説明

耐熱性向上剤、熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂に溶融ブレンドしたときにセルロース誘導体が原料形状のまま残ることがなく熱可塑性樹脂の耐熱性を向上することができる耐熱性向上剤、及び成形品としたときにセルロース誘導体が原料形状のまま残ることがない耐熱性及び成形性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】セルロース誘導体(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる重合体(A)を含有する耐熱性向上剤、及びセルロース誘導体(a1)40〜99質量%の存在下でビニル単量体(a2)60〜1質量%((a1)と(a2)の合計が100質量%)を重合して得られる重合体(A)10〜70質量%と、熱可塑性樹脂(B)90〜30質量%とを含有する熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性向上剤、熱可塑性樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料は自動車、家電、OA機器の部品等の各種用途に広く用いられてきたが、近年、環境問題に対する社会的関心の高まりのため、原料となる樹脂を従来の石油系樹脂から非石油系樹脂に変更する社会的な要請が高まっている。
しかしながら、非石油系樹脂は石油系樹脂と比較して性能面で劣るため、他の非石油系樹脂とのブレンド等による改良が試みられている。
例えば、セルロース誘導体は木材等の植物由来原料から製造される非石油系樹脂であり、機械的性質に優れるため、従来から有機溶剤を用いた賦形方法等を適用して繊維、フィルム等の分野で用いられている。しかしながら、例えば、セルロースアセテートは溶融温度が高く、耐熱性に優れるが、溶融温度と熱分解温度との差が小さいため、単独で溶融賦形することができず、成形性に劣るという問題を有する。
また、ポリ乳酸はトウモロコシ、サツマイモ等の植物由来の原料から製造することができ、機械的性質及び成形性に優れるが、耐熱性に劣る等の問題を有する。
【0003】
そこで、ポリ乳酸とセルロース誘導体をブレンドすることにより、耐熱性及び成形性に優れる非石油系熱可塑性樹脂組成物を得る試みが行なわれている。しかしながら、ポリ乳酸とセルロースアセテート等のセルロース誘導体とを溶融ブレンドした場合には、得られる熱可塑性樹脂組成物中でのセルロース誘導体の溶融性が十分ではなく、セルロース誘導体が原料形状のまま含有されるため、得られる成形品の外観は十分とはいえない。
特許文献1にはポリ乳酸とセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステルからなるポリ乳酸樹脂組成物が提案されている。しかしながら、得られる成形品の耐熱性は十分とはいえない。
【特許文献1】国際公開第2004/087812号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂の耐熱性を向上することができる耐熱性向上剤、及びこの耐熱性向上剤を熱可塑性樹脂に配合した熱可塑性樹脂組成物を使用して成形品としたときにセルロース誘導体が原料形状のまま残ることがない耐熱性及び成形性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨とするところは、セルロース誘導体(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる重合体(A)を含有する耐熱性向上剤を第1の発明とする。
また、本発明の要旨とするところは、セルロース誘導体(a1)40〜99質量%の存在下でビニル単量体(a2)60〜1質量%((a1)と(a2)の合計が100質量%)を重合して得られる重合体(A)10〜70質量%と、熱可塑性樹脂(B)90〜30質量%とを含有する熱可塑性樹脂組成物を第2の発明とする。
更に、本発明の要旨とするところは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品を第3の発明とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明により耐熱性及び成形性に優れる非石油系熱可塑性樹脂組成物を提供することができ、自動車、家電、OA機器の部品等に用いる熱可塑性樹脂材料として従来の石油系熱可塑性樹脂の代替を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明で使用されるセルロース誘導体(a1)としては、セルロースの官能基を化学反応により置換したものを用いることができる。
セルロース誘導体(a1)としては、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性及び成形性を考慮すると、セルロースの水酸基等を全部又は部分的にエステル化したセルロースエステルが好ましい。
【0008】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記化合物の中で、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性を考慮すると、セルロースアセテートが好ましい。また、セルロースアセテートのアセチル化度としては40〜62%が好ましく、50〜61%がより好ましい。
【0009】
本発明で使用されるビニル単量体(a2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレート等の(メタ)アクリレート単量体;2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート等のフッ素化(メタ)アクリレート単量体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;及び(メタ)アクリル酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0010】
上記化合物の中で、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性を考慮すると、メチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル及びアクリル酸が好ましい。
尚、本発明において、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを示し、(メタ)アクリル酸はアクリル酸又はメタクリル酸を示す。
【0011】
本発明において、重合体(A)はセルロース誘導体(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合することにより得られる。
セルロース誘導体(a1)とビニル単量体(a2)の使用割合としては、セルロース誘導体(a1)とビニル単量体(a2)の合計を100質量%としたときに、セルロース誘導体(a1)を40〜99質量%及びビニル単量体(a2)を60〜1質量%とすることが好ましく、セルロース誘導体(a1)を70〜95質量%及びビニル単量体(a2)を30〜5質量%とすることがより好ましい。
【0012】
重合体(A)を得るための重合方法としては、公知の方法が挙げられ、バッチ式、セミバッチ式又は連続式の反応系において、無溶剤若しくは溶液中、又は懸濁系若しくは乳化系で、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、遷移金属触媒重合法等の各種重合法を採用することができる。
重合体(A)の製造方法の一例として、水中に懸濁させたセルロース誘導体(a1)にビニル単量体(a2)及びラジカル重合開始剤を添加した後、加熱してラジカル重合させる方法が挙げられる。
【0013】
重合体(A)を得るための重合温度としては0〜150℃、好ましくは65〜90℃である。また、重合体(A)を得るための重合時間としては、例えば1〜10時間である。重合体(A)は必要に応じて窒素雰囲気下で製造できる。
また、重合体(A)を得る際の重合においては、必要に応じて連鎖移動剤、分散剤、分散助剤、乳化剤等の公知の添加剤を用いることができる。
【0014】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、t−ブチルヒドロパーオキサイド、キュメンヒドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−アミルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;及びアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記化合物の中で、t−ブチルヒドロパーオキサイド、キュメンヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル及びアゾビス2,4−ジメチルバレロニトリルが好ましい。また、上記の有機過酸化物及び過硫酸塩は還元剤と組み合わせてレドックス系として用いることもできる。
【0015】
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン及びドデシルメルカプタンが挙げられる。
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム及びポリエチレンオキサイドが挙げられる。また、分散助剤として、例えば、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、過酸化水素水及び硼酸が挙げられる。
乳化剤としては、公知のアニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤を用いることができる。
【0016】
本発明において、重合体(A)を含有する化合物は後述する熱可塑性樹脂(B)に添加して耐熱性を向上させるための耐熱性向上剤として使用することができる。
本発明において、重合体(A)を含有する化合物は、重合体(A)を熱可塑性樹脂(B)に添加することにより生じる溶融特性変化を利用して、熱可塑性樹脂(B)の射出成形、押出成形、ブロー成形等における成形加工性改質剤として用いることができる。
【0017】
本発明においては、例えば、熱可塑性樹脂(B)としてポリ乳酸及びポリカーボネート等のように溶融粘度の差が大きいものを併用する場合、重合体(A)を含有する化合物を添加することによりこれらの樹脂の溶融粘度の差を小さくし、混和性を向上させることができる。
【0018】
本発明に使用される熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体等のアクリル樹脂;ポリスチレン、高耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、環状オレフィン含有重合体等のオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレングリコールテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリカーボネート類;及びポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記共重合体又は樹脂の中で、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性及び耐熱性を考慮すると、高耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等が好ましく、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、ポリカーボネート及びポリ乳酸がより好ましく、ポリ乳酸がさらに好ましい。
【0020】
ポリ乳酸としては、D体乳酸及び/又はL体乳酸を主原料とする重合体を用いることができる。また、適切な温度、時間等の条件により、ポリ乳酸の結晶の生成が偏光顕微鏡等による観察で確認されるものは結晶性ポリ乳酸として、確認されないものは非晶性ポリ乳酸として用いることができる。
結晶性ポリ乳酸としては、例えば、L体乳酸の重合体、D体乳酸の重合体が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
非結晶性ポリ乳酸としては、例えば、D体乳酸とL体乳酸の共重合体が挙げられる。
【0021】
結晶性ポリ乳酸の場合には結晶性が保たれる範囲、非晶性ポリ乳酸の場合には非晶性が保たれる範囲であれば、乳酸以外の成分を共重合することができる。乳酸以外の成分としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。共重合の形態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
結晶性ポリ乳酸の市販品としては、例えば、商品名「レイシアH−100」(三井化学(株)製)が挙げられる。
非結晶性ポリ乳酸の市販品としては、例えば、商品名「レイシアH−280」(三井化学(株)製)が挙げられる。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は重合体(A)及び熱可塑性樹脂(B)を含有するものである。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の重合体(A)及び熱可塑性樹脂(B)の割合としては、重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計を100質量%としたときに、重合体(A)が10〜70質量%及び熱可塑性樹脂(B)が90〜30質量%であることが好ましく、重合体(A)が25〜65質量%及び熱可塑性樹脂(B)が75〜35質量%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて可塑剤(C)、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤等の公知の添加剤、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、ケナフ、バクテリアセルロース等のフィラー、顔料等を配合することができる。
可塑剤(C)としては、例えば、多価アルコール系可塑剤、多塩基酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、燐酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、脂肪酸系可塑剤、スルホン酸系可塑剤が挙げられる。これらの中では多価アルコール系可塑剤、多塩基酸エステル系可塑剤が好ましく、多価アルコール系可塑剤がより好ましい。
【0024】
多価アルコール系可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)ブロック及び/又はランダム共重合体、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、エチレンオキサイド付加重合体、プロピレンオキサイド付加重合体が挙げられる。
【0025】
また、これら多価アルコールの誘導体も用いることができる。多価アルコール誘導体としては、例えば、トリエチレングリコールジ−(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、トリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビス−チオグリコレート、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、グリセリントリアセテート、グリセリントリブチレート、グリセリントリプロピオネート、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンモノリシノレートトリアセテート、グリセリンモノアセトモノモンタネート、ポリオキシエチレングリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、ポリグリセリンモノラウレートアセテートが挙げられる。
多価アルコール系可塑剤の市販品としては、例えば、商品名「リケマールPL−019」、「同PL−710」(以上、理研ビタミン(株)製)が挙げられる。
【0026】
多塩基酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジ−n−ブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジカプリルアジペート、ベンジルn−ブチルアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ジブトキシエチルアジペート、ベンジルオクチルアジペート等のアジピン酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジアミルフタレート、ジヘキシルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ブチルイソデシルフタレート、ブチルラウリルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−オクチルフタレート、ジラウリルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、オクチルデシルフタレート、n−オクチル,n−デシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、エチルヘキシルデシルフタレート、ジノニルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;ジ−n−ブチルマレート、ジメチルマレート、ジエチルマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)マレート、ジノニルマレート等のマレイン酸エステル;ジブチルフマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フマレート等のフマル酸エステル;トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、ジイソオクチルモノイソデシルトリメリテート等のトリメリット酸エステルが挙げられる。
多塩基酸エステル系可塑剤の市販品としては、例えば、商品名「MXA」、「BXA」、「DAIFATTY−101」(以上、大八化学工業(株)製)、商品名「PX−844」((株)ADEKA製)が挙げられる。
【0027】
ポリエステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のジオール成分からなるポリエステル;ポリカプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルが挙げられる。
燐酸エステル系可塑剤としては、例えば、燐酸トリエチル、燐酸トリブチル、燐酸トリ−2−エチルヘキシル、燐酸トリオクチル、燐酸トリフェニル、燐酸ジフェニル−2−エチルヘキシル、燐酸トリキシリル、燐酸トリクレシルが挙げられる。
【0028】
エポキシ系可塑剤としては、例えば、ブチルエポキシステアレート、エポキシモノエステル、オクチルエポキシステアレート、エポキシ化ブチルオレート、ジ−(2−エチルヘキシル)4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−カーボキシレート、エポキシ化半乾性油、エポキシ化トリグリセライド、エポキシブチルステアレート、エポキシオクチルステアレート、エポキシデシルステアレート、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、メチルエポキシヒドロステアレート、グリセリルトリ−(エポキシアセトキシステアレート)、イソオクチルエポキシステアレートが挙げられる。
脂肪酸系可塑剤としては、例えば、メチルオレート、ブチルオレート、メトキシエチルオレート、テトラヒドロフルフリルオレート、グリセリルモノオレート、ジエチレングリコールモノオレート、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレート、グリセリルトリ−(アセチルリシノレート)、アルキルアセチルリシノレート、n−ブチルステアレート、グリセリルモノステアレート、ジエチレングリコールジステアレート、ジエチレングリコールモノラウレートが挙げられる。
【0029】
スルホン酸系可塑剤としては、例えば、ベンゼンスルホンブチルアミド、o−トルエンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド、N−エチル−p−トルエンスルホンアミド、o−トルエンエチルスルホンアミド、p−トルエンエチルスルホンアミド、N−シクロヘキシル−p−トルエンスルホンアミドが挙げられる。
これらの可塑剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明において可塑剤(C)を用いる場合、その使用量は、熱可塑性樹脂組成物(100質量%)に対して5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
熱可塑性樹脂組成物(100質量%)に対して可塑剤(C)の使用量が5質量%以上であれば、得られる成形品の柔軟性が十分に発現し、40質量%以下であれば、得られる成形品から可塑剤がブリードアウトすることがない。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)、及び必要に応じて各種の添加剤を、公知の方法でブレンドすることにより得られる。
重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)、及び各種の添加剤のブレンド法としては、例えば、バッチ式のニーダー法及び単軸又は多軸の押出機等によるブレンド法が挙げられる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出成形、射出成形、プレス成形、インフレーション成形、カレンダ成形等の公知の成形方法を適用して、各種成形品の製造に用いることができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品は自動車、家電、OA機器の部品等の各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、以下において「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。また、評価は以下の方法で実施した。
【0034】
(1)ブレンド状態
重合体(A)又はセルロース誘導体と熱可塑性樹脂とを溶融ブレンドし、得られた熱可塑性樹脂組成物中に原料形状のままのセルロース誘導体の有無を、目視観察により評価した。
【0035】
(2)耐熱性
得られた熱可塑性樹脂組成物の耐熱性を以下の2種の方法により測定し、耐熱性を評価した。
(a)ビカット軟化温度
ASTM−D1525に準拠し、荷重10N又は50Nで測定した。
(b)荷重たわみ温度
ASTM−D648に準拠し、荷重0.48MPaで測定した。
【0036】
(3)成形性
得られた成形品を再び金型に戻し、加熱プレス盤を用いて熱処理した。熱処理直後の成形品の形態保持性を以下の基準により評価した。
良好:熱処理直後に金型から成形品を取り出しても成形品は変形しなかった。
不良:熱処理直後に金型から成形品を取り出すと成形品が変形した。
(変形させずに成形品を取り出すには、金型を冷却する必要があった。)
【0037】
(4)フィルム製膜性
加熱プレス盤(王子機械(株)製油圧プレス機、最大荷重37トン、最高使用圧力210kg/cm)を用いて、得られた熱可塑性樹脂組成物0.5gを、金枠内で、プレート温度180℃で加熱しながら、ゲージ圧30kg/cmを加えて、厚みが100〜150μmになるように成形し、室温付近まで冷却した後、取り出した。得られた成形フィルムの製膜性を、次の基準により評価した。
良好:得られたフィルムは、平滑であった。
不良:得られたフィルムは、波打っていた。
【0038】
(5)フィルム柔軟性
得られたフィルムの柔軟性について、熱処理による変化を評価した。
先ず、熱処理前のフィルムは、直径70cm、深さ85cmのカップ内側の底面から側面の形状に沿わせることができ、包装用材料として使用可能なレベルであることを確認した。次に、フィルムを60℃で2時間熱処理した後、再びカップ内側の形状に沿わせることを試みて、次の基準で評価した。
良好:フィルムは、熱処理後でも柔軟性が維持され、カップ内側の底面から側面の形状に沿わせることができ、包装用材料として使用可能なレベルを維持していた。
不良:フィルムは、熱処理に伴って柔軟性が失われ、カップ内側の底面から側面の形状に沿わせることができず、包装用材料として使用困難なレベルであった。
【0039】
[製造例1] 重合体(A−1)の製造
攪拌装置、冷却管、加熱装置、温度センサー及び定量供給装置を備えた反応容器に、脱イオン水500部、フレーク状のセルロースアセテート(ダイセル化学(株)製L−40(商品名)、アセチル化度55%)90部を仕込んだ。仕込んだ内容物を室温にて攪拌しながら反応容器中にメチルメタクリレート9.8部、メチルアクリレート0.2部、n−オクチルメルカプタン0.02部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2部の混合物を30分かけて添加した。
さらに30分間攪拌した後に、反応内容物を80℃に昇温し、4時間攪拌した。その後最終内容物を冷却し、固形物を取り出して乾燥し、重合体(A−1)を得た。
【0040】
[製造例2及び3] 重合体(A−2)及び(A−3)の製造
表1に示す重合体の原料組成とする以外は製造例1と同様にして重合体(A−2)及び(A−3)を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例1〜4]
製造例1〜3で得られた重合体(A−1)〜(A−3)及びポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100(商品名))を、表2に示す組成で、ニーダー(ブラベンダー社製プラスチコーダー(商品名)、内容積50cm)を用いて、バレル温度220℃で溶融ブレンドし、熱可塑性樹脂組成物(イ)〜(ニ)を得た。このときの熱可塑性樹脂組成物(イ)〜(ニ)中のセルロースアセテートのブレンド状態を評価した。評価結果を表2に示す。
次いで、得られた熱可塑性樹脂組成物(イ)〜(ニ)を、卓上射出成形機(Custom Scientific Instruments社製CS−183(商品名))を用いて、シリンダー温度220℃で溶融させて、金型内に射出した。金型を室温まで冷却した後、金型から成形品(長さ2cm×幅1cm×厚み0.2cm)を取り出した。
【0043】
得られた成形品を用いて耐熱性を評価したが、実施例1、3及び4では、ビカット軟化温度が70℃より低かったため、熱処理を次のように試みた。
得られた成形品を再び金型に戻し、加熱プレス盤(王子機械(株)製油圧プレス機、最大荷重37トン、最高使用圧力210kg/cm)を用いて、105℃で5分間熱処理した。尚、熱処理は加熱プレス盤のゲージ圧10kg/cmで実施した。
熱処理直後に成形品を金型から取り出し、このときの成形性を評価した。また、熱処理後の成形品を用いて耐熱性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0044】
実施例2では、得られた成形品のビカット軟化温度が70℃より高かったため、得られた成形品を直接(熱処理無しで)用いて耐熱性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0045】
重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物は耐熱性及び成形性に優れていた。また、重合体(A)中のセルロース誘導体(a1)の含有率が高い場合、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性は特に優れていた。また、熱可塑性樹脂組成物中のセルロース誘導体(a1)の含有率が高い場合、得られる熱可塑性樹脂組成物は熱処理無しでも耐熱性に優れていた。
【0046】
[比較例1及び2]
熱可塑性樹脂組成物の原料組成としてポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100(商品名))のみを使用し、それ以外は実施例1と同様にして溶融ブレンドした。次いで、実施例1と同様にして得られた成形品について、熱処理無しの場合と熱処理した場合について耐熱性及び成形性を評価した。評価結果を表2に示す。
ポリ乳酸単独の樹脂組成では得られた成形品の耐熱性が劣っていた。また、熱処理直後の成形品は成形性が劣っており、金型から取り出す際に変形した。このため、熱処理後の成形品は、耐熱性を測定していない。
【0047】
[比較例3]
重合体(A−1)の代わりにセルロースアセテート(ダイセル化学(株)製L−40(商品名)、アセチル化度55%)25部を配合し、ポリ乳酸の配合量を75部とした。それ以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物(ホ)を得た。熱可塑性樹脂組成物(ホ)中にはセルロースアセテートが原料形状のまま含有されることが目視により確認された。評価結果を表2に示す。
重合体(A)の代わりにセルロースアセテートを用いてポリ乳酸と溶融ブレンドした場合にはブレンド状態が良好な熱可塑性樹脂組成物を得ることはできなかった。
【0048】
[比較例4]
重合体(A−1)の代わりにセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP−504−0.2(商品名))25部を配合し、ポリ乳酸の配合量を75部とした。それ以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物(ヘ)を得た。このときの熱可塑性樹脂組成物(ヘ)中のセルロースアセテートプロピオネートのブレンド状態を評価した。評価結果を表2に示す。
【0049】
次いで、得られた熱可塑性樹脂組成物(ヘ)を実施例1と同様に卓上射出成形機を用いて成形し、成形品を作製した。得られた成形品を実施例1と同様に熱処理して、成形性を評価した。評価結果を表2に示す。尚、熱処理後の成形品については、金型から取り出す際に変形したため耐熱性は測定していない。
重合体(A)の代わりにセルロースアセテートプロピオネートを用いてポリ乳酸と溶融ブレンドした場合には、成形性が劣っていた。
【0050】
【表2】

【0051】
[実施例5]
製造例1で得られた重合体(A−1)及びポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100(商品名))を、表3に示す組成で、二軸押出機((株)プラスチック工学研究所製BT30(商品名))を用いて、バレル温度220℃で溶融ブレンドし、熱可塑性樹脂組成物(ト)を得た。このときの熱可塑性樹脂組成物(ト)中のセルロースアセテートのブレンド状態を評価した。評価結果を表3に示す。
【0052】
次いで、得られた熱可塑性樹脂組成物(ト)を、射出成形機(東芝機械(株)製IS−30(商品名))を用いて、シリンダー温度190℃、金型表面温度105℃及び保持時間5分の射出成形条件で、長さ2cm×幅1cm×厚み0.2cmの成形品を作製した。得られた成形品を用いて耐熱性を評価した。評価結果を表3に示す。
重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形に用いた場合、得られる成形品は耐熱性及び成形性に優れていた。
【0053】
[比較例5]
熱可塑性樹脂組成物の原料組成としてポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100(商品名))のみを使用し、それ以外は実施例5と同様にして射出成形した。評価結果を表3に示す。得られた成形品は形態保持性不良のため、金型から取り出すことができなかった。
【0054】
[比較例6]
射出成形条件を金型表面温度30℃及び保持時間2分に変更した。それ以外は比較例5と同様にして射出成形した。評価結果を表3に示す。
重合体(A)を用いずにポリ乳酸を単独で射出成形した場合、得られる成形品は耐熱性が劣っていた。
【0055】
【表3】

【0056】
[実施例6]
製造例1で得られた重合体(A−1)、ポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100(商品名))及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(UMG−ABS(株)製サイコラック3001(商品名))を、表4に示す組成で、ニーダー(ブラベンダー社製プラスチコーダー(商品名)、内容積50cm)を用いて、バレル温度220℃で溶融ブレンドし、熱可塑性樹脂組成物(チ)を得た。このときの熱可塑性樹脂組成物(チ)中のセルロースアセテートのブレンド状態を評価した。評価結果を表4に示す。
【0057】
次いで、得られた熱可塑性樹脂組成物(チ)を、卓上射出成形機(Custom Scientific Instruments社製CS−183(商品名))を用いて、シリンダー温度220℃で溶融させて、金型内に射出した。金型を室温まで冷却した後、金型から成形品(長さ2cm×幅1cm×厚み0.2cm)を取り出した。
得られた成形品を直接(熱処理無しで)用いて耐熱性を評価した。評価結果を表4に示す。
重合体(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物は、非石油系樹脂を含有しているにもかかわらず、耐熱性に優れており、後述する参考例1の従来のABS樹脂を使用した場合と同等のレベルであった。
【0058】
[参考例1]
熱可塑性樹脂組成物の原料組成としてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(UMG−ABS(株)製サイコラック3001(商品名))のみを使用し、それ以外は実施例6と同様にして得られた成形品を直接(熱処理無しで)用いて耐熱性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0059】
[比較例7]
熱可塑性樹脂組成物の原料組成としてポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100(商品名))及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(UMG−ABS(株)製サイコラック3001(商品名))のみを使用し、それ以外は実施例6と同様にして熱可塑性樹脂組成物(リ)を得た。
得られた成形品を直接(熱処理無しで)用いて耐熱性を評価した。評価結果を表4に示す。
重合体(A)を用いない場合、ポリ乳酸及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物は耐熱性に劣っていた。
【0060】
【表4】

【0061】
[実施例7〜9]
製造例1で得られた重合体(A−1)、ポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100、H−280(商品名))、可塑剤(理研ビタミン(株)製リケマールPL−019、PL−710(商品名))を、表5に示す組成で、ニーダー(ブラベンダー社製プラスチコーダー(商品名)、内容積50cm)を用いて、バレル温度220℃で溶融ブレンドし、熱可塑性樹脂組成物(ヌ)〜(ヲ)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表5に示す。
重合体(A)、ポリ乳酸、可塑剤からなる熱可塑性樹脂組成物は、フィルムの製膜性、柔軟性に優れていた。
【0062】
[比較例8及び9]
ポリ乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100、H−280(商品名))、可塑剤(理研ビタミン(株)製リケマールPL−019(商品名))を、表5に示す組成で、ニーダー(ブラベンダー社製プラスチコーダー(商品名)、内容積50cm)を用いて、バレル温度180℃で溶融ブレンドし、熱可塑性樹脂組成物(ワ)及び(カ)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表5に示す。
重合体(A)を用いず、ポリ乳酸及び可塑剤からなる熱可塑性樹脂組成物は、フィルムの製膜性、柔軟性に劣っていた。
【0063】
【表5】

【0064】
以上の結果より明らかなように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、セルロース誘導体(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる重合体(A)を使用することにより、非石油系樹脂を含有しているにもかかわらず、耐熱性及び成形性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる重合体(A)を含有する耐熱性向上剤。
【請求項2】
セルロース誘導体(a1)40〜99質量%の存在下でビニル単量体(a2)60〜1質量%((a1)と(a2)の合計が100質量%)を重合して得られる重合体(A)10〜70質量%と、
熱可塑性樹脂(B)90〜30質量%とを含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2009−155626(P2009−155626A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158476(P2008−158476)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】