説明

耐熱性水性塗料組成物及びその製造方法

【課題】得られる塗膜の外観品質が優れると共に150℃以上の耐熱性を確保することが可能な水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】界面活性剤によりエマルジョン化されたシリコーン樹脂が水性分散媒中に分散された被膜形成組成物に、顔料を混合して塗料組成物を製造する方法において、顔料を粉体状態で水又は水溶液中に混合して顔料分散水性液を得る工程と、顔料分散水性液を被膜形成組成物と混合して塗料組成物を得る工程とを含めて製造することにより、顔料が200μmより小さい平均粒径で分散されている塗料組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤でエマルジョン化されたシリコーン樹脂が水性分散液中に顔料と共に分散されている水性塗料組成物と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水性塗料としては、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を用いたものが知られている。これらの水性塗料は、150℃以上の高温において、剥がれ、割れ、著しい変色等の塗膜異常が発生し易く、耐熱性が不足し易かった。150℃の高温に耐えうる塗料としては、主としてシリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いたものが知られている。これらの樹脂では、組成中に非水溶性の有機溶剤を多く含み、揮発成分の大半を有機溶剤が占めていた。
近年、塗料組成物として、環境汚染や安全性等の観点から、有機溶剤を用いない水性塗料が強く要求されている。耐熱性を有する水性塗料としては、シリコーン樹脂を界面活性剤を用いてエマルジョン化した被膜形成組成物を用い、これに粉体からなる顔料を混合したものが知られている。
【0003】
このような耐熱性を有する水性塗料として、例えば、下記特許文献1では、特定のシラノール基含有シリコーン樹脂100部とラジカル重合性ビニルモノマー10〜1000部とを有機溶剤を含まない系で乳化重合して得られる乳化重合物を含むシリコーン樹脂含有エマルジョン組成物が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、特定のシラノール基含有シリコーン樹脂100部とラジカル重合性ビニルモノマー10〜1000部とを有機溶剤を含まない系で乳化重合して得られる乳化重合物を含み、更に特定の被膜形成助剤を含むシリコーン樹脂含有エマルジョン組成物が提案されている。
これらのシリコーン樹脂含有エマルジョン組成物は、顔料を混合することにより水性塗料として使用することができる。そして、これらの水性塗料では、シリコーン樹脂を使用しているため、耐熱性を確保し易いとされている。
【0005】
なお、シリコーン樹脂を含有する耐熱性塗料として、下記特許文献3では、水ガラス等の水溶性珪酸塩化合物1000重量部に対し、顔料80〜250重量部、シリコーン樹脂10〜500重量部、及び水溶性珪酸塩の硬化剤80〜250重量部を含有する耐熱塗料組成物が提案されている。
【0006】
しかし、この塗料組成物では、主成分が水ガラスであるため、水性分散媒のような流動性がなく、顔料を均一に分散することが容易でなく、優れた外観品質を有する塗膜を形成することが容易ではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−183064号公報
【特許文献2】特開平11−49984号公報
【特許文献3】特開平5−32915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述特許文献1、2等のシリコーン樹脂含有エマルジョン組成物に顔料を分散させて得られる従来の水性塗料では、塗布後に得られる塗膜が、平滑な塗膜ではなく、ざらつき感のある外観となり易く、優れた外観品質を得難かった。また、150℃以上の高温の環境下に長時間晒した場合には、剥がれ、割れなどが生じ易く、耐熱性が不足し易かった。
【0009】
そこで、本発明は、得られる塗膜の外観品質が優れると共に150℃以上の耐熱性を確保することが可能な水性塗料組成物を提供することを課題とし、また、そのような水性塗料組成物を容易に得られる水性塗料組成物の製造方法を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来の問題点が、エマルジョン化された樹脂成分を含有する被膜形成組成物に微細な顔料を分散させる際、特に、界面活性剤によりエマルジョン化されたシリコーン樹脂を含有した水性の被膜形成組成物に顔料を分散させる場合、顔料の混合、分散時の刺激によりエマルジョン構造が破壊されて樹脂成分が析出し易く、水性の被膜形成組成物のエマルジョン構造が安定に維持され難いことに起因していることを見出した。
【0011】
即ち、このような原因のため、たとえ平均粒径が50μm以下の微細な顔料粉体を原料として使用したとしても、水性塗料組成物中に顔料を分散させ難くて、二次凝集を生じた状態のままで分散されてしまい、その結果、粗大な顔料粒子が分散された状態の塗料組成物となり、優れた外観品質を得にくく、しかも、このように粗大な顔料が分散された状態では、得られる塗膜の耐熱密着性が悪化して、十分な耐熱性を得にくかったのである。
【0012】
また、強いて、水性塗料組成物中に顔料を十分に分散させようとしても、分散工程において、エマルジョン構造が破壊されて、樹脂が例えば粒子状に析出し、この粒子状の樹脂が分散されてしまい、その結果、粗大な顔料が分散された場合と同様に、外観品質を低下させ、また、耐熱密着性を悪化させていたのである。しかも、エマルジョン構造が破壊されることにより、塗膜成分の性質が変わるため、高温環境下では塗膜異常も発生していたのである。
【0013】
そこで、このような従来の水性塗料組成物が有する課題を解決するべく、本発明の請求項1の発明は、界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂及び顔料が水性分散媒中に分散された水性塗料組成物において、前記顔料が200μmより小さい平均粒径で分散されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の耐熱性水性塗料組成物は、前記バインダー樹脂が、シリコーン樹脂を含有することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の耐熱性水性塗料組成物は、前記顔料が50μm以下の平均粒径で分散されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発耐熱性水性塗料組成物は、前記水性分散媒が、水の量として90wt%以下含有されていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載の耐熱性水性塗料組成物の製造方法は、界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂が水性分散媒中に分散された被膜形成組成物に、顔料を混合して水性塗料組成物を製造する方法において、前記顔料を水性液中に混合して顔料分散水性液を得る工程と、前記顔料分散水性液を前記被膜形成組成物と混合して塗料組成物を得る工程とを備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の耐熱性水性塗料組成物の製造方法は、前記バインダー樹脂としてシリコーン樹脂を含有する前記被膜形成組成物を用いることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の耐熱性水性塗料組成物の製造方法は、前記顔料を前記水性液中に投入し、液中にメジアを存在させて混合を行うことにより前記顔料分散水性液を得ることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の耐熱性水性塗料組成物は、平均粒径50μm以下の前記顔料を用いて前記顔料分散水性液を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1乃至は4に記載の水性塗料組成物によれば、界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂及び顔料が水性分散媒中に分散された塗料組成物において、顔料が200μmより小さい平均粒径で分散されているので、外観品質に優れると共に、150℃以上の高温においても、剥がれ、割れ、著しい変色等を生じ難い、耐熱性に優れた塗

膜を得ることが可能である。特に、顔料が50μm以下の平均粒径で分散されている場合には、得られる塗膜の外観品質と耐熱性とを顕著に向上することが可能である。
【0022】
また、請求項5乃至は8に記載の水性塗料組成物の製造方法によれば、界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂が水性分散媒中に分散された被膜形成組成物に、顔料を混合して塗料組成物を製造する方法において、顔料を水又は水溶液中に混合して顔料分散水性液を得る工程と、得られた顔料分散水性液を被膜形成組成物と混合して塗料組成物を得る工程とを備えているので、顔料を一旦水性液中に分散させてから被膜形成組成物中に分散させることができる。そのため、被膜形成組成物中のエマルジョン構造を何ら破壊することなく、十分なせん断力を与えて攪拌でき、凝集している二次凝集粒子を一次粒子に近くなるように分離して分散させることができる。
【0023】
しかも、その後、顔料を液体に混合した状態で被膜形成組成物と混合させるため、混合時にエマルジョン構造が破壊される程の強い攪拌が不用となり、液中のエマルジョン構造が維持された状態で顔料が微細な状態で分散された水性塗料組成物を製造することができ、製造が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の耐熱性水性塗料組成物は、界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂、顔料、及び水性分散媒を含む混合物からなるものである。
【0025】
まず、本発明で使用するバインダー樹脂とは、水性塗料組成物として使用可能であると共に、後述する界面活性剤によりエマルジョン化することが可能な樹脂であり、各種のシリコーン樹脂及び/又は有機樹脂を使用することが可能である。
【0026】
本発明では、このバインダー樹脂として、水に対する溶解度が90%以下のものを使用するのが好ましい。水に対する溶解度が高すぎるものは、バインダー樹脂としての機能を発揮できないものが多く、被膜形成が困難な場合が多いからである。
また、このバインダー樹脂としては、分子の構成単位が少なくとも2単位以上のものが好ましい。
【0027】
バインダー樹脂として使用可能なシリコーン樹脂は、シロキサン骨格を備え、シラノール基を保存安定性と硬化性を確保できる範囲で含有するものである。このシリコーン樹脂には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシル基などの加水分解性を有する基が含有されていてもよい。
また、メチル基、プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基、フェニル基などの一価の非置換炭化水素基を有していてもよく、更に、(メタ)アクリル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等の各種官能性基を有していてもよい。
【0028】
このようなシリコーン樹脂は単独で用いてもよいが、ラジカル重合性モノマー等の他の成分とさらに重合或いは縮合させて使用することができる。
このラジカル重合性モノマーとしては、シリコーン樹脂による架橋反応を確保でき、或いは補強できる範囲でラジカル重合可能なものが好ましい。例えば、塗膜硬化度、耐薬品性、耐油性、耐溶剤性等を向上させるという理由で、ラジカル重合性ビニルモノマーが好適である。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基又はその無水物含有ビニルモノマー、ヒドロキシル基含有ビニルモノマー、アミド基含有ビニルモノマー、アミノ基含有ビニルモノマー、アルコキシ基含有ビニルモノマー、グリシジル基含有ビニルモノマー、ビニルエステル系モノマー、芳香族ビニルモノマー、ハロゲン化ビニルモノマー、ラジカル重合性不飽和基を2個以上含有するビニルモノマー、(ポリ)オキシエチレン鎖含有ビニルモノマー、ジオルガノポリシロキサン、ラジカル重合性官能基を含有するシラン化合物等を例示することができる。
【0029】
シリコーン樹脂と重合或いは縮合させることが可能なその他の成分としては、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0030】
一方、バインダー樹脂として使用可能な有機樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、フタル樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共重合体樹脂、尿素樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ロジン変性マレイン樹脂、クマロン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂を挙げることができる。
【0031】
本発明においては、バインダー樹脂として、このようなシリコーン樹脂及び有機樹脂の内の一方を1種単独で、若しくは2種以上組合わせて使用することができ、更に両方を組合わせて使用することも可能である。特に、シリコーン樹脂を含有したものは耐熱性を確保し易くできて好ましい。
【0032】
シリコーン樹脂と有機樹脂とを混合して用いる場合には、シリコーン樹脂100重量部に対して、有機樹脂を100000重量部以下の割合で混合するのがよい。シリコーン樹脂の混合割合が低くなると、耐熱性が低下し易いからである。
【0033】
本発明では、このようなバインダー樹脂は界面活性剤によりエマルジョン化して水性分散媒中に分散された状態で使用される。
【0034】
水性分散媒としては、水であってもよく、種々の目的で水に添加物を溶解又は分散させた水溶液又は分散液であってもよい。
添加物としては、例えば、炭化水素類、アルコール類、エーテルアルコール類、エーテル類、エステル類、エーテルエステル類、ケトン類などの有機溶剤、または安息香酸、フマル酸、無水マレイン産、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、テレフタル酸、無水フタル酸、無水トリッメット酸などの有機酸及びその誘導体などを挙げることができる。
【0035】
特に、水に対する溶解度が高いという理由で、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソルブ、tert-ブチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、イソブチルカルビトール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、酢酸メチルセロソルブ、酢酸セロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、酢酸メトキシプロピル、酢酸カルビトール、メチルエチルケトン、ダイアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド、n-メチル-2-ピロリドンなどを用いることが好ましい。
【0036】
一方、この発明で使用される界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性イオン系のいずれでもよく、用いる成分に応じて適宜選択することが可能である。具体的には、アルキルフェノールの酸化エチレン付加物、高級アルコールの酸化エチレン付加物、プロピレングリコールの酸化エチレン付加物、脂肪酸の酸化エチレン付加物、脂肪酸アミドの酸化エチレン付加物、多価アルコール脂肪酸エステルの酸化エチレン付加物、油脂の酸化エチレン付加物、高級アルキルアミンの酸化エチレン付加物、ソルビトール、ソルビタンの脂肪エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド、高級アルキルエーテル硫酸エステル、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステル、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化油、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、アルキルジフェニールエーテルジスルホン酸塩、石けん、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルキルアミン塩、イミダゾリン、第4級アンモニウム塩、アミン酸型両性活性剤、ベタイン型両性活性剤などを挙げることができる。
【0037】
特に、安定性や重合性を確保し易く、また、粘度上昇や粒子の沈殿を抑え易く、更に、エマルジョンを効率的に生成するという理由で、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪族4級アンモニウム塩などを選択するのが好ましい。
【0038】
本発明では、バインダー樹脂をエマルジョン化して使用するには、バインダー樹脂となるシリコーン樹脂及び/又は有機樹脂、或いはそれらの前駆体等を、水性分散媒及び界面活性剤を用いて各種の公知の方法により微細に分散させて用いることができる。
エマルジョン化はバインダー樹脂の作製後に行うことも可能であるが、一般には、バインダー樹脂の作製前或いは同時に行うことが可能であり、その方法としては、具体的には、単分子粒子法、逆ミセル重合、ミクロゲル重合、乳化重合、シード重合法、ソープフリー乳化重合法、分散重合法、二段階膨潤法、カプセル重合法などを挙げることができる。
なお、このバインダー樹脂となるシリコーン樹脂若しくは有機樹脂の一部又は全部を水溶性化して使用することも可能である。
【0039】
この界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂が水性分散媒中に分散された分散液は、それ自体を被塗布物に塗布すれば、乾燥、硬化して被膜が形成できる被膜形成組成物である。
このような被膜形成組成物としては、環境汚染や安全性等の観点から十分に有機溶媒が除去されているものが好ましい。
【0040】
また、この被膜形成組成物としては、予め調製されたビヒクル等を用いることも可能であり、バインダー樹脂としてシリコーン樹脂を用いて水性分散媒及び界面活性剤によりエマルジョン化された被膜形成組成物としては、例えばX−52−1435(信越化学工業社製、商品名)、SILRES MP42E(旭化成ワッカーシリコーン社製、商品名)などを例示できる。
【0041】
次に、本発明に使用する顔料について説明する。
本発明の顔料としては、主として無機粒子からなる体質顔料、着色顔料或いは防食顔料などを使用することができる。
【0042】
具体的には、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、希土類酸化物、酸化チタン、これらの酸化物の複合ゾル、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、アルミニウム、アルミニウムペースト、クレー、シリカ/硅石粉、ガラスフリット、珪藻土、タルク、マイカ、カオリン、バライト、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛、酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、リン酸アルミニウム、水又はアルコール等の有機溶剤分散型シリカゾル、アルミナゾル、マグネシアゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾルなどの体質或いは防食顔料、及びこれらの表面をシランカップリング剤で処理したもの、カーボンブラック、グラファイト、セラミックブラック、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、カドミウムレッド、酸化クロム、コバルトグリーン、ギネグリーン、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、紺青、カドミウムイエロー、チタンイエロー、銀などの着色顔料、及びこれらの表面をシランカップリング剤で表面処理したもの、アゾ系、アゾレーキ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系の有機顔料を例示することができる。
【0043】
本発明では、このような顔料を上述のバインダー樹脂と共に水性分散媒中に微細に分散した状態、即ち、得られる塗料組成物中に200μmより小さい平均粒径で分散した状態で用いる。好ましくは50μm以下、特に好ましくは20μm以下の平均粒径で分散させた状態で使用するのが好適である。
【0044】
顔料が200μmより小さい平均粒径、好ましくは50μm以下の平均粒径で分散された状態とは、混合するために使用した顔料の粉体としての平均粒径とは異なるものであり、顔料の粒子が分散媒中で凝集することにより肥大化した粒子をも含めた粒子の平均粒径である。これは、分散媒中で凝集することにより肥大化した粒子であっても、塗膜を形成した際には、凝集していない粒子と同様の挙動を示し、外観品質や耐熱性に寄与するためである。従って、たとえ粉体状態における顔料の平均粒径が小さくても、顔料粒子が凝集することにより肥大化して分散した状態で平均粒径が200μmより大きくなったものは好ましくない。
【0045】
このような塗料組成物中に分散された状態の顔料の平均粒径は、例えば、JIS K5600−2−5に準拠した測定法(ツブゲージ法)、遠心沈降法、レーザー解析散乱法などにより測定することができる。
【0046】
この塗料組成物は、同時に、塗装後の被膜の状態で膜厚が100μm以下であるときに、被膜表面粗さを測定した際、中心線平均粗さ(Ra)20μm以下、最大高さ(Rmax)100μm以下となることが好ましい。
【0047】
なお、本発明の塗料組成物には、上述のバインダー樹脂、顔料、水性分散媒、及び界面活性剤以外にも、各種の成分を添加することが可能であり、例えば、一般的に塗料用添加剤として使用されている公知の物質、例えばフッ素樹脂、フッ素樹脂パウダー、シリコーンオイル等や、金属ドライヤー等の乾燥剤、リン酸塩等の分散剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、レベリング剤、防腐剤、防カビ剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、湿潤剤、色別れ防止剤、レオロジー調整剤、各種触媒、アルミニウムキレート、チタニウムキレート等の各種金属キレート、皮張り防止剤、pH調整剤などを本発明の効果が確保できる範囲において適宜添加することができる。更に、例えば、バインダー樹脂と共に水溶性樹脂を添加することも可能であり、疎水性樹脂のコロイダルディスパージョンやスラリーなどを添加することも可能である。
【0048】
このような本発明の塗料組成物では、バインダー樹脂、顔料、及び水性分散媒の配合割合は、適宜選択することができる。好ましくは、顔料の配合量は、バインダー樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上500重量部以下の割合で配合するのがよい。更に好ましくは1重量部以上200重量部以下とするのが好適である。顔料が多すぎると、分散状態で凝集が起こり易く、また、造膜性に欠けたり、均一な被膜が形成されにくいため好ましくない。一方、少ない場合には、得られる塗料の隠蔽力及び物理的物性が低下するため好ましくない。
【0049】
また、水性分散媒の配合割合は、顔料100重量部に対し、水性分散媒中の水が10000重量部以下とするのが好適である。10000重量部より大きいと、粘度が低くなるため分散効率が低下する他、得られる塗量組成物での固形分が低いため、塗料として被膜形成能力が低くなり易く、塗布時にはじき、たれ、流れなどが生じ易い。更に、硬化後に得られる塗膜も外観品質が低下し易く、また、膜厚が薄くなり易いため、必要とする被膜性能としての最低限の厚さが得られない等、物理的物性も低下するからである。
【0050】
一方、顔料100重量部に対し、水性分散媒中の水を1重量部以上、より好ましくは10重量部以上とするのが好適である。水が少なすぎると、製造工程中で、粘度が高くなるため、分散効率が悪くなり、分散が不可能になることもあるからである。
なお、界面活性剤は、バインダー樹脂の種類及び配合量、又はこれらと顔料の種類及び配合量に応じて適宜選択することができる。
【0051】
このような本発明の水性塗料組成物では、エマルジョン化されたバインダー樹脂及び顔料が分散された状態で、200μmより小さい顔料の平均粒径を達成することによって、塗料組成物を塗布して得られる塗膜にざらつき感がなく平滑で均質な外観を得ることができる。また、粒子が微細であると共にバインダー樹脂のエマルジョン構造が維持されているため耐熱密着性を向上することができ、150℃以上の高温の環境下に晒されたとしても、塗膜の剥がれや割れが生じ難く、耐熱性を向上することができる。
【0052】
次に、以上のような構成を有する塗料組成物を本発明の製造方法により製造する方法について説明する。
このような塗料組成物を製造するには、界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂が分散された被膜形成組成物を予め準備し、この被膜形成組成物とは別に、顔料を粉体状態で水性液中に分散して顔料分散水性液を作製し、得られた顔料分散水性液を被膜形成組成物と混合することにより製造する。
【0053】
被膜形成組成物は、前述のように適宜の方法により作製することができると共に、予め調製されているものを用いることも可能である。この被膜形成組成物としては、エマルジョン化されたバインダー樹脂が、得られる塗料組成物の水性分散媒の一部を構成する液中に分散されている状態にする必要がある。
【0054】
一方、顔料分散水性液は、前述のような顔料を水性液中に分散させることにより作製することができる。顔料は粉体状態で顔料分散液の作製に用いることができるが、水性液の一部に混合されている状態で用いることも可能である。
ここでは、水性液が、得られる塗料組成物の水性分散媒の一部を構成する液となるたるため、水性分散媒として例示された液と同様の水、水溶液、水分散液等を使用することができる。この水性液として、エマルジョン化されたバインダー樹脂が分散されている水性分散媒の一部を構成する液と同一のものを使用してもよいが、異なる液を使用することが可能である。
通常、この水性液には、顔料の再凝集を起こり難い状態にするために界面活性剤や顔料分散剤を添加したり、顔料の沈殿を防止するために沈降防止剤を分散前に添加しておくことが好ましい。これらの添加物は被膜形成組成物中の各種の成分や顔料に応じて適宜選択して使用するのが好ましい。
【0055】
更に、分散性の向上、バインダー樹脂と顔料のなじみ向上、分散時における粘度確保などの理由で、これらの顔料分散水性液には被膜形成組成物と同一又は異なるバインダー樹脂を少量配合していてもよい。その場合、配合割合は顔料分散水性液100重量部に対し、バインダー樹脂を500重量部以下とするのが好適である。
【0056】
この顔料分散水性液の作製時に使用する水性液の量は、顔料100重量部に対し、少なくとも10重量部以上1000重量部以下とするのが好適である。
この水性液の量が少なすぎる場合には、粘度が高くなり易いため分散効率が悪いばかりか、分散が不可能になるからである。一方、多すぎる場合には、凝集粒子がつぶれ難くて分散効率が低下する他、最終的に得られる塗料組成物としての顔料を含めた固形分が少なくなるため、塗布時の被膜形成能力が低くなり易く、はじき、たれ、流れなどが生じ易くなる。
【0057】
この顔料分散水性液を作製する工程は、適宜の攪拌機又は分散機を使用して行うことが可能であるが、好ましくは、顔料並びに水又は水溶液と共に、セラミックボール、スチールボール、セラミックビーズ、ガラスビーズなどのメジアを存在させて、ボールミル、サンドミル、バスケットミル等の塗料分散機にて攪拌、分散を行うことが好適である。また、ロールを存在させたロールミル等により磨り潰して攪拌することも好適である。これにより強いせん断力を付与して確実に顔料を所定の平均粒径以下の状態で分散させることができるからである。
【0058】
なお、この顔料分散水性液を作製する工程では、粉体状態の顔料の粒径分布ができるだけ狭い範囲でシャープなものを用いるのが好ましく、分散後の顔料分散水性液に夾雑物が混入しないようにするのが好ましい。
【0059】
そして、本発明では、このようにして得られた顔料分散水性液を予め準備した被膜形成組成物と混合することにより本発明の塗料組成物を得ることができる。
この混合の工程では、混合時の衝撃で顔料、バインダー樹脂、分散剤のショックによる凝集が発生することを出来るだけ抑えるのがよい。そのため、顔料分散液と被膜形成組成物とを一度に混合するのでなく、一方の量に対して他方の混合量が経時的に増加するように、徐々に混合するのが好ましい。
また、混合前に顔料分散液と被膜形成組成物とのpHを出来るだけ近似させるのが好ましく、例えば、混合前の一方又は両方に酸、アルカリの水溶液等を添加することにより調整することができる。
具体的には、それぞれのpHが5.0〜9.0の中性域にある場合には、両者のpH値の差を2.0以下とするのが好ましい。また、特に顔料分散体のpHが9.0以上の場合には、その後の貯蔵安定性に悪影響があるので、pH9.0以上となる顔料を除くか、若しくは酸水溶液によりpH8.9以下とするのが好ましい。
【0060】
以上のようにして得られた耐熱性水性塗料組成物は、そのまま使用したり、或いは水性の液により希釈するなどの調製を行って使用することができ、塗料として常法に従う使用方法を適用することが可能である。
【0061】
このようにして耐熱性水性塗料組成物を製造すれば、顔料を一旦水性液中に分散させるため、被膜形成組成物中のエマルジョン構造を何ら破壊することなく、十分なせん断力を与えて攪拌でき、凝集している二次凝集粒子を一次粒子に近くなるように分離して分散させることができる。
更に、顔料を液体状態で被膜形成組成物と混合させるため、エマルジョン構造が破壊される程の強い攪拌しなくても、十分に均一に混合して顔料を微細な状態で分散させることができる。
そして、このようにして得られた本発明の耐熱性水性塗料組成物は、優れた外観及び150℃以上における十分な耐熱密着性を有し、塗装作業性にも優れたものとなる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
被膜形成組成物
被膜形成組成物としてSILRES MP42E(旭化成ワッカーシリコーン社製、商標)を用いた。
この被膜形成組成物では、シリコーン樹脂が界面活性剤によりエマルジョン化されて水溶液中に分散されているものであった。
【0063】
顔料分散水性液
顔料として、平均粒径が10μm以下である炭酸カルシウム(株式会社ニッチツ社製)を粉体状態で用いた。
一方、100重量部の水に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩2重量部と、消泡剤としてシリコーンオイル1重量部とを混合して水性液を作製した。
得られた水性液103重量部に対し、顔料を103重量部をプロペラ式攪拌機にて、混合攪拌した後、サンドミルにて、メジアとしてガラスビーズを用い、高シェアーなせん断を30分加え、凝集した二次粒子を一次粒子により近づけることにより、顔料分散液を作製した。
この顔料分散液は顔料が水性液に分散されて均一になっているものであった。
【0064】
耐熱性水性塗料組成物
被膜形成組成物100重量部に対し、顔料分散液を100重量部をプロペラ式攪拌機にて混合攪拌することにより、実施例1の耐熱性水性塗料組成物を作製した。
得られた実施例1の耐熱性水性塗料組成物中に分散されている顔料の平均粒径(分散度と略記する)を、JIS K5600−2−5に準拠し、気温10℃〜35℃、湿度20%〜80%の条件下で測定した結果を表1に示す。
【0065】
被膜の形成
熱間圧延鋼材(150mm×50mm×t1.0mm)を脱脂処理した板に、上述の耐熱性水性塗料組成物を流し塗りし、室温にて30分間放置した後に、熱風循環乾燥器にて200℃×20分焼付乾燥することにより、被膜を形成した。
得られた被膜について、JIS―2001に準拠して中心線平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rmax)を表面粗さ測定機にて測定した結果を表1に示す。
そして、この被膜について、目視による外観、初期付着性、耐熱付着性、耐衝撃性、耐触性を確認し、結果を表1に示した。
初期付着性及び耐熱付着性はJIS K5600−5−6に準拠した。耐熱付着性は
熱風循環乾燥機中で200℃、100h経過後の結果である。
耐衝撃性は、JIS K5600−5−3に準拠し、デュポン式にて、打ち型は半径1/2インチのものを用い、30cmの高さから500gの重りを落としたときの耐おもり落下性の結果である。
耐触性は、JIS K5600−7−1に準拠した耐中性塩水噴霧性24時間の結果である。
【0066】
[実施例2、3、4及び比較例1]
実施例2ではサンドミルでの分散時間を20分とし、実施例3ではサンドミルでの分散時間を10分とすることにより分散度を異ならせた他は、実施例1と同様して耐熱性水性塗料組成物を作製した。
また、比較例1では、プロペラ式攪拌器を用いて30分間攪拌することにより分散度を異ならせた他は、実施例1と同様して耐熱性水性塗料組成物を作製した。
得られた塗料組成物及び被膜についての結果を表1に示す。
【0067】
[比較例2]
被膜形成組成物に直接顔料を添加し、サンドミルにてメジアとしてガラスビーズを用い、高シェアーなせん断を加え、凝集した二次粒子を一次粒子により近づけることにより、耐熱性水性塗料組成物を作製し、塗料組成物及び被膜を作製した。各条件は実施例1と同様とした。
結果を表2に示す。なお、表2には対比を容易にするため、実施例1〜3の結果を併記した。
この比較例2、3では、外観、分散度、中心線、平均粗さの結果から明らかなように、塗料組成物中の樹脂のエマルジョン構造が破壊されていた。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
以上の実施例及び比較例の結果から明らかなように、塗料組成物中の樹脂のエマルジョン構造が維持されて、分散度が小さい実施例1〜4では、比較例1〜3に比べて外観品質が優れると共に150℃以上の耐熱性を確保することができた。
一方、分散度が大きい比較例1及びエマルジョン構造が破壊された比較例2及び3では、何れも確保することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂及び顔料が水性分散媒中に分散された水性塗料組成物において、
前記顔料が200μmより小さい平均粒径で分散されていることを特徴とする耐熱性水性塗料組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、シリコーン樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱性水性塗料組成物。
【請求項3】
前記顔料が、50μm以下の平均粒径で分散されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱性水性塗料組成物。
【請求項4】
前記水性分散媒が、水の量として90wt%以下含有されていることを特徴とする請求項1乃至は3に記載の耐熱性水性塗料組成物。
【請求項5】
界面活性剤によりエマルジョン化されたバインダー樹脂が水性分散媒中に分散された被膜形成組成物に、顔料を混合して水性塗料組成物を製造する方法において、
前記顔料を水性液中に混合して顔料分散水性液を得る工程と、
前記顔料分散水性液を前記被膜形成組成物と混合して塗料組成物を得る工程と
を備えたことを特徴とする耐熱性水性塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記バインダー樹脂としてシリコーン樹脂を含有する前記被膜形成組成物を用いることを特徴とする請求項5に記載の耐熱性水性塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記顔料を前記水性液中に投入し、液中にメジアを存在させて混合を行うことにより前記顔料分散水性液を得ることを特徴とする請求項5又は6に記載の耐熱性水性塗料組成物の製造方法。
【請求項8】
平均粒径50μm以下の前記顔料を用いて前記顔料分散水性液を得ることを特徴とする請求項5乃至は7の何れか一つに記載の耐熱性水性塗料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−291279(P2007−291279A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122572(P2006−122572)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(506144075)東京熱化学工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】