説明

耐熱性歯科用樹脂材料

【課題】 歯科用樹脂材料について、温度100℃を超える環境下でも、変形や白濁が生じることなく、耐熱性に優れており、しかも充分な強度と安全性を有していて、例えば義歯床および義歯などの実際の使用において、全く問題がなく、さらに透明性を損なうことなく、義歯床および義歯として望まれる色調に調色が可能である、耐熱性歯科用樹脂材料を提供する。
【解決手段】 耐熱性歯科用樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)30〜70重量%、好ましくは42〜58重量%と、ポリアリレート樹脂(PAR)70〜30重量%、好ましくは58〜42重量%とを主成分とする。ポリアリレート樹脂としては、ポリ44’−イソプロピリデンジフェニレンテレフタレート/イソフタレートコポリマーであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた歯科用樹脂材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用樹脂材料の1つとして安全性・物性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)が挙げられるが、義歯床として使用する場合、特に耐熱性の改善が望まれている。
【0003】
というのは、義歯床裏装・義歯床修理時には、義歯床を、温度100℃の沸騰水中で処理する工程があり、また義歯床を、温度100℃の沸騰水で洗浄する場合もあるからである。
【0004】
ここで、ポリエチレンテレフタレート樹脂のガラス転移温度は、約70〜80℃であり、温度100℃の使用環境下では、義歯床や義歯に変形や白濁が起こることが知られている。
【0005】
このような歯科用樹脂材料の耐熱性を改善するために、下記の特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)およびとポリ−1,4‐ジメチレンシクロヘキサンテレフタレート樹脂(PCT)からなる共重合ポリエステル樹脂(PET−G)と、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)とを含む歯科用樹脂材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−60353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の歯科用樹脂材料では、共重合ポリエステル樹脂(PET−G)を主材として、その耐熱性を改善するものであった。
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決するために、安全性・物性に優れたポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、およびポリアリレート樹脂(PAR)を含み、温度100℃を超える環境下でも、変形や白濁が生じることなく、耐熱性に優れており、しかも充分な強度と安全性を有していて、例えば義歯床および義歯などの実際の使用において、全く問題がないものであり、さらに透明性を損なうことなく、義歯床および義歯として望まれる色調に調色が可能である、耐熱性歯科用樹脂材料を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、歯科用樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)とポリアリレート樹脂(PAR)とを所定の割合で配合した樹脂材料を用いることにより、温度100℃を超える環境下でも、変形や白濁が生じることなく、耐熱性に優れており、しかも充分な強度と安全性を有していて、例えば義歯床および義歯などの実際の使用において、全く問題がない耐熱性歯科用樹脂材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明による耐熱性歯科用樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)30〜70重量%と、ポリアリレート樹脂(PAR)70〜30重量%とを主成分とすることを特徴としている。
【0011】
本発明による耐熱性歯科用樹脂材料は、主成分が、ポリエチレンテレフタレート樹脂42〜58重量%と、ポリアリレート樹脂58〜42重量%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明において、ポリアリレート樹脂としては、ポリ44’−イソプロピリデンジフェニレンテレフタレート/イソフタレートコポリマーを用いることが、好ましい。
【0013】
本発明による歯科用樹脂材料においては、さらに、ガラスファイバー、カーボンファイバー、またはウィスカーからなる無機繊維、有機繊維、および珪酸アルミニウムまたはガラスビーズからなる粉粒体よりなる群の中から選ばれた少なくとも1種の充填材が、樹脂主成分100重量部に対して、50重量部以下、好ましくは1〜40重量部含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明による耐熱性歯科用樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート樹脂30〜70重量%と、ポリアリレート樹脂70〜30重量%とを主成分とすることを特徴とするもので、本発明の歯科用樹脂材料によれば、ポリエチレンテレフタレート構成単位とポリアリレート構成単位とを主成分とするため、温度100℃を超える環境下でも、変形や白濁が生じることなく、耐熱性に優れており、しかも充分な強度と安全性を有していて、例えば義歯床および義歯などの実際の使用において、全く問題がないものであり、さらに透明性を損なうことなく、義歯床および義歯として望まれる色調に調色が可能であるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本発明による歯科用樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)30〜70重量%、好ましくは42〜58重量%と、ポリアリレート樹脂(PAR)70〜30重量%、好ましくは58〜42重量%とを主成分とすることを特徴としている。
【0017】
ここで、本発明において使用するポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)は、テレフタル酸(TPA)成分と、エチレングリコール成分とからなるポリエステル樹脂である。
【0018】
本発明においては、これらの成分の他に、イソフタル酸(IPA)、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、ブタンジオール、およびプロピレングリコール等の他の成分が、ポリエチレンテレフタレート樹脂の特性を損なわない範囲で含有されてもよい。ここで、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)は、約70〜80℃のガラス転移温度を有するものである。
【0019】
一方、本発明において使用するポリアリレート樹脂(PAR)は、例えばポリ44’−イソプロピリデンジフェニレンテレフタレート/イソフタレートコポリマーであるのが、好ましい。このようなポリアリレート樹脂としては、具体的には、ユニチカ社の商品名:Uポリマー U−pouder Dなどが挙げられる。このポリアリレート樹脂のガラス転移温度は、約190℃である。
【0020】
本発明の歯科用樹脂材料において、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)が30重量%未満で、かつポリアリレート樹脂(PAR)が70重量%を超えると、沸騰水による変形や白濁はなくなるが、成形温度が高くなるために成形難となり、射出成形時に、石膏陰型に歯科用樹脂材料がこびり付くなどトラブルが発生するので、好ましくない。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)が70重量%を超え、かつポリアリレート樹脂(PAR)が30重量%未満であれば、歯科用樹脂材料の熱変形温度が100℃より低くなるため、100℃での使用では、変形や白濁が生じ、耐熱性が劣るので、好ましくない。
【0021】
本発明の歯科用樹脂材料において、具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)45重量%−ポリアリレート樹脂(PAR)55重量%を混合し、溶融して、本発明による歯科用樹脂材料を作製した場合、該歯科用樹脂材料の荷重たわみ温度(熱変形温度)は、110℃である。この歯科用樹脂材料の温度値は、充分に100℃の沸騰水中で使用できるものである。
【0022】
なおここで、荷重たわみ温度(熱変形温度)は、JIS K 7191に規定される方法により測定した。
【0023】
本発明の歯科用樹脂材料には、さらに、ガラスファイバー、カーボンファイバー、またはウィスカーからなる無機繊維、有機繊維、および珪酸アルミニウムまたはガラスビーズからなる粉粒体よりなる群の中から選ばれた少なくとも1種の充填材が、樹脂主成分100重量部に対して、50重量部以下、好ましくは1〜40重量部含まれていることが好ましい。これらの充填材により、本発明の歯科用樹脂材料の機械的物性を向上させることができる。
【0024】
本発明の歯科用樹脂材料には、ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリアリレート樹脂以外の第三成分として、上記の充填材の他に、各種成分が添加可能である。
【0025】
本発明の歯科用樹脂材料は、通常、ペレット状であるが、これに限定されるものではなく、シート状またはプリフォーム(プレート・ブロック)状などの形状であってもよい。
【0026】
本発明の歯科用樹脂材料を用いて義歯床、および義歯などを成形する際には、インジェクション成形法、またはコンプレッション成形法が適している。これらの成形法における成形条件は、一般的な条件で良く、かつ汎用の成形機を用いて容易に加工可能である。
【0027】
本発明による耐熱性歯科用樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート構成単位とポリアリレート構成単位とを主成分とするため、温度100℃を超える環境下でも、変形や白濁が生じることなく、耐熱性に優れており、しかも充分な強度と安全性を有していて、例えば義歯床および義歯などの実際の使用において、全く問題がないものであり、さらに透明性を損なうことなく、義歯床および義歯として望まれる色調に調色が可能である。
【実施例】
【0028】
つぎに、本発明の実施例を比較例と共に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜5
〔義歯床の製造例〕
まず、予め義歯床の形になるように石膏で陰型を作製した。
【0030】
ついで、本発明の歯科用樹脂材料の構成成分として、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)(商品名SA−1206、ユニチカ社製、ガラス転移温度:約80℃)、およびポリアリレート樹脂(PAR)としてポリ44’−イソプロピリデンジフェニレンテレフタレート/イソフタレートコポリマー(商品名 Uポリマー U−pouder D、ユニチカ社製、ガラス転移温度:約190℃)を、それぞれ下記表1に示す割合で混合し、溶融して、本発明の各種歯科用樹脂材料を作製した。
【0031】
そして、実施例の各歯科用樹脂材料について、JIS K 7191に規定される方法により、荷重たわみ温度(熱変形温度)を測定し、得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【0032】
つぎに、上記の本発明の各実施例の歯科用樹脂材料を溶融し、樹脂材料の溶融物をインジェクション成形法により、石膏陰型に流し込み、義歯床を成形した。
【0033】
ここで、インジェクション成形機としては、商品名JET5000、ハイデンタル・ジャパン株式会社製を使用した。
【0034】
また、インジェクション成形法による成形条件は、下記の通りであった。
【0035】
成形条件
成形温度:290℃
射出圧力:950kg
比較例1と2
比較のために、上記実施例の場合と同様にして、義歯床を作製するが、歯科用樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)およびポリアリレート樹脂(PAR)の配合割合を、下記表1に示すように、本発明の範囲外であるものとして、歯科用樹脂材料を作製した。
【0036】
比較例3
比較のために、上記実施例の場合と同様にして、義歯床を作製するが、歯科用樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)単独よりなる歯科用樹脂材料を作製した。
【0037】
比較例4
比較のために、上記実施例の場合と同様にして、義歯床を作製するが、歯科用樹脂材料として、従来のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)とポリ−1,4‐ジメチレンシクロヘキサンテレフタレート樹脂(PCT)とからなる共重合ポリエステル樹脂(PET−G)(商品名 エステショット、アイキャスト社製、ガラス転移温度:約80℃)単独よりなる歯科用樹脂材料を作製した。
【0038】
〔変形および白濁の評価試験〕
つぎに、上記実施例1〜5で作製した本発明による歯科用樹脂材料を用いた義歯床と、比較例1〜4で作製した義歯床とを、それぞれ100℃の沸騰水中に1時間浸漬し、それぞれ変形や白濁の状態を確認し、得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【0039】
(変形および白濁の評価基準)
◎:義歯床の変形や白濁が、全く生じない
○:義歯床の変形や白濁が、ほとんど生じない
△:義歯床の変形や白濁が、わずかに生じる
×:義歯床の変形や白濁が、かなり生じる。
【0040】
〔成形性評価試験〕
また、上記実施例1〜5で作製した本発明による歯科用樹脂材料と、比較例1〜4の歯科用樹脂材料を用いて、それぞれ義歯床を形成する際、義歯床成形体と石膏陰型の適合状態を確認するために、成形時に、石膏陰型に義歯床成形体がこびり付くか、どうかを確認し、得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【0041】
(成形性の評価基準)
◎:成形体(義歯床)が石膏陰型に全くこびり付かない
○:成形体(義歯床)が石膏陰型にほとんどこびり付かない
△:成形体(義歯床)が石膏陰型にわずかにこびり付く
×:成形体(義歯床)が石膏陰型にかなりこびり付く
得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【表1】

【0042】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜5による歯科用樹脂材料を用いた義歯床によれば、いずれも100℃の沸騰水中で義歯床を処理する際に変形や白濁が起こらず、耐熱性に優れており、実際の義歯床の装着使用時、および義歯床のメンテナンスにも問題のない義歯床製品であることが確認された。
【0043】
また、本発明の実施例1〜5による歯科用樹脂材料を用いた義歯床の成形時には、義歯床成形体が石膏陰型にこびり付くことなく、義歯床成形体と石膏陰型の適合状態が良好であることが確認できた。
【0044】
これに対し、比較例1、3および4の歯科用樹脂材料によれば、熱変形温度が、いずれも100℃以下と低いために、義歯床の成形性は良好であるが、100℃の沸騰水中で義歯床に変形や白濁が生じ、耐熱性に劣るものであった。一方、比較例2の歯科用樹脂材料によれば、樹脂材料の熱変形温度が、100℃以上と高いために、100℃の沸騰水中での義歯床の変形や白濁は生じないが、成形温度が高くなるために成形難となり、成形時に、義歯床成形体が石膏陰型にこびり付くトラブルが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート樹脂30〜70重量%と、ポリアリレート樹脂70〜30重量%とを主成分とすることを特徴とする、耐熱性歯科用樹脂材料。
【請求項2】
主成分が、ポリエチレンテレフタレート樹脂42〜58重量%と、ポリアリレート樹脂58〜42重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の耐熱性歯科用樹脂材料。
【請求項3】
ポリアリレート樹脂が、ポリ44’−イソプロピリデンジフェニレンテレフタレート/イソフタレートコポリマーである、請求項1または2に記載の耐熱性歯科用樹脂材料。

【公開番号】特開2011−93866(P2011−93866A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252073(P2009−252073)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(591081309)ハイデンタル・ジャパン株式会社 (3)
【Fターム(参考)】