説明

耐熱・耐酸化被覆材水溶液及び被覆処理方法

【課題】高温雰囲気下で使用される耐火レンガ、キャスタブルなどの耐火物のスポーリング防止、クリンカ付着の遅延及び低減、クラック、割れ、崩壊、減肉などの防止及び、耐火鋳物、ステンレス、鉄、耐熱金属など金属の高温酸化の防止を可能にする耐熱・耐酸化被覆材水溶液及び被覆処理方法を提供するものである。
【解決手段】アルカリ金属ケイ酸塩化合物、ホウ酸化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、無機耐熱骨材である酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、無水珪酸、カオリナイト、酸化チタンやフェローシリコン、マイカからなる耐熱・耐酸化被覆材水溶液と耐熱・耐酸化被覆材水溶液の被覆処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温雰囲気下で使用される耐火レンガ、キャスタブルなどの耐火物のスポーリング防止、クリンカ付着の遅延及び低減、クラック、割れ、崩壊、減肉などの防止及び、耐火鋳物、ステンレス、鉄、耐熱金属など金属の高温酸化の防止を可能にする耐熱・耐酸化被覆材水溶液及び被覆処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼却炉、焼頓炉、加熱炉、リフォーマー、ボイラー、溶融炉、内燃機関、熱交換器等の熱炉の高温に曝される部分には耐火物である耐火レンガ、キャスタブルなど、金属では耐熱鋳物、ステンレス、耐熱金属等が用いられているが、特に焼却炉にあっては近年のダイオキシン問題でより高温で燃焼させる必要が生じ、燃焼時に発生する高温腐食性ガスによる炉壁のスポーリング、溶融飛灰がクリンカとして炉壁へ大量の付着、或いは炉壁のクラック、割れ、崩壊、減肉の危険性が増しており維持管理の回数が増加し稼働日数の低下に繋がっている。又焼却炉の耐火鋳物製火格子や、熱炉内で使用される金属の高温酸化による減耗が激しく交換によるコスト増に繋がっている。
【0003】
又、石油精製等に用いられる加熱炉、その他熱炉である焼頓炉、ボイラー等は石油価格の高騰によりコスト増に繋がっている。尚、高温雰囲気下で使用する耐熱金属の酸化防止にはセラミック溶射、金属溶射などあるがセラミック溶射は金属の膨張係数に追従できずクラックが起こり、金属溶射では短期的な酸化防止しかできず現時点で金属の高温酸化防止の有効な方法はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、高温雰囲気下で使用される耐火物は高融点材料であるジルコニア、アルミナ、シリカ等の微粒子粉末を成型し高温で焼成して作られた耐火レンガや、キャスタブルのように粉末に適量の水を混合し現場にて施工する耐火物が主体である。これらの耐火物であっても尚表面がポーラス状を呈しており耐熱効果はあっても、耐火物内部への高温腐食ガスの侵入、高温で溶融した飛灰の付着は免れない。高温腐食ガスによるスポーリングや飛灰の付着によりクリンカの耐火物表面への堆積によりクリンカが崩落する時に耐火物の一部も崩落し減肉に繋がっている。これら耐火物を更に長期間使用できるようになれば維持管理的にも低コストが実現でき稼動日数の増加に繋がる。現在、炭化珪素系耐火物の使用や、耐火物の内面を空冷、水冷など施すことによりクリンカ付着を防ぐ方法が取られているが、耐火物のコストが極めて高価という難点がある。ダイオキシン対策による高温焼却の効果実証の為、弊方特許第3399650号耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法を用い実機の産業廃棄物焼却炉に塗布し検証した。その結果、一部材料配合に改良を加え焼却炉や溶融炉の炉壁耐火物である耐火レンガ、キャスタブルなどのスポーリング防止、クリンカ付着の遅延と付着量の低減、炉壁のクラック、割れ、崩壊、減肉などを防止する効果的な方法を見出し炉壁維持管理の簡易化によるコスト低減並びに維持管理期間の短縮化を計る耐熱・耐酸化被覆材水溶液及び被覆処理方法を提供することにある。
また、同様に焼頓炉、加熱炉、リフォーマー、ボイラーなどの炉壁のスポーリング防止、炉壁のクラック、割れ、崩壊、減肉などの防止を提供するものである。
【特許文献1】特許第3399650号耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法
【課題を解決する為の手段】
【0005】
上記目的を達成するために第一の発明はアルカリ金属ケイ酸塩、ホウ酸化合物、亜鉛化合物、マイカを含むと共に、フェローシリコン、マンガン化合物、コバルト化合物の内の1又は2以上の要素を含む金属用の耐熱・耐酸化被覆材水溶液である。
アルカリ金属ケイ酸塩とはケイ酸カリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液或いはこれらにコロイダルシリカを配合しモル比調整を行ったものを指す。又はアルカリ金属ケイ酸塩とはケイ酸カリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液単体の内の1又は2以上の要素を含むものである。或いはアルカリ金属ケイ酸塩とはケイ酸カリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液にコロイダルシリカを配合したものの内の1又は2以上の要素を含むものである。更にアルカリ金属ケイ酸塩とは夫々の単体にコロイダルシリカを配合したものの混合物の内の1又は2以上の要素を含むものである。
ホウ酸化合物とはホウ酸ナトリウム、メタホウ酸塩、ラトラホウ酸塩、ピロウホウ酸塩、ホウ酸塩、四ホウ酸塩、三酸化ホウ素、五ホウ酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウムを指し、それらの内の1又は2以上の要素を含むものである。亜鉛化合物とは酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、三二酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、珪酸亜鉛を指し、それらの内の1又は2以上の要素を含むものである。フェローシリコンは脱ガス表面酸化被覆を施したものである。マンガン化合物とは純度65%以上の天然二酸化マンガン、電解マンガンを指し、それらの内の1又は2以上の要素を含むものである。コバルト化合物とは四三酸コバルト、酸化第一コバルト、酸化第二コバルト、ラネーコバルトを指し、それらの内の1又は2以上の要素を含むものである。
第二の発明は請求項1において無機耐熱骨材を含む耐熱・耐酸化被覆材水溶液である。
無機耐熱骨材とはマグネシウム化合物、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、無水珪酸、カオリナイト、酸化チタンなどの無機質高融点材料を指し、これらの内1又は2以上の要素を含む粉末の材料である。マグネシウム化合物とは酸化マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、フッ化マグネシウムである。
第三の発明は請求項1及至2の水溶液を使用し被処理物である耐火物や金属の融点より低い温度で焼成してなることを特徴とする耐熱・耐酸化被覆材水溶液の被覆処理方法である。被処理物の耐火物とは焼却炉、焼頓炉、加熱炉、リフォーマー、ボイラー、溶融炉など熱炉に使用される耐火レンガ、キャスタブル等である。これら耐火物表面に耐熱・耐酸化被覆材水溶液を塗布しスポーリング防止、クリンカ付着の遅延及び低減、クラック、割れ、崩壊、減肉なとを防止する。或いは前記の熱炉やタービン、熱交換器などの高温雰囲気下で使用する耐火鋳物、ステンレス、鉄、耐熱金属等の金属に耐熱・耐酸化被覆材水溶液を塗布し高温酸化防止を可能にすることを特徴とする耐熱・耐酸化被覆材水溶液の被覆処理方法である。
【作用】
【0006】
本発明によれば、無機耐熱骨材であるマグネシウム化合物、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、無水珪酸、カオリナイト、酸化チタンなどの高融点材料や被処理物表面に金属被膜を形成するマンガン化合物、コバルト化合物、フェローシリコンなどに触媒的な役目を果たすホウ酸化合物、亜鉛化合物を配合することにより無機耐熱骨材やマンガン化合物、コバルト化合物、フェローシリコンなどを被処理物の耐火物や金属の融点以下の温度で溶融させ被処理物に被覆させる事ができる。アルカリ金属ケイ酸塩化合物水溶液は塗料化して被処理物への塗布を容易にすると共に無機耐熱骨材やマンガン化合物、フェローシリコンなどが溶融する一定の温度帯まで接着剤として被処理物の表面にガラス状被膜として高温腐食ガスの侵入防止及び耐酸化防止の役目を果たす。マイカは高温雰囲気下に於ける耐熱・耐酸化材被覆形成時に発生しやすいクラック防止のために用いられる。マンガン化合物、コバルト化合物、フェローシリコンは被処理物の種類や目的により1又は2以上の要素を配合使用しても良く、フェローシリコン内のフェロー分やコバルト化合物、マンガン化合物はアルカリ金属ケイ酸塩化合物水溶液中のケイ素やフェローシリコン中のケイ素とセラミック金属化合物被膜を形成し被処理物のポーラスな表面を緻密な被覆でコーティングを施しクリンカ付着の遅延、低減効果、高温腐食ガスより被処理物を保護する効果を発揮する。又被処理物が金属である場合のマンガン化合物、コバルト化合物は金属表面に高温酸化に極めて強い金属被覆を形成し低膨張係数のセラミック化合物からなる無機耐熱骨材と被処理物金属の膨張係数の緩衝に貢献する。セラミック化合物からなる無機耐熱骨材は粒子の異なる材料を用いることにより石垣状を呈しこれが膨張係数の違いを吸収しクラック、割れを発生させない要因の一つにもなっている。
【0007】
請求項3に関し、請求項1及至請求項2の耐熱・耐酸化被覆材水溶液に明記された粉末材料と所定の濃度に調整したアルカリ金属ケイ酸塩化合物を目的の被処理物に応じて配合し(表1〜表2)、耐熱・耐酸化被覆材水溶液を作成する。この時、粉末材料がダマにならないよう良く攪拌して耐熱・耐酸化被覆材水溶液を処方する。被処理物である耐熱耐火物に塗布するには、リシンガンなどのスプレーガン、刷毛、ローラー塗布が適当であり、特にリシンガンでの塗布は効率的に塗布できる。新品の耐火レンガの場合は被処理物の下地処理は不要、又キャスタブルの場合は自然乾燥或いは強制的に乾燥させた後にリシンガンなどのスプレーガン、刷毛、ローラー等で表面に塗布する。塗布後被覆の乾燥を待たずに高温雰囲気下に曝されても割れ、クラック、崩落することはない。被処理物が金属の場合は、被処理物の表面を脱脂或いはブラスト処理を施し表面の油分除去を行うと共に表面に凹凸をつけることにより密着性の向上を計る事ができる。特に金属のエッジ面は面取りを行う事によってエッジ面よりの剥離を防ぐ事ができる。金属の塗布方法も同様にスプレーガン、刷毛、ローラーなどの使用が可能だが、スプレーガン塗布が効率的である。塗布後、十分に自然乾燥するか或いは低温にて強制乾燥を行った後、耐熱・耐酸化被覆材被膜含まれる水分を十分乾燥させた後アルカリ金属ケイ酸塩化合物が強固なシロキサン結合となる物温200℃で20〜30分仮焼成する。この段階で空気中の水分を吸着してチョーキングを起こすことはなく長期保管が可能となる。又仮焼成しておくことにより、いきなり温度を上昇させても形成被覆が被処理物と剥離、割れ、クラックを生じない。
【発明の効果】
【0008】
本発明は耐火物表面のポーラス状を解消する緻密な高温腐食ガスに強い被覆を形成すること、及びその被覆材料自体がクリンカの付着しにくいもので構成することにより少なくとも耐火物内部への高温腐食ガスの侵入を押さえ、更に溶融飛灰の付着を遅延させクリンカの堆積量を減らすことができる。結果として耐火物のスポーリング、クリンカ付着の低減、クラック、割れ、崩落、減肉を防ぐことを可能にする。又、高温雰囲気下で使用される耐熱金属として、耐熱鋳物、耐熱鋼管、耐熱合金などニッケル、炭素、クロム、タングステン他等の耐蝕性素材を使用しているが高価であること、元々如何なる金属であっても高温雰囲気下での酸化を止めることはできない。従い本発明の耐熱・耐酸化被覆材水溶液である非酸化性のセラミック化合物被覆で且つ膨張係数に追従する被覆材を用いれば金属表面での酸化防止することができる。従い現在使用されている耐熱金属の耐用期間を延長し使用することを可能にすると共に、これまで使用できなかった鉄、ステンレスなどの金属も条件により使用可能となる。
【発明を実施する為の最良の方法】
【0009】
以下、本発明を具体化した実施例につき説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施例は本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。又、弊方所有の特許文献1の特許第3399650耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法に基づき処方或いは一部改善したものの使用方法である。
表1は実施例1〜実施例3に係わる耐熱・耐酸化被覆材水溶液を構成する材料の配合比率を示すもので、産業廃棄物焼却炉の耐火物であるキャスタブル表面に塗布しクリンカ付着、炉壁の割れ、クラック、崩落、減肉及び維持管理の簡易性を検証したものである。又、その使用方法について明記したものである。尚、耐火物の配合範囲については表3にて明記している。
【0010】
【表1】

【0011】
耐火物用耐熱・耐酸化被覆材水溶液
表1のごとく、無機耐熱骨材他の粉末材料を所定の配合比率にて夫々計量し粉体混合機にて全体が良く混ざるように攪拌した。アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム液は所定の濃度に希釈調整する。粉末材料混合物が所定の濃度に調整したケイ酸カリウム液内でダマにならないように良く攪拌した。
粉末材料混合物とケイ酸カリウム液を混合して放置すると硬化現象を起こす為、施工前に混合攪拌する。
【0012】
耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法
表1の材料を使用して作成した耐熱・耐酸化被覆材水溶液をリシンガン(スプレーガン)、刷毛、ローラー等で被処理物に塗布する。この時1kg当たり約2m程度塗布すると効果的である、又極度に高温に曝される部位には1kg当たり1m程度の塗布が要求される。特に高温に曝される負荷の高い部位には被覆厚を多くした方がより効果的である。
【0013】
「実施例1」
三重県甲社の所有する三菱重工社製焼却能力75トン/日のローターリーキルン/ストーカー併用炉のキャスタブル製炉壁に表1にて作成した本発明品をリシンガンにて塗布し、その効果を検証した。
現行の問題点として;
*60日間稼動において再燃焼室の耐火物が随所で激しく傷んでいた。耐火物厚み150mmが20mmに減肉し脱落も3回発生している。
原因として
1)高温燃焼により、飛灰が溶融して、炉壁にクリンカが付着し巨大化して脱落する時に耐火物が損傷されている。
2)高温燃焼の継続により、熱的スポーリングで耐火壁が侵食している。
検証期間と内容;
検証期間;60日スパンx2回
検証内容;
1)スポーリングに因る耐火炉壁の侵食
2)酸、アルカリによる影響
3)クリンカ付着度と炉内清掃時間(維持管理)の改善
第一回目検証(60日間);甲社は同一の焼却炉1号炉、2号炉の2基を保有し、その内特に負荷の大きい1号炉に於いて検証を行った。1号炉に塗布し20日程度で1号炉2号炉を停止し内部点検を行った。1号炉の扉は簡単に開放できたが2号炉の扉はクリンカ付着により非常に固かった。通常はクリンカの付着により1号炉も2号炉と同様の状態である。この時点では1号炉には未だクリンカは付着していない事が検証された。又1号炉の炉壁は被覆材が完全に炉壁をコーティングしており黒い被覆を形成していた。更に60日間まで継続運転後のクリンカ付着状況を観察したが第一回目の検証では殆どクリンカの付着はなく、スポーリング、割れ、クラック、炉壁崩壊、減肉は見られなかった。
第二回目検証(60日間);第一回目の効果の再現性を検証するため、再度重ね塗布を行い更に60日間の検証を行った。この時通常では欠落する低材質のキャスタブルを炉壁の一部分に塗布し、この上より被覆材を塗布して低材質耐火材の使用が可能か検証した結果、第二回目の検証に於いても第一回目と同様の再現性が検証されると共に低材質キャスタブル炉材でも欠落することなく使用可能な事が検証された。第二回目の炉開放後炉内清掃を行ったが通常2日間必要とする作業が4時間で終了し維持管理に大きく改善が見られた。
【0014】
「実施例2」
福島県乙社の呉羽環境社製焼却能力200トン/日のロータリーキルン炉煙道部のキャスタブル炉壁に表1にて作成した本発明品をリシンガンにて塗布し、その効果を検証した。
現行の問題点として;
通常2週間に約30cmの厚みのクリンカが付着し継続して稼動するとクリンカが焼き絞まりハツリが困難なため、2週間に一度炉を停止してクリンカ除去作業を行っている。
原因として;
産業廃棄物及び医療廃棄物をロータリーキルン内で1,100℃燃焼を行い、燃焼ガスを二次燃焼炉内に引き込む流速が大きい為、飛灰のみならずボトムアッシュの一部が二次燃焼炉への通過点である煙道部位に集結し短期間で煙道炉壁にクリンカが堆積する。
検証期間と内容;
検証期間;80日間(3回検証)
検証内容;クリンカの付着状況をクリンカの密着度検証
第一回目は通常のクリンカ除去作業の後、煙道入り口部に約20mをリシンガンで塗布し13日間後に炉を開放しクリンカ付着量を検証した。通常2週間で30cmのクリンカ付着するところ今回は10mm程度しか付着がなかった、又手で押すと簡単に板状のクリンカが剥離した。第二回目は同様に塗布し28日間後に検証した、この時のクリンカ付着量は20〜50mmと炉壁の部位によりクリンカ付着量に差がでていた。第三回目は39日間で検証した、クリンカ付着量は100mm程度と極めて効果が出ている。
又、スポーリング、割れ、クラック、減肉、崩壊は見られなかった。
【0015】
「実証例3」
福岡県丙社のタクマ社製焼却能力180トン/日のロータリーキルン/ストーカー併用炉のキャスタブル製炉壁に表1にて作成した本発明品を塗布しその効果を検証した。
第一回目は第一燃焼部より第一ガス冷室への煙道部位に約5m(5kg)刷毛にて塗布し75日間連続運転後煙道部に付着するクリンカ量を検証した。通常煙道部位はトンネル状にクリンカが付着するが両サイドの壁にのみ100〜200mmの付着あったものの煙道天井部、底部には堆積がなかった。又壁部のクリンカも押すだけで簡単に除去できた。第二回目は再現試験を行う為に100m(50kg)をリシンガンで第一回目と同様に煙道部、ロータリーキルンの落ち口下、ストーカー部側壁に塗布し86日間連続運転し検証した。煙道部位の側壁には200〜300mm付着していた、今回は2m/1kgの割合で塗布しており第一回目の半分の膜厚であった。ロータリーキルン下部の側壁はキルンから溶融した灰が流れ落ちる部位であり効果の確認はできなかった。又ストーカー側壁部位の一部にはクリンカの堆積が見られたものの通常の付着量よりかなり少量であった。このように付着量が通常多い部位には被覆膜の厚みを増す事でクリンカ付着量が軽減することが可能となることが検証された。又スポーリング、割れ、クラック、減肉、崩壊は見られなかった。
【0016】
表2は実施例4〜実施例5に係わる耐熱・耐酸化被覆材水溶液を構成する材料の配合比率を示すもので、金属の試験を検証したものである。又、その使用方法について明記したものである。尚、金属の配合範囲については表4にて明記している。
【表2】

金属用耐熱・耐酸化被覆材水溶液
表2のごとく、無機耐熱骨材他の粉末材料を所定の配合比率にて夫々計量し粉体混合機にて全体が良く混ざるように攪拌した。アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム液は所定の濃度に希釈調整する。粉末材料混合物が所定の濃度に調整したケイ酸カリウム液内でダマにならないように良く攪拌した。特に金属に使用する場合は水溶液中の粉末粒子同士をできるだけ分散するようにプラスチック容器に耐熱・耐酸化被覆材水溶液とアルミナビーズを入れシェーカーにて良く分散する方がよりきめ細かな被膜の形成を可能にする事が判明した。
粉末材料混合物とケイ酸カリウム液を混合して放置すると硬化現象を起こす為、施工前に混合攪拌する。
【0017】
耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法
表2の材料を使用して作成した耐熱・耐酸化被覆材水溶液をスプレーガン(100μmの粒子が十分塗布できるノズルを使用すること)、刷毛、ローラー等で被処理物に塗布する。被覆の厚みは50μmから200μmが適当である。50μm以下では耐酸化酸化防止には十分でなく200μm以上では冷却時の金属の膨張収縮によりクラック、割れの可能性がある。試験を行った結果100μm〜150μmが最も安定した被覆厚みで金属の膨張係数の追従及び酸化防止に最も有効な膜厚である事が判明した。塗布に際してはスプレーガンにて満遍なく塗布し表面が乾燥してから重ね塗布を4〜5回或いは所定の被覆の厚みが得られるまで塗布する。塗布後は自然乾燥か、低温強制乾燥或いは冷風にて塗布被覆内の水分を十分蒸発させてから焼成炉内で徐々に昇温させながら物温200℃で20〜30分程度仮焼成し安定化処理する。
安定化処理を施すことによりチョーキングを起こさず長期間の保存が行える。
更には仮焼成後被処理物の融点以下である900〜1100℃で昇温し約40〜60分焼成すると被覆材は完全にセラミック化し金属に強固に密着する。
【0018】
「実施例4」
住友金属テクノロジー社に於いて表2で作成し請求項3の耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法に基づき鉄片(SS400)とステンレス片(SUS304)に刷毛にて全面塗布し、仮焼成を施した試験片と何も施さなかった夫々の試験片の耐熱・耐酸化試験を行った。
以下はその結果である。
(試験データー表.1)


【0019】
「実施例5」
九州共立大学綜合研究所に於いて表2で作成し請求項3の耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法に基づき鉄片(SS400)とステンレス片(SUS304)に刷毛にて全面塗布し、仮焼成を施した試験片と何も施さなかった夫々の試験片の耐熱・耐酸化試験を行った。
以下はその結果と九州共立大学綜合研究所の所見である。
<試験片>SUS350 4ピース(全面塗布) SS400 4ピース(全面塗布)
<試験方法>各テストピースを室温にて投入、炉内温度1000℃間で昇温(2時間40分)、1000℃到達後1000℃を保ちつつ1時間置きに各1枚を取り出し室温にて急冷させた。
<測定>各テストピースにおいて、加熱前後の重量及び厚さの変化を測定し、酸化による部材の劣化具合をテストした。
測定結果について
(試験データー表.2)

所見
<SUS材>
*ステンレス材については酸化劣化による変化がほとんど見られなかった。
*変化の少なさは、もともとのステンレスの耐熱範囲にあるためと考えられる。
*厚さ及び重量の変化については、塗布されたコーティング材の加熱焼き絞め及び、部分剥離によるものと考えられる。
<SS材>
*厚さおよび重量とも若干の変化が見られるが、ほとんどないと言える値である。
*試験片Hの重量減はSUS材と同様のものと思われる。
*通常の鉄片を同条件で加熱したものに比較すれば、変形・変質ともにあきらかに酸化が抑制されているといえる。
<結論>
1.塗布条件が適えば1000℃の3時間条件でSS材においてはほとんど酸化が認められないといえる。ただし、塗布条件(下地処理・均一性)が重要である。
2.SUS材用についてはさらに高温化での使用に耐えるものに向け、改良の余地があるといえる。
3.結果、前項1,2、の条件範囲内であれば焼却炉など高温の雰囲気にさらされる金属部材(鉄・ステンレス材)での保護コーティング材への利用が可能と思われる。
【0020】
表1に於いて示す耐火物に供する各構成材料の配合比率において、フェローシリコン、ホウ酸化合物、亜鉛化合物であるホウ酸亜鉛、マイカ、アルカリケイ酸塩化合物は置き換えることのできない材料である、使用目的である耐熱温度、スポーリング対策、クラック、割れ、減肉、崩壊等の対策目的により無機耐熱骨材である酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、カオリナイト、酸化チタンや二酸化マンガンの粉末材料はこの配合内の1又は2以上の材料の要素或いはこれ以外の耐熱無機材料であれば使用できる。マグネシウム化合物である又酸化マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、フッ化マグネシウムの内の1又は2以上の要素を追加することも可能である。二酸化マンガンは電解マンガンやコバルト化合物である四三酸コバルト、酸化第一コバルト、酸化第二コバルト、ラネーコバルトの内の1又は2以上の要素に置き換えできる。特にフェローシリコンのフェロー分は比較的低温で溶解し耐火物表面に金属被膜を形成し金属珪素化合物となり耐火物表面のポーラス部分を密閉する。ホウ酸亜鉛は高温溶融材料で無機耐熱骨材の酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、カオリナイト、酸化チタン等の溶融点を下げる触媒として有用であり、アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム水溶液は高融点材料が被処理物である耐火物と結合するまでの接着効果を発揮し温度が200℃でシロキサン結合によりガラス化することで高温腐食ガスの進入を防ぐ、二酸化マンガンはフェローシリコンのフェローと共に金属被膜を形成し耐クリンカ付着の軽減や防止に大きく貢献すると共に無機耐熱骨材との架橋に貢献する。マイカは被膜の形成時に起こりがちなクラックを防止する役目を果たす。又アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム水溶液は単体のみならずケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液との混合物、或いはコロイダルシリカを配合して使用することも可能である。
【0021】
アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム水溶液の濃度は所定の濃度より高くしても、低くしても使用可能である。所定濃度より高くすればするほど粉末材料との混合に於いて均一に混ざりにくく、又低くすればするほどシロキサン結合に於けるガラス被膜の厚みが薄くなり被膜形成上好ましくない。又、アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム水溶液と無機耐熱骨材やマンガン化合物等の粉末材料の配合比率は,被処理物の性状と、使用目的、使用条件により異なるが概ねアルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム50〜70%重量比:無機耐熱骨材やマンガン化合物等の粉末材料30〜50%重量比の範囲が適当である。
【0022】
請求項1と請求項2の組み合わせによる各材料構成とその被覆処理方法により耐火物表面への耐熱・耐酸化被覆の形成に当たり、被処理物である耐火物と請求項1、請求項2の材料により作成した耐熱・耐酸化被覆材水溶液から形成される被覆の膨張係数には大きな差がなく、塗布後に急激な昇温を受けてもクラックや割れは発生しない特徴がある。又アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム水溶液は温度が200℃で20分間の時間を掛るとケイ酸カリウム水溶液内の水分が蒸発し二酸化珪素は重合によりシロキサン結合による強固なガラス被膜を形成し、耐火物表面のポーラス面を密閉して高温腐食ガスの進入を防ぐ被覆となる。温度が上昇するにつれフェローシリコン内のフェロー分が軟化溶融し緻密な金属被膜を形成する。フェローシリコン内の二酸化珪素粒子や無機耐熱骨材である酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、カオリナイト、酸化チタン等の粉末材料や二酸化マンガンはこの金属被覆材に粒子状で取り込まれ、更なる昇温で触媒であるホウ酸亜鉛により二酸化マンガンはフェローの金属被膜と新たな金属化合物を形成し無機耐熱骨材の表面を溶融しながら形成された金属被膜と結合し青みがかった金属セラミックス被膜を形成する。
フェローシリコンや二酸化マンガンは被処理物である耐火物表面に高温耐酸化の金属セラミックス被膜を形成し高温下では軟化し、温度が低下すれば硬化する柔軟性を持ち耐火物の膨張収縮があっても追従する。又この金属皮膜は元々溶融クリンカが付着しにくく、クリンカは金属皮膜に取り込まれた無機耐熱骨材である酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、カオリナイト、酸化チタン等に付着するが金属被膜上に露出している部分に付着するのみで、その密着度は低くクリンカの堆積量は多く成らない、又堆積しても密着強度が低いことより少量の堆積でも自重で落下する。特に酸化チタンは耐蝕性に優れることより高温腐食ガスが大量に発生する場合はこれを増量するなど条件により配合を変える事が可能である。
【0023】
表2に於いて示す被処理物の金属に供する各構成材料の配合比率においてアルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム、ホウ酸化合物、酸化亜鉛、マイカ、二酸化マンガンは置き換えることのできない材料であるホウ酸化合物である四ホウ酸ナトリウムはホウ酸ナトリウム、メタホウ酸塩、ラトラホウ酸塩、ピロウホウ酸塩、ホウ酸塩、四ホウ酸塩、三酸化ホウ素、五ホウ酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウムの1又は2以上の要素に置き換える事ができる、二酸化マンガンは電解マンガンやコバルト化合物である四三酸コバルト、酸化第一コバルト、酸化第二コバルト、ラネーコバルトの内の1又は2以上の要素に置き換える事ができる。ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛は水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、三二酸化亜鉛、珪酸亜鉛の内の1又は2以上の要素に置き換える事ができる、無機耐熱骨材である酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、酸化チタンは使用条件の耐熱温度を始め使用する目的により酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、酸化チタン等の無機耐熱骨材はこの配合内の1又は2以上の材料の要素であれば使用できる。又マグネシウム化合物である酸化マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、フッ化マグネシウムの内の1又は2以上の要素を追加することも可能である。ホウ酸亜鉛や酸化亜鉛は無機耐熱骨材である酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、酸化チタン等の溶融点を下げる触媒として有用であり、アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウムは高融点材料が被処理物と結合するまでの接着効果を発揮しガラス化になることにより高温酸素雰囲気下で被処理物の酸化を防ぐ、又アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウムは単体のみならずケイ酸ナトリウムとの混合物、或いはコロイダルシリカとケイ酸カリウム、又はこれにケイ酸ナトリウムなどを配合して使用することも可能である。特にシロキサン結合をより強固にするにはアルカリ金属ケイ酸塩化合物のケイ酸(シリカ)とアルカリ金属のモル比を上げる為にシリカ粉末、コロイダルシリカなどを配合する事ができる。
【0024】
アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム水溶液の濃度は所定の濃度より高くしても、低くしても使用可能である。所定濃度より高くすればするほど粉末材料との混合に於いて均一に混ざりにくく、又低くすればするほどシロキサン結合に於けるガラス被膜の厚みが薄くなり被膜形成上好ましくない。又、アルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム水溶液と無機耐熱骨材やマンガン化合物等の粉末材料の配合比率は,被処理物の性状と、使用目的、使用条件により異なるが概ねアルカリ金属ケイ酸塩化合物であるケイ酸カリウム20〜40%重量比:無機耐熱骨材やマンガン化合物等の粉末材料60〜80%重量比の範囲が適当である。
【0025】
請求項1と請求項2の組み合わせによる各材料構成とその被覆処理方法により耐火物表面への耐熱・耐酸化被覆の形成に当たり、被処理物である耐火物と請求項1,請求項2の材料により作成した耐熱・耐酸化被覆材水溶液から形成される被覆の膨張係数には大きな差があり、被覆形成には特に気をつける必要がある。塗布時はスプレー、刷毛、ローラーのいずれであれ薄く塗布し乾燥させてから、重ね塗布する方法で所定の厚みまで繰り返し塗布し、被覆内の水分除去しながら重ね塗りする必要がある。又塗布後は十分に自然乾燥、低温強制乾燥或いは冷風乾燥など行い被覆内に残留した水分を十分除去した後、炉内で温度が200℃になるまで徐々に上昇させ所定の温度に達した後20〜30分仮焼成を行い安定化処理する。仮焼成後は急激な昇温を掛けてもクラックや膨れ、割れは発生しない。金属はその種類により点移転が異なり温度上昇時、或いは降下時に於いて大きな膨張収縮が起こる。この膨張係数の問題点を「実施例5」で検証している。この膨張係数の追従する理論を正確に説明しうるデーターはないが二酸化マンガンによる金属被覆が金属表面と金属結合しこの金属被覆化合物内に無機耐熱骨材やマグネシウム化合物などの粉末材料が取り込まれ耐熱と耐酸化効果を実現すると共にマンガン系金属被膜化合物自体も高温酸化に強い被膜である。又この金属被膜化合物は無機耐熱骨材やマグネシウム化合物である粉末材料からなるセラミックスと被処理物である金属基材の膨張係数を緩衝する役目の一端を担っている。
無機耐熱骨材である酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、無水珪酸、酸化チタン等の粉末材料は温度上昇に伴い触媒である酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛がこれら骨材の融点を下げることにより二酸化マンガンの金属被覆化合物と結合し被処理物の界面で金属セラミックス化合物を形成していると考えられる。尚、マイカは温度上昇時、或いは下降時のクラック、割れ等の緩衝を行う役目があり、且つ無機耐熱骨材の粒子の大きさをコントロールすることによって石垣状の被膜が形成されておりこれらの相乗効果によって膨張係数の追従がなされていると解している。
尚、[表3]、[表4]に本発明の耐熱・耐酸化被覆材水溶液の配分割合を示す。
【表3】


【表4】

【産業上の利用可能性】
【0026】
産業上の利用可能性については、特に産業廃棄物焼却炉、行政の焼却炉、焼頓炉、加熱炉、リホーマー、ボイラー等のあらゆる熱炉の耐火物並びにこれら高温雰囲気環境下に於いて使用される金属として例えば、焼却炉の火格子、熱交換器パイプ、加熱炉のパイプ、焼頓炉釜、その他タービンケースや内燃機関等の金属材料の耐酸化防止と耐久性の向上。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属ケイ酸塩化合物、ホウ酸化合物、亜鉛化合物、マイカを含むと共に、フェローシリコン、マンガン化合物、コバルト化合物の内の1又は2以上の要素を含む耐熱・耐酸化被覆材水溶液。
【請求項2】
請求項1において無機耐熱骨材を含む耐熱・耐酸化被覆材水溶液。
【請求項3】
請求項1及び2の水溶液を使用し被処理物の融点より低い温度で焼成してなることを特徴とする耐熱・耐酸化被覆材の被覆処理方法。

【公開番号】特開2009−102212(P2009−102212A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299829(P2007−299829)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(594136583)株式会社トレードサービス (5)
【Fターム(参考)】