、
前記耐火物は、骨材の弾性率と結合材との弾性率が異なる材料から構成されている
ことを特徴とする耐火物評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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