説明

耐熱クラッド鋼板

【課題】 耐熱性に優れ、しかも強度部材として必要な高い機械的強度を合せもつ耐熱鋼板を提供する。
【解決手段】 JISに規定されるSCH耐熱鋳鋼の組成を持つ金属を、ステンレス鋼等の母材金属上に溶接肉盛りする。ゴミや汚泥、廃油の焼却炉における排ガス処理系キャスタブル崩落防止用ライナーやクリンカー付着防止用ライナー、更には炉体、炉内の構造用強度部材として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴミ焼却炉の炉内部材のように、高温で優れた強度、耐酸化性及び耐磨耗性が要求される耐熱部材に用いられる耐熱クラッド鋼板、特に溶接肉盛りクラッド鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴミ焼却炉で発生するダイオキシンが大きな社会問題に成っている。このダイオキシンの発生量を規定値以下に抑制するためには800℃以上の高温でゴミ焼却を行なうことが必要とされており、これに伴って、800℃以上の高温において優れた強度、耐酸化性および耐磨耗性を示す炉内部材が要求されている。そして、この炉内部材として、従来はキャスタブルが用いられてきた。
【0003】
ゴミ、汚泥、廃油処理装置における排ガス処理系では、排ガスに含まれるクリンカーがキャスタブルに多量付着してこれを定期的に除去する作業が必要となり、操業を一旦停止して室温に冷却してから水圧でクリンカーを除去している。水圧はクリンカーを除去するが、炉壁を形成しているキャスタブルを同時に崩落させる危険性がある。このため、しばしば短期間でのキャスタブルの打代えが必要になり、高額なメンテナスコストが要求されると同時に、その間装置を停止しておくことが必要となり、クリンカー除去に伴う経済的損失は小さくない。
【0004】
クリンカー除去に伴う経済的損失を抑制するために、キャスタブルの表面に、シェルプレートと呼ばれる金属製ライナー板を被覆することが考えられている。すなわち、キャスタブルの表面に金属製ライナー板を被覆することにより、キャスタブルの崩落を防止するのである。また、金属製ライナー板の場合は、クリンカーが付着し難い上に、付着したクリンカーを、水圧は勿論のことエアー圧で除去することが可能になり、大きなメリットをもたらす。
【0005】
この金属製ライナー板として、現状ではJISG5122に規定されるSCH13などの耐熱鋳鋼が使用されているが、期待されるほどの長期寿命を与えることが出来なかった。その大きな原因は、SCH耐熱鋳鋼は耐熱性に優れているが、ライナー材は特に25mm以下の薄厚を要求されるため、鋳鋼製作時に板材内部に鋳鋼欠陥である「巣」を発生する危険性が高いことにある。板材内部に鋳鋼欠陥である「巣」が発生すると、高温と腐食性ガスアタックとによる厳しい使用環境により「巣」を起点とする亀裂が生じる。高温で亀裂が発生すると、板厚方向全域に亀裂が伝播するため、脱落する危険性が非常に高くなる。
【0006】
すなわち、JIS規定のSCH耐熱鋳鋼は、炭素含有量が0.2〜1.4重量%と多く、更にクロム、ニッケル含有量も多く、完全オーステナイト組織の種類が多い。このため、圧延材としての生産が通常のステンレス鋼に比較して困難であり、しかもステンレス鋼ほど需要がないために、板材としては鋳鋼としてしか存在していなかった。しかし、鋳鋼板材は1200×2500mmの大きな板を14〜17mmの薄厚に均質生産することは困難である。加えて、その鋳鋼板材には、特に厚みが20〜25mm以下の板材を鋳鋼で製作した場合に板厚方向の中央部で「巣」と呼ばれる空洞が発生し易いという致命的欠陥があり、この欠陥のために、強度部材、特に高温強度を必要とする熱分解装置のような絶対に破壊を発生してはならない部位でのライナー板としては使用不可能であった。
【0007】
折角、優れた耐熱性を持った耐熱合金の、高温強度を必要とする強度部材としての利用が、「巣」の発生と言う欠陥により阻害されているわけである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、しかも強度部材として必要な高い機械的強度を合せもつ耐熱クラッド鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者はJIS規定のSCH耐熱鋳鋼に注目した。この鋳鋼は、近年日本国中に多数建設され使用されているゴミ焼却工場や熱分解装置におけるシェルプレートとして、価格が安価でしかも耐熱性に優れる点から好適であるが、その一方で高温環境下での機械的強度に問題があることは、前述したとおりである。そこで本発明者は、このSCH耐熱鋳鋼における利点を阻害することなく欠点を取り除くことを企画し、鋭意調査検討を繰り返した。その結果、この鋳鋼を溶接肉盛に使用し、機械的強度に優れた母材上にSCH耐熱鋳鋼と同等成分の溶接肉盛合金層を形成するのが有効なことを知見した。
【0010】
溶接肉盛を使用すればステンレス鋼等の高温強度に優れた金属圧延板の表面に耐熱鋼層を形成することができる。この耐熱鋼層を使用面とし構造体としての機能を保持する母材鋼板との溶接肉盛クラッド鋼板の開発により従来、作用面にキャスタブル、耐火レンガが主として使用されてきたシェルプレート等に、温度制限はあるが800℃以上1000℃以下の耐熱耐磨耗部材としての利用が多数見込まれるようになり、大幅なコスト低減に寄与することが可能となる。
【0011】
本発明の耐熱クラッド鋼は、かかる知見を基礎として開発されたものであり、JISG5122に規定されるSCH耐熱鋳鋼の組成を有する耐熱鋼材を、異種鋼材からなる母材鋼板の一方の表面又は両方の表面に溶接肉盛したものである。
【0012】
JIS―SCH耐熱鋳鋼はあくまで単独金属で構成されており、全金属が作用面として使用される。しかし、ゴミ焼却炉、汚泥処理、廃油処理炉やその排ガス系で使用される耐熱鋳鋼は塩素ガス、硫黄ガス、硫化水素ガス、溶融アルカリ硫酸塩、一酸化炭素、アンモニア、五酸化燐等の各種高温ガス腐食や溶融塩腐食を受け、結晶粒界割れや浸炭等で延性を欠くようになり、更に800℃から室温までのサーマルショックにより伸び、収縮等が生じて粒界割れを促進し、最終的には板厚総てに亘って割れが伝播して脱落事故を生じる。
【0013】
これに対し、本発明の耐熱クラッド鋼板の場合は、作用面にはJIS耐熱鋳鋼を使用し母材金属にはライナーに必要な高温強度、高温延性を保持し更に品質の高い圧延材で構成された耐熱ステンレス鋼等を採用し、2種類の異なった性能を持つ異種金属で溶接クラッド鋼を構成したことにより、前記脱落事故の防止が可能になる。
【0014】
単一成分の合金では一旦割れ等が発生すると板厚を貫通する伝播割れが発生しやすい。その理由は機械工学的なクラック伝播阻止をする因子が存在しないからである。異種金属のクラッド鋼では、腐食ガスや処理媒体で磨耗を受ける作用面はJIS耐熱鋳鋼成分を持つ合金で対応し、クラッド鋼の母材金属は例えば1000℃で使用される高温装置ではSUS310,SUS310S等のステンレス鋼を使用することにより構造体としての強度を保持させることが可能になる。圧延材は非常に健全な素材であり内部に巣を発生していることは有り得ないので高温強度部材として強度計算により強度が保証出来る特性がある。さらにクラッド鋼は単一成分ではないので2種類の合金は溶融溶接で一体化され、その溶融界面が一種の割れ伝播阻止要因として効果を発揮する。
【0015】
本発明の耐熱クラッド鋼板の今一つの特徴は、耐熱鋳鋼性能を保有するにもかかわらず優れた曲げ加工性を示すことである。
【0016】
すなわち、耐熱鋳鋼は総て溶湯を鋳型に流し込む鋳造法により成形され、円筒形状のパイプ等は遠心鋳造法で製造されてきた。実際、この耐熱鋳鋼は圧延材料として製作されておらず、炭素含有量が0.2%以上と高く延性に劣るために曲げ加工を行うと板加工面に多数の割れが発生した。これを強度部材として使用することは不可能であり、曲面を持つ部材の製作は鋳鋼でしか対応出来なかった。
【0017】
しかるに、本発明の耐熱クラッド鋼は、その鋳鋼部分が構造部材と溶接肉盛りで一体化されるために、強度を必要とする部材は曲げ加工が容易であり、例え耐熱鋳鋼側に加工割れが発生しても強度部材に割れが発生しないために安全に使用することが可能である。例えばパイプの製作を行なう場合、従来は遠心鋳造方法でしか生産出来なかったが、本発明のクラッド鋼板を使用すれば、内面側に必要とする性質を持つ耐熱鋳鋼を適用し、パイプ外面側には構造部材としての強度を持つステンレス鋼を適用し、例えば直径600mmのパイプの場合、成形ローラで曲げ加工することにより、製罐作業並みの手軽さで製作することが出来る。
【0018】
遠心鋳造方法は大量生産方式に適合しており、一定の寸法(パイプ径)を持つパイプを1本だけ生産することはコスト的に不可能になる。しかし、曲げ加工が容易な本発明の耐熱クラッド鋼板を使用すれば、極小ロッドのパイプでも迅速に且つ安価なコストで生産可能である。パイプ以外の複雑な形状を持つ部材に関しても、プレス加工やローラ加工により小部材を加工し、平板とは溶接接合で組み立てることが可能であり、複雑な形状を持つ部材も形成出来る。このように本発明の耐熱クラッド鋼板は、耐熱鋳鋼性能を保有するにもかかわらず、鋳鋼にはない加工性に富む特徴を持っている。
【0019】
本発明の耐熱クラッド鋼板では、SCH耐熱鋳鋼からなる耐熱鋼材は、母材の片面だけでなく両面に溶接肉盛りすることができる。母材の両面をSCH耐熱鋳鋼にて被覆する目的は次のとおりである。熱分解キルンが外側から電熱ヒーターにて1000〜1100℃に加熱される。母材金属にSUS310,310Sを使用するが、SCHに較べ耐熱性に劣るので、外側の加熱面に対しても耐熱金属が要求される場合があるのである。内面は作用面であり、各種ガスアタックを受け本来の性能を発揮する。
【0020】
本発明の耐熱クラッド鋼板同士を接合する場合、母材金属同士はそれに該当する溶接材料で接合されるが、溶着金属同士の接合にはそれに該当する溶接材料を使用する。この点から、後述する合金成分組成の溶接材料は利用価値が大きい。
【0021】
母材鋼板の材質としては軟鋼、ステンレス鋼、又はその他の易溶接鋼を用いることができる。例えば使用される高温条件が800℃の場合にはSUS316や316Lが適当であり、1000℃の温度条件ではSUS310や310Sが適当である。
【0022】
クラッド鋼板の構造部材となる母材鋼板の板厚は、使用される温度条件や装置自体の荷重、それに負荷される処理媒体を含めた全荷重、装置寸法等により使用温度における強度計算から算出される。通常、その板厚を求める計算方法としては、使用されるステンレス鋼が持つ10,000〜100,000時間における高温クリープ強度を基本として行なうことが可能である。ステンレス鋼母材の製作寸法は、現状の生産設備から肉厚が最大12mm、幅が最大1200mm、長さが最大2,500mmまで可能である。
【0023】
一方、母材鋼板の表面に肉盛される耐熱鋼材は、JISG5122に規定されるSCH耐熱鋳鋼を満足する成分組成であり、具体的には、重量%でC:0.2〜1.4%、Si:1〜7%、Mn:6%以下、Cr:17%以上、Ni:22%以下、Cu:7%以下、Mo:10%以下、Al:3%以下、レアアースメタル:合計で0.5%以下、N:0.2%以下、B:3%以下を含有する。ここでAl、レアアースメタル、N及びBは含有量0を含む。
【0024】
このなかで特に代表的な耐熱鋼材は、代表的なSCH耐熱鋳鋼であるSCH13鋼である。SCH耐熱鋳鋼の溶接金属は完全オーステナイト組織を示す。完全オーステナイト組織は、基本的に高温割れを発生し易い金属であり、後述する高溶接入熱を使用した肉盛り方法では高温割れを発生しやすい。勿論、クラッド鋼板は高温強度を保持する構造体に母材ステンレス鋼等が使用され、強度部材としての役割を受け持つから、その上に肉盛りされるSCH耐熱合金に少々高温割れを発生しても使用上差し支えない。しかし、薄い板厚が要求される場合、SCH耐熱鋳鋼に一切割れの発生が許容されない場合には高温割れの発生を防止することが必要となる。
【0025】
一方、使用上の観点等から肉厚制限が少ない場合、強度部材であるステンレス鋼の肉厚を厚くすることにより、板厚により高温強度を保持させることが可能である。このため、SCH耐熱鋼溶着金属には腐食性ガスに対抗するために、思いきって多種類の合金元素を添加することが可能である。2種類の使用目的が異なる合金をクラッド鋼の形態で構成することにより、従来単一金属では不可能であった性能の獲得が可能になる。すなわちSCH改質鋼である。その有効元素としてはSiが最も安価で有効であり、次にAl、Cuの添加が好ましい。MoもNi、Cr共存のもとで優れた耐腐食性を与えるが、近年値上りが著しく高価である。従ってMoを単独添加するのではなく、Si,Al,Cuのような安価な元素と併用することにより、多種類のガスアタックに対して効果を与えるように設計すくことが望まれる。
【0026】
以下に、各成分が前記成分組成のSCH耐熱鋳鋼に及ぼす影響、効果を示す。
【0027】
〔Cの効果〕
JISG5122に規定されるSCH耐熱鋳鋼に準じて0.2%以上含有される。クロム炭化物の形成に不可欠の元素であり、十分なクロム炭化物を形成する観点から0.5%以上が好ましい。C含有量の上限値は主対象の一つであるSCH6種耐熱鋳鋼に準じて1.4%とした。
【0028】
〔Mnの効果〕
Mn、Niはオーステナイト形成元素であり、その安定度を増す。Mnのオーステナイト形成能力はNiの約半分と言われている。高溶接入熱で完全オーステナイト組織を持つ合金を溶着する場合、高温割れ防止金属として非常に有効である。Mnは溶着金属に含有されるSと結合してMnSの硫化物を形成し、Sを含有する低融点不順物を無害化する。その結果、凝固割れが防止出来る事は公知事実である。代表的なSCH耐熱鋳鋼であるSCH13にMnを添加する場合、約6%添加した溶着金属を曲げ加工すると溶着金属に割れが発生する。従って、高温割れの発生を抑制するMnの最大添加量は6%までとする。また硫黄浸食性ガスに対してMnは効果がある金属とされている。
【0029】
〔Siの効果〕
高Si含有は浸炭防止、耐塩素ガス腐食、高温耐酸化性にとって非常に有効である。SCH13鋼にSiを添加する場合、2%以下で割れが発生しない。それ以上添加すると溶着金属に割れを生じ易くなる。従って、割れのない溶着金属を得るためにはSiの添加量はSi≦2%である。しかし、浸炭や塩素ガス、硫黄ガス腐食に対してSiの含有量は2%以上の添加が好ましい。3.5%以上の添加は本発明者の特許第3343576号で取得した同様の効果が得られるが針状クロム炭化物を析出して硬度が上昇し耐磨耗金属に変化する。従って、Siの含有量の下限は1%で、上限については6%までとする。Siの添加量が1%未満では耐浸炭性、耐硫黄ガス、耐塩素ガスに対してそれ程有効ではなく、Siが6%を超えると溶着金属が非常に脆くなり、実用的ではなくなる。
【0030】
〔Cuの効果〕
Cuは耐硫酸性を向上させる。ごみ焼却炉において燃焼を中断したとき腐食性の強い硫酸液が生じるが、これに対してMoの有効性は少ないとされている。SCH13鋼にCuを0.5%〜1.5%添加すれば硫酸、塩酸に対する耐食性が改善され、粒界腐食も防止されるので、高温硫黄ガスアタックを受けた場合、粒界腐食が防止されると、使用寿命が延長される。さらにAlとSiとを共存させると高温硫化水素ガスや亜硫酸ガスに対して効果を発揮する。Cu量は安定な効果を得るためには0.1%以上の添加が好ましいが7%を超えても効果は飽和し経済性が悪化する。
【0031】
〔Crの効果〕
Cと共にクロム炭化物の形成に不可欠の元素である。SCH耐熱鋳鋼に含有されるCrの最小含有量が多くで17%以上であることから、これを下限値とした。Cr含有量の上限値については30%以下が好ましい。これは、主対象の一つであるSCH6種耐熱鋳鋼のCr含有量が30%以下であることによる。
【0032】
〔NIの効果〕
Ni合金は硫黄成分に対して敏感である。これはNiが硫黄成分を吸収してNiSを形成し組織が脆弱化されるからである。SCH13鋼には約14%のNiが含有されているが、Cu,Al,Siとを共存させることにより、NiSの形成を減少させ、上記ガスアタックに対する抵抗力を与えることができる。各種耐熱鋳鋼のNi上限値が22%であることから、これを上限値とし、下限値についてはSCH6種耐熱鋳鋼では1%以下であることから無添加でもよい。
【0033】
〔Moの効果〕
600〜650℃の高温用途において焼戻し抵抗性を与え耐磨耗性を改善する。また蒸気腐食に対して有効であり、安定な効果を得るためには0.1%以上の添加が好ましい。10%以上を超える添加はフェライトを粗大化する。クロムステンレス鋼に2%程度を添加すれば無機酸、有機酸に対する抵抗性を増大するとされている。ニッケルークロムステンレス鋼に関し、その鋼中のモリブデンは、塩化物水溶液で不溶性MoOCl3 皮膜を形成してステンレス鋼を防衛する。また有機酸中のステンレス鋼の腐食電位では、Moは完全に不活性であり、Mo入りステンレス鋼は有機酸に対して良い耐食性を示すとされている。
【0034】
〔Al:3%以下、Ce,Y等のレアアースメタル:合計量で0.5%以下〕
これらは主に高温耐酸化性を改善するために選択的に添加が可能である。例えばAlは、高温に置ける耐酸化性を改善し特に硫黄ガスが使用雰囲気に多い場合にその効果が発揮される。この場合にはNi量を少なくしてAl量を多くするのが良い。Alが3%を超えると肉盛り金属にアルミナ皮膜が生じてスラグを介在し易く成り、溶接作業性が阻害される。安定な効果を得るためには0.5%以上の添加が好ましい。
【0035】
〔Bの効果〕
クロムと炭素、ニオブと炭素、タングステンと炭素のように金属元素と炭素との結合により非常に硬い炭化物を多量に析出させると耐磨耗性が著しく向上することは良く知られているが、その炭化物の析出のためには炭素を多量に含有させなければならない。しかし、その合金の耐腐食性の観点からみると、炭素含有量の増加は耐腐食性を大幅に低下させる要因になる。これに対し、B(ホウ素)は炭素含有量を低く抑えて耐腐食性を保持し、しかも耐磨耗性を向上させることができる。このホウ素は0.5〜3.0%の微量添加でも耐磨耗性硬化金属の耐磨耗性を著しく改善することができる。その理由は金属ホウ化物、例えばM2 B、M3 2 などの硬度はHv1100〜1750もあり、耐磨耗性を向上させるのに有効な元素であることにある。ホウ素が0.5%未満ではさして耐磨耗性の向上に影響を与えることがなく、添加する場合は0.5%以上の含有が好ましい。一方、5%を超えると金属ホウ化物の析出量が増加して硬化金属自体を脆くし、高面圧磨耗を受けた場合に金属剥離を発生しやすくなるので、5%以下の含有が好ましい。
【0036】
本発明の耐熱クラッド鋼板は、あくまでも忠実にJIS−SCH耐熱鋳鋼成分を肉盛金属成分に再現するものであり、主要成分であるC,Cr,Ni含有量はそのJIS−SCH耐熱鋳鋼成分を模範としていることが基本である。しかし、全ての耐熱鋳鋼の再現は困難であり、最も工業界で使用されている鋼種の再現を目標とする。具体的にはSCH6、SCH12、SCH13、SCH17、SCH18である。SCH6種に関しては、鋳鋼での製造では非常に割れが発生しやすいので、溶接肉盛クラッド鋼として製造する方が容易であり、例え割れが発生しても構造部材である母材としてのステンレス鋼板等が強度を保証し、鋳鋼よりもかえって安全であり使用範囲も拡大される。
【0037】
以上がSCH鋳鋼の全体的な説明であるが、SCH鋳鋼のなかでは次のSCH6改質合金も有望である。すなわち、重量%でC:1.2〜1.4%、Si:1.5〜7%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:27〜30%、Ni:0〜7%、Cu:0.2〜7%、Mo:2〜7%、Al:3%以下、レアアースメタル:合計で0.5%以下、N:0.2%以下を含有するSCH6改質合金である。ここでAl、レアアースメタル及びNは含有量0を含む。その一方では前述したB:5%以下の添加、より好ましくは0.5〜3%の添加も可能である。
【0038】
SCH6改質合金の特徴点は、主成分としてC:1.2〜1.4%、Cr:27〜30%、Mn:0.5〜1.0%を含有し、高温耐酸化性、耐腐食性を改善するためにSiを1.5〜7%、Niを0〜7%とし、さらに耐腐食性を向上させる目的で付加的にMoを2〜7%、Cuを0.2%〜7%添加すると共に、Al≦3%、Ce,Zr、Y等のレアアースメタルを合計量で0.5%以下を含有し、N≦0.2%とした耐熱、耐酸化、耐腐食性合金である。
【0039】
この合金の耐磨耗性、耐腐食性はコバルト合金であるステライトNo.1、No.6に匹敵し、針状クロム炭化物が使用面に析出することによりゴミ焼却炉廃棄ガスから発生するクリンカーの付着防止に有効である。
【0040】
通常の耐熱鋳鋼における炭素含有量の範囲が約0.2〜0.75%であるのに対し、SCH6種の炭素含有量の範囲が1.2〜1.4%と非常に高く、クロムと結合してクロム炭化物を析出して耐磨耗性を向上させる。また、SCH6種では、高温耐酸化性を与えるためにクロム含有量を27〜30%と非常に高くしており、高温硫黄ガスに対する耐腐食性に重点を置いた設計が採用されている。その証拠にニッケル含有量を1%以下として硫黄ガス腐食に対して配慮されている。
【0041】
炭素含有量が高いSCH6鋼は硬い炭化物を析出するため、鋳鋼と言う形態で製造する場合、応力集中を生じる形状部分では特に延性低下割れが発生し易いことが予想される。従って、割れ発生の回避から耐腐食性に関して合金設計が中途半端な成分範囲で構成されており、その用途が高温硫黄ガス等にのみ限定され、適用用途の範囲が狭い所が欠点である。
【0042】
これに対し、本発明の耐熱クラッド鋼は、既に詳述したように、溶接クラッド鋼板の形態で製造することを特徴としているので、少々割れが発生しても母材となる部材が構造体としての強度を保持している事から、割れが許容出来る特徴がある。従って、現状成分のSCH6鋼の耐腐食性を硫黄腐食のみに限定せず、多種類の腐食に対して効果を発揮できる成分設計を行なうことが可能となる。
【0043】
SCH6鋼は安価な鉄基合金であり、しかも炭素含有量が高く耐磨耗性に優れており、この合金に各種耐腐食性を加味すれば多用途に適用出来る可能性が広がる。SCH6改質合金の大きな目的は、鉄基合金にも拘わらずコバルト基合金の耐磨耗性や耐腐食性に匹敵する性能を与えることにあり、高価なコバルト合金の代替金属としての用途に使用される期待が大きい。
【0044】
更なる特徴として、炭素含有量が1.4%でCr含有量が28〜30%の場合、Si≧4%でメタル表面に針状クロム炭化物が多量析出するために、ごみ焼却炉や汚泥焼却炉から発生する排ガスに含有されるクリンカーの付着を極端に防止する性能を与えた。現状ではクリンカーの除去作業は非常に困難で作業者の健康にも有害性を与え除去作業の困難が問題になっているのである。
【0045】
以下に、各成分が前記成分組成のSCH6改質合金に及ぼす影響、効果を示す。
【0046】
〔Cの効果〕
1.2〜1.4%と非常に多く含まれ、クロムと結合してクロム炭化物を析出して耐磨耗性を向上させる。
【0047】
〔Siの効果〕
高Si含有は浸炭防止、耐塩素ガス腐食、高温耐酸化性にとって非常に有効である。浸炭や塩素ガス、硫黄ガス腐食に対してSiの含有量は2%以上の添加が好ましいが、2%以上になると、肉盛り合金に延性低下割れが発生し易くなる。3.5%以上の添加の場合は、針状クロム炭化物が析出して硬度が上昇し、耐磨耗性金属に変化する(特許第3343576号)。従って、Siの添加量の下限は1.5%で、上限については7%とする。Siの添加量が1.5%未満では耐浸炭性、耐硫黄ガス、耐塩素ガスに対してそれほど有効ではなく、Siが7%超になると、溶着金属が非常に脆くなり実用的ではなくなる。上限に付いては6%以下が特に好ましい。
【0048】
〔Cuの効果〕
Cuは耐硫酸性を向上させる。ごみ焼却炉において燃焼を中断した時、腐食性の強い硫酸液が生じるが、クロム鋼にCuを0.5%〜1.5%添加すれば硫酸、塩酸に対する耐食性が改善され、粒界腐食も防止される。高温硫黄ガスアタックを受けた場合は、粒界腐食が防止され、使用寿命が延長される。更にAlとSiとを共存させると高温硫化ガス、亜硫酸ガスに対して効果を発揮する。安定的な効果を得るための最小添加量については0.2%以上であるが、7%を超えても効果は飽和し経済性が悪化する。好ましい添加量の範囲は1.5%から6%までである。
【0049】
〔Crの効果〕
27〜30%と非常に多く含まれており、クロム炭化物の析出により優れた耐磨耗性が確保されると共に、優れた高温耐酸化性が付与され、高温硫黄ガスに対する耐腐食性にも優れる。
【0050】
〔Niの効果〕
Niは高温耐磨耗性には大きな影響を与えないが高温浸炭雰囲気で浸炭を防止する効果があり、サーマルショックを受ける用途ではCrの不動態皮膜の剥離を防止する効果を持つので、使用温度が高くなるほど含有量を増加させるのが望ましい。更にハロゲンガスに対しても高ニッケル含有が望ましい。しかし、ニッケルはSCH6鋼の主たる用途である硫黄ガス腐食に対して弱いので、使用状況によっては不添加、若しくはニッケル量を抑制する必要がある。SCH6鋼の主たる目的である高温硫黄ガスに対する耐腐食性を保持するために、ニッケルの含有量は0%から7%までとした。ハロゲンガス腐食に対してはニッケルの代わりにSiを多量添加することにより耐食性を与えることが可能である。
【0051】
〔Moの効果〕
600〜650℃の高温用途において焼戻し抵抗性を与えて耐磨耗性を改善する。また常温付近の耐食性を高めると同時に蒸気腐食に対しても有効であり、安定な効果を得るためには0.1%以上の添加が好ましい。10%を超えるとフェライト結晶粒を粗大化する。クロムーニッケルステンレス鋼に2%程度を添加すれば無機酸、有機酸に対する抵抗性が増大するとされている。ニッケルークロムステンレス鋼に関し、その鋼中のモリブデンは塩化物水溶液で不溶性MoOCl2 皮膜を形成してステンレス鋼を防衛する。また有機酸中のステンレス鋼の腐食電位ではMoは完全に不活性であり、Mo入りステンレス鋼は有機酸に対して良い耐食性を示すと言われている。
【0052】
ごみ焼却炉や熱分解炉の使用温度が800℃を超え1000℃までとした場合、モリブデンはニッケルと同様に塩素ガスに対する抵抗性を持つが、高温でMoの酸化物MoO3 が形成され、その融点が795℃と低く、かつ揮発性が大きいために数%以上の合金化は耐酸化性を著しく劣化させる。800℃以上で長時間の操業は望ましくないと言われている。800℃以下で操業がしばしば中断され、室温にまで冷却されて酸露点による腐食を受ける場合にMoの含有は好ましい。この観点から最小2%から最大7%までとし、最高使用温度が800℃の場合を基準として適宜含有量を調整する必要がある。
【0053】
〔Al:3%以下、Ce,Y、Zr等のレアアースメタル:合計量で0.5%以下〕
これら主に高温耐酸化性を改善するために選択的に添加が可能である。例えばAlは、高温における耐酸化性を改善し特に硫黄ガスが使用雰囲気に多い場合にその効果が発揮される。この場合には、ニッケル量を少なくしてAl量を多くするのが良い。Alが3%を超えると肉盛り金属にアルミナ皮膜が生じてスラグを介在し易くなり、溶接作業性が阻害される。安定な効果を得るためには0.5%以上の添加が好ましい。
【0054】
〔Bの効果〕
耐磨耗性を高めるために通常は高炭素による炭化物析出が使用される。しかるに、このような高炭素化による耐磨耗性向上策では、その炭素量は5〜6%にも達し、耐食性は軟鋼と同程度まで低下する。換言すれば、鉄基耐磨耗性合金では、耐食性の確保のために炭素含有量を低下させることが肝要であるが、それにより炭化物の析出量が大幅に低下し、優れた耐磨耗性を確保することができなかった。特に炭素含有量が3%以下になると、亜共析鋼となり、高硬度を与える初晶炭化物の析出量が減少するため、耐磨耗性は極端に低下する。すなわち、炭素含有量が3%以上の過共析鋼とすれば、初晶炭化物の析出量が増加して、耐磨耗性が著しく向上するのである。しかしながら、炭素が3%も含有さると軟鋼と同程度の耐食性しか得られなくなり、耐食性の点からは炭素含有量は1.5%以下が好ましい。BはSCH6改質合金の炭素量を約1.5%と低位に保持し、その炭素量の増加なしに、高硬度の金属ホウ化物をマトリックスに析出させることにより、耐磨耗性の向上を図る。金属ホウ化物は、耐食性に有害な炭素を必要とせず、耐食性に影響を与えない金属間化合物により耐磨耗性を向上させる点が有効である。
【発明の効果】
【0055】
本発明の耐熱クラッド鋼板は、JISに規定されるSCH耐熱鋼相当の耐熱性能を有する。このSCH耐熱鋼は優れた耐熱性、耐ガス浸食性、高温強度を保持し、高温材料としては比較的安価であり、非常に優れた合金である。しかし、従来は鋳鋼の形態でしか生産されておらず鋳鋼と言う製造方法の欠点が露呈し、特に薄板厚の場合、板厚中央部に巣が発生し易く、構造体としての高温破壊強度が要求されるような熱分解に使用されるキルン容器としては危険で使用出来なかった。その他、高温材料としては、ニッケル合金やコバルト合金、超耐熱合金があるがこれら高級合金は大面積を被覆する大きな装置に適用する場合、板材としては余りにも高価であり費用対効果から判断して全く適用出来るものではなかった。
【0056】
本発明の耐熱クラッド鋼板は、この優れた高温耐酸化性を持つSCH耐熱鋳鋼をステンレス鋼等とのクラッド材の形態で溶接肉盛りにより製作したものである。その結果、鋳鋼の最大の欠点である巣の発生を皆無とし、しかも1000×1000mm以上、更には1000×2500mm以上の広さを持ち、板厚もSCH耐熱鋳鋼合金層を含め、全肉厚が28mm未満(母材金属肉厚が16mm未満、溶接肉盛合金肉厚が12mm未満)という、鋳鋼では製造が困難な大面積薄板を、最小9mm厚の薄板から生産でき、40mmのような厚板の製造も可能である。
【0057】
付加価値として、構造体として強度が必要とされる部分には圧延ステンレス鋼等を採用するので、構造体としての強度は確保される。ガスアタックを受ける作用面にはSCH耐熱鋳鋼がクラッドされるが、さらにガスアタックに抵抗する合金元素を多量添加することにより現存のSCH耐熱鋳鋼より優れた耐腐食性を与えることが可能となる。合金元素の添加により高温割れや延性低下割れが発生し易いが、この割れは構造体の強度に影響することは無い。割れ部分から腐食性ガスの浸食が懸念されるが、水溶液中の割れではなくガスアタックによるものであるから、電気腐食の可能性が少なく、母材金属までの浸食は少ない。単一金属で使用されるSCH耐熱鋳鋼の場合にも、ガスアタックにより表面にガス腐食を受け、使用中のサーマルショックにより亀裂を発生する場合があるので、その場合に較べむしろ安全側に存在すると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0059】
肉盛りされる耐熱合金をSCH13相当成分とする。肉盛りされるSCH13合金は通常1層肉盛りが基本的に溶着されるが、1層肉盛りの肉盛厚みは5〜6mmである。用途によっては2〜3層、即ち10〜18mm程度の肉盛りは可能である。施工技術の面からは何層でも問題を生じることはないが、経済的要因から層数は制限される。1200mm幅を一度に肉盛り施工を行うには、自動溶接ヘッドが12電極使用される。1電極当たり約100mm幅のビードが溶着され12電極を使用して1200mm幅で5〜6mm厚みの溶着金属が得られる。
【0060】
板の長手方向への溶接肉盛は、溶接電極が一定速度で移動する溶接キャリッジに母材を搭載して行なわれる。溶接ヘッドが固定されている場合には、母材が移動キャリッジに搭載されて移動することにより、長手方向の肉盛溶接が行なわれる。肉盛り条件の一例を以下に示す。
【0061】
肉盛り方法 サブマージドアーク方法
溶接電流 700〜800A(DCRP、AC)
溶接電圧 38〜40V、
溶接速度 10cm/分
電極揺動回数 12回/分(1電極当たり100mm幅)
電極の材質 SUS309
【0062】
SCH13耐熱鋳鋼のJIS規定化学成分を次に示す。C0.2〜0.50% Si2.00%以下 Mn2.00%以下 Ni11〜14.00% Cr24.00〜28.00% (N0.2%)。Nは添加してもよいし添加しなくてもよい。P、Sその他不純物は省略した。
【0063】
SUS309電極はC0.05%、Si0.6%、 Mn1.6%、Ni 13%、Cr24%の成分組成をもち、SCH13合金成分が不足する。SCH13合金に不足する合金元素は、合金粉を外部からアーク点に一定量を供給することにより補う。合金供給はプラズマ溶接で使用される合金粉供給装置を12台使用して改善し各溶接ヘッドに搭載する方法、もしくは定量切り出しフィーダーを使用してアーク点に合金を供給する方法が採用される。
【0064】
2層肉盛りが必要な場合には肉盛り完了後、板の歪を除去した後、再度肉盛り施工が同様に施工される。両面肉盛り施工の場合にはステンレス鋼の裏面側に再度肉盛り施工される。
【0065】
本クラッド鋼板の健全性を示す方法として以下の実験を行なった。
【0066】
母材金属にSUS310Sを使用してその上にSCH13合金相当金属を溶着してクラッド鋼板を製作した。そのクラッド鋼を曲げ加工して容器を作成した。容器寸法は外径約350mm×高さ約390mm、クラッド鋼の肉厚はSUS310Sからなる母材金属厚が9mm、SCH13合金厚が約5mm、全肉厚ガ約14mmである。SCH13合金側を内側(作用面)にして曲げ加工を行った。
【0067】
容器内部にコークスを入れ、コークス燃焼試験を行った。試験条件は以下のとおりである。
【0068】
試験時間 1014時間
コークス使用量 3,115Kg
試験期間 約8ヵ月
燃焼方法 8時間/日燃焼すると翌日の朝まで出空冷
熱履歴 8H加熱×16H空冷を繰り返す。
【0069】
試験後の容器内面の染色探傷試験を行なった。コークス加熱による浸炭を受けたが、作用表面には割れは一切認められなかった。
【0070】
約700℃に1014時間加熱された容器部分から試験片を切り出し曲げ試験を行なった。試験では、JIS3122−1961 3号試験に準じて試験片を採取し、3本の裏曲げ試験を行なった。曲げ内面がSCH13合金、外側がSUS310Sに相当する。3本の曲げ試験では、180度完全曲げを行うことができ、満足な結果を得られた。曲げ面には割れ等の欠陥は無かった。
【0071】
この溶接肉盛クラッド鋼では、母材金属がステンレス鋼から構成されているので、鋳鋼のような内部欠陥が含まれず無欠陥である。SCH13耐熱合金は溶接肉盛で成形され、その肉盛方法はサブマージドアーク方法である。この肉盛溶着方法自体は既にステンレスーストリップー肉盛り方法として業界で認められ、クロムーモリブデン鋼の上に多種類のステンレス鋼種がバンド状電極を使用して肉盛りされ、クラッド鋼が製作されている。このクラッド鋼は石油化学装置類、尿素プラント、原子力プラント、製紙機械等に多量使用され実績を持っている。既に確立した肉盛技術を利用して製作されているので、その溶着金属の健全性は確保できているのである。従って、700℃×1014時間の長時間に亘る加熱処理を受け、すでにクロム炭化物やσ相が結晶粒界や粒内に析出しているにも拘わらず、180度の完全曲げ加工が可能であった。
【0072】
次に、溶接肉盛金属であるSCH耐熱鋳鋼として、SCH6耐熱鋳鋼の耐食性を改善したSCH6改質鋳鋼の一例を取り上げ、その耐磨耗性、各種腐食液による耐腐食性を各種金属と比較した。
【0073】
SCH6改質鋳鋼の代表成分の一例を以下に示す。C1.2〜1.4%、Cr27〜30%、Mo3〜6%、Cu3〜6%、Ni3〜5%、Si4〜6%。また別の例(B添加合金)を以下に示す。C約1.4%、Cr27〜30%、Mo3〜6%、Cu3〜6%、Ni3〜5%、Si4〜6%、B1.7〜2.0%。
【0074】
各合金の耐磨耗性を表1、各種金属との耐磨耗性の比較を表2、各種合金との耐腐食性の比較を表3に示す。表2中の磨耗係数は、各種合金の磨耗試験値を、SS400の磨耗試験値を100として示した比率であり、磨耗試験値は1.5kg荷重の低応力磨耗試験機により求めた。肉盛母材はSUS310S材(厚さ9mm)を使用した。また、表3中の耐腐食性は、室温で10%濃度の水溶液中に各試験片を240時間浸漬した後の腐食減量により評価した。SCH6改質鋳鋼、ステライトNo1及びNo.6は、母材がSUS310Sのクラッド鋼の状態で試験を行った。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
本比較試験結果から、SCH6改質合金は、高価なコバルト基合金であるステライトNo.1と同程度の耐磨耗性を示し、ステライトNo.6より優れた耐磨耗性を示すことが確認された。耐腐食性の比較試験では、10%塩酸溶液腐食試験では、この合金はステライトNo1、No.6より優れていた。10%硫酸試験では、ステライトNo.1より優れNo.6より劣っていたが、安価な鉄基合金としては素晴らしい性能であった。
【0079】
SCH6鋼の主成分を一定にして耐腐食性を改善する合金元素を添加することにより、従来、SCH6鋼では適用不可能な用途にもクラッド合金の形態で使用が可能になる。用途としては、下水処理工場の汚泥処理設備、ごみ焼却設備や焼却炉、廃液処理設備、生ゴミ熱分解設備等のシュート、ホッパー、容器、炉壁等のライナー、汚泥搬送レール、サイクロン、火格子、煙道等のクリンカー付着防止ライナー等の多岐に亘る用途に適用可能である。
【0080】
既に現在でも、本発明の耐熱クラッド鋼板は、処理物が木材チップ、牛糞、ホタテ貝、シュレッダーダスト等の熱分解装置のキルン容器材として最高加熱温度が850℃の条件で試験利用されており、多大の評価を得ている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JISG5122に規定されるSCH耐熱鋳鋼の組成を有する耐熱鋼材を、異種鋼材からなる母材鋼板の一方の表面又は両方の表面に溶接肉盛りしてなる耐熱クラッド鋼板。
【請求項2】
前記母材鋼板は軟鋼、ステンレス鋼、又はその他の易溶接鋼からなる請求項1に記載の耐熱クラッド鋼板。
【請求項3】
溶接肉盛合金は、重量%でC:0.2〜1.4%、Si:1〜7%、Mn:6%以下、Cr:17%以上、Ni:22%以下、Cu:7%以下、Mo:10%以下、Al:3%以下、レアアースメタル:合計で0.5%以下、N:0.2%以下を含有する請求項1に記載の耐熱クラッド鋼板。
【請求項4】
B:0.5〜3%を含有する請求項3に記載の耐熱クラッド鋼板。
【請求項5】
ゴミ、汚泥又は廃油の焼却炉における排ガス処理系キャスタブル崩落防止用ライナー及び/又はクリンカー付着防止用ライナー、或いは炉体、炉内の構造用強度部材である請求項1に記載の耐熱クラッド鋼板。
【請求項6】
母材金属肉厚が16mm未満、溶接肉盛合金肉厚が12mm未満、幅が1000mm以上、長さが1000mm以上の、鋳鋼では製造困難な大面積の薄板である請求項1に記載の耐熱クラッド鋼板。

【公開番号】特開2007−54887(P2007−54887A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200576(P2006−200576)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(592198518)アイエヌジ商事株式会社 (12)