説明

耐熱絶縁層付セパレータ

【課題】本発明は、セパレータの吸着水分量の増加に伴う問題の発生を十分に防止しうる耐熱絶縁層付セパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】多孔質基体と、前記多孔質基体の片面または両面に形成され、少なくとも1種類以上の無機粒子及び少なくとも1種類以上のバインダーを含有する耐熱絶縁層と、を備える耐熱絶縁層付セパレータであって、前記無機粒子および前記バインダーの含有質量比が、無機粒子:バインダー=99:1〜85:15であり、前記無機粒子のBET比表面積が3〜50m/gであり、0.0001<バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)<2である、耐熱絶縁層付セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱絶縁層付セパレータに関する。より詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタなどの電気デバイスに好適に用いられうる耐熱絶縁層付セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境や燃費の観点から、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)、さらには燃料電池自動車が製造・販売され、新たな開発が続けられている。これらのいわゆる電動車両においては、放電・充電ができる電源装置の活用が不可欠である。この電源装置としては、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等が利用される。特に、リチウムイオン二次電池はそのエネルギー密度の高さや繰り返し充放電に対する耐久性の高さから、電動車両に好適と考えられ、高容量化が更に進む傾向にある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極と負極とが電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。電解質層は、電解液が保持されたセパレータから構成されうる。セパレータは、電解液を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能および隔壁としての機能を併せ持つことが求められる。
【0004】
従来、充放電反応中に電池が高温となった場合に充放電反応を停止する、シャットダウン機能を有するセパレータが開発されてきた。シャットダウン機能は、電極間のリチウムイオンの移動を遮断するものである。具体的には、電池が高温に達するとセパレータを構成する樹脂が溶融し、孔を塞ぐことによってシャットダウンがなされる。したがって、シャットダウン機能を有するセパレータの材料としては、通常、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの熱可塑性樹脂が使用される。
【0005】
一方で、このような熱可塑性樹脂からなるセパレータは、その材質の柔軟性から機械的強度に問題があることが知られている。特に、高温条件下においては、セパレータが熱収縮し、セパレータを介して対向している正極と負極とが接触するなどして内部短絡が生じうる。このような事情のもと、セパレータと電極との間に、絶縁性無機粒子および有機バインダーを主成分とする耐熱絶縁層を形成する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、無機粒子およびバインダーを含む耐熱絶縁層の存在により、多孔質基体のみのセパレータよりも吸着水分量が増加し、セパレータを電池に適用した際に電池のサイクル特性および出力特性に影響を及ぼす可能性がある。耐熱絶縁層付セパレータの水分量の制御に関する技術として、特許文献1では、無機微粒子の表面を疎水化処理する技術が開示されている。また、関連する文献公知発明としては、特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第08/029922号
【特許文献2】特開2010−232048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献に開示の技術では、セパレータの吸着水分量の増加に伴う問題の発生を十分に防止できるものではなかった。
【0009】
したがって、本発明は、セパレータの吸着水分量の増加に伴う問題の発生を十分に防止しうる耐熱絶縁層付セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、無機粒子およびバインダーの含有質量比、無機粒子のBET比表面積およびバインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)を適切な範囲に制御することによって、上記課題が解決されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の耐熱絶縁層付セパレータは、多孔質基体と、前記多孔質基体の片面または両面に形成され、少なくとも1種類以上の無機粒子及び少なくとも1種類以上のバインダーを含有する耐熱絶縁層と、を備える。そして、無機粒子:バインダー=99:1〜85:15(含有質量比)、無機粒子のBET比表面積が3〜50m/g、0.0001<バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)<2であることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
耐熱絶縁層内の無機粒子およびバインダーの有する水分の内訳を適切に制御することにより、吸着水分量の増加に伴う問題の発生を十分に防止することができる。特にセパレータを電気デバイスに適用した際に出力特性および長期サイクル特性の双方を向上させることができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る耐熱絶縁層付セパレータを模式的に表した断面概略図を示す。
【図2】電気デバイスの一実施形態である、扁平型(積層型)の双極型でない非水電解質リチウムイオン二次電池の基本構成を示す断面概略図である。
【図3】電気デバイスの一実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【図4】実施例および比較例の各電池における水分バランス比とサイクル特性との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
図1に、本発明の一実施形態に係る耐熱絶縁層付セパレータを模式的に表した断面概略図を示す。図1によると、本形態の耐熱絶縁層付セパレータ1は、樹脂多孔質基体2の上面および下面に、それぞれ耐熱絶縁層3が形成されてなる。
【0016】
以下、本発明の耐熱絶縁層付セパレータの各構成について、詳細に説明する。
【0017】
[耐熱絶縁層]
耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダーを含むセラミック層である。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮抑制効果が得られうる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電気デバイスの製造工程でセパレータがカールしにくくなる。
【0018】
耐熱絶縁層における無機粒子およびバインダーの含有質量比は、無機粒子:バインダー=99:1〜85:15である。耐熱絶縁層を固めるバインダー量が無機粒子およびバインダーの合計に対して15質量%を越えてくると、バインダーが無機粒子間の空間を埋めてしまい、耐熱絶縁層内のリチウムイオン透過性が不十分となる。その結果、電気自動車で求められるような比較的大きな電流での充放電に不利となり、出力特性が低下する。また、正負極での過電圧による副反応も起きやすくなるため、長期サイクル寿命が不満足なものとなる場合がある。一方、耐熱絶縁層を固めるバインダー量が無機粒子およびバインダーの合計に対して1質量%未満の場合には、無機粒子の固定に必要なバインダー量が不足し、シャットダウン温度を超えて温度が上昇し続けた場合にさらなる発熱を防止するべく設けられた耐熱絶縁層が脱落しやすくなる場合がある。出力特性の観点からは、好ましくは、無機粒子:バインダー=95:5〜90:10(質量比)である。
【0019】
耐熱絶縁層における無機粒子およびバインダーにより、吸着水分量が多くなると、特に長期サイクル特性が低下する場合がある。したがって、耐熱絶縁層中の吸着水分量の制御は、耐熱絶縁層付セパレータにおいて非常に重要な問題である。
【0020】
ここで、本願発明者らは、無機粒子起因の吸着水分量とバインダー起因の吸着水分量について、両者のバランスが非常に重要であることを見出した。そして、耐熱絶縁層中の無機粒子およびバインダーが材料固有に有する水分保持量に着目した。その結果、バインダーが固有に保持できる水分量をバインダー質量あたりの含有水分量によって規定し、バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)が一定の範囲内に存在することが特にサイクル特性の点で重要であることを見出した。具体的には、バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)の比の値(以下、水分バランス比とも称する)を0.0001を超えて2未満とすることによって、セルの出力特性が向上し、長期サイクル特性が向上することを見出した。かような範囲であると、初回充電のガス発生量を抑制でき、面内で均一かつ良好なSEI被膜が形成されることでサイクル性能を向上できるものと考えれられる。
【0021】
水分バランス比が2以上であると、セル性能(出力特性および長期サイクル特性)が悪化する。これは、電解液中の塩(LiPF)と水との反応が起こりやすくなり、HF等のガス発生が多くなるためと考えられる。なお、上記メカニズムは推定であり、上記メカニズムに限定されるものではない。また、水分バランス比が0.0001以下であると、電池反応が不均一になり、容量低下を招くようになる。これは、静電気が発生しやすくなり、電池組立時にセパレータと電極との間でセパレータの皺が入りやすくなるためと考えられる。なお、上記メカニズムは推定であり、上記メカニズムに限定されるものではない。
【0022】
長期サイクル特性の観点からは、水分バランス比は0.001以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。また、長期サイクル特性の観点から、水分バランス比は、1.8以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましい。
【0023】
バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)は以下のように測定した値を採用する。まず、耐熱絶縁層に用いるバインダーを25℃、相対湿度50%の空気雰囲気下に24時間保持する。そして、電量滴定法により、カールフィッシャー水分計(三菱アナリック社製、型番:CA−200)を用いて、カールフィッシャー法により含有水分量を測定する。この値を測定に供したバインダー質量で除すれば、バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)を求めることができる。
【0024】
なお、本明細書において無機粒子のBET比表面積は、実施例に記載の方法で測定された値を採用する。無機粒子のBET比表面積は、3〜50m/gであるので、バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)は、0.0003(質量%)を超えて、100(質量%)未満の値となる。
【0025】
耐熱絶縁層の厚みとしては、電池の種類や用途などに応じて適宜決定されるものであり、特に制限されるべきものではないが、例えば、樹脂多孔質基体の両面に形成される耐熱絶縁層の厚みの合計が5〜200μm程度である。また、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、樹脂多孔質基体の両面に形成される耐熱絶縁層の厚みの合計が、例えば5〜200μm、好ましくは5〜20μm、より好ましくは6〜10μmである。耐熱絶縁層の厚みが、かかる範囲にあることで、厚さ方向の機械的強度を高めつつ、高出力性を確保できる。
【0026】
耐熱絶縁層の目付けは、特に限定されるものではないが、5〜15g/mであることが好ましく、9〜13g/mであることがより好ましい。かような範囲であれば、十分なイオン伝導性が得られ、また、耐熱絶縁層の強度を維持しうる点で好ましい。
【0027】
耐熱絶縁層は、上記無機粒子およびバインダーの他、必要により他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、耐熱性を有する有機粒子等が挙げられる。融点または熱軟化点が150℃以上である有機粒子(有機粉末)としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などの有機樹脂の粒子が例示できる。また、これらの有機粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、上記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(上記の耐熱性高分子微粒子の場合)であってもよい。中でも、工業的生産性、電気化学的安定性から、有機粒子として架橋ポリメタクリル酸メチル、ポリアラミドの粒子を用いることが望ましい。このような有機樹脂の粒子を用いることで、樹脂を主体とするセパレータを作製できるため、全体として軽量な電池が得られうる。
【0028】
(無機粒子)
無機粒子は、耐熱絶縁層の構成要素であり、耐熱絶縁層に機械的強度および熱収縮抑制効果を付与する。融点または熱軟化点が150℃以上、好ましくは240℃以上である、耐熱性の高いものを用いる。このような耐熱性の高い材質を用いることで、電池内部温度が150℃近くに達してもセパレータの収縮を有効に防止することができる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池が得られうる。
【0029】
無機粒子としては、特に限定されず、公知のものが用いられうる。例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンの酸化物、水酸化物、および窒化物、並びにこれらの複合体が挙げられる。例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、またはチタンの酸化物は、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、またはチタニア(TiO)でありうる。これらの無機粒子は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、コストの観点から、無機粒子は、シリカまたはアルミナであることが好ましい。
【0030】
無機粒子全体のBET比表面積としては、50m/g以下である。無機粒子のBET比表面積が50m/gを超える場合、無機粒子が電解液を吸収し、無機粒子が膨潤しやすくなる。これにより、無機粒子とバインダーとの結着力が低下し、無機粒子の脱落が起きやすくなる。かような無機粒子の脱落は、充放電を繰り返し行った場合に、放電容量の低下につながり、特に長期のサイクル特性が必要とされる車両用途のリチウムイオン二次電池では非常に重要な問題となる。更に好ましくは無機粒子のBET比表面積は、30m/g以下、より好ましくは15m/g以下である。
【0031】
また、無機粒子のBET比表面積の下限は、3m/g以上である。無機粒子のBET比表面積が3m/g未満の場合、バインダーとの接触面積が小さくなり、無機粒子の脱落が起きやすくなり、それによりセル抵抗が上昇し、放電容量維持率が小さくなる。上述したように、かような放電容量維持率の低下は、特に長期のサイクル特性が必要とされる車両用途のリチウムイオン二次電池では非常に重要な問題となる。なお、無機粒子のBET比表面積は、水酸化アルミニウム等の原料の焼成温度等を制御することによって容易に制御することができる。
【0032】
無機粒子は、分散性の観点から微粒子であることが好ましく、平均(二次)粒径が例えば100nm〜4μm、好ましくは300nm〜3μm、さらに好ましくは500nm〜3μmの微粒子が用いられうる。なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した50%累積粒子径の値を採用するものとする。
【0033】
無機粒子の形状は特に制限されず、球状に近い形状であってもよく、板状、棒状、針状の形態であってもよい。
【0034】
(バインダー)
バインダーは、耐熱絶縁層の構成要素であり、隣接する無機粒子同士、および無機粒子と多孔質基体とを接着する機能を有する。当該バインダーによって、耐熱絶縁層が安定に形成され、多孔質基体および耐熱絶縁層の間の剥離強度が向上する。バインダーとしては、無機粒子を結着でき、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であることが好ましい。
【0035】
バインダーとしては、特に限定されず、公知のものが用いられうる。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリビニルアルコールなどの樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガムおよびこれらの塩などの水溶性高分子が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することも可能である。上記バインダーの中でも、水溶性高分子、PVDF、ポリアクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れているため好ましい。これらのバインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
中でも、水溶性高分子は廉価であり、また、セル製造時のスラリー溶媒として有機溶媒を用いる必要がないので有利である。しかしながら、水溶性高分子は、水分吸着量が多く、本発明のようにバインダー含有量を低く制御してもなお、耐熱絶縁層の水分含有量が増加するという問題が生ずることを本願発明者らは見出した。したがって、上記のように耐熱絶縁層中の水分バランス比を制御することで、水分吸着量の多い水溶性高分子を用いたとしても、耐熱絶縁層中の水分含有量を低減させることができる。水溶性高分子の中でも、カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩が好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量は、結着性の観点から、5000〜1000000であることが好ましい。なお、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)によって測定した値を採用する。バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(塩)を用いた場合、サイクル特性の観点から、バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)(水分バランス比)が0.75〜1.9であることが好ましく、1〜1.8であることが好ましい。
【0037】
[多孔質基体]
多孔質基体は、耐熱絶縁層付セパレータにシャットダウン機能を付与するものである。
【0038】
多孔質基体の材料は、特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはモノマー単位としてエチレンおよびプロピレンを共重合して得られる共重合体(エチレン−プロピレン共重合体)が挙げられる。また、エチレンまたはプロピレンとエチレンおよびプロピレン以外の他のモノマーとを共重合してなる共重合体であってもよい。さらに、溶融温度が120〜200℃である樹脂を含む限りにおいて、溶融温度が200℃を超える樹脂または熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。例えば、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(UF)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)が挙げられる。この際、多孔質基体全体における溶融温度が120〜200℃である樹脂の割合が好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。また、上述の材料を積層して多孔質基体を形成してもよい。例えば、積層した形態の例としては、PP/PE/PPの3層構造の多孔質基体が挙げられる。前記多孔質基体によれば、電池温度がPEの融点である130℃に達した場合にシャットダウンが起こる。そして、万が一、シャットダウンの後も電池温度が上昇し続けた場合であっても、PPの融点である170℃に達するまではメルトダウンが起こらないので、全面短絡にまで達するのを防ぐことができる。
【0039】
多孔質基体の形状としては、特に限定されず、織布、不織布、または微多孔膜からなる群から選択される少なくとも1種でありうる。ここで、多孔質基体が、高いイオン伝導性を確保するためには、多孔質基体の形状は高多孔構造であることが好ましい。よって、電池性能の向上の観点から、多孔質基体の形状は微多孔膜であることが好ましい。
【0040】
また、多孔質基体の空隙率は、40〜85%であることが好ましい。空隙率が40%以上の場合、十分なイオン伝導性が得られうる。一方、空隙率が85%以下の場合、多孔質基体の強度を維持しうる。
【0041】
上述の多孔質基体は、公知の方法で製造されうる。例えば、微多孔膜を製造する延伸開孔法および相分離法、並びに不織布を製造する電界紡糸法等が挙げられる。
【0042】
耐熱絶縁層付セパレータは、正負極間の電子の伝導を絶縁する役割を有している。電池性能の向上の観点から、セパレータの総膜厚は薄いことが好ましい。具体的には、セパレータの総膜厚は10〜50μmであることが好ましく、15〜30μmであることがさらに好ましい。総膜厚が10μm以上の場合、セパレータの強度が確保されうる。一方、総膜厚が50μm以下の場合、コンパクトな電池が形成されうる。
【0043】
耐熱絶縁層付セパレータは、公知の製造方法により製造される。この際、耐熱絶縁層は、多孔質基体の片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。なお、多孔質基体と耐熱絶縁層との間にその他の層が介在していてもよく、かような形態もまた、本発明の技術的範囲に包含される。このような第3の層を含む場合、上記総膜厚は当該第3の層を含んだ厚さである。
【0044】
具体的な製造方法としては、例えば、多孔質基体に、無機粒子およびバインダーが溶剤に分散された溶液を塗工し、前記溶剤を除去することにより、耐熱絶縁層付セパレータが製造されうる。
【0045】
この際用いられる溶剤としては、特に制限されないが、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサン、水等が用いられる。バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を採用する場合には、NMPを溶媒として用いることが好ましい。溶剤を除去する温度は、特に制限はなく、用いられる溶剤によって適宜設定されうる。例えば、水を溶剤として用いた場合には、50〜70℃であり、NMPを溶剤として用いた場合には、70〜90℃でありうる。必要により減圧下で溶剤の除去を行ってもよい。また、溶剤を完全に除去せずに、一部残存させてもよい。
【0046】
[電気デバイス]
耐熱絶縁層付セパレータは、電気デバイスに用いることができる。好適には、耐熱絶縁層付セパレータは、リチウムイオン二次電池に用いられうる。本発明の耐熱絶縁層付セパレータは、吸着水分量が制御されているため、該耐熱絶縁層付セパレータを電気デバイスに適用すると、出力特性に優れ、また長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好な電気デバイスとなる。
【0047】
まず、電気デバイスの好ましい実施形態として、非水電解質リチウムイオン二次電池について説明するが、以下の実施形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0048】
リチウムイオン二次電池の電解質の形態で区別した場合に、特に制限はない。例えば、非水電解液をセパレータに含浸させた液体電解質型電池、ポリマー電池とも称される高分子ゲル電解質型電池および固体高分子電解質(全固体電解質)型電池のいずれにも適用されうる。高分子ゲル電解質および固体高分子電解質に関しては、これらを単独で使用することもできるし、これら高分子ゲル電解質や固体高分子電解質をセパレータに含浸させて使用することもできる。
【0049】
図2は、扁平型(積層型)の双極型ではない非水電解質リチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の基本構成を模式的に表した断面概略図である。図2に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体である電池外装材29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された構造を有する。負極は、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図2に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0050】
なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図2とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0051】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板(タブ)25および負極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材29の端部に挟まれるようにして電池外装材29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0052】
図2において、耐熱絶縁層付セパレータは、電解液とともに電解質層13を構成する。図2に示される積層型のリチウムイオン二次電池は、耐熱絶縁層付セパレータを用いることにより、シャットダウン機能を確保しつつも熱収縮を抑制する、安全性の高いリチウムイオン二次電池でありうる。そして、上記のように無機粒子およびバインダーを選択した耐熱絶縁層により、電池の出力特性およびサイクル特性も良好なものとなる。
【0053】
なお、図2では、扁平型(積層型)の双極型ではない積層型電池を示したが、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層と、を有する双極型電極を含む双極型電池であってもよい。
【0054】
以下、各部材について、さらに詳細に説明する。
【0055】
[集電体]
集電体を構成する材料に特に制限はないが、好適には金属が用いられる。
【0056】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅、その他合金等などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。
【0057】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
【0058】
[活物質層(正極活物質層、負極活物質層)]
正極活物質層または負極活物質層は活物質を含み、必要に応じて、導電助剤、バインダ、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
【0059】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni−Co−Mn)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0060】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0061】
各活物質層に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。
【0062】
正極活物質層および負極活物質層は、バインダーを含む。
【0063】
活物質層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダーは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0065】
活物質層に含まれうるその他の添加剤としては、例えば、導電剤、電解質塩、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
【0066】
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0067】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
【0068】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0069】
正極活物質層および負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。各活物質層の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0070】
[電解質層]
電解質層を構成する電解質は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解質としては、かような機能を発揮できるものであれば特に制限されないが、液体電解質またはポリマー電解質が用いられる。
【0071】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類が例示される。また、リチウム塩としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiCFSO等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。液体電解質は、上述した成分以外の添加剤をさらに含んでもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2−ジビニルエチレンカーボネート、1−メチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−メチル−2−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−2−ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1−ジメチル−2−メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートがより好ましい。これらの環式炭酸エステルは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0072】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質とに分類される。
【0073】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することで容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0074】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーにリチウム塩が溶解してなる構成を有し、有機溶媒を含まない。したがって、電解質として真性ポリマー電解質を用いることで電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上し得る。
【0075】
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0076】
これらの電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0077】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、上記で説明した耐熱絶縁層付セパレータを用いることができる。
【0078】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0079】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0080】
[電池外装材]
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
【0081】
なお、上記のリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することができる。
【0082】
[リチウムイオン二次電池の外観構成]
図3は、二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0083】
図3に示すように、扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図2に示すリチウムイオン二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0084】
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0085】
また、図3に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0086】
なお、上記実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには、一次電池にも適用できる。また、電池だけではなく、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどにも適用できる。
【0087】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0088】
電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0089】
[車両]
上記電気デバイスは、出力特性に優れ、また長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記電気デバイスは、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0090】
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性及び出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例】
【0091】
上記電極を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、以下の実施例のみに何ら限定されるわけではない。
【0092】
(実施例1)
無機粒子であるアルミナ粒子(BET比表面積:5m/g、平均粒径2μm)95質量部およびバインダーであるカルボキシメチルセルロース(バインダー質量あたりの含有水分量:9.12質量%、日本製紙ケミカル社製、サンローズ(登録商標)MACシリーズ)5質量部を水に均一に分散させた水溶液を作製した。該水溶液をグラビアコーターを用いてポリエチレン(PE)微多孔膜(膜厚:18μm、空隙率:55%)の両面に塗工した。次いで、60℃にて乾燥して水を除去し、多孔膜の両面に3.5μmずつ耐熱絶縁層が形成された、総膜厚25μmの多層多孔膜である耐熱絶縁層付セパレータを作製した(耐熱絶縁層の目付10g/m)。
【0093】
なお、無機粒子のBET比表面積は以下の測定方法によって測定した値である。
【0094】
【表1】

【0095】
(実施例2)
BET比表面積:7m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0096】
(実施例3)
BET比表面積:15m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0097】
(実施例4)
BET比表面積:30m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0098】
(実施例5)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)97質量部およびカルボキシメチルセルロース3質量部を水に均一に分散させた水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0099】
(実施例6)
アルミナ粒子(BET比表面積:15m/g)97質量部およびカルボキシメチルセルロース3質量部を水に均一に分散させた水溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0100】
(実施例7)
BET比表面積:10m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0101】
(実施例8)
BET比表面積:20m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0102】
(実施例9)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)95質量部およびポリビニリデンフルオライド(バインダー質量あたりの含有水分量:2.89質量%、クレハ社製、KFシリーズ)5質量部をN−メチルピロリドン(NMP)に均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0103】
(実施例10)
BET比表面積:7m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例9と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0104】
(実施例11)
BET比表面積:15m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例9と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0105】
(実施例12)
BET比表面積:30m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例9と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0106】
(実施例13)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)97質量部およびポリビニリデンフルオライド3質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例9と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0107】
(実施例14)
アルミナ粒子(BET比表面積:15m/g)97質量部およびポリビニリデンフルオライド3質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例11と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0108】
(実施例15)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)90質量部およびポリビニリデンフルオライド10質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例9と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0109】
(実施例16)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)85質量部およびポリビニリデンフルオライド15質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例9と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0110】
(実施例17)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)95質量部およびポリアクリル酸メチル(バインダー質量あたりの含有水分量:0.46質量%)5質量部をN−メチルピロリドン(NMP)に均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0111】
(実施例18)
BET比表面積:7m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例17と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0112】
(実施例19)
BET比表面積:15m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例17と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0113】
(実施例20)
BET比表面積:30m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例17と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0114】
(実施例21)
BET比表面積:50m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例17と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0115】
(実施例22)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)97質量部とポリアクリル酸メチル3質量部をそれぞれN−メチルピロリドン(NMP)に均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例17と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0116】
(実施例23)
アルミナ粒子(BET比表面積:15m/g)97質量部およびポリアクリル酸メチル3質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例19と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0117】
(実施例24)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)90質量部およびポリアクリル酸メチル10質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例17と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0118】
(実施例25)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)85質量部およびポリアクリル酸メチル15質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例17と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0119】
(実施例26)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)95質量部およびポリアクリル酸エチル(バインダー質量あたりの含有水分量:0.19質量%)5質量部をN−メチルピロリドン(NMP)に均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0120】
(実施例27)
BET比表面積:15m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例26と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0121】
(実施例28)
BET比表面積:30m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例26と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0122】
(実施例29)
BET比表面積:50m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例26と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0123】
上記実施例において、BET比表面積5、10、15、20、30、50m/gのアルミナ粒子は、水酸化アルミニウムの焼成温度をそれぞれ1200、1180、1150、1070、1050、1020℃とすることによって得られた。
【0124】
(比較例1)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)80質量部およびカルボキシメチルセルロース20質量部を水に均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0125】
(比較例2)
アルミナ粒子(BET比表面積:5m/g)80質量部およびポリビニリデンフルオライド20質量部をNMPに均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例9と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0126】
(比較例3)
BET比表面積:60m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0127】
(比較例4)
BET比表面積:1m/gのアルミナ粒子を用いたこと以外は実施例26と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0128】
(比較例5)
BET比表面積:4m/gのアルミナ粒子を用い、アルミナ粒子85質量部およびバインダー15質量部を水に均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0129】
(比較例6)
BET比表面積:50m/gのアルミナ粒子を用い、アルミナ粒子85質量部およびポリアクリル酸ブチル(バインダー質量あたりの含有水分量:0.049質量%)15質量部をN−メチルピロリドン(NMP)に均一に分散させた溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして耐熱絶縁層付セパレータを作製した。
【0130】
上記比較例において、BET比表面積1、4、60m/gのアルミナ粒子は、水酸化アルミニウムの焼成温度をそれぞれ1300、1230、1010℃とすることによって得られた。
【0131】
(リチウムイオン二次電池の作製)
(1)正極の作製
正極活物質としてリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)を85.0質量%、導電助剤としてアセチレンブラックを5.0質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)10.0質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。
【0132】
このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、乾燥後、ロールプレス機で電極厚みが片面で60μmになるようにプレスを行った。
【0133】
(2)負極の作製
負極活物質としてグラファイト90.0質量%、バインダーとしてPVDF10質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。
【0134】
このスラリーを負極集電体となる厚さ10μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、乾燥後、ロールプレス機で電極厚みが片面で50μmになるようにプレスを行った。
【0135】
(3)非水電解液の作製
エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0ml/L、ビニレンカーボネート1.5質量%(対上記混合溶媒100質量%)となるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0136】
(4)試験用セルの作製
各実施例および比較例で作製した耐熱絶縁層付セパレータを、上記で作製した正極と、上記で作製した負極とで挟持することによって発電要素を作製した。
【0137】
得られた発電要素を外装であるアルミラミネートシート製のバッグ中に載置し、上記で準備した電解液を注液した。真空条件下において、両電極に接続された電流取り出しタブが導出するようにアルミラミネートシート製バッグの開口部を封止し、ラミネート型リチウムイオン二次電池である試験用セルを完成させた。
【0138】
(評価)
[出力特性およびサイクル特性評価]
各ラミネート電池について、0.5Cの定電流にて5時間初回充電放電を行った(各層の上限電圧4.2V)。その後、ガス抜きを実施し、満充電後0.2C、2C放電を行い出力特性を評価した。
【0139】
その後、25℃、充電上限電圧:4.2Vで充電し、1C放電するというサイクルを150回繰り返した。サイクルにおける1サイクル目の放電容量に対する所定サイクル後の放電容量の割合を容量維持率(%)として求めた。結果を表1に示す。また、図4に、実施例および比較例で作製した耐熱絶縁層付セパレータをセルに適用した場合の、水分バランス比とサイクル特性との関係を示した。
【0140】
【表2−1】

【0141】
【表2−2】

【0142】
以上の結果より、実施例1〜29の電池は、サイクル特性および出力特性のいずれも良好であることがわかる。一方、耐熱絶縁層中のバインダー含有質量比、無機粒子のBET比表面積、および水分バランス比のいずれかの要件が外れている比較例1〜6の電池は、出力特性および/またはサイクル特性が実施例の電池と比較して性能が低下していることがわかる。
【0143】
また、図4に、水溶性高分子であるカルボキシメチルセルロースをバインダーとして用いた耐熱絶縁層付セパレータの実施例1〜4、7、および8、ならびに比較例5の、水分バランス比と放電容量維持率との関係を示した。図に示すように、水分バランス比が0.75〜1.9であると、放電容量維持率が85%以上となり、サイクル特性がより向上することがわかる。また、水分バランス比が1〜1.8であると、88%以上となり、サイクル特性がさらに向上することがわかる。
【符号の説明】
【0144】
1 耐熱絶縁層付セパレータ(セパレータ)、
2 多孔質基体、
3 耐熱絶縁層、
10、50 リチウムイオン二次電池、
11 正極集電体、
12 負極集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21、57 発電要素、
25 正極集電板、
27 負極集電板、
29、52 電池外装材、
58 正極タブ、
59 負極タブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基体と、前記多孔質基体の片面または両面に形成され、無機粒子及びバインダーを含有する耐熱絶縁層と、を備える耐熱絶縁層付セパレータであって、
前記耐熱絶縁層における前記無機粒子および前記バインダーの含有質量比が、無機粒子:バインダー=99:1〜85:15であり、
前記無機粒子のBET比表面積が3〜50m/gであり、
0.0001<バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)<2である、耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項2】
前記バインダーが水溶性高分子である、請求項1に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項3】
前記水溶性高分子がカルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩である、請求項2に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項4】
前記バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)が0.75〜1.9である、請求項3に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項5】
前記バインダー質量あたりの含有水分量(質量%)/無機粒子のBET比表面積(m/g)が1〜1.8である、請求項4に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項6】
前記無機粒子は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンの酸化物、水酸化物、および窒化物、ならびにこれらの複合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項7】
前記耐熱絶縁層の目付けが5〜15g/mである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐熱層絶縁層付セパレータを用いた電気デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−105521(P2013−105521A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246299(P2011−246299)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】