耐火被覆複層構造
【課題】耐火被覆の仕様変更に対応可能な耐火被覆複層構造を提供する。
【解決手段】建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材14を、複数の耐火被覆材20、23により取り囲むことによって、耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆の仕様を変更する必要が生じた場合に、柔軟に対応することができる。
【解決手段】建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材14を、複数の耐火被覆材20、23により取り囲むことによって、耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆の仕様を変更する必要が生じた場合に、柔軟に対応することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の躯体となる柱や梁に施す耐火被覆に関する。
【背景技術】
【0002】
建築基準法の上で建物が耐火建築物であると認められる検証方法の一つとして、耐火性能検証法が挙げられる。この検証法では、防火区画毎に火災継続時間を算定し、この火災継続時間において建物が構造物としての健全性を保てるように、建物の躯体となる柱や梁に施す耐火被覆の仕様(使用材料や被覆厚さ等)を定めている。
【0003】
特許文献1には、建設構造材の表面に、耐熱性ボンド層、耐熱セラミックファイバーマット層、耐熱性ボンド層、及びステンレス薄板層を積層して構成した複合層を1つの耐火被覆とした耐火被覆構造が開示されている。
【0004】
しかし、建物の使用途中の改修工事(施工途中の設計変更を含む)の際に、当初の防火区画に設定されていた室用途の変更や、火災継続時間を算定する際の開口寸法条件等の諸条件の変更によって、その防火区画に対して想定される火災継続時間が当初設定されていた火災継続時間よりも長くなってしまう場合、既に施されている耐火被覆を撤去して、新たに設定される火災継続時間において建物が構造物としての健全性を保つことができる仕様の耐火被覆を施さなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−69758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、耐火被覆の仕様変更に対応可能な耐火被覆複層構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材と、前記鉄骨部材を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆構造と、前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆補強構造と、を有する耐火被覆複層構造である。
【0008】
請求項1に記載の発明では、複数の耐火被覆材により鉄骨部材を取り囲むことによって、1つの耐火被覆材により鉄骨部材を取り囲む場合よりも耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆の仕様を変更する必要が生じた場合に、柔軟に対応する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記耐火被覆補強構造は、既設の前記耐火被覆構造を後施工により取り囲む耐火被覆材によって構成される。
【0010】
請求項2に記載の発明では、改修工事等の際に、防火区画に当初設定されていた室用途や火災継続時間算定の諸条件が変更されて、その防火区画に対して想定される火災継続時間が当初設定されていた火災継続時間よりも長くなってしまう場合に、既設の耐火被覆材を撤去することなく、変更された防火区画において必要とされる耐火性能を確保する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の端部は、前記鉄骨部材に固定されている。
【0012】
請求項3に記載の発明では、鉄骨部材が支持する床スラブや壁等に耐火被覆材を固定できない場合に、耐火被覆構造を取り囲むように耐火被覆材を配置することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記耐火被覆構造と該耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の内面との間には、空間が形成されている。
【0014】
請求項4に記載の発明では、耐火被覆構造と、この耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の内面との間に形成された空間により、耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の外部から鉄骨部材を取り囲む(耐火被覆構造を構成する)耐火被覆材への熱の伝達効率を低下させて、耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材による熱の遮蔽効果を向上させることができる(鉄骨部材の温度上昇をより低減できる)。また、直貼りに比べて容易に耐火被覆材を取り付けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成としたので、耐火被覆の仕様変更に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造を示す正面断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る耐火被覆複層構造を示す正面断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図12】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図14】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図15】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図16】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図17】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造について説明する。
【0018】
図1の正面断面図に示すように、耐火被覆複層構造10は、建物の躯体梁を構成し床版12を支持する鉄骨部材14、耐火被覆構造16、及び耐火被覆補強構造18を有している。床版12は、鉄筋コンクリート又は軽量気泡コンクリートにより形成されている。
【0019】
耐火被覆構造16は、耐火被覆材としての湿式の吹付けロックウール20により、鉄骨部材14の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって構成されている。耐火被覆補強構造18は、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを箱貼りで取り囲むことによって構成されている。
【0020】
高耐熱ロックウールシート23の上端部は、コンクリートビス26によって床版12の下面に固定されている。また、高耐熱ロックウールシート23の下端部は、この下端部に貫通させた溶接ピン28の先端を下部フランジ30の下面に溶着させることによって、下部フランジ30に固定されている。
【0021】
耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間には、空間Sが形成されている。
【0022】
耐火被覆構造16は、新築工事の際に施工された既設の構造であり、耐火被覆補強構造18は、改修工事の際の後施工により設けられた構造である。
【0023】
次に、本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造の作用と効果について説明する。
【0024】
本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造10では、複数の耐火被覆材(吹付けロックウール20及び高耐熱ロックウールシート23)により鉄骨部材14を取り囲むことによって、1つの耐火被覆材により鉄骨部材14を取り囲む場合よりも耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆の仕様を変更する必要が生じた場合に、柔軟に対応する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0025】
例えば、建物の使用途中の改修工事(施工途中の設計変更を含む)等の際に、当初の防火区画に設定されていた室用途の変更や、火災継続時間を算定する際の開口寸法条件等の諸条件の変更によって、その防火区画に対して想定される火災継続時間が当初設定されていた火災継続時間よりも長くなってしまう場合、既設の耐火被覆材である吹付けロックウール20を撤去することなく、変更された防火区画において必要とされる耐火性能を確保する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0026】
一般的に、物販店舗から飲食店舗への用途変更等においては、厨房機器の仕様によっては新たな防火区画(厨房区画)が要求され、この防火区画(厨房区画)内に求められる火災継続時間が当初設計(物販店舗)よりも長くなることが多い。また、この種の用途変更に伴う工事種別はテナント工事となることが多く、短工期、低コストが要求されるので、このような状況において、本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造10の適用が、特に有効となる。
【0027】
また、既設の耐火被覆材である吹付けロックウール20を撤去する必要がないので、改修工事等において、既設の耐火被覆材の撤去作業に従来費やしていた工期の短縮や費用の低減が期待できる。また、既設の耐火被覆材を有効利用することにより、材料費の低減を図ることができ、建設廃材を減らすことができる。
【0028】
また、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間に形成された空間Sにより、高耐熱ロックウールシート23の外部から吹付けロックウール20への熱の伝達効率を低下させて、耐火被覆構造16を取り囲む高耐熱ロックウールシート23による熱の遮蔽効果を向上させることができる(鉄骨部材14の温度上昇をより低減できる)。また、直貼りに比べて容易に耐火被覆材を取り付けることができる。
【0029】
以上、第1の実施形態について説明した。
【0030】
なお、本発明の第1の実施形態では、床版12を支持する躯体梁としての鉄骨部材14に耐火被覆を施す例について説明したが、床版12を支持しない躯体梁に対しても適用することができる。この場合、耐火被覆材としての湿式の吹付けロックウール20により、鉄骨部材14の外周全てを取り囲むことによって耐火被覆構造16を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の外周全てを取り囲むことによって耐火被覆補強構造18を構成する。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態に係る耐火被覆複層構造とその作用及び効果について説明する。
【0032】
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。第2の実施形態の耐火被覆複層構造32は、図2の正面断面図に示すように、高耐熱ロックウールシート23の上端部が、溶接ピン28によって鉄骨部材14のウェブ34に固定されている。また、鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20は、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲まれていない。また、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間には空間Sが形成されている。
【0033】
よって、高耐熱ロックウールシート23の上端部を床版12に固定するのが困難な場合に、高耐熱ロックウールシート23の上端部を鉄骨部材14のウェブ34に固定することにより、耐火被覆構造16を取り囲むように高耐熱ロックウールシート23を配置して、耐火被覆補強構造38を形成することができる。
【0034】
また、上部フランジ36付近にダクトや配線等が配置されていることなどによって、上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20を、高耐熱ロックウールシート23で取り囲むことができない場合においても、耐火被覆補強構造38を形成することができる。
【0035】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0036】
なお、本発明の第2の実施形態では、鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20が、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲まれていない例を示したが、鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20を、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲むようにしてもよい。鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20を、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲まない構成にしても、耐火被覆構造16を構成する吹付けロックウール20の吸熱効果によって、火災時における鉄骨部材14の温度上昇を低減して耐火性を確保し、耐火被覆構造16の一部を取り囲む高耐熱ロックウールシート23による部分的な断熱(熱遮蔽)効果によって、耐火被覆構造16を構成する吹付けロックウール20に伝達される熱を低減して鉄骨部材14の温度上昇をより低減するので、1つの耐火被覆材により鉄骨部材14を取り囲む場合よりも、耐火性能を向上させることができる。
【0037】
また、本発明の第2の実施形態では、高耐熱ロックウールシート23の上端部を鉄骨部材14のウェブ34に固定した例を示したが、図3の正面断面図に示す耐火被覆複層構造40のように、溶接ピン28により、高耐熱ロックウールシート23の上端部を鉄骨部材14の上部フランジ36へ固定して耐火被覆補強構造42を形成するようにしてもよい。
【0038】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
【0039】
なお、本発明の第1及び第2の実施形態では、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材を吹付けロックウール20とし、耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材を高耐熱ロックウールシート23とした例を示したが、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材は、鉄骨部材14に耐火性を付与できる部材であればよく、耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材は、耐火被覆構造16に耐火性を付与して鉄骨部材14の耐火性を向上できる部材であればよい。
【0040】
鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材、及び耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材としては、例えば、湿式の吹き付けロックウール、耐火塗料や、乾式のロックウールシート、高耐熱ロックウールシート、熱膨張シート、珪酸カルシウム板、石膏ボードが挙げられる。
【0041】
乾式の耐火被覆材は、鉄骨部材14や耐火被覆構造16等に、直貼りで取り付けてもよいし、箱貼りで取り付けてもよい。また、耐火被覆構造16を取り囲む湿式の耐火被覆材を耐火塗料とする場合には、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材の表面にこの耐火塗料を塗布すればよい。また、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材、及び耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材は、複数重ねて設けてもよい。
【0042】
また、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材と、耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材とは、同種の材料としてもよいし、異種の材料としてもよい。例えば、図4〜7の正面断面図に示す耐火被覆複層構造44、46、48、50としてもよい。
【0043】
図4の耐火被覆複層構造44では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって、耐火被覆補強構造52を構成している。鉄骨部材14に梁貫通部を形成する場合には、梁貫通部の周辺の耐火性を確保することができるので、この耐火被覆複層構造44が適している。
【0044】
図5の耐火被覆複層構造46では、耐火被覆材としての湿式の耐火塗料58を鉄骨部材14の表面に塗布することによって、耐火被覆構造54を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造54の側方と下方とを箱貼りで取り囲むことによって耐火被覆補強構造56を構成している。耐火被覆構造54(耐火塗料58の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間には空間Sが形成されている。
【0045】
図6の耐火被覆複層構造48では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の側方と下方とを箱貼りで取り囲むことによって、耐火被覆構造60を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造60の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって耐火被覆補強構造62を構成している。鉄骨部材14と、耐火被覆構造60を構成する高耐熱ロックウールシート23の内面との間には空間Vが形成されている。
【0046】
図7の耐火被覆複層構造50では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって、耐火被覆構造64を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造64の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって耐火被覆補強構造66を構成している。
【0047】
また、本発明の第1及び第2の実施形態では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを取り囲んだ例を示したが、図8〜11の正面断面図に示す耐火被覆複層構造68、100、106、110のように、耐火被覆構造16の一部を耐火被覆材により覆うようにしてもよい。
【0048】
耐火被覆複層構造68、100では、図8、9に示すように、耐火被覆材としての乾式の珪酸カルシウム板72により、耐火被覆構造16の側方のみを覆うことによって耐火被覆補強構造70、102を構成している。耐火被覆複層構造68では、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、珪酸カルシウム板72の内面との間に、空間Sが形成されている。耐火被覆複層構造100では、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、珪酸カルシウム板72の内面とが接触している。
【0049】
図10の耐火被覆複層構造106では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の下部フランジ30を覆う吹付けロックウール20のみを直貼りで取り囲むようにして、耐火被覆補強構造108を構成している。また、高耐熱ロックウールシート23の上端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14の下部フランジ30上面に固定され、高耐熱ロックウールシート23の下端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14の下部フランジ30下面に固定されている。
【0050】
図11の耐火被覆複層構造110では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の下部フランジ30とウェブ34の一部(例えば、ウェブ34の下部1/3〜1/2程度)とを覆う吹付けロックウール20のみを箱貼りで取り囲むようにして、耐火被覆補強構造112を構成している。また、高耐熱ロックウールシート23の上端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14のウェブ34に固定され、高耐熱ロックウールシート23の下端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14の下部フランジ30下面に固定されている。
【0051】
耐火被覆複層構造68、100、106、110では、吹付けロックウール20の吸熱効果によって、火災時における鉄骨部材14の温度上昇を低減して耐火性を確保し、珪酸カルシウム板72や高耐熱ロックウールシート23による部分的な断熱(熱遮蔽)効果によって、吹付けロックウール20に伝達される熱を低減して鉄骨部材14の温度上昇をより低減するので、1つの耐火被覆材により鉄骨部材14を取り囲む場合よりも、耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆構造16の一部のみを耐火被覆材(珪酸カルシウム板72、高耐熱ロックウールシート23)により覆えばよいので、施工を容易に行うことができる。また、耐火被覆複層構造106、110では、鉄骨部材14に梁貫通部が形成されている場合に、この梁貫通部の存在により耐火被覆補強構造の施工が煩雑になることを防ぐことができる。
【0052】
また、本発明の第1及び第2の実施形態では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを取り囲んだ例を示したが、図12の正面断面図に示す耐火被覆複層構造74のように、吹付けロックウール20の一部を除去した耐火被覆構造16の側方と下方とを取り囲むようにしてもよい。図12では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、吹付けロックウール20の一部(二点鎖線の部分)を除去した耐火被覆構造16の側方と下方とを覆うことによって耐火被覆補強構造76を構成している。
【0053】
耐火被覆複層構造74では、改修工事の際に、高耐熱ロックウールシート23の全てを除去して新たに被覆を行うよりも施工手間が軽減される。
【0054】
また、本発明の第1及び第2の実施形態では、建物の躯体梁を構成する鉄骨部材14を耐火被覆複層構造10、32、40の適用対象とした例を示したが、建物の躯体柱を構成する鉄骨部材を耐火被覆複層構造10、32、40の適用対象としてもよい。
【0055】
壁を支持している躯体柱に耐火被覆を施す場合には、例えば、図1〜12で示した耐火被覆複層構造10、32、40、44、46、48、50、68、74、100、106、110の正面断面図を平面断面図とみなして、鉄骨部材14を躯体柱とし、床版12を壁とした構成と略同様の構成にしてもよい。
【0056】
また、壁を支持していない躯体柱に耐火被覆を施す場合には、例えば、図13〜17の平面断面図に示す耐火被覆複層構造80、82、84、86、104のようにしてもよい。すなわち、躯体柱としての鉄骨部材78の外周全てを耐火被覆材で二重に取り囲むことによって耐火被覆複層構造80、82、84、86、104を構成するようにしてもよい。
【0057】
また、本発明の第1の実施形態では、耐火被覆構造16を新築工事の際に施工された既設の構造とし、耐火被覆補強構造18を改修工事の際の後施工により設けられた構造として、耐火被覆複層構造10を改修工事に適用した例を示したが、第1及び第2の実施形態で示した耐火被覆複層構造10、32、40は、改修工事に適用してもよいし、新築工事に適用してもよい。例えば、防火区画毎にさまざまな火災継続時間が設定されている建物を新築する際に、各防火区画に設けられている躯体柱や躯体梁に、同じ仕様(材料種類及び厚さ)の耐火被覆材で被覆した後に、各区画の火災継続時間に応じた仕様の耐火被覆補強構造を施工すれば、効率よく施工を行うことができる。
【0058】
また、第1の実施形態では、耐火被覆複層構造10の有する空間Sによって、耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材による熱の遮蔽効果が向上することを述べたが、耐火被覆複層構造32、40、46、68、74、80、84、86、110の有する空間Sによっても同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、本発明の第1及び第2の実施形態で示した耐火被覆複層構造10、32、40を構築する耐火設計方法としては、まず、建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材を取り囲むように耐火被覆材を配置して耐火被覆構造を構成し、次に、耐火被覆構造を取り囲むように耐火被覆材を配置して耐火被覆補強構造を構成する。
【0060】
また、これまで説明した耐火被覆複層構造10、32、40、44、46、48、50、68、74、80、82、84、86、100、104、106、110で用いられている耐火被覆材は、複数重ねて使用することに対する「材料としての大臣認定」を受けていることが好ましいが、このような「材料としての大臣認定」を受けていない場合においても、耐火被覆材を複数重ねて使用することを認定条件として含めて「建物としての大臣認定」を取得していれば、建設基準法の上で複数重ねて使用することができる。
【0061】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
10、32、40、44、46、48、50、68、74、80、82、84、86、100、104、106、110 耐火被覆複層構造
14、78 鉄骨部材
16、54、60、64 耐火被覆構造
18、38、42、52、56、62、66、70、76、102、108、112 耐火被覆補強構造
20 吹付けロックウール(耐火被覆材)
23 高耐熱ロックウールシート(耐火被覆材)
58 耐火塗料(耐火被覆材)
72 珪酸カルシウム板(耐火被覆材)
S 空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の躯体となる柱や梁に施す耐火被覆に関する。
【背景技術】
【0002】
建築基準法の上で建物が耐火建築物であると認められる検証方法の一つとして、耐火性能検証法が挙げられる。この検証法では、防火区画毎に火災継続時間を算定し、この火災継続時間において建物が構造物としての健全性を保てるように、建物の躯体となる柱や梁に施す耐火被覆の仕様(使用材料や被覆厚さ等)を定めている。
【0003】
特許文献1には、建設構造材の表面に、耐熱性ボンド層、耐熱セラミックファイバーマット層、耐熱性ボンド層、及びステンレス薄板層を積層して構成した複合層を1つの耐火被覆とした耐火被覆構造が開示されている。
【0004】
しかし、建物の使用途中の改修工事(施工途中の設計変更を含む)の際に、当初の防火区画に設定されていた室用途の変更や、火災継続時間を算定する際の開口寸法条件等の諸条件の変更によって、その防火区画に対して想定される火災継続時間が当初設定されていた火災継続時間よりも長くなってしまう場合、既に施されている耐火被覆を撤去して、新たに設定される火災継続時間において建物が構造物としての健全性を保つことができる仕様の耐火被覆を施さなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−69758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、耐火被覆の仕様変更に対応可能な耐火被覆複層構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材と、前記鉄骨部材を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆構造と、前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆補強構造と、を有する耐火被覆複層構造である。
【0008】
請求項1に記載の発明では、複数の耐火被覆材により鉄骨部材を取り囲むことによって、1つの耐火被覆材により鉄骨部材を取り囲む場合よりも耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆の仕様を変更する必要が生じた場合に、柔軟に対応する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記耐火被覆補強構造は、既設の前記耐火被覆構造を後施工により取り囲む耐火被覆材によって構成される。
【0010】
請求項2に記載の発明では、改修工事等の際に、防火区画に当初設定されていた室用途や火災継続時間算定の諸条件が変更されて、その防火区画に対して想定される火災継続時間が当初設定されていた火災継続時間よりも長くなってしまう場合に、既設の耐火被覆材を撤去することなく、変更された防火区画において必要とされる耐火性能を確保する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の端部は、前記鉄骨部材に固定されている。
【0012】
請求項3に記載の発明では、鉄骨部材が支持する床スラブや壁等に耐火被覆材を固定できない場合に、耐火被覆構造を取り囲むように耐火被覆材を配置することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記耐火被覆構造と該耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の内面との間には、空間が形成されている。
【0014】
請求項4に記載の発明では、耐火被覆構造と、この耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の内面との間に形成された空間により、耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の外部から鉄骨部材を取り囲む(耐火被覆構造を構成する)耐火被覆材への熱の伝達効率を低下させて、耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材による熱の遮蔽効果を向上させることができる(鉄骨部材の温度上昇をより低減できる)。また、直貼りに比べて容易に耐火被覆材を取り付けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成としたので、耐火被覆の仕様変更に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造を示す正面断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る耐火被覆複層構造を示す正面断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図12】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図14】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図15】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図16】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【図17】本発明の実施形態に係る耐火被覆複層構造の変形例を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造について説明する。
【0018】
図1の正面断面図に示すように、耐火被覆複層構造10は、建物の躯体梁を構成し床版12を支持する鉄骨部材14、耐火被覆構造16、及び耐火被覆補強構造18を有している。床版12は、鉄筋コンクリート又は軽量気泡コンクリートにより形成されている。
【0019】
耐火被覆構造16は、耐火被覆材としての湿式の吹付けロックウール20により、鉄骨部材14の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって構成されている。耐火被覆補強構造18は、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを箱貼りで取り囲むことによって構成されている。
【0020】
高耐熱ロックウールシート23の上端部は、コンクリートビス26によって床版12の下面に固定されている。また、高耐熱ロックウールシート23の下端部は、この下端部に貫通させた溶接ピン28の先端を下部フランジ30の下面に溶着させることによって、下部フランジ30に固定されている。
【0021】
耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間には、空間Sが形成されている。
【0022】
耐火被覆構造16は、新築工事の際に施工された既設の構造であり、耐火被覆補強構造18は、改修工事の際の後施工により設けられた構造である。
【0023】
次に、本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造の作用と効果について説明する。
【0024】
本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造10では、複数の耐火被覆材(吹付けロックウール20及び高耐熱ロックウールシート23)により鉄骨部材14を取り囲むことによって、1つの耐火被覆材により鉄骨部材14を取り囲む場合よりも耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆の仕様を変更する必要が生じた場合に、柔軟に対応する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0025】
例えば、建物の使用途中の改修工事(施工途中の設計変更を含む)等の際に、当初の防火区画に設定されていた室用途の変更や、火災継続時間を算定する際の開口寸法条件等の諸条件の変更によって、その防火区画に対して想定される火災継続時間が当初設定されていた火災継続時間よりも長くなってしまう場合、既設の耐火被覆材である吹付けロックウール20を撤去することなく、変更された防火区画において必要とされる耐火性能を確保する(耐火性能を上げる)ことができる。
【0026】
一般的に、物販店舗から飲食店舗への用途変更等においては、厨房機器の仕様によっては新たな防火区画(厨房区画)が要求され、この防火区画(厨房区画)内に求められる火災継続時間が当初設計(物販店舗)よりも長くなることが多い。また、この種の用途変更に伴う工事種別はテナント工事となることが多く、短工期、低コストが要求されるので、このような状況において、本発明の第1の実施形態に係る耐火被覆複層構造10の適用が、特に有効となる。
【0027】
また、既設の耐火被覆材である吹付けロックウール20を撤去する必要がないので、改修工事等において、既設の耐火被覆材の撤去作業に従来費やしていた工期の短縮や費用の低減が期待できる。また、既設の耐火被覆材を有効利用することにより、材料費の低減を図ることができ、建設廃材を減らすことができる。
【0028】
また、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間に形成された空間Sにより、高耐熱ロックウールシート23の外部から吹付けロックウール20への熱の伝達効率を低下させて、耐火被覆構造16を取り囲む高耐熱ロックウールシート23による熱の遮蔽効果を向上させることができる(鉄骨部材14の温度上昇をより低減できる)。また、直貼りに比べて容易に耐火被覆材を取り付けることができる。
【0029】
以上、第1の実施形態について説明した。
【0030】
なお、本発明の第1の実施形態では、床版12を支持する躯体梁としての鉄骨部材14に耐火被覆を施す例について説明したが、床版12を支持しない躯体梁に対しても適用することができる。この場合、耐火被覆材としての湿式の吹付けロックウール20により、鉄骨部材14の外周全てを取り囲むことによって耐火被覆構造16を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の外周全てを取り囲むことによって耐火被覆補強構造18を構成する。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態に係る耐火被覆複層構造とその作用及び効果について説明する。
【0032】
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。第2の実施形態の耐火被覆複層構造32は、図2の正面断面図に示すように、高耐熱ロックウールシート23の上端部が、溶接ピン28によって鉄骨部材14のウェブ34に固定されている。また、鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20は、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲まれていない。また、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間には空間Sが形成されている。
【0033】
よって、高耐熱ロックウールシート23の上端部を床版12に固定するのが困難な場合に、高耐熱ロックウールシート23の上端部を鉄骨部材14のウェブ34に固定することにより、耐火被覆構造16を取り囲むように高耐熱ロックウールシート23を配置して、耐火被覆補強構造38を形成することができる。
【0034】
また、上部フランジ36付近にダクトや配線等が配置されていることなどによって、上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20を、高耐熱ロックウールシート23で取り囲むことができない場合においても、耐火被覆補強構造38を形成することができる。
【0035】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0036】
なお、本発明の第2の実施形態では、鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20が、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲まれていない例を示したが、鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20を、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲むようにしてもよい。鉄骨部材14の上部フランジ36を覆う吹付けロックウール20を、高耐熱ロックウールシート23によって取り囲まない構成にしても、耐火被覆構造16を構成する吹付けロックウール20の吸熱効果によって、火災時における鉄骨部材14の温度上昇を低減して耐火性を確保し、耐火被覆構造16の一部を取り囲む高耐熱ロックウールシート23による部分的な断熱(熱遮蔽)効果によって、耐火被覆構造16を構成する吹付けロックウール20に伝達される熱を低減して鉄骨部材14の温度上昇をより低減するので、1つの耐火被覆材により鉄骨部材14を取り囲む場合よりも、耐火性能を向上させることができる。
【0037】
また、本発明の第2の実施形態では、高耐熱ロックウールシート23の上端部を鉄骨部材14のウェブ34に固定した例を示したが、図3の正面断面図に示す耐火被覆複層構造40のように、溶接ピン28により、高耐熱ロックウールシート23の上端部を鉄骨部材14の上部フランジ36へ固定して耐火被覆補強構造42を形成するようにしてもよい。
【0038】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
【0039】
なお、本発明の第1及び第2の実施形態では、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材を吹付けロックウール20とし、耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材を高耐熱ロックウールシート23とした例を示したが、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材は、鉄骨部材14に耐火性を付与できる部材であればよく、耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材は、耐火被覆構造16に耐火性を付与して鉄骨部材14の耐火性を向上できる部材であればよい。
【0040】
鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材、及び耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材としては、例えば、湿式の吹き付けロックウール、耐火塗料や、乾式のロックウールシート、高耐熱ロックウールシート、熱膨張シート、珪酸カルシウム板、石膏ボードが挙げられる。
【0041】
乾式の耐火被覆材は、鉄骨部材14や耐火被覆構造16等に、直貼りで取り付けてもよいし、箱貼りで取り付けてもよい。また、耐火被覆構造16を取り囲む湿式の耐火被覆材を耐火塗料とする場合には、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材の表面にこの耐火塗料を塗布すればよい。また、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材、及び耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材は、複数重ねて設けてもよい。
【0042】
また、鉄骨部材14を取り囲む(耐火被覆構造16を構成する)耐火被覆材と、耐火被覆構造16を取り囲む耐火被覆材とは、同種の材料としてもよいし、異種の材料としてもよい。例えば、図4〜7の正面断面図に示す耐火被覆複層構造44、46、48、50としてもよい。
【0043】
図4の耐火被覆複層構造44では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって、耐火被覆補強構造52を構成している。鉄骨部材14に梁貫通部を形成する場合には、梁貫通部の周辺の耐火性を確保することができるので、この耐火被覆複層構造44が適している。
【0044】
図5の耐火被覆複層構造46では、耐火被覆材としての湿式の耐火塗料58を鉄骨部材14の表面に塗布することによって、耐火被覆構造54を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造54の側方と下方とを箱貼りで取り囲むことによって耐火被覆補強構造56を構成している。耐火被覆構造54(耐火塗料58の外面)と、高耐熱ロックウールシート23の内面との間には空間Sが形成されている。
【0045】
図6の耐火被覆複層構造48では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の側方と下方とを箱貼りで取り囲むことによって、耐火被覆構造60を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造60の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって耐火被覆補強構造62を構成している。鉄骨部材14と、耐火被覆構造60を構成する高耐熱ロックウールシート23の内面との間には空間Vが形成されている。
【0046】
図7の耐火被覆複層構造50では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって、耐火被覆構造64を構成し、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造64の側方と下方とを直貼りで取り囲むことによって耐火被覆補強構造66を構成している。
【0047】
また、本発明の第1及び第2の実施形態では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを取り囲んだ例を示したが、図8〜11の正面断面図に示す耐火被覆複層構造68、100、106、110のように、耐火被覆構造16の一部を耐火被覆材により覆うようにしてもよい。
【0048】
耐火被覆複層構造68、100では、図8、9に示すように、耐火被覆材としての乾式の珪酸カルシウム板72により、耐火被覆構造16の側方のみを覆うことによって耐火被覆補強構造70、102を構成している。耐火被覆複層構造68では、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、珪酸カルシウム板72の内面との間に、空間Sが形成されている。耐火被覆複層構造100では、耐火被覆構造16(吹付けロックウール20の外面)と、珪酸カルシウム板72の内面とが接触している。
【0049】
図10の耐火被覆複層構造106では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の下部フランジ30を覆う吹付けロックウール20のみを直貼りで取り囲むようにして、耐火被覆補強構造108を構成している。また、高耐熱ロックウールシート23の上端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14の下部フランジ30上面に固定され、高耐熱ロックウールシート23の下端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14の下部フランジ30下面に固定されている。
【0050】
図11の耐火被覆複層構造110では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、鉄骨部材14の下部フランジ30とウェブ34の一部(例えば、ウェブ34の下部1/3〜1/2程度)とを覆う吹付けロックウール20のみを箱貼りで取り囲むようにして、耐火被覆補強構造112を構成している。また、高耐熱ロックウールシート23の上端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14のウェブ34に固定され、高耐熱ロックウールシート23の下端部は、溶接ピン28によって鉄骨部材14の下部フランジ30下面に固定されている。
【0051】
耐火被覆複層構造68、100、106、110では、吹付けロックウール20の吸熱効果によって、火災時における鉄骨部材14の温度上昇を低減して耐火性を確保し、珪酸カルシウム板72や高耐熱ロックウールシート23による部分的な断熱(熱遮蔽)効果によって、吹付けロックウール20に伝達される熱を低減して鉄骨部材14の温度上昇をより低減するので、1つの耐火被覆材により鉄骨部材14を取り囲む場合よりも、耐火性能を向上させることができる。また、耐火被覆構造16の一部のみを耐火被覆材(珪酸カルシウム板72、高耐熱ロックウールシート23)により覆えばよいので、施工を容易に行うことができる。また、耐火被覆複層構造106、110では、鉄骨部材14に梁貫通部が形成されている場合に、この梁貫通部の存在により耐火被覆補強構造の施工が煩雑になることを防ぐことができる。
【0052】
また、本発明の第1及び第2の実施形態では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、耐火被覆構造16の側方と下方とを取り囲んだ例を示したが、図12の正面断面図に示す耐火被覆複層構造74のように、吹付けロックウール20の一部を除去した耐火被覆構造16の側方と下方とを取り囲むようにしてもよい。図12では、耐火被覆材としての乾式の高耐熱ロックウールシート23により、吹付けロックウール20の一部(二点鎖線の部分)を除去した耐火被覆構造16の側方と下方とを覆うことによって耐火被覆補強構造76を構成している。
【0053】
耐火被覆複層構造74では、改修工事の際に、高耐熱ロックウールシート23の全てを除去して新たに被覆を行うよりも施工手間が軽減される。
【0054】
また、本発明の第1及び第2の実施形態では、建物の躯体梁を構成する鉄骨部材14を耐火被覆複層構造10、32、40の適用対象とした例を示したが、建物の躯体柱を構成する鉄骨部材を耐火被覆複層構造10、32、40の適用対象としてもよい。
【0055】
壁を支持している躯体柱に耐火被覆を施す場合には、例えば、図1〜12で示した耐火被覆複層構造10、32、40、44、46、48、50、68、74、100、106、110の正面断面図を平面断面図とみなして、鉄骨部材14を躯体柱とし、床版12を壁とした構成と略同様の構成にしてもよい。
【0056】
また、壁を支持していない躯体柱に耐火被覆を施す場合には、例えば、図13〜17の平面断面図に示す耐火被覆複層構造80、82、84、86、104のようにしてもよい。すなわち、躯体柱としての鉄骨部材78の外周全てを耐火被覆材で二重に取り囲むことによって耐火被覆複層構造80、82、84、86、104を構成するようにしてもよい。
【0057】
また、本発明の第1の実施形態では、耐火被覆構造16を新築工事の際に施工された既設の構造とし、耐火被覆補強構造18を改修工事の際の後施工により設けられた構造として、耐火被覆複層構造10を改修工事に適用した例を示したが、第1及び第2の実施形態で示した耐火被覆複層構造10、32、40は、改修工事に適用してもよいし、新築工事に適用してもよい。例えば、防火区画毎にさまざまな火災継続時間が設定されている建物を新築する際に、各防火区画に設けられている躯体柱や躯体梁に、同じ仕様(材料種類及び厚さ)の耐火被覆材で被覆した後に、各区画の火災継続時間に応じた仕様の耐火被覆補強構造を施工すれば、効率よく施工を行うことができる。
【0058】
また、第1の実施形態では、耐火被覆複層構造10の有する空間Sによって、耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材による熱の遮蔽効果が向上することを述べたが、耐火被覆複層構造32、40、46、68、74、80、84、86、110の有する空間Sによっても同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、本発明の第1及び第2の実施形態で示した耐火被覆複層構造10、32、40を構築する耐火設計方法としては、まず、建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材を取り囲むように耐火被覆材を配置して耐火被覆構造を構成し、次に、耐火被覆構造を取り囲むように耐火被覆材を配置して耐火被覆補強構造を構成する。
【0060】
また、これまで説明した耐火被覆複層構造10、32、40、44、46、48、50、68、74、80、82、84、86、100、104、106、110で用いられている耐火被覆材は、複数重ねて使用することに対する「材料としての大臣認定」を受けていることが好ましいが、このような「材料としての大臣認定」を受けていない場合においても、耐火被覆材を複数重ねて使用することを認定条件として含めて「建物としての大臣認定」を取得していれば、建設基準法の上で複数重ねて使用することができる。
【0061】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
10、32、40、44、46、48、50、68、74、80、82、84、86、100、104、106、110 耐火被覆複層構造
14、78 鉄骨部材
16、54、60、64 耐火被覆構造
18、38、42、52、56、62、66、70、76、102、108、112 耐火被覆補強構造
20 吹付けロックウール(耐火被覆材)
23 高耐熱ロックウールシート(耐火被覆材)
58 耐火塗料(耐火被覆材)
72 珪酸カルシウム板(耐火被覆材)
S 空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材と、
前記鉄骨部材を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆構造と、
前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆補強構造と、
を有する耐火被覆複層構造。
【請求項2】
前記耐火被覆補強構造は、既設の前記耐火被覆構造を後施工により取り囲む耐火被覆材によって構成される請求項1に記載の耐火被覆複層構造。
【請求項3】
前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の端部は、前記鉄骨部材に固定されている請求項1又は2に記載の耐火被覆複層構造。
【請求項4】
前記耐火被覆構造と該耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の内面との間には、空間が形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載の耐火被覆複層構造。
【請求項1】
建物の躯体梁又は躯体柱を構成する鉄骨部材と、
前記鉄骨部材を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆構造と、
前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材により構成される耐火被覆補強構造と、
を有する耐火被覆複層構造。
【請求項2】
前記耐火被覆補強構造は、既設の前記耐火被覆構造を後施工により取り囲む耐火被覆材によって構成される請求項1に記載の耐火被覆複層構造。
【請求項3】
前記耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の端部は、前記鉄骨部材に固定されている請求項1又は2に記載の耐火被覆複層構造。
【請求項4】
前記耐火被覆構造と該耐火被覆構造を取り囲む耐火被覆材の内面との間には、空間が形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載の耐火被覆複層構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−87464(P2013−87464A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227705(P2011−227705)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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